スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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機体名:ザンボット3リペア
建造:ビアル星人(青戸工場改修)
全高:60メートル
重量:860トン
武装:アーム・パンチ×2、ザンボット・バスター(バスター・ミサイル×4内蔵)×2、ブルミサイル、ザンボット・グラップ(ザンボット・ブロー、ザンボット・カッターへ変形可能)×2、ザンボット・ムーン・アタック
主なパイロット:神勝平(メイン)、神江宇宙太(サブ)、神北恵子(サブ)

1年前のガイゾックとの激しい戦いの末に大きく損傷したザンボット3を預かっていた青戸工場が改修したもの。
ザンボット3そのものがビアル星人が数百年前に地球へ降り立った際に移民船キング・ビアルと共に持ち込んだもので、機体データ及び整備データはキング・ビアルに存在していた。
しかし、ガイゾックとの戦闘でキング・ビアルが失われたため、整備を行っていた一太郎ら整備を行ったいた神ファミリーの記憶を頼りとし、再現不可能な装甲などは現状の技術を用いることで改修を行った。
バンドックとの戦いの後、大気圏に突入して大きく損傷した装甲はすべてフェイズシフト装甲に変更されたため、重量が大幅に増加している。
低下した機能は分離合体機能を排してザンボット3に一本化することで補い、コックピットはすべて胸部に集約されている。



第33話 黒い勇者特急

-日本 ヌーベルトキオシティ 旋風寺邸 パーティールーム-

アルゼナルから戻ったソレスタルビーイングとミスリルは合流ポイントとして指定された日本のヌーベルトキオシティにアルゼナルで新たに得た戦力と共に帰還した。

2隻はマイトステーションに格納され、3隻とも次の戦いのための整備を勇者特急隊やネルガル重工のスタッフから受けることになった。

そして、手の空いているメンバーは新たに仲間となったメンバーと顔を合わせるため、気心知れた仲間との再会を喜ぶため、旋風寺邸で行われるパーティーに参加していた。

「お仲間ができたんだって、リョーコ?」

「おう!先代ナデシコの時にチームを組んでたやつらが合流したんだ!」

「天野ヒカルでーす!蜉蝣戦争の後は漫画家をやっていました!」

オレンジ色のショートヘアをした丸眼鏡をかけた女性、天野ヒカルがさっそくリョーコと気質が似たマオに挨拶をする。

「兵士から漫画家への転職か…なかなかに異色だな」

「兵士と高校生を掛け持ちしているあんたが言うのもアレだけどね…」

宗介に関しては任務の都合もあり、やむを得ずそういう形になっているだけで、ヒカルは自分の意志でその道を歩んでいるという点で違いがある。

なお、3年間戦いから離れていた分のブランクはリョーコとのゲームで補ったらしい。

かなめの言葉を小耳にはさんだヒカルは宗介のそばへと瞬間移動のごとく移動し、さっそくネタ帳を取り出して彼をのぞき込む。

「な、なにを…?」

「君が奇天烈な経歴を持ってるみたいだから…今度の連載のネタにしていい?」

「自分がお役に立てるのなら」

「そうね…あんたの存在って漫画…それもギャグ漫画そのものだもの」

学校内で彼が引き起こした騒動の数々を考えると、どうしても宗介をネタにした漫画はその傾向へ突っ走ってしまうように思えてしまう。

最終的には学校内に石油製品を溶かしてしまう成分を持つ微生物という名の生物兵器を学校にばらまき、バイオハザードの原因を作ってしまい、生徒たちの手で血祭りにあげられるというラストが頭に浮かぶ。

「一応、私の描いてる奴の路線って熱血ものなんだけど…ゲキ・ガンガー3みたいな。でも、面白そう!軍人だけど、そういうギャグがあるってことだし、思っ苦しいのを抜きにするためにも、タイトルの後ろに『ふもっふ』みたいなかわいい言葉を入れても…」

「カワイコちゃん漫画家からアプローチとは、うらやましいぜ、ソースケ」

「ネタだけに妬まれる…ぷくくくく…」

宗介を冗談半分に茶化すクルツは背後から悪寒を感じ、振り返るとそこには不健康なほどの白い肌をしていて、顔の右半分を隠した黒いロングヘアーの女性がいた。

自分のギャグを自分で押し殺すように笑い、その不気味さにストライクゾーンの広いクルツでもひきつってしまう。

「こっちのいっちゃってるのも、リョーコの同僚かい?」

「泉マキ、フラれてやけ酒、よろよろしくしく、よろしく」

「お、おう…よろしく…」

「さすがのあんたも腰が引けてるみたいだね」

泉マキは両親が漫才師故か、寒いギャグや怪しげな歌を歌う妙な一面がある。

しかし、3人の中では操縦技術が最強で、ブランクがあるにもかかわらず、ヒカルとは違い、自分用に再調整されたエステバリスカスタムを訓練無しで乗りこなした。

なお、合流前はBAR花目子の雇われママをしていた。

さすがのマオもクルツがこの女性に魅力を感じるとは思わないようだが、残念なことにそうはならない。

伊達に『歩く卑猥図鑑』のレッテルを貼られているわけではない。

「いや、こういう個性的美人もオツなものだぜ」

「あんたが決して死なないって言うなら、考えていいよ」

「マジ…?」

まさか、恋人になってベットインするチャンスかと思い、本気か確かめるようにマキの目を見る。

ハイライトが消え、心霊写真に出てくるような眼をした彼女はヘラヘラ笑いだす。

「でも、ちょっと死相が見えるよ…。失踪しそうな思想の持主が乗るシーソー…」

「どこまで本気の発言なんだか…」

わけのわからない言動にさすがのマオも混乱し、クルツもあきらめの色を見せる。

そんな彼女の言葉をいつものことのように流すリョーコとヒカルを見て、彼女たちの付き合いの長さを感じた。

「2人は俺のフォローに回ってくれる」

「私たちのフォーメーションアタックに乞うご期待よ!」

「そちらは昔のツテをたどって戦力を増強しているようだが…」

「子供も交じっているようだな」

ヒカルとマキは元軍人で、戦闘経験も豊富であることからクルーゾーも宗介もそのキャラはともかく、歓迎しようとは考えている。

ただ、気になるのは初対面となる3人の少年少女だ。

3人とも、まだ中学生で子供だ。

アルゼナルから同行しているココとミランダの存在もあるが、彼女たちとは違い、彼らは日本で普通に生活している少年少女のはずだ。

そんな彼らがなぜここにいるのかが分からなかった。

「それって、俺たちのことか?」

さっそく、3人の中では最年少である少年、神勝平が宗介の言葉に反応する。

ココ、ミランダよりもわずかに身長が低く、見るからに幼さの目立つ丸い顔立ちをしている。

腕と足を見て、身体能力は同年代の少年少女よりも少し上くらいに宗介は思えた。

「紹介する。彼らはザンボット3を駆る神ファミリーだ」

「ファミリーってことは、君とあっちの彼と彼女は親戚ってわけ?」

左目を隠れた、風に流された雲のような髪形をした茶色いジャケットの少年、神江宇宙太と赤い大きなリボンを付けた金色のポニーテールをした、カウガール風の服装の少女、神北恵子にかなめは目を向ける。

「彼らはビアル星人…つまり、異星人の末裔だ」

異星人の末裔とは言うものの、ビアル星人は普通の人間と大して変わりがないようで、DNAや体格を見ても普通の人間と変化がない。

ただし、ザンボット3の起動にはビアル星人のDNA認証が必要で、神ファミリー以外では操縦できないものになっている。

「本当の話だ。俺たちのご先祖様は何百年も前にガイゾックに追われて地球に流れてきたんだ」

「ガイゾック…1年前に日本を中心に攻撃してきた異星人か…」

「恐ろしいことをしてくる奴らだったのね…」

ガイゾックのやり口は資料で読んでいたかなめの表情を曇らせた。

また、アロウズの情報操作によって彼らがどれだけ孤立無援の戦いを強いられたのかも知ってしまった。

そんな彼らにはこれ以上闘ってほしくないと思ってしまう。

「そのころは地球連合軍がアロウズとロゴスによって力を奪われていた状態だった。そして、プラントとの戦いが始まって、ガイゾックへの対応が遅れた」

これがアロウズが情報操作で神ファミリーを陥れた最大の理由で、彼らは自分たちの権力争いによる失態を隠そうとしていたのだ。

そのため、ガイゾックに追われるビアル星人の末裔である神ファミリーをスケープゴートとして選んだ。

「だから、俺たち神ファミリーはご先祖様が遺したロボット、ザンボット3でガイゾックと戦ったんです」

「多くの犠牲を払いましたが、ソレスタルビーイングやオーブ、そして旧ナデシコ部隊の協力もあって、私たちはガイゾックを倒すことができました」

戦いの後、ザンボット3は知り合いのツテで旋風寺コンツェルンに預けられ、修理されると同時に封印されることになった。

これは最終決戦でガイゾックの司令官であるキラー・ザ・ブッチャーによって催眠教育を解除された勝平が激しい戦いと悲劇のせいでうつ病になり、一時引きこもってしまったことが原因で、普通の生活に一日も早く戻れるようにという彼の兄である神一太郎の計らいだった。

一太郎はその縁で高校卒業後、青戸工場に就職し、ザンボット3の修理と本当はその時が来ることがないことを願いながらも、再び来るであろう戦いに備えて準備をしていた。

なお、催眠教育は兵座衛門によって勝平ら3人に施されており、そのおかげで彼らは戦闘時の恐怖心をある程度取り除き、ザンボット3の操縦をすることができた。

しかし、その催眠教育が解除された場合、蘇る恐怖心は余計大きなものになる。

パイロットとしての技量は戦いの経験で補うことはできても、それだけは長い年月をかけて克服していくしかない。

「まだ、子供なのに…また戦うのか?」

職業軍人である自分はともかく、また戦おうとする彼らの覚悟を確かめるように宗介は尋ねる。

「そうよ!ご先祖様の仇であるガイゾックはもういないんでしょ!?」

ガイゾックがいない以上、戦う理由はないはずだ。

特に勝平はうつ病がようやく回復し、引きこもりからも抜け出すことができたばかりのはずだ。

「…確かに、俺たちはガイゾックとの戦いで辛い目や悲しい目に遭いました…」

守るべき人達から受けた迫害、守れなかった人たち、地球を守るために死んでいった家族。

それらを3人は一日たりとも忘れたことがない。

「じいちゃん、ばあちゃん、父ちゃんは俺たちを守るために死んじまった…」

「きっと、皆さんの助けがなかったら、みんな死んでいたと思います」

特に最終決戦では、旧ナデシコ隊の助けがあったおかげで、キラー・ザ・ブッチャーが操るガイゾック要塞であるバンドックを撃破することができた。

バンドックの放つ洗脳光線によって、ザンボット3が母艦であったキング・ビアルとの同士討ちをすることになってしまい、それをルリがオモイカネと共に行ったハッキングで止めてくれた。

そして、同士討ちによるダメージで行動不能になったザンボット3から分離し、特攻をかけようとした宇宙太と恵子を復讐鬼となったアキトが止めてくれた。

今、こうして生きていられるのは助けてくれた人達、そして守るために犠牲になった人たちのおかげだ。

「俺たちの命は、助けてくれたみんなからもらった命なんだ。だから、今度は俺が助ける。みんなを…世界を…」

勝平がザンボット3に再び乗り込み、恐怖を克服した大きな理由がそれだった。

駿河で火星の後継者とたった1人で戦うアキトの悲しい覚悟を知ってしまって、その悲しみから恩人である彼を救いたかった。

「了解だ、勝平。子ども扱いして悪かったな」

自分と同じ闘う覚悟を固めた人間なのだとわかった宗介は勝平に謝罪するとともに覚悟を固める。

そんな思いを背負った彼らを決してこの戦いの犠牲にするようなことはしないと。

「いいってことよ、兄ちゃん!これからは一緒に頑張ろうぜ!」

 

「ケッ、ガキが騒いでよぉ…」

神ファミリーと宗介達のやり取りを見るロザリーは悪態をつきながら、出されている料理を皿に乗せていく。

世界的な大企業である旋風寺コンツェルンの総帥である舞人が主催しているだけあって、アルゼナルでは見たことのない食材が数多く使われており、ロザリーはそれを食べるのに集中したかった。

なお、今のロザリーはパーティー前にヌーベルトキオシティで購入した黄色い長めのTシャツを着用している。

制服とライダースーツ以外に着る物がなかったため、休暇中やパーティーの時は自分で好きなものを着ていいというのは新鮮だった。

ただ、まだまだ外の世界に慣れていないアルゼナルのメンバーは少し他の面々とは距離を取っていた。

「ロ、ロザリー…」

「なんだよ、クリス。今、エビを取りたいのに…」

緑色のニットカーディガン姿になったクリスはロザリーの後ろに隠れていた。

「そ、外の世界って何か、怖いよね…。町には人がたくさんいて、見たことないものがたくさんあって…」

「びびってんじゃねえぞ!そんなふうな態度を取ってると、新入りに舐められるぞ!」

神ファミリーも戦った経験はあるようだが、自分にも幼いころからドラゴンと戦い続け、生き残ってきたという自負がある。

弱気な態度を見せ、彼らに舐められたらメイルライダーの名折れだ。

そんなロザリーの声が聞こえたのか、赤いジャケットを着た青い炎のような髪形の青年が歩いて近づいてくる。

「そう堅くならなくていい。ここでは誰も君たちを傷つけたりしないから」

「何だよ、てめえは」

見たことのない青年で、おそらくナデシコ隊がツテで合流したメンバーの一人だろうと予想し、舐められないようにと強気な態度で彼に尋ねる。

「僕は破嵐万丈、ダイターン3のパイロットだ」

「お久しぶりです、万丈さん」

アスランは頼れる人物が合流してくれたことを嬉しく思いつつ、万丈にあいさつする。

「知り合いなんですか、アスラン様」

「ああ…1年前に世話になったんだ」

「彼は3年前、メガノイドと戦っていたんだ。今は破嵐財団で各地の支援をしてくれているんだよ」

その財団はクライン派へも支援を行っており、同時にある理由で無国籍となってしまったアークエンジェル隊への支援も行ってくれた。

アスランとはオーブで一度顔を合わせており、そこではラクスとカガリによるテレビでのデュランダルへの反撃の根回しをしてくれた。

「自分からサイボーグになって社会転覆をたくらんだ一団を…そんな集団がいたなんて…」

アルゼナルでも欠損した手足を義手や義足にするケースはあるが、サイボーグになるというのは聞いたことがないため、サリアには想像できない。

今の彼女は女子制服姿で、真面目な自分を表現しているのか、ボタンも一番上まで閉じている。

「信じられぬことと考えるのは当然でございますが、事実なのです」

赤い蝶ネクタイと青の燕尾服、髭を生やした白髪の男性がサリアの言葉を断定する。

優雅な服装で、丁寧な言葉遣いな上にたたずまいは物静か。

前に読んだ本の中で出てきた執事そのものの姿にサリアは驚きの余り沈黙する。

「申し遅れました。わたくし、万丈様の執事、ギャリソン時田でございます」

イギリス人と日本人のハーフである彼は執事と名乗っているものの、ダイターン3の整備からパイロット代行、スナイパーといった執事の範疇を越えた働きを見せている。

どこでその技術を磨いたのか、そしてどのような形で知り合い、万丈の執事となったのかはいまだに謎が多い。

また、年齢が年齢であるにもかかわらず、家族がいないことも気になるところだ。

元ザフトのコーディネイターで、メガノイドに家族を奪われた復讐のために軍を離れ、同じくメガノイドを憎む万丈の元へ隠れ蓑として執事を務めているのではないかという話もあるとかないとか。

なお、ギャリソンだけでなく、茶色いロングヘアーで赤い口紅をつけている成人したばかりの女性、元インターポール予備校生で万丈のアシスタントを務める三条レイカやピンクの長そでの服装をした金髪の女性、同じくアシスタントのビューティフル・タチバナ(これが本名らしい)、更には茶色いモジャモジャな髪をした、勝平たちよりも年下らしい少年の戸田突太までいる。

執事に美人2人と子供1人という奇妙な組み合わせだ。

「執事って、お金持ちが雇っている人のことですよね!?」

「いかにも」

「すごい…!本当にそんな人がいるなんて…」

本の中だけだと思っていたものが現実に存在することにサリアは喜びを覚え、外の世界に出ることができたことを嬉しく思った。

「万丈の個人資産は未公開だけど、舞人にだって負けていないのよ」

火星から持ち帰った金やレアメタルを売却し、更にはそれを運用して巨万の富を得た万丈は噂では舞人を上回る資産を持っていると噂される。

そのおかげで破嵐財団ができ、各地への支援が可能となっている。

ただ、目的不明な活動もあり、それは万丈自らが指揮して行っているらしいが、多くの慈善活動からあまりそれは注目されていない。

なお、今回の件では破嵐財団も金銭的バックアップを行うことが決まったらしい。

「おまけに、旋風寺コンツェルンの筆頭株主で、勇者特急隊の顧問兼任のスポンサーよ!」

「か、金持ち…」

「世界一レベル…」

レイカとビューティの紹介にロザリーとクリスは万丈がどれだけ雲の上の人物かを想像してしまう。

まだ20代前半の若者でそんな成功を収めるとはもはや漫画だ。

「あらあら、2人ともメロメロね」

アスランの時のように呆けた表情を浮かべる2人を、オレンジの長そでセーターを着用したエルシャが面白そうに眺めつつ、出ている料理から今度アルゼナルに帰るときに幼年部に出す料理のネタを考える。

いつか彼女たちと一緒に、当たり前のように外の世界に出ることができることを願いながら。

「これからは僕も、君たちと一緒に戦う仲間だ。新入りではあるけど、よろしく頼むよ」

「はい、よろこんで!」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

ほぼ即答であいさつし、万丈の加入を歓迎する。

「この変わり身…」

「文字通り、現金ね…」

さすがはアルゼナルでも筋金入りの守銭奴というべきか、まるでアスランから鞍替えするような2人の態度をシンとルナマリアはあきれるを通り越して、どこか感心してしまう。

「わぁ…こんなにおいしいプリンがあるんだ…」

「ほら、ナオミ!!これお寿司って言うんだね。とてもおいしいよ!!」

「こんなの…生まれて初めて…」

ナオミ達3人は生まれて初めて見る料理の数々に舌鼓を打つ。

ココは黄色いフレアスカートを中心に明るい色彩の服で、ミランダは野球帽と赤と白のトレーナーにスカートを着ている。

ナオミは黒のTシャツに城のホットパンツをしていて、上着として青いジージャンに袖を通している。

ここまでは、ソウジ達にとっては初対面の面々ばかりだが、1人だけ、彼らの探していた仲間がいた。

「鉄也はあの万丈のところに厄介になっていたんだな」

「転移直後に保護してもらった。損傷したグレートマジンガーも修理をしてもらったぞ。最も、ダイターン3の資材を利用して直したから、本調子とはいかないがな」

この世界にも、グレートマジンガーの装甲の素材を作る技術がなかった。

だからといって、グレートマジンガーは自分の記憶の手掛かりであり、捨てるわけにもいかなかったので、そうした措置を取るしかなかった。

その恩から、万丈と行動を共にすることになり、ナデシコ隊と一緒にいるトビアと再会した。

転移によって、仲間たちと離れ離れになったのは痛かったが、それでも鉄也には得るものがあった。

(あの転移の衝撃で少しだけ思い出した…。ゲッターロボ…あれは災厄を止める鍵になる。俺と彼の本来いる世界は同じだ。災厄を止めるためにも、俺は竜馬と共にあの世界へ還らなければならない…)

万丈と行動を共にする間、ヤマトの情報を集めはしたものの、結局空振りに終わった。

そうなると、鍵になるのは火星の後継者の手に落ちたヤマトで、そこに竜馬とゲッター1もいるはずだ。

「記憶は…どうなんですか?」

「あ、ああ…。少しだけ戻った。俺はどうやら、竜馬と同じ世界の人間のようだ。そして、俺には使命があるはずだが…そこはまだ分からない」

「火星の後継者との戦いも控えてますし、少し気を楽にしましょうよ」

「…そうだな」

「そういやぁ、お前、舞人のコーチをやってるんだってな」

「ああ、万丈に頼まれた」

「で、どうだ?弟子を持った感想は」

「悪くない。あいつは十分すぎる才能がある上に強い意志がある。強くなるぞ」

パイロットとしても技量、戦士としての銃の扱いや身体能力。

どれもかなりのセンスで、コーチとして指導する中でも鉄也から学習したものをどんどん飲み込んでいった。

勇者特急隊の名は伊達ではないことを肌で感じた。

「エースのジョーが現れたと聞くが、お前がコーチなら心配ないな」

エースのジョー、雷張ジョーは日本で舞人が出会ったパイロットで、なぜか彼の目の敵にされることになった。

飛龍という戦闘機への可変機能を持つ人型戦闘ロボを操る彼の技量は舞人以上で、鉄也や万丈とも互角だった。

その時の戦闘でトライボンバーが負傷し、現在は火星の後継者への戦いに備えて改修が行われている。

参加者それぞれが再会と出会いを楽しむ中、舞人が会場に入ってくる。

「みんな、再会や新しい出会いで盛り上がっているみたいだな」

「おかえりなさい、舞人さん」

「お疲れ、舞人」

いずみから飲み物を受け取り、トビアからのねぎらいの言葉に舞人は笑顔で答える。

「本当によかったのか?お前だけ出撃させて…」

舞人が遅れて会場に到着したのは、ヌーベルトキオシティで問題が発生したためだ。

彼が固辞したとはいえ、1人だけ出撃させることになってしまったため、ジュドーは心配していた。

「ピンチになったら連絡するって言っただろう?それがなかったから、大丈夫ってことだ。敵はホイ・コウ・ロウが送り込んだ戦力が少しだけだったから」

その機体は青戸工場付近に出現し、マイトウィングとガインだけで交戦したが、敵はパオズー3機だけで、コアを破壊するという攻略法をつかんでいた舞人とガインだけでどうにかすることができた。

「ボンバーズが修理中なんだ。勇者特急隊隊長の俺が頑張らないとな」

「その意気だ、舞人。常に緊張感を忘れるな」

「はい、鉄也さん」

「でも、私たちにも頼ってよね。何より、新戦力が加わった二つの部隊が合流したんだから」

神ファミリーやアルゼナル、オーブとザフトのガンダムに破嵐財団、そしてグレートマジンガーが合流したことで、戦力が拡充した。

火星の後継者とも存分に戦えるだけの体制が整っていた。

それは舞人にとって、いざというときに頼れる仲間がいるということにもなる。

「ありがとうございます、チトセさん」

笑顔でチトセにお礼を言う舞人はパーティーに参加している面々を見て、多くの味方がいることを実感する。

だが、同時にアキトから受け取った情報から、相手が火星の後継者だけで済まない可能性も感じていた。

(火星の後継者のバックにいる巨大な悪…父さんと母さんを暗殺したのが奴らなのか…?)

舞人の両親は表向きでは事故死として扱われているが、本当は暗殺された。

列車事故に偽装し、関係ない人を大勢巻き込んだうえで。

勇者特急隊として、人々を守る使命があるが、いつかは両親やその事故で人生を狂わされた人々の無念を晴らしたいとも思っている。

火星の後継者とそれには何か繋がりがあることを、駿河湾で一時共闘したアキトから知らされた。

同時に、アキトの身に起こったことも明らかになった。

彼はユリカと共にシャトルの爆発事故に偽装した北辰衆の策略によって連れ去られた。

ユリカは火星の後継者にさらわれ、彼らが手に入れた演算ユニットに組み込まれてしまった。

そして、アキトは攫われたほかのA級ジャンパーと共に改造実験の道具にされてしまった。

実は2人が拉致された時期にA級ジャンパーが次々と攫われる、もしくは殺害される事件が相次いでおり、殺害されたジャンパーの中にはアキトとユリカの仲間の1人であるイネス・フレサンジュも含まれている。

その実験は過酷で、一緒に実験を受けたジャンパーたちが次々と死んでいく姿を間近で見せられた。

ネルガルの警備部門であり、会長直属の部隊であるネルガルシークレットサービスによって救出されたとき、実験を受けたジャンパーの中で生き残っていたのはアキトだけで、彼は改造の影響で五感の大半を失っていた。

その後はユリカを取り戻すため、そして自分たちの幸せを奪った北辰衆ら火星の後継者に復讐するために、かつては木連に所属していた月臣源一郎の指導で木連式・柔をはじめとした体術と機動兵器操作技術を磨いていった。

月臣は熱血クーデターを起こした後、木連からは、特に草壁を信奉する派閥からは裏切者とされ、命を狙われたことからネルガルに保護され、シークレットサービスの一員に加わってテストパイロットなどを務めている。

また、アキトは人体改造の影響でIFSに不具合が生じることから新たな機体制御システムであるリアクトシステムの施術を受け、それらのおかげで北辰衆ともまともに戦えるだけの力を手に入れた。

ただ、月臣の話によると、リアクトシステムは感覚器官を機体のセンサーに置き換えることで、生身の身体を動かす感覚で操縦が可能になる。

また、疑似的にはなるが、戦闘に必要な最低限の五感を取り戻すことにもつながるものの、大きなリスクが存在する。

精神的な負荷がIFSとは比べ物にならないくらい大きく、そのためネルガルでは開発を中止していたとのことだ。

施術には月臣だけでなく、ネルガル会長のナガレや彼の秘書であり、秘書を務めるエリナ・キンジョウ・ウォンも反対したが、アキトの強い意志に根負けした。

彼が乗っていたブラックサレナは3年前にアキトが乗っていたエステバリスの改良機に増加装甲を搭載したもので、ネルガルシークレットサービスが極秘裏に開発したものだった。

アキトは視力補佐の黒いバイザーとマッスルスーツの機能を持つ黒ずくめの衣装を身にまとい、ブラックサレナで火星の後継者に関係する施設や組織への破壊工作を行った。

復讐の邪魔となる相手を連合だろうと木連だろうと殺していきながら。

アキトがルリ達に自分の生存を伝えなかったのはその復讐に巻き込まないため、そして変わり果てた自分を見せたくなかったからだろう。

五感の大半を失ったアキトはもはや、夢である料理人になることをあきらめていた。

だからなのか、再会したとき、ルリに『かつての天河アキトが生きた証』として、いつかラーメン屋を開いて看板メニューにしようと考えた『天河特製ラーメン』のレシピを渡した。

これまでの自分と決別するかのように。

(アキトさん…信じています。復讐鬼になったつもりのあなたの中に、まだかつてのあなた、3年前のあなたが残っていることを…)

 

-アジアマフィア 秘密工場-

「…やりましたね、ホイ様」

真新しい機械をいくつも置いた地下工場で、チンジャは笑いながら先ほど入手したばかりのデータが入ったメモリを握りしめる。

「フホホホ、勇者特急隊め、今頃、勝利の美酒に酔っているころネ。さっきの攻撃が、お前の超AIの秘密を探るためのものだったとは知らずに…」

「戦闘中にマイトガインにとりつけたデータ収集装置で奴のすべてを知ることができました…」

さっそくチンジャはパソコンにメモリを取り付けて、手に入れたデータを見始める。

このデータ収集装置の見た目はゴキブリだが、正体は高性能なデータ収集機能がついたもので、データ収集・転送後は自爆して廃棄するため、証拠もほとんど残らない。

今のホイにとってはパオズー3機は小銭レベルの損失でしかない。

それよりも重要な戦闘データと超AIのデータをこうして手に入れることができた。

今は中国から招集したアジアマフィアの技術者にそのデータを元に超AIの開発を行わせている。

原料である火星の液体金属は既にスポンサーから特別に提供されているため、材料については問題ない。

今回手に入れたデータを流用することで、アジアマフィア製の超AIが完成する。

「これで天下無双、史上最強、国士無双のブラックガインが完成するネ!」

超AIのコアユニットが先ほど完成したばかりの黒いガインともいうべき武装ロボットに搭載される。

あとはチンジャがパソコンから起動命令プログラムを打ちこめば、ブラックガインは起動する。

「では、いきますホイ様!ブラックガイン、起動!そして、その時こそ、我らの時代が始まります!」

プログラムが入力され、ブラックガインのツインアイが淡く光り始める。

「さあ叫べ、ブラックガイン!誕生の産声を上げるのだ!獅子よりも強く叫ぶが良い!!」

プログラム入力を終えたにもかかわらず、ブラックガインの光り始めたはずのツインアイの光が消え、沈黙する。

「あれ…?おかしいですね。これで問題なく起動するはずですが…」

プログラムを調べるが、超AIは人間の脳と同じかそれ以上に複雑で、チェックするだけでも膨大な時間がかかる。

超AIを量産できない最大の理由がそれで、おまけに一つとして同じAIにすることができないこともあり、規格統一すらままならない。

動かないブラックガインにホイは苛立ちを覚える。

「仕方ないネ。電圧最大の電気ショックで無理やり起こすネ!」

「そんなことをしたら、機体が持ちませんよ!」

「かまわん!やるネ!」

「は、はい!!」

上司であるホイの命令には逆らえず、チンジャは技術者たちに指示を出す。

すぐに電気ショック装置がブラックガインの頭部に取り付けられ、出力も最大で設定される。

これのスイッチを押したらどうなるか、チンジャには想像もつかない。

超AIが壊れるだけならまだいい。

もしAIが暴走したら、今のこの工場にはブラックガインを止められる武装ロボットがなく、あるのはワークローダーなどの作業用機械だけだ。

真っ先に自分たちが殺されることになるかもしれない。

運を天に任せるような気持ちで、チンジャはスイッチを押す。

膨大な電気がブラックガインの頭から体へと駆け巡る。

それでも、ブラックガインは動き出さず、次第に電気ショック装置に重い負荷がのしかかる。

「機材が爆発します!ホイ様!!」

ホイをかばうようにチンジャが前に立った次の瞬間、電気ショック装置が爆発する。

そばにあったのかの機材も巻き添えを食らう形で爆発し、巻き込まれた技術者たちが吹き飛んでいく。

爆発が収まり、工場内が煙に包まれる。

「ゴホ、ゴホ…大丈夫ですか?ホイ様…」

「だ、大丈夫だ。チ、チンジャ!?」

「ああ…」

煙の中、大きなシルエットが動き出すのが見えた。

腕を振って煙を払い、そのシルエットの正体であるブラックガインが姿を現す。

「…降臨、ブラックガイン!」

「奇跡だ…奇跡が起こった!!」

ついに目覚めたブラックガインに技術者たちが驚く中、ホイは狂ったように笑い始める。

「ヌハハハハハハ!!ブラックガイン、お前の力でマイトガインをギッタギタのグッチョグチョにしてやれぇぇ!!」

 

-ヌーベルトキオシティ メガロステーション周辺-

「また爆発が起こったよ、姉ちゃん!!」

メガロステーション近くのビルに避難したテツヤは屋内にも聞こえる爆発音に驚き、姉であるサリーを気にかける。

20分くらい前に街中で急に爆発が起こり、今はバイトへ行こうとしていたサリーと共にこのビルに避難した。

「う、うん!」

「なんで爆発が起こるんだ?」

「それが、道路工事中に地下の送電ケーブルを傷つけてしまって、そこから火が出ているようだ」

特に大都市であり、世界の鉄道網の心臓部と言えるメガロステーション周辺は膨大な電力を使っており、送電ケーブルの数も送られる電気の量も多い。

何らかのミスで送電ケーブルを傷つけたがために大きな事故が発生することもある。

ケーブルが焼き切れて、ついにビルの電気が消える。

「ここにいたら危ないんじゃ…」

「かといって、外に出たら爆発に巻き込まれるぞ!?」

避難した人々が外に出るべきか否かの口論を始める。

(舞人さん…)

サリーは消防よりも勇者特急隊の、舞人がやってくるのを願った。

それが通じたのか、マイトウィングとガイン、そしてガードダイバーがやってくる。

しかし、ガードダイバーのバックパックにはフォースインパルスのシルエットのような形をした追加スラスターが装着されており、飛行していた。

地上に降り立つと、分離して5機の武装ロボットへと変化する。

そのうちの1機は人型ではなく、スペースシャトルを模した飛行機のままだった。

「ダイバーズは消火を!」

「了解です。さあ、スペースダイバー、しっかり人助けをしましょう!」

「…」

スペースシャトル型のダイバーズ、スペースダイバーはファイアボンバーの言葉に一言も答えず、まずは爆発したビルの上層部に取り残されている人々の救出へ向かう。

「まったく、無口な奴だな」

スペースダイバーは宇宙での人命救助を想定して開発された新たなダイバーズで、彼がガードダイバーと合体することでスペースガードダイバーとなる。

宇宙での運用が可能になり、飛行も可能にする彼の存在はダイバーズの力を強めてくれる。

だが、礼儀正しく冷静なダイバーズの中でも超がつくくらい寡黙で、全員彼がしゃべったところを見たことがない。

だが、初陣にもかかわらず円滑に飛行ができているうえに、今は救助した人々を機体の左右にある救助用ランチユニットに収容している。

仕事ができるのは確かだろう。

その間にファイアボンバーは消火活動をはじめ、他のダイバーズもビル内外の人々の救助活動を始める。

「ガイン!俺たちも一緒にビルに逃げ遅れた人たちを助けに…」

「待て、舞人!何かがいる!」

「何!?」

南から黒い新幹線がこちらへ向けて走ってきており、舞人達の姿を確認した瞬間、変形してその正体を露わにする。

「黒い…ガイン!?」

なぜガインそっくりの武装ロボットがいるのかと舞人は驚きを隠せなかった。

「我が名はブラックガイン!最強の戦士!」

「しゃべった…自分の意志で…。まさか、超AI!?」

「馬鹿な…あれは勇者特急隊でしか作れないものだぞ!?それをどうやって…まさか!!」

「そう、そのまさかネ!」

オープンチャンネルでホイの声が聞こえてくる。

上空にはヘリコプターが飛んでおり、その中でホイはマイクを使って舞人達に通信を送っていた。

「驚いたか勇者特急隊!これが、これこそが私の切り札ネ!」

「おい、黒い勇者特急隊のロボットだ?」

「なんだよ、偽物なのか??」

ブラックガインの登場で、安心感が出ていた人々の中に一抹の不安が宿る。

最近ヌーベルトキオシティを中心に事件を起こしているアジアマフィア総帥のホイの声もあり、余計にその不安を掻き立てる。

「さあ、ブラックガイン!お前の力を見せてやれ!」

だが、通信を割り込むように爆発音が響き渡る。

「く…爆発が広がっている!?」

「ガイン!ブラックガインの相手は俺がする!お前はビルを支えるんだ!」

「了解!」

爆発によってぐらりと揺らぐビルをガインが支え、マイトウィングがブラックガインに向けて照準を合わせる。

ホイのあの自信を見て、少なくとも性能はガインを上回っている可能性が高い。

マイトウィングでどこまでやれるかは分からないが、ビルにいる人達を助けるためには今、自分が戦うしかない。

ブラックガインは直進し、舞人はバルカンを発射するためにトリガーに指をかける。

しかし、ブラックガインはなぜか舞人を素通りする。

そればかりか、ガインの反対側に立ち、ビルを支え始めた。

「何!?」

「こちらは任せろ、ガイン!お前はそちら側を支えるんだ!」

「お、おお…」

ホイに作られたはずのブラックガインがなぜ手伝ってくれるのかわからないガインだが、ガイン1機で支えるよりも時間稼ぎになるため、ここは応じることにした。

舞人も、ダイバーズたちもなぜブラックガインが助けてくれるのか、分からない。

「…同じ、彼…僕たちと…」

「何!?」

「スペースダイバー、本当なのですか!?…というよりも、しゃべれたのですか!?」

「…」

「また、黙ってしまいました…」

「な、何をしているんだ!?ブラックガイン、お前は悪の戦士だ!さっさとガインを片付けろ!」

ガインを倒すために作ったはずのブラックガインがなぜガインと共に救助活動を行っているのか、ホイには分からなかった。

完璧に作ったはずの超AIが誤作動を起こしているのか疑わしく思い、チンジャを見る。

チンジャは正常であることを伝えるかのように、首を横に振った。

「何を言うか!私は正義の戦士だ!」

「なんだとぉぉぉぉぉ!?」

「ホイ・コウ・ロウ様…ひょっとして、ガインの正義の心までコピーしてしまったんじゃ…」

超AIは人格そのもので、どこからどこまでが力なのか、そしてどこからどこまでが心なのかの線引きができない。

そのため、技術者たちはどのように調整すべきか考えたが、ちょっとでも誤れば動かなくなるデリケートなもののため、実はそのまま搭載していた。

その結果、ガインの戦闘データ+正義の心を100%入れてしまった。

「…ハ、ハハハ、アハハハハ!!当てが外れたな、ホイ・コウ・ロウ!」

「お、おのれぇぇぇぇ!!このままで済むと思うなよぉぉぉ!!」

みすみす勇者特急隊に新しい仲間を献上する形になってしまったホイは悔しそうに叫びながら逃げ帰ってしまった。

その後、救助は続けられ、無事に死者を出すことなく救出が成功し、後のことを消防に任せた勇者特急隊は新たな仲間であるブラックガインと共に青戸工場へ帰還した。

 

-青戸工場 地下工場-

「ありがとう、ブラックガイン。お前のおかげでけが人を出すことなく、人々を救助することができた」

「当然のことをしたまでだ」

ガインとブラックガインは握手を交わし、お互いの正義の心を確かめ合う。

まるでドッペルゲンガーと会っているような感じがするが、ガインにとって、意気投合できる仲間ができることは舞人にとってうれしいことだ。

次第に話が今日の救助活動の反省へと変化していく。

「窓から人を降ろすときはもっと優しくやらないと。急におろしたら手から離れてしまうぞ」

「そ、そうか。となると、このくらいのスピードで…」

「ガインの奴、すっかり兄貴風吹かせて…」

「そりゃあそうだよ。今調べたけど、ブラックガインはガインと全く同じ超AIなんだ。兄弟みたいなものなんだよ」

「浜田さんの言う通りです。オモイカネと一緒に分析した結果は同じでした。考え方も同じなのですが、経験が圧倒的に足りていないみたいですね」

「生まれたばかりの赤ん坊ということね」

超AIは経験を積むことで自己変化を起こし、成長していくが、ブラックガインのものは初期状態に近く、変化の形跡がほとんどない。

だが、逆に言えば経験を積むことで、これから勇者特急隊として大きな戦力になることができる可能性を秘めている。

「我々と一緒に戦っていくためにも、訓練が必要ですね」

「それなら、既にコーチ役が名乗りを上げているわよ」

苦笑いするスメラギはさっそくブラックガインに語り掛けているマオに目を向ける。

彼女の訓練については宗介とクルツから聞いているが、正直に言うと真似をしたくないものだった。

「要するにブラックガインは新兵だ。我々の教育が、今後の彼の人生…いや、ロボット生を左右することになる」

「イエス・マム!」

宗介の訓練という名の遊びに付き合った時のようにヴィヴィアンが悪乗りしてくる。

「彼に最強の兵士になってもらうべく、ここはマオ姐さん特製の海兵隊式訓練法で…」

「やめてぇぇぇぇぇ!!マオさん、それは絶対にやめて!!」

「なんでよ!?」

かなめの必死の制止の意味が分からないマオは困惑する。

かなめの脳裏に浮かんだのは二子玉川の悪夢という自分がいた世界の高校ラグビー界の歴史に残ってしまった大事件だ。

自分が過ごしていた高校には公式戦で何十連敗もし、試合よりもボランティア活動に注力しているラグビー部が存在し、職員会議で廃部を検討されていた。

そんな中で生徒会が生徒による自治権の侵害になるとして抗議し、協議した結果、次にある硝子山高校との練習試合で勝利した場合、当面の廃部を見送り、敗れれば即廃部という結論となった。

そこでラグビー部改革を行うため、ラグビー部にはかなめと宗介が送り込まれることになった。

そこで明らかになったのは、オトメンがあふれ、虫も殺せないような温厚な性格の男たちの巣窟という実態だった。

練習も怪我が怖い、誰かを傷つけたくないという理由から熱心とはいいがたい内容で、かなめはさじを投げたくなった。

だが、今後の方針の話し合いをする中で、硝子山高校のラグビー部達が挑発してきて、その結果かなめが先に手を出す形で乱闘が発生した。

その結果、ラグビー部は一方的に痛めつけられ、プライドを傷つけられたことから勝ちたいという思いが生まれ、そこから過酷な特訓の日々が始まった。

宗介は1週間近く学校を休ませたうえで、近くの野山で泊まり込みで特訓を行うことになった。

丸太を担いで何周も走ったり、自分たちで作った槍で相手選手を模した人形を突き殺す訓練をしたり、ボールをもくもくと磨き続けさせられたり、海兵隊式の訓練をしたりと…。

そこで宗介は常に彼らを罵倒し続け、人間扱いすらしていなかった。

その元ネタがマオの訓練マニュアルだ。

そして、ラグビー部は生まれ変わった。

優しさをかなぐり捨てた戦闘マシーン集団として。

彼らは試合で相手チームを殺す気でボールを蹴り、タックルをするなどルールにのっとった暴力を繰り広げた。

その結果、大勢の観客が見守る中で硝子山高校ラグビー部は負傷退場者を続出させ、最終的に大敗に喫した。

硝子山高校はその後、敗戦のショックにより長期間にわたる成績不振となったという。

その悪夢の元凶となったマオの教育を絶対にブラックガインにさせてはならない。

殺す気で救助活動と悪党退治をやって、町を滅茶苦茶にする光景が想像できる。

「じゃあ、兵士としてよりも前にまずあの子に品性というものを学んでもらうのは?」

白いワンピースを着用したアンジュがかなめの代わりに対案を提示する。

メイルライダーになったとはいえ、皇女時代に身に着けた礼儀作法は頭に残っており、教えることくらいはできるだろうと考えていた。

「ハッ、元お姫様のイタ姫が言っても、説得力がないね!」

相変わらずアルゼナルの制服姿のままのヒルダが小ばかにするように笑う。

カチンとくるアンジュはさっそく反撃のセリフを思いつき、悪い笑みを見せる。

「育て方が悪いと、ひねくれ者になっちゃうから。誰かみたいに」

「あたしの育ちに文句でもあんのか!?」

「やめなさい、2人とも。そういういがみ合う姿は、あの子の教育に悪いわ」

サリアに諫められるのを見たかなめはもうアンジュの案は不可能だと判断した。

だとしたら、先生役を誰にすればいいのかと考えに考えるが、なかなか頭に浮かばない。

「生活力っていうなら、ジュドーかトビアがいい先生役になるんじゃないか?」

「ジャンク屋と海賊か…生きていく力は身につきそうだね」

「でも、勇者特急隊に求められる能力かって考えると疑問符がつくわね」

ブラックガインがこれからやるのはジャンク屋でも海賊でもなく、勇者特急隊だ。

悪党退治ならともかく、人命救助に役立てることができるかわからない。

「俺たちが教えられるとしたら、ジャンク集めや機体整備…」

「あと、戦い方だよな…」

「駄目駄目!戦うことしか知らない人間って、周囲に迷惑をかけるだけだから!!」

その多大な迷惑を身近で受け続けていたかなめが必死に2人を止める。

刹那がそうなのか?と言わんばかりに少し目を大きく広げていたが、それを無視してかなめは学校での事件を思い出しながらその危険性を流暢に語る。

「平和な暮らしが、たった1人の人間の存在で爆発騒動が日常茶飯事になる…そんな不幸な犠牲者を二度と生まないためにも、彼にはちゃんとした教育を!!」

「おーい、こっちで1人、どん底まで落ち込んでるやつがいるぞ」

シンの言葉はハッとしたかなめだが、もはや手遅れだった。

無表情となり、目からハイライトが消え失せた宗介が顔を下に向けていた。

「ご、ごめん、ソースケ…ちょっと言い過ぎた」

「ちょっとって、範囲になるのかしら…それ」

「俺は…厄介者、足手まとい、お荷物、要らない子…心臓へ向かう折れた針、巨大な不発弾…」

あまりのショックでどこかの異能者のことまで口走る始末。

しばらくかなめに平謝りされ、ようやく元の調子に戻った。

「俺も千鳥の意見に賛成だ。最強の兵士である前に、まずは人間として…もといロボットとしての基礎教育が必要だ。ならば、教育係は同じロボットが行うのが最適だろう」

「同じロボット…ああ、それなら!!」

宗介の珍しく真っ当な意見に心から賛同したかなめはさっそく人選を始める。

そして、ブラックガインの前に教師となる面々が集まった。

「初めまして、ブラック。私はアル。アーム・スレイブ、アーバレストのAIを務めております」

「君も、私たちと似たようなものなのか?」

「技術系統は違いますが、似たようなものです」

「私はナイン。ブラックさん、あなたの教育係を仰せつかりました」

「君は人間ではないのか?」

アルはともかく、ナインに関しては見た目は完全に人間の少女そのもので、ブラックガインは驚きを見せる。

「諸事情で、このような姿になっています。ですが、あなたと同じAIです」

「よし…ではブラック。私とアル、そしてナインでお前を鍛えるぞ」

「望むところだ!」

さっそく3人によるブラックガイン教育が始まった。

まずはアルとガインによる模擬戦と救助活動の手順やけが人の輸送方法などのレクチャーを行い、ナインによる敵武装ロボットや以上が発生した機械の解析の訓練を行う。

楽しそうにその訓練を受けるブラックガインを見たアンジュは笑みを見せる。

「妥当な先生役じゃない」

「はい…見ていて、とても微笑ましいです」

「でも、あの腹黒マフィアが虎の子に逃げられて黙っているとは思えないぜ」

間抜けな裏切られ方をされたホイだが、彼はアジアマフィアの総帥。

死の商人として巨万の富と地位を得た彼がこのまま引き下がるはずがないとリョーコは踏んでいた。

おそらく、それは何度も戦っている舞人も分かっている。

「けど、俺たちは負けませんよ。もちろん、ブラックも…」

「決めてくれるぜ、舞人の兄ちゃん!」

「僕たちも舞人のフォローをして、ブラックを守ろう」

「じゃあ、僕は別方向からブラックのための訓練を…そうだ!ブラック!言語能力のテストはどうだい?」

「言語能力…?」

アルと模擬戦を行っていたブラックガインは浜田の申し出が気になり、首をかしげる。

まだ起動したばかりとはいえ、ブラックガインの超AIにはガイン達と同様に日本語や英語、中国語にアラビア語、標準語といったこの世界のほとんどの言語を記憶している。

そのため、しゃべったり理解したりするのにはあまり問題はないと自負している。

だが、浜田の試す言語能力はもっと別のものだ。

「じゃあ、いくよ。特許許可する東京都特許許可局!言ってごらん!」

「特許許可する東京都特許許可局」

「特許許可する東京都特許許可局」

アルとガインはスラスラと早口で言い切ることに成功する。

ただ、ナインは意味が分からないようで首をかしげる。

「地球連合が樹立した際、行政区分の変更がされているため、そのような機関は存在しません」

「そ、そういう問題じゃなくて…」

まさかの斜め上の答えにさすがの浜田も困惑する。

「ナイン、これは早口言葉だ」

「同じような言葉が並んでいるから、発音しづらいんだよ」

舞人の言う通りで、メンバーの中でもブラックガインと一緒に早口言葉をやり始めていた。

しかし、勝平とキラ、ジュドー、サリアは全くいうことができなかった。

「さあ、ブラックもやってごらん」

「と、きょ…許可する…きょ、きょか…」

「まだまだだな」

「うう…これは超AIへの負担が大きい…」

高速で発音データを整理し、言わなければならないため、記録している音楽を流す以上に負荷がかかる。

アルはネットで知識を収集する中で、ガインは何度も練習して早口言葉ができるようになった。

普通にしゃべる以上に負担がかかるのは変わりないが、それでも問題なく言うことができる。

そんな中で、警報音が鳴り響き、大阪が駆けつける。

「大変だ、舞人君!アジアマフィアの武装ロボが町を攻撃している!」

「奴の狙いは俺たちをおびき寄せることか…」

相手の目的は分かっているとはいえ、町の人々を放っておくわけにはいかない。

「どうする?舞人。メンテ中のため、出せる機体は多くないぞ」

パラメイルは宇宙戦闘に備えた回収をしている途中で、どれも出撃できない状態だ。

ダイターン3は出撃するとしても、街中で人型の状態になるわけにはいかず、戦うとしてもダイタンクのみだ。

他にも、合流するまでの戦いで損傷もしくは消耗している機体も少なくなく、出撃できるとしたらヴァングレイ、勇者特急隊(もちろん、トライボンバーは不可能)、ダイターン3、ザンボット3とガンダムチームのガンダムのみだ。

また、勇者特急隊のイメージを傷つける可能性があるため、ソレスタルビーイングのガンダム達は本当に必要となる場合まで出撃できない。

「ならば、私も戦う」

「駄目だよ、ブラック!ホイはきっと、君を目の敵にするよ!」

狙いはブラックガインなのはわかり切った話だ。

これではわざわざ相手の罠に飛び込んでしまうようなもので、それはさすがに避けたかった。

だが、やはりガインの超AIのコピーのためか、首を横に振る。

「それでも行く。私も勇者特急隊の一員なのだから…」

「分かった…ブラック、出撃してくれ!」

「了解だ!」

「ブラック、これを持っていけ」

ガインはブラックガインに共通装備であるレスキューナイフを手渡す。

「これで、名実ともに勇者特急隊の一員ということだな」

「そうだ。これは傷つけるものである以上に、誰かを助けるために使う道具だ」

「肝に銘じておく、ガイン」

 

-ヌーベルトキオシティ レインボーブリッジ付近-

パオズーや赤く塗装されたユニオンリアルド、ティエレンなどの旧型モビルスーツの集団がレインボーブリッジを封鎖し、外部からの侵入を防いだうえで布陣を組んでいた。

どのモビルスーツも、アングラな市場に流れていたものをアジアマフィアが仕入れて、内戦が続く中国の各軍閥に売っているものだ。

その布陣をホイとチンジャは黒い小型飛行機の中で眺めていた。

「ホッホッホッ、来るがいいネ、勇者特急隊。そして、ブラックガイン。その時こそ、お前たちの最期ネ」

うるさい警察はガバメントドッグを出撃させるが、中国から密輸した武装ロボットたちの敵ではない。

まだ逃げ遅れている人々がいるこの状況を勇者特急隊が無視するはずがない。

つまり、この状況ができた時点で彼らの中では勇者特急隊は既に詰んでいる。

「ホイ様、見えました。勇者特急隊です」

「よぉし…」

マイトガインとスペースガードダイバー、ブラックガインにヴァングレイ、グレートマジンガーにザンボット3、アーバレストがこちらへやってくる姿が飛行機のモニターに映る。

そろいもそろって、こちらの切り札を持ってきてくれたことをホイは喜んでいた。

「そこまでだ!ホイ・コウ・ロウ!」

「勇者特急隊が相手になるぞ!」

スペースガードダイバーが救助活動をはじめ、周囲への被害を最小限にとどめるべく、各機は接近戦に持ち込む。

「ユニオンリアルド、AEUヘリオン、ティエレン…。いずれも旧型モビルスーツです」

「アジアマフィアの野郎、日本にそんなもんを密輸するんじゃねえ!」

地上にいるモビルスーツ達がヴァングレイたちに向けて発砲し始める。

「奴らは何を考えている!?街中で不用意にライフルを使うなど!!」

マイトガイン達の背後には逃げている住民がいる。

そんなこともお構いなしに発砲する彼らを許せず、ブラックガインはレスキューナイフとブラックガインショットを手に突入していく。

「ブラックガイン!うかつに前に出るな!!」

「ソウジさん、チトセさん!飛んでいる機体を頼みます!」

「了解だ、いくぜ!!」

上空を飛ぶヴァングレイは飛行しながらリニアライフルを発射するユニオンリアルドに向けてビーム砲を発射する。

だが、ユニオンリアルドは一気に高度を下げて連射されるビームを回避し、反撃のリニアライフルを発射するが、ヴァングレイはシールドで受け止める。

「できるな…ってことは、手練れか!?」

アジアマフィアはピンクキャットやヴォルフガング一味とは異なり、大々的に死の商人を行う世界的な犯罪組織だ。

そんな彼が傭兵を持っていたとしても不思議ではない。

人手なら、1年前の戦争が終わったことでリストラされた人やアロウズ所属という前科で冷や飯を食わされている軍人など、得ようと思えばいくらでも集めることができる。

彼らを囲い込み、その操縦技術をアジアマフィアの戦闘員たちに学ばせることで、アジアマフィアそのものの軍事力を高め、より国やほかの軍閥たちへの抑止力になる。

ただ、操縦技術は短期間で学べるものではなく、ある程度実戦もこなさないと習得できないため、当面は前線を傭兵に頑張ってもらう形にせざるを得ないのが現状だ。

「けどよぉ、こっちも1人ってわけじゃあねんだよ!」

地上からバスターミサイルが飛んできて、死角を取られる形になったユニオンリアルドの上半身に命中する。

地上にはザンボット3がいて、その機体が足に内蔵されたミサイルを発射していた。

被弾したユニオンリアルドは上半身を強制排除し、下半身だけで戦線から離脱していった。

「ナイン!万丈に敵の位置を知らせろ。後方支援だ!」

「はい!!」

 

「よし、ヴァングレイからの通信だ。敵の位置は…いいな…」

海上でホバーするように浮かんでいる全長80メートルの巨大戦車、ダイタンクがヴァングレイから受け取った敵の位置を把握していく。

船舶は付近を航行しておらず、発射の反動の影響を心配する必要はない。

照準を合わせると、万丈はトリガーを引き、砲台から徹甲弾を発射する。

ダイターン3の状態でも使用できるレッグキャノンだが、ダイタンクになればより精密な射撃を行うことができる。

発射された徹甲弾は上空を飛ぶユニオンリアルドを貫通し、向かい側の海に落ちる。

巨大戦車から発射された弾丸を受けて無事で済むはずがなく、ユニオンリアルドはバラバラに吹き飛び、無残な姿を地上へと落としていく。

「恨んでくれていいよ…。だが、戦う以上はこうなることも覚悟していただろう?」

犯罪組織であるアジアマフィアに雇われている以上、彼らに何らかの事情があったとしても、万丈にとっては知ったことではない。

万丈は次の敵の照準を合わせ、町に銃弾が落ちないように発射コースの設定を行った。

 

「はあああ!!」

ブラックガインがティエレンが発射するライフルをジャンプして回避し、真上からレスキューナイフを突き立てる。

コックピットギリギリのところで突き刺しており、無事だったパイロットは機体を捨てて逃げ出していく。

「アジアマフィアめ…狙いは私だろう!?狙って来い!!」

これが自分への罠であると理解しているブラックガインは上空にブラックガインショットを発射しながら叫ぶ。

今ここが戦場になっているのは、自分のせいではないかと彼は感じていた。

勇者特急隊がどんなに町への被害を抑えようと努力しても、戦いが起これば多かれ少なかれ、ヌーベルトキオシティに被害が出る。

ならば、その範囲を可能な限り狭めようと、深く切り込んだブラックガインがおとりになろうとしていた。

「ふふふ、自分から入ってきてくれるとは、健気なものネ!さすがはガインのコピー…」

計算通りに動いてくれたブラックガインを笑うホイはチンジャに目で合図を送る。

うなずいたチンジャがトリガーを引くと、小型飛行機下部に装着されていた赤い仮面型の端末がブラックガインに向けて発射される。

発射された端末はブラックガインの顔面に命中し、ブラックガインの動きが止まる。

「ブラック!?」

「ブラックさん!?そのマスクは…」

「ふふふ…ブラックコントローラーセット完了。さあ、ブラックガイン。来るがいい…!」

「…」

レスキューナイフを捨てたブラックガインが小型飛行機の元へ進んでいく。

「どうしたんだ!?ブラック、戻って来い!!」

舞人はブラックに通信をつなげようとするが、通信が拒絶される。

「ブラック!」

「やめろ!勇者特急隊であることを忘れたか!?」

アーバレストがブラックガインを止めるために彼の進路上に立ち、ブラックガインを元に戻そうとマスクに手を伸ばす。

しかし、ブラックガインはアーバレストの頭をつかみ、片手で持ち上げるとそのまま地面にたたきつけた。

「あのマスク…まさか、ブラックさんを強制的にコントロールするための…」

「ってことは、目的はやっぱりブラックを取り戻すためか…くそ!!」

ビームサーベルでユニオンリアルドを両断したソウジはヴァングレイが拾った新たな反応に気付く。

「新しい機影が2つ…こいつは!?」

「ソウジさん、これって…!」

「生まれ変わった悪の戦士の正装ネ!」

ブラックガインの背後に黒いロコモライザーと黒いマイトウィングが現れ、黒い小型飛行機と共に上空へ飛びダイヤモンド状の配置となる。

「仕上げといきましょう、ホイ・コウ・ロウ様」

「レーーーーーーッ、ブラックマイトガイーーーン!!」

「ブラックーーーー!!」

ガインの叫びがむなしく響く中、上空でブラックガインが黒いロコモライザーとマイトウィングと合体し、黒いマイトガインへと変貌していく。

そして、その頭部に黒い小型飛行機が搭載された。

「ブラックパイルダーオン、完了です!」

「黒い…」

「マイト…ガイン…」

舞人とアーバレストを立ち上がらせたばかりの宗介は悪の戦士となってしまったブラックガインの変わり果てた姿に息をのむ。

満足げに高笑いしたホイはチンジャと共に勝利宣言と言わんばかりに名乗り上げる。

「黒い翼に殺意を乗せて、灯せ、不幸の赤信号!」

「悪人特急ブラックマイトガイン、定刻破って、ただいま到着!」

「さあ行け!ブラックマイトガイン!お前の力を見せてやれ!」

「おう!!」

ブラックマイトガインが手始めにアーバレストに向けて黒いシグナルビームを発射する。

「く…ラムダ・ドライバだ!」

「了解」

ラムダ・ドライバを起動したアーバレストが大きく後ろへジャンプしてシグナルビームを避ける。

ビームはアーバレストがいた道路を焼き尽くしていき、路上に放置されたトラックが溶けていく。

「出力確認。シグナルビームの出力はマイトガインよりも15%ほど上回っています」

「やはり、マイトガインよりも性能が上か!」

アジアマフィアがマイトガインに対抗するために作ったとしたなら、やはり性能はマイトガインを上回る物を要求するはずだ。

性能以外にも、ブラックガインの本来持っている正義の心を知っている分、舞人とガインにも大きなショックを与え、戦うのには不利な要素が多い。

「あの悪党、頭にいるのか…」

「どうすんだよ、舞人の兄ちゃん…うわっ!!」

「よそ見しないで、勝平!」

フェイズシフト装甲に換装されたザンボット3の装甲がリニアライフルを受け止め、宇宙太が代わりにザンボットバスターで撃ってきたAEUヘリオンに迎撃する。

舞人はブラックマイトガインが焼いた道路を見る。

「ブラックを…倒すしかない…」

本来、ブラックガインはそういう光景を求めて作られたもの。

イレギュラーで一時は勇者特急隊に入ったが、それが元に戻ってしまったまで。

勇者特急隊として人々と人々が生活する場所を守らなければならない舞人は断腸の思いで決断する。

「このままブラックを放っておいたら、ヌーベルトキオシティがメチャクチャになって、犠牲者も出てしまう…」

「でも、舞人君!!それだとブラックがあまりにも…」

「分かったぜ、舞人…」

「ソウジさん!」

「だが、最後まであきらめるなよ。ブラックの動きを止めれば、きっとチャンスがあるはずだ」

「ソウジさん…」

「ヒーローは最後まで希望を捨てない…だろ?」

「最後まで最善を尽くす。それが戦場に立つ者の務めだ」

ソウジと宗介の言葉に、舞人の最後に残った迷いが断ち切られる。

だが、それはブラックを切り捨てることを意味しない。

「いくぞ、ブラック!お前を取り戻して見せる!!いくぞ、ガイン!!」

「ああ…了解だ、舞人!」

そうしている間にも、ブラックマイトガインは再びブラックシグナルビームを今度は町に向けて発射し始める。

マイトガインは射線上に立ち、動輪剣でブラックシグナルビームを受け止める。

「来い、マイトガイン!貴様を倒すのが俺の使命だ!!」

「ブラック…私の使命は、お前を正しき道へ戻すことだ!」

「俺の正しき道、それはこうだ!!」

ブラックマイトガインが柄が斧状になっている動輪剣を手にし、2機の刃がぶつかり合った。

「来い、勇者特急隊!貴様らは絶対にブラックマイトガインには勝てん!そのことを教えてやるネ!」




機体名:スペースガードダイバー
形式番号:なし
建造:勇者特急隊
全高:23.5メートル
重量:100.8トン
武装:ダイバーギムレット、ダイバーアタック、ダイバーデトネイター×2、ハイドロキャノン×2(デブリ破砕用ミサイルポッドへの換装可能)、ダイバーアンカー、ダイバースパーク、ダイバーライフル、スペースカッター×2
主なパイロット:ダイバーズ

ダイバーズが新たに加わった勇者特急隊、スペースダイバーと5体で合体したもの。
バックパック部にそれが装着されたことで、単体での飛行が可能となり、宇宙戦闘での救助活動も可能となった。
そのため、宇宙空間では使用が制限されるハイドロキャノンはデブリ破砕用ミサイルポッドへの感想が可能となるよう改良された。
スペースダイバーそのものには武装が翼部のカッター以外になく、他の勇者特急隊と異なり人型形態を持たないものの、複数人を収容し、なおかつ酸素や水分を供給できる救助用ランチユニットを左右に1基ずつ外付けしている。
これはコロニーや船から宇宙へ投げ出された人を緊急収容することを想定し、分離と遠隔操縦も可能となっている。
ただし、その場合は酸素と水分の供給時間に制限がかかるため、あくまで緊急用となっている。
舞人のプランでは、スペースダイバーが収容した要救助者を救命用大型シャトルに運び、そこで必要な治療を行うという形になっている。
なお、スペースダイバー本人はかなりの無口で、他の勇者特急隊とも積極的に交流を深めようとしない一面があるものの、救助の動きが機敏で丁寧なうえ、ブラックガインを一目で自分たちと同じ正義の心を持っていると見抜くなど時折鋭い勘を見せることがある。

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