スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第38話 スピードVSスピード

-地球-アマテラス間 暗礁地帯-

「くそ…!こいつら、硬い…!」

ヴァングレイのビーム砲を2,3発受けたはずのアールヤブだが、それに耐えてビーム砲を発射する。

正面からのビームであるため、容易に回避することができたが、それと同時に背後からの敵機の反応が来る。

「何!?後ろから…新型かよ!?」

「後ろを取られたら…キャア!!」

背後に飛んできたビームを受けたヴァングレイが大きく前へと吹き飛ばされ、ビームを受けたガトリング砲が破損する。

「足りねえな…」

新型機の中でヴァングレイが後ろを見せるさまを見る男がつまらなそうにつぶやく。

全周囲モニターの中、青い鶏のとさかのような上方をした鋭い目つきをした男で、裸の上半身に袖の破れた軍服を着た姿が彼の戦闘狂としての側面をほうふつとさせる。

今ロックオンしている対象が今の彼のターゲットであり、それに対する命令が彼にとっては不可解なものだ。

だが、戦うことしか能がなく、後ろで指揮するようなことを好まない彼にはどうでもいい話だ。

命令には従うが、それ以外は好きにさせてもらう。

それが目標以上の成果になるならばいいというのが彼の考え方だ。

だが、そのターゲットとなる機体、ヴァングレイの今の動きは彼にとって不満足なものだった。

「足りねえな…知性も品性も強さも…」

背後を取り切ったはずの新型機が今度はヴァングレイの正面に立ち、そこで両腕のビーム砲のチャージを開始する。

わざと自分のスキを真正面で見せる彼の姿は相手にするパイロットにとっては明らかに挑発だ。

「こいつ!!」

当然、一番初速のあるレールガンを撃ってくる。

その程度のことはこれまでアールヤブが集めてくれたデータで分かっていること。

やすやすと挑発に乗って、そのような読めている攻撃をしてくる時点で知性と品性のなさが証明されている。

おまけに、兵器として洗練されていない、フレームに凸凹と武装を取り付けただけのお粗末な機動兵器には開発者の知性のかけらも感じられない。

そして、それ以上に足りないものがある。

これこそが自分のアイデンティティであり、それを極めることこそが生きがいだ。

「スピードが足りねえ」

一気にスラスターを吹かせてレールガンを紙一重の差で回避するとともにビームを発射する。

「この距離で避けるのか…うわあ!!」

ビームが命中し、せっかくのレールガンまで失ってしまう。

ガトリングもレールガンもないヴァングレイの残存武装はビーム砲とビームサーベルのみ。

この短時間で、たった1機の機動兵器のために虎の子の武装を2つも失ってしまった。

「この野郎!!」

「へっ、ノロマが」

ビーム砲を連射するヴァングレイに背中を向け、新型機は隕石の海の中を悠々と、最大スピードのまま飛んでいる。

普通の人間では耐えられないほどの加速をしているにもかかわらず、隕石に接触することなく飛び続ける繊細さまである。

「この機体…人が乗っているの!?」

「何者なんだよ…あの無人機どもの親玉か!?」

新型機を相手している間に、ほかのアールヤブ達が次々と仲間たちに攻撃を仕掛けてくる。

ソウジも動きたいところだが、あの新型機に狙われていることを考えると、下手に背中を見せることもできない。

「…推測通りの馬鹿どもだな。お前らの都合のいいように素直に名乗って、素性までペラペラとしゃべると思っているんなら、救いがたい無能どもだ」

そういう考えを持った時点で、兵士としては失格であり、『処分』の対象となる。

そもそもそんなことをこれから死ぬ相手にしゃべったところで何も意味がなく、倒されて終わるだけ。

ならば、さっさと倒してしまうのが効率的。

それが彼の考えであり、おそらくは彼の所属している組織の考え方でもある。

「まぁ、グダグダ話していてもスピードに支障が出る。だから、お前らが一番知りたいことを単刀直入に教えてやる。任務はお前らをつぶすこと、つまり…お前らの敵だ。だから、俺の戦いの邪魔になりそうなノロマはデリートさせてもらった」

「デリート…ねぇ」

ソウジは周囲に散らばる火星の後継者たちの機動兵器の残骸を見る。

アールヤブ達と新型機による一斉射撃の的となり、原形をとどめないほどに破壊されており、中にはコックピットが丸々大穴になっているものもある。

相手はテロリストであり、テロリストは殺すのが基本。

平和を脅かし、罪のない人々を大勢殺した彼らは生きる価値もないが、それでもソウジには彼の言葉にカチンとくるものがあった。

「だが、不意打ちで人様の命を奪っておいて、そんな言いぐさはないんじゃないか?」

「俺が求めるのはスピードだ。その邪魔は消去するだけだ」

「そうかよ…」

「ソ、ソウジさん…」

ため息をつくように言葉を吐くソウジから、チトセは普段彼の見せない強いプレッシャーが感じられた。

ニュータイプ由来のものではない、人間が本来持っている本能。

相手に対するシンプルな怒りの感情を静かに燃やしている。

「チトセちゃん、こっからはいろいろやばいかもしれねえが、付き合ってもらうぞ」

「は、はい…」

「ナインもだ。聞こえているよな?」

「キャップ…?」

「どうにも俺はあいつが好きになれない。リミッター解除だ。力を貸してもらうぞ」

「リミッター解除って…そんなことをしたら!!」

今のヴァングレイは確かに出力に制限がかかっており、解除すればさらに性能を引き出すことができる。

だが、より一層パイロットに負担が生じるうえに内部フレームへのダメージも著しい。

長時間その状態で運用すると、機体が動かなくなってしまう。

「ノロマなのは頭の回転だけでなく、体の動きもらしいな。まぁいい、お前に本当のスピードというやつを教えてやる」

新型機が隕石と隕石の間で姿を見せ、ビームを撃ってくる。

シールドで受け止めている間に再び移動し、また別のポイントから撃とうとしていた。

「機体に負担がかかる分、俺の体は頑丈だ。あと、チトセちゃんが安全に戦えるようにサポート、頼むぞ」

「ソウジさん、またあなたは…!!」

木星の時のように、また自分だけを犠牲にしようとしているのか?

その後での喧嘩でそれをもうしない、といったのを忘れたのか?

せっかく生きているのに、そんな粗末なことをするのが許せず、声を上げようとする。

「安心しろ。俺は死なない。死ねない理由があるからな。リミッター解除、急げよ」

「…はい。けれど、キャップや姉さんへの負担があります。3分での決着を提案します」

「わかった…。チトセちゃん!!」

「…わかりました!ヴァングレイ、リミッター解除!」

死にたがりなんかじゃない、その言葉を信じることにしたチトセはコンソールを操作し、ヴァングレイのリミッターを解除する。

同時に、真上から新型機が両手のビーム砲からビームサーベルを展開させて突っ込んでくる。

「こいつで…終わりだ!!」

死角から死角へと飛び回りながらビームを打ち、頭上からの一閃でとどめを刺す。

この戦法で彼はこの組織で多くのエースパイロットを撃墜してきた。

だが、ビームサーベルで切り裂くか否かというタイミングでヴァングレイが姿を消す。

「避けた…!?うお…!!」

背後から殺気を感じた彼は新型機を急激に真上へと飛ばす。

急激に反対方向へ加速したことで強烈なGを感じるが、これまでもっと激しいGを感じたことがあるため、その程度は軽いものだ。

カメラには自分から外れて飛んでいき、隕石に命中するレールガンの弾頭が映っていた。

「おお…なかなかいいスピードじゃねえか。マグレじゃなきゃいいけどな」

 

-トゥアハー・デ・ダナン 第2格納庫-

「機動兵器が戻ってくるぞ。応急修理と推進剤、弾薬の補給を急げ!!敵は待ってくれないぞ!!」

ダナン格納庫の中でサックスが声をあげ、その間に戻ってきたZZガンダムの推進剤の補給が始まる。

40機以上のアールヤブとの戦いではどうしても長時間の戦いに発展し、ZZガンダムをはじめとした長時間の戦闘に向かないような機動兵器はこうして戻ってきて、補給を受けることを余儀なくされる。

コックピットの中では、ジュドーがカロリーブロックを口にしながら補給完了を待っていた。

「ミサイルの補給は最低限でいい。推進剤を入れてくれたら、すぐに発進する!」

ZZがいない穴をハサウェイが埋めている状態で、相手が正体不明な存在である以上は早く出なければという思いが強まっていく。

だが、ジュドーもいつまでもそんな甘いことばかり言っていられるような状況ではないことはよくわかっている。

だから、そんな気持ちを抑えるため、今は栄養補給をして反応が鈍くなるのを防ごうと心掛けている。

続けてZZに似た重装甲・高機動をコンセプトとしたナオミのグレイブもトゥアハー・デ・ダナンに戻ってきて、中で待機しているアルゼナル組の整備兵たちが一斉に集まり、メイの指示の下で補給を開始した。

「ナオミ、さすがにレールガンはすぐに弾を入れられないわ。アサルトライフルで代用して!それであとは応急修理と推進剤の補充だけで済むから!!」

「仕方ないわね…。その代わり、すぐにお願い!!」

疲れを覚えているナオミはコックピットがモビルスーツのように椅子の形であってくれたらとこの時だけは思ってしまう。

パラメイルはドラゴンとの戦闘を良くも悪くも想定したつくりとなっており、今の戦場のような長時間にわたる戦闘を考慮した設計となっていない。

それに、アルゼナルでの座学の中ではそうした状況での戦い方については、当たり前の話ではあるが教えてもらったことは一度もない。

「アンジュ達…ペース配分を間違えないといいけど…」

「ナオミ!!」

コックピットが開き、まぶしさを覚えて目を開けると、そこには整備兵の服に身を包んだココの姿があり、ナオミにフルーツ味のカロリーブロックを差し出していた。

「これ、食べて。かなめさんからもらったんだよ。外の世界のごはんっておいしいものでいっぱいなんだね!」

魔法の国ではないけれども、あこがれの外の世界に出ることができ、こうしたアルゼナルにないものと巡り合えるからか、今のココはかなり生き生きとしていた。

ナオミも宗介から外の世界の戦場での食料の一つとしてカロリーブロックのことを教えてもらっている。

まだ食べたことがなく、受け取ったナオミはそれを口にする。

口にはバナナやイチゴなどの様々なフルーツの味が広がっていき、それを感じるのが楽しく感じられた。

なお、カロリーブロックは別に戦場での食べ物ではなく、普通に市販されている食べ物で、手軽に栄養補給できることから忙しいビジネスマンやダイエットや健康を意識している人々からの需要が大きい。

どちらもある意味では戦場であるため、宗介の表現は半分以下ではあるが、間違っていないのかもしれない。

(やっぱり、いいな…。外の世界って…)

ドラゴンと戦う以上に過酷な戦いの中にいるのはわかっているが、消耗品としてではなく一人の人間としてノーマを扱ってくれるこの世界はナオミにとって心地が良かった。

 

-地球-アマテラス間 暗礁地帯-

「いっけぇ!!」

ナデシコBの直掩に回るキラはスーパードラグーンを展開し、周囲を飛び回るアールヤブをけん制していく。

ビームシールドを展開させているアールヤブにはスーパードラグーンのビームでも大したダメージを与えることはできない。

だが、展開中のアールヤブが腹部のビーム砲を放ってくる気配はなかった。

(思った通りだ。これで攻撃を封じられる。あとは…)

ビームシールドに出力を回しているおかげで、相手はほかの兵装を使うことができない。

ビーム主体の兵装に統一した弊害といえるだろう。

そして、ビームシールドを貫く武装を持つ機体が仲間の中にいる。

「はあああああ!!!」

「これでぇ!!」

アロンダイトを手にしたデスティニーとムサシを手にしたインパルスがアールヤブの装甲をその刃で切り裂いていく。

たとえビームシールドでも、ビームサーベル以上の破壊力を持つ格闘武器であるこの2つの刃には切り裂かれてしまう。

(やっぱり、強い…あの人は…)

敵味方が入り乱れる戦場の中で、スーパードラグーンで弾幕を張っているにもかかわらず、1発たりとも誤射がない精密な動きを見せるキラにシンは自分との技量の違いを感じずにはいられない。

スーパーコーディネイターというだけではない、キラ自身の2度の大戦の中で培ってきた経験と実力がそれを可能にしているのだろう。

だが、その中でそれだけの力があって、どうしてステラを救えなかったのかという感情が芽生えてしまう。

「スーパードラグーンのチャージ時間が来る…。ロックオンさん、頼みます!!」

「了解だ、准将殿」

「准将はよしてください」

「はは、了解だ。さあ、行くぜ。お前ら!」

「「了解!了解!」」

オレンジハロと青ハロのサポートを受け、ロックオンはGNライフルビットⅡとGNピストルビット、さらにはGNホルスタービットを展開させる。

スーパードラグーンが収納され、次のビットが展開される間のタイムラグに一部のアールヤブがビームシールドを解除し、戦艦に向けて腹部ビーム砲を発射する。

「ビームかく乱膜、展開!」

「ビームかく乱膜展開、アイ!!」

トゥアハー・デ・ダナンがビームかく乱膜内蔵型ミサイルを発射する。

時限信管型のミサイルは発射から一定時間経過後に爆発し、トゥアハー・デ・ダナンをキラキラと光る白い粒子で包む。

その粒子がトゥアハー・デ・ダナンへ発射されたビームを減衰させ、消滅させる。

単独では最大火力の武装を使ったアールヤブはその間に発射されたビットのビームをスラスターに受け、爆発した。

「AIとはいえ、あんまりそういうのはやりにくいぜ」

「ライル!トレミーが補足した敵機の位置座標を送るわ!参考にして!」

「サンキュー、アニュー!!」

送信されたデータを参考にビットの位置を変更し、弾幕を張っていく。

「くそ…!ソウジさんたちを助けたいけど…!」

アールヤブの1機でバタフライバスターで切り裂いたトビアは新型機と交戦するソウジ達の身を案じる。

2機ともモビルスーツとはかけ離れたスピードで撃ち合っているが、相手との差は歴然で、同じスピードで押されているのはヴァングレイの方だ。

(何か…長距離から一撃を放つことができれば…!)

トビアのX3にはそのようなことのできる武装などなく、たとえあったとしてもそうした狙撃はトビアにとっては苦手分野だ。

ロックオンや三郎太、クルツのようなセンスがない。

先ほど補給を終えて出撃したZZやΞガンダムなら可能だが、火力が過剰で、ヴァングレイを巻き込んでしまう。

「何か…何か手はないのか…!?」

 

「へっ…ようやく本気を出してくれたと思ったが、正直期待外れだ」

「く…そぉ…!」

新型機のビーム砲を左肩に受けたヴァングレイの装甲のいたるところがビームで焼けており、リミッター解除に伴う過剰なまでの加速力の増大のせいで装甲そのものにも自爆同然のダメージがある。

ナインが出してくれたタイムリミットまではあと25秒で、それを過ぎるとどうなってしまうのかが頭をよぎる。

「チトセちゃん、レールガンの残り弾って…あとどれくらいだ?」

「あと…3発です」

「そうか…」

ビームサーベルも残ってはいるが、機動力で劣るヴァングレイでは逆に新型機に接近戦でやられるだけだ。

この残された3発でどうやって戦うべきか、ソウジは考えをめぐらす。

(幸い、ミサイルはまだ使えるが、あいつにはただの足止めくらいにしかならねえだろうな…。にしても、こんだけのスピードに耐えられるって…奴は異星人なのか?)

任務、という言葉から推理すると、あの新型機とアールヤブを操る組織は別の平行世界へワープする技術を確立しているように思える。

ソウジ達はアクシデントによってワープしたに過ぎず、今の技術で並行世界へワープできる技術を確立するのは短く見積もっても100年以上かかるというのが自分たちのいる世界での技術屋たちの見解だ。

そもそも、ワープができるようになったヤマトでさえ、イスカンダル人が命を懸けて届けてくれた波動コアをベースとした波動エンジンがなければできなかった。

それがなければ、さらに数百年の時間を要していたと思われる。

「つまらん任務だった。さっさと終わらせて…」

「動きが少し緩慢になった…!」

「よし、今なら!!」

ヴァングレイの各部に装備されたミサイルポッドが展開し、次々と新型機に向けて発射される。

「ふん…!そんなヒョロヒョロとしたミサイルなど」

数は多いが、速度は大したことのないミサイルなど彼にとっては敵ではない。

直撃コースになりそうなものをビームで破壊しつつ、ミサイルの合間を縫うように回避していく。

だが、次の瞬間高速で飛んでくる弾丸の警告音がコックピットに響く。

「何!?ちぃ…!」

気づくのが遅れたものの、急加速して直撃は避けたものの、バックパックに当たり、強い衝撃で前のめりになる。

そのダメージでスラスター出力は低下したが、戦闘続行に支障はない。

だが、このつまらない小細工で当たってしまったことに腹を立てずにはいられなかった。

「戦場で無駄口をたたくのは、おまえの言うスピードの邪魔じゃないのか?」

「てめえ…!」

軽口をたたきつつ、ソウジは次の手段を考え始める。

ミサイルは撃ち尽くし、残り2発のレールガンであの新型をしとめる。

同じ手段を使えたとしても、おそらく相手はそれにまた引っかかってはくれないだろう。

だが、これで少なくとも注意はこちらに向く。

残り時間は短いが、それでもその間だけはほかの仲間たちに新型機を向かわせずに済む。

「…!ソウジさん、来ましたよ!」

「来たって…何がだよ??」

「助けです!!四時方向から!左にずれて!!」

「お、おお!!」

チトセの言葉を信じてヴァングレイをずれすとともに、後方から大出力のビームが新型機に向けて飛んでくる。

ビームライフル以上のスピードと出力のビームを辛くも回避する彼は敵の援軍が現れた方角に驚きを覚えた。

(あれは奴らが言っていたアマテラスの方角。そこから援軍だと…!?)

「ソウジ!チトセ!!まさかここで会えるとは思わなかったぞ!」

ヴァングレイのモニターにノーマルスーツ姿のキンケドゥの姿が映る。

「キンケドゥの旦那!!」

「それに…一緒に乗っているのって、もしかして…!!」

「ソウジさん、チトセさん、よかった…!」

後ろに無理やりつけられた形のサブパイロットシートにはベルナデットの姿があり、2人の無事を確認できたことに彼女は涙を流す。

「ベルナデットちゃん、その涙はトビアのためにとっとけよ。あいつも一緒だ」

「トビアも…よかった、無事で…トビア…!」

レーダーがキンケドゥの乗る機動兵器をとらえ、その姿がモニターに映る。

その姿は予想通り、スカルハートのものだが、バックパックに違和感が感じられた。

X字のフレキシブル・スラスターではなく、量産型F91などにみられる2門のヴェスバーらしきものがつけられていた。

そして、そばにはコスモゼロの姿もあった。

「キンケドゥさんはヴァングレイの援護を!3機で正体不明機を迎撃する!」

「その声は…古代戦術長か!?ヤマトから逃げてきたんすか?」

キンケドゥとベルナデットだけでも驚きなのに、さらなるサプライズとして古代までいる。

彼がいるということはアマテラスにヤマトがいるという情報が真実だという大きな証拠になる。

「その通りだ」

「どうやら、アマテラスにヤマトがいることは知っているようね」

「森船務長もいるのか!いいぞ、いいぞこいつなら…!」

「どういう事情かは後で聞く。森君、揺れるが、耐えてくれ!!」

再びスカルハートがヴェスバーを低出力・高速モードに設定しなおして連射しはじめ、続けてコスモゼロも圧縮ビームで援護射撃を開始する。

あっという間に今度は3対1という状態となり、次々と飛んでくるビームにさすがの彼もいらだちとともに舌打ちする。

「ちっ…さすがにまずいか」

推進剤の残量を考えると、ここまでが限界のようで、モニターを確認すると目標達成率78パーセントと表示されている。

時間をかけた割に収穫が少ないように思えたが、暗号通信で後退命令も出ている。

潮時だと理解した彼は真上に向けて球体型の青いビームを撃つ。

一定距離進んだ後で信号弾のように強い光を発した。

その瞬間、アールヤブは戦闘を停止し、即座に反転してその場を後にしていく。

「撤退信号…ということか?」

「敵無人兵器勢力の兵力はこちらの2倍。あと一押しで戦艦を撃沈させることも可能であったにもかかわらず、奇妙なことです」

「…」

アルの言葉が正しければ、このまま戦い続ければ、大きな損害を負い、火星の後継者討伐どころではなくなるというのと同義だが、実際に戦った宗介は黙ってその言葉を肯定するしかなかった。

(あの兵器の性能はエリアDで戦った時よりも強くなっている…。この成長が何度も続いたとしたら、俺たちは…)

「…」

信号弾を放った男の新型機も、アールヤブ達と共にその場を離れていく。

「敵が撤退していく…」

「いや、撤退してくれた…が、正しいだろうな。うん…?」

チトセとナインに機体のチェックをさせ、ソウジはなぜかヴァングレイに入って来た通信を見る。

それは標準語で書かれた文章だった。

「貴様らのスピード、見せてもらった。次は俺のプラーマグのスピードがお前たちを圧倒する。覚悟をしておけ。ガーディムの戦士、グーリー…奴からの通信かよ」

なぜ、スピードを重視する彼が自分の名前や組織を口にしたのかはわからない。

強者の余裕なのか、それとももっと別の何か事情があるのか。

(あの機体…おそらく、リミッターを外したヴァングレイよりも、強い…。次の戦い、覚悟しなきゃならんだろうな…)

相手から来てくれるということは、今度はすべてを聞き出すチャンスだが、まずはヴァングレイの修理とヤマトの奪還、そして火星の後継者の打倒を考えなければならない。

「ソウジ、チトセ!!大丈夫か!?」

キンケドゥのスカルハートが中破同然の状態のヴァングレイとの接触回線を開く。

右足と左足はフレームそのものの交換が必要で、レールガン以外の全武装も総入れ替えしなければならない。

内部のセンサーにも不具合が生じており、ナインが用意した予備パーツでどこまで復旧できるかは不透明だ。

スカルハートに連れられ、ヴァングレイはナデシコBへ帰投した。

 

-プトレマイオス2改 ブリーフィングルーム-

「結局、手掛かりはガーディム、そしてグーリーという名前だけか」

「任務って言葉があったから、命令した人がいるよ。どんな人なのかはわからないけど…」

ノーマルスーツ姿のままのキラとアスランは互いに今戦ったガーディムについて会話する。

モニターにはナインが送ってくれたプラーマグの映像、そして想定されるスペックが表示されていた。

「戦い方はスピード重視。荒々しく見えて、隕石群の中を最大戦速で移動できる精密さまである…。人間技とは思えないが…」

スーパーコーディネイターやイノベイターでないと、そのような芸当をするのは難しく、一般の兵士がそんなことをやっていたら、隕石に自分からぶつかって爆散するのが関の山だ。

今、2人がこれを見ているのはナインからの依頼で、彼の動きから弱点を見出そうとしている。

「加速力も機動性もヴァングレイをはるかに超えている。だが、火力についてはヴァングレイが有利で、戦い方については対照的だ」

「それをどうやって結びつけるか…だね」

 

-ナデシコB 格納庫-

「にしても、いまだに信じられませんよ。あのヤマトが火星の後継者の手に落ちるなんて…」

「もしかして、例のボソンジャンプ戦術にやられた…とか?」

コスモゼロやスカルハートと共に収容されたソウジとチトセは古代と森、そしてキンケドゥにヤマトのことを詰問する。

ヤマトがアマテラスにあることは分かったが、問題はどうして彼らの手に落ちてしまったかだ。

沖田艦長がいて、キンケドゥも一緒にいる。

コスモファルコン隊も生きているため、めったなことではやられないはずだ。

「それもある。実際、スカルハートも損傷して、今あるのはそれを改修したものだ」

「だが、もっと重大な、ヤマトが対抗できない理由がもう1つあった」

「それは…」

どういう意味か、尋ねてくるトビア達に古代はこれを話せばいいのか一瞬迷ってしまう。

これからヤマトを共に取り戻しに動く仲間たちにこれ以上不安要素を与えるようなことがあっては、次の作戦の成功率が落ちることにもなりかねない。

だが、森やキンケドゥ、ベルナデットと共に仲間たちに託されてここまで来た以上、そしてヤマトを探してくれたソウジ達に報いなければならない。

「…沖田艦長が倒れられた」

「嘘…!!」

「グリーゼでの戦いの後から体調が悪いという話は聞いていたが…」

その時の戦いで熱中症となって、一時医務室ではその治療のために兵士が殺到したという話はソウジ達全員が知っている。

それで沖田が体調を悪くしたとしても不思議ではない。

「転移の影響も大きいと思われます。火星の後継者の部隊に包囲された時点で、緊急手術が必要な状態でした」

「事態を重く見た真田副長は抵抗を辞めて、火星の後継者の指示に従うことを決めたんだ」

「けど、奴らはテロリストですよ!?」

彼らの指示に従ったとしても、その先にどんな運命が待っているのかは日の目を見るよりも明らかだ。

火星の後継者の悪行を知っているトビアは沖田を救うためとはいえ、そんな決断に納得することができなかった。

「落ち着け、トビア。銃を突き付けて協力を迫る連中を俺たちだって最初から信用していなかったさ」

投降を決断した後で、火星の後継者の兵士たちがヤマトの第一艦橋に入ってきて最初にやってきたことがまさにそれだった。

その兵士たちの中にはあの草壁もいて、彼はこの世界のために協力してほしいと言ってきた。

その代わり、アマテラスで沖田の手術をしてもいい、という取引という形でだ。

だが、彼の言っていることと兵士たちの脅しは明らかに矛盾しており、どんなにきれいごとを言っても、彼らの本質がテロリストと変わりないことは明らかだ。

「転移の影響でヤマトもかなりのダメージを負っていたんだ。とにかく、時間を稼ぐ必要があった…」

アマテラスに連行された後は沖田の手術を行いつつ、火星の後継者の監視の下でヤマトの修理を行った。

監視の目は厳しかったが、榎本ら整備兵らが夜を徹して、彼らの目を盗む形でスカルハートとコスモゼロの修理をしてくれた。

意外だったのは、EX178の生き残りのザルツ人たちやエリンも協力してくれたことだ。

転移して別世界に来てしまい、そこから元の世界へ帰るために、なし崩しな形であるとはいえ、彼らの力も借りられたことで想定よりも早く作業を進めることができた。

竜馬のゲッター1については修理自体不可能で、アールヤブ達との戦いで大きな損傷をしたことからそのままにされており、今もアマテラスでヤマトと共にいる。

「ヤマトを接収した火星の後継者はそれを自軍の戦力にしようとは考えなかったのですか?」

ソウジからヤマトのことをいろいろ聞いているスメラギが火星の後継者の立場なら、ぜひともヤマトを戦力として組み込みたいと考える。

ヤマトだけでなく、ヤマトが搭載している機動兵器も込みでだ。

特にスカルハートが積んでいる核融合炉はNジャマーキャンセラーなしでも動かすことのできる核で、その技術を彼らの中でだけで独占することもできる。

「そうなることを想定していた副長は機関長と打ち合わせて、ヤマトのダメージを実際よりも深刻に報告したんです」

ヤマトは地球を救うためのもので、それをテロリストの道具にするわけにはいかない。

草壁らとの交渉では真田が専門知識をフルに活用して、専門家でなければ何一つわからないような説明で煙撒いていた。

その時に厄介だったのは科学者である山崎という男をどう突破するかだった。

そこでそうした理屈では難しい相手への相手を務めたのは徳川と竜馬で、下手に触れば周辺施設ごと木っ端みじんにすると脅し、こっそり近づこうとした兵士に対しては竜馬が鉄拳制裁を加えた。

「口では修理が完了したら協力すると言っているから、向こうとしては手出しができず、結局ヤマトは腫れものを触るような扱いで監禁されたんだ」

資材については火星の後継者から提供されたものを使い、艦内の万能工作機を使って修復した。

波動エンジンについては無事だったため、専用の資材を使う必要がなかったのは不幸中の幸いだ。

「なお、艦長の手術は完了し、経過も良好です。先日、復帰されました」

「となると…ここから反抗作戦の開始ということだな」

「でも、大丈夫なんスか?戦術長達が脱走したことで、ヤマトが怪しまれるんじゃ…」

「それについては問題ない」

「僕たちはヤマトを乗っ取ろうとして反乱を起こした…反乱分子って役どころだ。それで、失敗して脱走したっていう体だ」

その計画はキンケドゥが発案し、真田が煮詰めたことで実行することができた。

驚いたのはその反乱ごっこの一環として、艦長に復帰したばかりの沖田に銃を突きつけることだ。

それをよりにもよって古代の役目にさせられ、芝居であるとはいえ彼に銃を向けることになったときは内心かなり緊張してしまい、脱走の時は思わず震えてしまった。

おまけに、反乱が失敗した体で逃げ出していたときには竜馬が機関銃を発砲してきた。

当たらないようにしてくれたとはいえ、すべて実弾で、背後から感じた殺気は今も忘れられない、

同時に、竜馬が敵にすると本当に凶暴な男だということを間近で感じ取った。

「アマテラスが騒がしくなっていたから、近くに地球連合軍がいると思ったけど、まさかトビア達がいたなんて…」

「俺たちも、いろいろあったんだ。その話をしたいところだけど…」

というよりも、今すぐでもベルナデットと2人きりになりたいとさえ思っているトビアだが、今はそれを許してくれる状況ではない。

こちらを攻撃していた部隊が全滅した以上、アマテラスがこちらに気付いている可能性が高い。

「ヤマトがアマテラスにいる以上、本部を移動させることはないでしょうが、周囲の部隊を呼び寄せる可能性があります。下手をすれば、火星の後継者の全部隊と戦う可能性もあるでしょう」

ガーディムとの戦いで物資を消耗した状態で戦うことになるため、そこから火星の後継者の全戦力と戦うとなると、さすがに今の部隊では勝てる可能性が低くなる。

ここからは時間の勝負となり、そのために整備兵たちも総動員で機動兵器の整備にあたっている。

「なら…」

「こちらも、奥の手を使うしかありませんね」

少しでも勝算を得られるよう、残ったカードは例のロンゲから受け取ったプレゼントと、それを使うことになる万丈だ。

使いこなせる可能性は低いが、それでもやるしかない。

「アマテラス作戦については、こちらでも作戦を用意しています」

「作戦…?」

「そのために、私も彼らと共に行動したのです」

森こそがヤマト脱出のための勝利の鍵、勝利の女神となる。

だからこそ、危険な芝居までして古代と共にここまでやって来た。

 

-ヴァングレイ コックピット-

「キャップ…」

古代達が部屋に戻り、かすかな休息を楽しむ中で、ソウジら3人はヴァングレイのコックピットの中に入った。

今は整備兵たちがヴァングレイの修理を急ピッチで進めている。

幸い、宇宙へ出る前に青戸工場でヴァングレイの予備パーツを作っておいたことで、修理そのものは間に合い、本来の武装であるポジトロンカノンも戻ってくる。

更に今はナインから提供されたプランによってヴァングレイには新装備がされており、次の戦いではヴァングレイも要となるようだ。

けたたましい音が外で響いているにもかかわらず、ヴァングレイのコックピットには外からの音は入ってこない。

「お話って、なんですか?」

ソウジに呼ばれてきたナインはなぜ彼がここへ呼んだのかわからず、首をかしげる。

普通に話をするならどこでもよく、ソウジかチトセの部屋で話しても問題ないように思える。

ただ、ソウジは普段とは違う真面目は表情を見せており、普通の話ではないことだけはわかる。

「ナイン、悪かったな…」

「え…?」

「秘密を持っている奴なら、気になるのは当然のことだよな。せっかく忠告してくれたのに、頭ごなしに否定するのはどうかと思ってな…そういうわけで、ごめんな。ナイン」

笑みを浮かべ、謝罪するソウジを見たナインは目を潤ませる。

今にも泣きそうな顔を見せる彼女にさすがのソウジも慌て始める。

「どうしたのんだよ、ナイン!?」

「私…嫌われたのかと思って、それで…」

「大丈夫よ、ナイン。私もソウジさんも、あなたを嫌うわけないじゃない。一緒の戦う仲間なんだから」

「姉さん…キャップ…」

チトセの言葉を肯定するように、ナインは首を縦に振る。

その姿は外見年齢相応の幼い少女そのものだった。

「むしろ、俺がチトセちゃんとナインに愛想尽かされないかひやひやしてんだぜ?」

「そんなこと…ありませんよ。でも、せっかくだから聞かせてください。キャップの秘密を…」

元の無表情へと戻ったナインの質問にソウジは後頭部をかく。

後ろのチトセも気になっているように、じっと視線が向けられており、彼に逃げ場はない。

「秘密…といっても、大したものじゃない。俺の生き方の根っこみたいなものだからな」

「もしかして、グーリーに怒った理由もそれにあるのですか?」

「鋭いな…。チトセちゃんは知っていると思うが、俺のいた部隊、月面25部隊はメ号作戦で全滅して、俺だけが生き延びた。今でも見る…あの時の戦いの夢を…」

勝ち目のないモビルスーツで出撃し、死角をつかれてメランカやツヴァルケに撃墜されるか、戦艦の圧倒的な火力に焼かれるかの末路を仲間たちがたどっていく。

そして、彼らの断末魔が容赦なく通信機に響き、ソウジの脳に焼き付く。

その声はいつしか、1人生き残ったソウジへの憎しみの声へと変化していった。

「ソウジさん…」

「戦争なんだ。誰かを恨んだり、憎んだりしているわけじゃねえが、あの時、もっと生きたいを願って死んでいった奴らのことを考えると、命を軽く扱うあいつのことが許せなくなった」

「…ごめんなさい。キャップ。悲しいことを思い出させてしまって…」

「気にするな。もう済んだことだしよ。…だから、俺は生きたい。生きることを全力で楽しみたい。死んでいった奴らの分も…。だから、2人とも、力を貸してくれ。俺が生き延びるためにも、誰かの命が無残に散らないためにも…頼む」

「ソウジさん…はい!!」

「分かりました、キャップ」

このような話を聞いた以上は、答えるしかないと2人は首を縦に振る。

そんな2人を見たソウジは安心したかのように笑みを浮かべた。

「けど…キャップ、なぜこんなことを私たちに教えてくれたのですか?」

「お前らは身内だからだよ。俺の大切な…」

 

-ナデシコB 艦橋-

「アキトさんと思われる人物からの追加情報…一体どんなものが…」

戦闘終了とほぼ同時に届いた暗号通信をハーリーがオモイカネと共に解析する。

彼の後ろには古代やスメラギ、テレサといった指揮官の面々が集まっている。

火星の後継者を追うアキトからもたらされた情報といえば、アマテラスのものの可能性が高い。

解析が終わると同時に、モニターにはアマテラスとその正面に浮かぶ未確認の巨大な戦艦が表示される。

「これは…!?」

「馬鹿な…なぜ、この戦艦がここにある!?」

最初に見たテレサは驚きの余り口を手で隠し、カリーニンは立ち尽くす。

スメラギとルリも、このような戦艦は見たことがなく、火星の後継者の隠し玉をただ見ることしかできない。

500メートル近い全長を持ち、全幅だけでも350メートル近くある、2つのコンテナを左右にとりつけたような形の巨大な戦艦。

この戦艦は古代と森もよく知っていて、軍学校で学ぶ戦艦学の授業では必ず出てくる、ジオン公国が作り出した宇宙空母という名前の要塞。

「古代君…これは…」

「間違いない。あれは…ドロスだ」




機体名:ブラーマグ
形式番号:不明
建造:ガーディム
全高:26.3メートル
全備重量:68.1トン
武装:サイド・インパルサー×2、メーザー・スライサー×2
主なパイロット:グーリー・タータ・ガルブラズ

ガーディムが所有する機動兵器。
主な機関であるアールヤブの胴体を転用し、それ以外を専用のパーツに換装したもので、プラーマグを大きく上回る機動性と運動性を発揮する。
両腕部にはビーム砲とビームサーベルの2つの機能を持つサイド・インパルサーが装備されており、ビームの初速や連射性能はアールヤブの主砲を上回っているが、その代わりに火力そのものは強化されていない(ただし、アールヤブとの連結機能は健在であるため、連結したうえでならば、大出力のビームも発射可能)。
手足がついていることから、人型機動兵器には見えるものの、あくまでもガーディムではそれらをそれぞれビーム砲、スラスターの機能として割り切っている。
現状確認できるガーディム唯一の人間であるグーリー・タータ・ガルブラズが搭乗し、ヴァングレイを上回る運動性と機動性によって一時は圧倒している。
そのため、ヴァングレイには早急な強化と対抗するためのコンバットパターン構築が求められることになった。

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