スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第41話 火星への支度

-コロニー アマテラス宙域 ヤマト 格納庫-

「よし…アーム・スレイヴ及びモビルスーツ、パラメイル…データ入力完了だ」

一通りのデータを撃ち込み終えた真田は久々の真っ当な職務をしたことによる充実と共に久々な疲れを感じ、背もたれに身を任せる。

「お疲れ様です、真田さん」

「いや、君の助けもあったおかげで早く済んだよ。キラ・ヤマト君」

「僕はそんなに…それにしても、すごいですよね。万能工作機っていうのは。データを入れておけば、どんなものでも作れるなんて…」

真田と共に、万能工作機にデータを入れていたキラは目の前にある巨大なオレンジ色の球体型端末とそれに連動するように取り付けられている大型コンピュータを見る。

万能工作機はソレスタルビーイングもプラントもまだまだ理論上の産物でしかない。

かつてのジョージ・グレンもそれの開発を行っていたが、理論が出来上がる前に亡くなっている。

おそらく自分が生きている間でもできることがないだろうというものを見ることができたことに喜ぶとともに、世界による技術力の違いというものを痛感する。

「いや、実を言うと万能工作機というのは地球のものではない。波動エンジンと同じで、別の星からもたらされたものだ。どのようにして作るのかまでは知らない」

かつて、世界で初めて火を手に入れた人間は少しずつそれの使い方を学んでいき、その知識を次世代へとつないでいった。

それによって今の人間は火を使いこなすことができるようになった。

この万能工作機を火と例えるなら、今の真田をはじめとする人間はその火を手にしたばかりの人間と言えるだろう。

「物資は火星の後継者が集めていたものがアマテラスに残っていましたし、ドロスにも…」

「どうせテロリストが集めた汚れた資材だ。好きに使わせてもらおう」

さっそく万能工作機が火星の後継者の資材を利用して、まずはジュドーらガンダムチームのモビルスーツ、及びミスリルの補修パーツと武装を作り始める。

真田の言葉にキラは3年前のデブリ帯での出来事を思い出す。

そのころ、彼が乗っていたアークエンジェルは補給の失敗により、深刻な水不足に陥っていた。

飲み水、トイレ、部品洗浄、そのすべてに制限がかけられるうえ、クルーの大半が正規ではなく、民間人や元技術士官の艦長といった寄せ集め同然の烏合の衆といった状態で、このままでは地球へ向かうことさえできない状態になっていた。

そこで、唯一の正規パイロットであり、今はオーブで暮らしているムウ・ラ・フラガの提案により、デブリ帯にある氷を拝借することとなった。

しかし、デブリ帯は戦争のきっかけの一つとなった血のバレンタイン事件で崩壊したコロニー、ユニウスセブンの亡骸。

ブルーコスモスの息がかかったユニオンの核攻撃によって崩壊したそこには埋葬されることなく、凍り付いて朽ちていくのを待つだけの20万以上の遺体も漂っていた。

墓荒らしのような所業で、一部のクルーからの反発はあったものの、生きている人間を最優先にすべきという彼の説得によって、実行されることになった。

現在はマルキオ導師及び現プラント最高評議会議長であるラクス主導により、遺体の回収及び火葬する事業がされている。

「しかし…やはりゲッター1やグレートマジンガーの補修パーツまでは不可能だ。今ある資材でも、まともな修理すらできない」

どちらもこの世界の機動兵器ではなかったようで、先ほど改めて2機の装甲の解析をルリと共に行った。

その結果、出てきたのはこの世界にもヤマトがある世界にもない素材で作られているというものだ。

グレートマジンガーのものについては純粋な金属であるからまだいい。

問題はゲッター1で、ゲッター合金は従来ではありえない成分が含まれていた。

おそらくそれは竜馬の言うとおりであればゲッター線からもたらされたものと言えるかもしれない。

ゲッター1のすべてのデータを抜いて、そこから調べようともしたが、重要なところは非常に強固なロックがかけられており、ナインもオモイカネも、キラでさえもお手上げな状態だ。

「グレートマジンガーはともかく、ゲッター1については出撃不能というほかあるまい」

2機についてはともかく、他の機体及び戦艦はこれで整備と補給を済ませることができる。

残された時間を逆算しつつ、真田は引き続きデータ更新と工作を開始した。

 

-プトレマイオス2改 ブリーフィングルーム-

「これが、アキトが集めた火星にある奴らの本拠地のデータです」

万丈はアキトから受け取ったデータをモニターに表示し、そこにある赤い荒野の地下へと運び込まれる機動兵器の姿が映っていた。

積尸気以外にも、GN-Xやアヘッドなどの機動兵器も格納されている。

「拠点の兵力は機動兵器だけで30機以上。そして、拠点防衛にはゲルズゲーとザムザザーが2機ずつ。更に…」

もう1枚の画像を表示した瞬間、スメラギは眉を顰める。

ロゴスが作り出し、エクステンデッドに操縦させ、ベルリンを含めて多くの都市を罪のない一般市民諸共焼き尽くした悪魔の機動兵器。

シンにとっては、守りたいと思っていた少女であるステラを奪った機体であり、キラとの血みどろの戦いのきっかけとなった因縁ある相手だ。

「デストロイガンダム…」

「そうです。ロゴスが崩壊し、連合軍に残されたデストロイは倫理に反する兵器であることからすべて解体され、データ及びパーツもすべて抹消されたはずです。ですが、残存していたものもありました」

それらの行為はすべてマネキンと御統大将の立ち合いのもとで行われた。

記録上は確かにすべて抹消されたとあるが、当然見えないところもある。

その証拠として、現に火星にデストロイの一機がある。

「デストロイは確かに圧倒的な火力と陽電子リフレクターによる防御力を誇る機動兵器。けれど、もうすでに対策手段はある」

ヘブンズベース戦およびダイダロス基地戦でそれは立証されており、懐に飛び込んだうえでのGNソードやビームサーベルでの攻撃に致命的な弱さを持っている。

あの火力をかいくぐれば、必ず勝機はある。

「補給はあと5時間で完了します。そこからアキトさんのボソンジャンプで火星へ向かいます」

「頼むわよ。ここで火星の後継者を倒して、私たちは戦うべき相手の正体を突き止める」

(そして、ユリカさんを救い出して…けれど…)

確かに、火星の後継者を倒せば今の混乱は収束するだろう。

そして、火星にいるユリカを救うことができるかもしれない。

すでに変わってしまったアキトのことを別にすれば。

ルリの脳裏に、3人で過ごした日々の光景がよみがえる。

あの時は確かに手狭なアパートでの生活で、屋台ラーメンを引っ張る日々だったが、確かに幸せだった。

その幸せはもう取り戻すことはできないのか。

答えは見つからないままだ。

 

-ヤマト 格納庫-

「おい!!ヴァングレイのポジトロンカノン、さっさとつなげろ!!」

「ハヤブサの推進剤、補給されていないじゃねえか!誰だ、補給完了したといったやつは!!」

「オーライ、オーライ!!よし、慎重に卸せよ!!」

格納庫では整備兵の怒号と作業音がけたたましく響き、静かな場所などどこにも存在しない。

「…」

そんな中で、ヴァングレイのコックピットに座るナインは目を閉じたままで、外での喧噪などどこ吹く風だ。

コックピットのみが起動している状態で、モニターにはモビルスーツの設計図や素材の元素記号などが次々と表示されていて、ナインが目を開けたと同時にシャットダウンした。

「どうかな…ナイン」

コックピットが開き、ナインが出てくるのが見えたトビアはナインに水筒を手渡す。

それを受け取ったナインはトビアから受けた依頼の結果を口にする。

「アムロ大尉とジュドーさんから受け取ったデータ、そしてクロスボーン・ガンダムと彼らのモビルスーツの比較調査の結果、やはりというべきですが、100年前のものとは別物という結論が出ました」

「やはり、そうか…」

クロスボーン・ガンダムはサナリィ製で、νガンダムとZZガンダムをはじめとしたものはアナハイム製といった、企業での差異はあるものの、根本的に技術が異なるというわけではない。

別物であることを示す証拠の一つとしては核融合炉があげられる。

確かに大きさではクロスボーンの方がモビルスーツの小型化の影響によって小さくはなっているが、出力面では双方ほぼ互角といえる。

設計データはヤマトのデータバンクに残っている100年前のものとは近いものの、それよりも大幅に完成度や効率が上回っているといってもいい。

「じゃあ、トビア達の世界の過去に俺たちの世界のモビルスーツが存在したのは偶然の一致なのか?」

「それにしてはできすぎていると思うけど…」

名前と姿は同じだが、中身は別物とはいえ、ジュドーのいうとおりにそれが偶然の一致と片付けることはハサウェイにはできなかった。

先ほど、ヤマトのデータバンクを調べて、100年前のモビルスーツのデータをアムロと一緒に確認した。

ガンダム、ジム、ザクⅡ、ジーライン、ネモ、Zガンダム、リック・ディアス、キュベレイ、ギラ・ドーガ、ジェガン。

いずれもすべて自分たちの世界に存在する、もしくはしていたモビルスーツの名前と姿ばかりだ。

「操縦系統も同じだ。場合によっては乗り換えることもできることはわかった。だが、これを偶然の一致とするのは乱暴だろう」

「我々から見たら、今のアムロ大尉たちのモビルスーツは100年前のものを今の私たちの技術でリメイクしたもの、もしくはそれ以上といえるでしょう」

そこで新見が疑問に思うのは技術のレベルや構造があまりにも似すぎているというところだ。

今の世界にも確かにモビルスーツは存在するが、操縦系統も素材も何もかもが別物同然だ。

何か自分たちの世界とアムロ達の世界に深いつながりがある、そう思わずにはいられない。

「なお、こちらの世界ではすでに廃れたサイコミュシステムなどについてはさらに精錬されたものとなっています」

「確か、かなめさんはZZガンダムやΞガンダムはX1よりも前の世代の技術に影響を受けている…みたいなことを言っていました」

サイコフレームやバイオセンサーの技術を見ると、確かにそのかなめの推測は当たっている可能性がある。

彼女は適当に言っただけなどと言っているが、新見達にとってはそれにしてはあまりにも勘が良すぎるように思えた。

「トゥアハー・デ・ダナンの戦術アドバイザー、千鳥かなめ…とてもそのポジションにいるような人とは思えませんが…」

「それもそうだな」

「そういえば、どうして普通の高校生であるかなめさんがトゥアハー・デ・ダナンに乗っているのか、聞いたことないや」

Ξガンダムと共に地球へ降下し、彼らと行動を共にしてからある程度時間は立っているが、ハサウェイには彼らについて知らないことが多すぎる。

かなめのこと、ラムダ・ドライバのこと、ミスリルのこと。

前にテレサにそのことを聞こうとしたが、マデューカスにさえぎられたり、カリーニンから急に命令される形で邪魔された。

「その問題は今はおいておこう。あとが…火星の後継者と決着をつけてからだ」

「ありがとう、ナイン。これで気持ちもすっきりした状態で決戦に臨めるよ」

「いえ、私は大したことなんて…。けど、トビアさん。私は…」

受け取りはしたものの、ナインは手に持っている水筒に首をかしげる。

「…ああ、そうだった!ごめんごめん。ナインがアンドロイドってこと、すっかり忘れていたよ」

「いえ、別に謝るようなことでは…」

ナイン自身、飲めないことはわかっていながらどうして彼から水筒を受け取ったのかわからない。

唯一わかるのが、その小さなことがうれしいと思えたことだ。

「しかし、トビアの世界の100年前にも俺たちのガンダムがあったなんてな」

「そうよ、どうして言ってくれなかったの?」

そのことをもっと早く話してくれたらと思い、トビアらしくないだんまりにルーは疑問を浮かべる。

黙っていても、ルーからしてみれば、トビアやジュドー達にとって特に問題のないことだ。

「ええっと、まぁ変なことを言って、混乱させてはいけないから…」

「並行世界間の同一人物、そこの俺もアクシズの戦いで行方不明になったのか…」

因縁の相手であるシャアと激闘を繰り広げ、地球へ落ちようとしていたアクシズをサイコ・フレームの力で軌道を変化させた。

その出来事も、行方不明になったことも同じ。

違いがあるとしたら、今のアムロはこの世界にνガンダム共々飛ばされていて、数奇なめぐりあわせで再びジュドーらと再会できたことだ。

ヤマトの格納庫に収容されたνガンダムは現在、黒焦げになって使い物にならなくなった装甲が取り払われ、万能工作機で作り上げた新しいものに換装されつつある。

重力下での戦闘になることを考慮されて、バックパックにはフィン・ファンネルは装備されない代わりに予備のハイパーメガランチャーが装備されている。

「アムロさんは歴史に名を残すようなエースパイロットだから、そうやって伝説が残っているけれど、きっと、僕の同一人物なんか、100年後には記録にすら残っていないだろうな…」

今のハサウェイは死んだクェスの幻影に苦しみながら、Ξガンダムのテストパイロットをやっている状態だ。

そして、仮に戦争が終われば、戦いから身を引いて植物の勉強と研究をしようと考えている。

データバンクには確かに彼の父親であるブライト・ノアと母親である八島ミライ、ホワイトベースやアーガマ、ラー・カイラムは存在するだろう。

仮にのるとしても、親の七光りでのるだけの存在。

別にそれはハサウェイにとってはどうでもいいことだが、どこか寂しさを感じた。

「う、うん…そう、かもね、ハサウェイ」

「さりげなく傷つくことを言うね。トビア」

「ごめん!ごめん!」

「せっかくだから、トビアの世界の100年前の歴史を教えてくれよ」

「そうだね。もしかしたら、あたしたちの世界の未来のことが少しでもわかるかもしれないし」

すっかり、話題は自分たちの世界の100年前の話へと移っていく。

それがトビアが話すことができなかった理由の一つだ。

第2次ネオジオン戦争のあと、空白の10年という何が起こったのかすらわからない状況があり、そこからさらに100年後にコスモ・バビロニア建国戦争や木星戦役、おまけにガミラスとの戦争が起こっている。

ただ、一つ言えることはハサウェイにとっては望まない結末の1つがその歴史になかにあったということだ。

「やめておけ、話はそこまでにしよう」

助け舟を出すように、キンケドゥが口を挟む。

「なんでだよ?少しくらいいいじゃんか、キンケドゥさん!」

「知ってしまったことで、縛られてしまうのもつまらないだろう?」

「それも、そうか…」

「それに彼らの世界の100年前の海は青かったそうだから、同一人物ではあるが、俺たちの世界とは別の違う歴史を歩んでいるだろう」

その決定的な違いがある以上、たとえ同一人物であっても違う道を歩んでいてもおかしくない。

現にアムロ自身がソウジ達の歴史の中では行方不明のまま終わっていて、ここにいるアムロは無事とはいいがたいが、奇妙な偶然の連続で仲間たちと再会した。

その事実がある以上、知ったとしても何も意味がないことだ。

「あ!!そういえば、ヤマトで見た残骸…真っ黒になってるけど、あれってゲッターロボだよな!?」

「あ、ああ…」

「すげえ…でも、なんでそんなのがあるんだよ??」

「ゲッターロボを知ってるの?」

「知ってるも何も、ゲッターロボは1年戦争よりも前に作られたロボットだぜ!?」

「俺たちの世界では、モビルスーツを開発される前はああいったロボットが主流だったんだ」

アムロたちがいる世界では、戦艦と大型人型ロボットとの連携による戦闘が主流だった。

1年戦争から現れるモビルスーツと比較すると性能は高いものの、その分パイロットへの負担も大きく、OSも単純なものだった。

さらには集団での戦闘を想定した設計をされていなかったため、軽快な動きが可能なモビルスーツの小隊単位による連携攻撃によって敗れることになり、大型人型ロボットは徐々に戦場から姿を消していった。

しかし、それがすべて消えていったわけではなく、少数ではあるが、連邦軍以外で使用されている例は今も存在するという。

「ゲッターロボはかつて流竜馬が乗っていたロボットで、月面戦争でインベーダーと戦っていた」

「インベーダー…流が戦っていた…」

真田は竜馬を尋問していた時のことを思い出す。

インベーダーは自分たちの世界には本来存在しないため、彼とアムロの言葉が正しければ、アムロ達の世界にインベーダーがいることになる。

そして、月面戦争が起こったのは1年戦争よりも前。

「あの男が流竜馬なのか…?」

「知ってるんですか?アムロ大尉」

「ああ…インベーダーとの戦いは俺が子供のころに起こったもの。そして、流竜馬はその戦いでゲッターロボとともに活躍した伝説のパイロット」

「だとしたら、全然年齢が合わないじゃないですか!?」

月面戦争が起こったのは19年前で、1年戦争が起こったのはその2年後である17年前。

だとしたら、今の竜馬は40代の中年男性になっているはずだ。

しかし、ここにいる竜馬は20代の若い男で、とても年齢計算が合わない。

「これまたよく似た平行世界の竜馬さん…でいいのか?」

記録上、竜馬はとある事件が原因で行方不明となっており、MIA認定されている。

ここにいるアムロのように別世界で生きていたなんて偶然はさすがに2度もないだろう。

おまけに仮にそうだとしたら、彼は次元だけでなく時間までも飛び越えたことになってしまう。

「ここに集まった人たちのそれぞれの世界の関係性…なかなか興味深いですね」

「問題が解決したら、じっくりと聞き取り調査をしてみたいところだ」

アマテラスでは監視を受け続けた反動と目の前に現れた知的好奇心をくすぐる人々と機動兵器に新見と真田の心が躍る。

だが、その前に火星の後継者との戦いがある。

それを終えてからの楽しみだ。

「俺、聞きたいな。ジュドー達の世界のことを」

一部を除いて、自分の世界の話をしたトビアは今度はバトンをジュドー達に渡す。

受け取りはしたジュドーとハサウェイだが、その表情は聞いたいた時とはまるで違う、ナーバスなものになっていた。

「…あんまり、楽しい話じゃないぜ?」

「赤い海のこと…地球と宇宙のこと…」

「そこまでだ。まずは火星の後継者との闘いに集中するぞ」

「別の世界のことだからといって、他人事だと思うなよ?」

「わかってるって。テロリストを放っておくわけにはいかないからな!」

成り行きでアマテラスにきて、火星の後継者と戦ったものの、アキトをはじめとした彼らのテロで苦しんでいる人々を見た以上、放っておくわけにはいかない。

現に彼らを止めるだけの力を持っているのだから。

「世界を変えるのだとしても、やっていけないことがあるんだ…。それがわからない連中を放っておくわけにはいかない」

ハサウェイにとって、火星の後継者はアクシズを地球へ落したシャアのネオ・ジオンと同じように見えた。

口ではスペースノイドのため、人類のためなどといいながら、やっていることは大量殺戮と何も変わらない。

そんな間違った行いを間違っていると気づいていない彼らを放っておくことはハサウェイにはできなかった。

そうなってしまうと、彼らと同じになってしまう気がしたから。

(俺の目の前にいるハサウェイは俺たちの世界のハサウェイとは違う。ここにいるのはマフティー・ナビーユ・エリンではなく、ハサウェイ・ノア…。それでいいんだ)

 

-火星の後継者 本拠地-

「そうか…アマテラスは落ち、新庄も討たれたか…」

伝令から訃報を受け取った草壁は目を閉じ、同胞の死を悼む。

手痛い犠牲を払うことにはなったが、それでも計画が根底から崩されたわけではない。

ボソンジャンプさえあれば、前線基地がなくても計画を遂行することができる。

「計画開始前にナデシコとソレスタルビーイングを倒し、ヤマトを手に入れることができる。前向きに受け止めるしかあるまいよ」

ヤマトの協力は得られないことは分かったが、それに備えてある程度ヤマトからデータを極秘裏に手に入れており、山崎が暗号通信でこちらへ送ってくれていた。

ヤマトとサイコフレーム。

この2つの技術を使えば、ボソンジャンプの精度を引き上げることができる。

「稼いで正面から奴らを打ち砕き、新たな秩序を打ち立てる…。古の文明が眠るこの極冠遺跡こそが古き秩序の墓標となるのだ…!」

 

-演算ユニット交信システム-

「ふっ…」

第一戦闘配備を伝える放送が流れ、構成員たちはそれぞれの機体に乗り込み、無人機の設定調整を行う。

その中で北辰は目の前にある交信ユニットを見つめる。

網目状の模様をした灰色の花というべきそのユニットには全裸の状態の長い髪の若い女性が一体化しており、銀色になって眠っている。

彼女こそがアキトが助けようとしている最愛の女性、御統ユリカだ。

「もうすぐお前の想い人が来る。復讐の鬼、極上の獲物として」

ユリカが知っているアキトとは思えないほど闇に落ちた、北辰にとってはこの上ない面白い存在。

ゲキ・ガンガーにあこがれていた無垢な彼が落ちていくさまは見ものだった。

そんな執念と闇を背負った追いかけてくる彼をユリカの目の前で殺す。

眠っている彼女はそんな彼の亡骸を見ることはなく、死んだことを知ることすらできない。

そんな絶望的な結末は愉悦ともいえる。

「フハハハハハハ!!御統ユリカ、お前はわれらと演算ユニットをつなぐ細く、そして唯一無二の存在。決して、奴に渡すわけにはいかん」

笑う北信の左目の義眼が怪しく光る。

「隊長、そろそろ…」

「うむ…さあ、天河アキトよ、貴様に新しい絶望を1つ受け付けてやろう。この義眼と新たな夜天光で…」

 

-火星 極冠遺跡周辺-

こちらへやってくるナデシコ達に備えて、基地から次々と機動兵器が出撃する。

基地内だけでなく、ほかに制圧したコロニーに駐屯している兵力すら集めた状態だ。

地表には赤く塗装されたコンプトン級1隻とレセップス級2隻を用意し、連合のモビルアーマーも出撃済みだ。

「いやぁ、地球がこんな大きなモビルアーマーを開発したと聞いた時は驚きましたよ。蟹に蜘蛛、ゲキ・ガンガーの敵役に出てもおかしくないデザインです」

山崎はメビウスやミストラルをはじめとしたモビルアーマーは3年前の大戦で、ザフトのジンに一方的にやられ、もはやモビルアーマーの時代は終わったといわれていた。

それを否定するかのように現れたそれらのモビルアーマーの性能はすでに証明済みだ。

軍縮の影響で廃棄予定だったものを連合内部のシンパから横流ししてもらい、解析が終わった以上はもう兵器としての価値しかない。

しっかり、ナデシコと戦うための戦力として利用するだけだ。

「北辰さん。どうです、義眼の調子は」

「サイコミュレンズ…悪いものではない。少し…頭がかゆく感じるが」

「まだまだ調整が必要ですねぇ。よろしければ、今すぐでもできますが」

「いいや、結構。まもなく奴が来る。今のあの男の相手ならこの程度で問題はない」

「ボース粒子反応あり、重力場のゆがみ発生!」

正面にゆがみとボース粒子が発生し、そこからナデシコを中心にトレミー、ヤマト、ダナン、マサァマイルドが姿を現す。

「広域ディストーションフィールド解除を確認しました。計算通り、ダナンも航行可能です」

地球よりも重力の影響の少ない火星であれば、ダナンを飛行させることも可能。

理論と計算のみでの答えで、実践もできていないぶっつけ本番だったが、計算通りダナンの飛行ができている。

「高度は下げないでください。我々はトマホークによる地上への攻撃で援護をします。発進を」

「ウルズチーム、およびΞガンダムは発進せよ!」

カタパルトからアーバレストをはじめとしたアーム・スレイブがパラシュートを装備した状態で射出される。

そして、そのあとでΞガンダムが出撃し、パラシュートを開いた4機の盾になるように前に出る。

ヤマトからはガンダム・チームとクロスボーンガンダム、ヴァングレイ、グレートマジンガーと航空隊が出撃し、トレミーからもザフトのガンダムとソレスタルビーイングのガンダム、パラメイル達が飛び立つ。

ナデシコもエステバリスの出撃準備が完了し、今は先発してブラックサレナがカタパルトに乗せられる。

「リアクトシステム同調完了…」

バイザーなしではぼやけた視界がリアクトシステムによって蘇り、網膜投影が開始される。

まもなく出撃しようという中で艦橋から通信が入る。

「ここまでありがとうございました、アキトさん。あとはご自由にどうぞ」

「そうさせてもらう」

あくまで協力するのは火星へのボソンジャンプのみ。

それが終わった以上はもうナデシコにいる理由はない。

今のアキトに見えているのはこの先にいるであろうユリカと北辰のみだ。

「天河アキト、ブラックサレナ、出る」

ブラックサレナが射出され、上空でスラスターを吹かせて正面から突き進む。

その中で、先発して出撃したダイターン3と通信がつながる。

「アキト。北辰との決着は任せる。だが…」

「そのあとのことは、今は考えない」

さらに速度を上げたブラックサレナはダイターン3から離れていった。

「アキト…あのバカ野郎が…!!」

続けてリョーコのエステバリスカスタムがカタパルトに乗せられるが、コックピットの中で出撃するアキトの機体を見つめるリョーコは悔しさのあまりこぶしを壁にたたきつける。

アマテラスで再会し、ここに来るまでの間、少しでも話をする時間はあった。

しかし、結局何も話すことができずにアキトを見送ることしかできない。

一人で格好をつけて、復讐鬼となって幸せも仲間も何もかもを捨てようとするアキトを許せなかったが、それ以上にそれを止めることができず、見ていることしかできない自分が何よりも許せない。

「リョーコ、アキト君のことは心配だけど、今は…」

「ああ、分かってるよ!今の俺たちにできることは…これくらいだからな」

北辰との決着をつけられるよう、その周囲の北辰衆を倒す。

それがアキトを救うことにはつながらないことはわかっているが、今の彼女たちにできることで思いつくのはそれだけだ。

「昴リョーコ、エステバリスカスタム、行くぜ!!」

リョーコを先頭に3機のエステバリスも出撃し、小隊を組んで進んでいく。

出撃が終わると、ルリはオープンチャンネルで火星の後継者たちに通信を送る。

「こちらは地球連合軍所属、独立ナデシコ部隊のナデシコB艦長、星野ルリ少佐です。私設武装組織、火星の後継者の皆さん。即時、武装を解除して我々の指示に従ってください」

軍人として、1度だけ助命のチャンスを与える。

しかし、その返答の代わりとしてザムザザーから発射されたと思われる大出力のビームが飛んできて、ディストーションフィールドが受け止める。

「奴ら…撃ってきたぞ!!」

「言葉は尽くした…あとは」

「やむをえません。火星の後継者を鎮圧します。攻撃を開始してください」

「ナデシコを沈めろ!!」

そのビームを皮切りに、両軍の攻撃が始まる。

一番前に出ているブラックサレナがハンドカノンでバッタを撃破していき、GN-Xをディストーションフィールドでの突撃攻撃でつぶしていく。

「まったく、自分たちが正しいというんなら、殺されても文句はないでしょう!?」

重力波砲をよけたヴィルキスがラツィーエルをマジンのコックピットを貫く、

たとえ相手が人間だとしても、テロリストである以上、そして自分や仲間が生きるためにはアンジュに容赦はなかった。

「アンジュとヒルダはフロントアタッカーを!ロザリー、クリス、敵機動兵器を戦艦に近づけさせないで!」

「わかってる!にしても…アマテラスのときといい今といい、あいつら…なんでこんなにジャカジャカ機動兵器を用意できんだよ!?」

外の世界に疎いメイルライダー達ですら、火星の後継者のいびつな編成がわかってしまう。

モビルスーツに小型兵器までならわかる。

連合も別系統の機動兵器を組み合わせた例がいくつもある。

しかし、木連に連合、ザフトだけでなく別世界の兵器までも用意している彼らの異質さには凍るような予感が感じられた。

一体彼らのバックに誰がついていて、ドロスといい各陣営の兵器といい供給しているのか。

 

-プトレマイオス2改 メディカルルーム-

「う…ん??な、に…??」

激しい戦闘の音が聞こえる中、一人昏々と眠り続けていたヴィヴィアンの目がゆっくりと開く。

体の傷は治っているが、長い時間体を動かしていなかったせいか、どこかなまっているような感じがする。

しかし、それ以上にヴィヴィアンが感じているのはエリアDでよく感じていた悪寒だ。

「伝えなきゃ…来ることを!!」

 

-火星 極冠遺跡周辺-

「はあああああ!!!」

デストロイが次々と発射する大出力のビームをわずかな隙間をくぐるようにして回避し、ビームライフルを連射する。

しかし、デストロイにはほかの連合製モビルアーマーと同じく陽電子リフレクターが搭載されていて、ビームだろうと実弾だろうと、重力波だろうとも無力化していく。

やはりこのデストロイは偽物ではなく、正真正銘の正式なもの。

攻撃してくるデストロイにシンの手が震える。

1年前の戦争で受けた心の傷を容赦なくえぐろうとしていた。

「けど…だけどぉ!!」

傷口を必死に抑えるように叫んだシンは左手にライフルを握り、右手のパルマフィオキーナを起動させる。

巨大な傘のような上半身の中に取り付き、コックピットのある腹部の向けて青いビームを打ち込んだ。

コックピットが破壊されたことでデストロイの動きが止まる。

「シン!!」

デスティニーに近づこうとした積尸気をビームブレイドで両断したルナマリアが通信をつなげる。

もしかしてデストロイと戦闘を行ったことで、彼の傷がよみがえってしまったのではないか。

そのことがルナマリアが懸念していることだった。

「…心配ないよ、ルナ。どうやら…あの機体はオートパイロットだったみたいだ。人は…乗ってない。だから…!?これは…」

「この反応って…!?」

急にジャミングされたかのように通信とレーダーに乱れが生じる。

それは火星の後継者も同様なようで、無人兵器はその影響で動きを止め、友人兵器もフレンドリーファイアを恐れてか銃撃を止める。

「これは…シンギュラー反応!?」

「嘘だろ?こんなところに…ドラゴンが出るってのかよ!?」

シンギュラーが開き、その中から30体近くのスクーナー級とガレオン級が飛び出してくる。

そして、火星の後継者と自軍の両方に向けてブレスによる攻撃を仕掛けてくる。

「くそ…!ドラゴンと火星の後継者の両方が相手かよ!!」

突然の乱入者にさすがのソウジも顔をゆがませる。

火星の赤い大地はいま、三つ巴の混沌とした戦場へと変貌しつつあった。




機体名:デストロイガンダム(火星の後継者仕様)
形式番号:GFAS-X1
建造:不明(パーツおよびデータはアドゥカーフ・メカノインダストリー社)
全高:78.44メートル
全備重量:619.03トン
武装:75mm自動近接防御システム「イーゲルシュテルン」×4、200mmエネルギー砲「ツォーンMk2」、1580mm複列位相エネルギー砲「スーパースキュラ」、両腕部飛行型ビーム砲「シュトゥルムファウスト」、MJ-1703 5連装スプリットビームガン、Mk.62 6連装多目的ミサイルランチャー、熱プラズマ複合砲「ネフェルテム503」×20、高エネルギー砲「アウフプラール・ドライツェーン」×4、陽電子リフレクタービームシールド「シュナイドシュッツSX1021」×3
主なパイロット:無し

かつて地球連合軍が運用していた巨大モビルスーツ。
単機での対要塞攻略・殲滅を主眼において開発されており、全身に破壊力のある武器を多数装備すると同時に、陽電子リフレクターとトランスフェイズ装甲による強固な防御力をも誇る。
それ故に大幅に複雑化した火器管制システムを持ち、コーディネイターですら操縦できない代物となっており、地球連合軍はエクステンデッドと呼ばれる強化人間を用いて運用していた。
ヨーロッパ地域で行った虐殺行為やヘブンズベース攻防戦でロゴス側が用いていたこともあり、アロウズのアヘッドと同様に地球連合軍の暗部の象徴として運用が打ち切られ、残余の機体とパーツはデータ共々抹消されたと思われたものの、火星の後継者が運用する機体が登場したことで、外部への流出した可能性が浮上している。
なお、火星の後継者が運用した機体についてはエクステンデッドが存在しないこともあり、自動操縦で運用されており、整備性向上のため、モビルスーツ形態は廃止されている。

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