スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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機体名:Ξガンダム
形式番号:RX-105
建造:アナハイム・エレクトロニクス社
全高:28.0メートル
全備重量:80.0トン
武装:ビームライフル、ビームサーベル×2、肩部メガ粒子砲×2、ファンネルミサイル、ミサイルランチャー(胸部、肩部、膝部)、シールド
主なパイロット:ハサウェイ・ノア

宇宙世紀世界におけるアナハイム・エレクトロニクス社が次世代型モビルスーツとして開発したもの。
ミノフスキー・クラフトを搭載していることから、長時間自由に大気圏内で飛行可能となっている。
機体頭部にはバイオセンサーを発展させたサイコミュブロックが搭載されており、それによって機体及びファンネルミサイルの制御を行う。
実弾兵装及びビーム兵装のいずれも高い出力と火力を持つことに成功した機体であり、それと引き換えに30メートル近い、大きさだけで見るとモビルアーマーともとられかねないほどのものとなっており、近年続いているモビルスーツの大型化複雑化の最高峰に至ったと言っても過言ではない。
本来であればロンド・ベルでテスト及び運用が行われる予定であったが、ロンド・ベルの同盟勢力といえるミスリルがとある組織との地上での戦いが激化したことから急遽ミスリル預かりとなり、テストパイロットとしてハサウェイ・ノアが指名された。
なお、νガンダムの次のガンダムであることにちなんでΞガンダムと名付けられている。
また、新正暦時代には宇宙世紀105年にこの機体がテロ組織であるマフティーで運用されており、アデレートにおける戦闘で大破・現地の地球連邦軍によって鹵獲されたのち消息不明との記録になっている。


第45話 死を待つ地球

-地球 ホンコンシティ ルオ商会極秘ドック-

「1番コンテナ、2番コンテナ搭載よし!」

「おい、そのモビルスーツの兵装も準備してるよな!?合流したとき、ありませんでしたじゃシャレにならねーぞ!?」

「おい、誰だ!?ここにドダイ置いたのは!!ここはモビルスーツを置くんだぞ!!」

グレーで塗装された、アンコウを模したフォルムの潜水艦、一年戦争時代にジオン公国軍が使用していた潜水艦マッドアングラー級に印も番号も記録されていないコンテナが運び込まれる。

作業員たちの荒っぽい声が響き渡る中、紫に近い黒のセミロングの髪をした、黒い上下に白いコートを重ね着した女性が釣った目でタブレット端末を介して搭載される荷物の確認を行い、その正面にはグレーの整った髪をした、黒い縁のあるメガネをかけた黒スーツの男性が立っている。

「ブリック、ミスリルがオーストラリア北部のカーペンタリアに降りるというわ。この積み荷の準備完了から現地到着までで、どの程度かかるかしら?」

「2日後には出港、香港からカーペンタリアまでの距離は5日の距離。あくまでも、その場所で待機することができれば、の話にはなりますが」

「そうね。けれど…オーストラリア。もう、故郷とは言えない場所ね…」

「ミシェルお嬢様、今は」

「分かっているわ。感傷に浸っている場合じゃないもの」

今の自分はミシェル・アベスカではなく、ミシェル・ルオ。

一年戦争初期のコロニー落としで、家族はシドニーと共に消えてしまった。

コロニー落としの未来をリタが教えてくれて、3人で力を合わせて人々に伝えたことで、多くの人の命を救い、一時は奇蹟の子供たちと称賛を浴びることになった。

だが、3人とも家族を救うことができず、仲良く孤児となってしまった。

その後は孤児院に入れられ、そこで過ごすものだと思われたが、地球連邦軍に目を付けられ、オーガスタ研究所に入れられることになった。

そこでは同じ境遇の子供たちが数多く収容されていて、今は亡き伝説のパイロットであるアムロ・レイのようなニュータイプを作り出すべく、強化人間の実験台にされていた。

だが、ゲッター線による地球汚染やセカンドインパクトによる大規模な災害が起こり、その復興に奔走せざるを得なくなったことで財政が火の車となり、目立った成果を上げることができていないオーガスタ研究所が閉鎖されることになった。

その結果、ヨナ達は着の身着のまま放り出されることになり、それからは3人で一時期ストリートチルドレンとしての生活を続けていたが、アストライア財団によって保護された。

ミシェルは勤勉を重ね、イギリスの名門大学を飛び級を果たすだけでなく、首席で卒業し、彼女の社会情報学と統計学の応用する能力をルオ商会の会長であるルオ・ウーミンに見込まれて、彼の養女となった。

そのツテでリタもルオ商会の保護を受けることができた。

できればヨナも呼びたいと考えていたが、ヨナは家族を守れなかったことへの後悔と、今では数少ない家族になってしまったミシェルとリタを守れる力がほしいと軍人になった。

そんな彼のために、立場を利用していろいろと便宜を図り、少々嫌がられた時期もある。

ミシェルはお母さんか、そういって嫌がりながらもまんざらでもない彼の顔を思い出すと、うっかりクスリと笑ってしまう。

だが、今回は彼だけのためではないのは確かだ。

「ヨナの言っていることが正しければ、アムロ・レイ大尉もいる。再び伝説のパイロットが1年の沈黙を破って帰ってくる。そして、シャア・アズナブルも…」

「アムロ・レイが生きていたということは、シャア・アズナブルも生きている可能性がある、と…?」

「あり得ない話ではないわ。現に、彼が証明してしまったもの。アクシズ・ショックからの1年がかりの生還ショーを」

ピリリリリ、と業務用の電話がミシェルのポケットの中で鳴り響く。

作業員の邪魔にならないよう、従業員用通路へ向かい、電話に出る。

「リタ、どうしたの?この時間は…」

「ミシェル、大変!!ヨナが…ヨナが、大変なことになっちゃう!!」

「ヨナが…分かったわ。すぐに私の部屋に来て!見せてもらうわよ…」

あの時はリタの手を握ったことで、彼女を介してコロニー落としが起こる未来を見ることができた。

リタが怖い未来を見たときはその時のように触れることでそれを見て、その怖さを共有した。

アストライア財団に保護されてからはリタ本人がそうした未来の光景を見ることが少なくなったが、最近になってまた見ることが増えてきた。

(あのアクシズ・ショックが関係しているというの…?リタ…ヨナ…)

 

-オーストラリア大陸 カーペンタリア湾上空-

ゴオオオオと激しく摩擦音が響き、それと同時に宇宙から降りてきたヤマトとナデシコB、トゥアハー・デ・ダナンが雲の中へと飛び込んでいく。

摩擦熱が赤く染まった下部の装甲がゆっくりと冷えていき、雲を抜けると下に広がるのは赤く染まった海。

その海は出迎えるのではなく、宇宙へ出ても争いを続ける愚かな人類をあざ笑っているかのようだった。

 

-プトレマイオス2改 展望室-

「ここが、カーペンタリア…」

「やっぱり、ここって私たちの世界じゃないのね」

シンとルナマリアの瞳に映る赤い海、廃墟と化した海岸沿いの町。

そこは自分たちの知っているカーペンタリアではなかった。

彼らの知るカーペンタリアは地球では数少ない親プラント国家である大洋州連合の領土であったが、カーペンタリア制圧戦で大西洋連邦艦隊を撃破したことで占領し、それからわずか48時間で完成させたギガフロートの浮かぶ海だ。

だが、別世界ということもあって、当然そこにはそんなギガフロートの痕跡もない。

「けど、考えてみたら俺たちの世界の地球も、一歩間違えたらここ以上のことになっていたのかもな」

「…そうね」

3年前の大戦でザフトが使ったジェネシスは本気で地球に撃とうとしていた。

終戦後に公開されたジェネシスの詳細によると、仮に一発でも地球にジェネシスが命中していた場合、強烈なエネルギー輻射と着弾時の衝撃、気象変動等の影響で地球上のすべての生物の少なくとも8割が死滅する可能性があったという。

そして、何よりもシンの心に突き刺さるのは1年前の大戦で使われたレクイエム。

ザフトはレクイエムをオーブ本土に向けて撃とうとした。

レクイエムはビーム砲で、ジェネシスはガンマ線レーザーという違いはあるが、人殺しのビームであることには変わりない。

撃たれたらどうなるかはもうすでに、地球連合軍が使った際に崩壊した6基のプラントが証明している。

一歩間違えたら、故郷であるオーブだけでなく、自分の憎しみとは関係のない人間まで大勢殺してしまっていた。

「シン…」

「大丈夫だ、ルナ。今はそんなことを考えている場合じゃないってことくらい、分かってる。それより、出発の準備をしようぜ。降りれるって話だから」

「うん…」

 

-クイーンズランド 海岸部-

カーペンタリア湾を面した地域、オーストラリアのクイーンズランド。

コロニー落としによって環境が激変しただけでは飽き足らず、ゲッター汚染やセカンドインパクト、おまけに最近ではジオンとの戦いもあって、そこには人の住んでいる気配すらない。

ダナンなどから出撃したドダイ改が出撃する。

海岸沿いでは、発煙筒を手にしている男性の姿があり、彼がそれを振ってドダイ改たちを誘導する。

出撃完了後、ダナンは周辺警戒に動くため、再び海へと潜った。

誘導に従ってドダイ改が下り、クルーゾーが発煙筒を振っていた男性に近づく。

黄土色の七三分けで口ひげを生やし、右目を眼帯で隠している彼は緑色のジャケットを身にまとい、背中にはドクロと稲妻が描かれている。

ドダイ改から最初に降りたクルーゾーが彼に近づき、発煙筒を手放した彼と握手を交わす。

「急な呼び出しにもかかわらず、誘導に感謝します」

「ま、あんたらには世話になってる。これくらいのことはしてやるさ」

「紹介しよう。彼はここの代表、ヴィッシュ・ドナヒューさんだ」

「初めまして…が大勢だな。ヴィッシュ・ドナヒューだ。事情はだいたい聞いている。異世界の…御客人だってことはな」

「信用するんすか?俺らのこと」

一介の民間人であり、こんなSFじみたこととは無縁であるはずの彼が完全に信じている様子にソウジは驚いてしまう。

しかも、この地域の代表者とはいえ、いろいろと事情を聞いている様子で、とてもただの民間人とは思えない。

「まぁ、17年前は軍人だったが、今ではごらんのとおり、10年以上ブランクのあるただの民間人だ。それで…どうかな?お前さん達から見た、この海は」

「いやぁ、宇宙から見た通り、真っ赤な海。こりゃまさに血の池地獄だ」

「不謹慎ですよ、三郎太さん」

「言ってたのはクルツだぜ。地獄にふさわしいらしいぜ、あの海…そして、このオーストラリアってのは」

「正解…だが、ここまでストレートに言われるとさすがに傷ついちまうな」

地球へ降り、改めて間近でこの海を見ると、血と見まごうほどの鮮やかな赤に染まっていた。

セカンドインパクトと赤い海の因果関係は未だにわかっておらず、分かっているのはその海は生物を殺すことだけだ。

実際、この海の中には生物は微生物も含めて一匹も生きていない。

おまけに、これもクルツから聞いたが、最近オーストラリアではジオンの動きも活発になっている。

連邦とジオンの戦いに巻き込まれて都市が破壊され、人々の多くはゲッター汚染が発生したときから引き続き、地下シェルターでの生活を余儀なくされている。

ヴィッシュが代表を務めるシェルターもその1つで、自力での生活が難しい状況であるため、現在はミスリルやロンド・ベルから定期的に送られてくる物資にも頼っている状態だ。

「まあ、海だけじゃあない。もう周りを見てくれても分かると思うが、都市もそうだ。オーストラリアだけじゃない。ほかの地域でも…。一番ひどいのはオーストラリアだが、もはやドングリの背比べといったところだ」

一年戦争後、デラーズ紛争によるザビ家滅亡で地球とジオンの戦いは終わったが、アースノイドとスペースノイドの憎しみあいは終わることがなかった。

ティターンズが生まれたのもジオンだけでなく、スペースノイドや地球連邦に不満を持つ勢力によるテロや紛争が頻発したことも大きい。

そして、ティターンズはその勢力を根本から絶つべく、30バンチ事件のように反地球連邦デモ鎮圧のために現地コロニー住民を皆殺しにするなど、民間人をも巻き込んで殺す強引なやり方を各地でとった。

彼らの言い分では、その住民もジオンや反地球連邦活動に協力していたためらしい。

それについてはヴィッシュも完全に否定しきれない。

実際、オーストラリアはコロニー落とし最大の被災地ではあり、一年戦争当時はジオンからの物資に頼らないと生活できないくらい困窮していたこともある。

また、戦後もゲッター汚染やセカンドインパクトを含めた三重苦によってシェルター生活を余儀なくされ、困窮を深めたことで、ジオンに支援する見返りとして物資を手にするという手段をとることも珍しくなかった。

あくまでも生活のためであり、シェルターの中には現地連邦軍を支援して、物資をもらうという逆のパターンもある。

「あたしのいる日本も、ここよりはマシだけれど…平和に暮らせる場所がどんどん少なくなっていってます」

「そりゃあ、あんまり自分たちの暮らしている世界について語れないわけだ」

「3つの世界…どこも大変な思いをしている。この宇宙世紀世界も…」

「あたし達の世界の地球は地球人同士の戦いで滅びようとしている…。それが悔しくて…」

アースノイド、スペースノイドと名乗っているが、結局は同じ地球から生まれた命。

地球が死にかけているのに、地球は大事だとお互いに言っているのに、やっていることはその地球を殺すことの繰り返し。

そんな愚行をいつまでも繰り返していることがかなめには悲しかった。

かなめの言葉を聞き、誰もが沈黙し、悲しい空気に変わっていく。

「ああ、ごめんね。暗い気持ちにさせちゃって…」

「少し、いいかな?」

サンプルとして赤い海水を回収し終えた真田がいつもの無感情な顔そのままにやってきて、かなめに声をかける。

「え…あたしですか?」

「いろいろと忙しくて、中々挨拶ができなかったのでな。私は真田志郎三佐。ヤマトの副長と技術長を務めている」

「マジかよ…!!あの真田副長が女子高生にナンパ!?」

「自分と同じ尺度で考えないでください。そんなことを考えたら、私は自分の記憶を再フォーマットします」

「わ、分かった…!わかったから、2人そろってその眼はやめて!せっかくヴァングレイが修理出来て気持ちが乗って来たのに!!」

「あ、私は千鳥かなめです。一応、ダナンの戦術アドバイザーなんてものをやってます」

仮にもヤマトの副長という重役を務める彼がどうして、一介の民間人である自分にあいさつをしてくるのかかなめにはわからない。

戦術アドバイザーと自ら名乗っているが、それは建前で基本的には一般生活に適応できていない宗介の教育係のようなものだ。

戦術なんて蚊ほども知識はなく、トビアやジュドーの方が持っている。

だが、真田にはどうしても確かめたいことがある。

「トビア君から話を聞いている。君はメカに関する知識のセンスがかなりのものだと…。少し時間をとれないか?」

「え…?」

「この世界の技術体系…その中でも特異な位置づけとなっているアーム・スレイブについて話を聞きたい」

宇宙世紀世界の技術情報はテレサから提供されており、アムロからも話を聞いている。

だが、その中で特に興味を持ったのはこのアーム・スレイブだ。

モビルスーツに近い存在ではあるが、10メートルにも満たない大きさなうえに操縦系統も全く異なる。

動力源であるパラジウムリアクターについては新正暦世界でもモビルスーツに搭載しようと試みられた時期はある。

核融合炉に使われるヘリウム3は木星でしか手に入れることができない。

それがなければ、モビルスーツも戦艦も動かすことができない。

おまけに核融合炉による電気が地球やコロニーの経済を支えていることもある、経済も壊滅してしまう可能性だってある。

そのため、一年戦争時の南極条約ではヘリウム3の輸送を行っている唯一の会社である木星船団公社については相互不可侵を認め合っており、どちらからも保護されることになっており、それは現在でも全世界共通の認識となっている。

そのため、仮にその会社の船を襲った場合、テロリスト認定されるうえに全世界の敵となってしまう。

だが、そんなリスクを背負ってでも地球へのヘリウム3供給を止めるために動くような馬鹿者がいる可能性も否定しきれない。

そして、木星への往復は移動だけでもおよそ4年はかかり、過酷な船内生活を送ることになるその旅で何らかの事故が起こり、一時的に供給が停滞することもあるかもしれない。

そのため、地球連邦軍は一時期ではあるが、地球でもとれるパラジウムを利用したパラジウムリアクターを開発しようとしていた。

核融合炉と比較すると静粛性が高いという利点があったものの、モビルスーツとして使えるくらいの出力のものにしようとすると技術的課題から核融合炉よりも大きくしなければならず、特にビーム兵器の使用が当たり前となっていく中ではその出力の問題は致命的で、それは戦艦でも同様だった。

そのため、パラジウムリアクターの採用は見送られる形となり、現在宇宙世紀世界で使われるのはアーム・スレイブとこのトゥアハー・デ・ダナンなどの一部にとどまっている。

「あ、あたしはただの女子高生ですよ!?そんな、専門家にとってはそんなに面白くないと思いますけど…。トビア君のガンダムについても、適当に言っただけですから」

「科学の探求に置いて、直感というのは大事だ。だから…」

「何…?ああ、分かりました。ええ、大佐殿。これから千鳥とそちらへ向かいます。場所は…了解です。申し訳ありません、三佐。千鳥はこの後、ミスリルとのミーティングがありますので、自分と共にダナンへ戻ります」

通信をしていた様子の宗介がかなめと真田の間に入り、一方的に話を済ませるとかなめの腕をつかみ、自分たちが乗っていたドダイ改へと向かう。

「ちょっと、ソースケ…!!」

「君の素性は最重要機密事項だ。友軍と言えど、それは守らなければならない」

(最重要機密事項…)

確かに、それが今かなめが日本ではなく、ダナンにいる理由。

西暦世界であれば、その素性とは無縁に過ごせたかもしれないが、戻ってきた以上はまた元の事情へと戻る。

そのことを悲しく思いながらも、今は従うしかなかった。

「いくらナイト役とはいえ、神経質だねえ。真田副長まで近づけないとは」

「少し、うらやましいですね…」

「何か言ったか?」

「いえ、別に」

仮にナインを守るためにソウジが同じ行動をとったとしても、あまりにも似合わない。

彼はナイトとしてはあまりにも軽すぎるようにしか思えなかった。

「うーん…」

「チトセちゃん、どうしたんだ?」

「勘なんですけど、もしかしたら宗介君とかなめちゃんには、もっと別の事情がある感じがして…」

「へえ、ニュータイプの直感でそう思うのか?」

「別にニュータイプとは関係ないですよ、女の子の勘です」

「相良宗介…相良…」

ソウジとチトセが話す中、真田は去っていく2人を乗せたドダイ改を見送りながら彼らのことで引っかかる何かの正体を頭の中から探ろうとしていた。

相良という苗字についてはどこかで聞いたことがある。

だが、それが何かまではどうしても思い出せなかった。

「まったく、嫌な時代なことには変わりなしか。子供が戦場に出るなんてなぁ」

「それは我々の世界やもう1つの世界も同じです。大人として、大変不本意ではありますが…」

考えてみると、今のパイロットの中でもまだ未成年のパイロットは数多く存在する。

その中でどれだけが自ら望んで戦場に出ているのか。

大半は成り行きややむを得ない状況があって、その役目を背負っていることが多い。

「確かに…俺たち大人や老人がそういう世界を作ってしまった罪は重い。セカンドインパクトやゲッター汚染はともかく、一年戦争は防げたかもしれないのに…」

戦前は地球連邦政府による軍を動かすほどの過剰なスペースノイドへの抑圧があり、一年戦争初期にはジオンが行ったブリティッシュ作戦がある。

それによるコロニーや地球への大量虐殺は今までのジオンやスペースノイドへの同情を吹き飛ばし、憎悪を招くことになった。

過激なジオニストはコロニー落としは必要だと言っていただろうが、ドナヒューはザビ家の独裁を許した時点でジオンの敗北が決まっていた、そしてコロニーを落とした時点でジオンは大義を失ったと考えている。

それがないだけでも、今の泥沼の戦いを変えることができたかもしれないと思うと、ふがいなさが芽生えてしまう。

「ドナヒューさん、私の部下であるサガラとクルツ、共に戦っているハサウェイ君…そして先ほどの千鳥かなめは青い地球のことは映像でしか知りません。私も一年戦争の頃は幼く、青い海をこの目で見た記憶もほんのわずかしかありません。しかし、そのわずかな時間だけでもみたあの青い海を次の世代の子供たちに見せたい、生み出してしまった負の遺産を受け継がせてはならないと思っています」

「ふっ…とんだロマンチストな男だ。最も、そうでなければミスリルに加入することもないか…」

「真田三佐、上陸した隊員たちに帰還命令です」

「敵襲か?」

「近隣の地球連邦軍から救援要請が出ています」

「了解だ。全員急ぎ戻るぞ、ドダイへ急げ」

「了解、ではドナヒューさん」

「ああ、死ぬなよ」

真田達が走ってドダイ改に乗り込み、それぞれの艦へと戻っていく。

収容を終えた艦が発進していくのを見送りながら、ドナヒューは17年前の戦いを思い出す。

(おかしなものだな…。かつてはジオンの兵士として戦っていた俺がここに残り、そして今ではここの代表だ。人生というのは分からないものだな)

終戦を迎え、オーストラリアからジオン軍が引き上げる中で、ドナヒューや彼と志を同じくする一部の兵士は除隊し、ここにとどまっている。

サイド3に家族がおらず、戦いの中で愛着と罪悪感を感じたこのオーストラリアを放っておくことができなかった。

かつて、そこで連邦軍に銃を向けながらも生き延びたモビルスーツはシェルターで電気を供給し続けている。

(生き延びろよ、この泥沼の時代を…)

 

-ヤマト 格納庫-

「キャップ、姉さん。救難信号があったポイントは東のクックタウンの東海岸沿いです。急ぎましょう」

「ああ、分かっている!このヴァングレイのスピードと航続距離ならいけるんだろう?」

新品の装甲と腕と脚を手に入れたヴァングレイのバックパックには追加のプロペラントタンク付きのブースターが装着されており、ナインの計算が正しければヴァングレイ本体の推進剤の消耗なしで現地に到着できる。

「νガンダム、Ξガンダム、及びガンダムチームもドダイ改に乗せて先発します!」

「了解だ、ヴァング1、ヴァング2!ガンダムヴァングレイで出るぜ!」

「ソウジさん、ヴァングレイはガンダムじゃありません!」

「ノリだよ、ノリ!!」

ヤマトから降下し、追加ブースターに火がともったヴァングレイはヤマトを通り過ぎ、クックタウンへと突き進んでいく。

引き続き、プロペラントタンク付き大型フロントスカートを装備したウェイブライダーと化したZガンダムがνガンダムを乗せて出撃準備に入る。

「アムロ大尉、フィンファンネルなしでも大丈夫ですか?」

「重力下での調整はできていないからな。チェーンがいてくれれば…」

アムロの脳裏に恋人である青い髪の女性が浮かぶ。

グリプス戦役で自分が乗っていた零式及びディジェの整備担当を務めてくれた彼女は各種パーツの整備記録だけでなく、その中にある特記事項まですべて把握する女性で、アストナージと共にアムロが信頼するメカニックだ。

彼女がいれば、重力下でも対応できるようにフィンファンネルを瞬時に調整してくれただろう。

今のνガンダムのバックパックはかつての愛機であった零式のフライトユニットに変更されている。

それに装備されているビームキャノンであれば、後方支援も可能だ。

「アムロ大尉、頼みます」

「アムロ・レイ、ルー・ルカ。νガンダム・ゼロ、ウェイブシューター、発進する」

νガンダムを乗せたウェイブシューターがヴァングレイの後に続いていく。

続けて分離したZZとドダイ改に乗った百式、ガンダムMk-Ⅱも発進していった。

 

-ヤマト 第一艦橋-

「機関最大、我々も急ぎ現地連邦軍と合流する。死ななくてもよい命を一つでも多く救うぞ」

「了解!!」

大局的に見たら、ここで本格的にヤマトやナデシコなどの異世界の兵器を使うことでその存在が知れ渡ることになり、それを求める戦いが起こるだろう。

それは西暦世界ですでに起こってしまったことだ。

だが、救援を求めるものに手を差し伸べる力がある以上は放っておくこともできない。

「ダナンと通信をつなげ。ルオ商会との合流ポイントの再設定を」

「了解。ダナン、聞こえるか!今から…」

古代からダナンへ通信が送られる。

一人の人間として、正しいと思ったこと、できることを精いっぱいやる。

それが沖田に今できる、負の遺産の整理方法だった。

 

-クックタウン-

「何をしている!奴らにこれ以上好き勝手させるな!!」

廃墟ビルを盾替わりにしつつ、ジェガン3機の小隊がビームライフルをネオ・ジオンのモビルスーツに向けて発射する。

元々はミデアで移動中だった部隊で、この場所でネオ・ジオンによる奇襲を受ける形となってミデアは沈み、護衛を行っていたモビルスーツ部隊も残ったのは自分たちだけになった。

奇襲された上に数もネオ・ジオンの方が多い。

「救援信号は送ったのに、まだ来ないのかよ!!」

「もうすぐ来る!持ちこたえ…」

励まそうとした方のジェガンが側面から赤いスパイクシールド付きのモビルスーツに体当たりされ、大きく吹き飛ばされる。

起き上がろうとしたが、その前にそのモビルスーツがビームサーベルでコックピットを突き刺した。

赤と茶色をベースとした、ネオ・ジオンの主力モビルスーツであるギラ・ドーガとはかけ離れた色合いをしており、相撲取りのような太った形状をしたそのモビルスーツの両前腕部には袖に見立てた装飾がされていた。

「ちくしょうが…モビルスーツのくせに、袖なんてつけやがってぇ!!」

仲間を殺された怒りに燃える彼は既にエネルギーの尽きたビームライフルを投げ捨て、ビームサーベルを抜いて正面から突っ込む。

しかし、ジェガンを吹き飛ばすほどのタックルが可能なそのモビルスーツに格闘戦を行っても勝てるはずがなく、左手で腕をつかまれた挙句、ビームサーベルを突き刺されて、結局は仲間と同じ末路をたどった。

残った1機も既にギラ・ドーガによって倒されていた。

「へっ…アナハイムもいいモビルスーツを用意してくれたものだな。このメッサーは」

「隊長、沈んだミデアから物資の強奪は終わりました」

「よし、物資を持った奴らは後退だ。そろそろ本命が来るからな。残りの奴はまだ動かすなよ」

今回の奇襲の目的はミデアを沈めて物資を奪うのはついででしかない。

そこから救援にやってくる奴らを倒すこと。

これによって少しでもオーストラリアでのジオンの勢力を拡大させることだった。




機体名:νガンダム・ゼロ
形式番号:RX-93+000
建造:アナハイム・エレクトロニクス社およびヤマト艦内での現地整備
全高:22.0メートル
全備重量:68.3トン
武装:90mmバルカン砲×2、マニピュレーター部ランチャー、シールド(ビームキャノン、ミサイルランチャー×4内蔵)、ビームサーベル×3、ビームライフル、ニューハイパーバズーカ、ビームキャノン×2
主なパイロット:アムロ・レイ

νガンダムのバックパックを零式をベースとしたフライトユニットに変更したもの。
フィンファンネルは重力下での調整ができておらず、それが行えるメカニックが不在であったことから装備されなかったために急遽、ヤマトの万能工作機を利用して開発・装備された。
ビームキャノンの追加に伴い、火力が向上し、更には大気圏内でもある程度の飛行が可能になったものの、重量が上がっている。
なお、バックパックの換装に伴い、バックパックのビームサーベルの代替としてリアアーマーに追加で2本のビームサーベルが外付けされ、ニューハイパーバズーカについては腰部に装備しなおされている。
また、そうした換装を急遽行うことができたことはνガンダムそのものが量産機としての優れた整備性と信頼性を持っていたことも大きい。

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