スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第66話 葛藤

-マイトステーション 格納庫-

「オーライ!オーライ!!」

「整備班急げ!ロコモライザー、マイトウィング、ガインの損傷状況を確認を!!」

スペースガードダイバーとバトルボンバーによって運ばれる3機が置かれ、整備班が集まってくる。

マイトウィングのコックピットの中にいた舞人が外に出て、ヘルメットを外すと同時にその場で膝をついた。

「舞人君!」

「工場長…ガインは…?」

「今、整備班が見ている。戦闘は見ていたよ。エースのジョー…そして、あの武装ロボットがこれほどとは…。それより、君の治療をしなければならん!!」

舞人はガインのことを気にしているが、今治療を優先すべきなのは舞人の方だ。

額から流れる血で左目は赤く染まり、右手で抑えている左腕はおそらく骨折している。

タンカを持ってこさせようと指示を出そうとする大阪だが、舞人が右手を伸ばして制止する。

「工場長…痛み止めだけ、もらえますか…?」

「舞人君、まさか…!無茶だ、ガインが損傷で応答していない。ロコモライザーもオーバーホールが必要だ!それに、その腕では…」

「マイトウィングの損傷は…軽微です。それに、左腕も…引き金を引く、くらいならできます…」

「だが…」

「今、町がDG同盟に襲われているんです。その中で、一人だけ休んでいるわけにはいかないですから…」

 

-ヌーベルトキオシティ近海-

飛行形態で離脱する飛龍が飛び、自動操縦に切り替えたジョーはハンドルから手を離す。

あとは指定されたポイントでヴォルフガングとの合流を待つだけだ。

脳裏に浮かぶのは撃破され、無様な姿をさらすマイトガインの姿。

「ついにやった…奴を、この手で倒した…」

ヘルメットとバイザーによって顔は見えなかったが、それでも負傷して苦悶の表情を浮かべているであろう舞人の顔が目に浮かぶ。

彼を倒したことで、整備など無意味だということを証明することができた。

それで満足する、そう思えるはずだった。

(だが、何だ…?この感じは…)

勝利の喜びで満たされていたのはついさっきまで。

今もまだ喜びはあるが、何かつっかえたものも同時に抱いている。

何か、ほんの少しだけ満たされていないそんな気持ち悪い感覚だ。

(ジョー!よくやった!よくぞ、マイトガインを倒した!)

通信機から聞こえるヴォルフガングの喜びの声。

同時に水中から緑色に塗装された潜水艦が浮上する。

先日、ミスターXからヴォルフガングへ提供されたその潜水艦の形状はジョーの記憶の中にある連合やザフトの潜水艦とは明らかに異なる。

宇宙世紀世界か新正暦世界の人々が見ると、ジオンのユーコン級と答えるだろう。

格納庫が開き、ヴォルフガング一味の兵士の誘導に従う形で飛龍が格納される。

飛龍を降りたジョーを艦橋から出たヴォルグガング本人が自ら出迎える。

「よくやった、よくやったぞ!これで、ワシの夢にまた一歩近づいた!」

「…少し休む。こいつはお望みの戦闘データだ」

データが入ったディスクを押し付けるように渡したジョーは早歩きで格納庫を後にする。

ディスクを手にしたヴォルフガングはいつもとは違うジョーの様子に違和感を覚えていた。

「どうしたんじゃ、ジョーの奴…。まあよい、それよりも…」

今気にすべきは飛龍に搭載された太陽炉の状態だ。

飛龍に搭載された太陽炉は完ぺきではなく、特にトランザムに関しては起動時の粒子消費量の制御などの補助システムが不十分だ。

そのため、起動後の中断の措置がとれない、稼働時間の短縮等のかつてのソレスタルビーイングのガンダムが使用したトランザムと同じリスクを抱えているといえる。

戦闘データにおいては満足できる結果だが、太陽炉そのものの負担は想定以上と言えた。

「ううむ…想定はしていたとはいえ、トランザムに耐えられんか…」

「太陽炉取り外します!」

緊急出撃に備え、取り外された太陽炉搭載バックパックと入れ替わるように従来の飛龍のバックパックが取り付けられる。

元々、太陽炉の搭載を想定したものではない飛龍がトランザムを使用する場合、高濃度に濃縮されたGN粒子を蓄積できる装置を用意する必要がある。

だが、可変機である飛龍に機体各部にそうした装置を設置する余裕はなく、やむなくバックパックにそれを集中させるしかなかった。

それでも補いきれない分は太陽炉そのものを暴走に近い形まで稼働させることで補った。

それ故に、太陽炉にかかる負担は従来のガンダムの太陽炉以上だ。

(じゃが…これでいい。飛龍で太陽炉を生かしきれぬことは想定済みのこと。ならば…最初から太陽炉を想定した新たな飛龍を作るのみ)

ヴォルフガングが手にしているタブレット端末には太陽炉の図、そして新たな武装ロボットの設計図が表示されていた。

 

-ヌーベルトキオシティ-

「DG同盟、武装ロボット…数20!」

「こんな時に数をそろえてきやがって!」

ニンジャやフロマージュ、パオズーなどの多種多様な武装ロボットの数々。

ナデシコの直掩をリョーコ達に任せ、ソウジとアキトが前に出る。

マイトステーションからはもうすぐダイターン3とザンボット3、メイルライダー達が出撃するという連絡がある。

勝とうとは思わず、時間を稼いで彼らの到着を待つことがソウジ達にできることだった。

ただ、それで問題になるのは陽電子リフレクターを破壊したあのミラージュコロイド付きのニンジャだ。

高度を上げているナデシコBはともかく、その機体にマイトステーションや街の重要施設を奇襲される危険性がある。

「センサー切り替え…」

フロマーシュをディストーションアタックで破壊したブラックサレナのツインアイの色が赤から青へと変化し、網膜投影されたアキトの視界が青白く変化していく。

火星で夜天光が使ってきたミラージュコロイドステルスへの対策として、ブラックサレナに追加されたミラージュコロイドセンサー。

散布したミラージュコロイドの動きによって、機動兵器やミサイルの動きを把握するそれであれば、たとえミラージュコロイドステルスで姿を消そうとも位置や動きを特定できる。

それと網膜投影が絡み合うことで、より正確に姿の見えない敵を見つけることができる。

「ソウジ、ここを頼む」

「な…おい、アキト!!」

急に離れていくブラックサレナに驚くソウジだが、ニンジャたちのビームライフルやフロマーシュの鉄球のせいで追いかけることができない。

「くっそぉ、邪魔をするな!!」

 

「ナデシコを…」

ミラージュコロイドを展開し、ビルからビルへと飛び移っていくルンナのニンジャが高度を上げつつあるナデシコを追う。

ナデシコの上昇スピードと到着の際の予想高度を計算したところ、バイオフィードバックによるトレースと鍛えられた身体能力、そしてニンジャ本体の性能であれば、少なくとも最大出力での跳躍で取りつくことはできる。

そして、今の彼女にニンジャに搭載されている自爆装置を起動することができれば、すべてが終わる。

(どうして…)

彼女には誰かから愛を受けた記憶はない。

殺伐として、平和とは何も縁のない空間が彼女のすべてだった。

それは、ミフネの元で訓練や任務を受けていた時も変わらない。

そんな中で下された命令が間者、そしてマイトステーションの破壊工作だ。

これまではマイトガインのパイロットの正体がわからず、彼らが整備されている場所も分からずにいたDG同盟にミスターXからもたらされた情報がきっかけだ。

パイロットの正体があの旋風寺コンツェルンの総帥である旋風寺舞人、そして勇者特急隊が整備されているマイトステーションの情報。

それらが決め手となり、ミフネの配下が舞人の周辺情報を探った結果、ねらい目となったのが彼の友人である浜田だ。

彼に接近することで更なる情報を手に入れ、そしてマイトステーションを破壊すること。

それに成功した暁には多くの褒章を与える。

ミフネの命令はそれで、その任務のために与えられたのが内藤ルンナという偽りの名前と戸籍。

任務を受けた胡蝶にとって、褒章などどうでもよかった。

どんなに金を得たとしても、今の人生が大きく変わるはずがない。

闇の中で生き続けて、やがて闇にとけていなくなる人生にそんなものは意味などない。

そんな人生を変えてくれたのがそのターゲットであるはずの浜田だった。

ターゲットというだけのはずの彼に理由がわからないまま惚れてしまい、それから黒く塗りつぶされていたはずの彼女の心に少しずつ彩が生まれた。

彼と過ごしたことで、闇の中でしか生きられないと思っていた胡蝶が光の中で過ごせるのではないか、内藤ルンナとして生きていてもいいのではないかという希望が生まれた。

そんな日々がいつまでも続けばいい。

だが、彼女を包む闇がそれを許さず、このようなことになってしまった。

(さよなら…浜田君。もっと早く、あなたに会いたかった…)

もうすぐナデシコBが視界に入る。

高度は予測通りで、もうすぐすべてが終われる。

だが、誤算なのがニンジャの頬をかすめるように飛んできた銃弾だった。

「何!?」

「そこまでだ」

背後からの攻撃にわずかに動きが鈍ったニンジャをブラックサレナのアンカークローが頭部をつかむ。

同時にミラージュコロイドセンサーを解除し、ブラックサレナのツインアイが元の色へ戻る。

同時に接触回線が開いたことでニンジャのモニターにアキトの顔が映る。

「天河アキト…!!」

「やめろ、温かな世界を知ったお前は、もう二度と闇に戻ることはできない。取り返しがつかなくなる前にミフネの元を去れ」

「ふざけるな…!私は、くのいち!任務を放棄することなど許されない!私が戦いから解放されるときは、私の命が終わる時だ!」

ブラックサレナの妨害で、ナデシコBにとりつくチャンスを失った。

道路へたたきつけられるように投げられたニンジャが損傷し、ミラージュコロイドステルスを維持できなくなる。

空中にいるブラックサレナのハンドカノンの銃口は自らに向けられており、たとえそれをつぶしたとしてもディストーションアタックが待っている。

どう考えても、今の自分にアキトに勝つ手段がない。

だが、自らを殺す絶好のチャンスだというのに、アキトは動くそぶりを見せない。

「なぜだ…さっさと撃て!撃てばいいだろう!!」

「…」

「私を…私を憐れむなぁ!」

涙を流すルンナは自爆装置のスイッチを押す。

ここで自爆したとしても何の意味もないことはルンナ自身も分かっている。

混乱する今のルンナにはそうすることしかできなかった。

だが、闇はとことんルンナを呪縛から逃れることを許さない。

「自爆装置が…故障!?そんな…」

「馬鹿なことはやめておけ、そんなことをしても、むなしいだけだ」

「黙れ!!」

自決の手段は自爆だけではない。

忍装束の中にある短刀を抜き、その刀身を見た瞬間、刀身に映る涙を流す自分の顔を見た。

同時に脳裏によみがえるのは浜田との、年ごろの恋する少女なら当たり前に持つであろう思い出だ。

(ルンナちゃん!ルンナちゃんの作ってくれるお弁当、おいしいよ!)

(ルンナちゃん、これだよ!今僕が造ってる漫画!)

(ルンナちゃん!)

(ルンナちゃん!)

「浜田…君…」

 

-マイトステーション 格納庫-

出撃準備を整えたザンボット3が動き出し、カタパルトに乗る。

今のザンボット3はバックパック部分が改良されており、背中にはイオン砲がマウント可能な新しいバックパックに換装されている。

「勝平!イオン砲は使用可能だ!だが、下手に使うとヌーベルトキオシティを吹き飛ばすことになる!使うなら空だ!いいな!」

「分かってる!いくぞ、宇宙太、恵子!!ザンボット3、行くぜ!」

「続けて、ダイターン3!万丈さん、頼みます!」

「了解した、任せてくれ」

ザンボット3とダイターン3が出撃し、それを医療班によって腕に包帯を巻かれている舞人が見守る。

出撃ができずに悔しがる舞人の姿を見続けている大阪が深くため息をつく。

「出撃の意志は、変わらないようだな…。だが、マイトウィングではだめだ。今のあれで出撃しても、足手まといになる」

「けど…」

「他の機体がある。舞人君たちが宇宙世紀世界に行っている間に調整していたものだ。そして…」

「私も出させてもらう。休んでいた分、働いて見せるさ」

「お前は…そうか、お前も…」

 

-ヌーベルトキオシティ-

「胡蝶…任務失敗とのことです」

「そうか…。だが、問題はあるまい。少なくとも目は引き付けている」

ルンナの失敗を咎める様子も驚くそぶりも見せないミフネのニオーの元へ運ばれるコンテナ。

コンテナが開くと、その中に搭載されている大筒型の火縄銃といえるもので、ニオーの全長に匹敵する者だった。

「本陣攻撃用兵装、国崩。これであれば、いかにナデシコであろうと」

バイオフィードバックによって両手に感じる国崩の重み。

それは鍛え抜いたミフネがかろうじて体勢を維持して持つことができるもので、今の影の軍団で使える人間も平気も限られている。

「ミフネ様、ザンボット3が現れました!」

「なんと、現れたか!ならば…わが手で手に入れる!おぬしは国崩を持て!」

「ハッ!」

部下の乗るニオーに国崩を預け、刀を抜いたミフネのニオーが飛び出す。

路上を猛スピードで走るニオーの反応はすぐにザンボット3のセンサーが掴んだ。

「来るぞ、勝平!エセザムライだ!」

「おう!!」

ザンボットカッターを握ったザンボット3とミフネのニオーが互いに刃をぶつけ合う。

同時にいきなりミフネが開いた接触回線により、音声だけではあるが彼の声が勝平たちに伝わる。

「素晴らしいロボット、ザンボット3!それは我にふさわしい愛馬!」

「な、なによ!いきなり接触回線を開いて…!」

「吾輩にザンボット3を献上せよ!小童どもよ!さすれば、退く!」

「退くって…お前、目的はこの町じゃねえのかよ!」

「今の吾輩最大の目標はザンボット3のみ!それ以外は知らぬ!!」

一度距離をとったニオーが胸部装甲を展開し、ミサイルを発射する。

ミサイルそのものはザンボット3に大きなダメージを与えるものではないが、爆発に巻き込まれた町は例外ではない。

ビルは崩れ、道路もボロボロになり、ミサイルの破片でその場に放棄されている車が砕ける。

「何をいってやがんだよ、あのサムライモドキ…」

「その、雄々しき陣羽織姿…勇ましきクワガタ、刀剣と槍で武装し、詫び寂びの極致の月光!我が愛馬にふさわしき武装ロボット!まさに至高!!」

「た、確かに…ザンボット3って和風だけど…」

「これ、作ったの…ビアル星人だぜ…」

ガイゾックとの戦いを終え、地球へ帰還したころ、生き残りの神ファミリーは源五郎をはじめとした戦死した家族の葬式を執り行い、彼らの遺品整理も行った。

戦死した兵左衛門、梅江、源五郎がいずれも遺言書を書いていたため、葬式や遺品整理、遺産分割等は滞りなくすすめることができた。

その中で、まだ戦いのショックから立ち直ることができていない勝平を除く神ファミリーは改めて先祖であるビアル星人のことを調べた。

キング・ビアルの中のデータはザンボット3とキング・ビアルに関するもののみで、彼らの足跡の手掛かりとなりえるのは書物のみだ。

調べて分かったことは、ビアル星人が故郷を失い、地球へやってきたのは江戸時代で、徳川家綱が将軍だった頃だ。

鎖国が敷かれていた時代に外国人ではなく宇宙人がやってきたことは表沙汰になっては大きな混乱を招く。

天体観測が始まったばかりで、それに関する申し訳程度の知識を当時のビアル星人が江戸幕府に伝えたことにより、それと引き換えに当時としては異例ではあるが、定住が認められることになった。

ザンボット3の開発が行われたのはそれからで、キング・ビアルに搭載されていた資材だけでは足りず、それ以外は長い時間をかけて日本で調達したものを使っており、それでも開発を完了したのは徳川吉宗の時代になってからだったという。

ザンボット3を鎧武者のような姿にしたのは万が一幕府に見つかったとしても、あくまでも鎧武者の像であるとごまかすためであると同時に、国防の要であり当時の日本の道徳体系ともなっている武士の存在にあこがれを抱いたためだという。

「我が愛馬となった曉には、イオン砲などの無粋な装備は廃して…」

「ふざけるな!てめえなんかにザンボット3をくれてやるわけねえだろ!!こいつは…このザンボット3はご先祖様が造って…死んだ爺ちゃんや父ちゃんと一緒に戦って…イチ兄ちゃんが鍛えたもの!俺たち家族の絆そのものだ!それをお前みたいな悪い奴に渡すもんか!」

「ならば、将軍らしく力づくで奪うのみ!撃てい!!」

「何!?」

ミフネの号令と同時にズドンと大きな発射音が聞こえてくる。

国崩から発射された弾丸が一直線にナデシコBに向けて飛んでいた。

「質量弾、来ます!」

「回避行動…間に合いませんね」

ルリの冷静な言葉のコンマ1秒後に質量弾がグラビティブラストの右側ユニットに命中する。

大きな損傷となったがためにバランスが崩れ、オモイカネのサポートのもとでハーリーによってバランス調整が行われる。

「ナデシコが攻撃を受けた…!」

(アキトさん、ナデシコが質量弾攻撃で損害を受けました!現在、質量弾の発射位置の逆探知を…)

(浜田君の声…まさか、浜田君がナデシコに…!?)

「国崩、次弾装填完了!今度こそ艦橋を狙う!」

ニオーのパイロットとしては、最初のこの一撃でナデシコBに艦橋をつぶすつもりでいた。

だが、レールガンに匹敵するスピードで質量弾を発射する反動が大きく、ブレが生じてしまった。

それでもナデシコBに大きな損害を与え、特にグラビティブラストを発射不能にできたことは大きい。

「位置座標をくれ、そこへ…!」

浜田との通信をしている中、損傷したルンナのニンジャが突然動き出す。

ところどころでスパークを起こしているニンジャだが、損傷が軽微な両足を使って跳躍を繰り返す。

ニンジャ程度の装甲で戦艦を一撃で破壊できるほどの質量弾を受けたとしても、盾にすらならないことは分かっている。

だが、それでも立ち止まる理由にはならない。

「浜田君…あなたは、死んじゃいけない!!」

「何!?あのニンジャ…胡蝶か!」

ニオーのパイロットのモニターにナデシコBに向けて飛ぶルンナのニンジャの姿が映る。

それと同時にナデシコBに接触回線でニンジャからデータが送信される。

「ニンジャからのデータ通信…これは、座標」

「質量弾の計測等からすると…ミフネが言う本陣の位置、ということでしょう。信憑性は高いですが、なぜニンジャが…?」

データ通信を終えたニンジャは接触回線を切ると国崩を装備しているニオーに向けて飛んでいく。

あえてナデシコBへの射線上に躍り出るような動きで接近していく。

「浜田君…幸せに…」

「裏切りか…!ならば、葬るのみ!!」

先に葬るべきは裏切り者だと判断したニオーのパイロットはためらうことなく国崩の引き金を引く。

間違いなくそれはルンナへの直撃コースだ。

これを受けたら、ニンジャもろとも彼女の肉体も誰にもわからなくなるほど無残なものになるだろう。

だが、これでいい。

浜田を己の死で悲しませることなく、いずれ忘れて別の誰かと幸せになってくれる。

そのことを願い、ルンナは目を閉じる。

だが、質量弾はニンジャを砕くことも、ナデシコBに届くこともなかった。

ルンナに命中するギリギリで側面から飛んできたブラックサレナがディストーションアタックを仕掛け、質量弾そのものを破壊して見せた。

「天河…アキト…」

路上に着地したと同時に、ニンジャ本体が限界を迎えたのか、モニターがブラックアウトしていく。

ブラックサレナが地上へ降りると、アンカークローでニンジャに接触する。

「その機体はもう限界だ。脱出しろ」

「…」

「彼を悲しませるな」

「…わかり、ました…。あとは、頼みます」

ニンジャのコックピットが開き、ルンナが出ていくのを確認したアキトはブラックサレナを浮上させる。

「くそっ…質量弾を止められるとは!だが、次はそうはさせん!いかに黒百合であろうと、正面からの国崩には耐えられんだろう!」

次弾装填が始まり、今度こそナデシコを屠るべく、ニオーのパイロットは照準を合わせる。

2度の発射とルンナの裏切りにより、もう位置は知られているだろう。

これからやってくる増援を考えると、撃てるのは1発のみ。

「くっそ、ニンジャ野郎が邪魔すぎなんだよ!!」

どうにかして本陣のニオーを攻撃しなければ、ナデシコが国崩の餌食になる。

誰もが焦りを抱く中で、アキトは接近するパオズーをハンドカノンで撃破しつつ、脳裏に戦場を去るルンナの姿をうかべる。

(愛を知った女スパイが改心する…。お約束だが、美しい展開だ。さあ、その後に来る時間だぞ。嵐のヒーロー)

「いっけええええええ!!」

「側面から敵影だと!?」

「マイトガインそっくりのロボット!?」

側面から一直線に突っ込んできた機動兵器のショルダータックルにより、ニオーの巨体が弾き飛ばされる。

路上を転がり、尻餅をついた状態から起き上がったニオーのカメラが映すのは勝平の言う通りマイトガインによく似た機体だ。

だが、黒や青が目立ったマイトガインとは対照的に赤や白といった暖色が目立っていた。

「これ以上は…やらせない!!」

「舞人の兄ちゃん、そのロボットは!?」

「マイトカイザー…勇者特急隊の新しい力だ!けど、舞人…そんな状態で!!」

「浜田君が…頑張ってくれたおかげで、間に合ったんだ。まだ…戦える!ガインの分もだ!!」

マイトカイザーの製造と並行してあらかじめ訓練をしていたおかげで操縦については問題ない。

だが、負傷した今の舞人では長くは戦えない。

「ええい、死にぞこないめ!貴様が再び現れたとしても、本陣には国崩が…」

「それはどうかな?」

「何!?」

「伝令!本陣が攻撃を受けております!」

「馬鹿な!?」

まさかの知らせに動揺するミフネをよそに、彼の本陣には撃破されたニオーと真っ二つとなった国崩が火を噴いていて、その中にはソウジ達にとっては懐かしい姿があった。

「あいつは…!」

炎を剣を振るって吹き飛ばしたその機体は漆黒に染まったマイトガイン。

生まれは違えども正義の心を手にした勇者特急隊の仲間。

「黒い翼にのぞみを乗せて、灯せ平和の青信号!勇者特急ブラックマイトガイン、定刻通りにただいま到着!ついてにもう1つ、特許許可する東京特許許可局!」

「ブラックさん!」

「久しぶりだな、ナイン!約束通り…この命、正義のために使うぞ!」

「奴め…我らの目がナデシコに向いている間に、迂回して本陣を狙ったというのか!」

崩された本陣の中にはグレートブースターによく似た構造の外付けブースターが放棄されていた。

本来はマイトガインを現場を急行するための追加装備だったが、マイトガインの余剰パーツ等で改修されたブラックマイトガインでも運用できるものとなっていた。

本陣の位置を特定したナデシコからマイトステーションで伝達され、舞人と同時に発進する際に二手に分かれていた。

「おのれ、おのれぇ!!」

「はあああああ!!」

真上からザンバーを振り下ろすダイターン3に気づき、どうにか後ろへ下がって回避するミフネのニオーだが、刃は装甲をかすめており、それだけでコックピットにも外の景色が肉眼でよく見えるほどの裂け目が生まれる。

ダイターン3だけでなく、ジンクスⅣやブレイヴなどの姿もあり、このままでは戦局が勇者特急隊側に傾くことになる。

「おのれ、このままでは…」

「分が悪いようだなぁ、ショーグン・ミフネ。これは、退いた方がいいんじゃないか?」

「む…何者だ、貴様!顔を見せよ!!」

かろうじて生きている通信モニターには何も映っておらず、声だけが届いているのみだ。

少なくとも、ミフネの記憶の範囲ではDG同盟にこの声の主となる人物はいない。

「ああ…名を名乗るほどの者じゃないさ。ま…あんたらのスポンサー、ミスターXの協力者からの支援ってことで」

「ミスターXだと…!?」

「それより、さっさと脱出しな。そんな機体じゃ、命を捨てるだけだぜ」

「くっ…覚えておれ!!」

「うおおおおお!!」

正面からザンボットカッターを握るザンボット3が突っ込んでくる。

「コックピットをぶっ壊す!死にたくねえなら、さっさと出やがれーーー!!」

「うおおおおお!!」

機体から飛び降り、路上に転がるショーグン・ミフネがどうにか起き上がった時には彼のニオーのコックピットは貫かれている状態だった。

動力源を傷つけないように考慮された一撃によって動きが止まり、カッターを抜いたザンボット3が新たな反応を感知する。

「勝平!敵が接近!3機よ!!」

「3機!?なんなんだ、恵子!!」

「1機は飛龍!あとの2機は…嘘…!?」

「どうした、恵子!早く答えろ!もう2機は何だ!?」

「…2機は…ガンダム、そのうちの、1機は…ガンダムデュナメス…」

「デュナメスって…」

その言葉を一瞬冗談かと思った二人だが、目を見開き、体を震わせる恵子の様子に何も言うことができなかった。

 

「あんたもやるねえ、マイトガインのパイロットが新型機を出したからとはいえ、太陽炉なしのそれで」

「太陽炉があろうがなかろうが関係ない。奴が再び現れたなら、倒す。それだけだ」

飛行形態の飛龍を再びヌーベルトキオシティへと飛ばすジョーはその左側で飛ぶデュナメスに目を向ける。

かつてのフォーリンエンジェルスで国連軍としてソレスタルビーイングと戦ったことのあるジョーにとって、ソレスタルビーイング側で戦っているわけではないにもかかわらず、ガンダムとともに飛んでいる今の状態に釈然としないものを感じていた。

おまけに今のデュナメスのスピードは飛行形態の飛龍と並行して飛べるほどで、本当に機動戦向きでない狙撃機なのかと疑ってしまうほどだ。

(ミスターX…いったいなんだという?この機体に搭載された太陽炉の支援といい、このガンダムといい…)

「急げよ、既にもう1機…援軍が既にヌーベルトキオシティに到着している」

「何…?貴様の仲間か」

「今のところは、だがな…胸糞悪いがよ」

 

「うわああああああ!!!」

バチバチとコックピットに電撃が襲い、ザンボット3の電子機器のダメージを告げる警告音がコックピットに響き渡る。

ザンボット3を攻撃しているのはデュナメスと同じく赤黒いラインが刻まれた、2つの疑似太陽炉を搭載したガンダム。

「カハハハハ…まさか、神様だか閻魔様だか知らねえが、俺をコケにした奴にリベンジマッチのチャンスをくれるなんてよぉ…おまけに!!」

「ザンボット3はやらせん!!」

投擲されるダイターンジャベリンに気づいたガンダムが電撃を放つワイヤーをためらうことなく強制排除して回転するような身のこなしで回避すると、100メートル近い巨体のダイターン3に迷うことなくバスターソードで切りかかる。

「こいつ…野獣だというのか!」

「ハハハハハ!おまけに…おまけに、ヤキン・ドゥーエとかメサイヤとか目じゃねえ戦争がおっ始まるとなっちゃあ、墓穴で眠っている場合じゃあねえよなぁ!!」

バスターソードだけでは飽き足らず、両足からもビームサーベルを展開し、3本の刃による攻撃がダイターン3の頭部を傷つけた。

巨体なだけあり、こうして小型機に懐に入り込まれた時は万丈にとって分が悪い。

「くっ…」

「へっ…日輪とか大仰なことを言う野郎だとは聞いてたが、俺からしちゃあただの木偶の坊だなぁ!波嵐創造のガキがよぉ!」

「奴の名前を口にするな!!」

「下がれ、波嵐万丈!!」

「おっとぉ!」

ビームとGNソードビットが飛んでくるのに気づいたガンダムがダイターン3から離れ、それをかばうように飛翔するダブルオークアンタが立つ。

刹那にとって、今目の前にいるガンダムは忘れもしない、1年前に戦った宿敵だ。

2つの疑似太陽炉が両腕ではなく、ダブルオーガンダムのように両肩に搭載されており、バックパックも別物に変わっているが、頭部の形状や装備されているであろう遠隔攻撃兵装の存在から、1年前の戦いを知っている人間であればすぐにその機体だとわかるだろう。

「リボーンズ…ガンダム…だが、乗っているのは…まさか…」

「へ…そうよ、そのまさかよ!地獄から舞い戻ってきたぜ…クルジスのガキぃ!」

シールドに搭載されているGNフィンファングを射出したリボーンズガンダムのパイロット、1年前のイノベイドとの最終決戦の際にロックオンによって討ち取られたはずの野獣、アリー・アル・サーシェスがGNバスターソードをダブルオークアンタに向けてふるう。

刹那もGNソードビットを飛ばし、ビットとファングがぶつかり合う中で2機のガンダムが刃を交える。

「地獄から…舞い戻った、だと!?」

「そうよ…痛かったぜぇ…あの野郎の一撃はよぉ」

接触回線を開いたサーシェスが自らの姿をダブルオークアンタのモニターに表示させるとともに、鍔迫り合いをしているにもかかわらずヘルメットを脱いで見せた。

顔立ちもノーマルスーツ姿も1年前のもので、額にはロックオンに撃ちぬかれたであろう銃創が生々しく残っていた。

「刹那!奴の言葉に耳を貸すな!!」

マイトステーションからともに発進していたティエリアのラファエルガンダムのGNビームライフルがフィンファングを撃ちぬいていく。

「それからよぉ、もう知ってんだろ?地獄から舞い戻ったのは…俺だけじゃねえってことはよぉ」

「くっ…」

「ほら、来たぜぇ!俺の、連れがよぉ!」

「…!」

殺気を感じたティエリアがすかさずGNフィールドを展開し、一直線にバックパックに飛んでくるビームを受け止める。

上空にはGNスナイパーライフルを手にした、宇宙世紀世界で刹那が見たデュナメスの姿があった。

オレンジ色の粒子を放出していることから、疑似太陽炉を搭載しているうえに目立つように赤黒いラインがあるという大きな違いがあるが、姿はデュナメスで間違いない。

ティエリアと刹那のモニターにデュナメスのコックピットの映像が映る。

そこに映るパイロットの姿を見て、刹那とティエリアは確信するしかなかった。

「よぉ、久しぶりだな…刹那、ティエリア。ミス・スメラギやみんなも、相変わらず戦ってるみたいだな。3年前と…いや、1年前と変わらず…」

「ロックオン・ストラトス!!サーシェスも、君も…死んだ、はずだ…」

「こいつが言ってただろ?地獄の底から帰ってきたって。言葉通りの意味さ。で、お前ほどの男が、戦場で突っ立つのか?」

再びスナイパーライフルのビームがティエリアを襲い、避けるわけにはいかないティエリアはGNフィールドを展開する。

どうにかモニターに映した今のデュナメスの装備は主力武装のGNスナイパーライフルとケルディムと同様と思われるGNシールドビット、そしてピストルなどの複数の銃器だ。

その姿はソレスタルビーイングで検討されていたケルディムの改修プランの一つに近いものと言えた。

 

2機のガンダムの殿によりミフネの軍勢が後退していく中、人型形態に戻った飛龍とマイトカイザーが正面から対峙する。

「死にぞこないが…別の機体を用意して再び現れたか。ならば、ここでその機体もスクラップにして、貴様の息の根を止める」

「そうはいくか、ジョー!ガインの仇…そして、何よりも正義のために、俺はおまえを倒す!」

「またそのようなことを…お前の信じる正義は無力だ!」

ロックオンの早撃ちを思わせるスピードをヒリュウブレイザーからビームが発射され、ビームが一直線にマイトカイザーの胸部へと向かう。

だが、ビームが装甲に命中したと同時に霧散し、無傷な装甲だけが残る。

「ビームコーティングか!」

「そんなビームはマイトカイザーにはいくらやっても無駄だ!!」

マイトカイザーの額から発射されるビームを変形した飛龍が上空へ飛んで回避し、マイトカイザーも飛行して追いかける。

人型形態を維持しつつ、飛行形態の飛龍と渡り合う高度な飛行能力を持つマイトカイザーが右手にドリルを装着し、内蔵されている機関砲を発射する。

その状況にさすがのジョーも舌打ちする。

飛行形態となっている飛龍の使用可能な武器はバルカンとヒリュウブレイザーのみで、バルカンや額のビーム、そしてドリルといった武器が使用可能な上に互角な機動力と飛行能力のマイトカイザーに対しては分が悪い。

太陽炉がついていれば、トランザムを利用して逆転することができるが、今の飛龍に太陽炉はない。

一方の舞人もこの有利になった状況を最大限利用できるとは限らない状態だ。

「くっ…また、痛みが!」

治療を受け、痛み止めも投与しているとはいえ、骨折した腕で無理な操縦ができず、額に巻いている包帯も赤く染まりつつある。

長時間の戦闘になり、ジョーに逃げ切られては再び彼の白星となる。

「やるなら…一撃、一点突破だ!」

幸い、飛行戦を展開する中で海上に出ているため、機体が落下してもヌーベルトキオシティへの被害は少ない。

ここでジョーと決着をつけることを決意し、右手のドリルを回転させる。

動きを止めたマイトカイザーを見たジョーは飛龍を人型形態に変形させると、手にしているヒリュウブレイザーを捨て、トンファーを手にする。

お互いに倒すべき相手と向き合い、狙いを定める。

「うおおおおおおおおお!!ドリルクラッシャー!!」

「はあああああああ!!!!」

雄たけびを上げる2機が正面から突撃する。

トンファーの刃とドリルがぶつかり合い、火花が散る。

だが、一点を突破する力において上回るのはドリルだ。

トンファーに徐々にひびが入っていく。

「くっ…!!」

「ジョー!確かにお前の言う通り、必ずしも正義が勝つとは限らないかもしれない!だが、この世界に悪が栄えたためしはない!最後は必ず、正義が勝つんだ!俺はそう信じて、これからも戦い続ける!」

「くそおおおおおお!!!!」

ドリルがトンファーを突破し、腕を貫き、胴体を穿つ。

右腕が砕け散り、胴体に大穴を開けた飛龍からドリルを抜くと、その機体は力なく海へと落ちていく。

ドリルが届く前に、飛龍から何かが外れて海へ落ちたのを確認したものの、今の舞人にそれを追う体力はない。

「はあ、はあ…これからも、お前が来たとしても…俺は、負けるつもりはないぞ…ジョー…」

「舞人の兄ちゃん!」

ヌーベルトキオシティ方面から飛んでくるザンボット3の姿を見た舞人の目に血が入り、赤く染まっていく。

体力の限界を感じ始めた舞人の赤く染まる景色が揺らいでいった。

 

「飛龍の反応ロスト…パイロットは脱出し、ミフネの軍団は後退完了。ノルマは達成だな」

ティエリアを2丁のGNサブマシンガンの連射で動きを止めているロックオンがつぶやき、それに対してサーシェスは刹那と刃を交え続ける。

「後退だ、サーシェス」

「黙りな!まだ…」

「戦争はまだまだ終わらねえさ。あんたもまだまだ戦いたいなら、神様に逆らうのはまずいんじゃねえか?」

「ちっ…」

ロックオンの言葉に、目覚めたときに最初に見たある人物の姿が脳裏に浮かぶ。

納得はいかないサーシェスだが、今は従うしかない。

たとえそれが自分を半分消し炭にし、自分から戦争を奪った男の双子の兄の指図だったとしても。

フィンファングを収容したリボーンズガンダムがクアンタに蹴りを入れた後で背中を向け、トランザムで飛び去っていく。

それに対してライフルで攻撃しようとGNソードⅤを向けるクアンタだが、デュナメスが射線上に入る。

「どけ、ロックオン!奴は…」

「刹那、ティエリア…。お前たちが変わったというなら、感じてみろ。この世界に隠れた闇を。その時を待ってるぜ」

背中のGNミサイルコンテナが開き、同時に発射される8つの弾頭。

それらがデュナメスとクアンタの間で炸裂すると激しい閃光が起こり、刹那とティエリアが腕で自らの目を守る。

光が収まるとデュナメスの姿はなく、リボーンズガンダムとデュナメスの反応を追跡できなくなっていた。

「ロックオン…ストラトス…」

ティエリアも刹那も先ほどまで起こった自体の一部始終をいまだに信じることができなかった。

死んだはずのロックオンがサーシェスともども甦って、仲間であるはずの自分たちに牙をむく。

メリダ島の時は確証が持てず、別世界の話でも合ったことからフェルトたちには話さなかったが、こうして正面から刃を交えることになった以上は話すしかない。

「戻るぞ、刹那。このことを報告しなければ」

「ああ…」

刹那の脳裏に浮かぶのはかつて、ロックオンの、ニールの死を知った時に深く悲しんだかつてのフェルトの姿だった。

かつて、彼女はニールに思いを寄せていた分、今回の話の衝撃は計り知れないだろう。

そして、ニールの思いを受け継いだライル、今もロックオン、ライルも。

 

-ヌーベルトキオシティ付近 浜辺-

「はあ、はあ、はあ…くそっ!!」

浜辺に隼号が突き刺さるように停止し、そこから出てきたジョーが砂浜で転げるように倒れる。

ドリルが届く直前に隼号を起動して脱出したのはいいが、あくまでも車である隼号に当然飛行能力はない。

どうにか無理やり水中で動かして上陸できたが、そこで機能を停止してしまった。

幸い、戦闘データは抜いているため、それをヴォルフガングへの手土産にすることはできる。

だが、太陽炉を取り外しており、マイトガインとの連戦だったとはいえ、飛龍を撃墜されたことはジョーにとってはショックであり、拳を地面にたたきつける。

相手が負傷した状態での出撃だった分、そんなものは言い訳でしかない。

「くそっ…!結果は1勝1敗…だが、分が悪いのはこちらか…!」

飛龍撃墜の知らせはすぐにヴォルフガングに届き、救助に来てくれるだろうが、今のジョーにとってはそれよりも舞人に敗北したという事実が重要だった。

悔しさが込みあがり、いくら地面を殴っても解消できるものではない。

「ジョーさん!」

「…!」

聞き覚えのある少女の声が聞こえ、体を起こそうとするジョーだが、戦闘での影響が体に出ているのか起き上がれない。

そばに寄ってきた少女がジョーの視界に顔を見せる。

「お前は…」

「サリーです。ジョーさん…救急セットを持ってきました。怪我をしていると思って…」

サリーは慣れた手つきで救急セットを使い、ジョーの負傷箇所の消毒を行っていく。

消毒液が染みるが、それを顔に出すそぶりを見せない。

おとなしく治療を受け、しばらく黙り込んでいたジョーがようやく口を開く。

「なぜ、俺にかまう」

彼女が舞人の正体を知っており、彼を心配するならわかる。

あの戦闘のことをどこまで知っているのかはわからないが、こういう時は敵であるジョーよりも舞人の元へ駆けつけるはず。

その不条理がジョーにはわからない。

「ジョーさん、あなたは私を助けてくれました。ですから、今度は私の番です」

「…勝手にしろ。治療が済んだらさっさと離れるんだな。お前も、悪党の名前と勘違いされるぞ」

「ジョーさん…なぜ、あなたはマイトガインと戦うのですか?勇者特急隊は、みんなのために一生懸命戦っているのに…?」

見ず知らずのはずのサリーを助けたジョーをサリーは悪人とみることができない。

きっと、舞人が戦っている悪党たちと一緒にいるべき人ではないとサリーには思えた。

その気になれば、そのもとから離れることもできるだろうに。

「俺は悪党だ。俺が正義と戦うのは自然の成り行きだ」

「そんなことありません。あなたは私を助けてくれた!そんな人が…悪党だなんて…。お願いです、もう…勇者特急隊とは戦わないで」

目に涙をうかべ、体を震わせるサリーにジョーは顔を背ける。

どうにか体を起こしたジョーは彼女に顔を向けず、口を開く。

「お前は、何もわかっていない。正義がどうした?正義というだけで、すべてが守れるとでもいうのか?この世界で」

たったの3年間でこの世界で起こった2度もの大戦、そしてそれ以前に世界各地で起こり続けた世界のゆがみ。

もし正義ですべてが守れるというなら、そんな惨劇は起こらなかった。

「それは…」

「そんなもの、弱者が作り上げた夢幻に過ぎない」

その言葉にサリーは反論できなかった。

サリーもまた、この混迷する世界の住人の一人なのだから。

「…俺の父親は科学者として、とある研究に関わっていた」

「え…?」

「俺は子供心にも、科学者として優れ、優しい父を心から尊敬し、誇りに思っていた」

当時の国連による一方的な軌道エレベーター建設と太陽光発電への移行の為に石油の輸出規制に反発した中東諸国による武力行使から始まった太陽光発電紛争。

ジョーの幼少期はそれがようやく終結したものの、中東の疲弊と混乱が続いていた頃だ。

中東だけでなく、世界各地でも紛争が発生しており、当時のユニオン等の諸勢力も軍拡にいそしんでいた。

機械工学に関わる人間であれば、そうしたモビルスーツや艦船といった軍事関係へ進むことが多い中。ジョーの父親はそれに興味を抱かず、無人ロボットやワークローダーの研究をしていた。

戦争のためではなく、軌道エレベーターやコロニー建造に人命救助のためのロボットの製造、それこそが混迷する世界に光を当てることができる。

そう信じて研究する父親を幼いジョーは間近で見てきて、将来は父親を助けるために研究者かテストパイロットを志していた。

だが、その日常は一瞬にして崩壊する。

「だが、悪党に目をつけられた親父は脅されて、逆らうこともできずに、散々利用された挙句、ボロ雑巾のように捨てられた!」

「そんな…」

「その時、俺ははっきりわかったんだ…。正義など、この世には存在しない。倒すか倒されるかのどちらかしかないのだと…」

あの時、ジョーに力があれば、その悪党を滅ぼすことができただろうが、幼い彼にそんなことができるはずがなかった。

警察に助けを求めてもどうにもならず、相続されるはずだった財産も根こそぎ悪党の手に落ちた。

何もない少年は児童養護施設で過ごすこととなり、それから授業料がかからず、住居と食事も保証してくれるユニオン管轄の軍学校に入り、そのまま入隊した。

日本にとどまり、ASAの軍隊に入ることも考えたが、当時の各地の紛争に自国の利益のために介入を続けているユニオンであれば実戦を積むことができるチャンスがあり、力を得られると思ったからだ。

「信じられるのは己の力のみ…正義など何の役に立つというんだ!?旋風寺舞人のような正義の味方面をした奴を見ていると、吐き気がしてぶっ殺したくなる!!」

「そんな…」

「わかっただろう…俺は、その程度の男だ。わかったなら、すぐに離れろ。手当をしてくれたことには感謝する」

「ジョーさん…」

大きな振動音と共に海が割れ、潜水艦が姿を見せる。

そこから発進した迎えのための飛行機に隼号と共にジョーが回収されていく。

その様子をジョーの言う通り離れた場所でサリーは見ていた。

(ジョーさん…けれど、けれど私は…どんなに理不尽なことがあったとしても、正義を信じる。舞人さんを信じる!)

 

-ヌーベルトキオシティ 青戸工場 医務室-

「ルンナちゃん!」

戦闘が終わり、あとのことを他のメンバーに託した浜田が医務室にノックもせずに入り、目的の人物の名前を呼ぶ。

ちょうど治療を終えていたルンナの右足には包帯がまかれており、右の頬には絆創膏が貼られていた。

「工場長から聞いたんだ!怪我をしたって…」

「戦闘に巻き込まれちゃって…心配させてごめんなさい」

「そっか…でも、よかった…。大したことがなくて…」

一気に気が抜けた浜田がその場に座り込み、同時にその場にいる全員が聞こえるほどおなかが鳴る。

さすがに恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染める浜田にルンナは思わず苦笑する。

「浜田君…お弁当、作ってあるから…一緒に食べる?」」

「…うん!」

 

-青戸工場 屋外-

(そうだ…それでいい、浜田君、彼女を幸せにするんだぞ)

医務室からかすかに聞こえる二人の幸せな笑い声。

それを聞いたアキトは笑みをうかべ、静かにその場を後にしようとするが、そんな彼の前に1台の車両が止まり、助手席からメイが降りてくる。

「アキトさん、ここにいたんですね!」

「どうした?」

「それが…ナデシコのアキトさんの部屋にこれが」

メイから渡された古びた封筒。

そこにはアキトの名前と黒百合の絵が描かれており、送り主の名前は書かれていない。

「メイちゃん、誰が置いたかはわかるか?」

「わかりません。念のために監視カメラも確認しましたが、誰も姿も映っていなくて」

中身を見ていないアキトだが、直感でこれを渡したのが誰かはわかる。

(奴め…その気になれば、証拠無しで皆殺しにできると言いたいのか…!?)

「アキトさん…?」

アキトの顔から出てくるナノマシンの光。

メイのおびえた表情を見たアキトは我に返ると、受け取った封筒をしまう。

「すまない、おびえさせてしまった…」

「いえ、それから…アキトさん。ブラックサレナのことですが」

「俺の機体が、どうした?」

「これまでの戦闘での負荷もあったので調べたのですが、もう…機体そのもののフレームにガタが来ています。ヤマトで作った補修パーツで修繕はしていますが…おそらく、もう限界です」

「そうか…」

メイの言葉に対して、アキトは特に驚くそぶりを見せていない。

元々、ブラックサレナは3年前の戦争でアキトが搭乗していたエステバリスを北辰と戦うために許容範囲を超えたスペックにすべく改修したものだ。

四肢を固定する事で剛性を高めているとはいえ、それでも限界が来る。

「ナデシコの整備班のみんなが頑張ってくれていますが、おそらく次がブラックサレナの最後の出撃になるかと…」

「わかった、ありがとう。伝えてくれて」

まだ手紙は読んでいないが、北辰が求めているものが何かはアキトにはわかる。

それが確かなら、この1回で十分だ。

(北辰をこの手で葬る。そして、あとは…)

 

-プトレマイオス2改 ブリーフィングルーム-

ソレスタルビーイングのメンバーが集まり、そこのモニターに表示されるデュナメスとリボーンズガンダムの姿。

モニターの前にはナインの姿もあり、一通りの映像と録音された音声をゴーグルをつけた状態で確認し、終了すると同時にゴーグルを外す。

「解析結果が出ました。デュナメス、リボーンズガンダムのパイロット…ロックオン・ストラトス…いえ、ニール・ディランディとアリー・アル・サーシェスと一致します」

「やっぱり…そうなのね」

「ヴェーダにアクセスして確認しましたが…同じ答えです」

ナインとアニューの結論が本当を言うと外れてほしかった。

だが、そんな思いをくみ取るほど真実は優しくない。

サーシェスが生きていたことについては怒りを感じずにはいられないが、ニールについてはどう考えればいいのか、誰も結論を出せない。

あのニールが刹那とティエリアに攻撃し、家族の仇のはずのサーシェスと共闘しているなど、誰も信じたくはない。

「兄さん…。…フェルト?」

ブリーフィングルームを飛び出していくフェルトを見たロックオンだが、彼女を追いかけるだけの余裕が今の彼にはない。

ニールはともかく、サーシェスについては1年前の戦いで確かに自らの手で殺害している。

得意の早撃ちによって正確に彼の脳天を銃弾でぶち抜いているのを確認している。

戦後にカティを中心とした連合軍によるソレスタルビーイング号の接収作業の際に彼の死体が確認されたこともヴェーダに記録されており、彼が死んだことは間違いないはずだ。

彼をこの手で始末したことで整理がついたはずの心が再び乱れるのを感じる。

「フェレシュテにも確認をとったわ。デュナメスリペアは彼女たちが管理している。強奪された痕跡はない。リボーンズガンダムの残骸も、連合軍の管理下よ」

「となると、デュナメスもリボーンズガンダムも再生産されたものとみるべきだな。どちらも、新しく作るのは難しい話ではない」

3年前ならともかく、今は連合軍がヴェーダを管理しており、必要であれば当時生産されたガンダムのデータを手に入れることもできる状態だ。

なお、連合軍がヴェーダを通してどのようなデータを確認したかはスメラギ達も確認できる状態で、ソレスタルビーイングの動向にかかわる情報については現在の最高権限所持者であるティエリアによってシャットアウトされているが、それ以外のガンダムの技術に関しての情報については最高機密なもの以外は閲覧できる状態で、その中にはエクシアをはじめとしたかつてのガンダムのデータもある。

それと疑似太陽炉、そしてイアンのような専門家がいれば、再生産はできるだろう。

「ロックオンが言っていた…。お前たちが変わったというなら、感じてみろ。この世界に隠れた闇を。その時を待ってる…と」

「刹那…」

「…あいつの様子を見てくる」

フェルトを追いかけ、ブリーフィングルームを後にする刹那。

ロックオンが刹那とティエリアに残した言葉。

その言葉に対してスメラギの脳裏に浮かぶのは火星の後継者や始祖連合国だ。

(ロックオン…あなたが追いかけているものは私たちと同じなの?それとも…)

 

-プトレマイオス2改 廊下-

「フェルト…」

廊下の壁に顔を向け、動かないフェルトに刹那が声をかける。

刹那の言葉に返事をしない、する余裕のないフェルトの様子に刹那は声をかけず、ただ隣に行くだけだった。

しばらく何も語らない時間が過ぎ、やがてフェルトが口を開く。

「ロックオンが…生きてるって話を聞いたとき、ちょっとだけ、ほっとしたの」

「フェルト…」

「薄々、思ってたから…実は生きているかもって…」

ロックオンの遺体を見ていないフェルトはあの時ひどく悲しんだが、それでもどこかで彼の死を信じたくないという気持ちがあった。

それは今でも残っているが、時間をかけて心の奥底にしまい込んでいた。

百歩譲って生きているとしたら、1年前の戦うの時に自分たちを放っておくはずがないのだから。

だが、そんなロックオンが再び刹那達の前に現れた。

それを映像と言葉、音声で知っただけでもフェルトが受けた衝撃は測りしてない。

だが、本人の顔を見て、声を聴かないと信じられないという自分も存在する。

「フェルト…ロックオンに、彼に伝えたい言葉はあるか?」

「え…?」

「もしかしたら、これからの戦いで顔を合わせる時があるかもしれない。その時は…どういう形になるかはわからない。だが…できるなら、俺はロックオンと話したい。確かめたいんだ。俺が、俺たちが…あいつの思いを成し遂げることができたのか、俺は…変わることができたのかどうかを…」

「刹那…」

「その時に、フェルトの言葉も伝える…。考えておいてくれ」

 




機体名:ユーコン(ヴォルフガング改修型)
分類:輸送型潜水艦
建造:ジオン公国軍(ミスターX改修)
全長:不明
武装:魚雷×4、対空機銃×8
主な艦長:ヴォルフガング

DG同盟結成後、武装ロボット等の整備及び改良に貢献したヴォルフガングへスポンサーであるミスターXが提供した潜水艦。
元々は宇宙世紀世界の潜水艦であり、経緯は不明であるものの、それを入手したミスターXが改修を施したうえで西暦世界の地球における支援艦とした。
武装よりも母艦機能および航行速度を重視した設計に見直されており、武装については魚雷と対空機銃を必要最低限に装備するのみとなっている。
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