スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第67話 黒VS赤

-火星の後継者 本拠地(仮)-

火星でヤマトと交戦し、ドラゴンや謎のパラメイルなどのイレギュラーの介入を受けた火星の後継者たち。

戦闘後、調査のためにやってきた地球連合軍から逃れるために火星から逃亡した彼らは現在、この場所に潜伏している。

兵員だけでなく、研究資材や兵器も数多く運び込むことに成功しており、そこで研究を継続している。

草壁はヤマサキが自ら提出した資料を見た後で、彼の笑みをうかべた顔を睨む。

「報告書の通り、例のサイコフレームによる思念波の増幅だけでは、演算ユニットを完全に制御することは不可能ですね、残念ながら」

νガンダムから抜き取ることに成功したサイコフレームは確かに思念波を利用した兵器を使用するためのシステムを小型化することに役立つなど、大きなポテンシャルがある。

しかし、やはり異世界の技術であること、ボソンジャンプそのものが思念波以上にナノマシンや遺伝子の影響も大きく受けることになる。

より多くの、モビルアーマーレベルのサイコフレームを用意できればもっと話が変わる可能性があるが、現状では調達などできるはずがない。

サイコフレームを製造するとしても、サイコミュ機能を持つ金属粒子レベルのコンピューターチップを作るだけの技術が今の火星の後継者にはない。

「そのため、A級ジャンパー抜きではボソンジャンプの転移先は指定位置から最大500メートルぐらいの誤差が生じてしまいます。まぁ、通常の戦術への利用としては十分かとは思いますが」

かつての戦争において、例えばアラスカ基地やダイダロス基地への奇襲攻撃を想定するのであれば、多くの部隊をそれを利用して順次転移させるといったやり方をすれば連合軍に動揺を与え、陥落させるといった使い方ができるだろう。

そういう点では、ヤマサキのこの成果は上層部が諸手を挙げて喜ぶことだろう。

しかし、火星の後継者の規模ではそうはいかない。

「これでは…最終作戦には使えぬ、か」

火星の後継者の目的、それは連合議会の無血占拠だ。

少数の兵力を議会内にピンポイントに潜入させて議員や大統領を確保することで、木連とプラントの立場を向上させること。

副大統領は不在だろうが、閣僚すべてを抑えた状況から副大統領が臨時の戦時体制を構築するには時間がかかる。

また、プラントの協力者が時が来れば動けるように準備をしてくれている。

だが、動くにはその前提としてこの無血占拠作戦の成功が何よりも重要で、わずか500メートルの誤差ですべてが狂うことになりかねない。

「これは…もっとA級ジャンパーを確保しておくべきでしたねぇ」

「ボソンジャンプの力を独占するため、多くのA級ジャンパーを暗殺したこと…それがここで仇になったということか…。だが、まだA級ジャンパーはいる」

「天河アキト…ですね」

「そうだ。奴を再び手中に収める。そのための力はある」

ミスターXだけでなく、ここの基地を手にする際に新たな支援者を見つけることができた。

彼からは本来であれば正規軍でなければ手に入らないはずの兵器まで手に入れることができ、火星での決戦時までとはいかないものの、戦力は回復しつつある。

「北辰、手はずは任せるぞ」

「心得ております」

火星での戦闘後、支援者から提供された新たな資材によって強化された夜天光。

これであれば、己の愉悦を果たすことができる。

(黒衣の復讐者、天河アキト…。だが、復讐を望むは我らとて同じ。貴様と我々、どちらの執念が勝るかな…?)

 

-アルゼナル 指令執務室-

日本を離れ、エリアDに到着したナデシコ隊。

到着し、機動兵器や戦艦のメンテナンスが開始する中でスメラギとジルによる会談がここで行われる。

「…以上が、転移した先の世界、宇宙世紀世界で我々が経験したすべてよ」

「宇宙世紀世界…そこに奴らの巣があるのか…」

こんな話、本来ではあるが一蹴するものではあるが、ドラゴンの話や実際に行方不明となった時期やその時の状況から考えると一概にファンタジーとは言い切れない。

それに、提供された戦闘映像には確かにドラゴンの姿がある。

「この情報については、どう扱うか…。それはアルゼナル司令であるあなたに一任するわ」

「なるほど…人払いしてわざわざ話すだけの価値はある。そして、それを始祖連合国ではなくアルゼナルに伝えるということは…」

「そうよ。始祖連合国に対して、ソレスタルビーイングは不信感を持っている、ということ。彼らは二度の大戦においても、表面上は地球側として協力体制にあったけれど、どこか他人事めいた距離があった。その彼らが関与するドラゴン、そしてアルゼナル。そこにゆがみがあると感じるの」

「世界と戦ってきただけのことはある、ということか…」

「聞きたいのはそんな言葉じゃないのよ、ジル」

不信感を抱いているのは始祖連合国だけでなく、ジルに対してもだ。

彼女もまた、始祖連合国と同じように重要な何かを隠している。

確かに戦力としてメイルライダー達やパラメイル、その整備班を同行させてくれた。

契約があったとはいえ、その点については感謝している。

しかし、彼女が隠している何かはその歪みの正体と大きく関係しているように見えた。

「答えて、アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ」

「気づいていたか」

彼女の表情が固まる中で、スメラギが見せたのは1枚の写真。

それはジルによく似た容姿をした幼い少女であり、少女がかつてのアンジュのような高貴な服装で両親と共に巡行している姿だった。

「ノーマに関する情報をヴェーダで集めていた時に見つけたの。これは…確か、10才の頃のあなたね」

始祖連合国の構成国の一つであるガリア帝国の皇女、アレクトラ。

16年前、彼女は病によりこの世を去ったと皇帝自ら発表し、葬式も行われた。

記録上、彼女はガリア帝国内にある皇族の墓地に眠っているとされている。

数年前に皇帝も他界し、現在のガリア帝国は彼の弟によって統治されている。

「始祖連合国皇族からの初めてのノーマ…それがあなた」

「昔の話だ…。そんなものを持ち出したとしても、私からは何も引き出せないぞ」

「私が知りたいのは真実…そして、あなたの真意。あなたが私たちを利用するつもりなら、それでもかまわない。けれど、目的とゴールについては聞かせてもらうわ」

「その口ぶり…察しているのだろう?さすがはソレスタルビーイングの戦術予報士だな」

「ごまかさないで、アレクトラ」

「言っただろう?何も引き出せないと。だが…ここまで情報を提供してくれた以上は、何らかの見返りは用意せねばな。貴様らが不在の間の情報、オーブのカガリ・ユラ・アスハとアザディスタンのマリナ・イスマイールが消息を絶った」

「なんですって!?」

「ヴェーダでも、探れなかったようだな」

「それだけの情報を、あなたはどうやって手に入れたの?」

「目と耳は広げている。アルゼナルから出ることはできない以上、人を使うことにはなるが。そして、その犯人についても知っている。ヴェーダすら及ばない存在、奴はそういう存在だ。そして、奴が私の敵でもある」

もっとも、そのための目と耳の存在は一時期途絶えてしまったことがあり、それにより、始祖連合国内の精密な情報をつかむことが難しくなった。

しかし、幸いにも使える人間が戻ってきてくれたおかげで完全とまではいかないが、情報を再び入手できるようになった。

先ほどの情報はそこからもたらされたものだ。

(イオリア・シュヘンベルグの計画、人類の新たな段階への覚醒…。そして、それによる旧来から続く世界をゆがめる存在の打破…。ヴェーダの及ばない存在、それがイオリアの探していた真の敵だというの…?)

 

-アルゼナル 格納庫-

「アキトさん…ブラックサレナの準備が整いました」

メイたちアルゼナル整備班によって出撃準備が整えられたブラックサレナが滑走路に置かれる。

新たな兵装に変更された両肩部分の増加装甲など、日本を離れる際にネルガル重工から提供されたパーツへの換装作業も完了している。

「ブラックサレナ…A3型か…」

「アキトさん、わかっていると思いますが、この戦闘で、もうブラックサレナは…」

「わかっている。これで全部終わらせるさ。整備と補給、ありがとう」

優しく頭を撫でられ驚くメイを通り過ぎるように離れたアキトはコックピットに乗り込み、リアクトシステムでブラックサレナと接続する。

「同期完了…あとは、俺次第か。ブラックサレナ、出る」

スラスターに火が入り、浮上したブラックサレナが飛び立ち、あっという間に見えなくなる。

それを見送るメイ達の元へルリがやってくる。

「行ったんですね、アキトさん」

「はい…」

アルゼナルに来たもう1つの目的、それはエリアD内に潜伏している火星の後継者を壊滅させることだ。

火星から逃れた彼らの居場所の情報をネルガル重工がつかみ、ブラックサレナの追加パーツと共にソレスタルビーイングに提供された。

情報の根元は分からないものの、行ってみる価値があるのは確かで、その情報を受け取ったアキトは真っ先にエリアDへ向かうべきだと進言したことで決した。

「けれど…火星での戦闘データを考えても、A3型で北辰衆に対抗できるかどうか…」

特に北辰が乗る夜天光との戦闘において、アキトは手も足も出なかった。

ミラージュコロイドセンサーを搭載したことで、ステルスに対しては対抗できるが、それだけでは不十分といえる。

「せめて、あれが完成していればよかったですけれど…」

「仕方ありません。火星の後継者に時間を与えるわけにはいきませんから…それに」

「それに?」

「アキトさんなら、勝ちます。必ず」

 

-エリアD-

ドラゴンもパラメイルもなく、ただ静寂のみが存在するはずの海域。

そこには夜天光1機のみが存在し、パイロットである北辰はそこでただじっと待ち続けている。

「そろそろか…」

義眼が妖しく光るとともにブラックサレナが現れる。

それと同時に北辰は通信をアキトとつなげる。

「待っていたぞ、天河アキト。わが願いを聞いてくれたことに、まずは礼を言わせてもらう」

「…」

「火星の後継者はもはや風前の灯火、我が望みはもはや貴様との決着のみ」

言葉だけなら、ライバルの純粋な最期の願いだろうが、北辰というフィルターによってそれがとてつもなく空虚に感じられる。

アキトが日本で北辰から受け取った手紙、そこには位置座標と1対1での決闘を望むことのみが記載されていた。

「決闘か…」

「貴様も、それが望みであろう」

「お前とかわす言葉などない」

「そうか…ならば…滅!!」

いきなりミラージュコロイドステルスによって夜天光が姿をくらます。

同時に、ブラックサレナのツインアイが青く光り、姿を消した夜天光を探す。

「そこか…!」

位置を特定し、ハンドカノンを連射するが、即座にミラージュコロイドステルスを解除し、風に舞う落ち葉のようなしなやかな機動で回避しつつ、ミサイルを放つ。

集団でのミサイル攻撃であればともかく、北辰単独でのミサイル攻撃では大した弾幕ではなく、直撃コースのミサイルをハンドカノンで撃ち落とし、誘導してくるミサイルを水面ギリギリでの飛行で逃れていく。

「跳躍…!」

ニヤリと笑った北辰がボソンジャンプを発動し、アキトの正面に現れると同時にディストーションフィールドを展開して突撃する。

いきなりの出現によって反応が一瞬遅れたブラックサレナの頭部がひしゃげるものの、それでも展開したディストーションフィールドで対抗する。

「なかなかいいものではないか…新型の相転移炉というものは」

元々、夜天光は木連にとってはナウハウも概念もなかった、6メートルクラスの友人機動兵器をコンセプトに開発されたものだ。

それを草壁の手腕によって得られたノウハウを元に開発し、なおかつ勝利を追求するためにゲキ・ガンガー3の要素を捨てたことで完成した。

しかし、小型相転移炉の技術については未熟で、最初はバッタなどの小型無人兵器のジェネレーターを転用していたため、仮にその時の仕様のままであったなら、ブラックサレナに力負けしていただろう。

今の新型相転移炉であれば、ミラージュコロイドステルスも機体全体を覆うディストーションフィールドもできる上に、新たな武器も使える。

これがあえてディストーションアタックを頭突きのようにした理由。

後ろ腰にマウントしているライフルを右手で握り、銃身がブラックサレナのディストーションフィールドを突き破る。

「爆ぜよ」

「…!!」

つららが刺さるような殺気にアキトはブラックサレナの機動をわずかに上へ向ける。

同時に発射されたビームがブラックサレナの左足を貫き、爆散した。

ディストーションフィールドはビームに対して圧倒的な防御力を発揮するものの、何らかの手段でフィールドの内部に侵入され、撃たれたら何も意味がない。

おまけにエステバリス系統の機動兵器の装甲材は内側からのビーム攻撃を想定しておらず、ブラックサレナも例外ではなかった。

追加装甲で防御力が上がっていて、ディストーションフィールドがあったとしても、今のような攻撃をされては無意味だ。

(あのライフル…エステバリスの重力波ビームライフルとは違う…)

「もう1度仕掛けるといい、いくらでも相手となろう」

見せびらかすように、夜天光の左腕からビームトンファーを展開する。

「北辰…お前だけは!」

ビーム兵器はなく、ブラックサレナの防御とディストーションアタックを突破する手段を持つ今の夜天光にはかなわないかもしれない。

だが、アキトの脳裏に浮かぶユリカや犠牲者たちの姿がアキトの逃げ道をふさぐ。

ハンドカノンを連射しつつ、再び突っ込むブラックサレナ。

左足を失ったことで崩れたバランスをリアクトシステムで制御する。

「ふっ…」

ディストーションフィールドを展開せずに突撃するブラックサレナに北辰は後退しつつライフルとミサイルで攻撃し、その弾幕の中をブラックサレナがかいくぐる。

同時に両肩の兵装が展開し、手のない腕といえるパーツが夜天光に向けられる。

アキトが引き金を引くと同時に展開されたパーツから発射されるグラビティブラスト。

ナデシコに搭載されているものと比較すると出力が低いものの、初速を伸ばす方向で調整されている。

その成果は出ており、夜天光はいきなりの攻撃に反応が遅れる。

しかし、グラビティブラストであってもディストーションフィールドに対しては効果が薄いことには変わらず、それによって夜天光は自らのダメージを軽減する。

装甲にダメージを負うが、戦闘続行には支障がない。

そして、グラビティブラストによる攻撃でエネルギーを消耗したブラックサレナは即座にディストーションフィールドを展開できない。

その隙に反撃に出ようとする夜天光だが、背後から強い衝撃を受ける。

前にのけぞるような形で倒れた状態の夜天光が態勢を整え、北辰は自らを攻撃した端末を見る。

「面白い武器を手に入れたものだな」

根本部分が赤く塗られ、ブラックサレナと同じ黒で塗装された刀身とワイヤー。

メリダ島で改修されたレイザーに搭載されたテイルブレードがブラックサレナにも装備され、リアクトシステムによってより変幻自在な動きが可能となっていた。

五分五分の勝負となりつつある状況に北辰の義眼がギラリと光る。

これまでの北辰衆を率いた戦いではないとはいえ、ここまで戦えるようになったアキトは北辰にとっては想定以上だ。

火星での戦いの時よりもはるかに強くなっている。

「よくぞここまで…貴様の執念、見せてもらったぞ」

「すべてはお前たちを…いや、お前を倒すためだ」

「愛しい女を、救うためではなかったのか?」

「…」

本来であれば、北辰を倒すことはユリカを救うための手段に過ぎなかったはずだ。

だが、心の中でアキトはユリカを救うことをあきらめているように北辰には思えた。

だから、自らと愛する者の未来を壊した北辰に執着する。

だから、北辰を殺すことにこだわる。

そして、それによってどんどん人間をやめていく。

そんな外道へとなり果てていくアキトを北辰は見たくて仕方がない。

「どちらにしても、貴様の目的が果たされることは…ない。貴様との一騎打ち、愉悦であったぞ」

「…!」

周辺にボース粒子の反応が数多く発生する。

やがて粒子が収まると、北辰衆やマジンや積尸気の軍団が出現する。

「安心しろ、貴様を殺すようなことはせん。貴様が有用な実験生物であるからな。捕獲させてもらおう」

アキトにとって、この状況は絶望的と言えるだろう。

高機動ユニットのない状態のブラックサレナはボソンジャンプができず、逃げようにも包囲されているうえにいくらか損傷のある今の状態では現実的とは言えない。

できることとすれば、修羅となって1機でも多くを撃破するために戦い抜き、囚われの身となることのみ。

「やはり、罠だったか」

「それは承知の上で来たのであろう?それでも、貴様は独りで来た。復讐にとらわれ、己の手で決着をつけることにこだわりすぎたのだ」

本気で復讐の鬼になり果てるのであれば、道連れにするための仲間を引き連れていくべきだった。

そして、自分ではなく自分よりも高い実力を持つ仲間に決着を託すこともできただろう。

だが、アキトにはそのようなことはできない。

そうであれば、最初からリョーコやルリをはじめとした仲間に頼るはず。

それだけ、アキトは己の闇が仲間や大切な人たちを蝕むことを恐れている。

「所詮、貴様の闇は只のまがい物。黒衣をまとったのみ、心の底まで闇になり切れん。だから、かつての仲間たちを…陽のあたる場所に住まう者を己の復讐に巻きこめんのだ」

だからこそ、北辰はこのような作戦を立てた。

アキトを絶望させ、なおかつ草壁の目標を達成するために。

あとはじっくりとアキトを完全に闇へ落すだけ。

そうして歪みゆく彼を見たい。

「…貴様は、俺のことをよく知っている」

そんな相手だからこそ、アキトはこれまで北辰に勝つことができなかった。

常に一歩先を行かれ続け、取り逃がし続けた。

相手のことを知り尽くされたのであれば、それは当然の帰結だ。

「…一か月前までの俺のことを」

「何?」

「お待たせしました、アキトさん!ナデシコ、トレミー、マサアロケットマイルド偽装解除を!!」

ハーリーの通信が入ると同時に、遠距離で海上の景色がゆがむ光景が夜天光のカメラに映る。

その歪みの中から因縁のナデシコ、そしてプトレマイオス2改、マサアロケットマイルドが姿を現す。

3隻を覆っていた何かはやがてもう役目を果たしたといわんばかりの巨大な黒い布へと変化していき、海へ落ちていく。

「うまくいきましたね、艦長!」

「ええ。ですが、こんなものまであるとは思いませんでした」

3隻が使用したのはモルゲンレーテ社で開発されている布製外装で、それにはミラージュコロイドを定着させる特殊な布が採用されている。

これを使用することで、たとえ特殊な装備を施していなくても、使い捨てではあるがミラージュコロイドステルスを使用できるようになった。

最も、地球上では音の問題が解決できていないことには変わりないため、音の反応をキャッチされない遠距離までしか偽装が行えず、ノウハウの少ないアルゼナルでは調整を行うのが難しかったため、ギリギリのタイミングにはなったが、それでも奇襲を仕掛けたと思った相手の裏をかいたことで与えた動揺は大きい。

「待たせたな、騎兵隊の到着だぜ!」

更に、付近で大きな水柱が発生すると同時にそこからヴァングレイとダブルオークアンタが姿を現す。

その2機がアキトをかばうように立ち、動揺している火星の後継者の機動兵器をレールガンとGNソードVで撃ちぬき、切り裂いていく。

「男のタイマンを邪魔する奴は、馬に蹴られて三途の川だ!いくぜ、野郎ども!!」

「ま…予想通り罠だったわけだがな。スーパーエステバリス、行くぜ!」

リョーコ率いるエステバリス隊を戦闘に、ナデシコ、ソレスタルビーイング、アルゼナル、オーブの機動兵器が発進していく。

マサアロケットマイルドでも、ダイファイターとマイトカイザーが出撃準備を完了していた。

「それでも、万が一に備えて、馬蹄を現すまで静観することにしていたが、案の定だったな。ダイターン3、出るぞ!」

「これが、アキトさん曰く、悪党のお約束ってわけですね。マイトカイザー、出る!」

「天河アキト…貴様…」

「一人で来い、という約束を破ったなどとはいうなよ?北辰」

北辰は一か月まえまでの、火星での戦いの時までのアキトを知り尽くしていただろう。

だが、アキトもまた、これまで辛酸をなめつくしてきただけあって、北辰のことを知ってきたところだ。

それをメガノイドのことを知り尽くしている万丈と共有し、プロファイリングした。

ミスリルにもプロファイリングの専門家がいて、その助力を得られたことも大きく、それによって北辰がどう動くかをある程度想定できるようになった。

その結果が今の状況だ。

「ぬうう、馬鹿な!?」

「隊長が、作戦を読み違えるだと!?」

「よそ見をするな!」

動揺しているのは北辰六人衆も同じで、その隙をつかれる形で一人がダブルオークアンタの刃のサビとなる。

(だが…いくら奴らを倒したとしても、本丸を倒さなければ、また出てくる)

ネルガル重工の調査で、北辰六人衆の復活のロジックは分かっている。

彼らはイノベイドと似たものであり、連邦内の火星の後継者のシンパを介して流出したと思われるイノベイドの製造技術で生み出された肉体に意識データを入れることで疑似的な不死の状態としている。

最も、ジャンパーとなるためのナノマシンをもった肉体を形成することが重要であり、脳量子波を補助するためのナノマシンの技術までは手に入らず、それ故に脳量子波を使うことはできないようだが。

「奴は…仲間には告げず、必ず一人で来ると踏んでいたのぬ…!」

「天河アキト、貴様に矜持というものは…がぁ!?」

言い終わらぬうちに、ブラックサレナのテイルブレードでコックピットを貫かれた六連が小さな爆発を起こした後で海へと落ちていく。

返り血のように六連のオイルで濡れた刃がブラックサレナへと戻る。

「矜持…?そんなもの、犬に食わせた。北辰の言う通り、かつての俺であれば、一人でこの場所まできて、自分の力だけで決着をつけようとしただろう」

そこにはきっと、もうユリカに会えないという諦め、北辰に勝てない負け戦だという確信が心のどこかにあったからだろう。

そんなことに巻き込まないために、一人で戦った。

そして、そうした場合、もう既にこの場で討たれるか、死ぬよりも辛い地獄を味わうことになっただろう。

「だが…今の俺は違う!あいつに会うまでは…地を舐め、泥をすすり、誇りを捨ててでも生きる!!」

「アキトさん…かっこいい…」

「それが…本当の強さ、か…」

アキトの決意の言葉を通信で聞いたチトセとナインの赤く染まる顔を想像し、にやけるソウジだが、同時にそういう思いを抱くアキトをうらやましくも思えた。

何もかもを失っていたかつてのソウジにできない決意を抱いているのだから。

「ふっ…策は失敗か。ならば、正面から奴を大切な者ごと叩き潰すのみ」

「それ…出来ると思わないことね、私たちの前で!!」

「言っておくけどよ、お前らのことを怒っているのはアキトの兄ちゃんだけじゃねえからな!!」

発進し、アキトのもとに駆け付けるアンジュたちメイルライダー隊とザンボット3。

勝平はともかく、アンジュにとって、アキトと関わった時間はわずかしかない。

だが、もしアキトの立場が自分であり、ユリカの立場がシルヴィアであったなら、こんなことを許せるはずがない。

「天河アキト、俺たちがフォローする!」

「その間に、彼との決着を!」

増援の部隊が次々と到着するナデシコやソレスタルビーイングらに釘づけにされていく。

「北辰!お前はアキトが黒衣をまとっても、心の底まで闇に染まらなかったなどと言ったが…それこそがアキトに力を与えた!」

「ふっ…波嵐万丈、貴様がそんなことを言うとは…滑稽な。ならば、その甘さごと叩き潰そう!」

「北辰!俺はお前を倒し、この黒衣を脱ぎ捨てる!」

ディストーションフィールドを展開したブラックサレナが夜天光に向けて突撃する。

目の前に迫るブラックサレナを前に北辰は笑みをうかべる。

確かに、読み違えによって計算が狂ったことは認めるしかない。

だが、読み違えを犯したのは自分だけではない。

この場所に大切な者を、ルリを連れてきてしまったことの意味をまだ何も理解していない。

「跳躍!」

北辰の言葉と同時にボース粒子が発生した夜天光がディストーションアタックが命中するギリギリのところでボソンジャンプを起こす。

「消えた…どこに!?」

「ここだ」

次の瞬間、ナデシコの背後に夜天光が姿を現す。

ディストーションフィールドを展開しようにも、懐に入り込まれた状態ではバリアにすらならない。

「まずい…サブロウタさん!!」

「頭をつぶせば、それで終わろう!」

ブラックサレナとの戦闘で使用したビームライフルの照準が相転移エンジンに向けられる。

艦橋よりも大きな的であるそれに向けてビームが次々と発射される。

「お前ーーーーー!!」

フライトモードに変形したヴィヴィアンのレイザーに騎乗した状態のスーパーエステバリスが北辰に向けてライフルを放つが、今度はミラージュコロイドを使って姿をくらます。

「消えやがった!?どこにいやがる!!」

「(このザワザワした感じ)…そこ!!」

レーダーに何も反応がないにも関わらず、レイザーから放たれるテイルブレード。

真上から艦橋に向けて攻撃を仕掛けようとした夜天光を襲い、それに気づいた北辰は攻撃を断念する。

「ほぉ…ミラージュコロイドはもはや無意味か…。だが、奇妙なものだな…」

ミラージュコロイドステルスに対応したセンサーを使ったとしても、ほぼ即座に位置を特定することはできない。

北辰としてはここで艦橋をビームで蒸発させるつもりでいた。

だが、相転移エンジンが破壊された今のナデシコには戦う手段も防御はない。

脱出した彼らを攻撃する手段はいくらでもある。

「相転移エンジン、出力上がりません!艦長!」

「オーバーホールを行ったとしても、もう…ナデシコは限界です。総員、速やかに脱出の準備を」

「ルリちゃん!!」

北辰を追い、ナデシコへ向かうアキト。

スーパーエステバリスとレイザーが北辰と交戦しているものの、彼らでは北辰を抑えきれない。

2機の攻撃を既に見切っている。

「天河アキトの心のよりどころよ、今ここで果てるがいい」

「やめろーーーーー!!」




機体名:ブラックサレナ(A3型)
形式番号:不明
建造:ネルガル重工およびナデシコの現地改修
全高:8メートル
武装:ハンドキャノン×2、テイルブレード、ディストーションフィールド、グラビティブラスト
主なパイロット:天河アキト

宇宙世紀世界から帰還したアキトのブラックサレナをネルガル重工から提供された追加パーツとナデシコと合流している整備班が調達したパーツによって改修されたもの。
両手代わりとして機能していたマジックハンドは撤去され、代わりに宇宙世紀世界で改修されたレイザーのものとほぼ同型のテイルブレードが装備されており、リアクトシステムによってアキトの感覚通りの動作が可能となっている。
また、両肩に追加されている畳んだ二本腕というべきパーツはグラビティブラスト発射装置であり、これによって低下した火力を補強している。

なお、ブラックサレナの本体については既に限界寸前となっていることから、これがブラックサレナの最終バージョンとなる恐れがあり、簡易的なシミュレーションにおいても北辰衆に勝利する可能性はわずかであると推測されている。
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