スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第68話 黒衣の王子

-エリアD-

「やめろーーー!!」

最大スピードで飛ぶブラックサレナだが、間に合うはずがない。

引き金を引こうとする夜天光と愉悦を感じる北辰。

だが、コックピット内に警報音が響き、複数の熱源を感知する。

「ミサイル…?」

直掩のスーパーエステバリスとレイザーのものではない、モビルスーツに搭載する大きさのミサイルにわずかに反応が遅れた北辰はやむなく艦橋への攻撃をあきらめ、直撃コースのミサイルのみをビームライフルで撃ち落としてその場を離れる。

「レーダーに反応のしない機体…?そのようなものが奴らの戦力には…」

地球とプラントの協力者やミスターXからの情報では、今のナデシコが所持する戦力にミラージュコロイドステルスかそれに相当するステルス兵器については、例の使い捨ての布型外装のみ。

他にはそのような兵器を所持していないはず。

離れる北辰にヴィヴィアンとサブロウタが対応する中で、小島に不時着する形となったナデシコBからルリ達が出てきて、彼女たちの元へ紺色のモビルアーマーが出現し、降下する。

頭部と思われる場所は三連ターレットが追加されたアッガイのような見た目に知る人が見えるかもしれない。

「かか、艦長!?」

見たことのない兵器にまさか火星の後継者が拘束しに来たのではと思ったハーリーは震えながらもルリをかばうように立つ。

「大丈夫ですよ、ハーリー君。あれは助けです」

「え…?助け?」

「急いでください!キャバリアーであれば、皆さんを安全に輸送できます!」

キャバリアーと呼ばれたモビルアーマーのメガライダーには及ばないものの広々としたコックピット内でルナマリアに似た顔で、下ろして編み込んでいる赤い髪をヘルメットで隠した、黄色いセーターと黒いスラックス姿の女性、メイリン・ホークが受け入れ準備に入る。

「キャバリアー、試作機が完成していたみたいですね。急ぎましょう、皆さん」

ルリの脳裏にはオーブで開発中の試作モビルアーマーの姿が浮かんでいる。

モルゲンレーテ社で開発されている支援用モビルアーマー、キャバリアーアイフリッド。

先ほど北辰を追い払うのに用いたミサイルと奇襲のためのミラージュコロイドステルスだけでなく、大出力のビーム砲に機銃まで装備された至れり尽くせりな機体で、話を聞いたときはまだまだ設計段階で完成には程遠い状態だった。

それがこうして目の前にドンピシャなタイミングで現れた。

(まさか…とは思いますが…。それに合わせて心の準備だけはしておいた方がよさそうですね)

ルリ達を収容したキャバリアーが離陸し、再びミラージュコロイドステルスでその身を隠すとナデシコのいる小島から離れていく。

その様子を窓からルリはじっと見つめていた。

(ナデシコB…ありがとう…)

 

「北辰…!」

増援と二人の助けによって追いつくことのできたアキトが再び北辰に迫る。

ルリをしとめることはできなかったものの、それでもナデシコをつぶすことができたため、北辰は平常心を見せる。

「よもや、我らが軍勢はこれだけとは思わぬな?」

「何?」

「闇はもうすでに汝らのそばに来ている」

「スメラギさん!敵の増援が接近中!モビルスーツ、数30!」

「これは…全部、連合軍の機体ですぅ!」

「連合軍、ですって!?」

トレミーのセンサーが掴んだ増援部隊がモニターに映る。

ミレイナが言う通り、ウィンダムやアヘッド、GN-XⅢ、ユークリッド、ザムザザーといった連合軍の各種モビルスーツやモビルアーマーで構成されたものとなっており、アヘッドとGN-XⅢの白い塗装姿はスメラギ達にとって見覚えのあるものだった。

(前に現れた識別信号のない機体…?)

「反応を確認!これは…始祖連合国の無人機部隊と思われます!」

「この状況で何をしに来やがった!まさか…!」

ラッセの悪い予感が的中し、増援の無人機部隊が前線で戦っているソウジ達に向けて攻撃を開始する。

「こいつら…ハロ!!」

「ビット展開、シールドビット展開!」

ハロが制御するホルスタービットがサバーニャから展開され、耐久性の低い小型機を中心に増援部隊の弾幕から守るように展開する共に、ライフルビットⅡで迎撃を仕掛ける。

重力下による制限はあるものの、それでも守りを固めるには十分だった。

「あいつら、俺たちを狙って!!」

「まさか…!」

突然の敵の増援と彼らの火星の後継者を守るような動き。

シンは焦りを見せる中、刹那は彼らの中の闇をわずかながら看破する。

「ふふふ…奴らは我らの協力者の一つだ」

「なんですって!?」

「あいつら…テロリスト共とつるんでやがったのか!?」

サリアもヒルダも、始祖連合国から捨てられた人間であり、国に対しては未練はない。

だが、そんな国であっても火星の後継者のようなテロリストと関係を持つようなことはないだろうと心のどこかで思っていたが、それすらも今回裏切られた。

「人の性は闇…そして、闇が集まることでその暗きを増す。それは光を閉ざし、踏み込む者に絶望を与える」

「うるせえ!こんなの、まとめて薙ぎ払ってやる!!」

啖呵を切った勝平はバックパックにマウントされているイオン砲をザンボット3に装備させる。

「イオン砲を使う!みんなは射線上から離れろ!!」

「エネルギー回路をMCR回路に直結!」

「シンクロトロン密度8.75!」

「バイオニックコンデンサー全段直結!」

イオン砲発射のための回路の接続変更とエネルギーチャージ。

最初にザンボット3でそれを発射した時は最終決戦でバンドックの頭部を破壊するためで、その時はキング・ビアルのうちのビアルⅡ世とビアルⅢ世を敵への特攻によって失ったことで発射不能となっていたことからの緊急措置だった。

その時の無理な発射が原因でザンボット3はムーンアタックをはじめとした高エネルギー兵器がエネルギー不足によって一時的に使用不能となり、頭部を失ったバンドックに対して不利な戦闘を強いられることとなった。

今のザンボット3リペアはイオン砲発射を想定して整備されているため、その時のような状況に陥ることはないだろうが、それでもエネルギー不足に陥ることは避けられない。

短時間でもムーンアタックなどが使えなくなるが、それでも増援部隊を蹴散らすことができ、今回は神ファミリーだけで戦うわけではない。

「発射準備OKよ、勝平!」

「ぶちかませぇ!」

「うおおおお!!イオン砲を食らえーーー!!」

ザンボット3からのエネルギー供給を受けて発射されるイオンエネルギーの奔流。

大出力の熱源を探知したザムザザーがタンホイザーをも受け止めた実績のある陽電子リフレクターを展開して受け止める。

「悲しいぜ、バンドックを破壊したイオン砲でも…」

「まだだぜ、全エネルギーをイオン砲に!!」

「そんなことをしたら、ザンボット3が動けなくなるわよ!」

「一人じゃねえんだ!やれーーー!!」

「ああ、もう!どうなっても、知らねーからな!!」

こんなことは、ほぼ孤立無援だったガイゾックとの戦いでは死んでもしなかったが、今は状況がいい意味で違う。

それに、無人機の軍団相手であれば人間を心配する必要はない。

宇宙太と恵子によってザンボット3のエネルギーすべてがイオン砲へ供給され、出力が一気に増大する。

瞬間的にでも、タンホイザーを上回る大出力を発揮したイオンエネルギーの光が陽電子リフレクターごとザムザザーを焼き尽くし、後方にいる無人モビルスーツ部隊をも飲み込んでいく。

だが、それでも射線上にいなかった無人機たちが押し寄せるが、それでも多くの敵機を撃破したことで状況はわずかに改善する。

「まったく、思い切ったことをするな、君は」

エネルギー切れとなったザンボット3をかばうようにダイターン3が立ち、そこで緊張の糸が切れた勝平はコックピットにもたれると同時に、ようやくひどい汗をかいていたことに気づいた。

 

-プラント 最高評議会議員執務室-

「中佐、配置については手はず通りに完了しております。あとは、合図が来るのを待つのみです」

「しくじるなよ、このために我々はどれだけの屈辱を耐えてきたか…わかっているな?」

「ええ、散っていった同胞のためにも…必ずや」

通信が切れ、今のこの部屋の主である茶色い髭面と大きな鼻をした中年の軍人が席に座り、部下の言っている合図を待つ。

合図をするのはこの男、プラント最高評議会国防委員長であるハリ・ジャガンナート中佐ではなく、自身に支援を申し出たスポンサーだ。

地球における同胞である火星の後継者や地球連合軍に散らばった旧木連の軍人たちによる決起。

これが成功すれば、地球に住まうナチュラル共は屈することになる。

そして、今の穏健でナチュラルにいいように利用されている愚かな議長、ワルター・ド・ラメントを引きずり下ろし、プラントとコーディネイターを一つにする。

これでようやく、イノベイドなどというものの傀儡になった愚かなナチュラルに鉄槌を下すことができる。

ジャガンナートの脳裏によみがえるのはこのたった3年の間に起こった数多くの戦いで散っていった同胞たちの姿。

皆、自分を信じて命令に従って、散っていた将兵たちだ。

戦えばナチュラルたちを屈服させ、世界を変える事ができると信じて彼らは死んでいった。

彼らを無為なものとしていく今を認めるわけにはいかない。

実際、連合軍は軍縮を行いながらもその中で宇宙における戦力の立て直しのためにと月面エンデュミオン基地の宇宙戦力などが再建されている。

そういった建前での軍の整備の続行を許せば、地力に劣るプラントはいずれ連合軍に屈することになる。

この決起はその状況を覆すためのものであり、決してプラントへの反逆ではない。

はやる気持ちを抑える中で、ドアをノックする音が聞こえる。

この時間にアポイントのある関係者はおらず、部下にも緊急時の連絡手段は厳命しているため、このようなことはないはず。

まさかと思ったジャガンナートだが、その答えは開かれた扉から入ってくる数人の軍人たちが思い知らせる。

「貴様ら、何のつもりだ!?」

「何のつもりだ…?それはこちらのセリフだ!ジャガンナート中佐!」

身柄拘束のために入ってきた兵士たちの指揮をしているのはプラント参謀本部の情報将校であるイザーク・ジュール中佐とその部下であるディアッカ・エルスマン大尉。

「シラを切られるのは嫌だから、これを見せてやるさ」

こういうことについては向いてないんだけどね、とまだまだ情報将校になり切れていない己を感じながらディアッカはタブレット端末を出し、そこにあるデータと動画をジャガンナートに見せる。

それを見たジャガンナードの表情が固まる。

「あんたとあんたの息のかかった連中の通信記録や物資の動向、通話音声に密会映像その他もろもろだ。とんでもないことを企ててくれたよな、まさかクーデターまで考えていたとは、いやはや、よかったよ。未然に防ぐことができてさ」

「ジャガンナート中佐、あなたの身柄は拘束させてもらう。あなたの背後にいる存在について、聞かせてもらうぞ!」

「おのれ…」

身柄を拘束すべく近づく兵士たちにジャガンナートの視線が向けられる。

だが、まだプラントの動きが取り押さえられただけに過ぎない。

地球にいる同胞たちが動き、火星の後継者の作戦が発動すれば、またすぐに覆すことができる。

この程度ではまだ終わっていない。

「言っておくが、地球連合にいるあんたのお仲間も全員拘束されたよ。地球からの助けは来ない」

現在、地球連合ではミスマル大将とマネキン准将により、地球にいる火星の後継者の協力者の拘束を行っている。

既に主要人物は数多く取り押さえられており、驚いたのはミケール大佐がその中に含まれていたことだ。

ミケールはムルタ・アズラエルやロード・ジブリール亡きブルーコスモスの首魁といえる人物で、1年前のアロウズ解体と共に連合を脱走していた。

軍という縛りがないことからテロリスト集団となり果てている彼らだが、ユーラシア連邦に潜伏していたところをマリュー・ラミアス率いるアークエンジェル隊によって生け捕りに成功した。

先日ザフトから派遣された、現議長の知人で元教師という異色の経歴を持つ軍人が彼女の副官となり、オブザーバーとしてとある人物が加わっていたことが成功率を上げたという。

ブルーコスモスであるミケールとザラ派であるジャガンナートは水と油といえて、彼らがつながっていたということについては誰もが想定していなかった。

もしくは、どちらもあずかり知らぬうちにつながっていたといえるのかもしれない。

協力者を拘束したとはいえ、火星の後継者最大のスポンサーと言える存在については何も情報をつかめていないのだから。

「私は…散っていった同胞のため、プラントの未来のために戦っただけだ!決して私欲ではない!散っていった者たちの血を、涙を、命を無為にしたこと…必ず後悔することになるぞ」

「ああ…そうかもしれんな…」

ジャガンナートだけでなく、ここにいる誰もが2度の大戦で家族や仲間などの大切な人を失っている。

ラスティ、ミゲル、ニコル。

イザークとディアッカも、死んでいった者たちの無念を忘れたことなど一度もない。

「忘れてねえよ…あんたに言われなくてもな…」

「だがな、これ以上の悲劇を繰り返さんためにも、ここで目をつむるわけにはいかんのだ」

イザーク達の部下の手で手錠をかけられ、銃を没収されたジャガンナートはイザーク達を睨みながら拘束されていく。

未然にクーデターを防ぐことはできたとはいえ、プラントへの反逆は重罪となる。

二度と娑婆に出ることはできないだろう彼をイザークとディアッカは見送る。

「しっかし、助かったな…。あの助っ人、いい仕事をしてくれたな」

「俺は気に入らんな。あの男、議長の許可があったとはいえ、俺たちの領分にまで首を突っ込んできおって」

髪や目の色がいろいろと複雑な関係であるあの男に近いのもあるかもしれないが、イザークはどうも今回の協力者に対しては好きになれない。

事件が解決したら、一度文句を言ってやろうと思ったが、そんな彼は今はもうプラントにはいない。

「いろいろ事情があるんだろうよ、今は一人で地球へ直行か…まったく、忙しい奴だねぇ」

「いくぞ、ディアッカ。まだ俺たちにはここでやらねばならんことがあるからな」

ジャガンナートは抑えたが、今回の黒幕を抑えない限りは再び似た事件が起きる可能性がある。

これから取り調べが行われるであろうジャガンナートからどれだけの情報を手に入れることができるのか。

いまだに正体をつかめぬ影にイザークは拳を握りしめた。

 

-エリアD-

「それで…メイリンさん。私たちの受け入れ先はどこになるのでしょうか?」

キャバリアーに乗り込み、一息ついたルリだが、エリアDの戦域を離れている状態である今の状況に疑問を抱く。

マサァロケットマイルドかトレミーに収容されるとばかり思っており、エリアDに他の戦艦が来るという話は聞いていない。

「もうすぐ例の座標です。皆さんにはそこにいるクルーと合流してもらいます」

「クルー…?」

「そろそろ来ますよ」

メイリンが言い終わらないうちに正面に発生するボース粒子。

粒子が終息して出現する存在にルリは大きく目を開いた。

 

「北辰!!」

「ふっ…」

ブラックサレナと夜天光が時にはディストーションアタックでぶつかり合い、時には距離を置いてテイルブレードとミサイル、ビームライフルの応酬。

お互いに目に見えるほどの損傷をそれぞれの機体に抱えていく。

「よくぞここまで…だが、それでも我を倒すには足りぬ。貴様を葬った後で、あの電子の妖精も貴様の元へ送ってやろう。それが、貴様への褒美だ」

「くっ…!」

決め手に欠けているのはどちらも同じはずなのに、アキトの焦りが増していき、それに対して北辰は平常心を保ち続けている。

北辰にとって、この状況すら愉悦であるならば、焦りを感じる必要などない。

それに対して、北辰衆の六連たちが援護に向かおうとするが、それを阻むのがリョーコ達のエステバリスカスタムだ。

「これ以上、てめえらの好きにさせるかよ!」

「奴ら…我らの傀儡舞いを…!?」

「それはもう何度も見たから!」

「やりすぎたんだよ、あんたたちは」

リョーコ達はこれまでの戦いで北辰衆たちに対して何も対策をしていないわけではない。

宇宙世紀世界にわたってから、アキトに無理やりブラックサレナに保管されている北辰衆の戦闘データを受け取り、それをキラに解析してもらったうえでシミュレーションを組んでもらった。

それをやりこんで北辰衆の戦い方を学び、パターンを読み取っている。

3人の中で一番の射撃の技量を誇るイズミがレールカノンでけん制して軌道パターンを限定させ、誘導したところをヒカルとリョーコでおいしくいただく。

幸い、六連は機動力を重視した設定になっており、わずかな被弾も命取りとなる。

「奴らめ、我らの動きを…!」

「お前らに殺された人たちの…仇だ!!」

誘導された六連の1機をリョーコのエスタバリスカスタムによるディストーションアタックが襲う。

グラビカルアンテナを二つ搭載したエステバリスカスタムの出力はスーパーエステバリスを上回り、六連のディストーションフィールドをたやすく打ち破ることができる。

六連はこれで撃破できるものの、問題は次々と現れる始祖連合国の部隊だ。

イオン砲で薙ぎ払った後も、別方面から次々と援軍が駆けつける始末だ。

(こっちも結構戦力はあるけどよ、このままだとジリ貧になるぜ…。どうすんだよ、ルリ、スメラギさんよぉ)

 

「あいつら…!こんなのまで出してきて!」

北方から現れた援軍の中にいるモビルスーツ形態のデストロイの姿にシンは怒りを抱く。

始祖連合国のカラーリングのされたそれだけでなく、直掩として同じカラーリングをされた複数のブレイヴの姿もあった。

「始祖連合国の奴らめ!ブレイヴをコピーしやがって!!」

アシアマフィアだけでなく、始祖連合国にまで流出したブレイヴにパトリックは驚きを隠せない。

おまけにいずれも無人機故に人間の限界を無視した機動を見せており、丁寧なことに1機は指揮官用のものだ。

そんな状況の中で、グラハムは笑みをうかべる。

「貴様らがコピーしたブレイヴが誠のものか、このグラハム・エーカーが確かめてやろう!全力で来るがいい!!」

 

「ったく、倒しても倒しても、次から次へと…!」

既に十数機の機動兵器は倒したと思っているソウジだが、いくら倒しても数が減らず、むしろ増えているのではないかという錯覚を覚える。

まるで始祖連合国そのものが本気で自分たちを殺しに来ているような気がして、もはやこの戦闘の相手が火星の後継者ではなく、始祖連合国ではないかと思えるほどだ。

「ソウジさん!ミサイルの残りが!」

「分かっている!!」

(各機、もう少しだけ頑張って!)

「スメラギさん!何か…作戦があるんですか!?」

「ええ…もうすぐ、切り札が到着するわ」

「切り札…?」

モニターに映るスメラギの笑み。

釣られるように笑ったソウジはポジトロンカノンによる攻撃準備に入った。

 

-火星の後継者 本拠地(仮)-

「おやおや、まさかこれほどの応援をよこしてくれるとは思いませんでした…」

「これならば、我々はまだ…!」

ヤマサキの言葉に続くように、幹部たちが安どの声を上げる中、草壁は沈黙している。

脳裏に浮かぶのは死んだ新庄のミスターXからの通信を聞いたときに見せた硬い表情。

彼はミスターXに対して不信感を抱いていた。

確かにこの基地を手にすることができたのはミスターXの支援があればこそ。

それについては草壁は感謝しているが、彼もまた薄々と得体のしれない何かを感じ取っていた。

今回の始祖連合国からの援軍については、つい先ほどミスターXからのメールで協力を取り付けたとだけ伝えられている。

(ミスターXにとって、我らは道化にすぎぬということか…)

援軍については分かったが、これほど大規模なものになるとは一切聞いていない。

これだけのものを送り込むとなると、もはや国家レベルの世界的な大企業でもない限りは不可能だろう。

(だが…やらねばなるまい。3年前に散った同胞たちのためにも…)

 

-エリアD-

「キャア!」

「クリス!!」

数多くの機動兵器を前に、疲れによって動きが鈍ったクリスがアヘッドのビームライフルを左腕に被弾してしまう。

吹き飛んだ左腕がビームの熱で消えていき、それを見たクリスはそれがビームを受けた場合の自分自身となるのかという考えが頭をよぎる。

「この野郎!!」

「クリスに手を出すんじゃねえ!!」

被弾したクリスを守るようにヒルダとロザリーが前に出て、ロザリーのレールガンがアヘッドの頭部のメインカメラに直撃する。

視界を失ったアヘッドのバックパックにヒルダがパトロクロスを突き立て、小規模な爆発を起こしたアヘッドが海へ沈む。

「みんな、疲れてきてる…。それに…」

ハンドガンでけん制するナオミは火星での戦いを思い出す。

あの時は火星の後継者だけでなく、ドラゴンや謎のパラメイルの軍団まで介入してきたことで絶体絶命の状況だった。

それと同じくらいの危機的な状況で、スメラギの言う切り札が本当に間に合うのかどうか。

「スメラギさん!重力波エネルギーが接近!目標は…西方の敵部隊です!」

「来たわね…」

フェルトの言葉で、スメラギは勝利を確信する。

ナデシコのような戦艦クラスの出力の重力波は飲み込んだ機動兵器が消し飛んでいく。

「これって…グラビティブラスト!?」

「でもよ、ナデシコは…」

戦艦クラスのグラビティブラストの一撃を放てる戦艦でヒカルとリョーコが思い浮かぶのはナデシコしかない。

だが、肝心のナデシコは不時着し、ルリをはじめとしたクルーはすべて退艦していて、グラビティブラストを撃てるはずがない。

(皆さま、大変お待たせいたしました。これより、我々は戦線に復帰します)

「ルリちゃん…」

アキト達の通信機にルリの声が響き、同時に戦線に入ってくるのがナデシコBに似た新たな戦艦。

重力ブレードが3本となっており、色彩が白と青のツートンだったBとは異なり、白と赤のツートンとなっているその戦艦の艦橋にはルリとハーリー、そしてかつてのナデシコのクルーであった女性、湊ハルカと彼女のもとで居候している少女、白鳥ユキナの姿があった。

ユキナは木連出身の少女で、3年前の戦いで草壁の命令によって謀殺された白鳥九十九の妹だ。

白鳥九十九はナデシコとの戦いに敗北した後、乗機を捨ててナデシコに侵入していたが、結局見つかって捕縛された。

そこでの交流でハルカと恋人同士となり、解放された後は地球と木連の和平交渉のために尽力した。

そのことに対して、地球人に対して当時敵対心を抱いていたユキナは兄をそうさせた原因であるハルカを倒すために漂流者を装ってナデシコに侵入したことでアキト達との関係ができた。

彼らとの交流によって地球への敵対心が和らぎ、兄の死後はほかに家族がいなかったことからハルカの世話になることとなった。

彼女は本来、今回の作戦に参加する予定はなく、家で過ごすはずだったのだが、かつての知人である葵ジュンを手玉に取る形で情報を手に入れ、彼の手引きで無理やり作戦に参加した。

「よし…ナデシコBとの通信OK、全データのバックアップをお願い、ルリちゃん!」

「了解。全データをナデシコBからナデシコCへ。ハーリー君、サポートをお願い」

「りょ、了解!」

このような事態に備えて用意されたバックドアからナデシコBのシステムに侵入し、これまでのデータがすべてナデシコCへと転送されていく。

これが終われば、ナデシコBは役目を終えることになる。

最後にメインコンピュータにオモイカネのプログラムデータが移行され、引継ぎ作業が完了する。

戦場において短時間で大容量のデータの行き来が可能となっているのは最新鋭のセンサーやシステムに更新されていること、そして上空にいるキャバリアーの存在だ。

キャバリアーの最大の武器は搭載されている火力でもミラージュコロイドでもない。

やろうと思えば宇宙要塞一つをハッキングすることが可能なほどの電子戦装備であり、それを単独でこなすことができるほどのハッキング能力を誇るメイリンがパイロットであることだ。

かつて、アスランがデュランダルへの疑念により脱走を図り、それに同行することになったメイリンに対する処置について、レイがデュランダルに彼女の危険性を訴えて、アスランもろとも討つべきと進言していた。

彼からもメイリンは情報戦のエキスパートであることが認められており、逃がすことによって多くのザフトの機密情報が漏洩することを恐れていたという。

なお、ミネルバのクルー出会ったときもメイリンはザフトのネットワークに保存されているアスランの個人情報をのぞいたり、アスラン脱走時にはホストコンピュータに侵入して偽りの警報を鳴らすといった芸当を見せている。

その時はアスランを逃がすために急いで行う必要があったことからアスランと共に逃げる証拠映像が残ってしまったが、今のメイリンであれば同じ状況に陥ったとしても、証拠を何一つ残さないでできる自信がある。

もしくは偽物の証拠を作って他人に押し付けてしまうなんてことも…。

「作戦終了、ナデシコ、キャバリアー着艦の許可を」

「お疲れさまでした。メイリンさん。着艦を許可します」

「ナデシコB…今までありがとう」

全データの移行が完了し、すべての役目を終えたナデシコBにルリは静かに感謝を口にする。

自分が艦長として初めて任され、一緒に戦ってきた仲間であった戦艦であり、彼女なりに愛着を感じていた。

「それにしても、どうやってナデシコCをここまで…」

ナデシコCの建造についてはアカツキからある程度話は聞いており、あと少しで完了することまではルリとハーリーも聞いている。

百歩譲ってエリアDに到着してすぐに完成したとしても、そこからクルーを用意してエリアDへ向かい、なおかつ火星の後継者と戦っているここまで向かうのはたとえエターナルを運用したとしても不可能だ。

「こんなこともあろうかと、ってな!ボソンジャンプをして大正解だぜ!もっとも、ジャンプする座標を聞いたときは、本当に大丈夫なのか心配したが…」

なぜか艦橋で興奮してはしゃいでいるのはかつてのナデシコのクルーの一人であり、現在は日本で町工場を営んでいるはずの男、瓜畑セイヤであり、一部を除いて彼のハイテンションぶりを無視して艦の制御に集中している様子だ。

「どうでもいいですけど、セイヤさん。どうやってボソンジャンプをしたんですか?さすがにご都合主義はなしですよ」

日本からエリアDまでの長距離のボソンジャンプを戦艦で行うのはA級ジャンパーによる制御がなければ不可能と言える。

イネスが死に、ユリカが行方不明となっている状況下で皆が知っているA級ジャンパーといえば、現在北辰と戦っているアキトしかいない。

もしくは知らないだけでだれかA級ジャンパーの確保に成功したとでもいうのか。

正確なボソンジャンプの座標の割り出しと効果的なタイミングと位置へのグラビティブラスト。

それが可能な人物はスメラギやカティ、マリュー、タリア、バルドフェルドといった歴戦の艦長を除いて、ルリが思い浮かべると一人しかいない。

「それはすべて…」

艦橋の扉が開き、そこから一人の女性が入ってくる。

入ってきた女性の姿にルリは目を大きく開くが、安心したように笑みを浮かべる。

3年前に身に着けていた艦長服姿の彼女はためた状態であえて通信をカメラ映像付きのオープンチャンネルに切り替える。

「私のおかげです!」

すべてのモビルスーツ、そしてこの付近にあるであろう火星の後継者の基地にもその映像、そして彼女の声が聞こえ、全員の動きが止める。

北辰と戦っているアキトも例外ではなかった。

「ユリ…カ…」

映像に映る青い髪と忘れもしない笑顔、離れ離れになった時と変わらないその姿。

脳裏によみがえるのは彼女と過ごした3年前の戦い、そしてルリと3人で一緒に過ごした平和な日々。

ナデシコCの艦橋にアキトの声が届き、それを聞いたことで彼女は口を開く。

「そう!あなたのかわいい奥さんの…ユリカだよ…ぶい!」

音声しか聞こえず、アキトの顔を見ることができないのをもどかしく感じつつ、姿を見ているであろう彼に向けて自分の無事な姿を見せる。

ようやく会えた、最愛の夫にユリカは声を震わせ、涙を浮かべる。

「ユリカ…ユリカーーー!」

「さあ、ルリちゃん!ナデシコCで存分にやっちゃって!」

「では、お言葉に甘えて…ハーリー君、ナデシコCの全システムをあなたに預けます」

「ええ、全部!?バックアップだけじゃないんですか!?」

これまでナデシコBではシステムのバックアップについては任せられることが多く、システムの多くの制御をルリに代わって行うことはあったものの、それは稀な話だ。

にもかかわらず、制御システムの多くがナデシコBと共通しているとはいえ、乗り込んだばかりのナデシコCでいきなり予行練習もなしで全システムの制御をおこなうなどハーリーにはとてもできるとは思えない。

「ダメ。私はこれから、ナデシコC最大の武器を使いますから、艦までカバーすることはできません。では…」

「か、艦長ーーーー!!」

せめて心の準備をすることすら許されないのかと悲鳴を上げる相棒に全システムを押し付けたルリはオモイカネとリンクし、ナデシコCの切り札を起動させる。

脳裏に浮かぶ数多くの情報、計算式などを読み解いていき、その中に異物となるキーワードや数字を組み込んでいくのをイメージしていく。

数秒のうちにそのイメージが敵機そして敵の基地に向けて落とし込まれていく。

増援として駆け付けた無人機たちは攻撃を止め、スラスターも動きを止めるとそのまま重力に惹かれるように海に落ちていく。

北辰や北辰集、そして火星の後継者の起動兵器たちも動きを止め、地面に落ちていく。

「ほぉ…」

モニターを埋め尽くすように表示されるクレヨンで描いたようなルリやユリカ、オモイカネの似顔絵やお休みと書かれた映像の数々。

それらが表示されると同時に動かなくなった自らの機体の操縦桿をテロリストたちは必死に動かす。

「くそっ!どうなっている、動け、動け!!」

「おいおい、いったい何がどうしたっていうだよ…」

動かなくなった敵をさすがに攻撃しないパトリックは相手が持っている武器だけを取り上げ、この異変に困惑する。

今この地域で動いているのは味方だけで、敵は全員何もできなくなった様子に驚きを隠せない。

「そうか…重力波通信を使った敵へのクラッキング…それによってシステムを掌握して、戦闘不能にしたんだ!」

かつて、ナドレやセラフィムのトライアルフィールドを使ってヴェーダのバックアップを受けていたモビルスーツ達をクラッキングしたことのあるティエリアだから、すぐにそれが分かった。

「まさに、戦わずして勝つ…。究極の兵法だ」

とはいえ、決して油断はしない。

だから、先ほどのパトリックに見習ってグラハムも動かなくなった機体の武装を手放させている。

「やったぁ!さすがはルリちゃんだね!」

「ユリカさん…」

「ユリカ…」

決してかなうことがないと思っていた親子の会話。

たとえそれがほんのわずかな幻であったとしても、それをかみしめずにはいられなかった。

 

-火星の後継者 本拠地(仮)-

「なんということだ…」

「基地機能も動かず、起動兵器もこのありさま…。まずいですねぇ」

もはや何もできない彼らの様子を映像で見ることすらできなくなった草壁は呆然とする。

通信兵たちがどうにかナデシコCからのクラッキングを排除しようとしているが、何も進展がない。

「おのれ…魔女め!!」

「地球連合軍の絶対アイドル…電子の妖精に対して、そんな言い方はないんじゃないか?」

「貴様は!」

開かれた自動ドアから入ってきた男に草壁たちの視線が向けられる。

そこには草壁にとっては怨敵といえるネルガル重工の会長である曉ナガレの姿があった。

この部屋の警備をしていた兵士は既に気絶していた。

「どーも、人呼んで元大関スケコマシ、引退してロクデナシ親方です。次は…何故ここに、なんて月並みは質問かな?」

「時間の都合もあるので、答えさせてもらう。この1か月、ネルガル・シークレットサービスが総力を挙げて、お前たちの行方を追いかけた結果だ」

ナガレの部下である大柄な男、堀井豪人がアサルトライフルを部屋にいる火星の後継者たちに向けられる。

一部の兵士が応戦するために銃を抜こうとするが、草壁が右手を出して静止する。

無論、この場所の特定はネルガル重工だけでは決定打となりえず、ユリカの助力やアキトから提供された火星の後継者に関するデータがあったことも大きい。

「そういうこと、もう君たちは包囲されている。戦力の大半をアキト君捕獲に割いたのが完全に裏目に出たね」

「貴様ぁ!」

ナガレの余裕な態度に耐え切れない兵士の一人が発砲しようとするが、その前に天井が砕ける。

砕けた天井から降りてきたのはエステバリスに似た姿で、両腕にクローを装備した純白の機動兵器だ。

「紹介させてもらうよ、これがわが社の新型機であるアルストロメリア。そして、そのパイロットは…」

コックピットが開き、その中にいるパイロットの男性が下りてくる。

その姿を見た兵士たちの視線が集中する。

「あ、あなたは…」

「もうやめろ、白鳥九十九が泣いているぞ」

「月臣元一朗中佐…」

「もう私は軍人ではない。今はネルガル・シークレットサービスの一員だ」

「というわけで、チェックメイトだ。まぁ、ナデシコCがルリ君の下に渡った時点で決着は見えていたけど」

やろうと思えば、アルストロメリアでここにいる火星の後継者を皆殺しにすることもできる。

だが、そうしないのは彼らの裏にある存在を突き止めるため。

その情報を少しでも多く手に入れるためにも、一人でも多く生け捕りにする必要がある。

「いかがかな?ネルガルのすべてを注ぎ込んで建造したナデシコ第二世代の最新鋭艦の性能は。それと、ルリ君が組み合わさることで、まさに最強の戦艦となる」

「金にあかせた俗物が…!」

「その何が悪い?少なくとも、自分の言葉に酔って、暴力で世界を変えようとする連中よりはマシなつもりだよ」

「くっ…」

「金持ち…なめるなよ…」

いつもらしからぬ、強い圧を込めて静かに草壁たちをにらむ。

アキトや今戦っている連中と比較すると、自分は正義の味方には程遠いだろう。

だが、金持ちとしての意地があり、そして目の前の人間たちのような存在になり果てるほど落ちぶれているつもりはない。

「…部下の安全は、保証してもらいたい」

「草壁中将!?」

「投降する…。我々の負けだ」

月臣とゴートらネルガル・シークレットサービスによって部屋にいる火星の後継者たちが次々と連行されていく。

彼らと入れ替わる形でエリナとプロスペクター、ラピスが入ってくる。

「ナデシコCの投入で、彼らの心が折れたみたいね」

「これも、ユーチャリスのおかげです。ラピスさんもお疲れさまでした」

「アキトの力になる…。それが、私の役目だから」

天井が派手に破壊されたとはいえ、月臣も負傷者を出さず、重要な装置が壊れないように手加減はしている。

ラピスとエリナの手で生き残っている装置への侵入が開始された。

(さて…アキトさん。ハッピーエンドを迎えられるか否かは、あなたにかかっていますよ)

火星の後継者を捕縛したことで、彼らとつながりのあるクリムゾングループは力を失うことになる。

ネルガルの利益を考えると、すでに目的は達したといえる。

経営者としては、そこから次のステップを考えるべきだろう。

だが、アキトの結末が果たしてリアルのような残酷なものなのか、それとも二流アニメのようなハッピーエンドか。

それはアキトとユリカだけしか決めることができない。

 

-エリアD-

「火星の後継者の皆さん。既に指導者の草壁中将は逮捕されました。基地も掌握されております。もはや帰る場所はありません。ただちに投降してください」

クラッキングを受けて動けない火星の後継者たちの機体にルリからの通信が入る。

まだ機体が動くのであればまだしも、もはや動けない状況ではとれる選択肢がない。

心の折れた構成員が投降のため、コックピットを開く。

「ほらよ、さっさと出てきやがれ!」

マジンから出ようとする構成員を見張るロザリーはアサルトモードのグレイブにまたがり、備え付けのアサルトライフルの銃口を向けながら誘導する。

これからやってくるスペースガードダイバーによって投降する兵士たちは収容することになる。

彼に続くように、投稿しようとする者が出始める。

「ふ、ふふ…ふ…」

動けない夜天光の中、北辰は笑いをこらえる。

なるほど、確かにこうなっては火星の後継者に逆転の目はない。

草壁が投降し、首脳陣も全員ネルガルの手に落ちた以上はもはや勝利はないだろう。

だが、それがどうした?

そんなもので取り上げることができるのは勝利の可能性だけ。

決して奪えないものがまだ手の中に残っている。

北辰の義眼が怪しい光を見せる。

「…!?」

「この感じ…!」

「刹那!」

「姉さん?」

イノベイターである刹那、ニュータイプであるチトセが急に感じ始めた違和感。

決して断言できない、だが…いわずにはいられない。

「下がって、みんな!」

「逃げろ!!」

「え…?」

機体を降り、戦いの終わりを感じた兵士の背後から発する光。

その光を見たロザリーはアサルトライフルを捨ててグレイブを下がらせようとする。

離れているグレイブとロザリーが見せた表情。

兵士はその意味を知る前に光に包まれ、消えていく。

投降の意を示した機体が次々と爆発を引き起こし、それが各機のモニターに映る。

「うわあああ!!なんだよ、これは!!」

マジンの爆発によってぐるぐると回転するロザリーのグレイブ。

ベルトで体を固定する余裕がなく、放り出されてしまったロザリーが捕虜収容のために近づいていたスペースガードダイバーから射出されたランチユニットに収容される。

開放されたランチユニットは吹き飛ばされたり落下する人を受け止められるクッションがあり、それによって受け止めるとそのままスペースガードダイバーの下へ戻る。

「ロザリー、大丈夫か!?」

「ロザリー!!」

寿命が縮んだのを感じるロザリーはヘルメットの通信機から聞こえる2人の友の声によって、ようやく安堵する。

「助かったぁ…」

安心感に浸りながらも、ロザリーがランチの中から見たのは海面にたたきつけられ、大破した自分のグレイブの姿。

アルゼナルにいるときは修理費などが頭に浮かんで混乱しただろうが、なぜか今は落ち着いてみることができた。

「自爆しやがった!?動けないんじゃないのかよ!」

クラッキングで動けず、許された動きはコックピットを開けるだけの状態の機動兵器がパイロットの操作で自爆などできるはずがない。

百歩譲ってやるとしても、今のルリであればすぐに察知して止めることができるはずだ。

どうしてこうなったのかソウジに理解できない。

だが、殺気を感じたアキトはすぐに理解した。

「貴様か…北辰!」

「然り」

夜天光や生き残っている六連、さらにはまだ投降の意思を示していないマジンや積尸気などの機動兵器たちが再び動き始める。

北辰と北辰衆はさも当然という様子でいる中、混乱しているのはほかのパイロットたちだ。

「なぜ動いた!?それに…操縦桿が動かないだと!?」

「これもあの魔女の仕業だというのか!?」

「艦長!」

「オモイカネと私のハッキングが及ばない領域…これは…」

ナデシコC最大の武器である強力なハッキングは決して無敵の存在ではない。

それは宇宙世紀世界で戦ってきたルリだからわかることだ。

世界が一つ違うだけで、プログラムやOSの構造と仕組みはかなり異なる。

そして、プログラムの領域を超えた存在もあることを知った。

例えば、νガンダムのサイコフレームやZZガンダムのバイオセンサーなどが。

その領域の力によって、北辰たちは再び武器を取る。

「さあ、戦え!貴様たち。ここから先、逃げることは私が許さん!命ある限りな…」

オープンチャンネルで抗戦を宣言する北辰が見せる笑み。

破れかぶれな様子が微塵もない、ただ純粋に戦いに興じようという姿。

北辰のそのありように鳥肌が立つのを万丈は感じる。

「理想に殉じるなど、この男の脳に微塵もない。ただ、己のエゴを満たすことのみに意味を感じているのが奴だ」

「手を出すな、万丈。たとえ奴がメガノイドであろうとなかろうと、奴に引導を渡すのは俺だ」

「アキト…」

「もう、俺に思い残すことはないからな」

薄々と感じていたとはいえ、このブラックサレナ最後の出撃のこの戦いで北辰に完全決着をつけることができるとは思わなかった。

少し前なら、たった一人ででも続けるつもりで、報われることなどないと思っていた戦いが今は多くの仲間に囲まれて行われている。

そして、ユリカの無事な姿を見ることができた。

この幸福感の中で、ブラックサレナの最期の役目を果たすことができるだろう。

「来るがいい、天河アキトよ!闇に踏み込んだ貴様は、闇に生きるしかないのだ!」

「終わらせてやるぞ、北辰!すべてを!!」

左目の輝きに連動し、赤いオーラに包まれていく夜天光。

それでも臆することなく、ブラックサレナは吶喊していく。

 




機体名:キャバリアーアイフリッド
形式番号:AMGS-X18P
建造:モルゲンレーテ社
全高:19.29メートル
武装:サヴィトリ超高インパルス砲×2、76mm連射砲、自律誘導中距離空対空ミサイル グランド、ミラージュコロイドステルス
主なパイロット:メイリン・ホーク

モルゲンレーテ社で開発中の支援機。
火力の強化はさることながら、対応環境が幅広く、大気圏内を単独飛行可能なことは勿論、水中を航行することもでき、大気圏突入にまで対応している。
その推力もミーティアに追従できるほどに高い。
また、機体側部に大量のサブスラスターを内蔵しており小回りも効く。
モビルスーツの稼働領域のさらなる拡大や兵員輸送機能などの多彩さ以上の武器が充実した電子戦用装備であり、理論上では優れたハッカーの搭乗が必要とはいえ、単独で要塞のハッキングを行うことが可能といわれている。
また、複数のキャバリアーアイフリッドによるSPC(共時性パリティ通信)を利用することで、地球から月までに至るタイムラグなしの超長距離通信を実現しているほか、有効範囲内にいるMSの遠隔操作をも可能としている。
エリアDに到着したのは最初に完成した試作機であり、運用試験については行われていなかったものの、火星の後継者制圧と今後の作戦のために必要な戦力であることからテストを中断し、前線へ送られることとなった。
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