その名も尊き課金魔術《完結》 作:ゆっくり番目
俺はスマートフォンを取り出す。
ガチャを回す。
「よし、いつも通りだ。落ち着いた」
つーか、なんだあれ。怪獣大決戦?
セイバーがセファールと呼んだ巨人と、魔術世界で最上級に危険視されているORTはお互いに睨み合っている。
単体で世界を滅ぼせる二体の存在が、ここに降臨し、戦いを始めようとしている。
今日こそ人類滅亡の日。
彼らは天を裂き、地を砕き、生きとし生けるものを殺し尽くすだろう。
そこに救いはない。
ただ運命を受け入れることだけが、この惑星に住む生命体に許された唯一の行為だ。
────本当に?
前に立つセイバーを見遣る。彼女は何も諦めていない。どんな絶望を前にしても彼女は毅然と立ち向かうのだろう。
…ならば、俺は。
巨人が光の刃を生成し、それを振りかぶる。
その一撃は雲を裂き、余波だけで周囲を灰塵に変えていく。直撃すればビルですらバターのように引き裂くであろうそれは、しかしORTが剣のように叩きつけた前足に受け止められる。
その衝撃は壁となって辺りの木々を吹き飛ばしながら、こちらに迫り────
「────概念礼装・葦の海」
────目の前で二つに割れた。
「…な!?」
こちらを庇おうとしていたセイバーは驚愕に目を見開いている。
さあ、高らかに叫ぼう。
其れは運命⬛⬛術式。
尊き魔術、その名を…!
「課金魔術、その真髄を見るがいい…!!」
『真髄』
課金魔術。ようはソーシャルゲームのガチャであるが、それで引き当てられるものは多種多様である。使い道の無いゴミを引き当てることもあれば、金銀財宝を引き当てることもある。その中には概念礼装と呼ばれるものがある。
概念礼装。文字通り概念をカタチにした礼装。あらゆる可能性を抽出し、術者の発動によって能力や効果として発揮できるようにしたものだ。先程の概念礼装・葦の海はとある奇跡を元にした礼装であり、これらを使えば普通の魔術師でもサーヴァントの手助けくらいはできるようになる。これこそ課金魔術の真髄…というわけではないが。はい、さっきはのりで言いました。すまない。
では、作戦会議である。セイバーから巨人についての概要を聞き出す。…成る程。破壊の化身。
「なら短期決戦といこう。狙うのはセファールだ。ORTは基本的に自分からは動かない存在だ。今回はセファールに叩き起こされたようだから、アレを倒せばまた眠りに就いてくれる可能性もあるだろう」
「…貴方はどうするのですか?」
「出来る限りの援護をするさ」
「それは…」
不安そうなセイバーに俺は胸を張り、自信満々に宣言する。
「俺のことは信じなくてもいいが、俺の課金額は信じろ!」
「…マスター、私は貴方を信じます」
困ったように笑って彼女は頷いた。
「行ってきます」
セイバーは背中から光の翼を迸らせて、破壊舞う戦場へと突撃した。
ORTは静かにその身を屈めると、次の瞬間その姿がかき消える。陥没した地面を背に、巨体に見合わぬ俊敏さでセファールの目前まで迫る。
水晶に染まった其処はもはやORTの領域だ。固有結界に似て非なるそれは彼が住んでいた環境へと世界を改変する。異星秩序が
セファールはそれを両手で防ぎきると、次は此方の番だと言うように、あらゆるものを溶かし尽くす光の柱を無数に周囲に向けて撃ち放った。
光はそこら中に大穴を空けつつ、水晶蜘蛛の身を焼いた。核兵器ですら傷を付けること叶わぬ身体にも通用するその光線にORTは一旦後ろに跳びずさった。ここまでで数秒にも満たない交錯である。
そこに飛び込む一条の光。
ギャラクティカセイバーは踊るように障害を避けつつ、光溢れる聖剣を片手に破壊の顕現へと斬りかかった。
「概念礼装・鋼の鍛練」
自らの耐久を上げ、戦況を見守る。セファールは虫を払うように腕を振り回すがそんな大ぶりな攻撃ではセイバーにかすりもしない。水晶に変貌した木々が粉々に砕けて舞う景色はそれなりに美しいが、見惚れている場合ではないな。
膝をつきかける。セイバーが戦闘に入った途端にこれだ。凄まじい魔力消費に、しかし。
「概念礼装・龍脈」
問題はない。管理者などいないだろうし、もしこの土地の魔力が枯れても誰も困らないだろう。いたとしたらごめんね。
「概念礼装・コードキャスト」
セイバーのステータスを一時的に引き上げる。彼女は巨人をその素早さで翻弄し、着実にダメージを与えていく。うとましそうに身体をよじるセファールにORTが隙ありとばかりに跳び膝蹴りを叩き込んだ。
その攻撃に後退りながら、セファールは局所的な攻撃ではセイバーに当たらないと見てとったのか、大地に腕を突き刺して一帯丸ごと地面を放り投げる。天地返しだぁ!
「概念礼装・三重結界」
大きな塊はマントで弾き飛ばし、小さな塊は結界に任せて突き進むセイバー。しかし横合いからの回し蹴りにたまらず距離を取る。ORTとは共闘しているわけではない。手加減は期待できないだろう。
三つ巴の戦いは膠着状態に入る。
さて、どうしよう。概念礼装にも限りがある。ガチャを回しつつ考える。金にも限りがある。いらないものを
うん。緊急事態だから。仕方ない仕方ない。
資金の心配はそれでなくなる。
さあ、無心で回せ。回転数が全てだ…!
▼
セイバーは自分の身体が時を経る毎に
視界の端にカボチャがよぎる。自分の攻勢に合わせてセファールを嘲笑うように浮遊し、追突して砕け散る。
最適な道筋が分かる。どうすればかの巨人に一撃を加えられるのか、次に何をするべきかが手に取るように分かる。
形勢不利を感じたのかセファールが地面に両手を振り降ろす。衝撃波をやり過ごし、まき上がる砂ぼこりの中を泳ぐ。目眩ましのつもりか。
「概念礼装・一の太刀」
マスターの声が聞こえる。目に見えずとも周囲の気配が完全に感じ取れる。その程度ならマスターの手を借りずとも可能だが、心遣いには感謝しよう。戦場のただ中にあって感じるそれに小さく笑う。
セファールは両手を合わせその中心に魔力を収束させている。大技を放つつもりか。聖剣に魔力を充填し、上段に構える。
「概念礼装・騎士の矜持」
…ふ。騎士の矜持ときましたか。
いいでしょう、ならば見るがいい…!
これが私の…!
────そうして、巨人の腕が宙を舞った。
▼
クリティカル・ヒット!思わずガッツポーズをとる。
セファールは左腕を斬り落とされ、もはや脱落は時間の問題だろう。
…いや、待て。
なんだ、アレは?
剣。三色の光が輝く剣。それを右腕で構える巨人の瞳には理性の色がある。
「
声が響く。魔力が渦巻き、光が瞬く。
其れは全てを壊す破滅の光。
アレは…駄目だ。
「避けろ…セイバー!!」
「────
閃光が世界を満たした。