インフィニットサムライズ~Destroyer&Onishimazu~ 作:三途リバー
時は少し巻き戻る。
千冬の鋭い声を聞いた豊久は、爆炎が迫り来るより一瞬早く目の前にあった自らの専用機へと飛び込んでいた。
展開の仕方やフィッティング、フォーマットなど何も分からぬが、本能が叫んだのだ。
ハイパーセンサーから脳が焼き切れる程の情報の奔流が流れ込む。
後方に熱源反応。機体情報未登録IS5機、操縦者不明、装備不明、推定出力──
(どうでん良か!!)
そう言わんばかりの強引な動作で、豊久は腰間の野太刀をひっ掴んだ。ハイパーセンサーによって360°に広がった視野には、こちらへ狙いを付ける5機のIS。
振り向きざまに振るわれた野太刀・波片はバターを割くように打ち出された熱線を切り裂き、背後二方向へ弾き飛ばした。ビームコーティングが成されているとはいえ、亜光速のエネルギー弾を寸分違わず両断してのけたのはひとえに豊久の技量によるものだった。
あらぬ方向へ飛んだ熱線が爆発を巻き起こすのを確認し、そこでようやく周囲を見渡すと、千冬と晴明は小型のビットによって爆炎を防いでいた。ISを使えない晴明が作り上げた護身兵装か何かだろうか。しかし警備員は何人か吹き飛んでおり、臓物の焼ける臭いが鼻を突く。
敵が誰か、何が目的か、分からないことは山積みだがそんなものは些事である。今この瞬間、目の前に敵がいる。首級がある。そして己は、それに刃を届かせ得る。
豊久にとって、戦う理由は充分過ぎた。
「チィエォォッッ!!!!」
飛び込み、裂帛の気合いと共に放った斬撃は寸分違わず敵の首元に叩き付けられ、火花を散らしながらエネルギーを削りとっていく。
人間味を感じさせない電子音が鳴り響き、敵は逃れようとブーストをかけるがその場に貼り付けられたように動けない。余りの斬撃の重さ、そしてその膂力に鋼鉄の巨体が縫い付けられていた。
「──…─……──!!」
「分かんねぇよぅ。何言ってるかさっぱり分からねぇ。
不可視のシールドごと圧し斬るように、強引に刀を押し込みながら豊久は言葉を紡ぐ。それはさながら、地獄の鬼の死刑宣告。
「死ねよ」
耐えられなくなったシールドが警告音と共に消滅し、絶対防御が発動した。鋼の巨体は力を失い、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
僅か一合、目にも止まらぬ決着だった。
無力化した残骸を蹴り飛ばし、豊久は再び刀を担ぐように構えるがその内心は晴れやかさとは程遠い。
(邪魔くさか)
絶対防御が、である。
一般のIS搭乗者からしたら頭がおかしいとしか言いようがないが、豊久はこの安全装置が鬱陶しくて仕方がない。
公式の試合ならばともかく、このような緊急時において、明らかな敵意をもって打ちかかってきた敵を完全に殺せぬというのは豊久にとってストレスだった。そのまま首と胴体を立ち割り、功名として掲げたいとの思いが増幅していく。
と、2機目がこちらへ向かってきた。
豊久は瞬時に袈裟斬りの姿勢から刀を身体の横に付け、前へと倒れ込むように水平切りを放つ。
(!)
先程とは明らかに違う感覚だった。受け止めた銃身ごと敵を両断し、尚も緋縅のスピードは落ちずに前へと進んでいく。
絶対防御を抜けた。切り裂いたのだ。
豊久が何かISの設定を弄ったわけではない。ただ、我に応えよと念じたただけだ。
「良か。やはり
気付けば緋縅は赤い光を放ちながら、その姿を少しづつ変化させている。尋常ではない熱さが全身を包み込むが、高揚しきった身体にはそれが心地良い。
大鎧の袖のようだった肩アーマーはブースターへと変化して小型化し、背中のスラスターもより鋭角的なデザインへ。どこか幾何学的だった各部の衣裳も、豊久の身体にフィットするよう流線型を形取る。
緋縅は、主にとって真の相応しき姿へと変わっていった
──カッッ!!!!
光が晴れ、そこに立つのは猩猩緋の戦武者。
肩と背中に刻まれた十字紋が、緋縅が真の意味で主の専用機となった事を示している。
「島津中務少輔豊久!推参!!」
その口上は鬼か、悪魔の産声か。
興奮冷めやらぬ表情のまま、豊久は敵へ踊り込んだ。
▅
そして時は現在へ。
「おーおー、派手な登場しやがって。主役は遅れてやって来るってか」
「もぉ、冗談言ってないで通信設備の復旧作業手伝って下さい〜!」
余裕の笑みで冗談を言ってのける信長と、文句を言いながらも手を動かすスピードを落とさない麻耶。双方共に、その視線はディスプレイに写し出された1人の少年に注がれている。
『首置いてけ!大将首だ!大将首だろう!なぁ大将首だろうお前!!』
瞬く間に3機を撃墜…というより
機体のボディカラー、そして迸る赤いエネルギーと相まってさながら血濡れの鬼か何かを想起させる。
正直、あんなのに迫られたら麻耶でも一目散に撤退を選ぶ自信があった。
『……が!信長!麻耶!!』
「チャ、チャンネル復帰しました!こちら管制室!島津先生、ご無事ですか!」
『こちら格納庫の島津だ。十月機関の警備員に死傷者が出たが、私の見る限り生徒やISに被害は無い』
「なんだ、せーめー死んでねぇのかよ。巻き込まれてくれても良かったんだがにゃー」
『茶化すな、言ってる場合か。
「それがどうにもアリーナのシステムを弄られたようでな。非常口がロックされてうんともすんとも言わん」
菅野とオルコットの試合が終わり、島津専用機が搬入されたタイミングを完璧に突いての襲撃。更に学園のシステムにも侵入し、生徒を巻き込んで混乱を助長している。
慣れているものの手際だった。
「今なんとかシステムを取り戻そうと教員総掛かりです。格納庫に向かう通路も火災用防壁が作動して閉じられていまして…あれ?じゃあ島津くんはどうやって…」
『あぁ、アレには私が許可を出した。障壁は人だろうが物だろうがISだろうが全てぶち破れ、大将首を取って来い、とな』
「だからあんなに張り切ってんのかよあいつ!!てかお前防壁直すのもタダじゃねぇんだぞ!!」
マイクに向かって怒鳴る信長の胃はキリキリと痛む。今現在の襲撃ではなく、その事後処理のことを思って頭を抱えているあたりがこの男らしい。
「ま、ええわい。代表候補生をぶちのめすより、謎のテロリストを瞬時に撃墜する方が遥かに
眼帯に覆われた顔に浮かぶのは邪悪としか言いようのない凄惨な笑み。生徒の命が危険に晒されているというのに、信長は心の底から楽しそうだ。
『む?…うむ、分かった。おい信長、十月が話したいそうだ。変わるぞ』
うげぇ、と発する暇もなく、間髪入れずに耳に男の声が飛び込んできた。
『信長殿!!信長殿!!!これは一体どういうことです!』
あまりの怒声に耳が鳴り、顔を顰めるが無視をする訳にもいかない。渋々と応答する。
「あー、その、なんだ…とりあえず無事か、おっぱい仙人」
『えぇ、まさかと思い持参した対IS防衛装置が役立ちましてね!いや今はそんなことはよろしい!我が機関に死者が出た事も、今この時だけは後に回しましょう!私が聞きたいのは
「怪物ぅ?あのいかにも量産機っぽいオモチャのことか?ありゃどう見てもISの出来損ない、十中八九無人機だろう」
『違う!私が言っているのはそんなことではない、島津豊久だ!』
晴明曰く、豊久の専用機である緋縅は実験段階ではあるが第三世代機であり、イメージ・インターフェースを利用した機能が搭載されているという。
本来なら、搭乗者のイメージ…平たく言えば敵を打倒するという闘争心、もっと簡潔に言うならば「やる気」を感知し、それに応じて機体自身の出力を口上させるという夢のシステム。
無論人の感情、ISコアとのリンクによって得られる力を完全に解析することは現状不可能であり、このシステムは発展途上どころか構想をまず形にしてみたという程度の試作段階の代物だった。
IS適性がBランクという豊久なら、試作機のデータ取りには役立つだろうとの考えで導入したという。また、望む武装が必要最低限だったため、拡張領域をそのシステムへと回せるということも実装の決め手となったらしい。
そんなデータ取り程度に考えていたオマケのようなシステムだが、十月機関は持てる技術の全てを結集したため晴明自身はかなり自信があった。人の感情、心によって力を増幅する…まさに夢のようなマシンへと一歩近付く、そんな計画だったのだ。
「はぁ、まぁそこまでは分かった。んでその大層なシステムがお豊とどう結びつく?」
『緋縅は…
「……なんだと?お豊はこっちでも3機玩具を墜としたが、その時も絶対防御は出なかった。あの出来損ない、無人機ゆえに絶対防御なぞ付いておらぬと思ってたが、まさか…」
『そうだ、そのまさかだ!豊久殿はシステムを発動し、緋縅はそれを利用した
▅
災厄のようなIS。
そう晴明が評した緋縅に乗り、豊久は目の前の惨状を見渡した。
吹き上がる炎。人の波に押し潰され、助けを求める声とそれを踏み越えて逃げ場を探す生徒。中破した翡翠のISに、その手に横たわる生身の人間。
「ようも、やってくれたのぅ」
ここにおいて豊久は理解した。今我が前に立つ女は、元凶である。この惨憺たる地獄を作り出した張本人である、と。
「やっぱり貴様の首などいらねぇ」
緋縅が激情に答えるように光を迸らせる。握りしめた波片から、赤い粒子が立ち上る。引き絞られた矢がその時を待つように、豊久はゆっくりと野太刀を上段に構えていった。
「貴様の首は要らん。命だけ置いてけ!!」
お気に入り300突破、誠にありがとうございますゲンジバンザイ。これからも頑張りますので、よろしくお願いしますゲンジバンザイ。
取り敢えず代表決定戦(だったナニカ)は次回で終わらせられるよう頑張ります。
次回
純真無垢
他愛なし
前途洋洋
『希望の未来へレディー・ゴー』