ちょっと間が空きましたが、前回の続きです。
実は『これでもうすぐ終わりだ!』って所で間違って消してしまって、しばらく意気消沈してました。
なので、ちょっと予定が狂ってしまい、高尾は今回は出ないです。
では、続きです。どうぞ。
蹴り飛ばされた火神を起こすべく、ベンチから立ち上がって手を差し伸べようとすると、先程火神を蹴り飛ばした女子が火神の首を締めあげはじめた。
「ちょっ!!監督、ギブギブ!!比企谷!!そこで見てないで助けてくれ!!」
「そんな事言われてもな.....」
見知らぬ俺が声をかけた所で止めるとは思えないんだが....。
どうしようかと悩んでいると、火神の首を締め上げながら、誠凛の監督らしい女子が話しかけてきた。
「ねぇ、あんたが腐り目って人?」
「え?はぁ....まぁ、そうですけど」
俺は火神の方をチラチラと見ながら質問に答えた。
せめて解放してあげろよ.....無言でバンバン地面を叩いてるじゃねぇか.....。
すると、俺の体をじろじろと見ながら女子がぶつぶつと呟く。
「なるほどねぇ。まさか、まだこんな化物がいるなんて.....完全にノーマークだったわ。でもどういうこと?こんな選手が千葉に居るなんて聞いたことないわよ....。大会でも見かけなかったし、何故かは分からないけど、足回りの筋肉が腕と比べて少ないわね。もしかして怪我?...だとしたら、去年の大会で見かけなかったのにも納得がいくけど....」
「マジかよこの人.....」
俺は思わず感嘆の息を漏らす。
少し体を見ただけで、そこまで分かっちゃうのかよ。流石に全国で優勝したチームの監督なだけはある。ある意味この人も化物だな。
俺が感心していると、誠凛の監督さんが急に何かを思いついたかの様に俺に言ってきた。
「ねぇ、ちょっとシャツをぬ「監督、それは駄目だ」.....何よ日向君、邪魔しないで」
急に眼鏡の男が話に乱入してきたな。日向って言うのか。一応覚えておこう。
「ダァホ。こんな寒い夜に、外でシャツ何て脱がしたら風邪ひくわ」
「そうだぜ監督。流石に外でシャツを脱が.....ん?
「伊月黙れ」
日向という人が一喝するが、怒られた人は気にもせずに手帳に何かを一心不乱に書き記している。
な、何なんだこの人達は!?
誠凛の監督がシャツを脱がそうとしていたことにも驚いたが、伊月っていう人が寒いダジャレを恥ずかしげもなく披露した事にも驚いたわ!!
......逃げるか。こんな変人達とは関わりたくない。
俺がステルスヒッキー(ただの忍び足)を発動して、さりげなくこの場から去ろうとすると、近くから声が聞こえてきた。
「比企谷君」
「誰だ?今名前呼んだの?」
誠凛の人は火神以外で俺の名前を知っている人は居ないと思うんだが....。
俺は声の聞こえてきた方向に顔を向ける。しかし、そこには誰も居らず、ただコートを照らすための街灯が有るだけだった。
「気のせいか.....」
『やれやれ....』と俺はこめかみに手を当てながら、頭を横に振る。
どうやら、体だけではなく頭まで疲れてしまっているらしい。まさか幻聴まで聞こえるとはな....。
帰りにマックスコーヒーでも買ってくか。糖分補給には丁度良い。
再びこの場から去るために、ステルスヒッキー(ただの忍び足)を俺は発動する。
すると、また声が聞こえてきた。見渡してみるも、近くには誰も居ない。
思わず俺は疑問を口にする。
「さっきから一体誰が......」
俺がキョロキョロと回りを見渡していると、さっきまで誰も居なかったはずの場所に男が出現して話しかけてきた。
「僕ですよ」
「うおおおぉぉぉ!?」
嘘だろ!?どこからでてきたんだよ!?さっきまでそこには誰も.....
思わず俺は後ろに後ずさる。
ん?このやり取りって、昔何度もやったような....。
一年前の事を思い出して、目の前の男の風貌に合致する人間を探す。水色の髪の毛に、小柄な体躯.....。
いや、体の特徴なんかよりも、この影の薄さの人間で、俺の名前を知っている奴なんて一人しか居ない。
「まさか......黒子か?」
「はい。お久しぶりです、比企谷君。1年ぶりですね」
目の前に居たのは、かつての同級生であり、元チームメイトの男。
黒子テツヤだった。
「黒子.....誠凛に入ってたのか....」
「はい。....比企谷君、少し二人で話しませんか?少し聞きたいことが有ります。すみませんが監督、皆さんを連れて先に帰ってくれませんか?今日は僕一人で帰ります」
「え、うん。わかったわ」
誠凛の監督の返事を聞くと、俺と黒子は、ここから離れるべく歩きだした。
すると、誠凛の監督が慌てて黒子に声をかけた。
「ちょ....ちょっと待って黒子君!!もしかして、その人と知り合いなの?」
「はい。彼は途中で転校しましたが、僕と同じ元帝光バスケ部、僕の元チームメイトです。では比企谷君、行きましょうか」
「あぁ」
俺と黒子が公園から出ると、遅ればせながら
『はぁぁぁぁぁ!?』
と、恐らくあの公園に居た人全員の叫び声が聞こえてきた。
反応するまでに随分と時間があったな。そんなに驚くことか?.....いや、そりゃ驚くか....。
そして、俺と黒子は夜の街へと消えた。(変な意味ではない)
◇
あの後、黒子が『サイゼリアで話しませんか?』と言ってきたが、俺が『俺の家で話さないか?親は今日出掛けて帰ってこねぇし、妹も友達の家に遊びに行ってるからな』と言った。
本来ならサイゼリア一択なのだ。黒子も俺がサイゼリア好きなのを覚えてて提案したんだろうが、ここからだと10分も歩くことになる。俺の家はここから歩いて3分ほどだから、俺は自宅を提案した。今なら部屋も引っ越し準備の影響で綺麗に片付いてるしな。
そして、俺の部屋に到着した。
「黒子、飲み物何にする?ちなみに俺のオススメはマックスコーヒーだ」
「マックスコーヒー....ですか。じゃあ、それでお願いします」
「分かった」
俺はマックスコーヒーをマグカップに注いで机に置く。そして、俺は黒子の向かい側になるように座った。
「で、聞きたいことって何なんだ?まぁ、大体の察しはつくが....」
黒子がマックスコーヒーを一口飲んで目を見開く。が、何も言うことなく俺に尋ねてきた。
「単刀直入に聞きます。どうして、去年のインターハイ、更にウインターカップに出場しなかったんですか?君の実力なら県予選ぐらい余裕で突破出来ると思うんですけど.....。赤司君も不思議に思っていましたよ?『何故、比企谷のような強者がこの場に居ない?』と」
やっぱりそれか....。
俺は思わずため息をつく。
もう何度も色んな人に説明したんだけどな....。
ていうか赤司!お前が強者って言うと嫌みにしか聞こえねぇよ!
「実はな、高校の入学式の時に犬を庇って交通事故に遭ったんだよ。そのときに負った怪我で、一年の間医者にバスケ禁止されちまったんだよ。もう全力でやってるけどな」
「....そうだったんですか。やっぱり比企谷君は優しいですね。犬を庇って自らを犠牲にするなんて」
「俺は優しくなんかねぇよ、世の中が厳し過ぎるんだ」
「その台詞も懐かしいですね」
そう言って黒子は笑う。
しかし、本当に懐かしいな。こうやって黒子と話すのは。あの頃、俺と黒子以外は全員どこか常識外れな一面が有って、必然的に俺達二人は意気投合した。
よく他のキセキの世代の連中の愚痴を言い合ったものだ。
青峰のグラビア雑誌の部室持ち込みを二人で阻止したり、紫原のお菓子の過剰購入を阻止したり、緑間のラッキーアイテムの買い出しに付き合わされたり、赤司の素の常識外れな発言のフォローをしたり、黄瀬のファンへの対応をしたりしたっけ?
あの時は黄瀬に『比企谷っちヘルプ!!ちょっとこの人数は俺だけじゃ捌ききれないッス!!』とか言って俺に伊達メガネを渡してきたんだよな。その後はまるで地獄.....あれ?思い出しただけで頭が痛く....。
「比企谷君、大丈夫ですか?」
「あぁ、悪い。ちょっと昔の事を思い出してた。それよりも悪かったな。あんな状態のチームを放っぽって転校しちまって」
「家の事情じゃ仕方ないですよ。それに、彼らとはもう和解しましたから」
そう言って黒子は一枚の写真を取り出した。
そこには、黒子を中心に桃井を含めた他のキセキの世代が写っていた。全員が楽しげな顔をしていることから、和解したというのは本当の事だと分かる。
「この写真を撮るときに、比企谷君も呼ぼうという話になったんですが、君とは高校進学と同時に音信不通でしたから.....。どうして誰とも連絡がつかなかったんですか?」
「あぁ、事故の時に携帯が木っ端微塵になってな。バックアップとか一切取ってなかったからデータを復元できなかったんだよ」
「なるほど.....だから誰も君とは連絡がつかなかったんですね。比企谷君、連絡先交換しませんか?次はいつ会えるか分からないですし」
「別にいいぞ。ほら」
そう言って俺は黒子に携帯を投げ渡す。
すると、黒子が苦笑いしながら言った。
「相変わらず躊躇いなく人に携帯を渡すんですね。連絡先の少なさも相変わらずです」
「うるせぇよ....」
あれから、俺と黒子は昔話に花を咲かせた。途中で小町が帰って来て、黒子がいることに驚いたが、その後は三人で話していた。ちなみに小町が家に帰って来たとき、やっぱり黒子は気づかれなかった。
ふと時計を見ると、もうすぐ夜の9時を回りかけていた。
どうやら、一時間も話していたらしい。これ以上遅くなると、黒子も家族に心配をかけるから、と帰ることになった。
そして、今は小町と一緒に玄関で黒子を見送るところだ。
「それでは、比企谷君また今度会えたら会いましょう。小町さんもまた今度」
「うん。テツヤさんもまた今度.....って、もしかして兄から何も聞いてないんですか?」
「....?何のことですか?」
「お兄ちゃん?」
「すまん、すっかり忘れてた」
俺がそう言うと、小町はまるでゴミでも見るかののような視線を向けた。
「はぁ....これだからゴミィちゃんは....」
うん、ゴミって言っちゃったねこの子。もうちょっとオブラートに包んでくれると八幡的にはポイント高いんだけどな。
........俺のポイントなんて何に使うんだよ。
俺が密かに心に傷を負っていると、小町が何の事を話しているか分からずに首を傾げている黒子に説明し始めた。
「テツヤさん、実は私達、来月から東京に引っ越すんですよ。だから、会おうと思えば、またすぐに会えると思います」
「え?そうなんですか?」
そう言って黒子は俺の方に顔を向ける。
俺は頷いて、小町の言っていることは本当だと示す。
「そうですか.....それじゃあ、またすぐに会えますね。比企谷君は、どの高校に通うんですか?もしかして誠凛ですか?」
「残念ながら、俺が通うのは誠凛高校じゃねぇよ。俺が通うのは秀徳高校だ」
「え?」
「聞こえなかったのか?秀徳高校だよ」
「......え?」
「だから、秀徳高校だって」
「.........」
「おい、どうした?鳩が豆鉄砲食らったような顔してるが.....」
一体どうしたんだ急に?石像みたいに動かなくなっちまったが....。
小町に助けを求めるが、小町も首を振って逆に俺に助けを求めてきた。
とりあえず、俺は黒子に声をかけて返事を求めようとした。
「おい、黒子いい加減に「これは緊急事態です。すぐに監督に知らせないと......。比企谷君、小町さん、これで僕は失礼します」ちょっ!?黒子!?」
「ちょっとテツヤさん!?急にどうしたの!?」
俺と小町が慌てて呼び止めるが、黒子はダッシュで駅の方面に向かってしまった。
.....あいつ、駅まで体力持つのか?
俺が呆然として黒子が去った玄関で立ち尽くしていると、小町が俺に聞いてきた。
「テツヤさん行っちゃったよ?どうすんの、お兄ちゃん。追いかける?」
「追いかけるって言ってもな....」
俺は頭をポリポリと掻きながら思案を巡らせる。
追いかけたら直ぐに追い付くだろうが、あいつの影の薄さじゃ見つけられるか分かんねぇしな....。
むしろ、そのまま追い抜かして先に駅に着いた挙げ句に、知らぬ間に黒子が電車に乗り込んでるまである。
.....仕方ない。
「諦めるか」
「ちょっとお兄ちゃん!?それで良いの!?」
俺があっけらかんとして言うと、小町が叫ぶ。
「仕方ないだろ。駅みたいに人がたくさんいる場所から黒子を見つけるとか無理ゲーだろ。それに、今から追いかけても絶対気づかずにそのまま駅に行っちゃうだろうしな」
「それは.....そうだけど....」
俺と小町は、その後もしばらくその場で立ち尽くしていた。
◇
「さてと、秀徳高校のサイトは.....と、あったよお兄ちゃん。ほら」
「ん、どれどれ.....」
俺は小町が開いた秀徳高校の公式サイトを覗きこむ。
結局、俺と小町は黒子を追いかけることを諦め、黒子がフリーズした原因である秀徳高校について調べることにした。
パソコンの画面を眺めながら小町は首を傾げる。
「んー.....小町は見た感じ普通の高校だと思うけどなぁ。.....ちょっと校舎がボロいけど」
「それなりの伝統校らしいからな。.....しかし、黒子がああなった原因が分からん....」
すると、急に小町が画面の部活動の項目を指差して言った。
「あ、すごいよお兄ちゃん!!ここの男子バスケ部、ウインターカップで第三位だよ!!」
「え、マジで?うおっ!?本当じゃねぇか.....。小町、バスケ部のサイト開けるか?」
「うん」
小町がバスケ部のサイトを開く。
そして.......
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
俺達、兄妹の絶叫が比企谷家に響き渡った。
画面に映っているのは、秀徳高校のユニフォームを着た選手がシュートを打っている写真。
その選手は、かつての俺の同級生であり、それなりに仲の良かった人間。
そして、ラッキーアイテムと称して様々なアイテムを購入している元帝光中の同級生の中でも随一の変わり者。
キセキの世代の1人
緑間真太郎だった。
緑間が出たの写真だけじゃねぇか!!と思った人、
一応出たんで見逃して下さい(懇願)
次回は間違いなく高尾も出てきます。そうしないと話が進まないですし。
とりあえず、読んでくださってありがとうございました!!
そして、お気に入り登録してくださった方、ありがとうございます!!
可能な限り、早めに投稿します。また2、3日は空くかも....。
では、また次の話で。