少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

103 / 113
遅れて申し訳ありません。
 
基本は来週から2週間試験やレポートが始まるのですが……
 『そう言えば試験期間中に学会あるんだった。1週間早くテストからよろしくね~』
という急にいう教授がいたせいで、ストックを作る時間がありませんでした。


 次話も確実に遅れると思います。誠にすいません。









Die Hard3 in Tokyo 『おねーちゃん』を探しますか……

 

 

俺は目を覚ますと、小舟の上にいた。その小舟は黄河やナイル川・アマゾン川の様な巨大な川を渡っているようだ。

 

「お?やっと起きたかい?いやぁ~さすがに話し相手がいないのは寂しくってねぇ~」

 

小舟には癖のある赤髪をツインテールにし、半袖の着物(?)を着た少女が船首に座り、こちらを見ていた。

 

「‘‘幻想郷’’の方だと人魂になるんだけど、こっちは違うみたいだね。いやぁ~これだと話がいがあるってもんよ。……あ、悪い悪い。あたいの名前を言ってなかったね。あたいは小野塚小町って言うんだ」

「……村田維吹です。」

 

 

 

 

 この自称死神がペラペラと良くしゃべる。

 なんでも最近、『両川勘吉』という眉毛つながりの男が‘‘この世界の’’地獄へ落されたそうだ。その男は地獄で反省すると思いきや、閻魔大王の政権を奪うべく反乱を起こして成功させ、地獄の独裁者となったらしい。そのまま天国に戦争をふっかけ、地獄も天国もボロボロになったそうだ。ついでに、その『両川勘吉』は生き返って常世(とこよ)を満喫しているらしい。

 

「と言うわけで、人手が足りないから違う世界の死神であるあたいがここで手伝ってるってわけ。全く、これじゃぁサボれないったらありゃしないさ。」

「……へ、へぇ。そうですか。」

 

 ……その『両川勘吉』って『両川さん』の事じゃないよなぁ。

 

俺はあの『眉毛つながりの破天荒警官』を思い出した。正直に言って、あの人なら『

地獄でクーデター』ぐらい普通に想像できる。

 

 ……って言うかここ三途の川!?俺死んだの!?あんなので!!……いや、この話を聞く限り、生き返ることは可能だ。『両川さん』にできたんだ、俺だってできるはずだ!!

 

俺はさりげなく自分の持ち物を確認した。俺の所持物は、着ている白の浴衣(?)に帯だけのようだ。

 

「小野塚さん、船が向かう方向が‘‘あの世’’ですか?」

「小町でいいさ。そうそう、それで合ってる。ついでに逆方向が‘‘賽の河原’’d……!?」

 

俺は油断していた小野塚さんに一気に近づき、着物(?)を掴んで川へ投げ飛ばした。

 

「悪いが小野塚さん!!俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ!!じゃぁな!!」

 

俺は舵を取って進路を変えようとし……自動でこの船が動いていることに気が付いた。どうやっても進路を変えられそうにない。そこで俺は白の浴衣(?)を脱ぎ捨てて川に飛びこみ、‘‘賽の河原’’へ向けて必死に泳ぐ。

 さて、この‘‘三途の川(?)’’では海水やプールの様な浮力をほとんど感じない。まるで重しを背負わされて泳がされている様だった。

 

 ……だけど俺には関係ねぇ!!軍で『荷物を持ったまま遠泳』の訓練は伊達にやってないぜ!!

 

 

 俺は必死に泳ぎ、やっと岸に着いた。周りに居る獄卒(地獄にいる鬼)達や衣服を剥ぎ取っている爺婆(ジジババ)がギョッと俺を見てくる。

 俺は硬直している獄卒の一人に近づき、持っていた金棒を奪って殴り倒した。

 

「俺は生きてる!!俺は生きてるぞぉおお!!」

 

俺はそう叫び、手あたり次第に獄卒達をその金棒で殴り倒していく。

 

「おい!!ちょっと待て!!今は両川のせいで混乱が起きているんだ!!だから反乱は止めt……!!」

「うるせぇ!!」

 

  バキ!!

 

俺は両手を上げて許しを請う鬼も殴り倒す。

 

 ……鬼は法律も‘‘ジュネーブ条約’’も適用外だ!!例え‘‘鬼畜’’と言われようとも俺は生き返るぞ!!

 

「お前ら未練はないか!!俺はある!!……生き返りたくば武器を取れ!!戦え!!ここがあの世なら死ぬことはない!!」

 

 俺はそう叫びんだ後、獄卒共の親玉であろう3m近いの大鬼に接近し、鬼の股間を金棒で殴りあげた。

 

「……!?」

 

大鬼は股間を押さえて白目をむき、泡を吹いて倒れる。

 

「お前ら!!生き返りたくばついてこい!!」

「「「「おぉおおお!!!」」」」

 

 血の気のない、三角頭巾(頭に付ける三角の布)を被った数百人の者達が倒した獄卒から武器を奪い、また転がっている石を拾って残った獄卒共を襲い始めた。

 親玉が倒されたせいか、残った獄卒は逃げ出し始めるが、三角頭巾を被った者たちは執拗に追う。その様子は波のように伝わり、最終的には数万人もの亡者たちが獄卒を追い立て始めた。

 

 

 そして、獄卒共を全員倒した後、数万もの反乱軍は巨大な門を見つけるとこじ開け、その門をくぐっていく。

 

「俺は生きてるぞ!!」

 

俺も奪った金棒を担いでその門をくぐる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、心臓マッサージを!!」

「無駄よ。頭をぶち抜かれたのよ……」

 

‘‘Pastel*Palettes’’:大和麻弥の言葉に、高鏡菊代は非情な現実を叩きつけた。そして、高鏡菊代は脈を計るためイブキの首に置いた手を放し、かっぴらいたまま目を閉じさせた。

 

「い、イブキさん……ブシドーを貫いたんですね」

「イブキ君……」

 

‘‘Pastel*Palettes’’:若宮イヴと丸山彩が目に涙を浮かべる。

 

「(英語)…………。(坊主がこんな簡単に死ぬか?)」

「お願い!!目を覚まして!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は『瀕死の状態から生還するイブキ』を何度か見ているために冷静だった。それに対し、白鷺千聖は女優・アイドルという事を忘れ、悲嘆で顔を歪ませ涙をこぼした。

 その時だった。

 

「ねぇ!!起きt……」

「俺は生きてるぞ!!」

 

  ベキ!!

 

村田維吹(死んだと思っていた男)がいきなり飛び起き、白鷺千聖の顔面に頭がぶつかった。そして鈍い打撃音が艦橋に響く。

 

「「ッ~~~~~~!!!」」

 

村田維吹は額を押さえながら転がり周り、白鷺千聖は鼻を押さえて悶絶している。

 

「やっぱり村田さんは生きてましたか。さ、早く爆弾を止めないと。」

「(英語)嬢ちゃん……だいぶ変わったな……」

「今日一日で色々巻き込まれましたから、嫌でも性格や考えが変わりますよ。……それよりも爆弾です。早くしないと私達も死んじゃいますよ?」

 

西住みほが無表情で淡々と言う姿を見て、ジョニー・マクレー(おっさん)はドン引きしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『爆弾を見つけた』との情報により、田中曹長が駆け付け、その冷蔵庫を確認した。

 

第一中隊(お前ら)……こうなると分かっていたから、俺だけ待機させたんですか?ねぇ……少佐‘‘殿’’?」

 

田中曹長は鍵穴を‘‘特殊な道具’’を使って観察しながら言った。

 彼はHS部隊第二中隊第一小隊(辻とゆかいな仲間達)所属の工兵だが、彼だけは上海には行けずに、本土で待機だった。

 

「さぁ?最初から分かっていたら不発弾処理隊をここに集めてますよ」

 

藤原岩市少佐は涼しげな顔をしながら答えた。

 

「……そうですかい。全く、‘‘上海ガニ’’、食いたかったなぁ……。まぁ良い、罠は見えない……開けるぞ。」

 

田中曹長はゆっくりと業務用冷蔵庫を開けた。

 

  ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……

 

 冷蔵庫を開けると……そこには‘‘赤と白の筒に入った大量の爆薬’’と‘‘某リンゴ会社の大きめの端末’’がコードで繋がっていた。その端末には『Enter the ABORT CODE(訳:解除コードを入力せよ)』という文字と、カウントダウンの時間が表示されていた。誰がどう見ても、これは‘‘サイモン’’の仕掛けた爆弾だろう。

 周りで見ていた軍・警察・消防の人たちは生唾を飲み込んだ。

 

「……ビンゴ。少佐殿、他の学校の捜索は止めてもいいと思います。」

「ダメだ。‘‘サイモン’’は個数を言っていない。無駄に終わるとしても捜索は続行する。……田中曹長、解除はできるか?」

 

藤原少佐は田中曹長の具申を一蹴した後、冷静に尋ねた。

 

「誰に聞いてるんですか?当たり前ですよ…………って言いたいところですが、こんな工芸品の様な爆弾、どんな罠があるか分かりません。…………だけど、この作り手に、テロリストに負けたくはねぇ」

 

田中曹長は口角を上げ、威嚇するように笑った。藤原岩市少佐をその表情を見た後、ため息をついた。

 

「相変わらず第二中隊(そっち)は血の気が多いな。………生徒達を体育館かどこかに全員集めろ。‘‘サイモン’’は避難を禁止したが、生徒たちを集めることは禁止していない。」

 

 藤原岩市少佐は部下に指示を出しながら、上層部へ連絡をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女優の顔に何するのよ!!」

 

白鷺千聖は白い肌を真っ赤にし、そして鼻血にまみれた顔で俺を問い詰めるように怒り散らす。この姿をマスコミが報道したら、きっと彼女の女優生命は断たれていただろう。

 

「知るかよ!!俺が何したって言うんだ!?ただ起きただけだろ!?」

「死んだかと思って心配したのよ!?」

「お前、俺を‘‘蛇蝎の如く’’嫌ってただろ!?冗談は止めてくれ!!」

 

俺と白鷺千聖は互いに血にまみれた顔を互いに突きつけて批判し合っている。

 

「……なんで脈が無かったのに生きてるの?頭をぶち抜かれて即死のはずよ?」

「ヘルメットが貫通しただけで、脳には傷がないんじゃない?」

 

高鏡菊代がため息交じりで呟いた言葉に、‘‘Pastel*Palettes’’:氷川日菜はさも当然の様に答えた。

 

 ……ん?俺って頭を撃たれたのか?

 

白鷺千聖がヒステリー気味に怒るのを無視しながら、俺は戦闘用ヘルメットを脱いだ。それには、中心から右側の位置に弾が貫通した跡が残っていた。

 俺は自分の頭皮に触れ、傷の有無を確認すると……側面に知らない傷があった。

 

 ……そう言えば、イギリス軍の兵士が‘‘某’’原理主義組織との戦争でヘルメットをぶち抜かれたのだが、無事に生きていたってニュースがあったな。

 

 俺もきっと、それと同じことが起こったのだろう。何とも運がいい。普通なら死んでいたはずだ。

 俺はホッと胸をなでおろした、その時だった。

 

  ズーーーン!!!

 

 鈍く、とても低い轟音が響き渡ると同時に、船が大きく揺れた。その揺れはとても大きく、例えどんなに訓練されていても立っていられないほどの巨大なものだった。

 

「「「「「キャァ―!!!」」」」」

 

……ま、まさか爆弾が爆発したのか!?いや待て、爆弾が爆発していたら俺達が知覚する前に海の藻屑となっているはず。

 

俺はパイプに掴まり、揺れが収まった後立ち上がった。

 艦橋の窓ガラスからは、空き地島のコンクリートの地面しか見えない。

 

 ……船が空き地島に座礁したんだ。だから大きな揺れが起きたのか!!後は俺達が脱出すれば被害はほぼ0になる!!

 

  ブー、ブー、ブー……

 

そんな時だった。俺のポケットに入れてある『旧芝離宮恩賜公園で拾ったスマホ』がアラーム音を鳴らし始めた。そのスマホは爆弾の爆発1分前になるようにセットしたから……

 

 ……爆弾まで残り1分!?解除どころか、この船から避難するのだってきついぞ!?

 

「む、村田さん!!そのアラームって!!」

「爆発1分前だ!!」

 

 俺は西住さんの問いに、悲しい現実を伝えた。

 コンテナ船は全長300m以上、乾舷(上甲板から水面まで高さ)は10mを超える。そのため、艦首から空き地島へ逃げる時間も、搭載艇(ランチ)を下ろして海に逃げる時間もない!!

 

「(英語)とにかく逃げるぞ!!」

「急げ!!爆発するぞ!!艦尾だ!!艦尾へ逃げろ!!早く!!」

「皆さん!!こっちです!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と俺、西住さんの剣幕で事態の緊急性を理解したのだろう。‘‘Pastel*Palettes’’の全メンバーと高鏡菊代は顔を真っ青にし、西住さんの後を走り始めた。

 

 

 

 

 アラームが鳴り、40秒ほどたったところか……高鏡菊代はともかく、‘‘Pastel*Palettes’’のメンバーは走るのが遅かった。特に白鷺千聖と丸山彩はダントツで遅い。そのせいで、まだ艦尾につかなかった。

 

「(英語)もうだめだ!!ここから降りるぞ!!」

「ここで降ります!!皆さん着いてきてください!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)の言葉を訳した後、西住さんは舷側の手すりに足をかけ、10m下の海へ飛び込んだ。

 

「あ!!これはルンって来る!!」

「ぶ、ブシドー!!」

「何でこんな目に会うんですか!?」

 

‘‘Pastel*Palettes’’:氷川日菜・若宮イヴ・大和麻弥も後に続いて海へ飛び込むが……白鷺千聖・丸山彩・高鏡菊代は一向に飛び込もうとしない。

 

「何やってんだよ!!」

「(英語)何してるんだ!!早く飛び込め!!」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は3人を急かすが……一向に飛び込まない。

 

「こんな高さ無理よ!!」

「む、ムリだよぉ~(泣)」

「カタギが全員避難しないと……巻き込んだ原因はアタシだし……」

 

白鷺千聖は逆切れ気味に、丸山彩は目に涙を浮かべ、高鏡菊代は気まずそうに答えた。

 

 ……気持ちは分かるけど!!もう10秒もないんだよ!!

 

「失礼いたします、お嬢様方ってか!?」

「(英語)こんな時だから大目に見てくれよ!?」

 

俺は近くにいた白鷺千聖と高鏡菊代を(かつ)ぎ上げ、ジョニー・マクレー(おっさん)は丸山彩を抱え上げた。

 そして、俺達はお嬢さんたちを抱えたまま船から飛び降りた瞬間……

 

  チュドーーーン!!

 

爆発による熱風、そして破片を喰らった後、海へ着水した。

 俺は全身傷だらけで海へ潜ったため、体中に激痛が走り、脳がショートしそうだった。

 

 ……せ、せめてこいつらだけでも……

 

 その時、イルカが俺達に近づき、空き地島へ運びだした。俺はそのことに安心したのか、また気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、‘‘爆弾いじり’’がこんなに面白いなんてなぁ。歩兵から工兵に転向してよかったって思うぜ。」

 

田中曹長は呟きながら、電子回路と爆薬を把握していく。彼がこの爆弾を調べれば調べるほど……この爆弾の繊細さ、複雑さをより実感する。

 

「残り5分か……時間が無いな。」

 

  パチン……

 

田中曹長は爆弾に繋がっているコードを一つ切り離した。

 

「『No guts, no glory(訳:勇気無くして栄光無し)』か。よく言ったもんだ」

 

  パチン……パチン……

 

慎重に、そして大胆にコードを一気に切っていく。残ったのは白・赤・黒の3色だった。

 

「全校生徒が校外へ脱出する時間は予想で3分以上……だっけか」

 

爆弾が爆発するまであと4分を切った。しかし、残り3本のコードのうち、どれを切れば爆弾が止まるか見当もつかない。

 

「そう言えば、ここにイブキの妹がいるんだっけか?」

 

正確には八神はやて(保護した少女)なのだが、田中曹長は藤原岩市少佐から貰った情報を思い出した。そして、上司であり後輩で、今は武偵高へ出向中のイブキが脳裏を(よぎ)る。

 

 ……今度、酒の一杯でも(おご)ってもらうぞ。

 

 田中曹長はそう思いながら、黒のコードを切った。

 

「ッ……!!」

 

  ピーーー!!

 

一瞬彼は身構えたが……爆弾が爆発する気配がない。爆弾についていた‘‘大きめの端末’’のタイマーは止まり、液体を混ぜ合わせるポンプが動く気配もしない。

 

「……は、ハハハ、ハハハッ!!!どうだテロリスト共!!解除成功!!爆弾解除成功!!」

 

田中曹長は大声でインカムに伝えた後、床に寝っ転がった。そして水筒を取り出し、浴びるように水を飲む。

 その時だった。まるでシロップの様な甘ったるい香りが部屋に充満していることに気が付いた。田中曹長は不思議に思い、ゆっくりと体を起こした。香りは爆弾から漂っているようだ。

 

「……?」

 

液体爆薬が入っている筒から、赤色の液体が少し漏れていた。田中曹長はその液体を指ですくって舐めた。

 

「……!!」

 

田中曹長その液体を舐めた後、慌てて他の筒の液体を取り出して舐め……そして理解した。

 

「クソッ!!クソッタレ!!!」

『どうした、田中曹長』

「少佐殿!!筒の中身はシロップです!!俺達は()められた!!」

 

『液体爆薬が入っていると考えていた筒』には甘いシュガーシロップがたっぷりと充填されていたのだ。彼は、‘‘爆弾魔(テロリスト)’’との勝負に勝っても(戦術的勝利)、爆弾ではないという事に気が付かなかった(戦略的敗北)のだ。

 

「チクショウ!!チクショウが!!この野郎!!」

 

田中曹長は上司達(ストッパー)がいないために怒りに囚われ、シロップの入った筒を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、『Die Hard3 in Tokyo 『復讐』じゃなくて『盗み』かよ……』において、劉翔武たち御一行はラーメン屋で1時間ほどタイムロスをしてしまった。

 

「……全く、俺は作戦外(アドリブ)は上手くないからな。何故かこうなる。」

 

今は高級バンに乗り込み、急いで調布飛行場へ向かっていた。

 劉翔武は苦々しくタバコを咥え、ジッポで火をつけようとするが……中々火が付かない。ジッポの油が切れているようだ。

 

「……。すまないがシガーライターを取ってくれ。……あぁ、それだ。」

 

  ジュッ……

 

劉翔武は真っ赤になった電熱線にタバコをくっ付けた。その時、劉翔武が乗る高級バンに爆風と閃光が襲った。

 

 

 

 

 劉翔武はいきなりの爆発に驚きながらも、その優秀な頭脳で状況を整理する。

 

 ……車に爆弾が?いや、それなら確実に即死のはず。となると地雷!?こんな都市部に!?

 

劉翔武は何とか高級バンから這い出た。爆発の影響で片方の耳が聞こえなくなっており、手足も怪我のせいで満足に動かせない。

 這い出た劉翔武は違和感を覚えた。ここは東京の都市部。それなのに車一台、人ひとりもいないのだ。

 

「(中国語)70過ぎの老人とはいえ、流石は劉翔武。地雷程度じゃ爆殺できないか。」

「(中国語)貴様……日本陸軍‘‘西機関’‘機関長、鈴木敬次!!」

 

いや、一人いた。パイプを咥える陸軍将校が劉翔武を見下ろしていた。

 

「(中国語)‘‘(もと)’’だぜ?今はHS部隊第一中隊だ。」

 

 ……『HS部隊第一中隊』か。日本軍暗部の国内担当だな。という事は、村田維吹(天下無双)は諸葛静幻の方へ行ったか。これは嬉しい誤算だ。

 

劉翔武はそう思いながら傷ついた体に鞭を打ち、何とか立ち上がる。その様子を鈴木敬次大佐は冷たい眼で見ながらパイプをふかす。

 

「(中国語)日本(うち)で色々とやりやがって。……必要な情報は全て得ている。だから死んでくれないかい?劉翔武、お前さんのような優秀な奴を生かして返すわけにはいかないんでね。」

 

鈴木敬次大佐はそう言った後、パイプを咥えながらスラリと軍刀を抜いた。

 

「(中国語)何を言う……小童が……!!」

 

劉翔武は今までの戦闘で培った体術の構えを取った。気を体中に充満させ、殺気をこの鈴木敬次大佐(陸軍将校)にぶつける。

 

 ……村田維吹(天下無双)を諸葛静幻へぶつけるのは不可能と思っていたが……。静幻、やっと貴様の策の上を行ってやったぞ?

 

そして劉翔武は地面をしっかり踏みしめ、鈴木敬次大佐(陸軍将校)に一気に近づいた。

 

  ズドドドーン!!

 

 

 

 

 劉翔武は鈴木敬次大佐(陸軍将校)に近づいた瞬間、目の前が爆発した。そして気が付いた時には地面に横たわっていた。彼は手足の感覚がなかった。

 

「(中国語)忘れているかもしれないが、俺はゲリラ戦の専門だぜ?(弱者)お前(強者)に正々堂々と戦うわけないだろう?……やれ。」

 

鈴木敬次大佐は軍刀を鞘に戻し、劉翔武に背を向けながら無線で命令を下した。

 

 ……『因果応報』か。……まぁいい、最後には静幻に勝てたのだ。これで奴の影響力は地に落ちる。……龍頭閣下、獄卒共を掃除しております。

 

  ダダダダダーン!!

 

複数の銃声が響き渡った。

 

 

 

 鈴木敬次大佐は後ろを振り返らず、襟を開けながら自分の車へ歩き出した。

 

「あの劉翔武でも『指向性対人地雷4基による面攻撃』、そして『対物狙撃銃を装備する5人の一斉狙撃』は耐えきれるわけないよなぁ~。……でも、第二中隊(辻達)にあれだけやっても勝てる気がしないってのはどういうことだい。」

 

 鈴木敬次大佐はため息をついた。

 

「まぁいい。最低限の‘‘落とし前’’はつけさせてもらったぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は目を覚ますと……目の前には‘‘ヤシの木カット’’で半裸の太った変質者(♂)がいた。

 

「オロロロロr……」

 

俺はその変質者(♂)を見ると、その見た目の気持ち悪さから吐き気に襲われ、胃の中の物を全て吐き出す(朝から何も食べていないため、出たのは胃液ぐらいだが)。

 

「む、村田少年!!大丈夫か!?」

 

 その変質者はそんな俺を心配したのか、シャツの襟をつかみ、顔を近づけて揺さぶってきた。

 

 ……心配してくれるのは有難いが離れてくれ。余計に吐き気g……

 

 

 

 

 

 俺は瀕死になりながらその変質者に尋問され、やっと解放できた。

 なんでも、あの変質者(♂)(海野土佐ェ門)は警視(上から5番目の階級、警察官全体の2.5%ほど)で、彼の調教したイルカによって俺達は‘‘空き地島’’へ運ばれたらしい。

 

 ……助けてくれたのは有難いが、見た目を何とかしてくれよ。何だよ、‘‘ふんどし一丁’’に‘‘セーラー服の襟とスカーフ’’、それに加えて‘‘頭に小さなヤシの木’’って。

 

俺は精神的にも、肉体的にも疲労困憊で、ヨロヨロと階段に腰を掛けた。

 近くではジョニー・マクレー(おっさん)に西住さんは手当を受けていた。‘‘Pastel*Palettes’’のメンバーに高鏡菊代は怪我を負っていない様だ。彼女達はバスタオルか何かを羽織り、時々尋問か何かをされている。

 

 ……よかった。女性陣は特に大きな怪我はないようだな。

 

 

 

 座って数分後、やっと俺に救急隊員が来て、手当をしてもらっている時だった。

 

「貸したビュート(あれ)、さらにボロくしやがって……俺の言ったとおりだったろ。」

 

後ろからよく知っている声が聞こえてきた。俺はゆっくり振り向くと、そこには左手を三角巾で吊り、頭に包帯を巻いた武藤がいた。

 

「武藤、『勝鬨橋』ではありがとな。」

 

武藤は勝鬨橋でのカーチェイスの時、乗っていたハイエースで敵車輛の1台に体当たりをして俺達を助けてくれたのだ。

 

「今度飯でも奢れよ?おかげであのハイエースは廃車だ。提出用の書類は面倒なんだぜ?」

 

武藤はそう言って、怪我をしていない右手で何かを俺に投げ渡してきた。俺はそれを受け取ると……ボロ車(ビュート)のキーだった。

 

ビュート(あれ)でここまで来たんだ。桟橋近くに止めるんじゃねぇよ。船頭さん、困ってたぞ?」

 

武藤がそう言って指を刺した。その指の方向には……見た目は廃車寸前のボロ車(ビュート)が止まっていた。

 

「いや、ほんと悪い。寿司でいいか?」

「それなら白雪さんの手料理でm……」

「お、おねーちゃん!?どこ!?おねーちゃん!!」

 

いきなり大声が上がった。俺と武藤はその声が発せられた方へ向くと、‘‘Pastel*Palettes’’:氷川日菜が顔をぐしゃぐしゃにしながら誰かを探している。

 

「 なんで‘‘Pastel*Palettes’’の氷川日菜ちゃんが!?って‘‘Pastel*Palettes’’全メンバーいるし……。おいお前!!もしかして‘‘護衛任務’’で学校に来てなかった理由っt……」

「いや、あくまでも護衛は‘‘Pastel*Palettes’’の白鷺千聖だぞ!!」

 

俺は毛布にくるまり、ベンチに座って尋問を受けている白鷺千聖を見た。彼女は毛布の他に俺の上着ぐらいしか身に着けていないため……今の姿がとても煽情的に見えた。

 

  ガッ!!

 

「むしろ‘‘千聖ちゃん’’の方が好みだよぉおおお!!」

 

武藤は無傷の右腕で俺を掴み、悔し涙を流す。力いっぱい俺を掴むため、鎮痛剤を打っていても体中から悲鳴をあげる。

 

「何で俺の任務じゃないんだよぉおお!!」

「それだからだろ!!いい加減離せ!!」

 

俺は武藤の怪我した左腕を殴った。武藤は左腕を抱えて(うずくま)り、苦悶の声を上げる。

 

 ……武藤ならこのぐらいやっても平気だろ。そんな事より氷川日菜だ。

 

 

 

 

俺は武藤を尻目に、氷川日菜へ近づいて声をかけた。

 

「どうした?そんな泣いt……」

「イブキ君!!おねーちゃん!!おねーちゃんは何処!?」

 

氷川日菜は俺に(すが)り付き、『おねーちゃんを保護したと言って欲しい』という目で俺に尋ねる。

 

「いや、その『おねーちゃん』を俺は知らn……」

「‘‘紗夜ちゃん’’の事よ。……この前、学校の風紀委員にイタズラしたでしょ。あの時の髪の長い子よ。」

 

氷川日菜に張り付かれていた時、白鷺千聖が毛布にくるまったままで俺に近づいてきた。毛布からチラッと見える、白鷺千聖のシミ一つない太ももが何とも(なま)めかしい。

 

 ……なるほど、『瀕死の状態だと生殖本能が活発になる』って言うのは本当だったのか。

 

『白馬の王子様モード……HSSのキンジじゃねぇんだから』と思いながら俺ため息をつき、思考を元に戻した。

 俺は『俺のいちばん長い日 with BanG Dream!  形あるもの、いつか壊れる……』にて、風紀委員で青緑色の長髪少女にイタズラを仕掛けた事を思い出した。確かに、彼女と顔立ちが非常に似ている。双子か何かだろうか。

 

「あぁ、あの時の美人さんか。」

「…………えぇ、その子よ。その紗夜ちゃんが所属する‘‘Roselia’’と言うバンドと一緒にリハーサルをしていたら誘拐されたのよ。」

 

 なぜか白鷺千聖は俺をギロリと睨みながら説明した。俺は『そう言えば白鷺千聖(コイツ)は俺の事嫌ってたっけ』と思いながら、考察を立てていく。

 

 ……基本的に見張りの関係上、人質は1カ所に収容される。その人質の収容場所である艦橋には『紗夜ちゃん』たちはいなかった。また、敵の動きからして……俺達が船に侵入してきた事は想定外だったようだ。その事から、敵は人質が奪われることを前提に、分散して収容などしてはいないはず。となると……彼女達は船以外のどこかに連れ去られたのか?

 

 しかし、船にいないとなると……完全に行先は不明だ。俺には全く見当もつかない。

 

「……クソッ!!これだけの情報だと流石に分からn……」

「計画通りだと、20分もしないうちに鏡高組本部(うち)で‘‘中国の先生達’’とキンジが戦う計画になってる。今回その計画を立てたのはその‘‘中国の先生達’’……あいつらなら知っているはずよ。」

 

高鏡菊代は乱れた改造着物を整えながら、今回の騒動の発端を説明した。

 

 ……しかしまぁ、着物が着崩れた姿という物は何ともグッとくるものだ。

 

今日の俺はどうかしているらしい。……まぁ、ここまで体力的・肉体的(主に出血量)・精神的に疲労した事件・訓練はなかった。そんなところに見目麗しい女性達がいるのだ。多少おかしくなってもショウガナイのでは……いや、ダメだろ。

 

 

 

 

「イブキ君!!あたしはなんだってするから……おねーちゃんを……おねーちゃんを助けて!!」

 

氷川日菜ちゃんのその懇願に俺はため息をついた。

 警察は爆弾爆発の時刻が過ぎたとはいえ、念のための爆弾探しと後処理に追われているだろう。そんな彼らに人探しに人材を裂くことはできないはずだ。となると……俺が動くしかない。

 

 ……全く、俺はあくまでも‘‘白鷺千聖’’の護衛だ。それ以上でもそれ以下でもない。『氷川日菜の姉を探しだす』と言うのは営業外だ。だけど、見捨てるわけにはいかないよなぁ。

 

「(英語)どうした坊主。行かないのか。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はボロボロで、本当ならこのまま病院のベッドで寝たいのだろうに……あえて俺を挑発するように言った。

 

「村田さん……行かないんですか?」

 

西住さんは俺の肩に手をかけて言った。西住さんは巻き込まれただけだ。ここで警察やらなんやらに保護されれば、無事に実家に帰れるだろうに……全く、なんてお人好しだ。

 

「……今度ラーメンでも(おご)ってもらうぞ。」

「……………うん!!!」

 

俺はそう言った後、ボロ車(ビュート)に乗り込もうとした。その時、誰かが俺に抱き着いてきた。

 

「もう私を心配させないで……行かないd……」

 

背中から、白鷺千聖の声と感触が伝わる。

 彼女は俺を嫌っていたはずだ。しかし、メンバーの氷川日菜のため、白鷺千聖は体を張って俺へアピールしているのだろうか。

 

「俺は少なくても、あと百は生きるつもりだ。そんな簡単に死んでたまるかってんだ。」

 

 

 

俺は白鷺千聖の頭を一撫でした後、ボロ車(ビュート)の運転席に乗り込もうとした所……その席には武藤が座っていた。

 

「お前だけ格好つける気か?……後で‘‘Pastel*Palettes’’のメンバー全員に紹介してもらうぞ。」

「……はぁ。相変わらずだな。」

 

俺は武藤にボロ車(ビュート)の鍵を渡すと、反対側へ向かって助手席に乗ろうとした。しかし、そこには高鏡菊代が座っていた。

 

「……」

「あたしが道を教えるんだから、助手席は当たり前でしょ?」

 

高鏡菊代はフフンと整った顔で勝気な笑顔を見せる。

 

……つい十数分前には犯されかけたってのに、(きも)が太すぎだろ。流石、この歳でヤ〇ザの組長をやっているだけあるな。

 

俺はため息をついた後、後部席のドアを開け、ジョニー・マクレー(おっさん)と西住さんを詰めさせて席に座った。

 

「……なんでまぁ、こんなにお人好しな奴らばっかなんだよ」

「(英語)おい、早く出せ。」

 

俺がぼやくのと同時に、ジョニー・マクレー(おっさん)は新しいタバコを開けて一本取り出し、火をつけながら武藤に命令した。

 

  キュルキュルキュル……

 

「しっかり捕まってろよ!!」

 

武藤はそう言って、ボロ車(ビュート)の鍵を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  キュルキュルキュル、キュルキュルキュル……

 

武藤がキーを回して10数秒、ボロ車(ビュート)のエンジンは一向にかからない。

 

「クソッ!!この車はボロいからなぁ……」

 

武藤は思わずNGワードを口にした。

 

「おい、武藤!!何言ってやがr……」

「そ、その言葉はダメです!!」

 

  ボーン!!

 

俺と西住さんが止めようとしたが……その前にボロ車(ビュート)はご機嫌斜めになったようだ。

 

「武藤!!この車に『ボロい』とか言ったら機嫌悪くなるんだよ!!謝れ!!……ごめんね。コイツはまるでわかってないから、機嫌戻してねぇ~」

「何やってるんですか!!この車に暴言を言ったら調子が悪くなるんですよ!?……スイマセン……調子を戻してくださいね。」

「……え?は?………………ご、ごめんね~?」

 

俺と西住さんの必死の剣幕で、冗談を言っていないと武藤は理解したのだろう。武藤は謝りながらキーを回し、エンジンを掛けようとする。

 

「……何やってんの?コレ?」

「(英語)マオリの‘‘ハカ’’だ」

 

高鏡菊代の呆れた言葉に……ジョニー・マクレー(おっさん)は紫煙交じりの溜息を吐きながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 こち亀では両さんが地獄でクーデターを起こした話があるので、それを参考にしました。
 両川勘吉のせいで‘‘地獄’’と‘‘天獄’’がガタガタになり、他の世界から人材を借りて復興を頑張っている中……イブキのせいで唯一無傷だった‘‘賽の河原’’で反乱が起きるという…‥。
 余談ですが、この日は死亡と判断された人達が一斉に息を吹き返したとかなんとか……


『俺は生きてるぞ!!』……要は自己暗示をかけるために連呼しています。


 頭に銃弾を受けても生きている人はいるそうです。ですが、今回イブキは数㎜のところを弾丸が通ったという設定です。
 実際、弾丸がヘルメットを貫通したが無傷だった兵士はいるそうです。


『マオリの‘‘ハカ’’』……要は出陣前に行う踊り・儀式の事。
 もはや、我らがボロ車に謝りながらエンジンを掛けることは『出陣前に行う儀式』だ……という皮肉です。



  Next Ibuki's HINT!! 「海パン」 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。