少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

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遅れた事、誠に申し訳ございません。
 理由としましては……
  ・体力不足が7割(バイトから帰るとパソコンに座る体力・気力がない)
  ・一時的な環境の変化が1.5割(旅行先でベロ酔いしていたため)
  ・時間の減少が1.5割(久々に‘‘艦これ’’をプレイしてのめりこむ)

 完全に自業自得です。はい、スイマセン……


 


Die Hard3 in Tokyo 切れ味抜群すぎ……

ボロ車(ビュート)の後部座席で、(西住さん)(かなめ)は俺を挟んで(にら)み合っていた。

 

「「……。(ニヤニヤ)」」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)と武藤はその睨み合いを『他人の不幸は蜜の味』とでも言いそうな眼で見る。

 

 ……ジョニー・マクレー(おっさん)に武藤め。後でぶん殴ってやる。

 

俺は肩身の狭い思いをしながら拳を強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 ついでに……西住みほは冷酷で非情に、かなめは今にも襲い掛かる猛獣の様に睨んでいて……

 

「……。(うわぁああ!!もう一杯一杯だったから人に銃を向けて撃って、いろんな人に沢山の迷惑かけて……!!しかもこの子から睨まれてる!!)」←西住みほ

「……。(こいつ誰?イブキにぃの相棒(となり)で戦って……相棒(となり)はあたし!!)」←かなめ

 

 などと考えていた。もちろん、イブキは二人がこんな事を考えながら睨んでいるとは一切感づいていない。

 

 

 

  

 

 

 (西住さん)(かなめ)が睨み合って10数分、武藤の運転するボロ車(ビュート)は中央道を爆走して調布で降りた。そして、近道のために飛行場に隣接する多数のグラウンドや公園の敷地を横切る。

 

「イブキ!!本当に突っ切っていいのか!?」

 

 武藤はその運転とは真逆な、焦りが混じった大声で俺に聞いてきた。

 武藤は車のスピードを極力落とさぬようにするため、極力ハンドルを切らず、木や障害物をぶつかるギリギリのところで避けていく。

 

「緊急事態だからいいんだよ!!昼には千代田区の旧江戸城も通り抜けさせてもらったから!!」

「ん?……っておい!!旧江戸城っt……」

 

武藤は驚いて俺に振り向いた。

 

 ところで、時速60㎞は秒速16.7mほど。このボロ車(ビュート)は時速60㎞を大幅に超えているスピードを出している。なので、数秒でも運転手が後ろを振り向いている間にボロ車(ビュート)は何十mもの距離を移動していることになる。なので……

 

「「「前!!前見ろ!!」」」

「……ッ!?うぉおおお!?」

 

 俺達の目の前にサッカー場の柵が迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

  バコーーーン!!

 

 ボロ車(ビュート)はサッカー場の柵を蹴破り、たくさんの少年たちが練習をしているグラウンドに突っ込んだ。

 

「む、武藤!!スピード落とせ!!()き殺す気か!?」

 

呆然と突っ立っていたり、逃げようとする少年達を間一髪で避けていく。

 

「そんな時間ないんだろ!?車両科(ロジ)の腕を見せてやるぜ!!」

「(英語)こいつは坊主より(運転の)腕があるから心配すんな」

「(英語)それは知っているけど!!そう言う問題じゃねぇ!!」

 

武藤はさらにアクセルを踏み込み、ハンドルとサイドブレーキを駆使し、極力スピードを落とさないように運転する。車体は左右に激しく揺れ、左右に居る西住さんやかなめの体が当たるのだが……武藤の運転のせいで感触を意識する余裕は全くない。

 

「「おぉ~……」」

 

そんな二人は武藤の運転技術の高さを、まるで『衝撃映像』か何かを見ているかのような感嘆の声を上げていた。

 

 ……ふ、二人とも胆が太すぎだろ!?

 

  バゴン!!ベキッ!!

 

俺が西住さんとかなめが落ち着いている事に驚く中、ボロ車(ビュート)はボールの(かご)を撥ね飛ばし、再び柵に突っ込んでサッカー場から脱出した。

 

 ……よかった、マジでよかった。誰も()かなくて

 

俺は安堵の溜息が出た。

 

 

 

 

 

「っへ!!これが車両科(ロジ)だ!!見たか、二人とも?」

 

武藤は後部座席にいる女性陣(二人)に振り向いた。もちろん、運転手が後ろを振り向くという事は、運転がおざなりになるという事で……

 

「「「「前、前見ろ!!」」」」

 

今度は少年野球の試合中である野球場にボロ車(ビュート)は突っ込んだ。

 

  バキッ!!バコン!!

 

ボロ車(ビュート)柵を破壊して野球場に侵入し、ついでに飛んできた打球を跳ね返し、場外へ飛ばしてホームランにさせた。

 

「武藤何やってんだよ!!車両科(ロジ)のAランクじゃないのか?」

「こうなるからSじゃなくてAなんだよ!!」

 

 ……せ、せめて無関係な一般市民に殺人許可証(マーダーライセンス)を使うような事を起こさないでくれよ!?

 

俺は武藤の運転技術を信じて祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 俺の祈りが通じたのか、武藤は巧みな運転技術で野球場を難なく通過し、ボロ車(ビュート)は『調布飛行場』の敷地に躍り出た。

 飛行場の反対側には……日本軍(うち)でも米軍でも、ましてや欧州軍(NATO軍)・ロシア軍でも見たことがない、プロペラがついた軍用大型輸送機が誘導路から滑走路へ移動している所だった。

 

 ……C-130(ハーキュリーズ)に近い機影から察するに、中国のY-9か?そう言えば空軍の後輩(笹井)に敵機識別表を見せてもらった時、これと同じのが載っていたような気がする。

 

 機種の特定はともかく、『調布飛行場』は一般的に小型の民間機が離発着する場所だ。緊急事態でも、こんな軍用大型輸送機が着陸するなんて普通ありえない。となれば……この軍用大型輸送機はテロリストの物である可能性が高い。

 

 

 

 その軍用大型輸送機のコクピットから人の顔がチラリと見えた。その顔は……

 

「「「……!!サイモン!!」」」

 

 『サイモン』……本名:サイモン・ピーター・グルーバーは今回のテロ事件の実行犯、そのリーダーだ。

 『Die Hard3 in Tokyo  一般人でこの殺気って……』において、俺・ジョニー・マクレー(おっさん)・西住さんは資料の写真で見ていため、『サイモン』の顔とすぐに気が付いた。ついでに、サイモンはドヤ顔で俺達を見下しているように見えた。

 

 

 

「武藤!!あの輸送機だ!!あの輸送機にテロリストがいる!!急げ!!」

 

 俺は運転席を揺らしながら、移動中の軍用大型輸送機を指さした。

 

「な、なに言ってんだ!!2キロは離れてるんだぞ!?追いつくころには滑走を始める!!どうやってあれを止めるんだよ!?」

 

車両科(ロジ)である武藤は滑走を始めた大型機を止める無謀さを誰よりもよく知っているはずだ。しかし、武藤は反論しながらもボロ車(ビュート)を加速させ、大型輸送機に接近する。

 

「止めるのは無理だって俺でもわかる!!だったら、あれに飛び乗って敵を殲滅(せんめつ)するまでだ!!」

「何言ってんだよお前!?滑走中の飛行機に飛び乗る!?無理に決まってんだろ!?」

 

武藤は俺の言葉が冗談にでも聞こえたのだろうか。

 

「(英語)前に坊主と飛行機に飛び乗るってのはやったことがある。まぁ、その時はヘリだったけどよ」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)はなだめるように言いながら、タバコに火をつけ、拳銃の残弾を確認した。

 

「いや、俺英語分かんねぇから!!というかこの‘‘おっさん’’だれ!?シレッと車に乗ったから気にしてなかったけどよ!!こいつ、日本の武偵でも刑事でも軍人でもないよなぁ!?」

「お前分からないで運転してたのかよ!?というか、おっさんはともかく西住さんの事を疑問に思えよ!!おっさんはニューヨーク市警だけど、西住さんは民間人だぞ!?」

「何でニューヨーク市警がいるんだよ!?……と、とにかく!!しっかり捕まってろよ!?」

 

武藤はドリフトの要領で車体を180度回転させ、誘導路から滑走路についた軍用大型輸送機に横付けした。

 

「イブキ!!行くんだろ!!」

「あぁ、ありがとよ!!」

 

 ……負傷した武藤がここまでお膳立てしてくれたんだ。絶対に成功させなきゃな

 

俺はベルトのバックルからワイヤーを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 サイモン達は‘‘スポンサーからの依頼の品(高校生のガールズバンド:Roselia)’’と‘‘東京国立博物館の宝物’’を、藍幇(ランパン)から支給されたY-9 輸送機に詰め込み、離陸を始めようとしていた。

 

『Request taxi.(訳:滑走路までの経路をお願いします)』

『Runwey……』

 

 サイモンは計画通りに進んでホッとしながら管制塔の指示を聞いている時、飛行場の反対側からボロボロの車がこの輸送機に接近してくるのを確認した。

 そのボロボロの車は『東京国立〇物館』や高速道路で見た、村田とマクレー(ジョーカー二人)が乗っていた車だ。

 

「……はははっ!!」

 

サイモンは思わず笑い声が出た。

 この機体はすでに離陸体勢を整え始めている。そんな飛行機を、あんなちっぽけな小自動車が止められるだろうか。管制官が止めようとするかもしれないが、その時は指示を無視すればいいだけだ。

 

「さ、サイモン様、向こうから車が来ますが……」

 

操縦手の部下から指示を仰がれた。

 

「無視しろ。管制官が止めようとしても無視して飛び立て。」

「わ、分かりました。」

 

サイモンはコクピットから、そのちっぽけな車の中で焦る村田とジョニー・マクレー、西住みほを見つけ、思わず口角がさらに上がった。

 

 

 

 

 

 

 武藤のおかげでボロ車(ビュート)は滑走路の軍用大型輸送機に横付けした。それと同時に軍用大型輸送機は加速し始める。武藤も間髪入れずにボロ車(ビュート)のアクセルを踏み込み、並走させた。

 

「すぐに追いつけなくなるからな!!」

「分かってる!!」

 

 俺はベルトのバックルからワイヤーを取り出した後、かなめと席を交換してもらい、後部座席のドアを勢いよく開けた。力強く開けたせいか、ドアは車から外れて滑走路に転がり落ちた。

 

 ……まぁ良い、むしろ邪魔なものが無くなってフックを引っかけやすくなった

 

俺はフックが付いたワイヤーを回して投げた。フックは主翼と高揚力装置(後縁フラップ)の間に引っかかる。俺はそのワイヤーを伝って主翼へ登り、そして主翼から滑り落ちる様に大型輸送機の側面扉に飛びついた。

 ジョニー・マクレー(おっさん)ボロ車(助手席)から輸送機の脚に飛び乗り、そこから登って側面扉の前方にある手すりにしがみ付いた。

 

「(英語)ジョン・F・ケネディ国際空港以来だな!!おっさん!!」

「(英語)その時の方が楽だった!!なんだって‘‘007(ジェームズ・ボンド)’’や‘‘イーサン・ハント(M:I(ミッション:インポッシブル)の主人公)’’の真似をしなきゃなんねぇんだ!?」

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は『民間人編 ダイ・〇ード2』でヘリから敵テロリストの乗った飛行機に飛び乗ったことがあった。しかし、今回はその時以上に難易度の高いことをやっている。

 

「「……うぉ!?」」

 

大型輸送機が加速度を上げ、強烈な慣性力が俺達を襲った。俺は慌てて銃剣を2本取り出し、それを側面扉に刺して大型輸送機から落ちないようにする。

 その時、俺の背中に何かが捕まった。その重さと増えた空気抵抗が俺をさらに襲う。

 

「グオォ!?な、何だ!?」

 

新たな重さと抵抗のせいで握っていた銃剣が曲がった。

 俺は思わず後ろを振り向いた。そこには、西住さんが俺の背中に張り付いていた。

 

「な、なんで西住さんが来るんだよ!?死ぬ気か!?」

「ここまで来たんですから最後までついて行きます!!それに二人とも前線で戦って後方がいないじゃないですか!!」

 

 ……まぁ確かに、俺とおっさんが戦闘し、その間に西住さんが後方で人質解放とか多かった。だけれど、西住さんがここまで危険なことはしなくてもいいと思うのだが。

 

 大型輸送機は時速150キロを超え、並走するボロ車(ビュート)が息切れを起こし始めていた。この状況で西住さんをボロ車(ビュート)に戻すのはあまりにも危険すぎる。

 

「なんでイブキにぃの背中に……」

 

光学迷彩(透明化)が出来なくなった先端化学兵器(ノイエ・エンジェ)の『天女(てんにょ)の布(仮)』で大型輸送機に掴まるかなめから絶対零度(コキュートス)の視線が俺に浴びせられる。

 

「「「「うわぁああ!?」」」」

 

いきなり慣性力のベクトル(向きと力)が変わった。大型輸送機が離陸したのだ。

 地球の重力に慣性力、そして風の抵抗が俺達を襲う。俺の握る銃剣がさらに曲がった。

 

「に、西住さん、手を離すんじゃねぇぞ!?」

「は、はい!!」

 

西住さんが俺の体を強く抱きしめるせいで傷が開き、悪化しているのが良く分かる。

 そんな中、ジョニー・マクレー(おっさん)は目の前にあったハッチを開き、中にあるボタンを押した。

 

  ウィィイイイイン!!

 

 しかし、俺達の目の前にある側面扉は開かず、逆に輸送機の後部扉(大型の荷物が行き交う扉)が開き始めた。

 

「(英語)おっさん!!そっちじゃねぇ!!」

「(英語)漢字を理解できるわけねぇだろ!?」

 

 ジョニー・マクレー(おっさん)はそう言った後、風と重力と慣性力にさらされながら再びボタンを押した。

 すると後部扉が閉まりだし、逆に俺達の目の前にある側面扉が開いた。

 高速で移動する車の窓を開けると、風が車内に勢いよく入る。俺達はその風の様に大型輸送機の機内に吸い込まれ、壁に叩きつけられた。

 

「「「「……!!」」」」」

 

壁に叩きつけられた俺の隣に猿轡(さるぐつわ)と縄をかけられた青緑色の長髪少女:氷川紗夜が涙目で唸っていた。近くには同年代の少女達が4人、同じように猿轡(さるぐつわ)と縄をかけられている。

 

 ……やっぱり‘‘サイモン’’に誘拐されてたか。

 

  カチャカチャ!!

 

その時、見張りであろう敵二人が慌てて俺達に銃を構えようとした。

 俺は咄嗟(とっさ)に握っていた銃剣を敵の一人に投げつけた。

 

  シュッ!!ダァンダァン!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が放った弾丸と、俺が投げた銃剣がその部下達に刺さった。刺さったそいつはバタッと倒れ、血を流したまま動かなくなった。

 

「ハァハァ……助けに来たぜ。安心しろ」

「(英語)‘‘騎兵隊の到着’’ってな……!!」

 

 

 

 

 

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は傷だらけの体を気力で動かし、立ち上がった。

 

 ……博物館の物もやっぱりここにあったか。

 

『氷川紗夜とその他四人の少女のバンド』:Roseliaの後ろ、俺達が叩きつけられた壁は……パレットに乗せられた多数の木製の箱だった。俺達が叩きつけられたせいで一部の木箱が割れ、中にある鏡や勾玉、陶器磁器に書物や日本刀が顔をのぞかせていた。

 

「かなめと西住さんで彼女達の‘‘解放及び護衛’’だ。俺とジョニー・マクレー(おっさん)で残りをやる」

「(英語)嬢ちゃん達はここで待ってろ。」

俺は血を流し過ぎたせいで眩暈(めまい)がし、しかも意識を失いかけた。俺は何とか気合でそれに耐え、‘‘四次元倉庫’’から刀と38式歩兵銃・新しい銃剣を取り出した。刀は腰に()し、38式に銃剣を着剣させる。

 

「村田さん、マクレーさん!!そんな体で……死ぬ気ですか!?」

「イブキにぃ!!そのおっさんよりもあたしの方g……」

「バンドやってるんだってよ。これ以上トラウマが出来たらこの()達が演奏できなくなるだろ?……それに同性だから融通が利く。かなめは護衛、西住さんはバックアップだ。この()達を弾の当たらない場所へ案内してやってくれ。」

 

 俺は人質の少女達(Roseliaのメンバー)をチラリと見た。彼女達は巻き込まれた事件の恐ろしさに気が付いていないのか、キョトンとしていた

 多少治安が悪くなったとはいえ、それでも日本では拉致・誘拐は珍しい。それがいきなり身に降りかかったのだ。きっと今はキョトンとしているが、次第に彼女達は怯え始めるだろう。そんな時に必要なのは西住さんやかなめであって、『(辻・神城・鬼塚(バケモノ上司達)のせいで)拉致・誘拐に慣れた俺』や『いつも何かに巻き込まれるジョニー・マクレー(おっさん)』ではないはずだ。

 

 ……あれ?おかしいな。事件に巻き込まれる可能性が圧倒的に低いであろう軍艦に乗りたくて海軍に入ったのに、なんで拉致・誘拐に慣れたんだろ?……カット

 

 これ以上考えると色々と自分の黒歴史を掘り返すことになりそうだ。俺は頭を()いて思考を止めた。

 

 

 

 

「(英語)話は済んだか、坊主?……おいおい、タバコは体に悪いんだぞ?」

「(英語)あぁ……ってタバコ切らしたのかよ。吸いすぎだろ。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は倒した敵の装備とタバコを奪い取り、代わりに愛飲しているマルボロの空箱を捨てていた。

 死んだ敵の周囲には‘‘開けて間もない酒瓶’’や‘‘封が切られていない酒瓶’’が多数転がっていた。祝勝として敵が飲もうとしていたのだろうか。

 

「(英語)……だからいつまでたっても坊主なんだよ」

「(英語)ハイハイ……子供に臭いって言われても知らねぇぞ」

 

 ……タバコの味は今のところ分からないしな。

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)は軽口を叩き合いながら輸送機のコックピットへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

  ダダダダダ!!

 

「「ッ!!」」

 

 俺とジョニー・マクレー(おっさん)は貨物室とコックピットを仕切る扉を開けてコックピットの様子を覗いた瞬間、敵が発砲を始めてきた。ついでに、中にはサイモンと『カティア・タルゴ』の二人だけだった。

 俺達は慌てて頭を下げ、扉を閉めた。敵は短機関銃(サブマシンガン)を使っているおかげで弾は扉や壁を貫通しない。

 

「(英語)おっさん!!なんか案あるか!?」

 

敵はコックピットの中だ。下手に撃ち合えば操縦系統が傷つき、輸送機が墜落する可能性もある。

 

「(英語)そっちに無線機か何かあるk……ッ!?」

「……ッ!?」

 

  ベキッ!!

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が何か言った瞬間、俺達と敵を(へだ)てる扉が切られた。そして敵側(コックピット)から俺達の方(貨物室)へ誰かが侵入してくる。そいつは……

 

「「サイモン……!!」」

 

俺は38式を突き出し、サイモンに銃剣を刺そうとした。するとサイモンは手に持った刀を振るった。

 

  パキッ!!

 

「ウソだろ!?」

 

サイモンの刀は包丁で大根を輪切りにするかの様に、俺の38式を3分割した。そのままサイモンは返す刀で俺を切ろうとしてる。

 

「うおぉおお!!」

 

俺は銃床だけになった38式を捨て、横に転がって斬撃を(かわ)して腰の刀を握った。輸送機の鉄の固い床が傷を刺激し、体に激痛が走る。

 

 ……クソッ!!なんだって38式があんな簡単に切り裂けるんだよ!!

 

俺はしゃがんだ体勢からバネを放つようにサイモンに接近し、抜刀した。サイモンは俺の放った刃の軌跡に合わすように、その刀を置く。

 

  ギィイイン!!!べキッ!!

 

俺の刀とサイモンの刀がぶつかって火花が上がり、俺の刀が折れた。

 

 ……嘘だろ!?スカサハ(師匠)から貰った紅刀だぞ!?こんな簡単に壊れるのか!?

 

 カランカラン……

 

切られた(あか)い刀身が地面に落ちた。俺はあまりの驚きに一瞬固まってしまった。サイモンはその隙を見逃さずに刀を振るう。

 

  ザシュッ……!!

 

「グアァッ!?」

 

俺は咄嗟に利き腕の右手をかばい、左腕を切られた。一応避ける動作もしたため、傷はそこまで深くはないが……己の左腕はもう戦力外だろう。

 俺は再び鉄の床を転がる様にしてサイモンと距離を取った。

 

  ドン……!!

 

「ゴフッ!!ハァ、ハァ……」

 

俺は最初にぶつかった木箱の近くまで転がったらしい。俺の目の前には、割れ目から鏡や勾玉、陶器磁器に書物や日本刀が顔をのぞかせていた。……というか、その日本刀のせいで顔に新たな傷ができた。

 

「いやはや、『天下五剣』といっても所詮(しょせん)‘‘飾られた宝剣’’程度の物かと思っていたが……この『三日月宗近』は中々の切れ味だな。」

 

俺は寝返りを打つようにサイモンの方へ向いた。サイモンは手に持つ刀を振り、付着した血や油を落とす。

 

 ……ジョニー・マクレー(おっさん)は何をしているんだ?

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は『カティア・タルゴ』の猛攻にさらされていた。『カティア・タルゴ』は素人でもわかるような‘‘小太刀の名刀’’を振るい、ジョニー・マクレー(おっさん)が持つ銃を切り裂いていた。

 

 ……ん?名刀?

 

 俺はサイモンが持つ刀を見た。その刀は……今の時代では絶対に作れないであろう製作者の圧倒的な技術力と込められた思い、そして歴史の重みによるオーラを放っていた。

 そしてサイモンは『……この‘‘三日月宗近’’は中々の切れ味だな。』と言っていた。という事は……

 

「サイモン、お前……その刀……!!」

 

なんで俺はサイモンの持つ刀を注目しなかったのだろう。柄がつけられているが……この刀は東京国立〇物館で飾られていたものだ。

 

 ……‘‘三日月宗近’’は『天下五剣』の一つ。『東京国立〇物館』に所蔵されている重要な太刀の一つだったはず。それをサイモンが使っているのか?

 

「流石に分かるか。これはあの博物館にあった刀の一つで『天下五剣』の一つ、『三日月宗近』だ。……それに私は武士や侍に興味を持っていてね。剣道と剣術を習っていてた時もある。」

 

 サイモンはそう言いながら、その‘‘三日月宗近’’を上段に持って構え、ジリジリと近づいてくる。

 

 ……クソッ!!何か、何か使えるものはないか?

 

俺は周りを見た。近くには蒸留酒が入った酒瓶が多数散らばっており、近くには俺の顔を切った日本刀が木箱からコンニチハしている。窓から見える景色から、すでに高度6000m以上の場所にいることが分かる。

 

「祖国の名刀に切られるのだ。光栄だな、村田君?」

 

サイモンがそう言った時、機内の空気の流れがいきなり変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「ウワァ……アァ……ウゥ……」

 

あちこち切られたジョニー・マクレー(おっさん)は『カティア・タルゴ』に蹴られ、輸送機側面の壁に叩きつけられた。『カティア・タルゴ』は白兵戦の名手らしく、白兵戦が苦手であり、しかもボロボロジョニー・マクレー(おっさん)はとても不利な状況だった。

 

「…………」

 

『カティア・タルゴ』は‘‘小太刀の名刀’’を逆手に握り、ジョニー・マクレー(おっさん)にゆっくり近づいてくる。その時、ジョニー・マクレー(おっさん)は自分の横に‘‘あるボタン’’があるのを確認した。

 

「スカイダイビングはお嫌い……!?」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は『カティア・タルゴ』のタイミングを見計らってそのボタンを押した。すると機体前方の側面扉が一気に開いた。

 与圧していた貨物室の空気が一気に機外へ噴き出される。

 

「……『カティア』ッ!!」

 

サイモンが思わず後ろを向いたがもう遅い。前方の側面扉から『カティア・タルゴ』は機外へ射出された

 

「……ッ!?……ァ!!……ッ!!」

 

  メキキキキキッ!!

 

そしてプロペラによるものだろう。鈍い、何かと衝突した音が聞こえた。

 彼女は俺達が入ってきた主翼後方の扉ではなく、前方扉だ。前方扉のすぐ後方にはプロペラがある。そのため、今の異音は……

 

 ……まぁ良い、これで一瞬の隙ができた。

 

  ダンダンダンダン!!!

 

俺は腰の14年式を抜き、サイモンに連射した。サイモンは慌てて機内の鉄骨に隠れた。

 俺は弾切れになった14年式を捨て、木箱から飛び出ていた日本刀の(なかご)(柄に被われる刃のない部分)を握りって取り出し、痛む左腕で床に転がっていた酒瓶を拾い上げた。

 

 ……『ロンリコ 151』、このラムなら大丈夫なはずだ。

 

「うぉおおおおお!!!」

 

俺は‘‘酒瓶’’と‘‘木箱から引き抜いた刀’’を持ち、隠れるサイモンに近づいた。

 

「イブキにぃ!!」

「イブキさん、援護します。」

 

 ダダダ!!ダン!!ダン!!

 

有難い事にかなめと西住さんが援護射撃をし、サイモンは鉄骨の陰から動くことはできない。

 

「兄弟共々くたばりやがれ!!」

 

俺は左手に持つ『ロンリコ 151』の酒瓶を足元に落とし、それをサイモンに向けて蹴り飛ばした。

 

「……ッ!!」

 

サイモンは『三日月宗近』でその酒瓶を切った。すると中身の酒がこぼれ、サイモンの全身に降りかかる。

 そして、俺は右手に持った‘‘木箱から引き抜いた刀’’でサイモンを切りかかった。

 

  ギィイイ!!

 

 流石は‘‘木箱の中に合った(博物館にあった宝物)’’。俺の握るこの日本刀は『三日月宗近』に耐えられたようだ。

 ところで、日本刀とは……要は鉄の塊だ。その二つが勢いよくぶつかれば火花が散る。その火花の一部はサイモンへ飛び……今さっき全身に浴びた『ロンリコ 151(高濃度アルコール)』に着火した。

 

  ボン!!!!

 

「グァアアアア!!!」

 

サイモンは衣服についたアルコールに火が付き、一瞬のうちに全身が燃え上がって ‘‘火だるま’’になった。『三日月宗近』を投げ捨て、サイモンはその熱さに悶え苦しむ。

 

 ……『ロンリコ 151』は151USプルーフ(=75.5%)という、超高濃度のラム酒だ。高濃度の酒とは言え、約25%は不純物であるから引火するかどうか心配だったが、成功したようだな。

 

俺は燃えるサイモンを前方の側面扉へ蹴り飛ばし、ジョニー・マクレー(おっさん)は腰の拳銃を取り出して発砲し、とどめを刺した。

 

「「(英語)弟にもよろしく……!!」」

 

 ドン!!ダンダン!!

 

 サイモンの弟はロサンゼルスの『ナカジマ・プラザ』で、俺とジョニー・マクレー(おっさん)により転落死している。

 サイモンも弟と同じように外へ落ちて行った。この軍用大型輸送機は高度6500mを超えている。(俺の様な)特殊な訓練を受けていない限り、このような高度から落下すれば、海上・陸上どちらでも命はない。仮にその特殊な訓練を受けていても、ジョニー・マクレー(おっさん)の放った銃弾で確実に死ぬ。

 

 ……貨物室はこれで完全に占拠した。コックピットにはサイモンとカティア・タルゴ以外は見えなかった。その二人は今、ミンチか落下傘なしのスカイダイビング中だ。

 

「(英語)へへッ……!!ヒヒヒ……!!」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は思わず口角を上げ、笑いながら床に倒れこんだ。

 

「クククッ……!!」

 

俺も安堵のせいか床に崩れるように倒れこむと、思わず笑いが込み上げてきた。

 

「「ハハハッ!!アーッハッハッハ!!」」

 

 ……血を流し過ぎた。それに全身は傷だらけ。おまけに左腕は戦闘不可能。他にも色々とやっていそうだな。

 

俺達は立ち上がる元気もない。しかし、笑い転げるだけの力は残っていたようだ。

 

 

 

 

 

「イブキにぃ!!大丈夫!?」

「マクレーさん!!しっかりしてください!!」

 

俺とジョニー・マクレー(おっさん)にかなめと西住さんが駆け寄り、抱き上げた。二人は俺達の怪我を見て顔が真っ青になり、急いで応急処置しようとする。

 

「かなめ……俺の事はいい。それよりもこの飛行機を操縦できるか?」

「(英語)嬢ちゃん、そんなことよりも輸送機(こいつ)だ。何とかしてくれぇ……」

 

この大型輸送機は今でこそ自動操縦で安全に飛行しているが、コックピットには誰もいないのだ。軍用機とは言え、このような大型機は少しでもバランスを崩せばたちまち墜落してしまう。

 それに、この輸送機は日本の領海領空から全力で抜け出そうとしている。そのため、誰かがコックピットに乗り込み、輸送機の進路を変えなければならない。

 

「「……ッ!!」

 

かなめと西住さんはそのことを理解したのだろう。苦虫を嚙み潰した様な、そしてどこか辛そうな表情をした。二人はスクっと立ち上がり、コクピットへ走って向かった。

 

  ドスッ!!

 

 ……か、かなめ。コクピットへ向かってくれたのは嬉しいけど、抱えていた俺をそのまま床に落とさないでもらえるかなぁ。

 

俺は後頭部を勢いよく床に叩きつけられ、打撲による鈍い痛みに襲われた。

 

「(英語)あんな子に抱き着かれてよかったじゃねぇか」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)は痛みに悶えながら、俺を揶揄(からか)う。

 

「(英語)…………うるせぇ、そもそも‘‘かなめ’’は義妹だ。おっさんも知ってるだろ?ノーカンだ。……それにおっさんは西住さんに抱き着かれたじゃねぇか。」

「(英語)娘と同い年の子に抱き着かれてもなぁ」

「(英語)……マリーさん(おっさんの奥さん)にも言いつけてやる。」

 

俺がそう言うとジョニー・マクレー(おっさん)はビクッと震えた後、固まった。

 

「(英語)お、おい!!坊主!!それだけh……!!」

 

 

 

 

 

ジョニー・マクレー(おっさん)が慌ててそう言った時、木箱の後ろからちょこっと顔を出し、機内の様子探る少女たちがいた。

 

 ……この子たちが攫われた子達、『Roselia』というバンドを組んでいるんだったな。

 

「敵はもう居ねぇ。俺達が全員倒したぞ」

 

俺は彼女達を安心させようとヨロヨロと立ち上がった。

 

 ……クソッ。もう立つだけで眩暈(めまい)がしてくる。

 

俺は思わず木箱に手をつき、己の体を支えた。『Roselia』のメンバーである少女達がビクッとする。

 

 ……こんな(血まみれの男)が対応したら、普通の女の子はびっくりするよな。

 

俺は‘‘四次元倉庫’’から手ぬぐいを取り出し、顔を拭くが……半乾きの血糊が伸ばされる感触がする。

 

「あ、あの……『村田さん』?なんで……」

 

‘‘ガールズバンド:Roselia’’の中で唯一面識がある氷川紗夜さんが怯えながら俺に尋ねてきた。

 

 ……そう言えば、氷川紗夜さんは‘‘Pastel*Palettes(パスパレ)’’の氷川日菜の双子の姉だっけ?確かに似ているな。

 

「あぁ~……俺は一応‘‘武偵’’だ。……緊急で氷川紗夜さん(オタク)の妹さんの依頼を受けてな。……全く、俺は‘‘Pastel*Palettes(パスパレ)’’の白鷺千聖の護衛だったのに」

 

俺は自己紹介も兼ねてそう言った時、今は懐かしい‘‘セーラームーン’’の変身BGMの様な物が聞こえ始めた。。

 

……おい、もしかして

 

俺は嫌な予感がした。すでに『海と陸の特殊刑事課』が登場したのだ。今度は『空の特殊刑事課』が登場してもおかしくはない。

 

「ムーンライトパワー!!」

 

俺はその場違いで呑気な声が聞こえると、機内の窓に飛びついた。

 

「おえぇえええ!!」

 

そして、俺は吐き気を覚えた。

 そこから見えるものは……この輸送機と並走する、太平洋戦争中に海軍が開発した双発夜間戦闘機‘‘月光’’。その翼で着替えをしている筋肉ムキムキで青髭の‘‘()っさん(誤字に非ず)’’だった。

 

 ……おい、ちょっと待て!!時速350キロ以上出ている戦闘機の翼の上で‘‘着替え’’なんて普通出来ないだろ!?

 

背中を(さす)られる感触が伝わるが……そんなものどうだっていい。それよりもこの異常な出来事を自分の脳内でそう処理するかが問題だ。

 

 

 

 

 

 

 ……なんだってこんな人達が。

 

 俺は諦めに近い悟りを開き、この現実を受け入れた。

 

「華麗な変身伊達じゃない!!月のエナジー背中に浴びて、正義のスティック闇を裂く!!空の事件なら任せて貰おう!!月よりの使者、月光刑事!!ただいま参上!!」

「同じく美茄子刑事(ビーナスデカ)もよろしく!!……説明しよう!!月光刑事は『女スパイ』に変身する事で、とてつもない力を発揮できるようになるのだ!」」

 

俺達が乗る‘‘大型輸送機の機体後部’’のカーゴドアが開き、戦闘機:月光から二人の刑事(変態)が飛び移った。

 一人は筋骨隆々な体にセーラー服の変態、そしてもう一人は有名な女スパイ:マタ・ハリの格好(しかもFGOの方ではなく、リアルの方)をしたムキムキの変態だ。正直に言って近づきたくない。

 

  スタッ!!

 

「警察庁と警視庁からの命令で‘‘誘拐された少女達’’と‘‘博物館から盗まれた収蔵品’’を回収にやってきた!!」

「さぁ君達。もう安全だ。一緒に来るがいい!!」

 

そう言って二人の刑事(変態)が一歩前へ動くと、‘‘ガールズバンド:Roselia’’のメンバー全5人が恐れをなしたのか、全員が俺に抱き着いて後ろに隠れた。確かに、ごく普通の一般人はこの刑事(変態)に拒否反応が出るのはショウガナイ。

 

「だ、誰ですか!!警察を呼びますよ!!」

 

‘‘ガールズバンド:Roselia’’のメンバーの一人、氷川紗夜さんが声を震わせながら俺の後ろで言った。

 

「「我々がその警察だが?」」

 

二人の刑事(変態)が不思議そうに首を傾げ、さらに一歩近づく。

 

「「「「「ひぃいいいい!!」」」」」

 

‘‘ガールズバンド:Roselia’’は俺の背中に抱き着くように隠れる。

 

「ぶ、‘‘武偵’’何でしょ!?あの変態も倒してよ!!」

 

茶髪のギャルっぽい少女が(すが)る様に言う。

 

「いや……あれでも一応‘‘敏腕刑事’’らしいから。この輸送機にいるより確実に安全d……」

「「「「「いや!!!」」」」」

 

少女達は声をそろえて拒否をする。

 

 ……あぁ~、面倒なことになったぞ。クソッ

 

俺はボーっとする頭を無理やり働かせた。

 

 

 

 

「村田少年、ではそこの少女達を保護させてもらうぞ。」

「さぁ君達、もう安全だ。」

 

俺の目の前に、二人の刑事(変態)筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な体がそびえ立っていた。‘‘ガールズバンド:Roselia’’のメンバーは俺に抱き着く力が強くなり、閉じかけていた傷がさらに開く。

 

「あぁ~……一応‘‘軍’’が保護したという形なので、上官の指示が無いと引き渡すことができないんですよ。」

 

俺は背中の彼女達を守る(?)ために……苦し紛れの、言い訳にすらならない屁理屈を言った。

 

「……分かった。ではこの‘‘博物館から盗まれた収蔵品’’は回収させてもらおう」

「すいません、お願いします。」

 

月光刑事(デカ)は少女達を見て察したのだろう。‘‘東京国〇博物館の収蔵物’’が入った木箱の穴を塞ぎ、ワイヤーや縄でその大量の木箱を縛っていく。

 

「村田君、大丈夫か?応急処置でm……」

「大丈夫です。ありがとうございます、美茄子刑事(ビーナスデカ)。……俺よりもおっさんの方を。」

 

 ……正直に言って、あまり近づいて欲しくない。

 

変装していない方の美茄子刑事(ビーナスデカ)はボロボロの俺を心配してきた。俺はその美茄子刑事(ビーナスデカ)をおっさんへ受け流す。

 

「(英語)……俺はいらねぇ。…………坊主、コックピットに行ってくる。」

 

ジョニー・マクレー(おっさん)美茄子刑事(この変態)と関わり合いたくないのだろうか?スクっと立ち上がると、フラフラしながらも足早にコックピットの方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、3分もしないうちに月光刑事は木箱の穴を塞ぎ、縛り終えた。すると二人の刑事(変態)はワイヤーを伝い、『‘‘東京国〇博物館の収蔵物’’が入った木箱』と一緒にこの大型軍用輸送機に並走する‘‘双発夜間戦闘機:月光’’へ戻っていった。

 

 ……いや、ちょっと待て!!人が‘‘飛行中の航空機から別の航空機へ’’移動する曲芸はあるけど、(収蔵物が入った)合計数トンの多数の木箱と共に移動とか普通無理だろ!!

 

俺のツッコミとは裏腹に、流石は‘‘敏腕刑事’’と言うべきか、‘‘ベテランパイロット’’と言うべきか……多数の木箱はその双発戦闘機の下に収まった。そして、その‘‘双発戦闘機’’は(きびす)を返し、うっすらと見える本土へ帰って行った。

 

 

 

 

 

 俺はその様子を見送ると、ヨロヨロと機体の壁に寄りかかり、倒れるように座った。

 ‘‘ガールズバンド:Roselia’’の少女達が俺に急いで近寄り、心配そうな顔で何かを言いながら俺の体を揺らしてくる。

 

 ……全く、死んじゃねぇよ。

 

「Oh, the weather outside is frightful……」

 

その時、Vaughn Monroe(ヴォーン・モンロー)の‘‘Let it snow! Let it snow! Let it snow!’’が流れ始めた。設定をいじり、機内放送でラジオでも流せるようにしたのだろうか?

 

 ……今は12月の中旬。世間ではクリスマスの陽気であふれている。数あるクリスマスソングの中でもコイツとは、ラジオ局(?)の選曲はいいな

 

俺は目を閉じた。軍用機のせいか、騒音がひどい。しかし、そんな環境が自分には似合っていると思った。

 

 ……後は西住さんとかなめがこの輸送機を操縦して帰れば終わりだ。

 

機体はゆっくりと傾き、旋回を始めた。俺は思わず口ずさむ。

 

「Let it snow! Let it snow! Let it snow!……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映画や小説・漫画ならば、これで‘‘無事に事件が解決’’したという事になり、エンディングだろう。しかし、この輸送機には『村田イブキ』・『ジョニー・マクレー』という‘‘常に不幸を呼ぶ二人組’’がいるのだ。悲しいことにまだまだ‘‘ツイてない’’事が起こるのは確定事項である。

 要は何を言いたいのかと言うと……これで終わるはずがない。現実は常に非情である。

 

 

 

  キーン!!!

 

「「「「「「うわぁああ!?」」」」」」

 

機体が大きく揺れ、さっきまで感じていた‘‘旋回による慣性力’’と逆方向の力が体にかかり、俺達は機内を転げまわった。

 そのせいで ‘‘ガールズバンド:Roselia’’の少女達と‘‘組んずほぐれず’’の状態になった。

 

 ……いったい何が起こったんだ!?

 

俺は自分に覆いかぶさる誰かの上半身を無理やりどかし、何とか立ち上がった。

 

「む、村田さぁああん!!」

 

すると、西住さんが何かを持ってコックピットから飛び出てきた。

 

 ……おいちょっと待て!!西住さんの持ってる物って

 

西住さんはあの‘‘重苦しいオーラ’’を(はっ)していなかった。しかし、そんな事はどうだっていい。

 それよりも西住さんが手に持っている物は……

 

「そ、操縦桿(そうじゅうかん)が折れちゃいましたぁ!!!」

「何でそれが折れるんだよぉ!!!」

 

 ……くそぉ!!サイモンの‘‘置き土産’’か!?

 

俺は頭を抱えた。

 

 

 




 法定速度60㎞出すと、秒速16.7mほどです。そのため、わき見運転はダメだぞ!!(自分結構多いので、ハイ)


 このSSでは、『武藤剛気は本来Sランククラスの腕を持っているが、女に弱いためAランク』という事になっています。西住さんとかなめに格好つけたかったんですよ。


 『NATO』は本来『北大西洋条約機構』であり、『NATO軍』=『欧州軍』ではありません。しかし、今回は分かり易いように、あえて『欧州軍』に『NATO軍』とルビを振ります。
(要は、‘‘輸送機は米・露・欧州製ではない’’という事)


 ‘‘輸送機へ入り込むシーン’’は『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』の輸送機へ飛び乗るシーンを参考にしています。


 地上付近では与圧がされていないためにイブキ達は機内に吸い込まれ、逆に与圧されていたために『カティア・タルゴ』は機外へ吸いだされています。

 リアル:マタ・ハリ……写真を見て貰えば一発なのですが、簡単に言うと『金銀財宝で装飾された小さなブラ&腰に薄い布を巻いただけ』と言う姿です。


 実は『カティア・タルゴ』が握っていた小太刀は飛行中の月光刑事によって回収されています。流石は敏腕刑事ですねぇ……


 Next Ibuki's HINT!! 「343空」 

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