少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

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 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 遅れて申し訳ございませんでした。えぇ、年末はバイト漬け、最近は試験対策がありまして……。(年始は毎日酔いすぎて逆に書けなかった事は秘密だ)





極東戦役:香港編
酒は飲んでも飲まれるな……


「イブキさん、またテロと戦ったと聞きましたが……無事でよかったですわ。」

「全くだ、何度死にかけた事か……あぁ、紅茶が美味い。」

 

俺は聖グロリア―ナ女学院の学園艦にあるクラブハウスで紅茶を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 数日前、俺はハンナに拉致され、休み無しで出撃させられた。

 そして今日の朝、やっと俺はハンナから脱走する(解放される)と今度は蘭豹に拉致され、とある役人に会うことになった。

 その役人は俺に小言を言いながら感状を渡した後、(うやうや)しく‘‘一振(ひとふり)の刀’’を机の上に出した。そして少しだけその刀を抜き、刀身を見えるようにおいた。俺はその刀を見て思わず息をのんだ。

 金茶色の(さや)()はおそらく最近作られた物であろう。しかし、『質実剛健』という文字を体現しているかの様に……あくまでも実用性を重視しつつも、うっすらと見事な装飾がされている。

 それよりもすごいのはこの刀身だ。前章でサイモンが使用した『三日月宗近』に引けを取らない、重々しいオーラを放っている。

 その役人曰く、

 

「あるお方が‘‘今回の事件を解決した事’’を感謝している。謝礼と言ってはなんだが、この刀を貸し出す。お前が死んだら返せよ?(意訳)」

 

俺は面倒事に巻き込まれそう(当然の事をしただけ)なので、刀の方は辞退させてもらおうとしたのだが……その役人はニコニコ笑いながら‘‘兵部省からの命令書(辞退するなよ?)’’を突きつけてきた。そのため俺は渋々(恐縮しながら)その刀をいただく事となった。

 

 俺はその役人が帰るのを見送った(校門に塩をまいた)後、聖グロの田尻凛(ダージリン)から‘‘お茶会の誘い’’の電話を貰った。そこで俺は交友を深め(現実から逃げ)ようと ‘‘横浜港に入港中の聖グロリア―ナ女学院学園艦’’へ飛び、今があるという訳だ。

 

 

 

 なお、この部屋にいるのは俺を含め4人。『閑話:高校生活2学期編  BOKO Hard 2.5』で関係ができたダージリン・オレンジペコ・ローズヒップだ。

 ついでに、俺をヘリで連れてきてくれた武藤は……校庭で戦車道の操縦手達の指導をしている(鼻の下が伸びているのはご愛敬(あいきょう))。

 

 

 

「良かったらお代わりもありますよ。」

「あ。じゃぁ貰おうかな。……やっぱり茶葉が違うからなぁ」

 

俺は紅茶を飲み干すと、橙辺夕子(オレンジペコ)は俺のカップに新たな紅茶を注いだ。

 武偵高の寮でもリサの入れた紅茶を時々飲むが、ここまで上質な茶葉を使っていないため……軍配は聖グロに上がる。例えるなら、リサの紅茶は『そこらの材料でうまい料理を作る大衆食堂』、聖グロの紅茶は『材料からこだわる超高級レストラン』だろうか。

 

「あ!!次は私が!!わたくしが注ぐわ!!……注ぎますわ!!」

「ろ、ローズヒップさん?お茶の入れた事はまだ……」

「アッサム様に説明は受けましたので大丈夫よ!!……大丈夫ですわ!!」

 

矢場蘭(ローズヒップ)は元気いっぱいな小学生の様に勢いよく手を上げて主張し、オレンジペコは困ったような顔をした。

 

「こんな格言を知ってる?『始めさえすれば、もう8割は成功したのと同じだ』」

「アメリカの映画監督、ウディ・アレンですね」

 

すると、ダージリンはティーカップを持ちながらすまし顔でそう言った。

 

「何でも‘‘最初の一歩’’が大切なの。イブキさん、いいかしら。」

 

ダージリンは笑顔で俺に尋ねてきた。ローズヒップは不安そうに俺を見てくる。

 

 ……まぁ紅茶をクソマズく()れたり、‘‘木曜どうでぃ’’の和泉の料理の様な毒物にはならないだろう

 

「あぁ、これを飲み干したらぜひ()れてもらおうか」

 

俺はそう言ってカップを持ち上げると、ローズヒップはバラが咲いた様な大きな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

「そう言えばイブキさん。本当は数日ほど早く招待する予定だったの。でも港が混乱していて……なんでも、東京港の航路近くに貨物船が沈没したらしいわ。」

「へ、へぇ~……そ、そうなんだ。」

 

ダージリンは申し訳なさそうに言い、俺はその事実を知って動揺した。

 

 ……その沈んだ船って、たぶん俺が‘‘空き地島’’に乗り上げさせた船の事だよな。まぁ、いくら航路から外しても狭い東京湾じゃ船の往来の邪魔になる。なるほど、役人達が俺のことを恨めしそうに見る理由が分かった。

 

「い、いや。もう少し早かったら参加できなかったから……沈んだ船とその操舵手に感謝しないとな。」

「そう、それならよかったわ。」

 

俺は誤魔化すようにケーキスタンドのサンドイッチを取り、それを一口で平らげた。そして品は無いが、紅茶を一気に胃の中に流し込む。

 

 ……あぁ、紅茶が美味い。気分も落ち着く。今度いい茶葉を買ってリサに()れてもらおうかな。

 

俺は飲み干したカップをソーサーに置くと、ローズヒップは俺のカップとソーサーを奪い取った。そして嬉々として紅茶を入れる準備を始める。

 

「ローズヒップ?イブキさんはお酒を入れた紅茶がお好きだそうよ。」

「マジですの!?ただいま準備いたしますわ!!」

 

ローズヒップは蹴破る様にクラブハウスのドアを開け、バタバタバタっと廊下を走っていった。

 

 

 

 

 ダージリンはそれを確認すると、オレンジペコに目で合図をした。するとオレンジペコは頷き、部屋の片隅に置いてあったカートを押してきた。

 

「ローズヒップのを待っている間、これでもどうかしら?」

 

そのカートには見事な切子細工が(ほどこ)された(ビン)とグラスがそれぞれ5~6個ほど置いてある。そして、その(ビン)には琥珀色や無色透明の液体が入っていた。

 

「聖グロ特製のウィスキーにジン、ラムです。こちらがノンアルコール、こちらが通常の物です。」

「へぇ~……は!?」

 

オレンジペコの説明を聞いていた俺は驚いた。

 

 ……ノンアルコールはともかく(プラウダのノンアルコールウォッカ等があるため)、普通の‘‘アルコール入り’’って……二人とも未成年、どうやって手に入れたんだ!?

 

俺はダージリンの方へ振り向くと、‘‘悪戯(イタズラ)が成功して喜ぶ少女’’様にクスクスと笑う彼女がいた。

 

「紅茶にブランデーやウィスキーを入れるのを知っていて?聖グロ(ここ)では比較的容易に手に入りますの。まぁ、紅茶に入れる時はアルコールを飛ばすのだけれど……。驚いた顔が見れてよかったわ。」

「本当は最後に出すつもりだったんですけどね。」

 

ダージリンの説明に、オレンジペコが補足を加えた。

 

 ……ん?じゃぁ何で出すのを速めたんだ?……あぁ

 

 

 

 おそらくだが……『俺を酔わしてローズヒップの入れたお茶の味を誤魔化そう』という魂胆だろう。

 ‘‘ローズヒップ初めての紅茶’’、しかもあの性格となれば……さっきまでの極上の紅茶に比べたら雲泥の差の物が出来上がるに違いない。なのでその味を誤魔化すため……ついでに‘‘その粗相’’を()に流せと……

 

 

 

 などと下らない事を考えた後、俺は「それじゃ遠慮なく」と琥珀色のビンを掴んでグラスに注いだ。そしてグラスを持ち上げて臭いをかぐと……スコッチの様な芳醇(ほうじゅん)なピート香(煙の様な香り)を感じる。どうやら、この瓶はウィスキーのようだ。

 香りを堪能した後、このウィスキーを少量口に入れると……口の中でほのかな甘みがじんわりと広がってくる。

 

 ……これ、絶対まぁまぁな値段する奴だぞ!?

 

「ダージリン、これtt……」

「お気に召したようでよかったですわ」

 

ダージリンが食い気味に言い、俺の言葉を(ふさ)いだ。

 

 ……値段や入手方法は聞くなってことか?

 

「……でも、これだけの物を用意してくれてありがとう。」

「良かったらもう一本あるの。持って行ってくださいな」

 

  バタバタバタ……バーン!!!

 

「お待たせいたしましたですわ!!!」

 

ダージリンが笑顔で答えたと同時に、酒瓶を抱えたローズヒップが勢いよく部屋に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 さて、俺達はローズヒップが紅茶を入れる姿を観察しているのだが……どうも怖い。

 普通、最初にカップとポットに湯を注ぎ、それらを温めるのだが……ローズヒップはグラグラと湯が沸いた大鍋にカップとポット、それにソーサーまでも乱暴にぶち込んだ。

 

「な、何やってるんですかローズヒップさん!?」

「この方がすぐに温められて、いいと思ったのございますですが……」

「……取っ手まで熱くなって持てなくなりますよ」

「なるほど……流石オレンジペコさん」

 

そんなローズヒップとオレンジペコのコントの様な掛け合いをダージリンは笑いながら見ているのだが……俺は心配でたまらなかった。

 

 ……だ、大丈夫。たかが紅茶だ。死んだり病気になったりしないはず……

 

 

 

 

 紆余曲折がありながらも何とかカップやポットを温めた後、ローズヒップは俺のカップに酒(色から考えてブランデーかラム)を注ぎ始めた。その時だった。

 

  ドタドタドタ!!バーン!!

 

「ダージリン!!‘‘紅茶の園’’に殿方を入れたというのは本当ですか!!」

「あら、アッサム」

「……!?(ビクッ!!)」

 

長い金髪の少女が扉を蹴破るかのようにして部屋に入ってきた。そしてダージリンを見つけると一気に近寄り、詰問しはじめた。

 オレンジペコと俺はドン引きしながらそれを見ていると……

 

「あわわわわ……」

 

ローズヒップの慌てた声が聞こえた。俺はダージリンと金髪少女から目を離し、ローズヒップの方へ振り向いた。そこには、酒をカップに目一杯……どころか完全に(あふ)れるほど注ぎ、慌てるローズヒップがいた。

 ローズヒップは二三回深呼吸して何とか落ち着くと、新しいカップを4つ取り出した。そしてそれらのカップにさっき注いだ酒を分配していく。

 

「もったいないですわ」

 

 ……ちょっと待て!!ソーサーに(こぼ)れた分まで入れるなって!!もったいないって気持ちはわかるけど!!

 

そしてポットに大量の茶葉とお湯ぶち込んでシェイクし(軽く振り)、真っ黒になった紅茶をカップに注ぎ始めた。

 

 ……と、とりあえず死人病人が出る紅茶じゃないな。

 

 

 

 

「そもそも誰を呼んだのですか!!」

「村田イブキさんよ。アッサムも知っているでしょう。そこにいるわ」

「……ん?」

 

俺は名前を呼ばれたのかと思い、ダージリンたちの方を振り向くと……その‘‘金髪ロングの少女’’と目が合った。

 

「「……」」

 

すると‘‘金髪ロング少女’’は目が合ったまま固まってしまった。固まっている間、彼女の顔が真っ赤になっていく。

 

「あ……どうも」

「……ご、ごきげんよう。アッサムと申します。村田さんの事はかねがね……」

 

俺はこの状態に耐え切れず、思わず声をかけた。するとその‘‘金髪ロング少女’’は絞り出したような声で挨拶をし、顔を赤から青に変わる。

 アッサム(?)と言う少女は再びダージリンに詰め寄った。

 

「……何故私に一言も無しに呼んだのですか!!とんだ赤っ恥をかいたじゃないですか!!」

「黒森峰への情報収集から帰ったばかりでしょう?疲れているかと思ってあえて言わなかったのだけれど……」

「だからと言って……!!!」

 

再びアッサム(?)が詰問を始め、ダージリンが受け流す。そんな時だった。

 

「できましたですわ!!ダージリン様、アッサム様、オレンジペコさんもお飲みになってくださいですわ!!」

 

紅茶を入れたカップを乗せたお盆をローズヒップはテーブルへ叩きつけるように置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……で、一旦全員席に付いてその紅茶を飲んだわけだけど……

 

 ローズヒップの入れた紅茶の味は特段悪くはなく、むしろ‘‘大量の酒に濃い紅茶’’がマッチして意外と美味かった。美味かったのだが……

 

「~~~♪」

「あ゛の゛時、心配じだん゛でずよ゛ぉ~~!!」

「グォ~……グァ~……(イビキ)」

「ウヒャヒャヒャヒャ!!」

 

ここの淑女たちにはアルコールはまだ早かったようで……ローズヒップの紅茶を飲んで十数分後、‘‘優雅なお茶会’’から‘‘乱痴気騒ぎの酒宴’’に変わってしまった。

 ダージリンは俺の膝の上に座って鼻歌を歌いながら貧乏ゆすりをし、俺の分のローズヒップ特製紅茶を(すす)っている(自分のはすでに飲み干した)。

 オレンジペコは俺の背中に抱き着き、顔から色々な液を流して俺の服を汚していく。

 アッサムさんはテーブルに足を置き、大笑いしながら瓶に入った酒をラッパ飲みしている。

 なお、この阿鼻叫喚の状態を作った張本人(ローズヒップ)は……床で爆睡していた。

 

 ……ローズヒップ!!テメェ何を入れたんだよ!!

 

 ローズヒップが入れた酒は色から考えてブランデーやラムの一種。それらは普通、度数が40%ほどであるため……たった一杯(しかも紅茶割り)でこれほど酔うなんてありえない。

 

「アハハヒャヒャヒャ!!もうない~」

 

切子細工のビンに入った酒をすべて飲み干したアッサムさんはヨロヨロと立ち上がり、ローズヒップが持ってきた酒瓶を取ってグビグビとラッパ飲みを始めた。

 その酒瓶には『LEMON HART 151』というラベルが張ってあった。

 

 ……って151プルーフ(度数75.5%)!?何持ってきたんだよ!?

 

なるほど、確かにそんな物を飲ませたら一発でここまで酔うはずだ。

 で、そんな酒をグビグビ飲んだアッサムさんはいきなり椅子に倒れこむように座った。俺は急性アルコール中毒を心配したが……アッサムさんは再び笑い始め、またその酒を(あお)っていく。

 

「……む~!!」

 

  ドスッ!!べキッ!!

 

俺が心配してアッサムさんを見ていると……俺の膝上でちょこんと座っているダージリンが唸った。それと同時に彼女は足を振って俺の(すね)を蹴り上げ、顔面にヘッドバットをぶち込んだ。

 ダージリンは小さな子の様にすっぽり入るという事はなく……彼女の頭頂部は俺の鼻の上ぐらいの高さにある。その状態でヘッドバッドをしたら……

 

「ぐぉ……!!」

 

俺は鼻に殴られたかのような衝撃が来た。また、蹴りも(すね)……と言うよりは‘‘弁慶の泣き所’’に刺さる。

 

「アハハハッ!!ゴホッ……ゴフッ!!」

 

そして俺が苦悶の表情で耐えている姿を見て咳き込むほど爆笑するアッサムさん……

 

「も゛う゛無茶ばじな゛い゛でぐだざい゛!!」

 

そんな事はお構いなしに、泣きついてくるオレンジペコ……

 

「……」

 

完全に夢の世界の住人になったローズヒップ……

 悲しいことに、この部屋にはこの状況を変えてくれる人物はいない。

 

 

 

 

 ……な、何とかして脱出しないと……

 

「だ、ダージリン?そろそろキツイからどいてk……」

「ヤッ!!」

 

ダージリンは小さな子供の様に強く拒否した。そして俺の腕を取って‘‘あすなろ抱き’’の様な位置に置き、鼻歌を歌い出した。

 

「そろそろ(しび)れてきたからd……」

「ヤッ!!」

 

  ドスッ!!べキッ!!

 

「ッ~~~!!!」

 

鼻と‘‘弁慶の泣き所’’にクリーンヒット。俺の鼻から血が出てきた。

 おそらく、傍目(はため)から見れば『鼻血を垂らす変態』と『そいつの膝に座る顔が赤い美少女』……。速攻で俺は逮捕されるだろう。

 

 すると、俺の顔を見て真っ青になったオレンジペコはやっと背から離れ……酒(ジン?)の入った切子細工の瓶を持ってきた。

 

「怪我ばも゛う゛じな゛い゛で下ざい゛!!」

「ゴフッ!?ゴボッ!?」

 

そして、その瓶を俺の鼻に押し当て、‘‘ボトルの水で傷口を洗う’’が如くドバドバと酒を流し始める。本来ならジュニパーベリーとその他の香りが複雑に絡み合うのを感じるのだろうが……直接鼻に流し込まれるせいで‘‘痛み’’と‘‘アルコール臭’’しか感じない。

 

「アッハッハッハ!!私のも飲め~!!!」

 

アッサムさんはフラフラと立ち上がり、手に持っていた酒瓶(LEMON HART 151)を俺の口にねじ込んだ。

 

 ……待て!!流石に鼻と口からの酒攻めは耐えらr……

 

俺は……そこからの記憶がない。

 

 

 

 

 

 その20分後……

 

「手持ちの小銃に刀が‘‘豆腐を切るが如く’’真っ二つにされ、絶体絶命の大ピンチ!!そこで俺は近くに落ちていた高濃度のラムを‘‘サイモン’’に浴びせ、木箱から飛び出ていた名刀を持ってサイモンと鍔迫り合いとなった!!刀と刀がぶつかり合い、火花が舞う!!その火花が着火剤となり……サイモンを火達磨にさせたんだ!!」←イブキ

「わぁ~!!!」←ダージリン

「危な゛い゛事ばや゛め゛で下ざい゛!!」←オレンジペコ

「アハハハハ!!もっと飲めぇ~~!!なんか熱くなってきた……」←アッサム

「……(ぐおぉ~……)」←ローズヒップ

 

 

 

 その後、衣服がはだけた少女達と一緒にいびきを()く男が発見され、危うく警察沙汰になるところだったとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はヨロヨロとヘリから降り、やっと東京武偵高・車輛科(ロジ)棟近くの滑走路兼ヘリポートに足をつけた。

 

「あぁ……クソッ。頭が痛いし気持ち悪い……。武藤、もっと揺らさずに操縦できないのか?」

「一切揺れない乗り物はねぇよ。結構快適に飛んだはずだぜ?」

 

俺は武藤の言葉を聞き流しながらアスピリン錠剤を口に投げ入れ、ペットボトルの水を飲み干した。そして俺は近くのゴミ箱へ空のペットボトルを投げ……外した。

 

「「……」」

 

俺は無言でそのペットボトルを拾いに行った。

 

「でもあそこまで酔うなんて珍しいな。それにすごく酒臭いし……。何があったんだ?」

 

武藤は近くの後輩に水を持ってこさせ、その紙コップを俺に渡してきた。俺はそれを受け取り、一息で飲み干した。

 

「鼻と口から消毒薬クラスの酒を流し込まれたんだよ。」

「……いや、本当に何があったんだよ!?あのお嬢さんたちが!?そんなことを!?」

「武藤、近くで騒ぐなって……頭に響く……」

 

  ブロロロ……

 

俺は車輛科(ロジ)棟の壁に手をつき、ため息をついた。そして空を見上げると……ゆっくりと着陸態勢に移るJu87(スツーカ)がいた。

 俺は一気に‘‘酔い’’や‘‘頭痛’’・‘‘吐き気’’が収まり、‘‘悪寒’’が体中を駆け巡った。

 

 ……と、とにかく隠れないと!!

 

俺は‘‘影が薄くなる技’’を使い、近くにあったツツジの花壇の陰に隠れた。

 

「キンジは『女が嫌いだ』とか言ってモテるし、イブキも女の子の知り合いが多いし……。どうやって女の子と知り合えるんだy……あれ?」

 

武藤はいきなり俺が消えたように感じたのだろう。アイツはあたりを見回して俺を探していた。

 

 

 

  ブロロロ……!!!

 

隠れて一分もしないうちにJu87(スツーカ)は見事な着陸を決めた。俺はそのツツジの花壇から息をひそめてJu87(スツーカ)を観察する。

 停止したJu87(スツーカ)から金髪美女(ハンナ)が飛び出ると、車輛科(ロジ)装備科(アムド)の生徒達が彼女にワラワラと集まって行った。

 

「すまないが急いで給油と弾薬の補充を頼む!!10分後には次の任務につかなければならない!!」

 

彼女はそう伝えると、周りを見渡した。まるで何かを探している様に……

 

  キッ!!

 

急にハンナは俺が隠れている花壇を睨みつけた。心なしか、花壇越しに覗いている俺と目が合ったような気がする。

 

「ッ……!?」

 

 ……嘘だろ!?またバレたのか!?

 

そしてハンナはカツカツと靴を鳴らしながら花壇に近づいてくる。俺は息を(ひそ)め、神様仏様玉藻様に祈ることしかできない。

 

  ドクッ!!ドクッ!!ドクッ!!

 

冬の寒空の下、俺は滝のような汗を流す。心臓の鼓動がやけに強く聞こえ、間隔が短くなっていく。

 

「ハンナさーん!!スイマセンがここを見てもらっていいですか!?」

 

ハンナが花壇まで2mを切った時、Ju87(スツーカ)の整備をやっていた後輩がハンナを呼んだ。

 

「分かった!!今行く!!おかしい、イブキの気配に(にお)いを感じた気がするのだが……

 

ハンナは(きびす)を返し、頭をかしげながらJu87(スツーカ)の方へ向かって行った。

 

「ここ、機関砲の撃針なんですが……」

「フム……替えは無いのか?」

「全く同じのはありませんよ。代用品で良いなら探してきますが……」

 

 ……な、何とかバレずに済んだ。

 

俺は崩れ落ちるように地面に寝転がり、胸をなでおろした。汗をかいたせいか……急に空気が寒く感じる。俺はゆっくり息を吐き、心臓を落ち着かせ、東京の冷たい空気を肺にいれた。そして憎たらしいくらいに綺麗な青空が目に入った。

 

 

 

 

 

 ……あれ?そう言えば後部座席には誰がいるんだ?

 

俺は落ち着いたら疑問を持った。そこで再びツツジの花壇越しにJu87(スツーカ)を見ると……後部座席には‘‘かなめ’’が座っていた。

 

「……ウッ!?」

 

俺はかなめの表情を見て思わず声を出してしまった。

 かなめは後部座席に座ったまま、俺がいる方向を虚ろな表情で見ていた。その表情が‘‘無表情’’や‘‘真顔’’と言うよりは……まるで‘‘埴輪(ハニワ)’’の様な表情をしていた。表情のない顔に目と口を丸く描き、そこを黒く塗りつぶした様な……そんな顔をしていた。

 

 ……へ、下手なホラー映画よりも怖いぞ!?

 

その時、かなめの口が動いた。声は聞こえないが、口の動きから察するに……『HELP』。

 

 ……み、見てられねぇ。

 

しかし、Ju87(スツーカ)の近くにはハンナがいる。‘‘影が薄くなる技’’を見破った事があるハンナからバレずにかなめを救う事は難しいだろう。

 

 ……スマン、かなめ。

 

俺はかなめを見捨て、この場から逃走しようとした時だった。

 

「スイマセン!!機関砲の弾薬でちょっと……」

「分かった!!今向かう!!」

 

今度は違う後輩にハンナは呼ばれた。そして二言三言話した後、ハンナはJu87(スツーカ)から離れて装備科(アムド)棟へ向かって行った。

 

 ……よし!!これなら……

 

俺は‘‘影の薄くなる技’’を使いつつ、バレないようにJu87(スツーカ)に近づいた。そして後部座席を恐る恐る(のぞ)くと……

 

「Help……Help……Help me……」

 

かなめによく似た‘‘埴輪(ハニワ)’’が……違った、‘‘埴輪(ハニワ)’’によく似たかなめが虚空を見ながらボソボソと助けを求めていた。

 

 ……ここまで来たら見捨てられないよなぁ

 

俺はハンカチを出してかなめの口を塞ぎ、そのまま後部座席から引きずり下ろした。

 

「Help……Help……Help……」

 

そしてかなめを担ぎ上げ、俺は‘‘機材を運ぶそこらの生徒’’の様にしながらツツジの花壇の(かげ)まで移動し……今度はかなめを背負い、脱兎の如く逃げ始めた。

 

「……ん?イブキ?」

 

ハンナの声が聞こえたような気がした。俺はさらに走るスピードを上げ、この場から逃げ去った。

 

 

 

 

 

 

 ……ここなら、もう大丈夫だろ。

 

俺は滑走路から離れた強襲科(アサルト)棟の隅に腰を下ろした。いつも以上に息が切れて鼓動が激しいのはハンナに対しての緊張であって、体が鈍っているせいではないと信じたい。

 

「……ん?あれ?ここは?」

 

やっと背中のかなめ(ハニワ)は人間に戻り始めたようだ。

 

「あれ……?あたし、アイツに喧嘩売って……無理やり飛行機に乗せられて……そして……」

 

見なくても分かる。かなめの目と口が丸くなっていき、白い肌が土色になっているのだろう。

 

「ほら、ハンナはいないから。もう、大丈夫だ。」

 

俺は子供をあやす様に背中のかなめを揺らすと、かなめは段々と落ち着いていった。

 

「……い、イブキにぃ?助けてくれたの?」

「あぁ。だからもう、大丈夫だ。」

「……ッ!!イブキにぃ……イブキにぃ!!」

 

かなめは俺の背に強く抱き着いて泣き始めた。背中のシャツが彼女の涙やら何やらで湿りはじめ、俺は多少既視感(デジャヴ)を感じると共に……罪悪感に襲われた。

 

 ……ついちょっと前、俺はかなめを見捨てようとしたんだよなぁ。

 

I love you!!(イブキにぃ、大好き!!)I’m in love with you!!(イブキにぃに恋してるの!!)No one matters but you.(イブキにぃ以外の人間なんてどうでもいい。)Be mine, forever!!(ずっとあたしの物になって!!)

 

かなめが俺の背中に頭を擦りつけながら何か言っているのだが……それがさらに罪悪感を掻き立てていく。

 そんな時だった。

 

  サクッ……

 

俺の頬に、紙で切った様な痛みを感じた。俺は目だけを動かし、恐る恐るその原因を探ると……俺の頬に刃を立てた幅広の軍用サバイバルナイフが見えた。

 

「ねぇ、イブキにぃ?」

 

俺の背中から……くぐもった声が聞こえた。その声は小さいのだが……俺の頭に大きく響き渡る。

 

「他の女の臭いがする……。しかも、今まで無い匂い……。ねぇ、イブキにぃ……誰?」

 

 ……助けない方が良かったかなぁ

 

ナイフが頬から首に移動した。首の薄皮が切れ、痛みはないが……血が流れていくが分かる。

 俺はため息をついた後、かなめへの言い訳を考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 聖グロでは紅茶にお酒を入れる時があるため、比較的容易にお酒が手に入る……という事にします。
 醸造の件は、アンツィオでワイン(ぶどうジュース)作って、プラウダでウォッカ作ってるんだから……聖グロもウィスキーやジンぐらい作ってそうだと。


 酔うと……
 ダージリン→幼児退行
 アッサム→笑い上戸の絡み酒
 オレンジペコ→泣き上戸
 ローズヒップ→すぐ寝る
なお、ローズヒップ以外は全員酔っても記憶は忘れない様で……



 Next Ibuki's HINT!! 「事前会議」 

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