少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

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皆様、遅くなって誠に、誠に申し訳ありませんでした。

 期末試験やって、レポートやって……一部授業で『レポートのつもりだったけど、やっぱテストにするわ(テスト1週間前)』とか言われたり……。
 そんなのに終われていたらスランプに陥りました。


 あれですね、調子がいい時は余裕で数千字は書けるのですが……調子が悪いと数日でやっと数百文字……

 次は早く投稿……できるといいなぁ……。


この刀ってなんだよ……

 かなめとの交渉の末、『今度一緒に東京を観光(デート)する』という事を条件に……俺はやっとかなめから解放された。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜……

 

 俺は何処だか分からないが……草木が一本も生えていない荒野にいた。そして、俺を囲むようにして人民服・‘‘清朝時代の満州民族の衣服’’・‘‘漢服(漢民族の伝統的な衣服)’’を着たゾンビ(キョンシー)(?)達、そして麒麟(きりん)等の様々な妖怪が地平線の彼方(かなた)までいる。

 

 ……またこの夢か。そろそろ飽きてくるんだが。

 

ここ数日、俺は『多数の妖怪達が自分を襲いに来る、やけにリアルな夢』を見ていた。

 俺はため息をつきながら手榴弾をバケモノ達に投げつけた後、着剣した38式と紅槍を取り出して構えた。そして手榴弾の爆発音と共にバケモノ達が一斉に襲い掛かってきた。

 俺は槍を振るい、銃弾を放ちながらバケモノ達から近づかれない様にする。

 

 

 

 体感としては30分ぐらいであろうか。38式どころか25ミリ機銃に拳銃の銃弾も尽きてしまった。

 

 ……あぁ!!クソッ!!面倒な……!!夢なら早く()めてくれ!!

 

いつもであれば、戦闘が始まって10分ほど経過した後、誰かしらが援軍として加わるのだが(長槍を持った足軽・戦前の憲兵・上官達(辻とゆかいな仲間達))……今日に限っては全く来る気がしない。

 

 ……今日はとうとう俺一人か、クソッ!!

 

銃剣は全て折れ、紅槍の穂先は血油で切れ味が落ちているため……38式と紅槍を棍棒の様に使う。

 そんな時だった。いきなり俺の横に着物姿の白髪の老人がいきなり現れた。

 

「新たな主人よ、私は刀の**です。ですが(さび)(ほこり)(さや)から抜けないのです。この妖共(あやかしども)をどうにかしたいのであれば、私の(さび)を取tt……ゴフッ!?」

「……あ。」

 

38式や紅槍などの重量物は急に動きを止めることができない。そのため、いきなり現れた老人の顔面に38式の銃床が、腹部には紅槍の()が当たり……本塁打王の打球が(ごと)く、老人は何処かへ飛んで行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……どんな混沌(カオス)な夢だよ。」

 

打球(老人)を見送ったところで俺は夢から()めた。

 

 ……あのジジイ、刀云々(うんぬん)って言ってたっけ?

 

俺はあまり信心深い人間ではないのだが……なんとなく、先日(前話)で役人から貰った日本刀を抜いてみた。

 そしてよく観察すると……その刀身の一部にうっすらと錆が浮いていた。

 

 ……このぐらいの錆ならボロ切れで(ぬぐ)えば落ちるな。でも、まさか本当だなんて……ってヤベェ!?

 

何処かにぶつけたのか、この刀の(つば)がぐにゃりと曲がっていた。この刀の(さや)()(つば)は新造ではあるが……それでも最高級品であることはすぐにわかる。そのため……修理代も高くつくに決まっている。

 

 ……って言うか、昨日こんな風に曲がってなかったよなぁ!?……はぁ、直さなきゃマズいよなぁ。

 

俺は曲がった(つば)の修理代を考え……早朝から頭が痛くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼休み、俺は平賀さんに(つば)の修理を依頼し、修理費と‘‘直るまでの代替用の(つば)’’の代金に頭を痛めた。

 そして放課後、俺は我がチーム『COMPOTO』を選択教科棟の美術準備室に招集をかけた。‘‘修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)’’の事で話があるからだ。

 最初は寮の部屋で話そうと思っていたのだが……アリアや白雪に聞いて欲しくない話(軍機に当たる部分)が多少含まれる。そのため、人目につかない美術準備室(ここ)で話すことになったのだ。

 ……ワトソン(エッレ)との『おままごと(リハビリ)』でこの部屋をよく使うため、‘‘勝手を知っているから’’と言う理由もあるが。

 

「……時間は過ぎているんだけどなぁ」

 

俺は安物のマグカップに、ワトソンが運び込んだそこそこ良いティーバッグを入れた。そして湯を注いで十数秒待った後、ズズズ……とお茶を啜った時、勢いよく扉が開いた。

 

「久々の登場である!!」←ネロ

「そうです!!同じチームであるのに何故出番がほとんど無いのですか!!」←ニト

「主殿、ちゃんとした出番をください!!」←牛若

「まだ牛若は前章で出たからいいじゃないか。僕なんていつ以来の登場だい?」←エルキドゥ(エル)

「……イブキ様、リサもお願いいたします」←リサ

「比較的に出てるけど……前章だと出番がなかったからプンプンガオーだぞ!!」←理子

「前章は出たとはいえ……僕の出番が少ないのはどういうことだい?」←ワトソン

「何言ってんだ、お前ら。」←俺

 

扉が開かれたと同時に体操服姿(午後にスポーツテストがあったからか?)の『COMPOTO』女性陣(と言うか俺以外の全員)+@が『出番』やら『前章』やら訳のわからない事を言いながら入ってきた。いったい何のことを言っているのだろうか。

 

  ‘‘こ、この章では出番を作りますので……はい’’

 

俺は脳に直接、聞き覚えのない声が聞こえたのだが……きっと疲れているせいで幻聴でも聞いたのだろう。

 

 

 

「と言うか、なんだって全員体操服なんだよ。」

 

俺はため息をつきながら尋ねた。

 

「どこか問題でも?」

 

髪を後ろで一纏(ひとまと)めにしたニトは不思議そうに己の衣服を確認した。

 砂漠で生きる人は……強い直射日光をもろに浴び、夜は冷えこむため、長袖の‘‘身を隠す服’’を着るそうだ。しかし‘‘元ファラオ’’という理由のせいか、ニトの普段着は水着……と言っても過言ではないほどの薄着である。そのせいか、この衣装に疑問は無いらしい。

 

「主殿。女子更衣室が破壊されていたのでそのまま来たのです!!」

 

牛若は元気よくそう言った。

 その言葉から察するに……おそらくロケット砲か無反動砲・迫撃砲・軽砲の誤射や流れ弾が運悪く女子更衣室に直撃したのだろう。軍ですら滅多に起きない事も武偵高では日常茶飯事なのだ。

 

「『重要な会議』と聞いて余は急いだのだぞ!!」

「久々の出番だから……道具は必要な場になければいけないから。」

 

ネロはふくれっ面をしながら言い、エルキドゥ(エル)は笑顔で……いや、張り付けた笑顔のままイジケながら言った。

 

「『重要な会議』って……そんな固い言葉が出てきてみんな驚いたんだ。だからみんな着替えもせずに慌ててきたんだよ。」

 

ワトソン(エッレ)はため息をつきながら言った。

 男装しているとはいえ、化粧をしているのだろうか……ワトソン(エッレ)(ほう)(くちびる)が普段よりも紅い。それに加え、Tシャツにハーフパンツという姿でもあるせいか、ワトソン(エッレ)は倒錯的な色っぽさを身に着けていた。

 

 ……やったねワトソン(エッレ)!!おままごと(リハビリ)の成果が出てきてるよ!!……はぁ。

 

 

 話が変わるが、現在この部屋にいる女性陣の服装は……牛若・エルキドゥ(エル)ワトソン(エッレ)がTシャツにハーフパンツ。そしてネロ・ニト・リサ・理子がブルマ姿でいる。

 

 ……ちゃんとした体操用のブルマなんてまだ売ってたのか。

 

俺は‘‘需要と供給の関係’’に感心した後、今回呼び出した理由を口にした。

 

「『重要な会議』って言うのは修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)の事だが……」

「新大陸に行くのであろう?楽しみだな!!」

「まさか後世で新たな大陸が見つかるとは思いませんでしたが……楽しみですね。」

 

ネロとニトが反応した。その他英霊組も(うなづ)いている。

 生前、発見すらされていなかった新大陸(オーストラリア)に行けるのだ。冒険心やらなんやらがくすぐられるのだろう。

 

「そのことで、‘‘オーストラリア’’に行く予定だったんだけど……軍の上層部の意向で俺は‘‘香港’’に行くことになったんだ。」

「「「「「「……」」」」」」

 

彼女達の笑顔がピシッと固まった。この棟の建付けが悪いのか、背筋が凍るほどの冷たい隙間風が俺に当たる。

 

「い、一応俺抜きでオーストラリアへ行くことは可能だけど……」

「何で香港へ行くんだい?」

 

エルキドゥ(エル)は張り付けた笑顔のまま、瞳孔が開き切った目で俺を見ながら言った。その目を見ると、かなめを思い出すのは何故だろうか。

 

「ええっと……それは……」

 

俺は軍機に当たる部分を除きながら、頭の中で説明文を組み立てる。その時だった。

 

「軍機に当たる部分が多いからムラタは言いづらいと思う。だからボクが説明するよ」

 

 

 

 

 ワトソンがそう言いながら美術準備室に置いてあるホワイトボード(ワトソンの私物)を引っ張り出してきた。そしてワトソンはそのホワイトボードを使いながら‘‘極東戦役(FEW)の事’’・‘‘先日のテロ事件と藍幇(ランパン)との関係性’’・‘‘それに対しての日本軍の行動’’を事細(ことこま)かく説明した。

 

 ……あれ?‘‘部外秘(軽度の軍機)’’ならまだしも、なんで‘‘軍機・軍極秘(重度の軍機)’’までワトソンが知っているんだ?

 

  『こっちも防諜はしているけど、天下のイギリス相手は厳しいよ』

 

HS部隊第一中隊の藤原少佐(藤原さん)の声が聞こえたような気がしたのだが……疲れて幻聴でも聞こえたのだろう。

 俺は‘‘己の疲れ’’と‘‘日本の防諜の低さとイギリスの情報収集能力’’にため息をついた。

 

「……というわけでムラタは香港に行くことになったんだ。」

「なんだって軍機にあたる部分を知っているのかは置いとくとして……そういう事です。楽しみにしているところ、スイマセンでした!!」

 

俺はそう言ってみんなに頭を下げた。みんなの視線が俺の頭部に刺さる。

 

 

 

 

俺が頭を下げて数分経った。

 

「……ハァ」

 

誰かがため息をついた。

 

(おもて)を上げよ」

 

ネロの言葉に俺は首を横に振り、頭を下げ続けた。するとネロは歩いて近寄り、俺の頭を力強く掴み、無理やり頭を上げさせた。

 

「理由があるのであろう。ならば余達もその‘‘香港’’とやらに行こうではないか!!東端に後漢(大国)があったのは知っていたが……ウム!!楽しみである!!」

 

ネロは薔薇の様な華やかな笑みを俺に突きつけるようにして言った。

 

新大陸(オーストラリア)に行けないのは残念ですが、新大陸(アメリカ)は夏に行ったのでいいでしょう。……ですが大陸の東端ですか。この国も異国情緒があって面白いですが、その‘‘香港’’はどうなっているのでしょう?」

 

ニトは笑みを浮かべながら、ウキウキと言う。

 ニトは紀元前23~22世紀に生きたファラオ。彼女にとって、この世の何もかもが新鮮に映っているのだろう。

 

「現代の唐土(もろこし)ですか!!楽しみです!!」

 

牛若は両手をバタバタと振り、その興奮を表現する。

 

「……(ニコッ)」

「リサは常にイブキ様について行きます。」

 

エルキドゥ(エル)はいつも通りの瞳で笑みを浮かべ、リサも微笑みながら言う。

 

「理子、栗子月餅(ロッチーユッベン)食べるー!!」

 

理子はそう言って俺に勢い良く抱き着こうとしてきた。俺は条件反射で理子を掴んで投げ飛ばす。

 

  ドスッ!!

 

「ちょっとイブイブ!?なんで投げるの!?」

「あ……いや、つい」

 

理子は(ほお)を膨らませて抗議する。俺は久々のこの‘‘暖かい空気’’に顔が(ゆる)んだ。

 

 

 

 

 

 

「では!!遠征(きゃらばん)で‘‘藍幇(ランパン)’’とやらを潰してしまおうぞ!!」

「武具の方も準備しなければなりませんね。」

「主殿の障害は取り除きませんと……」

「……(ニコニコ)」

「ホテルの手配はお任せください!!」

「ふっふっふ……藍幇(ランパン)についてはこの理子りんに尋ねなさ~い!!」

 

さて、何処から持ってきたのか……理子がホワイトボードにA3サイズ(420×594㎜)の香港全域図を張った。そして『COMPOTO』の面々はその地図と‘‘にらめっこ’’をしながらヤバい方向へ話が進んでいく。。

 

 ……そう言えば、みんな血の気が多いんだっけ。

 

俺はその話題を止めようとした時、誰かが袖を引っ張った。

 俺は引っ張られた方向を向くと……ワトソンがいた。

 

「ムラタ、ボクは‘‘Garrison’’として東京に残ろう。修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)の時期はジャンヌもシンガポールだ。あぁ、単位は心配しなくていい。留学生には見学する都市の一つに『東京』もあるんだ。」

 

‘‘Garrison’’……直訳で‘‘守備隊・駐屯軍’’。要は、ワトソンは留守役として日本に残るつもりらしい。

 

 ……それは有難い。助かるな。

 

留守役(Garrison)は楽なように見えるが、実は一番大変な仕事だ。味方本隊が出ているため、陣地は敵の工作を受けやすくなる。最悪、敵が攻めてくる可能性もあるため、留守役(Garrison)は任された陣地を単独で死守しなければならない。

 軍としての留守役(Garrison)は藤原さんが所属するHS部隊第一中隊、個人としての留守役(Garrison)は玉藻にヴォルケンリッター(最近出番なし)がいるのだが……武偵としての留守役(Garrison)はいなかった。そのために心配していたのだが……ワトソンが立候補してくれたため、心配はなくなった。

 

「助かる。帰ってきたらなんか(おご)るぞ。」

 

俺は留守役(Garrison)を買って出てくれたワトソンに思わず礼を言った。

 

「じゃぁ、帰国後に六本木・秋葉原・浅草を二人で一緒に回ろう。楽しみにしているよ」

 

ワトソンはそう言ってウィンクをした。俺はその姿に一瞬ドキッとした。

 

 ……転装生(チェンジ)だから女だってバレちゃいけないってのに。化粧もしてウィンクとか何やってんだよ。変な色気まで身に着けやがって。

 

軽い頭痛がするのだが……二日酔いのせいではないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 会議終了後、香港への荷造りの為に一端解散した。そこで、俺は久々に家に戻ることにした。

 

「イブキ兄ちゃん、香港行くん?えぇなぁ~」

 

荷造りを粗方(あらかた)終え、居間で予備の38式歩兵銃と日本刀の簡易整備をしていた。すると、海鳴市で保護した‘‘八神はやて’’ちゃんが車椅子で近寄ってきた。

 

「ただの修学旅行だったらよかったんだけどなぁ……。これでも喰らえ!!」

「うわわ!?」

 

俺は整備の手を止め、手を(ぬぐ)うとはやてちゃんと肩を組むようにして抱き寄せ、もう片方の手で彼女の頭を乱暴に撫でまわした。

 はやては軽く叫び声を上げ、‘‘イヤイヤ’’と離れようとしている。だが、その笑顔から察するに、彼女もこのスキンシップを楽しんでいるのであろう。

 

「やめてー、髪がボサボサになるー」

「ふっふっふ!!寝起きよりも以上にボサボサにしてやろう。ついでに頭皮マッサージも追加だ!!」

「きゃぁ~~!!」

 

俺は修学旅行Ⅱ(キャラバン・ツー)の不安をかき消すように、はやての頭をガシガシといじくる。

 

 ……藍幇(ランパン)、諸葛静幻らは‘‘香港藍幇(ランパン)’’だっけか?その‘‘香港藍幇(ランパン)’’は『俺やキンジ達が香港へ遠征する』という情報は得ているはずだ。そして‘‘東京でボロ負けした奴ら’’はこの防衛線(香港戦)では絶対に勝つ必要がある。

 

俺ははやての頭をグリグリと撫でまわしながら思わずため息が出た。

 

 ……可能性は低いが、勝利のためにルールを無視する可能性が十分にあるな。‘‘市民を巻き込んだ市街地戦’’、‘‘雑兵を総動員させる戦闘’’……東京での事を考えたら、そのぐらいの事はしてきそうだしなぁ。

 

 

 

 

  バタバタバタ、ドターン!!

 

すると、いきなり居間の扉がふっ飛んだ。俺はあまりの事に固まってしまう。

 

「主はやて!!大丈夫ですか!?

「はやて!?どうしたんだ!?」

 

扉があった場所からシグナムとヴィータが出てきた。そして彼女達は武器をどこからか取り出し、それらを振りかぶって俺へ一気に接近する。

 

「ちょ!!待て!!待てって!!」

 

俺ははやてを離して彼女の前に立ち、38式の銃身(分解中)と、置いておいた日本刀で攻撃を受けた。

 

  サクッ!!ギャイン!!……ドスッ!!

 

「ってあれ?イブキじゃねぇか?」

「手荒い歓迎ありがとよ……ハァ」

 

ヴィータは攻撃してやっと気が付いたようだ。俺は思わずため息が出た。

 38式の銃身は彼女のハンマーを受け止めたせいでひん曲がってしまった。この38式も廃棄決定だ。

 

 ……もう予備は無いから第二中隊の武器庫から貰ってくるしかないなぁ。ってあれ?シグナムの反応がない。

 

俺は恐る恐るシグナムの方を見ると、彼女はメカメカしい剣(?)を振り下ろしたまま固まっていた。

 よく見ると……彼女の持っている剣の形がどこかおかしい。まるで‘‘元々あった剣を断ち切った’’様な形をして……

 

 ……そ、そう言えば、銃身を持った左手はすごい衝撃だったけど……日本刀を握った右手は何の衝撃も無かったぞ?ま、まさか……

 

今、俺が握っている日本刀は先日(前話)で役人から貰った業物(わざもの)だ。 多少(さび)が浮いていたのでふき取ったのだが……この日本刀は俺の様な素人でも‘‘すごい業物’’と言うのはよく分かる。そんな日本刀の切れ味はもちろん良いに決まっている。

 俺は恐る恐る下を向くと……床にはシグナムの剣の破片(?)が刺さっていた。

 

「わ、私のレヴァンティンが……」

 

シグナムは手に持っていた剣(破損品)を落とし……膝をついてorzの体勢になった。

 

 ……う、嘘だろ!?この日本刀、シグナムの剣を簡単に切り裂いたのか!?

 

シグナムとヴィータが武器を下ろしたため、俺は警戒を解いて日本刀をまじまじと見た。

 この日本刀、前章でサイモンが使用した‘‘三日月宗近’’に引けを取らないほどの重圧を感じる。

 

 ……こ、この日本刀は一体何なんだよ!?

 

俺は思わず冷汗をかいた。

 

「ほぉ、見事な切れ味であるな!!」←ネロ

「現代でもあれほどの剣が……」←ニト

「おぉ~!!すごい切れ味!!」←理子

「……(ニコニコ)」←エルキドゥ(エル)

「どこか似たような物を見た事があるような……」←牛若

「イブキ兄ちゃん?刀かえたん?」←はやて

 

『COMPOTO』の面々はこの日本刀の切れ味に思わず感嘆の声を上げていた。

 

 ……おい!?なんだって理子まで(うち)にいるんだよ!?あとはやて、刃傷沙汰が目の前で起きても動じないなんて……兄ちゃん、君の成長がうれしいよ(泣)

 

俺はため息をつきながら日本刀を鞘に戻し、orz状態のシグナムに声をかけようと膝を折った。

 

 

 

 その時だった。キッチンから濃厚な殺気が流れ出てきた。居間にいた全員が氷のように固まった。

 

  ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!

 

二人分の小さな足音がやけに響き渡る。二つの濃厚な殺気の発生源が徐々に近づいてくるのを音と肌で感じる。

 

「シグナムさぁん?この扉は一体どういうことですかぁ?」

「帰りに買い物を頼んだのですが……どうしたのですか?」

 

玉藻(良妻賢母(魔王))リサ(温厚メイド(怒))が割烹着orエプロン姿のまま、良い笑顔で尋ねてきた。

 俺はシグナムから離れ、鬼になった二人から目をそらすと……黄色い液体が漏れ出しているレジ袋を見つけた。おそらく中身は……割れた生卵。もったいないが、あの卵達は捨てるしかないだろう。

 扉を破壊し、食材を無駄にする……主婦達(あの二人)はそれら行為を絶対許さないであろう。

 

「……(白目)」

 

己の武器(メカメカしい剣)が壊れて傷心中に、二人(鬼達)(にら)まれ……シグナムは白目を向いて固まってしまった。

 

 ……俺は複数の武器を使って戦うから、武器が破損してもそこまで響かないけど……シグナムは替えの武器がないからなぁ。それにあの二人(鬼達)に睨まれて普通でいられる方がおかしいよ。

 

そんなシグナムに対し、ヴィータはまだ離す余裕があったようで……

 

「は、はやての悲鳴が聞こえたから、い、急いで……そしたらイブキがはやてをいじめてて……」

「……は?」

 

ヴィータの発言を聞いて、俺は固まり、冷汗がドバッと出た。

 

 ……確かにはやては『やめて~』とは言ってたけど、あれはスキンシップの範囲内だろ!?

 

俺は後ろにいるはやてに弁護してもらおうと振り向き……いない!?

 俺ははやてを探すと……彼女はネロやニト・理子達が(くつろ)いでいるソファーへ車椅子を猛ダッシュさせていた。そしてそのソファー(安全圏)に到着すると車椅子を180度回転させて俺の方を向き、拝み手をしながら申し訳なさそうな顔をした。

 

 ……は、はやて!?見捨てる気かy……

 

「マスター?」

「イブキ様?」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

二人(鬼達)が俺をギロリと見てきた。俺は思わず両手を上げ、降伏の意を示す。

 

「「今の話……本当ですか?」」

 

二人の眼光が……俺を貫いてくる。俺はさらに冷汗が噴き出る。

 

「い、いえ!?確かにはやてとじゃれ合っていましたが、決してイジメてなど……なぁ!?」

 

俺はソファーで(くつろ)いでいる傍観者達に援護射撃を頼もうと振り向いた。しかし、そこにいる全員が顔を俺から背ける。

 

 ……おい!?みんな‘‘触らぬ神に祟りなし’’ってか!?

 

鏡が無いのに、自分の顔が真っ青になっていくのが自覚できる。

 そして、今にも襲い掛かりそうな妖狐と人食い()が睨みつけてくる様な幻覚が見えt……っていうか、まんまその通りだ。

 

「嘘はついていないようですねぇ」

「リサは信じていました」

 

二人は殺気を収め、慈愛の笑みを浮かべ……

 

「「マスター(イブキ様)とシグナムさんは御飯抜きです」」

 

俺とシグナムに裁きを下した。

 

 

 

 

 

「え?いや……原因はシグナムとヴィータだろ!?」

「誤解の原因を作ったのはマスターですし?それにヴィータさんは司法取引(正直に話)してくれたので。えぇ、ここ最近ほとんど出番がないからっていう事ではございませんよ?」

 

俺の言葉に、玉藻は笑顔でサムズダウン(BADの手)をした。

 

 ……う、うわぁ。怒ってらっしゃる。

 

俺は反論を止め、判決を受け入れた。

 その日の夕飯、真っ白に燃え尽きたシグナムと俺の前には水の入ったコップが一つ置かれただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反省の色を示していたせいか……‘‘いただきます’’をしてから五分後、主婦二人(玉藻とリサ)が許し、俺とシグナムに夕食を出してもらえた。

 その後、酒盛りも始まり……やっと今、お開きとなったのだ。

 

「あぁ……こりゃ早く寝ないと……」

 

俺は千鳥足で部屋まで戻り、壊れた38式と日本刀をそこらに立てかけた。そして布団に倒れこみ、目を閉じる。

 酔いで三半規管がうまく働いていないらしく……布団が‘‘揺り籠(ゆりかご)’’の様に動いているような気がした。

 ‘‘揺り籠(ゆりかご)’’に()られて数分後、俺は夢の住民となった。

 

 

 

 

 

 

 俺は輸送機の中にいた。窓を見ると……青い地球が見える。

 

 ……あ、夢だ。明晰夢(めいせきむ)だっけか?最近はよく見るなぁ。

 

俺はため息を吐くと……後ろに気配を感じた。俺はゆっくりと振り向くと、着物を着た(あざ)だらけの老人が木箱に座っていた。

 

「私の(さび)を取ってくれたようですね。約束通り(あやかし)共を退治して見せましょう。」

 

老人がそう言った瞬間に床が無くなり、俺は輸送機から落ちて行く。

 

「とはいえ……私にやった仕打ち、忘れませんよ?」

 

落ちて行く俺を、老人はにんまりと笑顔で見送っていく。

 俺は地球へ向かって落ちて行き、大気との摩擦で体が燃え始め……

 

 

 

 

 

 

 

  ピピピピピ!!

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

俺は目覚まし時計の音で飛び起きた。心臓がドクドクと強く鼓動し、息が荒い。

 たしか、怖い夢を見たような気がするのだが……どうも覚えていない。

 

 ……まぁいいや。とりあえず目覚ましを止め……

 

俺は目をこすりながら、アラームを止めようと目覚ましに触れた時だった。

 

  かたっ!!サクサク!!

 

立てかけていた日本刀が倒れ、刀身が鞘から抜けて……俺の指から数ミリ離れたところに刃が落ちた。

刃は目覚まし時計と……近くにあった金属製の小さな麒麟(きりん)の置物を真っ二つにした。まるで、包丁が豆腐を切る様に……

 

「……?ッ……!?ッ~~~~ッ??」

 

一気に眠気が冷めた。

 俺はゆっくりと目覚まし時計から手を離し、ある程度離れると顔へ指を近づけた。

 

 ……だ、大丈夫だよな?け、怪我は……

 

指に欠損や傷は全くない。だが、さっきの出来事が衝撃的すぎて……手の震えが止まらない。

 

 ……こ、この刀、いったい何なんだよ。シグナムの剣(?)に目覚まし時計・‘‘麒麟(きりん)の置物’’を簡単に切るなんて……って、え?‘‘麒麟(きりん)の置物’’?

 

俺は日本刀をしまった後、目覚まし時計と一緒に切られた‘‘麒麟(きりん)の置物’’を手に取った。

 ‘‘麒麟(きりん)の置物’’は某ビールメーカーのビールに描かれているような神々しさが無く、禍々(まがまが)しい見た目をしている。素材は金メッキが(ほどこ)された鉄(?)で、中央には白色のセラミック(?)が入っていた。

 

 ……え?この置物、全然記憶にないぞ?

 

俺は気味が悪くなった。

 ちょうどこの日は‘‘燃えないゴミの日’’だった。そこで、この置物(ゴミ)を入れたビニール袋を集積所へ力いっぱい投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 この日以降、俺は『妖怪に襲われる夢』を見なくなった。

 

 

 

 

 

 




 ワトソンとのリハビリが何回かあったせいで、もはや美術準備室を私物化しています。

 やっぱりイギリスの諜報能力はバカにできないと……

 


インフルにコロナ、皆さん気を付けてください。自分は飲食の前に手洗いうがい、家に帰れば手洗いうがい、人と接触したら手洗いうがいを徹底しています。

  Next Ibuki's HINT!! 「オーバーブッキング」 

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