少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

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 試験にレポート……。
 追いつめられるほど筆が進む……


場所考えろよ……

   タンタン

木槌の音が裁判所内で響いた。

「被告人、神崎かなえを……懲役536年の刑に処す。」

東京高等裁判所第八〇〇法廷に響いた判決に、弁護席に座っていた俺は口が塞がらなかった。

 ……死刑や終身刑では後回しにされるという『主文』を裁判長は最初に言わなかった。だから良くない判決が出るであろうとは予想はしていたけど……

執行猶予のない、重い判決をこのハゲ裁判長は下した。

 ……裏で何かあるな絶対、絶対に。

「……。」

隣に座るスーツ姿の理子がギロリと検察側を睨む。 

 宣戦会議から音信不通になったジャンヌ、長野のレベル5拘置所に拘置中の小夜鳴は不参加だったが、この裁判は勝てると誰もが予想していたのだが……。

 ……敗訴以外の何物でもない。

一審の時より多少は減刑されている。しかし、それでも……アリアの母であり、俺の母の友人である‘‘かなえさん’’の事実上の終身刑には変わりはないのだ。

 

 ……まぁ、あの時の悪夢の様に『ボディビルダーの刑』とかにならなかったのは救いか?

カット。

 

 しかし、この裁判には吐き気がする。何か仕組まれているのは明白だ。なぜなら、傍聴人は一人も居らず、マスコミだって誰一人来てない。実質、密室裁判と変わりがない。

 ……辻さんとメガネさんに今度聞こう。

何か大きなものが(うごめ)いているに違いない。

 

 

「不当判決よ!!!」

  ガタンッ!

椅子を鳴らして立ち上がったアリアが金切声を上げた。

「こんな……どうして!?こんなに証言、証拠が揃っているのに……どうしてよ!!!ママは…ママは潔白だわ!!どうして!?」

スーツ姿のアリアが、床を蹴って検察側に駆け出そうとした。すると、慌てて若い女性弁護士・連城黒江が抱き着くようにして押さえる。

「騒ぐなアリア!!次の心証が悪くなる!!即日上告はする!!落ち着け!!!」

次となると、最高裁しかない。そこで終身刑にされたら……再審という手もないことはないが、実際は最高裁の判決で最終決定になる。

「放しなさいっ!!放せ!!!アタシはアンタに怒ってるんじゃあないわッ!!アンタは有能で、全力でやってくれた!!おかしいのはコイツらだわ!!!」

検察官たち、更には裁判官まで指さしながら、アリアが泣き喚く。

「やり直しなさい!!やり直せッ!!!アンタたち全員入れ替えて、やり直すのよ!!こんなの、茶番だわ!!!アンタたち全員が結託して、ママをっ!!!アタシのママを!!陥れてる!!!陰謀だわ!!!!」

「やめろアリア!!まだ最高裁がある!!確定じゃない!!」

キンジが暴れるアリアを押さえにかかるが……元武偵の連城弁護士との2人がかりでも、手に負えないようだ。周りには……警備員たちが手錠を手に、アリアを囲むようにきている。

 ……気絶でもさせて無理にでもこの場を収めるか。

俺はスッと席を立った瞬間、

「……アリア、落ち着きなさい。」

被告人席から発せられた、静かな一言で……アリアが我を取り戻した。

 かなえさんの放った言葉がアリアの暴走を止めたのだ。

「ありがとう、アリア。あなたの努力……本当に嬉しかったわ。まさかアリアがイ・ウーを相手に、ここまで成し遂げるなんて。あなたは……大きく成長したのね。それは親にとって何よりの喜びよ」

落ち着いていた。かなえさんは、この場の誰よりも……落ち着いていた。いや、これは……

「遠山キンジさん。貴方にも心から感謝しています。アリアは、とてもいいパートナーに恵まれた。直接それを見届けられて、幸せです。でも……」

かなえさんはふっと、その表情を全て消し、目を閉じた。

「……こうなる事は、分かっていたわ」

かなえさんは悟りを開いたように、すべてを諦めているように、俺は見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなえさんのカメオが付いた銃を抱きしめて泣き続けるアリアを慰めようとしたのだろう。連城弁護士は自分のアウディにキンジ、アリア、理子を乗せた。俺はお古の高機動車にリサを乗せ、2両の車はかなえさんを乗せた護送車が高裁から出るのを追うように発進した。

 

 

 

 護送車・アウディ・高機動車の順に通行止めを避けて内堀通りにでた。

 きっとあのアウディの中ではアリアは泣き続けているのだろう。

 裁判に勝ち自分の母親をシャバに出すためだけに、アリアは自分の青春を投げ打って、世界中を駆け回り、理子やジャンヌと戦い、ブラドを捕らえ、パトラやシャーロックを退けて、証拠をそろえた。

 激戦の結果得たものは……理子とジャンヌ、ブラドの分の減刑だけだ。他のメンバーの罪については、弁護側の証拠不十分。

 ……世界中に散ったイ・ウーの残党全員捕まえて、裁判所まで引き連れてきやがれってか?

連城弁護士は時間稼ぎをするだろうが、最高裁には間に合わない。

 ……政治家に官僚は何を考えてこんなことをするんだ?

高機動車の中で、ベートーベンの第九が重く響いた。

 

 

 

 

 

 護送車とアウディは上野方面へ向かった。高機動車もそれに続く。すると、前方を走るアウディが信号の停止線からかなり離れた所で止まった。

「どうしたんだ?」

「い、イブキ様……信号が……。」

リサはそう言って指をさした。

「おい……マジかよ……。」

信号が消えている。3色全てついていない。歩行者用の信号ですらついていない。

 俺は一瞬、‘‘ダイハード4.0’’を思い出したが、その考えを捨てた。

 ……ハッカー爆殺事件はないし、ジョニー・マクレー(おっさん)は日本に来ていないはずだ。となると…‥なんだ?

見れば、左右のビルからサラリーマン達が困り顔で出てきている。昼間だから気付くのが遅れたが、ビルの一階にあるコンビニやカフェの中が薄暗い。

「……停電?」

何か嫌な予感がする。

「リサ、とりあえず車の中に居ろ。」

俺はそう言って高機動車から飛び降りた。

 

 

 

 

 高機動車を飛び降りると、異常なものを捉えた。停車中の護送車の下から……アスファルトの地面に、黒い物が広がっている。……こっちに向かって。

 ……影!?

ヘリの音は聞こえない。皇居の近くだ、飛行船だって飛んでないだろう。となると……

 ……敵襲だと!?皇居前だぞ!?

 

 

 影はみるみる内に、アウディの下を覆っていく。

  バチチバチバチバチッ!

閃光に続いて、車を包むような激しい放電音が耳を劈いた。アウディから連城弁護士の驚く声と、アリアの悲鳴が外へ漏れる。

 車は落雷を受けても中の人は無事というのは知っているので、なかの4人は平気だと思うが……敵にどうやって対処する!?ここは皇居前だ。うかつにドンパチなんてできねぇぞ!?

  ボンッ!!

ボンネットが勢いよく開き、そこから煙と炎が出ている。

 ……引火なんてしたら目も当てられねぇ!!

俺は‘‘四次元倉庫’’から日本刀を出して、扉を切り裂いた。それと同時に、逆側ドアが勢いよく蹴破られ、キンジたちが飛び出してきた。

 ……うん、切るのはいらなかったか。

 

 

 キンジ達の安全が確認出来たので、視線を前に戻すと護送車からも煙が上がっているのが見える。タイヤも全て潰れている様だ。

「かなえさん!!」

護送車にキンジとアリアが駆け寄ろうとした時

  バリィッ!!!

護送車の後ろで放電が起こった。

 ……罠か!!

あたりを見れば……影は既に無くなっている。

 ……極東戦役!?もう仕掛けてきやがったのか!?こんな場所で!?どんだけの自信家なんだ!?

「「ヒルダ……!!」」

俺とキンジは思わず声に出した。何時の間にか護送車の上に立ち、くるくるとフリフリの日傘を回す……退廃的で、何処か不吉な印象の、ゴシック&ロリータ衣装の蝙蝠女。

「……ヒルダ!!写真では見てたけど……会うのは初めてねッ!!!」

反射的に拳銃を抜くアリアに、ヒルダは鼻を鳴らす。

「アリア!!拳銃を捨てろ!!ここをどこだと思っていやがる!!」

俺は日本刀の峰でアリアの拳銃を叩き落とし、日本刀を‘‘四次元倉庫’’にしまった。

「逃げろ!!あいつは犯罪者だ!!」

俺はそう叫びながら14年式に空砲をつめ

  タァン!!

上空に向けて撃った。

 

 

 その直後、静まり返っていた町に爆発のような悲鳴が木霊し、蜘蛛の子を散らす様に人々が我先にと逃げていく。

「何するのよ!!」

「アリア落ち着け!!」

俺はそう言いながらキンジにモールスである言葉を伝える。

  『コ・ノ・エ』

キンジはこの言葉だけでどういうことか理解したようだ。キンジはアリアを必死でなだめる。

 

 

 ヒルダはその様子を、瞼を半開きして欠伸をしながらじっくりと眺め……不敵に笑いながら俺の方を見た。

「武偵というのも大変ねぇ……あんな塵芥みたいな存在たちを一々気に掛けなきゃいけないなんて……。」

「俺は逆にアンタの考えが分からねぇな。なんだってこんなところでドンパチをしようとすんだ?」

俺は思わず聞いてしまった。

「イヤねぇ……粗野ねぇ……。私、今はそんなに戦う気分じゃないのよ?日の光って、キライだし。」

日傘の柄を抱くように頬へ寄せながら、俺達1人1人の顔を舐め回す様に見てきた。

「でも、つい手が出ちゃった。だってぇ、タマモの結界からノコノコと出てくるんd……」

  

 

 ベキィ!!!

ヒルダがぶっ飛ばされた。

「この畜生が!!陛下の目の前でドンパチやるとはなぁ!!!!」

「死ねぇ!!!死ねぇええええ!!!!」

「汚物は消毒だァアア!!!!」

「死ねぇ!!メス豚がぁああああ!!!!」

「キィィェェエエエエ!!!!」

  ドカッ!!ベキッ!!グシャッ!!!

ヒルダがぶっ飛ばされたと同時に、汚れや皺一つないキレイな軍服を着た集団が現れた。その集団は地面に叩きつけられたヒルダに群がり、彼女を銃床でタコ殴りにしながら己の軍服を血で染めていく……。

「「「うわぁ……。」」」

キンジとアリアはともかく、さっきまでしゃがんで震えていた理子ですら引いていた。

「……流石は禁闕守護(きんけつしゅご)の責を果たす、最精鋭部隊。近衛師団だな。」

 ……うん兵部省直轄特殊作戦部隊(HS部隊)でも、ここまでの士気はない。

俺は改めて近衛師団の恐ろしさを知った。

 

続々と血走った目をした兵が集まり、ヒルダを殴ろうと一点に押し掛ける。 

「なぁ、アリア。」

俺はアリアに声をかけた。

「な、なによ……。」

「拳銃、払い落として正解だろ?」

すると、アリアは思い出したかのようにガバメントを拾うと

「……そうね。ありがと。」

アリアは小さな声で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒルダが不死身で、しかも傷がすぐ回復する事を近衛師団の兵達は理解したようだ。なので、彼らはさらに嬉々としてヒルダをタコ殴りにしていく。

 その姿を尻目に、俺達は近衛師団の士官から軽い事情聴取を受けていた。

「村田大尉殿、拳銃を撃った理由は?」

汚れ一つない軍服を身に着けた中尉が、調書を取るために質問をする。

「民間人に危険を知らせるために上空へ向けて撃ちました。使用したのは空砲です。」

 ……空砲にしておいてよかった。

「そうですか。ご配慮ありがとうございm……。」

  ドカーーン!!!

俺と中尉は音がした方向へ顔を急いで向けた。そこには……白銀のICBMが道路に突き刺さっていた。

「「ICBM!?」」

俺と中尉は声を上げて驚いた。なんで皇居前にICBMが落ちるんだ!?

 ……このICBM は爆発しない。となると……乗り物の方か!?

俺はイ・ウーで見たICBMを改造した乗り物を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 ICBMは白煙を上げながら側面のハッチが開いていった。キンジやアリアも事情聴取をいったん止め、ICBMを唖然としながら見つめている。

「……少し、手遅れだったか。君がアリアだね?一目でわかったよ。」

日の光を背に、‘‘Polaris 05’’と描かれた白銀のICBMから姿を現したソイツはどこか海外の武偵高の制服だと思われる、灰色のブレザーを着た男装少女だった。

 その男装少女は清潔感溢れる艶のある黒髪をひらめかせ、タッとハッチから地面へ降り立った。

 そしてやっと、今の状況を男装少女は理解したようだ。

「……え?」

男装少女は周りを見渡した。そこには……血走った眼をし、紅の戦化粧を体全体にした千を超す兵士がギロリと獲物を捉えた。

「クク……クククククク……」

「獲物が増えたぁ……」

「今日は祭りだなぁ……」

「カカカカカ……」

兵の中から歓喜を押し殺す声が聞こえてくる。

 ……ご愁傷様。

俺は思わず男装少女に手を合わした。

「……ご、誤解だ。誤解なんだ……。」

男装女子はその兵達の異様に高まる士気のせいか、後ずさりをした。

 

「確保ぉおおおおおおお!!!!」

 

俺を聴取していた中尉が体の奥底から叫んだ。

「ヒャッハァアアアアアアアア!!!」

「今日は祭りだぁああああ!!!!」

「ロケットをこんな場所に落とす不届き者めぇえええええええ!!!」

「コロス!!アイツコロス!!!!」

「キィィェェエエエエ!!!!」

「う、うわぁああああ!!!!」

ヒルダをあまりボコせなくて鬱憤が溜まっていた一部の兵達はこぞって男装少女に群がっていく。男装少女は泣きながら白銀の剣を振り回すが……意味がない。

 ……あ、男装少女の持ってた剣が吹っ飛んだ。

そうして、彼女の姿は人波に消えていった。

 ……あの男装少女、アリアの事知っていそうだったんだが。誰だったんだろう。

俺はそう思いながら、皇居前にICBMを落とした男装少女(どうしようもないバカ)の冥福を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、駆けつけた警察に状況を説明し、改めてやってきた護送車に乗せられ拘置所へ向かうかなえさんを俺達は見送った。

「……あの、ちょっといいかい?」

「はい?」

一人の中年刑事が俺に声をかけてきた。

「……あれ、どうすればいい?」

その中年刑事の指さす方向には……2点に群がって、血祭りをやっている集団がいた。

「……さらに上の者を呼ばないと止まらないと思いますよ?」

近衛師団は忠義が厚いのも有名だ。そんな集団が、皇居近くでヒルダ(テロを起こそうとしたバカ)男装少女(ICBMを落としたアホ)を許さないはずがない。

「……それしかないよなぁ。」

中年刑事は大きなため息をついた。

「頑張ってください。」

俺はその言葉をかける以外はできなかった。

 

 

 

 虎ノ門まで歩いて帰る連城弁護士、電車で帰るキンジとアリアと別れ、俺はリサと理子を連れて高機動車で戻ることにした。なんでも、アリアとキンジは話があるらしい。

「あのヒルダが……あんなに簡単に……。」

理子はヒルダのやられっぷりに衝撃を受けたのだろう。理子はポツリと言った。

 ……理子は吸血鬼親子に虐待されてたんだっけか。

「日本の最強部隊の一つだしなぁ……あのぐらいは普通じゃないか?」

俺もあのヒルダの純粋な戦闘力は低いと見ている。

 ……ただ、あの影(?)の力は厄介だけど。

「まぁ、なんだ。ヒルダが運よく近衛師団から逃げて襲ってきても守ってやっから……。気にすんな。」

「……うん。」

高機動車に‘‘俺ら東京さ行ぐだ’’が響いた。

 

 

 

 

「……雰囲気と曲が合ってないですね。」

リサがぽつりと言った。

「……なんで戦闘前には第九が流れたのに、今はこれが流れるんだよ。」

「……クク。」

理子が笑いを押さえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、

  『L・Watson』

と、包帯とガーゼでグルグル巻きにされ、端正な顔も(あざ)で見るのも痛々しい姿になった男装少女が黒板に流暢(りゅうちょう)な筆記体で書いた。

「「「「「「キャー!!!」」」」」」

と、クラスの女子が黄色い声を上げた。あまりの歓声に、高天原先生は教壇から足を踏み外した。

 ……あいつ、あんな事してよく釈放されたな。

俺はクラスの女子とは違う意味で声を上げた。

 

 

 

 数分前、高天原先生が

「それでは皆さーん、スペシャルゲストの転入生を紹介しまーす!!マンチェスター武偵高から来た、とーってもカッコイイ留学生ですよー!!」

とニコニコ顔で喋っていたが……まさかこいつだとは思わなかった。 

 

「エル・ワトソンです。これからよろしくね。」

男装少女ははそう言って一番後ろの席に着いた時、朝のホームルームの終了のチャイムが鳴った。それと同時に歓声をあげて女子達がワトソンの席を取り囲む。

「ごめん、ちょっとどいてもらっていいかな。」

男装少女(ワトソン)はぎこちない笑顔で囲んだ女子達を掻き分け、俺とキンジ、アリアの座る席へ来る。

「アリア、トオヤマ……そして君がムラタだね?ちょと話があるんだ。屋上へ来てくれないか?」

 

 

 

 

「で?なんか用でもあるのか?戦争になってもおかしくないことをした犯罪者さんよ。」

「……それは誤解なんだ。本当だ、信じてくれ。」

俺達3人はワトソンに連れられ(よく屋上への通路を知ってたな)、屋上に出た。

「アリアの危機と知って急いで向かったら、そこだったんだ!!決して日本と戦争したいなんて思ってない!!……それに、イギリスは日本に対して多大な賠償をすることに決まった。僕もこの任務が終われば降格処分さ。」

ワトソンはやけっぱちに言った。

 ……イギリスも甘いんだなぁ。それとも日本(こっち)の交渉人の能力がなかったのか?

「何しにここへ来たんだ?」

キンジはぶっきらぼうに聞いた。

「僕は……許嫁のアリアと、義理の母親を助けに来た。それだけだよ……。」

ワトソンは髪をかき上げそう言った。

「……許嫁?」

キンジは捻りだすように、何とかその単語を口に出した。

「あぁ……アリアは、僕の婚約者(フィアンセ)だ。」

 

 

 

 

「顔に大きな(あざ)作ってカッコつけてもなぁ。」

「…………。」

冷たい風が、一陣吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて教室に戻り、一般科目の授業が始まった。その一限の英語はともかく、数学、生物、挙句の果てには日本史に至るまでワトソンはしっかりとついてきた。

 ワトソン曰く

「少し予習してきたからね」

 ……うん、英語に数学、生物は英語を訳せばできるだろうけど、よく日本史を勉強したな。結構ニッチな範囲だぞ?

 

 

 

 

 休み時間になると自分を囲む女子たちに、いろんなことを苦笑しながら言うワトソン。

 ……女子たちは、ワトソンが女だってことをわかっているんだろうか?どう考えても重心の位置から考えて女だし、筋肉のつき方を見ても異常な胸の盛り上がり……。わっかんないもんなのかねぇ?

俺はHS部隊のメガネさんにメールを打ちながら考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一般授業は終わり、一般校区から専門校区へ移動するため、巡回バスをキンジと待っているのだが……全然来ない。

 高機動車はちょっと歩いた場所に置いているため、取りに行くのは面倒なのだが……。

「キンジ、とってくるわ。」

「あぁ、頼m……。」

俺が高機動車を取りに行こうとした瞬間、目の前に黒い車が止まった。

 ……外車?

俺はボンネットのエンブレムを見ると……‘‘ポルシェ’’。しかも左ハンドル。運転席を見ればワトソンがいる。

 ……日本の道は左側通行だから、右ハンドルの日本車……又は英国車のほうが楽だろうに。

 

すると、ワトソンはサングラスを外し、

「やっぱりトオヤマとムラタか。」

そう言った。

「バスは来ないぞ。前の交差点で強襲科(アサルト)の生徒同士が車内で乱闘していた。駆けつけた蘭豹先生が怒ってバスを横転させていたから、しばらくは通行止めだよ。」

「おう、伝えてくれてありがとよ。」

俺は頭を押さえながら言った。

 ……また強襲科(アサルト)か。頭が痛い。うちは公共交通機関の中では大人しくすることもできないのか。

「乗れ、二人とも。徒歩でも間に合うだろうが…‥探偵科(インケスタ)強襲科(アサルト)まで送ろう。君たちとは少し話したいことがあるからね。」

そう言ってワトソンはドアを開けた。

「お、ありがとな。助かるわ。」

俺は大人しく後部座席に乗り込んだ。

「お、おい!!」

「車の中で何かしようとは思わんだろ。」

キンジは渋々ワトソンのポルシェに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……君たちはそう見えて、女たらしらしいな。」

車が発進し、しばらくしてからワトソンは呟いた。

「そう言われているらしいな、女子には。」

キンジはそう言ってドアに膝をつき、頬杖をついた。

「……キンジはともかく、俺も言われてるのかよ。俺なんてこいつのような甘い言葉なんてしゃべれねぇのに。」

「おいこの野郎……。」

キンジはミラー越しに俺を睨むが……

「否定できんのか?」

「……いつも適当に茶々入れるか、汚い英語言うもんな。‘‘イピカイエ―・マザーファッカー’’だっけ?」

「おう、やるのか?」

「君たち……これは新車なんだ。喧嘩はやめてくれ。」

ワトソンの言葉に俺達は渋々喧嘩を収めた。

「僕は、そう言うのが一番嫌いだ。じょ……女性に対する……その、ふしだらさ。それは最も良くない。非常に最悪だよ。」

そう言いながら、ワトソンはハンドルを握る手に力を入れた。

「お前さんの性別からしたらそう感じるだろうけど、おr……。」

  キキー!!!

ハンドルが思いっきりブレた。車はスピードの出たまま蛇行運転をする。

「ば、馬鹿野郎!!運転が下手なら見え張って高級車を高速運転すんじゃねぇ!!!」

俺は思わず叫んだ。

「君が動揺させたんだろう!!」

ワトソンがそう言い返した。

 ……シートベルトが無かったら、今頃地面に叩きつけられていたぞ!?

俺はワトソンの運転が一気に恐ろしくなった。

「……まぁいい。…だからアリアには、君たちの部屋に住むのはやめろと言っておいた。」

「ありがたい話だな。俺は迷惑してたんだ。」

そう言ってキンジは鼻を鳴らし、頬杖のついたまま外を眺めていた。

「なんとなく、君とは気が合わないみたいだな。」

「なんとなくじゃない、俺もそう思うからな。」

ワトソンとキンジは互いにそっぽを向きながらそう言った。

「こんな言葉を知ってるか?‘‘嫌よ嫌よも好きのうち’’」

「「ちがう!!!」」

  キキ―!!!

またワトソンのハンドルがブレた。

「「うわぁあああああ!!!」」

 

 

 

 なんだかんだありながら、やっと探偵科(インケスタ)の前に着いた。

「アリアとは、お互いに成人してから正式に組む予定だったが……その前にまず、トオヤマをアリアから遠ざける。アリアは君を気に入っているようだからな。」

ワトソンはむっとしながら言った。

「勝手にしろよ……。送ってくれてありがとな。」

キンジはそう言いながらワトソンのポルシェ(ロデオ)から脱出した。

 ……いいなぁ、俺も早く脱出したいんだが。

「よく覚えておけ。アリアのベストパートナーは僕だ!!」

ワトソンは宣戦布告するようにキンジに言うと、車を再び発進させた。

 

 

 

 

 

「そう言えば聞きたいことがあるんだが……。」

俺はワトソンに話しかけた。

「なんだい?」

「何だって男装して、アリアの婚約者を演じているんだ?」

  キキー!!!

ワトソンはまたハンドルを思いっきりブラした。

 ……いま、対向車とギリギリですれ違ったぞ!?

「ば、馬鹿野郎!!!ちょっとやそっとでハンドルをブラすんじゃねぇ!!!」

「ぼ、僕は男だぁ!!」

「それは関係ぇねぇだろうが!!」

 ……俺は本日数度目の命の危機に会った。

「……まぁいいや。百歩譲ってワトソンが男だとしよう。テメェがアリアを寝取る理由が見つかんねぇ。どういうことだ?」

  キキー!!!

ワトソンのポルシェは蛇行しながら急ブレーキをかけ、何とか強襲科(アサルト)の前に止まった。

「ぼ、僕は寝取りとかそう言……。」

「わかった!!わかったから!!人の趣味をどうこう言わないから!!」

俺はフラフラとしながら、何とか車を脱出した。

「全く……男装しても容姿端麗(ようしたんれい)で可愛いんだ。女の姿でも十分可愛いとは思うんだがなぁ。」

 ……まぁ、中身は結構黒そうだけどな。

俺がそう呟いた。

「か、かわいい!?」

ワトソンは顔を真っ赤にしながら俺に言った。

「何顔赤くしてんだよ。」

「う、うるさいなぁ!!」

ワトソンはそう言ってフラフラと車を発進させた。

 ……ちょっとした言葉で動揺するって、あいつ大丈夫なのか?

俺はそう思いながら強襲科(アサルト)の校舎に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  キキー!!!ベキ!!ドカーーーーン!!

「あいつ!!本当に大丈夫か!?」

音の方向には、電柱柱に突っ込んだポルシェが煙を吹いていた。

「おい!!ワトソン!!!大丈夫か!?」

俺は電柱柱に突っ込んだポルシェに駆け寄った。

 




 ついに近衛師団の登場です。内堀通りの……しかも近衛師団の司令部庁舎のある上野でドンパチ起こすとか……よっぽどの自信家か馬鹿ぐらいでしょう。

 ワトソンはまさか皇居の近くで戦闘が起こっていると思わなかったので、
「誤解だ!!」
と言っていますが……東京のような密集地帯にICBMで来るという考えがおかしいなぁと。

 ‘‘俺ら東京さ行ぐだ’’いい歌ですよね。自分は好きです。まぁ、でもシリアスシーン(笑)で流れる曲じゃないだろうと。

 Next Ibuki's HINT!! 「嫌がらせ」

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