少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

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遅れまくって誠に申し訳ありません。
言い訳させていただきますと……まぁ、先週は試験が4つあったので書けなくて……。今週は試験が1つだけだから火曜水曜には投稿できるかなと思っていたら

教授A「中間テストの代わりに課題を出します。期限は1週間です」

 ……まだ大丈夫、前々から言ってたし。

教授B「ごめーん。テストの事忘れてた。代わりにレポート出すよ!!自分で考えた日常に役立つオリジナルな機械の設計と図面、それに材料とか考えて計算して、一週間後に提出ね!!」

 ………………は?

このレポートのせいで遅れました。


頼むから喧嘩はやめてくれ……

「か、かなめ……?」

「イブキにぃ~!!昨日は酷いよ!!あんなに激しくするなんて……。腰が抜けそうだったよ?」

「………………」

 

かなめのそんな言葉より……もっとヤバいものが部屋にあった。

 

 ……この大量のごみ袋は何だ?

 

 ごみ袋には理子やアリア達の私物が入っているのだが……それら全てが無残な姿になっている。

 理子の積みゲーは全て割られ、アリアのコーヒーカップは金継(きんつ)ぎに出せないほど粉々、白雪の桐タンスに至っては薪に変わっている。

 

 ……あれぇ?この状況、俺殺されるんじゃないか?

 

「いぶきにぃ?……今のでドキッって来ると思たんだけど」

「……部屋の変わりように驚いて、さっきのセリフが(かす)んでんだよ!!」

 

 白雪のタンスは数百万ぐらい余裕で越えるだろうし、アリアのコーヒーカップもいい値段はするだろう。理子の積みゲーが一番被害金額は少ないと思うが、それでも枚数が枚数だ。数十万はするだろう。

 ずっと昔にイ・ウーから奪った金は三分割した後、俺と理子のが辻さんと神城さんにバレ、99%以上が国庫へ逝った。手元に残った金は弾薬に変身したため……

 

要は、弁償できない

 

 ……俺の私物はどうなってんだ!?

 

 俺は思わず自室へ走った。自室は……変化はないし、侵入された痕跡もない。‘‘酒蔵部屋’’も……大丈夫なようだ。

 

 

「‘‘イブキにぃ’’に‘‘お兄ちゃん’’、‘‘お姉ちゃん達’’のは手を付けてないよ?処分したのは‘‘イブキにぃ’’や‘‘お兄ちゃん’’を(たぶら)かす‘‘メス豚’’共のだけだよ?」

 

俺の背後から……やけに響く声が聞こえた。俺は冷や汗を流しながら後ろをゆっくり振り向くと……かなめが居た。

 かなめの目は……とても、とても冷たかった。

 

 

 

 ダンテ・アリギエーリ作:『La Divina Commedia(神曲)』というイタリアの古典を知っているだろうか?

 主人公(ダンテ)がウェルギリウスと言う案内人と共に地獄・煉獄・天獄を行脚していく話だ。

 その中……地獄の最下層:裏切者の地獄(コキュートス)は『受刑者(?)(裏切者)が首まで氷に漬らされ、涙も凍る寒さに歯を鳴している』そうだ。

 

 

 

 かなめの瞳は……その裏切者の地獄(コキュートス)の様であった。

 ただ物理的に寒気がするだけではない。精神的にも、思考も……何もかもが冷たかった。

 

「ねぇ……イブキにぃ。なんでそんなに怖がってるの?」

 

かなめは首を傾げた。よく見れば……彼女のエプロンには返り血が付いている。右手には真っ赤な血が付いた肉切り包丁が……

 

「あ、‘‘お兄ちゃん’’の事?GⅢ(サード)の命令で‘‘双極兄弟(アルカナム・リュオ)’’のためにイヤイヤやっているだけで……‘‘お兄ちゃん’’には形式的にやっているだけだよ?あたしは‘‘お兄ちゃん’’よりイブキにぃの方が好きだし、HSSになる可能性が高いと思ってて……」

 

俺はかなめの瞳を再び見た。裏切者の地獄(コキュートス)を覗き込んでいるような気分になった。

 

「俺はちょっと着替えるから!!あっちに行っていてくれ!!!」

 

俺はそう言ってかなめを部屋から締め出し、鍵をかけた。

 そして10秒も満たないうちに着替え、ダッシュしてその寮の部屋から出た。

 

 

 

 

 

 俺は駐車場まで飛び降り、高機動車(愛車)に転がり込んでエンジンをかけようとするが……

 

  キュルキュルキュルキュル……

 

「チクショウ!!なんだってこんな時に!!」

 

俺は思わずバックミラーを見た。そこには……裏切者の地獄(コキュートス)の瞳が二つ、夕方の暗い影の中から俺を見ていた。

 目が合った……

 

「動け!!動けってんだよ!!頼むから動いてくれよ!!!」

 

  キュルキュルキュル……ドルン!!!

 

俺はアクセルを全開にし、逃げ去る様に車を走りらせた。

 逃げ去る間も、二つの瞳がずっと俺を見つめていた……様な気がする。

 

「チクショウ!!俺が何やったって言うんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 俺は武偵病院の敷地に高機動車を滑り込ませ、A棟に逃げ込んだ。

 

 ……さ、さすがに、ここまでは来ないだろ。

 

俺は柱にもたれ掛かりながら息を整える。……周りの視線は無視する。

 何とか息を整え終え、受付へ向かった。

 

「こんにちは。峰理子さんの部屋は何処ですか?」

「え~と……A棟(ここ)の3階、303号室ですね。峰理子さんのお見舞いですか?」

「そうです。」

「今さっき、郵便が来まして……峰理子さんに渡してもらえませんか?」

 

そう言って対応してくれた中年のナースさんが渡したのは……理子(あて)の現金書留と手紙だった。

 

 ……おい、一応部外者だぞ?俺に渡していいのかよ。

 

「えっと……俺に渡していいんですか?」

武偵病院(ここ)じゃぁいつも通りですよ。それに武偵高の誰かかは……すぐにわかりますし。」

 

ナースさんはジロリと、俺を観察するように見た。

 

……え?何それ、怖い。

 

「…………ありがとうございました。」

 

俺は諦めた。

理子(あて)の現金書留と手紙を手にし、頭を下げた。

 

「悪いわねぇ、手伝ってもらっちゃって。」

 

笑顔でそう言っていたが……瞳は笑っていなかった。

 

 ……看護師さんって、(たくま)しいんだな。

 

流石……武偵御用達の病院、看護師達も(たくま)しくなければやっていけないのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 俺は階段を登りながら……その現金書留と手紙を観察していた。

 両方とも……ヒルダからだった。俺は現金書留を見ると……

『損害要償額:320円

  北海道網走市××××××網走監獄

  ヒルダ・ドラキュリア』

 

 ……320円しか入ってないのに、なぜ送るんだ?ヒルダには莫大な資産があったはずなのに。

 

そんな疑問が沸き上がった後に……俺はあることをお思い出した。作業褒賞金だ。

 

 

作業褒賞金とは……刑務作業の報奨金であり、労働基本法には触れないものだ。

 ヒルダの場合……まだ入所して一ヵ月。彼女の‘‘月給’‘は700~800円ほどだったはず。現金書留は1通430円なので……月給全部じゃねぇか!!

 

 

「どうしたの?イブイブ?」

「……ッ!?」

 

いつの間にか、俺の隣には……額や腕・太ももに包帯を巻き、騎兵銃(カービン)サイズの散弾銃を皮のベルト(スリリング)で担いでいる理子がいた。

 

 ……全然気が付かなかったぞ!?

 

俺はそこまで集中していたようだ。

 

 ……まぁいいや、さっさとこの封筒を渡そう。

 

俺は二つの封筒を理子におずおずと渡した。

 

「……理子に渡してくれって」

「イブイブ、ありがとね!!」

 

理子は可愛い笑顔で封筒を受け取り……封筒の宛名を見て真顔に戻った。

 理子は冷たい瞳で無言のまま封筒の上部を破り、手紙を出して読み始めた。

 読み終わった後、封筒二つをスカートのポケットへ乱暴に入れた。そのまま……無言が続く。

 

 ……く、空気が悪い。どうしろってんだよ。

 

そこで……俺は理子がコスプレをしていないことに気が付いた。

 こんなイベントの時に、理子がコスプレをしていないとは珍しい。

 

「り、理子がコスプレしないなんて……なんかあったのか?」

「色々やってたら飽きて……な」

 

裏理子になり……呆れるように笑った。

 

「イブキ……場所を変えるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 理子は売店へ行き、イチゴ牛乳とポッ〇ーを買った。そして談話室へ向かい、そこにある席の一つに座った。俺も理子の後について行き、隣に触る。

 

「こいつ……親族がいないんだよ。だからか分かんないけど……アタシに手紙が送られるんだ。」

 

そう言って、理子は皺くちゃにした手紙を机に放り投げた。

 手紙・現金書留の両方とも封が開けられていた。

 

「アタシは返信を一回もしたことがないのに、ほとんど毎週送るんだ……」

 

理子はそう言ってポッキーをガッと掴み、バリボリとむさぼり始めた。そして口の中に沢山残っているポッキーをイチゴ牛乳で流し込む。

 

「ほんと……変な女。一切私物は持たされずに、薄い官品の服のまま11月の網走だ。それなのに……アイツの事はおくびに出さないで、あたしの心配ばかりするんだ。毎週手紙を出して、金まで渡すんだ。」

 

プハッ……と飲み干したイチゴ牛乳のパックを……理子は遠い目で見ていた。

 

「アイツラに……アタシの10年が奪われたのに、今までひどい事されたのに、ヒルダを恨み切れないんだ」

 

理子はそう言いながらイチゴ牛乳の紙パックを握りつぶした。そしてチラリと俺を見た後、握りつぶした紙パックを振りかぶってゴミ箱へ投げた。

 

 ボンッ……

 

紙パックはゴミ箱に当たり、床に落下した。

 

「「……」」

 

理子は席から立ち上がり紙パックをちゃんとゴミ箱に入れた後、何もなかったように席に座った。

 

 

 

 ……なんか言って欲しいんだろうなぁ。しかしまぁ、こんな時に何と言っていいものか。

 

 ヒルダの今までの言動からして……おそらく、彼女は人間を人間として見ていなかったのではないだろうか。俺はヒルダの言動や、‘‘理子を心配した手紙’’とやらを聞いてそう考察した。

 

 

 もしも、自分の犬が人間の言葉をしゃべり始めたら……その犬を犬として扱うことができるだろうか。

 その犬に冷たい固形物の餌(ドッグフード)を与え、その犬の前でA5ランクの肉のステーキを美味(うま)そうに食べることはできるだろうか。

 しゃべる犬を……人間と同じ待遇にさせるだろうか。

 

 

ヒルダにとって、その喋る犬が理子だったのだろう。可愛い愛犬(理子)を心配し、自分の事を気にさせないように痩せ我慢をしているのだろう。

 そして……理子も薄々気づいているはずだ。

 

 ……さて、どうしたものか。

 

「無難ちゃぁ、無難だが……時間はあるんだ。時間をかけて自分で決めるしかねぇだろ?」

 

秘技『問題先送り』!!これによってどんな困難な問題でも一時的に悩まなくてもよくなる!!

 我ながら……最低である。

 

「網走監獄だから逃げ出す恐れもないし……吸血鬼だから人間よりも長く生きる。理子が生きているうちに答えを決められればいいんじゃないか?」

 

実際、理子が受けてきた仕打ちを俺は細かく知らないし……俺が答えを出すのは無粋で場違いだろう。

 

「結局はアタシで考えなきゃいけない……か。」

 

理子は背もたれに寄りかかり、天井を見上げた。

 

「……イブイブは厳しいね」

「俺が答えたところでどうなるってんだよ。それで納得するのか?」

「そうだけど……ね」

 

 辻さんや神城さん・鬼塚少佐なら涙を流しながら話を聞きき、解決しようとあちこち回る(暴走する)んだろうけど……俺はそんなことはできない。

 

 ……我ながら薄情な奴だなぁ

 

俺が自己嫌悪に(おちい)った時……理子は勢いよく立ち上がり、俺の前数センチまで顔を近づけた。

 

「さ、イブイブ!!A病棟303号室にご案内します!!」

「お、おう……」

 

理子はそう言った後、俺の耳元に近寄り……

 

「ありがと」

「……ッ!!」

「さ、行こ!!」

 

理子はそう言って俺の手を取り、強く引っ張り始めた。

 

 ……ケッ。ズルいったらありゃしねぇ。

 

「そんな引っ張るなよ」

 

俺はため息をついた後席を立ち、理子に引かれるままついて行った。

 

……自分が必死に悩んでいるのに、そんな中で他人を思いやるなんて。

 

 リュパン3世の伴侶、つまり理子の母親は多数の男の心を射止めたらしい。確かに、その娘を見ればよく分かる。

 リュパン3世をも虜にした女性……今度、銭形警部に聞いてみようかな。

 

 

 

 

「あ……理子。ポッキーの箱そのままだろ」

「……あ」

「「……」」

 

……シリアスな雰囲気が台無しである。

 

 

 

 

 

 理子の案内の元、303号室に入ると……そこにはケガしたアリア・白雪・レキの他に平賀さんとキンジがいた。

 『女子:男子=4:1』という男子が夢に見るハーレムな状態ではあるが……俺は全く羨ましくなかった。

 コスプレした美少女達(怪我した三人)の手には……バレットM82(対物ライフル)M60機関銃(汎用機関銃)武偵弾(DAL)の箱詰め。そんな少女たちに囲まれたキンジは顔を真っ青にしていた。

 

「あ、村田君!!ちょうどよかったのだ!!頼まれていた弾の製造が終わったのだ!!」

「え?マジで!!」

 

校舎の補修はまだまだあるって聞いてたのに……ありがてぇ!!たった27発分ではあるが……ないよりはあったほうがいい。

 

「平賀さんありがとな。後で取りに行くよ」

「わかったのだ!!」

 

俺はそう言って、流れるようにこの危険な部屋から出ようと……

 

「イブキ、どこ行くんだ?」

「キンジ、テメェ……」

 

キンジは俺の手をガシッと掴み、俺を妨害した。

 そのキンジの顔は『ようこそ、道連れ君』とでも言いたそうな表情をしていた。

 

「……キンジ、帰らせてくれよ。ここは『バスカービル』の部屋だろ?部外者はさっさと退散するからよ」

「何言ってんだ馬鹿野郎。理子もいるんだろ?だったらイブキも当事者だろうが。」

「こんな火薬庫の様な部屋にいられるかってんだよ。キンジ、お前も分かってるだろ?こいつらのオーラが半端ねぇって」

 

理子も含め、かなめにボコされた4人は殺気をムンムンと振りまいている。もしこの世界が漫画やアニメなら、彼女たちの後ろには阿修羅やら白虎やらが描かれているだろう。

 

「こんな火薬庫でファイヤーダンスを踊ってる様な部屋に居られるかよ。触らぬ神に祟りなしだ。」

「そんなの俺だって分かってるんだよ。俺と一緒に道連れにn……」

 

俺とキンジが言い争っている時……

 

「そう言えばイブキ」

「ひゃ、ひゃい!!!」

 

アリアに呼ばれ、俺は思わず声が裏返った。全員の視線が俺に向く。

 俺は思わずキンジを見た。キンジは……『してやったり』と、したり顔をしていた。

 

 ……キンジこの野郎、ワザと口論させて時間を使わせたな!?

 

「……あんたは『ミニチュアボトル』届いた?あたしの『パステル』は届いたけど、キンジの『カクテル』は届いてないらしいの。」

「……『ミニチュアボトル』?」

 

ミニチュアボトルとは、酒が50mlほどの小瓶に詰められたものだ。インテリアとしても使えるが……そんな物は送られていない。

 

「いや?送られてないけど……何それ?」

「バチカンからさっき送られてきたのよ。武偵弾(DAL)よ。キンジの9㎜パラベラム弾(ルガー)は小さいから時間がかかるのは分かるけど……そう言えばイブキの使う弾も小さかったわね。」

 

アリアはそう言って色とりどりに着色された.45ACP弾の武偵弾(DAL)詰め合わせセットを見せてきた。

その武偵弾(DAL)の薬莢にはバチカンの国章の一部である『聖ペテロの鍵』が小さく彫られてある。弾頭には武偵弾(DAL)の種類を示す国際基準のマークが色鮮やかに描かれてある。

 

 ……メーヤの言っていた‘‘支援物資’’って子の事だったのか。流石はバチカン、資金が豊富だな。

 

武偵弾(DAL)は一発数百万、腕のいい職人によっては数千万するらしい。それを十数種類詰め合わして送るなんて……いくらかかるんだ!?

 

「そうだな……俺が使うのは9㎜パラベラム弾(ルガー)十四年式拳銃実包(8㎜南部弾)だしなぁ……。」

「イタリアの銃弾職人(パレティスタ)は腕がいいのだ―。一度留学してみたいのだぁー。」

 

平賀さんはその武偵弾(DAL)を一つ手に取り、様々な角度から観察している。

 

 ……25ミリ機関銃で第1世代主力戦車、下手すれば第2世代主力戦車の正面装甲を貫通できる弾丸を作る平賀さんもすごいと思うけどなぁ。

 

俺はそう思いながら、この部屋に飾られている花瓶に向かった。その花瓶には美しい花々が飾られている。

 俺はその花瓶を手に取り……

 

「俺、花瓶の水換えてくるな。」

「さっき飾ったばかりだから換えなくていいぞ。」

 

 ……クソ、キンジめ。分かってやがった。

 

渋々、花瓶を元に戻した。

 キンジはそれを確認した後、周りを見て溜息を吐いた。

 

「……ていうかお前ら。病院で何やってんだよ。ちゃんと養生しろ。」

 

キンジは呆れたようにそう言うと……

 

「これは強化合宿よ!!やられっぱなしはダメでしょ!!」←アリア

「キンちゃんに一番近い存在は私なの!!!あんな女はダメ、ダメ、絶対!!」←白雪

「武偵は一発撃たれたら、一発撃ち返すものですから」←レキ

「くふふ……。こういう女子会、面白くってさぁ……」←理子

 

 ……なるほど。かなめにこっぴどくやられたから、理子が(あお)り、アリアが音頭を取り、白雪は私怨のために、レキはプロ意識と私怨で参加したというわけか。

 

 この4人は対かなめ戦で固まっているのだが……、‘‘師団(ディーン)’’の総意は『かなめ達(ジーサード・フォース)を取り込む』という事で決定している。

 しかし、この強烈なオーラを放つ4人に『かなめと敵対はしない』という事を言わなければいけないのか。

 

 ……言ったら俺に銃口が向きそうだな。

 

俺は覚悟を決め、口を開こうとしたとき……

 

「「「「ッ!!!」」」」

 

 4人は驚きながら各々(おのおの)の得物の銃口を303号室の入り口に向けた。

 

 ……チクショウ!!なんだってこんな時に来るんだ、‘‘かなめ’’!!

 

そこにはかなめが武偵高の制服を着て立っていた。彼女のコキュートス(絶対零度)の瞳は俺をじっと見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「‘‘イブキにぃ’’と‘‘お兄ちゃん’’、ここにいたんだぁ。あたし、心配して探してたんだよ?」

 

かなめはそう言ってにっこりと微笑むが……瞳は冷たいままだ。

 

「え?……イブイブ、どういうこと?‘‘イブキにぃ’’って……」

 

理子がそう言って俺に詰め寄ってきた。俺はキンジに助けを求めようと……だめだ、キンジはアリアに殴られている。

 

「え?いや……、一応戸籍上の妹d……」

「そう、戸籍上だから血‘‘は’’つながってないんだよ」

 

かなめはそう言って理子を無理やりどかし、俺に抱きついてきた。

 かなめはそのまま俺の首に手をかけ、無理やり俺の頭をかなめの顔まで近寄らせ……

 

「「「「「「!!!」」」」」

 

俺の目の前、数センチにかなめの藍色の瞳がある。俺の口の中に湿った柔らかい物体が入り込み、暴力的に侵略する。

 

「プハッ!!」

 

かなめの口の周りが濡れていて、目は潤んでいる。頬は興奮しているのだろうか、真っ赤だ。

 

 ……き、キスされた!?

 

「あぁ……しゅごい、しゅごいよぉ……!!キスしただけでこんな……やっぱり‘‘お兄ちゃん’’じゃダメ、‘‘イブキにぃ’’じゃないと……」

 

周りからは殺気を含む視線が俺に集中している。

 

「い、イブキ、あんた裏切っt……!!!」

「「「「……ッ!!」」」」

 

アリアが猛抗議をしようとした時、俺は……鬼を見た。その鬼は美しい金髪を逆立て、文字通り‘‘怒髪衝天’’だった。

 彼女の周りには殺気四割、怒気四割、その他二割によるオーラが発生している。もしアニメや漫画なら、彼女の周りには『スーパー○○○人』の様な黄色いオーラが描かれているはずだ。

 理子はゆっくりと、一歩一歩踏みしめる様に俺に近づいた。

 

「ねぇ……イブイブ、何やってるの?」

「は、はっ!!!義理の妹にキスされました!!!」

 

軍の時のクセで……自分に起こった事を敬礼しながら理子に報告してしまった。

 

 ……改めて言葉にすると生々しいったらありゃしねぇ。妹にキスですか。セカンドキッスは恐怖の味……

 

「おいブリッ子、何イブキにぃに近づいてんだよ。」

 

怒髪衝天の理子の肩に……コキュートス(絶対零度)の瞳のかなめが手をかけた。

 

「お前らにも言っておくがな……イブキにぃと今まで、どんだけラブコメをやったか知らないけどな……」

 

かなめは……まるでキンジが怒っている時と同じような口調で言った。

 

 ……環境は一切違えども、ここは血の繋がった兄弟なんだな。

 

俺はそう思いながら現実逃避をしていた。

 

「妹は最強なんだ!!お前らよりも固い、絶対の繋がりなんだ!!」

 

 ……うん、逃げよう。問題先送りだ。

 

俺は‘‘影の薄くなる技’’を使いながら303号室から逃げ出した。

 

 ……チクショウ!!今日はなんて日だよ!!

 

 

 

 

 

 

 

「あ、村田さん。」

「は、はぃいいい!!!」

 

俺に声をかけてきたのは、理子の封筒を渡してきたナースさんだった。

 

「峰理子さんに届けてくれました?」

「は、はい!!もちろんです!!」

「そう、ありがとねぇ~。あと病院は走っちゃだめですよ」

 

ナースさんはそう言った後、書類を抱えながら去っていった。

 

 ……あ、あのナース、‘‘影の薄くなる技’’を使っているのに俺が分かったのか!?

 

武偵高の病院って言うのは……なんて恐ろしいところなのだろうか。

俺は何度も入院しているのに、今日初めてそのことを実感した。

 

 

 




 ‘‘金継ぎ’’とは……陶磁器の割れ・欠け・ヒビ等を漆によって接着し、その部分を金などの金属粉で装飾して仕上げる修理方法の事です。

 ‘‘人間の言葉をしゃべる犬’’の例……分かりづらいですかね?



 来週も1教科試験と課題があるのですが……なるべく急いで投稿します。
(何としても今年中までには12巻までは書きたい。)


    Next Ibuki's HINT!! 「チキンカレー」

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