『蒼』の彼方へ   作:新米マンゴー(イチゴ味)

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蒼の雷霆

バチバチバチッ!

 

電流の流れた針金で椅子に縛られた少年-ガンヴォルトに向かい、ゴム製の手袋をつけ、同じく電流の流れた鞭を研究員の一人が見せつけていた。

 

「……ッ!」

「どう、フェザー(テロリスト)の少年?電磁ムチのお味は?」

 

オネエ言葉で、中年の男性はガンヴォルトに話しかけた。

 

ガンヴォルトはそれに反応せず、無表情なまま男を見上げている。

 

男はにやにやと気持ち悪い笑みを顔に張り付け、ガンヴォルトを見下していた。

 

「アタシたち『皇神グループ』に刃向かうなんて、おバカちゃんねェ……。目的は皇神(ウチ)の電脳アイドルモルフォちゃんの消去(デリート)…、いえ、抹殺ってトコロかしら?」

 

ウフフ…と気持ちの悪い笑みを浮かべながら、何かに陶酔したように男は言葉を続ける。

 

ガンヴォルトはそれを、黙ったまま聴いていた。

 

「今や企業の広告塔の枠を超えて大勢の人達に愛される国民的バーチャルアイドル─『電子の謡精』モルフォ。ウッフ、アタシもダァイスキ。新曲はソッコーDLしてるわぁ」

 

気持ち悪い笑みを浮かべ語り続ける男の話し方に、ガンヴォルトは少しだけ苛立ちを感じていた。

 

男はそんなガンヴォルトをみて笑いながら、気持ち悪い笑みを更に顔に浮かべて、声高らかに告げる。

 

「…だけど残念!モルフォちゃんは今ごろ輸送列車の中よ」

「…………」

 

いい加減顔も見たくなくなったため、ガンヴォルトは目を瞑った。

 

そんなガンヴォルトをみて、鞭を持った男は更に笑う。

 

「ウフフ……絶望した?フェザーの目論見なんてゼ~ンブお見通しってワケ!」

 

男は鞭をガンヴォルトに見せつける。

 

「これは尋問なんかじゃないの……アナタみたいなカワイイ子をいたぶりたかっただけ……つまりはぁ…シュミッ!」

 

嫌な趣味だ。

 

ガンヴォルトは冷静にそう感じていた。

 

男はさも嬉しそうに声を荒らげ鞭を振りかぶる。

 

「さぁ~、少年!いい絶叫(コエ)で鳴いてプリィーズ!」

 

もう、情報採集もここら辺でいいだろう。

 

そう思ったガンヴォルトは、目を開けて男を見る。

 

「……そうか、電子の謡精(サイバーティーヴァ)はもう此処にはいないか……」

 

そんなガンヴォルトをみた男は、驚愕した。

 

「むっ、無傷ッ!!高圧電流を流した電磁ムチなのよッ!?なんで平然としていられるのォ!?」

 

半狂乱する男に、淡々とガンヴォルトは告げる。

 

「……僕に電撃は効かない」

 

ガンヴォルトは自分を縛る鎖をいとも容易く破壊すると、立ち上がった。

 

自身に雷光を纏わせて。

 

それをみた男は、再び驚愕に顔を染める。

 

「この雷光はッ……まさか…第七波動(セブンス)!?」

 

ガンヴォルトは男から目をそらすと、自分の武器、《ギドラ》を構えた。

 

「死にたくないなら、そこでおとなしくしていて下さい」

 

「電撃の第七波動…………まさか…あなた…ガンヴォルトッ!?」

 

「さようなら、変態のオジサン。情報提供感謝するよ」

 

そう言うと、ガンヴォルトは部屋のドアを蹴破り、通路へ出ると、目標を追跡するために外へ出た。

 

そしてそのまま敵を薙ぎ払い、道を封じるシャッターを破壊し、ギリギリのところで列車に乗り込む。

 

そして列車内の敵を撃ち倒し、雷撃にて討ち滅ぼしたガンヴォルトは、ようやく電子の謡精のところにたどり着いた。

 

「この車両に《電子の謡精》……モルフォのプログラムコアが……」

 

車両の中を探し回ると、ガンヴォルトはあるものを見つけた。

 

「これは…!?」

 

ガンヴォルトはあまりのことに思わず茫然としてしまう。

 

「これが……モルフォ…?そんな……これは…!」

 

 

 

それは、一人の少女だった。

 

彼女はおびただしい量の機械に体を包まれ、眠るように座っていた。

 

『…あなた…は…?』

 

少女はガンヴォルトの心に直接語りかける。

 

『…あなたは…研究所の人じゃ…ないの?』

 

ガンヴォルトは少女の声を聞きつつも、冷静に分析をしていた。

 

「この声は…テレパシー?キミがモルフォなのか?」

 

そうガンヴォルトが聞いたとたん、ガンヴォルトの目の前に蝶の羽のような髪飾りと電子の翼をつけた少女が浮かび上がる。

 

その少女こそ、ガンヴォルトも知るテレビでよく見かける〈電子の謡精(サイバーティーヴァ)〉モルフォであった。

 

モルフォは妖艶な笑みを浮かべながらガンヴォルトに告げる。

 

『アタシは、この子の願いが具現化した《電子の謡精》と言う名の第七波動(マボロシ)……』

 

モルフォはガンヴォルトを見つめながら歌うように問う。

 

『あなた、研究所(プロダクション)の人間じゃないんでしょ?おねがい…この子を─アタシをここから連れ出してくれない?』

 

その言葉に、ガンヴォルトは目を見張った。

 

今、この少女はなんと言った?

 

《ここから、連れ出してくれない?》

 

馬鹿な、彼女は自らの意思で歌っていたのではないのか?

 

いや、その前に、彼女は少女の第七波動だと?

 

ガンヴォルトは驚きを隠せないまま、仲間と連絡を取った。

 

「……ッ!…こちらGV。ターゲットと接触、再度情報の修正を」

 

ガンヴォルトは息を飲み込み、決してモルフォから目をそらさずに仲間に伝える。

 

「電子の謡精はプログラムデータなんかじゃない……小さな女の子の第七波動です」

 

仲間のオペレーターは驚き、椅子から立ち上がった。

 

「なんですって…!」

 

ガンヴォルトはその叫び声を直接耳に叩きつけられ一瞬だけ眉をしかめると、情報を再び述べる。

 

「少女に敵対意思は無し……皇神に拘束されているものと思われます」

 

仲間の一人のシープス2は、机に己の拳を叩きつけた。

 

「皇神のヤツら…えげつねぇコトしやがるぜ」

 

それには同感だとガンヴォルトは心のなかでシープス2に賛同した。

 

「これよりミッション内容を変更、彼女を救助―――」

 

そういおうとした瞬間、リーダーであるアシモフがそれを否定した。

 

「いや、変更はしない。その子を抹殺しろ、GV」

 

「アシモフ!?」

 

怒りと驚愕を含んだ声を聞きつつも、アシモフは冷静に告げる。

 

「すぐに皇神の増援がくる。君は罠かもしれない少女を抱えたまま戦うつもりか?」

「……」

 

なにも言い返せないガンヴォルトに、追い討ちのようにアシモフは続ける。

 

「仮に無事にすんだとして、その後はどうなる?フェザーに―――武装組織に彼女の居場所があるのか?」

「…それは!」

 

ガンヴォルトが言い返す前に、テレパシーがその声を遮った。

 

『………………それなら、私を……殺してください。もう、あの人たちのために歌は…みんなを苦しめる歌は歌いたくない……だから…いっそ、わたしを殺してください』

 

その言葉に、ガンヴォルトは歯を食い縛る。

 

(…この子は……)

 

思い出すのは、自身の幼い頃の思い出。

 

(この子は、あの頃のボクと同じだ─)

 

誰も信じれなくて、誰もを拒絶した。

 

(アシモフに助けてもらったあの頃の…)

 

だけど、みんなが支えてくれた。

信じてもいいと、そういってくれた。

でも、彼女にはそんな人は訪れない。

ならば─

 

(…迷うことはない)

 

―ボクが彼女の支えとなるだけだ。

 

「簡単に命を投げ出すな!」

 

ガンヴォルトの突然の怒声に、少女はビクッと肩を震わせた。

 

「キミが自由を望むのなら、ボクが(チカラ)を貸す」

 

ガンヴォルトは、少しだけ、微笑んだ。

 

「ボクは、キミを助けたい。……キミの、本当の願いは何?」

『わたしは……』

 

その言葉に、少女は答えられなかった。

 

本当に望んでもいいの?

いいなりになって、たくさんの人を苦しめた私が幸せを望んでも、いいの?

 

少女は目を開く。

 

そこには─自分を優しげな笑みを浮かべながら見つめる、ガンヴォルトがいた。

 

この人を信じたい。

そう、思えた。

 

少女は、覚悟を決める。

 

これを言えば、きっと戻れなくなる。

それでも、構わない。

わたしは、彼を信じる!

 

『わたしは外の世界で、わたしの歌を唄いたい…!』

 

ガンヴォルトは、微笑んだ。

 

目の前の少女が、自分の願いをようやく言葉にできたから。

 

「OK、それがキミの願いなんだね」

 

ガンヴォルトは通信機を手に取ると、息を一つ、ついた。

 

「…アシモフ、ボクはフェザーを抜ける」

 

あの時のアナタのようになりたいから。

 

「かつてあなたがボクに自由をくれたように……」

 

アナタのように、ボクも彼女を救いたいから。

 

「―――今度はボクが、彼女の(チカラ)になる」

 

 

 

アシモフは、その言葉を静かに聞いていた。

 

「それがお前の選んだ『自由』か、ガンヴォルト…」

「ええ……」

「了解だ。組織に規律を乱す者は不要。これよりコードネームGVをフェザーから除名する」

 

それを聞いたオペレーターとシープス2は、あまりの急展開に声をあらげた。

 

「ちょっとちょっと二人とも!何を言っているの!?」

「そうだぜ、二人とも!どうかしてるんじゃねぇか!?」

 

ガンヴォルトはその言葉に首を振ると、もうフェザーの一員ではないためコードネームではなく本名で二人を呼ぶ。

 

「……いいんだ、モニカさん。ジーノも…今までありがとう」

 

アシモフはそれを聞き終えると、ガンヴォルトに告げる。

 

「皇神の増援部隊は我々フェザーに任せてもらおう。今の君は我々フェザーとは関係のない一般市民だ。戦いに巻き込むわけにはいかん」

 

アシモフは少しだけ寂しさを顔ににじませていた。

 

「……グッドラック」

 

通信の切れた通信機に向かって、ガンヴォルトはポツリと呟いた。

 

「ありがとう、アシモフ……」

 

ガンヴォルトは少女を覆う機械を破壊すると、少女を抱き抱える。

 

少女はガンヴォルトの周囲に舞うモノを見かけて、首をかしげた。

 

ガンヴォルトの周囲に散る雷を纏う白い羽。

 

彼の背後には、純白の翼が生えているように見えた。

 

―こんなわたしを救ってくれるなんて、彼は何者なのだろう。

 

シアンには、ガンヴォルトに常人とは違う神々しさを感じていた。

 

「……あなたは、天使?」

 

その問いに、ガンヴォルトは微笑んだ。

 

「ボクはGV―ガンヴォルト。キミの名前は?」

 

その笑みに、少女は顔が赤くなるのを感じた。

 

(どうして?彼を見ると、なんだか少し恥ずかしい)

 

赤くなった顔をガンヴォルトから隠すようにうつむきながら、少女は自分の名を教えた。

 

「わたしは……シアンです」

 

こうして電子の謡精(シアン)蒼き雷霆(ガンヴォルト)と出会う。

 

その事を、きっと彼女は生涯忘れることはないだろう。

 

彼女に自由を与えた、蒼の翼のことを……

 

しかしその翼は、あまりにも早く、別の世界へと飛び立ってしまう。

 

―――彼の(チカラ)が、『蒼』だから。

 

 

 

【やっと、出会えた】

 

「え?」

「今の声……何?」

 

【もう離さない】

 

「誰だ!?」

「GV!あそこ!」

 

シアンが指差す先には、虚空が広がっていた。

 

しかしよく見ると、シアンが指差したところだけが歪んで見える。

 

【もう逃がさない】

 

「シアン!ボクに掴まって!」

「う、うん!」

 

【大好きだよ。『蒼』―】

 

 

 

【だから、来て】

 

その瞬間、二人は空間に飲み込まれた。

 

「な―――!?」

「キャアァァ―――!」

 

音も光もない、奈落の底へと二人は声をあげながら落下していくのだった。

 

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