『惑星大異変』   作:城元太

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第五章

 高温の破片は水蒸気爆発を連鎖的に繰り返し、高熱の蒸気を大気中に舞い上がらせた。そのため北緯35°~南緯35°の範囲は、視界のきかない白い闇に包まれた。

 磁力線を狂わせる金属成分の粉塵は、あたかもチャフの様に大気中に漂い、共和国の情報網を完全に混乱させ、各都市を孤立させた。耳目と口を塞がれた三重苦となった中央大陸に、惑星大異変の惨劇は次々と襲いかかってきた。

 

 衝突直後には衛星軌道に留まった残りの破片も、公転する運動エネルギーを順次失い、地表への落下を始める。

 隕鉄を含んだ破片は、それまでの流星と違い、真っ赤な火の玉となって地表に炎の雨を無差別に降り注いだ。無人の砂漠には、不釣り合いな巨大な岩塊が突き刺さり、野生ゾイドの棲む森林地帯は落下した隕石の熱で焼失し、無残な荒れ地と化した。

 中央山脈西側の山肌を落下した隕石が削り取り、幾つもの山頂が崩れ落ち、土石流となって麓の町や村を飲み込んだ。

 都市に降った隕石は、人の作り上げた文明を根こそぎ奪い取った。

 

 ダニエル=シモンズの証言。

「クリスは、最低限の治療用具を鞄に詰め込んでいた。私も消毒薬や鎮静剤など、とにかく応急処置に使えそうなものだけを用意した。その間にも、3階建ての病棟の天井を突き抜けて、幾つもの隕石が落下してきた。私たちは近くにあったクッションで頭部と頸部を隠し、必死でシェルターの入り口を探した。

 他の職員が集まっていたので、入り口はすぐ見つかった。だが、倒れた柱に塞がれて蓋が開かない。隕石は目の前にも落下している。このままではまずいと思い、その場にいる全員が、倒れた鉄材や、モップの柄などを梃子にして、1mほどの太さの柱を必死になって動かした。

 一人が、隕石の直撃を受けて吹き飛ばされた。高熱と高速のためだろうか、身体は半分に引きちぎられたのに、血液が飛び散ることも無く、10mほど通路の方に跳んだ。

 10分ほどで、入り口の上の柱をどかすことができた。

 中は既に非常灯がついていた。私たちは先を争うように入り込んだ。全部で9人いた。気付くと、全員傷だらけだ。

 私はクリスに治療用具を借りて、応急処置をしようとした。だが、クリスがいない。

 少し考えて気が付いた。先ほど半分に引きちぎられたのがクリスだった」

 

 共和国政府の隕石落下に対する初動は遅れた。

 大量の隕石落下への対応マニュアルなど存在しないからだ。その上元首としてのヘリックⅡ世大統領は、遠く離れた暗黒大陸の大地だ。

 最終上陸部隊を派兵し、国内の部隊も第二級の兵力しかなく、隕石落下にも対応できると思われる重装甲のマッドサンダーなどは修理中の物を含め大陸には10台と残っていなかった。それでもこれらの残されたマッドサンダーは、決死の覚悟でコアの起動を行っていた。

 

 ジャック=ペンバートンの報告。

「分遣隊駐屯地も、クック市の師団本部にもつながらない。

 そのうちに、ゴルヘックスが激しく頭部のコクピットを震わせもがく様になった。

 生き残っている電源でレーダー探知画像を立ち上げると、画面が真っ白になっている。首都方向には金属の壁が立ちはだかっているようなものだ。

 自分は直ぐにゴルヘックスの動力を落とし、システムの回復を待った。

 南に流星が降り続けている。

 緩やかな放物線を描いて、まるで昔学んだ幾何学の図形のようだった。

 雷鳴と、雷鳴のような落下音が此処まで響き続けていた」

 

 共和国首都では、科学省の提言を繰り返し確認し、巨大彗星の破片が落下している事態だけは把握していた。

 本来であれば承認を得るべきだが、不在の大統領に代わり残存のゾイド、それも特に重装甲タイプの機体の出動を軍に要請した。マンモス・ベアファイター・ゴドスなど、修理中のものを含め、稼働可能の全機体を出動させるつもりであった。

 だが、磁気異常はコアの活動を著しく低下させ、各基地からの移動が可能となったのは、隕石落下から2時間以上経過してから、それも特に大型ゾイドは影響が大きいため全く機動性が生かせなくなっていた。

 

 ケニー=サバーの証言。

「残った校舎からも火の手が上がりました。火元は実験室で、なかの薬剤やガスが落下のショックで破断され、火花に引火したのだと思います。廊下から見た炎は、緑色やオレンジ色で、薬剤が燃えていることがわかりました。

 私は脹(ふくら)脛(はぎ)から出血していましたが、このままでは焼け死ぬと思い、必死で階段を下りました。途中、何度か足を滑らせ倒れました。何もないのに変だと思いましたが、自分の脚から流れた血で滑っていたのに気付いたのは、校庭に降りてからでした。

 校庭では、登校した生徒たちが泣きながら立ち尽くしていました。

 私は連れ去るように強引に手を曳いて、とにかく燃えている校舎から離れようと走りました。

 何度か爆発音が聞こえました。

 帝国の空襲に備えて裏山の森林の中に作られたばかりの緊急退避壕に着きました。

 数時間後には、周辺の住民を含めて200人ほどが集まってきました」

 

 旧ゼネバス帝国領には、主な戦闘ゾイドがゼネバス皇帝と共にニカイドス島でガイロス帝国に併呑されて以降殆ど残されていなかった。

 その代りとして、共和国軍は治安維持の為の駐屯部隊を各地に設置し、旧ゼネバス領内の治安にあたっていた。

 その為旧帝国領内に残された共和国軍ゾイドの数は比較的多く、特に機動力を重視したコマンドウルフやダブルソーダーなどが残されていた。

 旧帝国領は、共和国出身の地底族、ジェンチェン=パルサンポを初代統監として任命し、同族の多い旧帝国代表と治安審議を密に行い、征服者としての治安ではなく解放者として最大限の帝国住民への統治を行っていた。

 彼の慈愛に満ちた行政により、第一次中央大陸戦争終結以降、旧帝国領内での目立った反乱の動きはなかった。

 無論、一部には小規模な事件は起きていたが、同じデルポイの住民という点では、治安は安定していた。

 だが、隕石の落下という未曽有の混乱が、共和国治安部隊と旧ゼネバス帝国住民との間に、僅かな軋轢を生みだしていた。

 情報の寸断と、首都からの指令の途絶。そしてほぼ同緯度に属する旧帝国領でも、共和国以上の隕石落下被害を被っていた。

 

 ブルーム=ベッテルハイムの証言。

「周辺全てが瓦礫の山だった。

 無数に黒焦げの棒のようなものが転がって、歩きづらかった。よく見ると、全部炭化した死体だった

 隕石が数分毎に落ちてきて、狙いをつけたように高い建物ばかりを砕いていた。

 周りは火に囲まれていて、喉がとても乾いた。ガニメデ城の地下宮殿は、旧ゼネバス宮殿からの秘密通路が作られていて、降伏後はシェルター兼集会場として使われていたから、なんとかそこにたどり着こうとして歩いて行った。

 途中、コマンドウルフと一緒に銃を構えた共和国治安部隊に呼び止められた。

〝お前は何処へいくつもりだ〟

 私はガニメデの集会場に行くつもりだと言った。そこならば安全と思ったからだ。だが治安部隊の兵士は声を荒げた。

〝そこへ集合することはだめだ。自分の家に帰れ〟

と。私は自宅が既に燃え落ちて、隕石の落下も続き、安全ではないことを言ったが、兵士は聞く気もない。そのうち銃を構えて撃つ姿勢を取った。私はその表情から危険を感じ、後ずさりをした。

 躓いた。足元にまた死体があった。中が生焼けなのか、炭化した表面の中からずるりとした赤い内臓が飛び出した。

 仰向けにひっくり返った。

 その時、隕石がコマンドウルフに直撃した。爆発して、兵士も吹き飛んだ。私は倒れた為に爆風から逃れることができた。

 粉塵を払って、血糊を拭うと、行くあてもないのでやはりガニメデ城にむかって歩いた」

 

                  *

 

 異常気象の豪雨で延焼を食い止めることの出来た場所や、氷河の残る地域、砂漠など可燃物の無い地域、湿地帯などでは九死に一生を得た人々もあった。だが、中央大陸全土に落下した隕石は各地で激しい火災を引き起こし、大部分の住民が消火する手段もなく焼死した。

 

 ケニー=サバーの証言。

「緊急退避壕の収容人数は、学校の生徒数と同じ100人ほど。ですが集まった避難民はそれを超えています。

 なんとか全員が中に入ろうとするのですが、二倍の人数は絶対に無理でした。

 そのうち、校舎側からの炎が、私たちのいる退避壕に向かって進んでくるのがわかりました。カモフラージュの為に森林の中に作った退避壕でしたが、その樹木が可燃物となって襲いかかってきたのです。

 熱くて、このままでは焼け死にそうでした。中に入ろうとしてもやはり無理です。そして、一度に大人数を収容可能としたため、壕の扉は大きく開いたままで入り口で助けを求める人々が閊えて閉められないのです。このままでは全員焼け死んでしまう。背後に炎の迫る勢いを感じながら、私はいよいよ最期かと思っていました」

 

 火災旋風という現象がある。周囲を炎で取り囲まれた場所に、焼け残った空間が残っていると、周囲の熱せられた空気が中心の冷たい空気に一斉に集中し、炎の竜巻になって中心部分に襲いかかる。ここに焼け出された避難民などが残っていると、急激な上昇気流に巻き込まれ、生き物も金属も全ての物が焼き尽くされる。グレイ市の森林は火災旋風の発生には絶好の条件がそろっていたのだった。

 

 ジャック=ペンバートンの報告。

「南ばかり見ていて気が付かなかったが、北方のゴルゴダス海峡が奇妙に遠ざかっていた。ゴルヘックスは動けないから、おかしいと思ってよく見ると、海水が流氷を巻き込んで急激に後退していた。海中にあるはずの岩肌が露出し、そこにさっきまであった氷の塊が亡くなっている。海面が極端に低下していた」

 

 アンダー海・デルダロス海・ダラス海・アクア海で、潮の流れが変わっていた。大量の海水が海底断層に飲み込まれていたのだ。

 中央大陸を中心に起きた海水の流れは、やがて彼方の暗黒大陸目掛けて音速に近い速度で移動を開始していた。

 

 ダニエル=シモンズの証言。

「暗い非常灯のなか、あちこちから呻き声が聞こえた。

 断続的に隕石が落下を続けているのだろう、そのたびごとに激しい振動が繰り返す。

 私は何もしないと落ち着かないので、怪我人の治療を始めた。消毒薬しかないので止血するのに服を破って包帯の代わりにした。

 9人の治療が終わった。誰かが私の額からも出血していたことを言った。それまで気づかなかった痛みが襲ってきた。

 その時また激しい振動が襲った。隕石ではない。私たちは、シェルターの入り口を、また障害物が塞いで出られなくなるのではないかと思った。

 不安になって蓋を開けてみた。入り口の蓋は塞がってなかった。その代り、消火にあたっていたエレファンタスが一階部分を吹き飛ばして擱座していた。コクピットは無くなっていた」

 

 残された軍も全力を挙げて事態の収拾をはかろうとしていた。だが、連携した行動がとれない以上、装甲板に守られたゾイドを、操縦者各個人の判断で作動させる以外に救出する方法がなかった。頼れるのは、もはや勇気のみだった。

 

 ブルーム=ベッテルハイムの証言。

「ガニメデ城に着いた時には、私と同じようにぼろぼろの姿の人ばかりだった。その中には、〝皇帝陛下を追放するからこんなことになるのだ〟というようなアジテートを行う者もいた。これが治安部隊が警戒している理由かと思った」

 帝国と共和国、政治体制の違いだけでなく、風土や民俗意識にも違いはある。帝国が統一されて一世代程度の歴史が刻まれれば互いの理解も深まっていただろう。しかし5年という期間はあまりに短かった。

「シェルターの扉が荒々しく開かれた。銃を構えた共和国治安部隊だった。

〝今の話は記録させてもらった。貴様らを全員騒擾罪で確保する〟

というようなことを話したのだと思う。隕石の落下が激しくて、充分聞き取ることは出来なかったから。私は関係がないと言ったが、有無を言わせず手錠を掛けられた。外には同じように手錠を掛けられた旧帝国の人間たちが、コマンドウルフの脚に数珠繋ぎになっていた。皆粉塵で真っ黒になっていて、靴が脱げて足から血を流している女性もいた。このまま外を歩かされたら黒焦げになってしまうかもしれないのに。

 そこへまた隕石が落ちた。コマンドウルフは爆発しなかったが、横倒しになって繋がれた人々も一緒に倒れた。私もあそこに繋がれるのかと思うと、もう生き残るのは無理だと思った。コマンドウルフが立ち上がるまで暫く時間がかかった」

 

 治安部隊が旧帝国の民衆の蜂起を鎮圧したという記録は全くない。だが、当時の部隊に所属していた兵士には、まるで公式発表の様に語られていたという。

 治安部隊ガニメデ西地区管理担当、シモン=コンウェイの報告。

「帝国の住民が集会場で、この混乱に乗じて反乱を起こすという話が伝わってきた。未確認情報なのだが、隕石の落下を避けながら治安部隊が巡回していると、各巡回部隊の兵から〝反乱集会は見ていないか〟と話しかけられた。自分は確認していないと言ったが、充分警戒するようにと言われた。同じことを3回聞かれたので、これは事実だと思い、旧帝国の民衆はどこかで反乱しているのだと信じていた」

 旧帝国領の至る所で帝国民衆の反乱の噂が数時間を経ずして野火のように広がっていった。その広がり方は明らかに異常であった。同時にこの不穏な噂は、統監府の代表ジェンチェンのもとにも伝わってきた。ジェンチェンは立ち上がった。

「直ちに統監府にいる治安部隊全員を集合させるように。使用可能なゾイド全ても。ダブルソーダーには拡声器をつけて、これから私の談話を録音し、可能な限りこの町を飛び回って伝えるように。

 私のゾイドを準備してください」

 黒縁の丸眼鏡を直しながら、彼は指令を出した。

 

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