『惑星大異変』   作:城元太

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第七章(終)

 衛星軌道上に漂う隕石群は、その落下数を急激に減らしていった。2割ほどはゾイド星に落ちたことは確認され、1割ほどは衛星軌道に乗れず弾き飛ばされたこともわかった。ではそれ以外の隕石群の行方は。

 謎を解く手がかりとなる映像がある。再建されたものの充分な解像度を持たない共和国首都の臨時天文台で、数多くの隕石群を引き連れて飛び去っていく未確認物体が撮影されていた。重力法則を無視するように飛び去る光点は、遥か彼方の母星〝ブルースター〟を目指して飛び立った、かつての宇宙移民船であることを知る者は少ない。

 それは、彼らを育んだ惑星を見捨て旅立つことができず、機体内部のエキゾチック物質を使用した重力制御システムを利用し、落下する隕石群を外宇宙の彼方まで運び去って行った。

 一方で、極小期を終え再び力強く活動を始めた太陽が厄介な外宇宙からの侵入物を吹き払うかのように輝きだしていた。

 

 ダニエルの証言。

「地下シェルターには一週間ほど入っていた。隕石の落下も減り、重苦しかった雷雲の隙間から眩しい日差しが差し込むようになっていた。廃墟のようになったセシリア市にも生き残った人間はいた。無駄を承知で何人かがこの病棟を訪れてきたのだった。

 私たちは驚き、喜び、そして全力を挙げて治療にあたった。失われた命がいくつあったかわからない。しかし、今なら助けることが出来る。有り合せの手術用具と消毒薬を準備し、診察にあたろうとしたが、ライフラインが復活していないので作業は思うようにできなかった。

 その数日後だった。遠くで壊れたラッパのような音が聞こえた。何が起きたかと外に出てみた。

 ゾイドマンモスだ。水に食料、医療品や発電機まで運んでいる。車輪で走るグスタフでは対応できない瓦礫の市街を、グスタフ代わりに救援物資を満載してやってきたのだ。

 私はゾイドがいて本当によかったと思った。

 マンモスの耳がユーモラスにはためくのを見て思わず笑っていた。クリスの分まで誰かの為に役立とうと思った」

 

 寸断されていた中央大陸各地の都市も、残されたゾイドの懸命の復旧作業により優先的に通信網が復興された。必要な救援物資を被災地域に送ることにより、生き抜いた人々が再び立ち上がる助力となった。

 破壊され尽くした中央大陸に比べ、入植者の少ない西方大陸エウロペは未開の新天地であった。新たな世界を求めて、大異変の後にこの古代遺跡の残る西の大陸に旅立つ人々が数多くいた。まだ、帝国も共和国もない、あるのは希望だけの大地に向けて。

 

 ジャックの報告。

「津波に襲われて、クリスタルレーダーの全ては無くなっていた。流氷と流木と、その他の様々のものに衝突されてゴルヘックスはそこで擱座していた。

 津波の到達する前に、自分は小高い丘に避難して助かったが、愛機を救うことはできなかった。せめて酒でも手向けようと、旧式のゴルゴドスを駆ってここに来ていた。

 暗黒大陸に出撃した部隊からの連絡は途切れたままだった。同期の戦友たちが、あの海の向こうで散って行ったかと思うと無性に悲しくなった。

 ゴルヘックスに酒を注ぎながら、遠くの水平線を見つめていた。

 何か聞こえた。

 大型ゾイドの声だ。

 立ち上がって水平線を見つめた。

 伸びあがった首が見える。特徴的なキャノピーが、北海の日差しにきらめいた。

 ウルトラザウルスだ。上陸部隊が帰ってきたのだ。

 自分はゴルゴドスのコクピットに飛び乗ると、緊急伝を打電した。

〝ウルトラザウルス帰還セリ〟と。そして手を振った。友の名を叫んだ。声が届くはずもないとわかっていたのに」

 

 ヘリックⅡ世を含む上陸部隊は、多大な損害を受けながらも、5隻のウルトラザウルスと共に中央大陸に帰還した。帰還と同時に、限界まで作動してきたこの巨大ゾイドのコアも1隻を除いて全てが活動を停止した。

 戦うことではなく多くの命を救うことの出来た満足感を得て、ウルトラザウルスたちは安らかな眠りについていった。

 

 

 こうして、惑星大異変の一応の収束を見た。戦死者を含めてのゾイド星の死者、8500万人。数多くのゾイドは活動を停止し、人々は今が争っている時期ではないことを知った。同時に第一次大陸間戦争が終結した。

 

 

 国立天文台所長ホセ=フランセスカは、中央山脈天文台下山の際に負った凍傷が脱疽となり、勤務が不可能となっていた。

 一方、一時批判の対象となった副所長パブロ=ディエゴは、彗星衝突の予測を的中させた研究者として、病床のホセに代わり正式に天文台所長の任に昇格していた。パブロは複雑な想いだった。進化生物学を目指しながら、天文学を生業としている今の自分自身に。

 一大権威となってしまったパブロの元には、以前にもまして多くの人々が訪れるようになっていた。責任者となった以上、それらの質問を無下に断ることも出来ず、自分の研究時間が削られていた。今更ながらに、ホセの立場の厳しさを実感していた。

 ホセはあの時、彼の意見を全面的に否定した。しかし、それは責任のある立場として止むを得ない事情があってのことだった。もしあの時ホセがパブロの主張を肯定していれば、共和国内はおろか全大陸的なパニックに陥っただろう。ホセにしてみれば、苦肉の策ではなかったかと、パブロは考えていた。

「所長、衛星軌道10万㎞以内のデブリの様子、観測データ出ました」

 正式に職員となったファン=ネムポセが、落下の可能性の高い隕石の軌道を示した資料を手渡してきた。ファンが小脇に抱えた本が落ちた。彼は落ちた本を大事そうに拾い上げ、軽く埃を掃った。

「その本は」

 パブロが問いかける。

「これですか。これはミスター・ジェンチェン=パルサンポの著作です」

「誰だ、それは」

「所長は生物学の研究書しか目を通しませんからね。帝国領を統治してきた統監府総統です。思いやりの心で他人と接すれば、必ず自分も幸せになれるのだそうです」

 パブロは、若いファンが奇妙な道徳観に囚われているようで不快になった。科学こそが万能であり、感情などという形の無いものには価値を見いだせないからだ。

 半ば強引に差し出された本を受け取り、彼は読む気もなくページをめくった。

 ある文章に彼の目が留まった。

 

『人間は科学や技術を持ち合わせているから、自然をコントロールできるという誤った考え方を持ってしまうことがあるのです』

 

 衝撃だった。今回の惑星大異変は、どんなに精巧な観測技術があり、どれ程被害を予測しても、それを制御することなど不可能だった。人もゾイドもただ宇宙の自然を受け入れるしかなかった。

 思い上がりだ。彼は自分自身を顧みていた。しかし、次のページに書かれた言葉が彼を温かく励ました。それはあまりに当たり前の言葉なのに、彼の心に突き刺さった。

 

『一人では生きられない』

 

 この惑星大異変を乗り越え懸命に生きようと思った。人と、ゾイドと、そして自分のために。

 

 惑星大異変が完全収束するのはその40年の後であった。

 

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