絶対正義の兄が斬る!   作:もちふじ

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前回に引き続き、長ったらくて読みにくいと思います。
ただベタベタさせたかっただけなの。


狩人達

『人は見かけによらぬもの』という慣用句がある。

古くから伝わることわざであり、人の性格や能力は見かけで判断することが出来ない、そんな意味だ。

ウェイブはこの究極が、先程の拷問官のような大男、ボルスだと思う。

 

ランが入室してから程なくして、ボルスが全員分のお茶を入れてやって来た。コトン、とウェイブの前にも湯のみを置いた彼は、お盆を胸で抱いて謝罪した。

一番最初から部屋にいたというのに、ウェイブに一言も声をかけなかったこと。自分は人見知りで、初対面の人間と話すことが苦手なこと。・・・とても人見知りとは思えない外見ではあるが。

そして、彼の名前と焼却部隊に所属していたことを聞いた。焼却部隊、というのはエスデス軍と同じくらい良い噂を聞かないが、ウェイブは彼は善良な人間だと思う。しかしながら、見かけは本当に恐ろしいことこの上ない。

 

 

和気あいあいというにはまだお互いに遠慮があるが、それでもほのぼのと会話をしていると、再び扉が開く音がする。敵意があるような乱暴な開け方に、室内が静まり返り、コツコツとヒールの音を鳴らせて、仮面をつけた女性が入ってきた。

 

呼び出された帝具使いは七人だと聞いている。室内にいるのは既に七人。ならば、この女性はなんだろうか。

 

(・・・あれで、バレないと思っているのか)

 

約一名、ミラルドを除いて全員が困惑に呑まれた。

足首まで伸ばされた青髪に、白い軍服。間違いなくエスデスだろう。

今日初めて会う彼らはともかく、付き合って数年のミラルドをあれで騙せると思ったのか。それとも端からミラルドのことを騙すつもりがないのか。

 

事前に少し遊んでみる、とは聞いていたので彼は女性の正体がエスデスだと言うような愚は犯さず、視線を逸らす。

 

「お前達、見ない顔だ!ここで何をしている!!」

「おいおい、俺達はここに集合しろって・・・」

 

反論しかけたウェイブが問答無用で蹴り飛ばされる。咄嗟に胸の前で両手をクロスしてガードをしていたが、ガードごと吹っ飛ばされてしまう。帝国から直々に命令がきた以上、ウェイブの戦闘能力が低いとは考えにくいので、きっと油断していたのだろう。

まさか本気で蹴ってないだろうな、とミラルドは取り敢えずウェイブの様子を見に行く。完全に伸びていたが、命に別状はあるまい。

 

「賊には殺し屋もいる、常に警戒をおこたるな!」

 

アッサリと気絶したウェイブにエスデスは不満気に言い、次は近くにいたランへ襲いかかる。

突き刺すように、長い足の蹴りが炸裂した。当たれば痛いどころでは済まないだろうそれを、ランは受け流して距離をとる。下手に彼女に攻撃するよりかは、よっぽど正しい選択だ。

 

 

──そして、ここで正しい選択を選べないのがミラルドの妹、セリュー・ユビキタスである。

 

彼女は所有する帝具『ヘカトンケイル』ことコロと二人がかりで背後から飛びかかった。

ミラルドは思わず頭を抱えたくなる。殺気が剥き出しすぎるし、今のを見て彼女と自分の実力差すら測れないのか。相変わらず、頭は残念な状態らしい。

 

 

予想通り、殺気で気がついたエスデスは振り返ることすらせずにコロを叩き落とし、セリューの腕を掴んで背負い投げをしようとする。

セリューの顔に驚きの色がうかんだ。まさか、バレるとは思っていなかったらしく、床に叩きつけられる衝撃に思わず目を瞑った。

 

「──」

 

が、途中でエスデスの手首に鋭い衝撃が走りセリューから手を離してしまう。結果、セリューに来るべき痛みはやって来ることはなく、一瞬の浮遊感の後、柔らかく抱きとめられた。

 

片手でエスデスから解放されたセリューを抱えているミラルドが、彼女の手首を下から蹴り上げたのだと分かるのにそう時間はかからない。

空中で体勢を立て直したミラルドは、くるくると身体の捻りを使って、蹴る、回し蹴り、蹴る、回し蹴りを繰り返す。両手が塞がっているので少々攻撃が単調になってしまうが、風を切り裂くように繰り出される蹴りの連打は常人ならば目で追えない速さだ。

もっとも、目の前の女は常人ではないが。

 

「・・・うぷ。お、お兄ちゃん酔っちゃう・・・」

「・・・悪い」

 

そこで、セリューからSOSの声が上がる。

エスデスとミラルドはともかく、セリューは抱かれたままグルグル飛び回ったのだ。目も回るだろう。

 

ミラルドはエスデスの肩を踏み台にして、身体をバネのように使い、大きく後ろへ跳躍。

入れ替わりに黒髪の少女、『クロメ』が隙の出来たエスデスに襲いかかり、抜き身の日本刀で器用に彼女の仮面だけを割った。エスデスもそれが自分の命を脅かすものではないと悟り、敢えて避けない。

 

「──それが帝具『八房』か・・・。流石の切れ味だな」

 

パキパキと、仮面に入ったひびが広がって、彼女の白皙が露わになる。

離れた場所で様子を窺っていたボルスが、驚きの声をあげた。正体はやはり、帝国最強の女将軍。

 

「エ、エスデス将軍!!」

「──・・・・・・いってーぇ」

 

タイミング良く、ウェイブが目を覚ます。軽く頭を振りながら身体を起こした彼は、目の前で満足げに笑う上司が戦闘狂・・・もとい変人なことを理解し。

 

 

「転職、したいな」

 

 

三日間天日干しされた大根のようにしわしわになって、乾いた笑みをこぼしたのだった。

 

 

 

 

「さっきの趣向は驚いたか?普通に歓迎してもつまらんと思ってな」

 

一通り挨拶が済み、事態の収拾がついてからエスデスが放った言葉だ。

実際楽しかったのは彼女一人で、それ以外・・・特にミラルドはセリューが怪我するかと思い、気が気じゃなかった。アレだけで大袈裟だ、とセリューは笑ったが、久しぶりに会った妹の両腕が無くなってる、なんて体験をしたミラルドが多少神経質になるのは仕方の無い事だろう。

 

人目を気にせず、兄妹とは思えないイチャイチャっぷりを見せつけるミラルドとセリューは非常に目に毒で、居心地が悪そうにウェイブはエスデスに向き直る。

 

「それで、エスデス将軍。言われるままに着替えましたけど・・・これから何を?」

「ああ。まずは陛下と謁見、その後パーティーといったところだな」

「い、いきなり陛下と!?」

 

エスデスの答えに、ウェイブがぎょっ、と目を剥く。

黒のスーツを着せられた時点で、格式張った場所へ行くのかとは思っていたが、帝国の頂点と謁見というのは流石に予想外だったようだ。

緊張により、声と表情を強張らせるウェイブに、エスデスは「面倒事はちゃっちゃと済ませるに限る」と、取り合わない。

 

「それより、エスデス様。アタシ達のチーム名とか決まっているのでしょうか?」

 

こちらは、緊張とは程遠い様子のスタイリッシュが、ちゃっかりエスデスを様付けしつつ、首を傾げる。

エスデスはそれに、一つ頷いて獣のように獰猛な笑みをうかべる。

 

「我々は独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織・・・・・・、故に──」

 

──特殊警察、『イェーガーズ』だ。

 

 

 

 

帝具使いのみの部隊の結成、それは千年続いた帝国でも異例の事態だった。

それが、何を示しているのか。血に塗られた未来には何が映るのか。

 

──少なくとも幸せで洋々たる未来でないことは、簡単に想像が出来た。

 

 

 

■ ■ ■

 

特にこれといった問題も起こらず、陛下との謁見も順調に進んだ。といっても、大体の受け答えはエスデスやミラルドがしたので、緊張もそれほどなかった。

あれだけしっかり話せるなら、ウェイブとの会話の時ももう少し自主性を持ってほしかったが、相手がまさか帝国の副将軍と知ってしまった以上ろくな事は言えない。

やはり、帝国には変わり者しかいないらしい。

そんなこんなで現在。

 

 

「あっ、ウェイブくん。ホウレン草は一番最後。すぐにしなっとなっちゃうからね」

 

隣で野菜を切っていたボルスが鍋の前に立つウェイブに注意する。

 

場所はイェーガーズに与えられた詰所の厨房。

謁見後は親睦会も兼ねて、ウェイブの持参した海産物を中心に食事をすることになったのだ。根が庶民的なウェイブは、宮殿で出るような豪華な食事より、自炊の方が落ち着いていいのだが──、

 

(料理出来るメンツがおかしいんじゃねぇか!?)

 

厨房に立つのはウェイブとボルス、そしてミラルドという男三人だった。右でボルスが野菜を切り、左でミラルドが魚を捌く。間に挟まれてウェイブが海鮮鍋の味付けを担当。

せっかく家庭的男子として、女子軍のポイントアップを試みていたというのに、これでは何の意味も無い。

 

 

「でもその、ミラルド・・・さんが料理出来るのはちょっと意外ですね」

「・・・?どうした、いきなり」

 

つい先程までは、ため口に呼び捨てだったのに今は敬語になっているウェイブにミラルドは不思議そうにする。

不思議そう、とは言ってもそれは言葉だけで、表情は相変わらずの無表情。何かに怒っているとかではなく、彼にとってはこれがデフォルトなのだ。

 

「いやさっきはその、エスデス軍の副将軍だったとは知らなくて・・・」

「まぁ、別に好きなように呼べばいい」

 

本人がこう言うので、結局さん付けため口という微妙な形で、落ち着く事になる。ちなみにミラルドは料理に限らず、家事全般が得意だ。

料理が得意なことに関しては、昔からセリューが料理すると何でも暗黒物質へ変えてしまう、素敵な才能をお持ちであることが大きい。

 

三人とも手慣れていたこともあり、それからさほど時間がかからずに調理が終わる。メインはウェイブの海鮮鍋、サイドメニューでミラルドとボルスが作った料理の数々。家庭料理にしては及第点といったところだろう。

 

 

調理中は成人していないクロメを除いて、食前酒を楽しんでいたらしい。クロメは炭酸の果物ジュースで飲んだ気になっている。

セリューは童顔な故、勘違いされやすいが既に成人していて酒も飲めるしタバコだって吸える。しかし彼女はどちらも手をつけたことが無い。

 

 

結論から言うならば、作り終えた料理を運ぶ頃には──、セリューはしっかり出来上がっていた。

 

「・・・飲ませたのか」

「・・・まさか、ここまで弱いとは思っていなくて」

 

赤い顔をして自分の胴体に引っ付くセリューを見て、ミラルドは眉を寄せる。

クロメが語るところによると、ミラルドに禁止されて酒を口にしたことが無いと不満そうだったセリューに、ほろ酔い気味のスタイリッシュとエスデスで、ランが止めるのも聞かずに飲ませたという。

今まで酒を禁止していた事が裏目に出たか、とミラルドがため息をついていると背中に回ったセリューの手にぺしぺしと叩かれた。

 

「おにぃちゃんはぁ、せりゅーいがいのひととお話しちゃダメですぅ」

「・・・セリュー、一度離れてくれ」

「うみゅ・・・やだあ。もっとぉ、もっとぎゅーってしてぇ」

「・・・これはもうダメだな」

 

会話が通じないセリューを抱き上げる。膝の裏と背中に手を回した、所謂お姫様抱っこだ。

こうなってしまったらもう家に連れて帰り、一刻も早く寝かせるしかない。そう思っての事だったのだが、どうやらセリューはこの体勢が甚く気に入ったようで、ふにゃふにゃと顔を緩めて笑う。

 

「・・・帰る」

「食事は?」

「いらない」

 

これ以上無防備なセリューを他人に見せる訳にはいかない、兄としての心配だ。酔ったセリューはいつもの五割増くらいのレベルで可愛い。

 

ミラルドはセリューの身体を、それはそれは大事に抱えて家に帰る。幸い、帝都内にある二人の自宅は宮殿からも近く、歩きで十数分といったところだ。

結局、親睦会をほっぽり出して二人は帰宅する羽目になったのだった。

 

 

 

 

「──俺はシャワ浴びてくるから、セリューはその間に着替えてベットに入っていろ」

「うー」

「・・・聞いてるか?」

 

家に着くと、迷わず二階の寝室に上がってセリューをベッドの上に下ろす。

何とか眠らないように、何度も目を擦っているセリューだが、出来ればそんな事はせずにさっさと眠ってほしい。さっきから「うー」やら「みゅう」しか返事していないが、本当に理解しているのだろうか。

 

 

ミラルドはセリューの髪を軽く撫でてから、自分の着替えを持って一階の浴室へ向かう。今から湯を張るのは流石に面倒なので、シャワーを浴びるだけだ。

熱い湯を浴びて、ミラルドはそういえば今日一日動きっぱなしだったと思い出した。だが、別段疲れているという訳でもない。きっとセリューが側に居るからだ。

 

セリューは熱い湯が苦手なので、明日の朝彼女がシャワーを浴びることを想定して、事前に温度を下げておく。

なんて、無意識のうちにセリューのことを考えているあたり自分でも相当末期だなと思う。が、周りに言わせれば今更な話だ。

 

 

 

「・・・何してるんだ」

 

そんなこんなで濡れた髪を拭きながら浴室から出ると、ドアの前にセリューがべったりとくっついていた。

ミラルドは思わず二度見してしまう。予想外も予想外。

よく見れば服も着替えていない。まさかとは思うが、自分がシャワーを浴びている間、ずっとここで待っていたのだろうか。呆れて叱る気にもなれない。

 

「・・・」

 

セリューは火照った顔でふらふらと頭を左右に揺らし、無言でミラルドに向かって両腕を伸ばした。抱っこ、のポーズだ。仕方なしにセリューの両脇に腕をいれて、抱き上げる。

 

「・・・満足か」

 

こくこく、と頷く気配がするので、セリューを抱いたまま階段を上り、再び寝室に入った。数分前と同じように、丁寧にベッドに下ろす。

今度こそ着替えさせようと、タンスから適当に出した寝巻きを彼女の膝にのせて部屋から出る。・・・つもりだったのだが、セリューはミラルドの袖を引っ張り自分に注意を引くと、両手を天に向かって突き上げた。バンザイ、のポーズだ。

 

つまりは、着替えさせろということだろう。

 

「・・・じっとしていろ」

 

どこまでも妹に弱い彼のこと、断れるはずも無くセリューの軍服を脱がせ始めた。

ワンピース型になっているそれは、ベルトとボタンを外してしまえば前は殆ど露出してしまい、当然のように上下セットの下着もしっかり見える。フリルのついた白い下着は彼女らしい。

恐らくセリューはここまで考慮していないんだろうな、と考えながら今度は寝巻きに着替えさせた。薄桃色のネグリジェに着替えたセリューをベッドに寝かせて、布団を掛ける。

ちなみにこの兄妹、当たり前のように毎晩同じベッドで寝ているのだ。

本日も例によってミラルドがセリューの横に寝転がって、セリューが一ミリの隙間も作らず抱きつき、ミラルドがセリューを抱きしめる。いつも通り。

 

 

これがユビキタス兄妹の日常だ。

 

──兄妹の域を超えている、そう注意する者はこの家にはいない。・・・注意したところで聞かないだろうが。

 


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