ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー 作:五河 緑
*今回、ジリオラのオリジナル眷獣出します。
〈オシアナスグレイブ〉船内
雪菜達が監禁されていた〈オシアナスグレイブ〉船内にある一室。その室内で雪菜はドアに耳を当てて外の様子を伺ってた。
「……見張りはいないみたいです。九重先輩、動けますか?」
「なんとか」
雪菜の言葉に返事をしながら立ち上がるキリヲ。しかし、立ち上がると同時にバランスを崩して床に倒れ込む。
「くそっ、腕が……」
ひじの辺りから先がなくなっている右腕に目を向けてキリヲが悪態をつく。
足を怪我しなければ人間は問題なく動けると思われることが多いが、実際はそうはいかない。
人体において腕というのは結構な重さがあるのだ。その重い腕を引っ提げて活動してきた人間が突然、片方の腕をなくしたりしたら、無くした腕の方の半身は一気に軽くなり、重さが反対側の半身に傾くことになる。
このアンバランスさに慣れるにはそれなりの時間が必用であり、突然片腕を失った状態でバランスを取るのは困難を極めるだろう。
『随分と派手にやられたわね』
突然、エコーのかかった声が室内に響き渡った。声の主を探るべく雪菜が四方に視線を走らせるがその姿は見えない。
「遅いぞ、ジリオラ」
「助けに来てもらっておいて随分と偉そうね」
室内に流れ込んできた薄紅色の霧が集まって一人の女の姿を象る。
現れた女の手には雪菜が普段〈雪霞狼〉を収納しているギターケースとキリヲが〈フラガラッハ〉を入れている竹刀袋が握られていた。
霧化を解除して実体化したジリオラがキリヲの物言いに呆れたように返事をする。
「ジリオラ先生!」
「はい、剣巫。これお届け物ね」
援軍に駆けつけたジリオラに嬉しそうに歩み寄る雪菜に持ってきていたギターケースを渡すジリオラ。
「これは……〈雪霞狼〉!」
「南宮那月からの伝言よ。甲板に出てその槍で船を囲っている結界を破れですって」
ジリオラの言葉にキリヲが顔をしかめながら言葉を発する。
「甲板?ここは、船なのか?」
「〈オシアナスグレイブ〉よ。……あの〈蛇遣い〉、テロリストとつるんで妙なことしてるみたいね」
「……あの狂犬め」
悪態をつくキリヲに同意するようにジリオラも頷く。
「……南宮那月はどうした?」
「前回と一緒よ。相手が南宮那月を警戒して空間転移阻害の結界を張り巡らせてるの。わたしをこの近くまで運んだ後は海の上で立ち往生よ」
肩を竦めながら言うジリオラ。
「とにかく、早く脱出して第四真祖の加勢に行った方がいいと思うわよ。連中が持ってきた古代兵器は、もう攻撃を始めている」
「……そうだな」
ジリオラの言葉を聞いて、キリヲは壁に手をつきながら立ち上がる。
「……戦うのは無理そうね」
「…………大丈夫だ。足手まといにはならない。そいつを貸せ」
苛立つようにそう言うとキリヲは、ジリオラが持ってきた刀〈フラガラッハ〉を掴み取り、杖のように地面に突き立てた。
「あの……藍羽先輩がまだ奥に。……それに凪沙ちゃんはどうしましょう?」
「放っておいて大丈夫よ。貴女が結界を破壊したら、後で南宮那月が回収する手筈になってるから」
言いながら扉を蹴破るジリオラ。その音を聞き付けて数名の黒死皇派メンバーの獣人が駆けつけるが、〈雪霞狼〉を持つ雪菜と〈毒針たち〉を解き放ったジリオラに蹴散らされていく。
「……他愛ないわね。クリストフ・ガルドシュはどこ?」
「分かりません。藍羽先輩にナラクヴェーラの制御コマンドの解析を依頼した後、すぐにいなくなってしまったので……」
道を塞ぐ獣人達を撃破しながら三人は、駆け足で船の甲板を目指す。
最上デッキに繋がる扉を開けて久しぶりに日光を浴びたキリヲは思わず目を細めた。
「サブフロートが……なんてことを……」
船の甲板から見える洋上に流されたサブフロートを見て雪菜が声を震わせる。
サブフロートの上では、ナラクヴェーラと思わしき大型の機械が赤い閃光を放ち、それに対抗するように古城の〈獅子の黄金〉が雷を撒き散らしていた。
「どうだ、中々にいい光景だろう?」
三人の頭上から投げ掛けられた言葉に全員が首をそちらの方向に向ける。
「ガルドシュ……」
声の主の姿を見てキリヲが圧し殺すような声で呟く。
「貴方がクリストフ・ガルドシュ?」
「……そういう貴様は、ジリオラ・ギラルティかな?部下達が随分と世話になったようだな」
ガルドシュの言葉にジリオラが挑発的に鼻で笑う。
「ふん、部下達は貴方と違ってあまり強くはないのねぇ?」
「……確かに未熟ではあるが、彼らも同志だ。貴様の放った眷獣〈毒針たち〉は確か致死性の猛毒を持っていたな?」
ガルドシュが言ったことに今度は雪菜が驚いてジリオラの顔を見た。
ジリオラは涼しい表情で更にガルドシュを挑発する。
「これ以上、大切な部下を失いたくなかったら、さっさと投降なさい」
「戯れ言をっ」
ジリオラの言葉に激昂したガルドシュが腰に提げた刀を抜き放ち、居合いの要領でジリオラに斬りかかる。
妖刀〈血斬り〉の赤刃がジリオラに迫る。
だが。
「はあっ!」
刃がジリオラを捉えるより早く雪菜が〈雪霞狼〉でガルドシュの〈血斬り〉を打ち払った。
ガルドシュは、雪菜の槍を警戒するように距離をとって刀を構え直す。
「……その槍、七式突撃降魔機槍か。いい得物をお持ちだ、獅子王機関の剣巫よ」
ガルドシュは、雪菜の持つ槍とその使い手である雪菜に素直に感心したように言った。
「人数ではこちらが有利です!諦めて投降してください!」
〈雪霞狼〉の切っ先をガルドシュに向けながら雪菜が言い放つ。その後ろでは、ジリオラが左手から血霧を放出し〈毒針たち〉を召喚していた。
「……ふむ。キリヲが加わらないとは言え確かに、ニ対一は厄介だな」
雪菜とジリオラに視線を走らせたガルドシュは、右手に握る〈血斬り〉を腰の鞘に戻し、後方に跳ぶようにして下がる。
「では、こちらも物量戦でいかせてもらおう」
その言葉を合図に海中から複数の巨大な影が飛び出し、キリヲ達を囲うように船の上に着地する。
キリヲ達を囲う鋼鉄の巨体。赤と黒の外装を持つ古代兵器ナラクヴェーラだ。
「ちょうど、制御コマンドの解析が終わっていたからな」
「……ちょっと、ナラクヴェーラって一体だけじゃないの?」
ガルドシュの言葉に流石にジリオラも冷や汗を流しながら呟いた。
「戦争とは、個の力ではなく総合的な戦力で競い会うものだぞ?流石にこの数では貴様らに勝ち目はあるまい?形勢逆転だな」
周囲を取り囲むナラクヴェーラに雪菜とジリオラも一歩ずつ後退する。
「……我々の目的は黒死皇派の健在を世に知らしめ、このナラクヴェーラを手に入れることだ」
圧倒的戦力差で優位性を手に入れたガルドシュがキリヲ達に向けて言葉を紡ぐ。
「だが、我々の目的は殆ど達成された。当初の予定では、この後ナラクヴェーラを使って〈蛇遣い〉と戦う手筈だったが……貴様ら次第で戦闘を止めて撤退しても構わないぞ?」
ガルドシュの言葉に全員が顔をしかめる。
これほどの戦略的優位性を獲得して撤退する理由がどこにあるのか全く分からなかった。
「……どうすれば、手を引いてくださるんですか?」
ガルドシュを睨み付けたまま雪菜が言う。
そんな雪菜に満足そうに微笑むとガルドシュはその答えを口にする。
「我々が……いや、わたしが出す条件は一つだけだ。キリヲ、わたしと来い」
ガルドシュは、顔から笑みを消し真剣その物の表情で右手をキリヲに差し出す。
「戻ってこい。あの日……お前をアンジェリカ・ハーミダに渡した時、どれほど己の弱さを恨んだことか。もう、お前を失いたくはない」
ガルドシュの顔に浮かんでいるのは悔恨の表情。あの日、キリヲが瀕死の重傷を負った時。治療の手立てがなかったガルドシュは我が子同然に育ててきたキリヲをCSAに涙を流しながら引き渡した。
キリヲを救うために。
「そこは、お前がいるべき場所じゃない。こちら側に戻ってこい、キリヲ」
キリヲは真っ直ぐにガルドシュを見返して口を開く。
「……悪い。それはできない」
その言葉にガルドシュの顔が悲痛そうに歪む。
「……何故だ?お前だって分かっているだろう?戦うこと以外の生き方など我々にはないということに」
「……確かにそうかもしれない。でも、それでも探したいんだ。もう、誰も傷つけないで済む生き方を」
ガルドシュから目をそらすこともなくキリヲは淡々と己の気持ちを伝えていく。
「だから俺は、あんたとは一緒に行けない」
消え行く命を救い、生き方を示してくれた恩人との決別の瞬間だった。
「……ならば、我々は攻撃を続行するぞ?そこにいる女どもを殺し、お前を半殺しにしてでも連れて帰るぞ」
キリヲ達を囲むナラクヴェーラが一斉に装備しているレーザー砲を構え、エネルギーを充填させ始める。
「やってみろ、クソ親父」
ガルドシュに牙を剥くように唸るキリヲ。
それを見て、ガルドシュも心を決めたようだった。
「やれ、ナラクヴェーラ」
キリヲ達に背を向け、この場を立ち去るガルドシュ。
ガルドシュの指示でナラクヴェーラ全機が一斉に射撃攻撃を開始する。圧倒的熱量と破壊力を持つ赤い閃光が雨の如く降り注ぐ。
「〈雪霞狼〉!」
迫り来る閃光を視認した雪菜が〈雪霞狼〉を地面に突き立てて神格震動波の結界を展開する。
青白い霊力のドームが広がりキリヲ達を覆い隠す。
魔力で構成されているナラクヴェーラの閃光は、雪菜が展開した神格震動波の結界に触れた途端、消滅する。
「すごいわね、剣巫」
「……でも、長くは持ちませんっ!早く打開策を考えないと」
雪菜の結界に素直に感心するジリオラだが、雪菜の表情はキツそうだ。冷や汗が顔を流れ、体も小刻みに震えている。
「で、どうするよ?この状況」
「貴方の自慢のヴェルンドシステムでどうにかできないの?」
「無茶言うな。片腕ないんだぞ?剣だってろくに使えない」
ジリオラの言葉に無愛想に返事をするキリヲ。
「……ていうか、暁先輩の眷獣でもない限りどうにもならない気がするんですけど」
周囲のナラクヴェーラを見て、結界を張っている雪菜が震える声でそう言う。
その言葉にキリヲも同意するように頷く。
「……確かに古城の眷獣ならな。……ジリオラ、お前も攻撃力高い眷獣とか持ってないのか?」
キリヲがダメ元でジリオラに訊ねる。キリヲに聞かれたジリオラは、顔を逸らしつつ微妙な表情で口を開く。
「ま、まあ。一応、いるんだけど……」
「じゃあ、使えよ」
ジリオラの言葉にキリヲが間髪入れずに言い放つ。
だがジリオラは眷獣を召喚しようとしない。
「ちょっと、問題があるのよねぇ……」
曖昧に笑うジリオラにキリヲが苛立ったように聞く。
「なんだよ、問題って?」
「……消費する魔力が大きいのよ、わたしの眷獣。特にコイツは大喰いでね。今まで結構魔力使っちゃったからコイツを呼び出すにはちょっと魔力が足りないのよ……」
ジリオラの事情を聞いたキリヲは素早く頭を切り替える。
「魔力の補給が必要ってことか?どうすればいい?」
「それは、まあ…………吸ったりとか?」
非常に言いずらそうに口にするジリオラ。そして、ジリオラの口から「吸う」という単語が出た瞬間、結界を張っている雪菜の肩がビクッと震えた。
「あ、あの。吸うって………吸うんですか?ここで?」
「あら、剣巫は知ってるみたいね。ひょっとして第四真祖とも、もうヤったのかしら?」
「わ、わたしのことは関係ないじゃないですかっ!?」
数週間前の古城との思い出すのも恥ずかしい行為を思い出して雪菜は赤面していた。
そんな、雪菜の反応を見てキリヲはますます怪訝そうな表情をする。
「もしかして……吸血か?」
「………そうよ」
ジリオラとキリヲの間にも妙に長い沈黙が流れる。
「………………分かった。俺は目を閉じてる。早く姫柊と済ませてくれ」
「わたしが吸われるんですかっ!?」
キリヲの一言に雪菜が声を張り上げる。
ジリオラはキリヲに呆れたような視線を向ける。
「………吸血衝動のトリガーが何か知ってて言ってるのかしら?」
「…………………性欲だろ?」
「分かってるなら性別考えなさいよっ!?」
キリヲの答えを聞いてジリオラも声を張り上げて抗議する。
だが、そうなると必然的にジリオラの吸血行為の相手をするのはキリヲということになる。
「逆に聞くけど、お前は俺でいいのか?」
「この際、仕方がないでしょ」
溜め息をつきながらジリオラはキリヲに体を寄せていく。
キリヲは、眉をピクリとも動かさずに終わるのを待っている。
しかし、ジリオラはいつまでたっても血を吸おうとはしない。
「……ねえ、吸血衝動を引き起こすのが性欲って分かってるのよね?」
「ああ、勿論」
「じゃあ、せめて上くらい脱いでくれないかしら?」
再びキリヲとジリオラの間に一瞬の沈黙が流れる。
数秒後、キリヲは無言でシャツのボタンを左手だけで器用に外していく。
全てのボタンを外し終えたキリヲは所々血で汚れたシャツを脱いで上半身を露にする。
「……満足か?」
「結構、いい身体してるのね」
引き締まった細い筋肉質なキリヲの身体をジリオラの指が這っていく。
「……片腕ない男なんかで欲情できるのか?」
「あら、傷ついた男とか好みよ」
「……いい趣味してるな。サディストめ」
ジリオラの返答にキリヲが呆れたように呟く。
しかし、ジリオラは気に介することもなくキリヲの背中に両手を回して耳元で静かに囁く。
「守ってあげたくなるのよ」
普段のジリオラらしからぬ甘い囁きに一瞬、思考が停止したキリヲだが、ジリオラは構わずにキリヲの首筋に己の牙を突き立てる。
「っ……!」
キリヲが反射的にジリオラを押し退けようとするが、ジリオラがそれを許さずキリヲの背中に回した両手でその身体を抱き寄せる。
コートの下に下着しか着ていないジリオラの肢体が無防備な状態を晒しているキリヲの上半身と密着する。
そのまま、十数秒ほど二人は身動ぎ一つせずに身体を重ねていた。
「……もう、いいわ。十分よ」
十分な量の血を吸ったジリオラがキリヲから牙を抜き、口元に垂れる血を拭う。
「……眷獣は、使えそうか?」
シャツを着ながら問いかけるキリヲにジリオラは大きく頷く。
「さあ、派手にいくわよ」
その顔は、煮えたぎる闘志と身体の奥底から膨れ上がってくる魔力に高揚した表情を浮かべていた。
ジリオラの全身から鮮血が吹き出し血霧となって周囲を包み込む。
血霧を纏い、脈動する己の血潮を感じながら高らかに吼える。
「万象変化と千変万化を司りし女王〈混沌の皇女〉の血脈を継ぎし者、ジリオラ・ギラルティが汝に命ず。我が身の呪いと贄の血を糧に今こそ覚醒めろ、壷蟲の王よ!」
ジリオラから吹き出した血霧が巨大な形を象り、徐々にその姿を露にしていく。
「蠢け〈アスクレピオーネ〉!」
遂にその姿を顕現させる。
血霧が密集し形作り、実態を得た怪物。
アメジスト色の水晶で構成された外骨格を持つ巨大な大蠍。
二振りの巨大な鋏と長く延びる毒針の付いた尾を振りかざし、耳障りな甲高い声で哭く。
「凪ぎ払え」
主の命を受けて、大蠍が動き出す。
その巨大な鋏で、凶悪な尾の毒針で、全身から吹き出る黒い猛毒の霧で周囲のナラクヴェーラを尽く吹き飛ばしていく。
「これが、ジリオラ先生の眷獣なんですか……」
一瞬で、ナラクヴェーラを殲滅した大蠍を見上げて雪菜が呟く。
「〈アスクレピオーネ〉。わたしの手持ちの中では最強の攻撃力を持つ奴ね。この世の全ての毒を司る眷獣よ」
ジリオラが珍しく誇らし気に言う。
「……古城の眷獣と殆ど同じレベルの破壊力だな」
「まあその分、魔力の消耗激しいし威力の加減ができないから滅多に使わないのよね」
呆れ半分でジリオラの眷獣に目を向けるキリヲ。その旧き世代の吸血鬼の名に恥じない凶暴さを再確認すると、今度は吹き飛ばされたナラクヴェーラの残骸に目を向けた。
「……少し待ってろ」
ジリオラと雪菜にそう言うとキリヲは半壊状態で沈黙しているナラクヴェーラの残骸にひじの部分で切断されている右腕の義手の切り口を押し付ける。
するとーー。
「……よし、これでいい」
キリヲの義手が触れていたナラクヴェーラの脚の部分が細かく分解され、キリヲの右腕のひじから先、切断されていた部分を再構成する。
ナラクヴェーラのパーツを使って切断されていた右腕を完全に修復していた。
ナラクヴェーラと同様に赤と黒でカラーリングされた外装の新しい右腕を眺めながらキリヲは満足そうに頷いた。
「なによそれ?」
一連の様子を見ていたジリオラと雪菜は唖然としていた。
「俺の右腕は元々、金属を吸収して自分の義肢を修復したり強化する魔具なんだ。……まあ、俺の師匠のダウングレード版なんだけど。その力とナラクヴェーラのパーツを使って腕を直したんだよ」
魔義化歩兵を開発したCSAには触れた物を全て自分の肉体に吸収する〈抱擁の右手〉と呼ばれる魔義化歩兵用の個人兵装の魔具が存在する。キリヲの右腕は、その劣化量産型だった。
「さて、準備はできた。サブフロートに向かうぞ。向こうもそろそろ大詰めだ」
キリヲの視線の先、サブフロートの上空には巨大な魔力の塊が存在していた。
暴風を撒き散らす緋色の双角獣。
「あれは……先輩の新たな眷獣……」
緋色の双角獣を見上げて雪菜が掠れる声で呟いた。
「……とにかく、急いだ方が良さそうね」
ジリオラも〈アスクレピオーネ〉の実体化を解除しながら言う。
その時だった。
可愛らしい着信音と共に雪菜の携帯がバイブレーションで震えた。
届いていたのは、一通のメールだった。
「なんでしょう、コレ?……音声ファイルが添付されてますけど。送信者は……〈覗き屋《ヘイムダル》〉?」
「知り合いか?」
「いえ、知りません」
新しい右腕の調子を確かめながら聞いてきたキリヲに雪菜が首を振って答えた。
「あっ、メッセージがあります。ええっと……」
そこに書かれていた内容に三人は驚愕に目を見開くことになる。
添付されていた音声ファイル。それは、古代兵器ナラクヴェーラの五十五番目の制御コマンド。ナラクヴェーラを全機能停止させる〈終わりの言葉〉。
黒死皇派率いる古代兵器との戦い。その結末が近づいていた。