ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー 作:五河 緑
六年前 アルディギア王国
「貴方は……誰?」
美しい銀色の銀色の髪の少女が可愛らしく首をかしげながら目の前の少年に訊ねた。
「………………キリヲ」
少女の問に短く返事をする少年。
野戦服を着ていて、顔は泥や血で汚れているアジア系の顔付きをした少年だった。
白いドレスを纏った少女とは違い、薄汚く高貴さの欠片もない少年だった。
「キリヲは、どこから来たのですか?」
少女は、この様な人間を見るのは初めてだった。いつも、少女の回りにいるのは綺麗な格好をしていて豪華な生活を送っているような人間ばかりだった。
その珍しさから、少女は目の前の少年に並みならぬ興味を持っていた。
「……戦王領域」
少女の質問に少年は、またしても短くシンプルに答えた。
「好きな食べ物は?」
「……特にない。食べれればいい」
「好きな遊びは?」
「……遊んだことがない」
「家族はいるのですか?」
「……みんな死んだ」
少女は、好奇心に身を任せて気になることを聞いていった。少年は、少女の質問に鬱陶しそうに短く答えていく。
「なにか特技はありますか?」
少女の出したこの質問に少年はすぐには答えなかった。
数秒ほど口を閉ざして考えるような素振りをする。
「…………敵を倒すこと」
今までの自分の人生を簡単に思い返してみたが、それ以外に自分が何か人の役に立てたことはなかった。
自分を育ててくれた獣人の男も機械の身体を持つ軍人の女も教えてくれたのは効率的な人の殺し方と目の前の敵を斬り伏せる方法だけだった。
その事に不満はなかったし、自分にこの技術があって良かったとも思っている。
この特技があったから今日まで生き残ってこれた。
「敵を倒すこと?……それは、強いということでしょうか?」
少女の問に今度は即答する。
「強い。魔族でも殺せる自信がある」
戦いに強いというのは、少年にとって一つのアイデンティティーだった。自分は戦うことだけを教えてこられた。それ以外のことはできない。
だが、戦うことに関してだけは同年代の人間の中では誰よりも強いと自信を持って言えた。
それだけが自分の価値を証明する手段だった。
「凄い!じゃあ、吸血鬼にも勝てるのですか?」
「勝てる……と思う」
少年の言葉を聞いて少女は目を輝かせていた。その事実が少年に少なくない困惑を与えていた。
大体の人間は、自分が人殺しが得意だと言うと嫌悪と侮蔑の視線、もしくは哀れみの眼差しを向けてくる。
そこら辺にいる大人に言えば気持ち悪い奴だと罵られて蹴りの一発くらいは貰うだろう。
この前会った国際平和維持活動をしていると言っていた大人達は、可哀想にと涙を浮かべてこちらを見ていた。
誰も肯定しない。されるはずがない特技なのに、目の前の少女は違った。
自分の特技を聞いて肯定的な表情を浮かべている。
「凄い……。まるで、おとぎ話の勇者様みたい」
少女は少年の全身を上から下までじっくりと見た後に感嘆の声を漏らしていた。
「……気持ち悪いと思わないのか?」
「どうしてですか?」
恐る恐る聞いた少年に少女が首をかしげながら疑問そうな顔をした。
「強いって素敵なことですよ?弱い人よりずっといいです。強いから大切なものを守れる。強くないと守るために戦うこともできない」
少女は詩を唄うように言葉を紡いでいく。
「誰かを守れるくらい強いって素晴らしいことだと思います」
満面の笑みを浮かべてそう言う少女に少年は、しばらく唖然としていた。
「誰かを守る……」
考えたこともなかった。いつも自分を守るために戦ってきた。殺される前に殺す。相手が大人だろうが自分と同じ子供だろうが、仕掛けてくる前にこっちから仕掛ける。
他の人間の命なんて考えたこともなかった。
「キリヲには守りたい人がいますか?」
少女の問に今まで会ってきた人達の顔を思い返してみる。
両親……もうとっくに死んでる。
妹は、随分前にはぐれてしまった。もし生きているのならば守ってあげたいが、もう会うこともないだろう。
自分を育ててくれた獣人の男、ガルドシュ。……守ってやるなんて言ったらぶん殴られるだろう。自分と同じ戦いの中に自分の価値を見出だす男だ。
ついこの間まで一緒に過ごしていたCSAの師匠。……あの人が勝てない相手が出てきたら自分も守るどころの話ではない気がする。
「……いない」
自分の中で出た結論を口にすると目の前の少女は更に顔を輝かせた。
「では、わたしを守る騎士になってください!」
少女は少年の手を取って言う。
「貴方が気に入りました!わたしに仕える騎士になって欲しいんです。わたしは……貴方に守ってもらいたいです」
少女は自分の手が汚れるのも構わずに泥と血で汚れた少年の顔に手を添えながら言った。
この日から、少年は少女を守る騎士になった。
***
絃神島 彩海学園 中等部
「キリヲさん、本当に助かります。ありがとうございました」
密かに中等部の聖女と崇められている銀色の髪を持つ少女、夏音が猫のエサである缶詰を大量に入れたハンドバッグを持ちながら隣を歩くキリヲに言った。
「気にするな。乗り掛かった船だ」
キリヲは、修道院で交わした夏音との約束を守るべく、猫の貰い手を探しに一緒に中等部に来ていた。
夏音と同じく缶詰が詰まった鞄を持ちながらキリヲは辺りを見渡す。
「……中等部に来るのは初めてだな」
中学時代も彩海学園で過ごした古城達と違い、最近転校してきたばかりのキリヲにとって中等部の校舎は初めて見るものだった。
「実は他にも手伝ってくれる友達がいるんです」
夏音がそう言った直後、三年生の教室のドアが開き中から一人の女子生とが出てくる。
「あれ、キリヲくん!?」
「暁妹、久しぶりだな」
教室から出てきたのは古城の妹、暁凪沙だった。この間の黒死皇派の事件以来会っていなかったから少し久しぶりになる。
「暁妹なのか?叶瀬を手伝ってくれる友達って?」
「はい、そうでした。……お二人は知り合いなのですか?」
夏音の質問に凪沙が大きく頷いて答える。
「うん。古城くんと同じクラスでね、よくうちにご飯とか食べに来るんだ」
「また今度、お邪魔するよ」
以前、凪沙が振る舞ってくれた料理の味を思い出しながらキリヲは言った。
「ぜひ来てよ」
凪沙も満面の笑みで返事を返した。
「ずっと二人で猫の貰い手を探していたのか?」
キリヲの質問に夏音と凪沙が顔を見合わせる。
「うん、そうだよ。少し前に夏音ちゃんに頼まれてね」
「凪沙ちゃんには凄く助けてもらいました。でも、中々見つからなくて……」
修道院にいた猫の数を思い返し、キリヲも貰い手探しが上手くいっていないのは何となく察しがついていた。
「あ、そうだ。コレ、受け取ってくれ。力になれるかもしれない」
キリヲはポケットに入れていた一枚の便箋を取り出した。
「何これ?」
手の空いている凪沙が便箋を受け取る。
「ペットが飼えるマンションに住んでいる生徒のリストだ。浅葱に頼んで調べてもらった」
昼休みに頭を下げて頼みに行ったのを思い出しながらキリヲは言った。浅葱も黒死皇派に襲われた時に助けてくれたお礼だと言って快く引き受けてくれた。
目の前で刀を抜いて戦ったから何か聞いてくると思ったが、浅葱は何も聞かずに普段通りに振る舞ってくれていた。
ひょっとしたら自分で調べてキリヲと那月の契約についても知っているのかもしれない。
「うわぁ、凄い!キリヲくん助かるよっ!」
感極まった凪沙が興奮した様子でキリヲの首にジャンプしながら抱きついてきた。
「ちょっ、危ないから放れて……」
突然の凪沙のホールドに倒れそうになりながらも何とか踏みとどまる。
男女の距離としては、ちょっと近すぎる気もするが天真爛漫な凪沙のことだから深い意味はないだろうと、キリヲも溜め息をつく。
「キリヲさん……本当にありがとうございます」
夏音も顔を綻ばせてお礼を言ってきた。
「本当に気にするな。俺がやりたくてやっていることだ」
夏音の頭を撫でながらキリヲも微笑む。
「あっ……」
頭を撫でられた夏音が頬を赤らめて半歩下がった。
「悪い、嫌だったか?」
軽々しく髪に触ってしまったことに少し慌ててキリヲが謝ろうとする。
「……いえ、大丈夫です。全然、嫌じゃないでした」
顔を赤くしたまま夏音が首を振って否定する。
「……………」
その顔を見てキリヲは思った。
やはり、似ている。瓜二つと言っていいほどに彼女と似ている。
そんなことを考えていると、不意に昨日那月に言われた言葉が頭をよぎった。
『あの娘を腹黒王女の代わりにするのはやめろ』
キリヲにそんなつもりはなかった。
だが、夏音を見ているとどうしても彼女の面影を重ねてしまう自分がいるのにも気付いていた。
那月の言葉がキリヲの胸にしつこくこびりついていた。
***
彩海学園 高等部
「もう、本当にいやらしい人なんですから」
夕日の光が差し込む校舎の廊下で雪菜が古城に非難するような眼差しを向けていた。
「いや、だから……それも誤解なんだって……」
古城もいつものごとく言い訳をあれこれ口にしているが雪菜に聞く気は無さそうだった。
「あらぁ、第四真祖に剣巫じゃない。相変わらず仲がいいわね」
もはや恒例となっている古城と雪菜の様子に通りかかったジリオラが微笑ましそうに言う。ちなみに今日のジリオラは女教師らしくスーツ姿だ。
「あっ、ジリオラ先生。聞いてくださいよ、先輩がまたいやらしいことしたんですよ。藍羽先輩と二人っきりで美術室に籠ってウェイトレスの格好させてたんですよ!」
「あら大変ねぇ。………前から思ってたんだけど、どうして剣巫は第四真祖の行動をそんなに詳しく知っているのかしら?」
頬を膨らませて言い寄ってくる雪菜をジリオラはやんわりと受け流しながら訊ね返す。
「先輩の監視役ですから。式神を通して二十四時間監視しています」
その問に胸を張って答える雪菜。
「へ、へぇ……」
ジリオラがひきつった表情を浮かべて三歩ほど雪菜から下がる。
「……第四真祖。余計なお世話かも知れないけど、あんまり優柔不断なことしない方がいいわよ。この子、思い詰めて後ろから刺してくるタイプだから」
「……気を付けます」
古城も同意するように頷く。
「それどういう意味ですかっ!?」
二人からかなり失礼なことを言われている気がした雪菜が顔を赤くする。
「……なあ、ジリオラ先生。聞きたいことがあるんだ」
顔を赤くして怒る雪菜から一旦目を放して古城はジリオラに向きなおる。
「今更の話になるけど………吸血鬼から人間に戻る方法ってないのか?」
真剣な面持ちの古城をジリオラは数秒ほど見つめる。
「……わたしの知る限り存在しないわねぇ。ただ……」
一度は首を横に振ったジリオラだが、そのまま言葉を続ける。
「〈闇誓書〉って呼ばれる魔導書の噂を聞いたことがあるわ。もし、噂通りの能力をあの書が持っているならあるいは……」
「〈闇誓書〉?それは一体どんな……!?」
ジリオラの話したことに興奮気味に反応する古城。
「………世界の法則そのものを創り変える力だそうよ」
夕日が差し込む窓に目を向けながらジリオラが静かに答えた。
「世界の法則そのもの……」
「……もっとも、その〈闇誓書〉はとっくの昔に燃やされていて、使おうとした魔女は檻に閉じ込められたそうだけどね」
監獄結界にいた頃の日々を思い返しながらジリオラが呟いた。
「……突然、どうしたの?人間に戻りたいだなんて」
「いや、今日浅葱に聞かれて。何か隠してるんじゃないかって……」
疲れたように言う古城に雪菜が気遣うように歩み寄る。
「浅葱に話したら凪沙にもばれるかもしれない。そうしたら……」
「先輩……」
雪菜も黒死皇派が攻めてきた時の凪沙の取り乱した様子を思い出して暗い表情をする。
「……なるほどねぇ。でも、藍羽さんなら大丈夫じゃない?話したらきっと理解してくれるわよ」
ジリオラも気遣うようにそう言う。
「あの子、わたしやキリヲのことにも気付いているみたいだったし……」
「えっ!?そうなのか?」
ジリオラの言葉に古城が驚いたように反応する。
「……はい、藍羽先輩は自分で調べて知ったと言っていました。……ジリオラ先生も藍羽先輩に知られたことに気付いていたんですね」
雪菜がそう言うとジリオラは力なく笑った。
「あれだけ避けられればね。……それに何度か探りを入れるような質問もされたし」
自嘲気味にそう言ってから口を開くジリオラ。
「だから、正直に話してみるのもいいんじゃない?」
その言葉で少し気が楽になったのか表情を和らげる古城。だが、やはりまだ迷っているようで頭を抱えながら窓際まで歩いていく。
「でも、もし凪沙に知られたりしたらなぁ………………凪沙?」
窓から外の景色を見ながら唸っていた古城が不意に言葉を切って反対側の中等部の校舎に目を向けた。
高等部と中等部の校舎は距離が近く、ここからでも向こう側の校舎の中が窓を通して見えた。
「凪沙ちゃんですね。あ、九重先輩と夏音ちゃんも一緒です」
雪菜の言う夏音ちゃんが誰か分からなかったが取り合えず質問は後にする古城だった。
「……あいつら何してるんだ」
「あっ、九重先輩が凪沙ちゃんに手紙を渡してますね。なんでしょうか、あの手紙?」
普段あまり見ない組み合わせに古城が訝しげな表情をしていた。
窓の向こうではキリヲと凪沙が楽しそうに歓談している様子が見えた。
そのキリヲが手紙を凪沙に手渡した直後だった。
「なっ!?なに、抱きついてんだあいつ!?」
凪沙が満面の笑顔を浮かべてキリヲの首に抱きついたのだ。
「あらぁ、キリヲの奴何やってるのかしら?」
ジリオラも面白そうなものを見る目で中等部の校舎に視線を向ける。
「……ひょっとしてさっきの手紙、ラブレターだったりして」
茶化すようなジリオラの言葉に古城の顔面が一気に青ざめる。
「な、なに言ってんだ。凪沙にラブレター渡す男なんているわけ……」
「いえ、凪沙ちゃんモテますよ?明るいし、元気だし話しかけやすいし……モテない理由がないと思うんですけど」
震える声で否定する古城に雪菜が気まずそうに声をかける。
「で、でもキリヲにはジリオラ先生がいるし……」
自分の方を見る真っ青な顔の古城にジリオラは思わず笑ってしまった。
「別にわたしとキリヲは何でもないわよ?」
ジリオラの言葉を必死に否定しようと首を横に振る古城。
「この前は、血を吸わせてたんじゃ………?」
「あれはただの魔力補給よ。文字通りのギブアンドテイクなのだけれど」
ジリオラの言葉に更なるショックを受けたようにうち震える古城。
「これは、本当に九重先輩と凪沙ちゃんが……」
顎に手を当てて考える仕草をする雪菜。
「う、嘘だろ……」
友人だと思っていたキリヲと妹の凪沙のただならぬ関係(まだ推定)に古城は震える声でそう呟くのだった。
***
絃神島 メイガスクラフト本社
主に産業用オートマタを製造していることで知られている起業〈メイガスクラフト〉。
絃神島に設置されている本社の社内に二人の人影があった。
「あーもう、怠いわぁ」
長い金髪を背中に流した女が椅子に腰掛けながら盛大に溜め息をついていた。
目の光彩が赤いことと唇から覗く牙から彼女が吸血鬼だというのが見てとれた。
「せっかく、アルディギアの飛空挺を襲ったのに肝心のメス豚に逃げられたら意味ないじゃないの」
忌々しそうに表情を歪めながら机をガンッと蹴る女吸血鬼。
そんな彼女に向かいに座る男がなだめるように声をかける。
「まあ、落ち着けよBB。脱出先は見当がついてるんだ。今は〈金魚鉢〉にいるんだぞ?むしろラッキーだろ」
男の話を聞いて徐々に怒りを治めて冷静さを取り戻していく女吸血鬼ーーBB、本名ベアトリス・バスラーだった。
「でも、チンタラやってたら他の連中に気付かれるでしょうが。空隙の魔女に感ずかれたらそれこそ終わりよ?」
再び金切り声を上げだすベアトリスを男がまたなだめようと口を開く。
「そのための用心棒だろ」
「例の太史局?」
ベアトリスの言葉に大きく男は頷いた。
「……もう、到着してるぜ」
「はあ?それを先に言いなさいよ。今はどこにいるの?」
ベアトリスがそう言った瞬間だった。
コツンッ、と背後で靴が床を叩く音が聞こえた。
音が耳に入った瞬間、ベアトリスは椅子から立ち上がり背後に向かって手刀を振り抜いていた。
鋭い爪を持つ指先が吸血鬼の筋力によって凄まじい速度で振り抜かれる。
「……っ」
ベアトリスの背後に立っていた人影は手刀を避けるように後方に宙返りをして跳んだ。
「……あんたが太史局が送ってきた用心棒?」
背後に立っていた人影を目視で確認したベアトリスが、その異様な出で立ちに怪訝そうに顔をしかめた。
「………」
そこに立っていたのは、一人の少女。背丈から見て高校生。黒いセーラー服を纏って長い黒髪を背中に流していた。
背中にはカメラ用のケースが背負われている。
そして、何より異様なのが顔につけている仮面だった。
白い狐の仮面。
「一人だけ?」
ベアトリスの問に少女が静かに答える。
「……ええ、そうよ。なにか問題があるかしら?」
少女の返答にベアトリスが声を荒げる。
「ちょっと、こっちは見返りに研究成果の半分を太史局に開示するのよ?なのに、向こうが差し出すのは乳臭いガキ一人ってどういうことよ!?」
激昂したように怒鳴り散らすベアトリスに男が苦笑いを浮かべる。
「………乳臭いガキかどうか自分で確かめたらいかが?」
仮面の少女も挑発するようにベアトリスに言う。
「はあ?なに言ってんのよーー」
ベアトリスが返事をする前に少女は動いていた。
「……ハッ!」
目にも留まらぬ速さで肉薄し、ベアトリスに向かって掌底を打ち出す。
「若雷」
呪力を纏った掌が猛スピードで放たれ、ベアトリスの鼻先、顔に当たる直前で寸止めされていた。
「あんたねーー」
ベアトリスが口を開いた瞬間、再び少女が動き出した。ベアトリスの視界から少女の姿が消え失せる。
「なっ!?」
「鳴雷」
一瞬でベアトリスの背後に回った少女は、呪力を纏った手刀を今度はベアトリスの首に当たる直前で止める。
「……今ので二度死んだわね」
首に手刀を突きつけられて動けなくなったベアトリスに少女が冷たく言う。
「ヒューッ」
一連のやりとりを見ていた男が感心したように口笛を吹いた。
「悪くないんじゃないか?これだけ強ければ安心だろ」
男がそう言ったのを聞き、少女はベアトリスの首から手をどかした。
「……あんた、名前は?」
ベアトリスが冷や汗を流しながら問う。
狐の仮面を被った少女は、静かに答えた。
「太史局〈六刃神官〉……妃崎霧葉よ」
一応書いておきますけど、凪沙がヒロインになる予定はありません。