ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー   作:五河 緑

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蒼き魔女の迷宮編Ⅲ

 

 暁家

 

 〈絃神島展望台〉を出た後、観光者向けの〈魔族の歴史資料館〉や管理公社の運営する飲食店を一通り回った古城たち一行は、今夜の宿泊場所である暁家のマンションに来ていた。

 ちなみに、浅葱は飲食店での食事中に管理公社からの連絡により臨時の仕事が入り、別行動をしている。基樹も家の諸事情だと言って浅葱が立ち去った直後に古城達とは別れて行動していた。

 暁家には現在、家主である古城と妹の凪沙、隣に住んでいる雪菜、来客として夏音とキリヲと優麻、そして夏音の保護のために合流したジリオラとアスタルテの八人が揃っていた。

 暁家について早速、優麻は新たに登場した顔ぶれに関心を示していた。

 

 「へえ、本物のホムンクルスなんだ。初めて見たよ。………しかもメイド服」

 

 ジリオラと共に暁家を訪れたアスタルテは、ホムンクルス特有の端正な見た目と物珍しいメイド服に興味をひかれた優麻の相手をしていた。

 

 「いつもこの格好なの?」

 

 「肯定。教官の指示により、外出中及び職務執行中はこの格好でいるように努めています」

 

 優麻の問いに相変わらずの無表情で頷くアスタルテ。そんな世にも珍しいメイドホムンクルスをじっくりと見つめた後、優麻の視線はその後ろに立つジリオラに移る。

 

 「で、そちらの凄い格好の人は………」

 

 ジリオラの格好は、いつもと変わらず下着の上にコートを羽織っただけである。キリヲ達からすれば最早見慣れたものになりつつあるが、初対面の優麻からすれば十分に異質だった。

 

 「その人は、ジリオラ先生だ。うちの学校で英語の教師をやってる」

 

 古城が微妙な表情を浮かべて紹介する。

 

 「……………先生なんだ」

 

 その格好で、という言葉を飲み込んでコメントする優麻。

 

 「よろしくね」

 

 妖艶な笑みでウィンクを飛ばしてくるジリオラに優麻も思わず表情が引き攣るのを感じていた。

 

 「わたしも初めて会ったときは、ビックリしたよ」

 

 そう言いながらキッチンに入っていくのは、古城の妹――凪沙だ。

 

 「でも、話してみると結構面白い人なんだよ。お化粧のこととか教えてくれるし」

 

 「お望みとあらば、またいつでも教えてあげるわよ?」

 

 「やった!」

 

 上機嫌そうに誘いをかけるジリオラに凪沙も嬉しそうに飛び跳ねる。

 

 「………お前、いつ暁妹と仲良くなったんだ?」

 

 あまりの距離の近さに疑問を持ったキリヲが思わず問いかける。

 

 「授業で教えていたから面識はあったわよ?授業の後に趣味とか聞いてくるから、適当にメイクの話とかしてたら………」

 

 なんか懐かれたわ、とキッチンから優麻にマシンガントークを繰り広げている凪沙を遠い目で見ながら言うジリオラ。

 

 「凪沙ちゃんだけじゃないですよ。うちのクラスでは、ジリオラ先生って比較的人気のある先生なんです。………主に男子から」

 

 会話に割り込む形で雪菜が補足説明をする。

 雪菜の言葉を聞いたキリヲは半眼でジリオラを睨む。

 

 「………生徒を誑かすとか教師として、どうなんだよ?」

 

 「別に誑かしてなんかいないわよ。向こうでは、ちゃんとスーツ着て仕事してるし」

 

 キリヲの非難するような視線を浴びても全く反省する素振りも見せずにジリオラは嘯く。

 しかし、下着を纏う豊満なジリオラの体を見下ろして、これじゃあスーツ着てもあんま変わんないな、とキリヲは胸中で呟いた。

 思い返せば、高等部のクラスでもジリオラの授業がある度に男子生徒のテンションがやたらと高かった。やはり、こいつに教師とか無理があったなとキリヲは改めて考えていた。

 そこまで考えてから、キリヲは再びキッチンでの作業を片手間に夏音とアスタルテを巻き込んだ怒涛のマシンガントークを披露している凪沙に視線を戻す。

 

 「………暁妹は、魔族恐怖症って古城から聞いていたんだが?」

 

 「わたし魔族登録証つけてないし」

 

 袖を捲って手首を見せてくるジリオラにキリヲも呆れたように溜息をつき、雪菜も苦笑いを浮かべる。

 

 「意外とバレないものですね」

 

 呆れ半分、感心半分で呟く雪菜に、まあね、と得意げに胸を張るジリオラ。

 そこに、一通り食事の下準備を終わらせた凪沙が、具の詰まった鍋をリビングのテーブルに持ってくる。

 

 「準備できたよっ!」

 

 快活な声で呼びかける凪沙を目にして、キリヲも優麻の招待や那月の失踪などの心配事を一旦頭の隅に追いやり、穏やかな笑みを浮かべてテーブルに向かった。

 

 

 

 〈波朧院フェスタ〉の前日、嵐の前の静けさともいえるほど穏やかな時間が暁家の食卓には流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁家付近の公園

 

 時刻は午後九時を回っており、すっかり夜の帳が下りた小さな公園。古城達の住んでいるマンションのすぐ側にあるそこは、昼間は幼児とその保護者で賑わう場所であり、マンションの住民からは買い物に行く際のスーパーへの近道として知られている。

 街灯が照らす中、その小さな夜の公園を横切る二人の人影があった。

 銀髪の髪を持つ優し気な顔の少女――叶瀬夏音と、その隣を歩く黒髪の少年――九重キリヲだ。

 二人とも手にはスーパーのレジ袋を持っており、それぞれ飲み物の入ったペットボトルや宿泊用の替えの下着や歯ブラシが入っていた。

 

 「すいません付き合わせてしまって、でした」

 

 「別にいい、気にしないでくれ」

 

 すまなそうに頭を下げる夏音に、キリヲも優し気に微笑んで気にしていないという意を伝える。

 事の始まりは数分前にさかのぼる。食事中に飲み物が切れたため、誰かが代表してスーパーに追加の飲み物を買ってくることになった。ちょうど宿泊用の着替えを持って来ていなかった夏音がその役を買って出たのだが、夜分遅くに女子中学生一人を行かせるのも危ないということでキリヲが付き添うことになったのだった。

 

 「………今日は少し冷えるな」

 

 太平洋上に浮かぶ〈絃神島〉では珍しく、この日の夜は気温がやや低かった。それでも本土と比べれば温かい方だが、風もやや強く薄着でいるには少しばかり辛い。 風邪をひかないうちに戻ろう、と歩くペースを少し速めるキリヲ。

 

 「あの……キリヲさん!」

 

 自分より少し前を歩くキリヲを夏音が呼び止める。

 いつになく切なげな声音を発した夏音にキリヲも思わず歩みを止める。

 

 「どうした?」

 

 「あの……」

 

 一瞬俯き、言葉を詰まらせる夏音。しかし、やがて決心したように真っすぐキリヲの目を見つめて口を開く。

 

 「………まだ、ちゃんとお礼が言えていなかったので」

 

 「お礼………?」

 

 「わたし………沢山の人を傷つけてしまいました。古城お兄さんやキリヲさんのことも………一杯、傷つけました」

 

 傷つけた、という言葉から、最近あった〈模造天使〉による事件のことを指しているのはキリヲにもすぐに分かった。

 自らが加害者となってしまった事件のことを話す夏音の目には、薄っすらと涙がたまっていた。

 

 「……そんなわたしを見捨てないで、キリヲさんは……助けてくれました。わたしに………生きてもいいと言ってくれました」

 

 ついに堪えきれなくなったのか、ボロボロと大粒の涙を零し始める。

 

 「わたし……それが嬉しくて………でも、同時に申し訳なくて……わたし、本当に許されてもいいのかなって……」

 

 「……もういい」

 

 いよいよ本格的に泣き始めた夏音を空いている左手で抱きしめ、落ち着くように促すキリヲ。

 

 「お前は悪くない。……あれは、お前のせいじゃない」

 

 「キリヲさん……」

 

 「………夏音は大切な友達だ。俺や古城、姫柊にとっても。助けるのは当然のことだ。だから……負い目なんて感じなくていい」

 

 抱きしめられながら夏音は、涙を浮かべた瞳でキリヲの顔を見上げる。

 

 「………だから、謝ったりしないでくれ」

 

 「…………………はい」

 

 キリヲの言葉に力強く頷く夏音。そんな夏音の顔を見て、もう大丈夫だと感じたキリヲは夏音を放して再び歩き出す。

 

 「帰ろう、みんなの――」

 

 みんなの元に、と言葉を続けようとして不意にキリヲは口を閉ざす。

 

 「……キリヲさん?」

 

 突然黙ったキリヲを不審に思ったのか、首をかしげる夏音。

 しかし、夏音の言葉に反応することなく、キリヲは夏音の背後に目を向けていた。キリヲの視線を追うように夏音も振り返る。

 そして、そこにあった姿を目にして怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 「……あの人は?」

 

 そこに立っていたのは、一人の女だった。

 所々赤い染みで汚れた野戦服に身を包んだ長身の西洋人女性。灰色の髪を肩の辺りで切りそろえている。目付きは鋭く、纏っている気配は刃にも似た鋭さを持っていた。

 

 「………なんで、あんたがここに」

 

 枯れた声でそう言うキリヲの頬には、冷や汗が流れていた。

 突如、現れた女はキリヲの言葉に答えることなく怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 「誰だ、貴様。……それに、ここはどこだ?」

 

 西洋人には珍しい訛りのない流暢な日本語で女が言う。

 

 「………俺が分からないのか?」

 

 女の発した言葉に今度はキリヲが眉を顰める。

 

 「……見覚えはないな」

 

 改めてキリヲの姿を頭から足元まで見定めた女は、抑揚のない声音で告げる。

 

 「冗談は止してくれ………師匠」

 

 師匠、という単語がキリヲの口から出た途端、夏音にも目の前の女性に見覚えがあったことを思い出した。

 先月、教会で一緒に猫の世話をした時にキリヲが落とした写真に幼いキリヲと一緒に写っていた白人女性である。

 

 「師匠……?なんのことだ?」

 

 しかし、目の前に立つ女は相変わらず疑念に満ちた表情を浮かべている。

 

 「………まあいい、任務の障害になるならば排除するまでだ」

 

 言い終わると同時、女は左手を無造作に真横に振るった。

 

 ギイイイイイイィンッ

 

 二つの金属を激しく擦り合わせたような甲高い音が響き渡り、側にあった街灯やベンチが目に見えない刃物で切り裂かれたようにバラバラになる。

 

 「………標的を排除する」

 

 「よせ……」

 

 夏音を守るようにキリヲが半歩後ろに下がり、女はゆっくりとした動作で左手を掲げて狙いを定める。

 

 「やめろ、アンジェリカ!」

 

 叫ぶキリヲに構うことなく、女――アンジェリカ・ハーミダは左手を振り下ろす。

 

 

 

 

 「………」

 

 「………え?」

 

 しかし、予想していた衝撃や痛みが襲ってくることはなかった。

 それどころか、先ほどまで目の前にいたはずの女軍人の姿も消えていた。まるで、霧や蜃気楼のように跡形もなく。

 

 「……今のは」

 

 

 

 

 目の前で起きた理解を超えた現象にキリヲも夏音も唖然としたようすで立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁家 脱衣所

 

「凪沙の奴、相変わらずだな……」

 

 替えの衣類やバスタオルを片手に脱衣所に入ったキリヲは、背後の居間から聞こえる凪沙と優麻のガールズトークを耳にし、思わず苦笑いを浮かべる。

 いつもと変わらず怒涛の如く喋り続ける凪沙だが、それの相手をしている優麻も長年の付き合いがあるからか、上手く返事を返している。

 雪菜やアスタルテ、ジリオラは既に隣の雪菜の部屋に行っており、今暁家にいるのは古城と居間にいる女子二人だけだった。

 凪沙曰く、キリヲと夏音が戻り次第、二次会スタートらしく、先に風呂を浴びろと言われて古城は脱衣所に来ていた。

 あまり長風呂はしない古城は、さっさと浴びるか、と呟いて着ていたパーカーやらシャツやらの衣類を脱ぎ捨てて、風呂場の引き戸を開ける。

 

 「………あら?」

 

 「……………え?」

 

 ドアを開けて風呂場の中を見た瞬間、古城は全身の筋肉が硬直したように固まった。

 目の前でシャワーを浴びていたジリオラの一糸纏わぬ姿を見て。

 

 「……第四真祖の侵入を確認」

 

 湯船からは、膝を抱えるようにして熱いお湯に浸かっていたアスタルテが表情のない顔で淡々と言う。

 

 「第四……真祖?」

 

 古城の侵入に気付いて振り返ったジリオラも、流石に予想外だったのか、目を見開いて驚きを露わにしていた。

 しかし、流石は元娼婦。すぐに落ち着きを取り戻したように不敵な笑みを浮かべて古城に歩み寄る。

 

 「あらあら、突然どうしたの?欲求不満?」

 

 「い、いえ……」

 

 濡れた指先で優しく頬を撫でてくるジリオラに古城は乾いた声で言いながら数歩後ろに下がる。

 

 「……剣巫が相手してくれなくなっちゃったのかしら?」

 

 「そういう訳じゃ……」

 

 妖艶な笑みを浮かべるジリオラに古城は更に数歩下がる。

 

 「別に相手してあげてもいいけど………わたしは、高いわよ?」

 

 「すいません、失礼しましたっ!」

 

 両足が脱衣所に入った時点で古城は勢いよく風呂場の引き戸を叩きつけるように閉めた。

 脱衣所に戻り、再び一人になった古城は風呂場の引き戸に背を預けて荒い息をつく。

 

 「なん……だったんだ……今の」

 

 未だに心臓は激しく脈打っており、全身から冷や汗が噴き出ていた。

 

 「あ……」

 

 

 

 

 

 そして鼻血も噴き出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪菜の部屋

 

 「……で、どういう状況だコレ?」

 

 夜の公園で起きた奇妙な出来事から数分後、夏音と共に雪菜の部屋に帰ってきたキリヲはドアを開けるなり目の前に広がった光景を目にして呟いた。

 

 「あ、九重先輩。お帰りなさい」

 

 〈雪霞狼〉を片手に仁王立ちしている雪菜が顔だけキリヲに向けて返事をする。

 その足元では、彼女の監視対象であるはずの第四真祖――暁古城が顔を床にうずめた見事なフォームで土下座を披露していた。

 そして、部屋の真ん中では、バスローブ一枚のジリオラがワイン片手に面白そうなものを見るような目で土下座を披露する古城を見下ろしていた。その隣には、ジリオラの用意したおつまみの菓子を摘まむアスタルテの姿もあった。

 

 「暁先輩が……自首しに来たんです」

 

 「……何やったんだ、古城」

 

 重々しい声音で言う雪菜にキリヲも視線を古城に向ける。

 

 「わたしとホムンクルスが入っている最中に風呂場に突入してきたのよ」

 

 ジリオラの解説を聞き、思わずキリヲも。

 

 「古城………」

 

 見損なったぞ、と言わんばかりの視線を向ける。

 

 「いや、待て!聞いてくれ!俺にも何が起きたか分からないんだ!俺は自分の家の風呂に入ったつもりなんだが、気が付いたら姫柊の部屋の風呂に入ってて……」

 

 「……先輩、言い訳ですか」

 

 「本当にすいませんでした」

 

 焦ったような表情で弁解する古城だが、雪菜の冷ややかな視線を伴う言葉に観念したように再び頭を床に擦り付けて土下座する。

 

 「……謝罪を確認。承認」

 

 「別に気にしてないわ。ただ……次からはお金取るわよ?」

 

 アスタルテもジリオラも特に気にする様子もなく古城の謝罪に対する返答を口にしていた。

 

 「……でも、信じてくれ。本当にうちの脱衣所から姫柊のとこの風呂場にワープしたんだ」

 

 謝罪を受け入れてもらえた古城は、顔を上げると再び真剣なまなざしを向けながら雪菜に言う。

 

 「………」

 

 「………」

 

 数秒ほど重苦しい沈黙が二人の間に流れたが、やがて雪菜は溜息をつくと表情を柔和なものに変えて頷いた。

 

 「分かりました、信じます。先輩がこんなところで無意味な嘘をつく人とは思っていませんから」

 

 「姫柊……!」

 

 ようやく信じてくれた雪菜に古城も表情を輝かせる。

 

 「けど、それだと妙な話になるわね。別の場所への瞬間移動なんて……空間転移魔術の領分じゃない」

 

 「風呂場と脱衣所を繋げるなんて馬鹿なことに、そんな高等魔術使う馬鹿がどこにいるんだよ?」

 

 怪訝そうな顔で言うジリオラにキリヲも呆れたような表情を浮かべて言う。

 すると、数秒ほど考えるそぶりを見せていた雪菜が口を開く。

 

 「……魔術ではないのかもしれません」

 

 「魔術じゃない?」

 

 ますます怪訝そうな表情を浮かべる古城に雪菜が言葉を続ける。

 

 「先輩、この前ハロウィンの起源についてお話したのは覚えていますか?」

 

 「ああ………ケルトの精霊とか魔女が押し寄せてくるとか言ってたアレか?」

 

 「はい、そうです。実はあれってただの迷信ではないんです。実際にこの時期には時空が不安定になりやすくて、別の場所や時間軸同士が勝手に繋がりあったりして、居ない筈の人間が突然現れたり、居る筈の人間が突然消えたりするような現象が確認されているんです」

 

 首をひねる古城に雪菜が懇切丁寧に説明していく。

 

 「人が突然……現れたり、消えたりする……」

 

 雪菜の説明を聞いて真っ先に反応を示したのは、先ほどまでキリヲと一緒に買い物に出かけていた夏音だった。

 

 「どうかしたか、叶瀬?」

 

 「あっ、いえ、その……さっき、それに近いものを見ました……………気がします」

 

 気になって聞いてきた古城に夏音が自信が無さそうに答える。

 

 「………さっきそこの公園で妙なやつが現れて、突然消えた」

 

 夏音の言葉を補足するようにキリヲも口を開く。

 その場にいる全員の視線がキリヲに集中した。

 

 「……誰よ?」

 

 「………この島に居る筈のない人間だ」

 

 ジリオラの問いにキリヲは短く答えて、言葉を続ける。

 

 「……だが時間や空間の歪みが原因だっていうなら、納得がいく」

 

 「なんにせよ、妙ですね」

 

 「……ああ、妙なことが多すぎる」

 

 魔女――仙都木優麻の出現、南宮那月の失踪、謎の空間転移、挙げていったらきりがない。

 

 「……一体、何が起きている?」

 

 壁に背を預けてキリヲは窓の外に広がる夜景を鋭い眼差しで睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁家

 

 「ふーっ、食べた食べた」

 

 夕食会が終わり、使い終わった食器を洗いながら凪沙は満足そうに笑顔を浮かべていた。

 

 「とても、美味しかったよ」

 

 ありがとう、と優麻も食器をリビングからをキッチンの洗い場へ運びながら言う。

 その顔には、凪沙と同様に純粋な嬉しさだけが宿った無邪気な笑顔が浮かんでいた。

 

 「ねえ、この後お風呂にするけど一緒に入らない?」

 

 一通り食器洗いが終わった凪沙がエプロンを外しながら優麻を風呂に誘う。

 誘いを受けた優麻は、あごに手を当てて数秒ほど考える素振りを見せた後、困ったような苦笑いを浮かべた。

 

 「先に入ってもらってもいいかな?あとから行くから」

 

 「あれ?なにか用事でもあった?」

 

 不思議そうに首をひねる凪沙に優麻は笑顔を浮かべて答える。

 

 

 

 

 

 「ちょっと、古城に用があるんだ。………大丈夫だよ、すぐ済むから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その笑顔が先ほどまで浮かべていた悪意なき笑顔とは違うことに凪沙が気付くことはなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 あと二話くらいで蒼き魔女の迷宮編が終わると思います(多分)
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