ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー 作:五河 緑
〈絃神島〉 とあるカフェテリア
「このパンケーキは、非常に気に入りました」
島の中央に位置するキーストーンゲートから徒歩に十分圏内に店を構える現在、若者を中心に人気沸騰中のカフェにて、仮装したホムンクルス――アスタルテは、カボチャの被り物を脱いで特大パンケーキを頬張っていた。
「こっちのジェラートも中々いけるわよ」
アスタルテの横では、普段体系の維持について熱演していたはずのジリオラが大量のスイーツをテーブルに並べて表情を緩くしていた。
「………ちょっと甘すぎだろ」
「スイーツですから………あっ、こっちのチーズケーキはあんまり甘くない、でした」
自分ではスイーツを取らず、ジリオラが注文した品を横から摘まんでいたキリヲが仏頂面で文句を言うと隣に座っている夏音が苦笑いを浮かべつつ自分のチーズケーキを勧める。
「このモンブランも悪くないですよ。……先輩、半分どうですか?」
「おお、サンキューな姫柊………って違う!」
雪菜の勧めでモンブランを半分ほどに切って皿に移していた古城が唐突に声を張り上げる。
「なに、普通に楽しくスイーツ頬張ってんだよ!?俺は!?俺の体は!?」
優麻の声で叫ぶ古城にその場にいる全員が、何を今さら、と言った様子で白けた視線を送る。
「先輩、さっきそのことは話し合ったじゃないですか?」
荒ぶる古城を宥めるように雪菜は言葉を続ける。
「優麻さんの居場所が特定できない以上、無暗に探し回っても効果はありません。例の空間転移現象の影響で迂闊に動くのも危険ですし。それに……」
そこまで言うと雪菜はキリヲに視線を向ける。
「……先輩の眷獣は使えませんし、九重先輩も武器を持っていません。おまけに連絡の取れない南宮先生からの援護も期待できません。夏音ちゃんを連れているこちらとしては――」
「危険なことはできない、だろ?分かってるよ」
雪菜が最後まで言い終わる前に古城は言いいながら疲れたように椅子に座り込み、呑気にチーズケーキを口に運ぶキリヲに冷ややかな視線を向ける
「……そういや、キリヲの剣はどうなってんだ?」
先月の叶瀬賢生率い〈メイガスクラフト〉の一派と戦った際にキリヲの愛用している刀〈フラガラッハ〉は、刀身が折れて壊れてしまっていた。
「今、修理に出している。真っ二つに折れてたからな……結構、難航してるらしい」
一通りチーズケーキを食べ終えたキリヲは、食後の紅茶を啜りながら返答を返してくる。
「……というか、古城。さっきも言ったが、簡単に体を取り戻す方法ならあるんだぞ?」
そう口にしながら、キリヲは雪菜の持っているギターケースに目を向ける。
「〈七式突撃降魔槍〉で仙都木優麻の体の魔術を消滅させれば一発で済む」
「それはダメだ」
キリヲの提案を即座に却下したのは他ならぬ古城本人だった。
「それだと俺は、ともかく優麻の体はタダじゃ済まないんだろ?だったら、その案は却下だ」
体を奪われた今でも一途に親友の身を案じる古城にキリヲもあまり強く言うことはできなかった。
「俺はやるべきだと思うがな………」
「………それは、優麻の母親が犯罪者だからか?」
あくまで提案するように言ってくるキリヲに古城は表情を厳しいものにする。
「そうだ。さっきも言っただろ?」
その言葉に数時間前にキリヲから聞いた〈監獄結界〉最奥部に幽閉されている、とある囚人の話を思い返す。
「………優麻の母親がヤバい魔女だってのは俺も分かった。でも、優麻は関係ないだろ」
キリヲの目を真っすぐ見つめ返して、古城は言葉を続ける。
「それに、俺は過去とか身内に犯罪が関わっていたからって一方的に悪人だなんて決めつけたりしない」
「………」
それは、以前にキリヲの正体を知りつつも理解しようと歩み寄ってくれた古城だからこそ言える言葉だった。キリヲもそんな古城の曲がることのない信念に救われた一人であり、それ故に古城の言葉を否定することなんて出来るはずもなかった。
「………分かってる。俺は古城に従う」
小さく一度頷きながらそう口にすると、キリヲは再びティーカップを口に運ぶ。
「でも、そうなると他にできることなんてないのよねぇ……」
追加のスイーツを注文し終えたジリオラが満足気に言うと古城は落胆したようにテーブルに頭を突っ伏すのだった。
「……まあ、そのうち何とかなるだろ」
「元気出してください、でした」
テンションが下がりまくって死んだ魚のような目をする古城にキリヲと夏音が当り障りのない言葉で慰める。その直後だった。
「……っ!」
突然、物凄い勢いで机に突っ伏していた古城が顔を上げた。その顔は、切迫したように歪んだ表情を浮かべている。
「……ヤバい」
「どうした?」
只ならぬ古城の様子にキリヲも思わず身構え、他のメンバーの間にも緊張した雰囲気が走る。
「トイレ………行きたい」
「……………………………………………………………行けよ」
予想以上にどうでもいい返事が返ってきたせいか、いつもとは比べ物にならないほど冷たい声音で言い放つキリヲ。
「女子のトイレの作法とか分かんねぇよ!?」
切羽詰まったように慌てふためく古城にキリヲは茶を啜りながら相変わらずの冷たい声音で適当に返事をする。
「……そんなの、大して変わらないだろ。便座に座って出すだけ――」
「変わるわよ、馬鹿」
デリカシーのない言葉を平然と言うキリヲの後頭部に間髪入れずに平手打ちを叩きこむジリオラ。叩かれた勢いで紅茶が鼻に入ったのか、苦しそうにむせて悶絶するキリヲだった。
「っていうか、ダメです先輩!優麻さんの体でそんなのダメですよ、絶対!」
「いや、どうしろってんだよ!?」
「我慢してください!」
無茶な、と絶望的な表情を浮かべる古城に雪菜は顔を赤面させて、破廉恥です、と渇を飛ばしている。
そんな感じで古城の体を奪われたという異常事態を忘れて和気藹々とした楽しげな雰囲気が場を包んだ直後だった。
ズズゥン………
重く地の底から響くような音と共に強い揺れがカフェの店内を襲った。
「なっ!?」
「これは……」
地響きと揺れにより動揺が店内を走る中、キリヲと雪菜は素早く椅子から立ち上がり、窓の外に視線を向ける。
「パニックになる前に外に出るわよ」
ジリオラも夏音を庇うように立ち上がりながら、出口に足を進める。
「何が起こっているんでしょう………」
カフェの出入り口であるドアを潜りながら不安そうに口にする夏音にキリヲは、島の中心部に聳え立つキーストーンゲートに目を向けて小さく呟く。
「…………テロだ」
路上には、黒々とした煙を上げるキーストーンゲートを指さしながら動揺の声を上げる人々が見える。元々〈絃神島〉に住んでいる人々は落ち着いた様子で安全な場所に退避する中、慣れない様子で不安そうに慌てふためいているのは〈波隴院フェスタ〉のために来島してきた観光客たちだろう。集団パニックが起きるのは時間の問題だった。
「優麻……あそこにいるのか」
拳を固く握りしめながら言う古城を尻目にキリヲも行動を起こすべく、アスタルテに視線を向ける。
「アスタルテ、俺たちは古城の体を取り返しに行く。夏音を任せてもいいか?」
「命令受諾」
指示を受けたアスタルテを夏音の手を引いて安全な場所まで退避しようと移動を開始する。
「ミス 叶瀬、離れないでください」
「はい………あの、皆さん。お気をつけて」
キリヲ達を気遣うような言葉を残して夏音はアスタルテと共にこの場を後にした。
一方で、残されたキリヲ、古城、雪菜、ジリオラの四人はキーストーンゲートの方向に足を進めようとする。
しかし。
「なっ!?」
「え?」
数歩歩いたところで古城と雪菜が驚愕に声を漏らした。
キーストーンゲートに向けて歩道歩いていたはずなのに気が付けば先程までくつろいでいたカフェの店内にいたのだ。
「これは………」
「空間転移だ………全員、動くな。今目の前にも空間の歪みがある」
ジリオラの呟きに返答しつつ左目の義眼を起動して周囲を解析し始めるキリヲ。室内に散在する複数の空間の歪みを睨みつけながら古城達に警告を発していた。
「九重先輩も見えますか……いくつか、ありますね」
「姫柊も見えてたのか?」
「はい、なんとなくですけど。……さっきの地響きがあってから歪みが極端に強くなってますね」
キリヲ同様に霊視を使って空間の歪みを探る雪菜。キリヲは歪みに目を向けたまま言葉を続ける。
「姫柊………歪みに飛び込んだらどこに飛ばされるか、未来を予測できるか?」
キリヲも右目の義眼を使えば未来予測が可能だが、その精度は最高位の巫女である雪菜の霊視には劣る。そのため、キリヲは雪菜に空間転移の先読みを依頼したのだった。
「できなくは………ないですけど。歪みの転移先も一定じゃなさそうです。予測できても飛び込むタイミングが合わないと、どこに飛ばされるか……」
「構わない。一番キーストーンゲートの近くに飛ばされる可能性が高い歪みを教えてくれ。………転移先が切り替わるタイミングとパターンは俺が分析する」
その言葉を最後に二人一斉に周囲に散らばる空間の歪みの解析と未来の予測を開始する。
類まれなる霊視の際に恵まれた雪菜とハイテクノロジーの恩恵を受けるキリヲによる空間転移攻略を目指した大規模演算の始まりだった。
キーストーンゲート 屋上
数十分前、〈アッシュダウンの魔女〉と特区警備隊の戦闘により廃墟のような姿と化した屋上。その中央に立つのは、黒い外套を羽織った少年――暁古城の体を掌握した優麻だった。
手に持っている一冊の魔導書は〈第四真祖〉の体から漏れ出る無尽蔵の力に呼応するように不気味な燐光を発し、上空は魔力によって集った暗雲により黒く染まっていた。
「もうすぐだ。もうすぐ……」
すぐ側に控えるメイヤー姉妹や〈六刃神官〉には聞こえないような掠れた声で呟く優麻。
『―――――!』
「………ああ、分かってるよ。〈蒼〉」
優麻の背後に蜃気楼の如く現れた蒼い鎧を纏う騎士に優麻は静かに声掛ける。
「もうすぐ、会えるんだ。………君を僕にくれた、母様に」
本来の主が近づいているのが分かるのか、喜びの衝動を露わにする自らの守護者に優麻は苦笑いを浮かべる。
「………ところで、君はまだ協力してくれるのかい?」
魔導書から目を離さず、今度は後方で控えている〈六刃神官〉――霧葉に優麻は声をかける。
「正直なところ………ボク達の本当の目的を聞いたら流石に〈太史局〉は協力してくれないと思っていたんだけどね」
「…………そうね、わたし個人の見解としては毛頭協力なんてしたくないのだけれど」
皮肉気に言ってくる優麻に不快そうに声音を低くする霧葉。
そんな霧葉にハハッと乾いた笑いを返して優麻も言葉を続ける。
「君個人の見解か。…………じゃあ、君の上司はなんて言っていたのかな?」
その言葉に霧葉は一旦口を閉ざす。
数秒ほどの沈黙が続いた後、やがてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「………上の考えは変わらずよ。貴女たちを援護し、〈第四真祖〉と〈聖剣遣い〉を斃す。たとえ、その代償に大量の凶悪犯が世に解き放たれようとね」
「そんなに嫌そうな顔をしないで欲しいな。ボクの予想じゃ、出てこれるのは全体の半分以下のはずだ」
忌々しそうに口にする霧葉に優麻は肩をすくめて返事を返す。しかし、それで霧葉の心境が変わるはずもなく更に機嫌を損ねたように舌打ちをする。
「………わたしの方からも質問をしても?」
「どうぞ」
「貴女は、なぜそこまでして母親を助けようとするのかしら?顔も見たことのない母親なんかに」
嫌がらせと言わんばかりに聞いてくる霧葉に優麻も数秒ほど考えてから答えを口にする。
「……それが、ボクの造られた理由だから。それに、自分の家族を助けるのは世間一般的にも極自然なことだろう?」
「家族ねぇ………」
『家族』という単語が出た瞬間、霧葉の声音は嘲りの色を含むようなものになった。
「貴女が予想しているほど、いいものでは無くってよ『家族』なんて」
「………随分、毛嫌いしているみたいだね。家族という括りを」
吐き捨てるように言い放つ霧葉が意外だったのか、優麻も驚いたように問い掛ける。
「………側に居て欲しいときにいてくれなくて、自分の保身のためになら簡単に切り捨てられる関係。わたしの家族が教えてくれたのはそれだけだったわ」
「…………」
「貴女もきっと失望するわよ。………その時の顔が早く見たいわ」
暗い憎悪の炎を瞳に灯しながら言葉を紡ぐ霧葉に、優麻も得体の知れない恐怖を感じていた。自分には理解し得ない深い闇がこの仮面の少女には宿っているような気がしてならなかった。
そこまで考えた時だった。
『―――――!』
「……ああ、そうだね〈蒼〉。どうやら来たみたいだ」
自らの守護者である蒼き騎士の警告を受けて優麻はゆっくりと振り返る。
そこには、数多に連なる空間の歪みを超えてこの場所に辿り着いたであろう四人の人物の姿があった。
「優麻!」
本来の自分の体で声を張り上げる古城に優麻も苦笑いを浮かべる。
「やあ、古城。来たんだね。………まったく君は、何も知らないくせに何時も一番大切な場所に現れる」
「優麻、一体何をするつもりだっ!?」
急くように問いを投げかけてくる古城に優麻は片手を挙げて待つように伝える。
「少し待って欲しいな。もうすぐなんだ。もうすぐ……現れる」
そして優麻の言葉通り、言い終わると同時にそれは訪れた。
凄まじい轟音と共に膨大な量の魔力が荒れ狂う強風となってキーストーンゲートの屋上に叩きつけられる。
「あれは………」
風が吹き始めると同時に〈絃神島〉の海岸線に沿うように蜃気楼の如く音もなく出現した巨大な建造物を目の当たりにして、古城は唖然とした表情を浮かべる。
「………〈監獄結界〉」
「あれが……」
キリヲの掠れた声の呟きを聞き、雪菜も目を見開く。
「懐かしいわねぇ……………やだ、蕁麻疹出てきた」
久しく見てなかった〈監獄結界〉を目の当たりにして嫌な記憶が蘇ったのか、二の腕を摩るジリオラ。
「やっと姿を現した………彼らの足止めを任せてもいいかな」
ようやくお目当てのものが現れて満足気な表情を浮かべる優麻は、側に控えていたメイヤー姉妹に一方的に告げると体の周囲に空間転移用の魔力を帯び始める。
「あの小娘どもの身体を好きに壊してもいいのならば請け負ってもいいですわよ。ねえ、お姉さま?」
「ええ、そうね。いい供物になりそうだわ、オクタヴィア」
早くも戦いに勝った気になって下卑た笑いを上げる魔女姉妹から早々に興味をなくしたように優麻は視線を外すと、今度は霧葉に向き直る。
「……〈六刃神官〉。君には着いてきてもらってもいいかな?」
「…………なぜかしら?わたしもここで足止めに徹した方が効率的だと思うけれど?」
優麻の要求に怪訝そうに声を潜める霧葉。
その目は、古城たちの後ろに立つ黒髪の少年に向いていた。
「念のためさ。目的を達するまでのボクの護衛を任せたい。……………それに君も言っていただろう?ボクの失望する顔が見たいって」
茶化すように言う優麻。
「………………………分かったわ」
一瞬、迷ったような素振りを見せたが最終的には納得したのか、霧葉は優麻の側まで足を運んでいった。
「それじゃあ、古城。悪いけどお先に失礼するね」
「待てっ!優麻!」
咄嗟に古城が呼び止めるが、それで止まるはずもなく次の瞬間には優麻と霧葉の姿は跡形もなく消えていた。
「クソッ、追うぞ!」
キリヲも焦ったように前に駆け出すが、メイヤー姉妹がそれを見逃すことはなかった。
魔女姉妹の二人を中心に溢れ出だすように出現する大量の触手がキリヲ達の行く手を阻む。
「まずいっ!」
「キリヲ!下がりなさいっ!」
キリヲに殺到する触手の群れを咄嗟にジリオラが〈ロサ・ゾンビメイカー〉で打ち払う。
「なんだ、こいつら!?」
「魔女の守護者です!先輩、下がってください!」
突如、目の前に出現した夥しい数の触手に驚愕の声を漏らす古城に雪菜が〈雪霞狼〉を構えながら答える。
「なによ、コイツ等!?操れないんだけど!?」
旧き世代の吸血鬼ですら拘束し、支配することのできる〈ロサ・ゾンビメイカー〉を用いても制御できない〈アッシュダウンの守護者〉にジリオラも鬱陶しそうに表情を歪めていた。
「こんなの………どうすれば……」
津波のように押し寄せる触手の群れに雪菜が絶望に染まった顔で呟く。
その時だった。
「雪菜!」
「え!?」
突然、馴染みのある声が聞こえたと思った次の瞬間には、目の前の大量の触手が無残にも切り裂かれて後退している光景が目に入ってきた。
そして、職種の群れと雪菜の間に降り立ったのは、
「紗耶香さん!?」
空間ごと物体を切断する〈煌華麟〉を携えた〈師子王機関〉の〈舞威媛〉――煌坂紗耶香だった。
「間一髪でしたね」
そして、紗耶香に続くように現れたのは銀色の髪を靡かせる異国の王女――ラ・フォリア・リハヴァインだ。
触手に襲われかけていた雪菜に気遣うような言葉を掛けるが、彼女の興味はすぐに別の人物に移ることになる。
「キリヲ!」
自らの想い人を見つけたラ・フォリアは一直線にキリヲの元に駆け寄り、その胸に飛び込んでいく。
「ラ・フォリア!?お前、なんでここに?」
「キリヲ!キリヲ!ようやく会えました!」
「………………全然、聞いてないな」
自分に抱き着き、女児の如くはしゃぐラ・フォリアにキリヲも呆れたように溜息をつく。
「………昨日、帰ったはずじゃなかったのか?」
「………妙な空間転移に巻き込まれたのよ。おかげで、昨日からずっと王女の相手をさせられてるんだけど」
「なんか………悪かったな」
テンションが振り切って会話にならないラ・フォリアの代わりに疲れたように言ってくる紗耶香にキリヲは、何とも言い難い罪悪感を覚えるのだった。
「あらあら、哀れな仔羊が増えましたわよ。お姉さま?」
「哀れなものね。これからどんな結末が待っているのかも知らないで」
乱入するような形で現れた紗耶香とラ・フォリアを目にし、立ちはだかるエマとオクタヴィアが各々に挑発を仕掛ける。
だが………
「ところで誰よ、この女?それに暁古城は?」
「ああ…………面倒だから色々端折って説明すると、今はその女が古城なんだ」
「はあ?なによ、それ?」
全然聞いていなかった。
「ちょっと無視してんじゃないわよっ!?」
そこまできて、ようやく目の前のメイヤー姉妹の存在に気付いたのか紗耶香とラ・フォリアは視線を前に移す。
「あれが、メイヤー姉妹ね。………仕事増やしてくれてんじゃないわよ、年増が」
「噂に違わない醜悪な容姿をしているようですね」
連日の苦労で気が立っている紗耶香と元々毒舌スキルが天井知らずのラ・フォリアによる罵倒にエマとオクタヴィアの余裕のあった表情に罅が入る。
「キリヲ、名残惜しいですが。どうやら今は、この事態に対処することの方が優先のようですね」
メイヤー姉妹の背後に見える〈監獄結界〉を目にして、事態の重さを察したのかラ・フォリアは一旦キリヲから体を離して得物である〈アラード〉を取り出す。
「ラ・フォリア、あそこに行きたいんだ。何か手はあるか?」
「彼らを使ってください。ここに来るまでにも彼らの空間転移魔術の技術が役に立ちました」
〈監獄結界〉を指すキリヲにラ・フォリアが紹介したのは、彼女たちの背後に控えていた白いローブを着た三人の男達だった。
「宮廷魔術師か……」
三人がかりで魔方陣を起動させて、〈監獄結界〉に続くゲートを生み出す宮廷魔術師達を見て思わず感嘆の声が漏れだすキリヲ。
「キリヲ、この場は任せてください。あの魔女たちの相手はわたくしが致します」
「………大丈夫か?」
「心配なさらないでください。紗耶香が手を貸してくださいます」
ラ・フォリアが戦うことをあまり良く思わないキリヲが思わず顔を顰めるが、無理に止めようという様子はなかった。
「わたしも残るわよ。あんたは、仙都木の娘を追いなさい」
〈ロサ・ゾンビメイカー〉を手に紗耶香、ラ・フォリアの隣に並ぶジリオラが不愛想にキリヲに告げる。
「………来ないのか?」
「悪いけどあの刑務所見るだけで拒絶反応出るのよ。入るなんて冗談じゃないわ」
忌々しそうに言うジリオラにキリヲも苦笑を浮かべて、確かに、と頷く。
「暁古城、なんかよく分からないけど後で説明してもらうからね」
「キリヲ、ご武運を。この戦いが終わったら一緒にお祭りでも回りましょう」
「南宮那月を見つけたら、一つ貸しって伝えておきなさいよ」
それぞれの得物を構える紗耶香、ラ・フォリア、ジリオラがメイヤー姉妹に相対し、思い思いの言葉を投げ掛けてくる。
「悪い、煌坂。恩に着る」
「ジリオラ先生、お願いします」
「無茶だけはするなよ」
古城、雪菜、キリヲも一言ずつ別れを告げると宮廷魔術師達が開いたゲートに飛び込み、〈監獄結界〉へと向かって行った。
「さて、始めましょうか」
キリヲ達が無事に転移したのを確認するとラ・フォリアは、〈アラード〉のグリップを握りしめて静かにそう口にする。
〈舞威媛〉、〈アルディギアの王女〉、〈惨劇の歌姫〉、〈アッシュダウンの魔女〉、数多の死線を超えてきた女たちの熾烈な戦いの幕開けだった。
ホントすいません。次の一話に頑張って全部まとめます。