ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー   作:五河 緑

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聖者の右腕編Ⅲ

 絃神島、彩海学園付近のジャンクフード店。

 

 昼食の時間と重なっているため、店内にはそこそこの人数があった。

 そんな、店内の一角に古城、雪菜、キリヲの三人はあった。

 

 「……なに、見てるんですか?」

 

 昨日から続いていたであろう空腹を満たすためにハンバーガーを食していた雪菜が自身に向けられている視線に気付き、不愉快そうな表情で古城を睨み付ける。

 

 「いや、姫柊もハンバーガーとか食べるんだな」

 「……どういう意味ですか?」

 

 古城の言葉にますます眉を吊り上げて、不機嫌そうな表情を作る雪菜。

 

 「こういう店とかにあんまり、縁が無さそうな印象があったからな」

 「もしかして、馬鹿にしてます?」

 

 心外だ、と言わんばかりに顔をしかめる雪菜。

 

 「確かに、高神の杜がある街は田舎ですけど、ハンバーガーショップくらいありますよ」

 「高神の杜?姫柊が前にいた学校のことか?」

 「はい。表向きは神道系の学校ということになっています」

 

 雪菜の言った一言に古城が怪訝そうに目を細める。

 

 「表向きってことは、裏があったりするのか?」

 「獅子王機関の養成所です。獅子王機関は、ご存知ですよね?」

 「いや、知らん?」

 

 当然知っているものだと思って話を進めようとしていた雪菜の思考が一瞬停止する。

 

 「ええ!?どうして知らないんですか!?」

 「いや、そんな知ってて当然みたいに言われても……キリヲは知ってたりするのか?」

 「……まあ、一応」

 

 古城に聞かれて今まで黙々と食事を続けていたキリヲが顔を上げた。

 那月に監獄結界に放り込まれる前に何度か獅子王機関の攻魔師を見たことがあったキリヲは、獅子王機関が一応、どんな組織なのかは知っていた。

 キリヲが顔を上げた途端、雪菜は、鋭い視線をキリヲに向けた。

 

 「……そういえば、貴方は何者なんですか?」

 

 キリヲに向けられている視線には、警戒の色が含まれていた。

 

 「……九重キリヲだ。古城のクラスメイトだ。まあ、今日、転校してきたばかりなんだけど」

 「そういうことを聞いているんじゃありません!?どうして、貴方は武装しているのですか!?なぜ、貴方は第四真祖を守ったりしたんですか!?」

 

 畳み掛けるような雪菜の言葉にキリヲは面倒くさそうに口を開いて答えた。

 

 「俺は、攻魔官の南宮那月に呼ばれてこの学校に来た。古城のことも要注意人物として聞いていただけだ。あと、あんたの攻撃を止めたのは、単なる正当防衛のつもりなんだが?」

 

 キリヲのこの言葉で、古城はなんとなくキリヲの事情を察した。担任である那月が国家攻魔官なのは、周知の事実だし、その彼女が攻魔師の職務関連で呼び寄せたのなら、一介の高校生であるキリヲが武装しているのにも納得が言ったからだ。

 古城の正体を知っているにしても、那月が教えても良いと判断したのなら古城自身としては、特に問題はなかった。

 無論、キリヲは自身がつい最近まで投獄生活をしていたことは話していないし、今回のことも仮釈放の交換条件であることも話していないため、古城の推測は、当たっているとは言いがたいがキリヲとしては、この方が都合がよかった。

 

 「そんなことより、今はあんたの話だろ。獅子王機関の剣巫」

 「……っ!?なぜ、わたしが剣巫だと!?」

 

 まだ、名乗ってもいないのに己の正体を見破られて雪菜のキリヲに対する警戒レベルが更に上昇する。

 

 「戦い方を見れば分かる。あんたは、舞威媛じゃなかった。なら、残る選択肢は限られてくる」

 

 (……あの一瞬で、見抜いていたなんて)

 

 キリヲと雪菜が武器を打ち合わせたのは、一回だけだ。たった、一回の攻防で自分の戦闘スタイルを漠然とだが見破られていたことに雪菜は、背筋に冷たいものを感じた。

 

 「え~と?なんだか、よく分かんないけど結局、何なんだ獅子王機関って?」

 

 一人話についてこれてなかった古城が、気まずそうに口を挟んできた。

 

 「獅子王機関は、国家公安委員会に設置されている、対魔導テロや魔導災害対策の特務機関だ」

 「ふ~ん?……じゃあ、姫柊もそこの関係者なのか?」

 

 キリヲの簡単な説明に相槌をうって古城は、雪菜に尋ねた。

 

 「はい。まだ、見習いですけど」

 

 少し照れたような表情で頷く姫柊。獅子王機関の一員を名乗れることに少なからず誇りを感じているようだった。

 

 「あの……、第四真祖……いえ、暁先輩に聞きたいと思っていたことがあります。……先輩は、この島に潜伏して何をするつもりなんですか?」

 

 少し神妙な顔つきになって雪菜が古城に尋ねる。

 しかし、聞かれた本人は質問の意図を掴みかねているようだった。

 

 「何をするって……て、なんのことだ?」

 

 どこかの間の抜けたような顔で聞き返してくる古城に雪菜は、もう一度、問いかける。

 

 「この島……魔族特区に潜伏して何を企んでいるんですか?なにか、目的があるんじゃないですか?……たとえば、陰から絃神島を支配したり……あるいは、自らの快楽のために島の住民を虐殺しようとしたり……!」

 

 口元を手で押さえ両肩を震わせて、恐ろしい……、とか言っている雪菜を見て、意外と妄想力豊かだな、検討違いな関心をしているキリヲだった。

 

 「いや、ちょっと待ってくれ姫柊。何か勘違いしていないか?潜伏するもなにも、俺は吸血鬼化する前からこの島に住んでいたんだ」

 

 姫柊の問いに古城は、首を横に振りながら答える。

 しかし、その答えに姫柊は声を張り上げて反応する。

 

 「そんなはずありません!第四真祖が元は……人間だったなんて!?」

 

 この姫柊の言葉にはキリヲも同意だった。人間が吸血鬼の真祖になる、そんな事象は遥か古の時代に成された神々の業以外にあり得ない。

 

 「暁先輩……、真祖というのは古の時代に今は亡き神々に不死の呪いを受けた最も旧い吸血鬼のことですよ。普通の人間が真祖になるには、その神々の秘術を授からなければーー」

 「いや、流石に神様の知り合いなんていねーよ」

 

 苦笑いしながら古城が答えた。

 

 「だったら、他にどうやってーー」

 

 雪菜がそこまで、言ってキリヲも答えにたどり着いた。

 

 「まさか……暁先輩……」

 「……喰ったのか?真祖を?」

 

 顔を青ざめる雪菜の横でキリヲも驚いた様子で古城の顔を見つめる。

 

 「おいおい……。真祖を喰ったって……、人をそんなゲテモノ喰いみたいに言わないでくれ二人とも」

 

 古城も、心底嫌そうな表情で首を横に振っていた。

 

 「詳しくは説明できないけど、俺はあの馬鹿にこの厄介な体質を押し付けられただけなんだ」

 「押し付けられた?……先輩は、自分の意思で真祖になったのではないのですか?」

 「誰が、好き好んでなるかよ」

 

 顔をしかめる古城。

 その顔を数秒、見つめた後、雪菜は恐る恐る口を開いた。

 

 「……あの馬鹿というのは?」

 「第四真祖だよ。先代の」

 「なっ!?本物の〈焔光の夜伯〉!?先輩は、彼の真祖から能力を受け継いだんですか!?なぜ、先輩が後継者に選ばれたんですか!?……そもそも、なんで〈焔光の夜伯〉に遭遇したりしたんですか!?」

 

 驚愕の表情で疑問を口にする雪菜。しかし、その答えを古城の口から聞くことはできなかった。

 

 「ぐっ……!あっ……ああぁっ!!」

 

 突然、古城が頭を抱え、苦悶の表情で蹲ったのだ。まるで、凄まじい激痛に苛まれるように。

 

 「なっ!?せ、先輩っ!?」

 「どけ、姫柊」

 

 突然の古城の豹変に戸惑った様子の雪菜を押し退けて、キリヲは古城の元に駆け寄る。

 そして、人差し指を古城の額に当てて小声で短く祝詞を口にする。

 

 「痛覚鈍化の呪術だ。大丈夫か、古城?」

 

 痛みが引いた様子で呻く古城に肩を貸して椅子に座らせる。

 

 「わ、悪い二人とも……」

 「……何だったんですか今の?」

 

 未だに混乱から立ち直れない様子の雪菜に古城が力なく笑いかける。

 

 「……俺は、吸血鬼化した時の記憶がないんだ。無理に思い出そうとすると、このザマでな」

 

 自嘲気味に笑う古城。

 そんな、古城に雪菜はゆっくりと口を開いた。

 

 「先輩……聞いて欲しいことがあります。わたしは、先輩の監視役として派遣されました」

 

 それは、雪菜が獅子王機関より課せられた任務の内容だった。第四真祖、暁古城の監視。そして、危険度次第で抹殺しなければならないことも。

 

 「……でも、わたしは先輩がそれほど危険な人物には見えません。もちろん、手に入れてしまった力は危険なのかもしれませんけど……。ですから、今日から暁先輩。わたしは、貴方を監視します」

 

 世界最強の吸血鬼、その監視役が誕生した瞬間だった。

 

 ***

 

 彩海学園、執務室。

 

 「また、犠牲者が出た。今度は、二人同時だ」

 

 机の上に並べた資料を睨み付けて、黒いゴシックドレスに身を包んだ魔女、南宮那月は憎々しげに呟いた。

 数分前、特区警備隊が持ってきた資料、そこには、二人の魔族の写真があった。どちらも、今回の犠牲者だ。

 この二人の顔には、覚えがあった。先日、公共の場で眷獣をブッ放した吸血鬼とその仲間の獣人種。現場から、逃走はしていたがすぐに捕まって特区警備隊に厳重注意を食らってい筈だ。

 今回は、その二人が通り魔の犠牲になった。

 

 「……おい、貴様も少しは調査に協力しようという姿勢を見せることはできないのか?」

 

 執務室の中央、来客用のソファーに足を組んで座り、くつろいでいた女吸血鬼ーージリオラを那月は忌々しそうに睨み付けた。

 講師として、教鞭をとっていた時に着ていたスーツはとっくに脱いでおり、いつもの下着の上に上着を羽織るだけの格好に戻っている。

 

 「あら、犯人の制圧がわたし達の仕事じゃなかったかしら?」

 

 ジリオラは、悪びれる様子もなくテーブルの上にあるワインボトルの中身をグラスに注いでいる。

 投獄中に禁欲生活を強いられてたせいか、かなり嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 「犯人の逮捕に協力するのが貴様らの仕事だ」

 

 那月は、目を細め更に自らの機嫌の悪さを表に出す。

 

 「でも、キリヲは自由にさせてるじゃない?わたしにも少しくらい楽しませてくれても良くなぁい?」

 

 内心、ジリオラには事件を早急に解決しようという意思はなかった。キリヲとジリオラの仮釈放の期間は、今回の犯人を捕らえるまでだ。

 より、長くこの自由を謳歌するためにも事件の解決は遅い方がいい。

 もっとも、那月の機嫌を本気で損ねたらそれこそ本末転倒なので、先伸ばしにするのにも限度はある。

 

 「貴様とキリヲで扱いに差ができるのは当然だ。貴様のような生粋の犯罪者と違って、キリヲは他者の思惑に巻き込まれた結果、人殺しに手を染めた。情状酌量の余地がある」

 

 那月の言葉にジリオラは、静かに言い返す。

 

 「それなら、わたしも同じでしょう?先に手を出してきたのは、馬鹿王子達の方よ。わたしは、自分の身を守っただけ」

 

 ジリオラは、かつて高級娼婦として、とある小国の王子と関係を持っていた。しかし、その関係が公に露呈することを恐れた王子と一部の王族に忙殺されかけたのだ。

 結果、ジリオラの怒りを買った王子、そして王子に加担した王族は、一族朗党皆殺しという大惨劇の末に死んでいった。

 

 「……確かに、その一件に関してはわたしも貴様だけを責めるつもりはない。だが、それ以外にも貴様はやりたい放題やってきただろ」

 

 ジリオラの起こした虐殺事件は、切っ掛けに過ぎず、その後、数々の猟奇的な事件にジリオラが手を染めていたことが発覚する。更に、逮捕後も刑務所内の囚人や看守を巻き込んだ騒動を起こしているので、結果的にジリオラは凶悪犯として監護結界に投獄されたのだ。

 

 「まあねぇ♪」

 

 悔いる様子などまるでないと言った風にジリオラは、グラスの中のワインを喉に流し込んでいく。

 

 「分かったわよ。明日辺りから、街を調べてみるわ。……キリヲも連れて行くけど、いいわよね?」

 「好きにしろ」

 

 多少、やる気を出したことで納得したのか、那月はジリオラに背を向けてそれ以上は何も語らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ジリオラさん、書くの楽しいですね。できることなら原作やアニメで、もっと活躍して欲しいキャラです。
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