ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー   作:五河 緑

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 今回、戦闘シーンです。


聖者の右腕編Ⅳ

 絃神島、東部人工島の繁華街。

 

 通りには、これから、夜遊びに繰り出すだろう若者たちで満ちている。

 

 「それにしても、暑いわねぇ。とっくに、日は沈んでいるのに」

 

 繁華街にズラリと並んだ店から漏れ出す光に照らされた夜道を歩きながら、キリヲは隣にいる女吸血鬼の言葉を聞いていた。

 

 「仕方がないだろ。太平洋のど真中に浮いているような島だ……そんなことよりーー」

 

 気候的にどうしようもない猛暑に不平を言うジリオラにキリヲは非難の色を含んだ視線を向ける。

 

 「その格好、どうにかならないのか?」

 

 相変わらず、布地の少ない下着の上に黒い上着を羽織っただけという扇情的な格好をしているジリオラ。

 この妖艶な格好は、元娼婦としての名残なのかと思っていたが、それ以上にジリオラ本人の趣味としての意味合いが強いと最近知ったキリヲである。

 一方で、キリヲは彩海学園の制服のみで、いかにも学生という風体だった。

 こんな、時間に繁華街を男子高校生がほとんど下着しか着ていないような女を連れて歩いているという、補導されても文句いえないような状態だった。

 おまけにキリヲが背負っている竹刀袋のなかには、エンチャントウェポンである刀が入っている。更に、非公式な形で入島しているため、ジリオラは魔族登録証を持っていない。

 補導どころか、銃刀法違反と魔族管理法違反で拘束されてもおかしくない。

 

 「別にいいじゃない、服くらい」

 

 当の本人は、まったく危機感のない様子で余裕の表情を浮かべ、キリヲの左腕に両腕を絡ませて身を寄せてくる。

 これでは、本当にそういう関係にしか見えない。

 さっきから周りの視線が痛いが、キリヲはもう気にしないように努めた。

 

 「そんなことより、どっかお店入らない?」

 「…………目的を忘れてないか?」

 

 当然のことのように、遊ぶ気満々のジリオラに軽くめまいを起こした。

 

 「魔族狩りの犯人を見つけるんだろ?」

 

 腕を絡ませてきていた、ジリオラを振りほどいて呆れたように言う。

 だが、そんなキリヲを見て、ジリオラの方も呆れたようにため息をついた。

 

 「あんたねぇ、わたし達にとって犯人を早く捕まえることにメリットなんてないのよ?」

 

 ジリオラが何を言いたいのかは、キリヲにも分かる。

 今、キリヲ達が得ている自由は、南宮那月との契約によって成り立っている。

 故に、犯人を捕まえて事件を解決してしまえば南宮那月との契約は終了し、再びあの薄暗い監獄に逆戻りだ。

 つまり、キリヲとジリオラにとって事件を早急に解決する意味はない。

 しかしーー。

 

 「……いや、俺はさっさと犯人を捕まえて、監護結界に戻りたい」

 「あら?」

 

 キリヲの一言にジリオラが首をかしげる。

 

 「やっぱり、俺には普通の生き方って奴は向いていないらしい。あそこの独房が一番、落ち着く」

 

 まだ、二日ほどしか経っていないが、これがキリヲの素直な気持ちだった。

 古城達と過ごした時間は確かに新鮮で楽しかったと言えなくもないが、やはり、どこかに限界を感じていた。

 人殺しである自分とそうでない古城達との間に壁を感じていた。

 

 「面倒くさい考え方してるわね、あんた」

 

 ジリオラは、肩をすくめて理解できないと言った様子で首を横に振っている。

 

 「あんた、なにやらかして監護結界にぶち込まれたのよ?」

 「南宮那月に聞かなかったのか?」

 「聞いたけど、教えてくれなかったのよ」

 

 ジリオラの言葉に数秒ほど考える素振りを見せるキリヲ。

 

 「……アルディギア王国首都の三割を破壊」

 「ふーん?」

 「……民間人、数十名が死傷」

 「へえ」

 「……王族警護の聖環騎士団所属の騎士の半分を殺害」

 「あら」

 「……第一王妃ポリフォニア・リハヴァインの殺害未遂」

 「…………」

 

 過去に自分が犯した罪状を言い終わるとキリヲは、口を閉ざした。

 ジリオラの方も、想像していたより凶悪だった犯罪歴になんと言っていいか分からない様子だった。

 犯罪歴の内容では、ジリオラの方も負けてはいない。ジリオラだって王族に手を出している。

 だが、彼のアルディギア王国。しかも、霊媒としての格は最上位に届くと言っても過言ではないアルディギア王家とその加護を受ける聖環騎士団を相手にそれほど暴れられるかと聞かれれば、ジリオラは、否と答えるだろう。

 それほどまでに強いのだ。アルディギアという小国は。

 そして、それを相手にして生き残れるほど、隣を歩く少年は強いのだということを再確認した。

 

 「……俺は、こんな風に表を歩いていいような人間じゃないんだ」

 

 自嘲気味にそう言うと、キリヲは足早に進みだした。

 

 「………本当に面倒くさい考え方してるわね」

 

 そんな、キリヲの背中を見つめながらジリオラは、ポツリと呟いた。

 その次の瞬間だった。

 

 ドオオォンッ。

 

 遠方で響いた爆発音に二人とも足を止める。

 音の発生源の方向に目を向ければ、橙色に輝く炎が視界に入った。

 確か、あそこには企業所有の倉庫区画があったな、とキリヲは思った。

 そんな、遠くからでも見えるほどの巨大な爆炎を眺めていると、ポケットに入れていた携帯がバイブレーションの振動で着信を伝えてきた。

 

 『九重キリヲ、今どこにいる!?』

 

 通話相手は、空隙の魔女、南宮那月だった。

 

 「……繁華街だ。ジリオラも一緒だ。今の爆発は?」

 『倉庫区画で吸血鬼が眷獣を放ったらしい』

 「あの魔力……相当、強力な奴だぞ」

 『例の魔族狩りと関係があるかもしれん。すぐに現場に向かえ』

 「了解。……犯人はどうする?」

 『拘束しろ。殺さなければ、何をしても構わん。絶対に逃がすな』

 「了解」

 

 携帯を切ると、キリヲはジリオラに顔を向けた。

 

 「魔族狩りの犯人かもしれない。捕まえにいくぞ」

 「はあ……、案外早く見つかったわね」

 

 これで、この仮初めの自由も終わりか、と残念そうな表情を浮かべるジリオラ。

 

 「……先に行ってるぞ」

 

 そんな、ジリオラにそれだけ言うとキリヲは爆発のあった倉庫区画に向けて駆け出した。

 

 「足速……、本当に人間?」

 

 ものすごい速度で遠ざかっていくキリヲの背中を見てジリオラは、素直に驚いていた。

 体から漂ってくる臭いから判断してキリヲが人間なのは間違いなかった。

 監護結界に入れられている以上、何かしらの能力を持っているのは分かっていたが、キリヲのあの速度は獣人種にも劣らないものだった。

 そんな、キリヲを追いかけるべくジリオラも自身の体を霧に変えて移動を始める。

 

 監獄結界から出されて、最初の戦闘が始まろうとしていた。

 

 ***

 

 倉庫区画

 

 倉庫に格納されていた可燃物に引火して勢いを増した炎が周囲を包む中に彼らはいた。

 金属製の武具と法衣を纏い、片眼鏡をつけて巨大な両刃の戦斧を持った男。

 男の名は、ルードルフ・オイスタッハ。西欧教会に所属するロタリンギアの殲教師だった。

 そして、彼の横に付き従うように立つ藍色の髪の無表情の少女。その背中からは、巨大で半透明な二本の腕が突き出ていた。

 眷獣を人工的に植え付けられた人工生命体だった。

 

 「……こいつら、一体何なんだ!?」

 「西欧教会の殲教師だそうです、先輩」

 

 そんな、彼らに向かい合う様に立っているのは世界最強の吸血鬼、第四真祖、暁古城と銀の槍ーー雪霞狼を携える獅子王機関の剣巫、姫柊雪菜だ。

 先程の爆発を聞きつけ雪菜は、この現場に駆けつけていた。そこで、彼女が見たのは、旧き世代の吸血鬼を圧倒するオイスタッハと眷獣を司る人工生命体という奇妙な二人組だった。

 負傷した旧き世代の吸血鬼を守るため雪菜は、この二人に挑みかかったが、強力な力を持つ人工生命体の眷獣に敗れ、止めの一撃を食らおうとしていた。

 そこに、遅れて到着した古城が間一髪、雪菜を人工生命体の眷獣から助けだし、今の状況に至る。

 

 「西欧教会の殲教師?なんで、こんなところに……」

 

 雪菜から彼らの正体を聞き、怪訝そうに表情を歪める古城。

 そんな、古城にオイスタッハは、ほう、と感心したような声を漏らした。

 

 「旧き世代の吸血鬼ですか?いや、どの系統にも当てはまりませんね。……まさか、噂の第四真祖ですか?」

 

 オイスタッハの掛けている片眼鏡が赤い光を点滅させる。どうやら、彼の片眼鏡は相手を分析する装置か何かのようだった。

 

 「相手にとって不足はありません。アスタルテ!」

 「命令受諾。執行せよ〈薔薇の指先〉」

 

 アスタルテと呼ばれた藍色髪の人工生命体は、オイスタッハの指示に従い、自身の持つ眷獣である二本の巨腕を古城に向けて放つ。

 だが、その攻撃が通ることはなかった。

 

 キキンッ。

 

 甲高い金属音か鳴り響き、二本の巨腕が弾き飛ばされた。

 巨腕を弾いたのは、一振りの刀。刀身まで黒く塗り潰された刀を携えて一人の少年が古城達の前に降り立ち、巨腕を打ち払ったのだった。

 

 「キリヲっ!」

 「悪い。遅くなったな」

 

 刀を持った少年ーーキリヲは、前方の二人を睨んだまま古城の言葉に返事をした。

 

 「……何者ですか?」

 

 オイスタッハが眉を潜める。

 

 「攻魔師……の助手だ。聞きたいことがある。ここ連日の魔族狩りの犯人、お前か?」

 「……ええ、そうですよ。それで、貴方はそれを知って、どうするというのですか?」

 

 オイスタッハが不適に笑う。

 それを、まっすぐ見返してキリヲは言う。

 

 「勿論、捕らえる」

 

 直後、ガッと音を立てて地面を蹴ったキリヲは刀を大上段に構えて突進する。

 

 「っ!防ぎなさいっ、アスタルテ!」

 「命令受諾」

 

 突然、突っ込んできたキリヲの速度に驚くも、オイスタッハは即座にアスタルテに指示を出す。

 命令を受けて、オイスタッハを守るべく眷獣の腕を交差させてキリヲの刀を受け止めにいくアスタルテ。

 ギイィンッと耳障りな激突音を発しながらキリヲの刀とアスタルテの眷獣がぶつかる。

 

 「……っ」

 

 眷獣へのダメージがフィードバックしてアスタルテが痛みに顔をしかめる。

 すかさず、キリヲは刀を引いて二撃目を放つ。

 そのまま、流れるような動作で三、四、五連撃と刀を巨腕に叩き込んでいく。

 だが、魔力の塊である〈薔薇の指先〉は、刀の斬撃程度で破壊されることはない。

 

 「……固いな」

 

 キリヲは、素直に感じたことを言って、後方に跳ぶようにバックし、アスタルテとの距離をとる。

 

 「ふん。その程度ですか。確かにスピードは中々のものですが、攻撃力に欠けますね。それでは、アスタルテの〈薔薇の指先〉は倒せない」

 

 オイスタッハの顔に浮かんでいるのは、余裕の笑み。一方でアスタルテは、先程の攻防でダメージを負った眷獣の余波を受けて、苦しそうに表情を歪めていた。

 

 「……なら、攻撃力を上げるまでだ」

 

 このままでは、埒が明かないと判断したキリヲは、刀を横に向け、その刀身を左手の指でなぞっていく。

 なぞられた刀身に赤い蛇のような紋様が淡い光を放ちながら刻み込まれていく。

 

 「それはっ!紗耶香さんと同じっ!?」

 

 キリヲを見て、雪菜が声を上げる。

 

 「……呪詛ですか。獅子王機関の舞威媛にも通ずる……」

 

 オイスタッハも警戒するように目を細める。

 そして、刀身に呪詛を掛け終わったキリヲは、刀を再びアスタルテに向けて構える。

 

 「さあ、第二ラウンドだ」

 

 その顔は、どこか歪な笑みを浮かべていた。

 

 「執行……せよ、〈薔薇……の指……先〉」

 

 未だ、ダメージが抜けない様子で、苦しそうに眷獣を出すアスタルテ。

 そんな、アスタルテにキリヲは再度、刀の切っ先を向けて突進する。

 呪詛を纏った刀が何度も〈薔薇の指先〉の巨腕に斬撃を放っていく。

 キリヲが刀に掛けたのは、刀そのものの切れ味を上げる呪詛、斬った相手に与えるダメージを倍加させる呪詛、切り口から相手を呪い殺す呪詛などだ。他にも幾つかの呪詛が込められた刀がアスタルテの〈薔薇の指先〉を確実に削っていく。

 

 「くっ、うぅ……」

 

 アスタルテが苦悶の声を上げるが、オイスタッハは、未だ闘志に満ちた顔で叫ぶ。

 

 「無駄です!いくら、呪詛と言えど所詮は霊力で掛けたもの!ならば、〈薔薇の指先〉が吸収して無効にできます!」

 

 眷獣〈薔薇の指先〉の持つ最大の特徴は、相手の魔力、霊力を喰らい、吸収できることだ。

 オイスタッハの言葉で、それを思い出したアスタルテは、即座にキリヲの刀に込められた呪詛の霊力を吸収する。

 だがーー。

 

 「かかったな」

 

 キリヲは、焦ることなく口の端を吊り上げた。

 直後。

 

 「あっ……アアアァッ!!?」

 

 突然、アスタルテが体を両手で抱きしめながら絶叫して苦しみ出した。

 

 「なっ!?なにがっ……まさか……」

 

 オイスタッハも驚愕に目を見開く。

 

 「これも……呪詛……?」

 

 後ろで、今の攻防を見ていた雪菜が声を漏らした。

 

 「な、なにが起きたんだ姫柊!?」

 

 状況が全く分からなかった古城が雪菜に問いかける。

 

 「多分……ですけど、〈魂喰らい〉の呪詛です。九重先輩が使ったのは……」

 「よく、分かったな姫柊」

 

 見事に自分の掛けた呪詛を言い当てた雪菜にキリヲが感心したように言う。

 〈魂喰らい〉の呪詛。主に相手の霊力や魔力を奪う夢魔などに対抗する術として開発された呪詛。

 この呪詛の霊力を吸収した相手を内側から破壊するものだ。

 アスタルテは、自分で吸収した霊力に体の内側から攻撃されて、激痛に喘いでいた。

 

 「止めだ」

 

 宿主であるアスタルテが弱体化したことにより、眷獣の〈薔薇の指先〉も力が減衰し、防御力が下がっていた。

 そこに最後の一撃を入れようとキリヲが刀を振り下ろす。このまま、〈薔薇の指先〉ごと、アスタルテを切るつもりだった。

 しかし、ここでキリヲも予想しなかった事態が発生する。

 

 ボキンッ。

 

 「あっ」

 「え?」

 「な!?」

 「……!?」

 「は?」

 

 上から、キリヲ、雪菜、古城、アスタルテ、オイスタッハの声である。

 この場にいる全員が間の抜けた声を上げた。

 

 「お、折れた………?」

 

 雪菜が呟くように言う。

 キリヲの刀は、半ばから先がボキッと折れていた。

 止めを刺そうと〈薔薇の指先〉に刀を叩きつけた時のことだった。

 

 「呪詛……掛けすぎた……」

 

 呪詛とは文字通り害をもたらす呪いである。それを何重にも掛けた結果、キリヲのエンチャントウェポンである刀は、耐えきれずに刀身が折れてしまった。

 

 「アスタルテっ!」

 「執行せよ、〈薔薇の指先〉!!」

 

 オイスタッハが指示し、珍しくアスタルテが大きな声を張り上げて〈薔薇の指先〉に命令する。

 千載一遇のチャンスを見事に掴み取ったアスタルテの一撃は、キリヲの胴体に命中し、その体を吹っ飛ばして倉庫区画のコンテナに叩きつけた。

 

 「がっ……はっ……」

 「キリヲ!?」

 「九重先輩!?」

 

 弱っていたとは言え眷獣のフルパワーの拳を食らったキリヲは、ズルズルと座り込んで動けなくなる。

 

 「南宮那月……。粗悪品、寄越しやがって……」

 

 この場にいない、自らの契約相手に恨みがましい愚痴を飛ばすが、特に意味をなすことでもなかった。

 

 「ふん、少々危なかったですがこれまでのようですね。アスタルテ、止めを」

 「命令受諾」

 

 動けなくなったキリヲに止めを刺すべくアスタルテが前に歩みでる。

 そこにーー。

 

 『なによ、随分派手にやられてるわね』

 

 エコーのかかった声がどこからともなく響き渡る。

 

 「何者ですか?」

 

 オイスタッハが更なる新手に警戒を強めて周囲を見渡す。

 

 「アルディギアで派手に暴れたって割りには、大したことないんじゃない?」

 

 突如、立ち込めた霧が集まり人の姿を形成する。アスタルテとキリヲの間に立ち塞がるようにして現れたのは、ジリオラだった。

 その手には、赤い燐光を放つ鞭が握られていた。

 

 「旧き世代の吸血鬼……T種ですか」

 

 オイスタッハが即座に相手の分析を始める。

 

 「先程の戦闘を見ていなかったのですか?吸血鬼が一人来たところで、今のわたし達にとって敵にはなり得ませんよ?」

 

 オイスタッハの表情には余裕の色が戻っていた。

 アスタルテは、キリヲとの戦闘で消耗していたが、それでも吸血鬼一人に今さら負けるとも思っていなかったのだ。

 だが、そんなオイスタッハに向かい合うジリオラも余裕の表情を浮かべている。

 

 「一人?どこを見て言ってるのかしら?」

 「なに?」

 

 目の前の女吸血鬼の言葉に怪訝そうに顔をしかめるオイスタッハ。

 そして、同時に気付いた。

 自分達を囲むように漂う周囲の気配に。

 

 「これは……」

 

 そこには、無数の人影が立っていた。この場にいる全員をぐるりと囲むように無数の人影が倉庫区画の周りに立っていた。

 それは、眷獣を出した吸血鬼、変身を終えた獣人種、精霊を従えたエルフ、巨大な体躯を持つ巨人族などの魔族。その他にも特区警備隊と思わしき装備を纏った人間が数名こちらに銃口を向けている。

 

 「ありえない……」

 

 そんな言葉が口から零れた。

 吸血鬼や獣人種が手を組むのはまだ分かる。だが、あのプライドの高い巨人族までもが、目の前の女吸血鬼に味方している理由が分からなかった。

 

 「こいつら、捕まえにいくのに廃棄区画まで行ってたら時間が掛かったわぁ」

 

 ジリオラは、手にしている鞭を地面にパシンと叩きつけて言う。

 

 「……なるほど、あの者たち全てが貴女の支配を受けた下僕というわけですか」

 

 ジリオラの仕草を見て自身の疑問の答えを得たオイスタッハが納得したように言う。

 

 「そうよ。わたしの〈ロサ・ゾンビメイカー〉は、魔族も人間も操る」

 

 ジリオラにとっての最大の武器とも言える支配力を象徴する眷獣、意思を持つ武器だった。

 

 「〈ロサ・ゾンビメイカー〉……ジリオラ・ギラルティですか。なぜ、ここに?」

 「まあ、ちょっしたお仕事よ。あんたらに恨みはないけど……死んでもらおうかしら」

 

 残虐な笑みを顔に張り付けてジリオラは言い放つ。

 

 「いや、殺しちゃダメだろ……」

 

 キリヲがツッコミを入れるが聞く気なしである。

 

 「さすがに、部が悪いですね。アスタルテ、ここは引きましょう」

 「逃がすとでも?」

 

 逃げようとするオイスタッハにジリオラが攻撃を仕掛けようとするが、オイスタッハが投げた閃光手榴弾がまばゆい閃光を迸らせる。

 光が収まる頃には、オイスタッハとアスタルテの姿はなかった。

 周囲を囲っていたジリオラの操っていた魔族たちも一部が〈薔薇の指先〉に吹き飛ばされたようで地面に伸びていた。そこから、包囲網を突破したようだった。

 

 「……逃げ足速いわね」

 「……なに逃がしてんだよ」

 

 素直に感心しているジリオラと呆れた様子でジリオラを見るキリヲ。

 

 「えーっと、ジリオラ……先生?」

 

 オイスタッハ達を逃がして戦うこともなくなってしまったジリオラに古城が声を掛ける。

 

 「先生?……あぁ、そういえば先生だったわ、わたし」

 

 昼間の講師の時とは、まるで違う様子に戸惑いを覚える古城だった。

 

 「ていうか、古城くん?とそこの女の子、早いとこ退散した方がいいんじゃない?もうすぐ、特区警備隊と南宮那月が来るし」

 「那月ちゃんが!?やべっ」

 

 急に慌て出す古城。なにやら、見つかりたくない理由があるらしい。

 

 「そんなことより、魔族狩りの犯人………逃がしたな」

 「逃げられたわね」

 「南宮那月……怒るかな……?」

 「……怒るでしょうね」

 「「はあ」」

 

 これから、会う契約主のことを考えてキリヲとジリオラは、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回で聖者の右腕編完結の予定です。キリヲの能力の詳しい説明とかも、次回すると思います。
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