ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー   作:五河 緑

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戦王の使者編Ⅱ

 絃神島 南宮那月所有のマンション

 

 住宅地に一際目立って建つ二十五階建ての高級マンション。このマンション全てが欧州で名を馳せた攻魔師であり資産家でもある南宮那月の所有物だった。

 広大な敷地に建てられたマンションは絃神島での那月の拠点であり、敷地全域に侵入者対策の結界が張られている。

 那月はマンションの最上階に住んでおり、その他の階はよほどの高額所得か訳ありで那月が暮らすことを許した者だけが住んでいる。

 そして、そのマンションの二十四階。つまり、最上階の一つ下のフロアの一室をキリヲは訪ねていた。

 

 「それで?どういう風の吹き回しかしら?貴方がわたしの部屋を訪ねてくるだなんて」

 

 部屋の中央に置かれたソファーに寝そべっていたジリオラが上体を起こしながら部屋に入ってきたキリヲに視線を向けた。

 

 「それに、なにその格好?」

 

 ドアの前に立つキリヲの姿を下から上までじっくりと眺めた後にジリオラは言った。

 キリヲの今の格好は執事が着るような黒の燕尾服だ。雪菜同様に基本的に普段着も制服で済ませているキリヲが持っているような服ではない。

 

 「……南宮那月に借りた。パーティー用にな」

 

 先程、那月の部屋を訪ねた際にキリヲがパーティーに行く時の服装として借りたものだった。那月は普段からメイドや執事が欲しいと豪語しており、彼女がいつも着ているフリル付きドレスと同様に趣味のようにメイド服や燕尾服を買いそろえていた。

 キリヲは、その内の一着を拝借してきたのだ。

 

 「……今夜、絃神島に到着した大型客船の船上パーティーに招待された」

 「それで燕尾服?」

 「……そうだよ。そこそこ大きなパーティーだから、いつもの制服って訳にはいかないだろ?それに招待状にパートナーを連れてこいとも書いてあった」

 

 欧米で催されるパーティーには、基本的に恋人や夫婦をパートナーとして同伴させるのが基本だ。それらの関係に該当する相手がいない場合は、代役をたてるのが基本となっている。

 今回のパーティーもその例に漏れず、パートナー同伴を要求していた。

 

 「それで、わたしにそのパートナーの代役をさせたいのかしら?」

 「そう言うことだ。……不本意だがな」

 

 嫌そうな顔をしながらキリヲがボソリと呟く。

 一方でジリオラの方は乗り気らしく、嬉々とした表情でソファーから立ち上がりクローゼットに向かっていく。

 

 「構わないわよ。パーティーはいつから?」

 「一時間後だ。出来ればもう出発したい」

 

 クローゼットの中の衣類を品定めしながら聞いてきたジリオラにキリヲは無愛想に返事をする。

 

 「そういえば、誰が主催しているパーティーなの?」

 「………………ディミトリエ・ヴァトラーだ」

 

 服選びをしていたジリオラの手がピタリと止まる。

 

 「…………やっぱり辞退してもいいかしら?」

 「頼む。気持ちは分かるが今回だけは勘弁してくれ」

 

 珍しくジリオラに頭を下げるキリヲ。

 ジリオラの心情はキリヲにも理解できた。それほどまでにディミトリエ・ヴァトラーの名は欧州では有名なのだ。

 強敵と認めた相手に誰彼かまわず戦いを挑む戦闘狂。そして、格上の吸血鬼である長老を二人も喰らったという事実もある。

 吸血鬼にとっては絶対に鉢合わせたくない相手だ。

 

 「……ハア。一つ貸しよ?」

 「すまん。恩に着る」

 

 諦めたようにため息をつくジリオラは再び服選びを再開する。

 

 「二十分待ちなさい」

 「……着替えるだけだろ?五分で済ませろよ」

 「女の化粧直しくらい待てる男になりなさいよ」

 

 そう言うとジリオラは取り出したドレスを片手に別室に移動していった。

 

 「……まったく、面倒だな」

 

 キリヲとしては、このパーティーに参加するつもりはなかった。だがもう一人の招待相手、暁古城がパーティーに参加するとなれば無視するわけにもいかない。

 那月に古城の監視と有事の際の護衛を任されたが、キリヲとしても友人である古城を同族喰いに差し出すつもりはない。

 窓の外に見える港に着岸した大型船を睨み、キリヲは静かに拳を握りしめた。

 

 ***

 

 絃神島 港湾地区 〈オシアナスグレイブ〉前

 

 「……こんな時間にパーティーだなんて、近所迷惑もいいところだろ」

 

 目の前に佇む豪華客船から溢れるパーティー参加者の歓談の声や楽器の演奏などを聞きながら、燕尾服に身を包み竹刀袋を背負ったキリヲは静かに呟く。

 

 「悪党が何言ってるのよ」

 

 その横に付き従うようにジリオラが立つ。

 そんなジリオラにキリヲは、思わず目を向ける。数秒ほど目を離すことができなかった。

 

 「なによ?」

 「……いや、そういう普通の服も持ってるんだな」

 

 今のジリオラはいつものような下着の上にコートを羽織っただけの格好ではない。

 肩と背中は大きく露出しているが、ちゃんとしたパーティードレスだ。おまけに普段はつけないような銀のネックレスなどまでつけている。

 

 「女ならパーティードレスの一つくらい持ってて当たり前よ」

 「どこで用意したんだ?」

 

 キリヲもジリオラも監獄結界の囚人だ。つい最近まで投獄されており、服どころか所持品すらほとんど持っていないはずなのだ。

 

 「南宮那月から生活費は貰ってるでしょ?必需品買うお金とかも」

 「……ドレスって必需品か?」

 「女にとってはね」

 

 妖艶に微笑みながらジリオラは言う。

 キリヲには理解できる感覚ではなかったが、そういうものだと割り切って無理矢理納得することにした。

 胸中で心の準備を整えたキリヲは船内へと足を進める。

 大型客船、〈オシアナスグレイブ〉の中に広がっているパーティー会場には既に大勢の人間が存在していた。

 皆それぞれで飲食やダンス、歓談を楽しんでいた。

 そんな中で目当ての人影を探してキリヲは会場内に目を走らせる。

 だが、目には入るのは裕福そうな妙齢の男女ばかり。キリヲが探している二人組は見当たらない。

 

 「古城達がいないな……」

 「上のデッキじゃないかしら。多分、ヴァトラーもそこにいるわね」

 

 ジリオラが天井を見上げて目を細める。

 吸血鬼であるジリオラは本能的に間近に潜む強大な魔力の持ち主を感知しているのだろう。

 その時。

 

 ズズゥン。

 

 魔力の波動と共に鈍い音をたてて船が揺れた。揺れ自体は大したものではなかったからパーティー会場にいる人間の大半は特に気にすることもなかった。だが、キリヲやジリオラなどの魔力を感知できる一部の存在はその魔力の強大さに思わず身構える。

 

 「急いだ方が良さそうだな」

 

 足早に階段を昇っていくキリヲ。数秒後にはキリヲとジリオラは最上階のデッキに到着していた。

 デッキの上では古城と雪菜が白いタキシードに身を包んだ金髪碧眼の男と対峙していた。

 その強大な魔力から見間違うはずもなかった。金髪の男ーーディミトリエ・ヴァトラーだ。

 

 「古城、姫柊」

 

 黒のタキシード姿の古城と白いドレスに身を包んだ雪菜にキリヲは声をかける。

 雪菜は雪霞狼を構え、古城は全身に雷を纏わせてヴァトラーを睨み付けている。

 

 「いやいや、お見事。やはりこの程度の眷獣では傷つけることはできなかったねぇ」

 

 臨戦態勢のまま身構える古城と雪菜にヴァトラーが拍手をしながら歩み寄る。

 その言動からキリヲはこの場の状況を何となく察する。

 大方、ヴァトラーが小手先調べに、古城に向かって眷獣でも放ったのだろう。結果、古城はヴァトラーの攻撃を難なく防ぎ今に至っている。

 

 「そして、どうやら遅れていた他の来賓も到着されたようだ」

 

 ヴァトラーが古城達の横に並ぶように立ったキリヲとジリオラに目を向けた。

 

 「我が名はディミトリエ・ヴァトラー。我が真祖〈忘却の戦王〉よりアルデアル公位を賜りし者」

 「……あんたがヴァトラーか」

 

 芝居がかった仕草で恭しくお辞儀をするヴァトラーに古城が敵対心を剥き出しにして言う。

 

 「初めまして、と言っておこうか。暁古城。いや、〈焔光の夜伯〉。そして……おや?」

 

 古城の横に立つジリオラに視線を止めたヴァトラーは少し驚いた様に目を開き、ジリオラに歩み寄っていく。

 

 「これはこれは、ジリオラ・ギラルティ。〈カルタス劇場の歌姫〉、〈混沌の皇女〉の血に連なる氏族の姫よ。お会いできて光栄だ」

 

 ジリオラの前で立ち止まると貴族の如く優雅な仕草でジリオラの手を取り、その手の甲に唇を落とす。

 

 「……ええ、こちらこそ光栄ね。〈蛇遣い〉」

 

 ジリオラもヴァトラー相手に一歩も退くつもりはないらしく、その場を微動だにせずヴァトラーを睨み返す。

 ヴァトラーは、そんなジリオラの敵意を孕んだ視線を心地良さそうに受け止めると今度はキリヲの方に顔を向けてきた。

 

 「そして、君が〈聖剣遣い〉か。九重キリヲ」

 

 キリヲを見るヴァトラーの目は好奇心に満ちていた。常に強敵を求めるヴァトラーは目の前に現れたキリヲと言う存在に溢れる闘争心を露にしていた。

 

 「君の噂はよく聞いているよ?アルディギアで何百人も斬ったそうだねぇ?」

 「えっ……」

 

 ヴァトラーの言葉に雪菜が目を見開いてキリヲに視線を向ける。

 

 「……犯罪者の俺を糾弾するために遥々海を越えてやって来たのか?」

 「まさか。ボクは君のことを責めるつもりはないよ。君は降りかかる火の粉を払っただけだ。正当防衛だろう?」

 

 皮肉気に言い返すキリヲにヴァトラーは苦笑しながら答える。

 だが、今度はキリヲがヴァトラーの言葉に食って掛かる。

 

 「違う。あれは正当防衛なんかじゃない……ただ、怒りに任せて剣を振るった殺戮だ」

 

 過ぎた自らの過ちを悔いるようにキリヲは拳を握りしめながら絞り出すように言う。

 だが、ヴァトラーは涼し気に返答する。

 

 「だが、彼らは君の大切なものを傷つけた。当然の報いだったとは思わないかい?」

 

 キリヲの脳裏に傷付き鮮血を流す銀髪の少女の姿が鮮明に浮かび上がる。

 

 「……それでも、あれは俺の罪だ」

 「自罰的だねぇ」

 

 そう言うとヴァトラーは視線を古城に戻し、魅惑な笑みを浮かべる。

 

 「さて、先程の非礼……御身の武威を検するためとは言え、流石に品がなかった。心よりお詫びするよ、古城。それにしても、さっきの眷獣……〈獅子の黄金〉か。普通の人間が<第四真祖>を喰ったって噂、あながち間違いじゃなかったわけだ」

 「……〈獅子の黄金〉を知っているのか?」

 

 ヴァトラーの言動に怪訝そうに顔をしかめる古城。

 

 「我が愛しの第四真祖アヴローラ・フロレスティーナが従えていた眷獣だろう?」

 「愛しの……?それはどういうーー」

 「古城、避けろっ!」

 

 ヴァトラーの言葉に返事をしようとした古城に突如、頭上から数本の銀のフォークやナイフが降り注いだ。

 反応が遅れた古城の襟首を掴んでキリヲが無理矢理下がらせる。

 目標を失い空を切った銀食器はデッキの床に突き刺さる。

 

 「雪菜から離れなさい、暁古城」

 

 銀食器を投げた張本人、チャイナドレスに身を包んだポニーテールの女が船室の屋根の上から飛び降りて古城の前に立ち塞がる。

 

 「紗矢華さん!」

 「雪菜!」

 

 突然現れたチャイナドレスの女は雪菜の知り合いだったらしく、チャイナドレスの女ーー紗矢華の顔を見て雪菜は表情を明るくさせた。

 紗矢華も雪菜の顔を見ると駆け出し、目の前にいた古城を突き飛ばして雪菜に抱きつく。

 

 「雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜っ!」

 

 雪菜に抱きつくと紗矢華は雪菜の名前を連呼しながら力の限り抱き締めていた。

 

 「久し振りね!元気にしてた?怪我はない?あぁ、もう、雪菜っ!」

 

 突然の激しすぎる抱擁に雪菜は戸惑った様に声を上げて両手をパタパタと振り回すしかないようだ。

 そんな紗矢華を数秒間見つめた後、キリヲは紗矢華の方に歩みより声を投げ掛ける。

 

 「……その霊力、お前学校で式神を放ってきた奴か」

 「近寄らないでっ!」

 

 体から漏れ出す霊力から昼間の式神を放った相手だと推測して声をかけたキリヲに紗矢華は雪菜を抱き締めたまま鋭い声を張り上げる。

 

 「この、いかれた犯罪者!第四真祖だけじゃなく、こんな危険な犯罪者までいる場所に雪菜を送り込むなんて……獅子王機関もなんて惨いことをするのかしらっ!」

 「紗矢華さん……」

 

 感極まって涙を浮かべる紗矢華に雪菜も困ったような表情を浮かべる。

 

 「でも、大丈夫よ。すぐにわたしが二人まとめて始末するから。生命活動的な意味でも、社会的な意味でも」

 

 瞳にどこか病的な輝きを灯らせる紗矢華。

 

 「おいっ!突然出てきて何なんだコイツは!?」

 「煌坂紗矢華。獅子王機関の舞威媛です」

 

 あまりの物言いに古城が抗議の声を上げる。

 そんな古城に雪菜が苦笑を浮かべながら紹介する。

 

 「舞威媛?剣巫とは違うのか?」

 「舞威媛の真髄は呪詛と暗殺。雪菜に付きまとう者やあんた達みたいな害虫を抹殺するのが使命。分かったら、もう雪菜には付きまとわないことね」

 

 鋭い目付きで睨み付けてくる紗矢華に古城が思わず二歩ほど後退する。

 

 「ずいぶんと嫌われてるわね」

 「うるさい」

 

 ジリオラの茶化すような物言いにキリヲが強めに言い返す。

 紗矢華は相変わらず敵意全開の目付きでこちらを見ており、雪菜は紗矢華と古城のどちらに味方すればいいか決められずオロオロと視線を泳がせている。

 そして、そんな光景を楽しそうに眺めているヴァトラー。

 

 「……勘弁してくれ」

 

 古城は、星一つない黒い夜空にそう呟くのだった。

 

 

 

 




 現実が忙しくて更新ペースが落ちぎみですが、三日に一回は更新できるようにしていくつもりです。
 これからも、よろしくお願いいたします。
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