Jack the Ripper ~解体聖母~   作:-Msk-

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連続更新二日目。
MR編の四話です。
今回の話も辛い……。



ALO_MR:04

 シノンはここ数日の間、ジャックの様子がどこかおかしいことを気にしていた。

 

 彼がおかしくなったのは絶剣――ユウキと二人きりで会ったときからだ。

 

 ――もしかして浮気では。

 

 などと、浅はかな考えをすぐさま振り払う。

 

 彼が浮気なんてしないことは自分が一番理解しているし、何となくそういう系統のものではないと女の勘が告げていた。

 

 ただ、外出することが多くなったのは明らかだった。

 

 昼頃にシノンと一緒に昼食を取ったら別れ、夕方まで何処か知らない場所にいるのだ。

 

 一度スマホのGPSで追跡をしようとしたが、見事に別れた地点から動いていなかった。恐らく電源をすぐに切ったのだろう。

 

 ――そこまで警戒して行くほどの場所とは一体どこなのだろうか?

 

 気になってしまう。気になってしまうが、シノンは決して自分から聞こうとはしない。

 

 しかし。

 

 ――どうか危険なことはしていませんように。

 

 それだけがシノンの願いだった。

 

 

 

† † †

 

 

 

 日本の某所。地下の研究施設にジャックはいた。

 

 その研究施設の一室――モニタールームでジャックはある人物と二人きりで会話をしている。

 

 人物の名は菊岡(きくおか)誠二郎(せいじろう)。この研究室の室長であり、ジャックの上司である。

 

 

「菊岡。彼女の状態はどんな感じだ?」

「正直に言うと絶望的の一言に尽きる。あの状況からの復活はほぼ確実に不可能だろう」

「ほぼ、か」

「ほぼ、ね」

 

 

 ほぼ確実に。

 

 ほぼ、と不確定要素が入っていたことをジャックは見逃さなかった。

 

 99.9%不可能でも、0.1%は助かる可能性があると。

 

 そんなことを考えているのがわかったのか、菊岡は少し頬を緩めて、

 

 

「まぁ例のプロトタイプを使えば、()()()()()()()生き延びることはできるさ」

「……問題はそこだな」

「あぁ、そうさ」

 

 

 二人は表情を引き締めた。

 

 

「さすがにキミの感性とは違うだろうから受け入れることはないだろうけどね」

「だろうな」

 

 

 ジャックは自分の感性がおかしいことをしっかりと理解している。

 

 菊岡もジャックの感性が一般のソレとは異なっていると理解している。

 

 だからこそ。

 

 ジャックは自由に動き回ることは愚か、一般人の運動能力を大幅に超える肉体を手に入れることができた。

 

 

「病院に行ったが、彼女とは会うのは愚か壁越しに会話をすることもできなかった」

「まぁ、そうだろうね」

「あとはALOでこの話を持ち掛けるかだが……」

「正直オススメはしないね」

 

 

 会話の内容が内容だけに、外部に漏れる可能性は最小限にしたい。

 

 これが二人の共通認識だ。

 

 

「諦めるか」

「おや、キミがそんなことを言うなんて珍しいね」

 

 

 クスクスと嘲笑を浮かべる菊岡に、ジャックはいつも通りの調子で返す。

 

 

「無理なものは無理だ。無理をすれば痛い目に合うのは自分だ。自分の身を危険にさらしてまでアイツが欲しいとは思わない」

「そのようだね。――彼女の時とは違うようだし」

「まぁな」

 

 

 ジャック纏う雰囲気が少しピリついた。

 

 

「僕も驚いたよ。まさか銃にアレルギー反応を示していた彼女が、あれだけのスナイパーになるんだから」

「偶然、ってのは怖いな」

「それは彼女との出会いのことかい?」

「全てだ。出会いから今に至るまで全て」

 

 

 偶然、彼女に出会い。

 

 偶然、彼女と仲良くなり。

 

 偶然、彼女に銃のゲームを一緒にやろうと誘われ。

 

 偶然、彼女はその世界でトップを張れるスナイパーになり。

 

 偶然、彼女はジャックの隣にいる人になった。

 

 全ては偶然からなっているが、そこには必然もあったのかもしれない。しかしジャックは彼女との出来事を全て偶然、つまりは運命だと考えているのだ。

 

 

「絶剣と出会ったのも偶然だ。そこから発展しないのもまた偶然なのだろう」

「キミがそう思うならそれでいいさ。しかし――」

「「――もったいない」」

 

 

 無理だとわかっていても、どうしても欲しくなってしまう魅力が絶剣にはあった。

 

 

「彼女をAI化するのはどうだろうか?」

 

 

 菊岡が名案だとばかりにそう言った。

 

 それに対して、ジャックは少しばかり顔を歪めた。

 

 

「SAOの俺を元に作った戦闘AIが暴走しただろ」

「その頃とは違うさ。それに今回は少しばかり方式が違う」

「どうだか」

「キミを元にしたAIを作成したときは戦闘以外の余分なものを全て排除してしまった。だから暴走が起きたんだと思う」

 

 

 戦うこと以外は頭にない、文字通りの戦闘マシーン。

 

 故に細かい判断をすることができなかった。

 

 

「だが今回は感情というバグをわざと入れる」

「むしろその方が暴走しやすそうだけどな」

「そこはまぁ……ね。あと前回と大きく違う点がもう一つある」

「何だ?」

 

 

 ジャックの問いに菊岡は胸を張って答えた。

 

 

「今度のAIは成長するんだ」

「成長?」

「そう。最初はある程度の戦闘能力と子供並みの頭脳や感情しか持たない。だがそれを育てていくことで――」

「馬鹿面倒なことしてくれたな」

「――最後まで言わせてもらいたいな。でも想像の通りさ」

 

 

 ジャックは手を顔にやって天井を仰ぎ見た。

 

 その姿は、どうしてこうなった。と、言っているようだった。

 

 

「今回のAIは例のプロジェクトのプロトして制作するつもりだ」

「なるほどな。そのプロトはできが良ければあっちでのサポートとして使ってもいいんだろ?」

「もちろんさ。上手くできたらプロトにはバックアップになってもらうつもりだからね」

「……まぁその辺は上手くやってくれ。俺の仕事じゃあない」

「もちろんさ」

 

 

 菊岡は今までで一番イイ笑顔をジャックに見せた。

 

 

 

† † †

 

 

 

 ジャックとユウキのデュエルから数日後。いよいよユウキはギルド『スリーピング・ナイツ』にアスナを加えたメンバーでのボス攻略に乗り出した。

 

 まず、一度目の挑戦。

 

 これはボスの攻撃パターンなどを確かめるためにほぼ捨てに行った。これで倒せれば倒したいところだったが、健闘虚しく、ボスに勝利することはできなかった。

 

 約束通り、街に集まったメンバー。

 

 ユウキは悔しそうに愚痴るが、そんな彼女の手をアスナは急いで取る。

 

 ユウキ以外のメンバーに声をかけたアスナは、集まるようにせかした。

 

 

「のんびりしてる時間はないわよ!」

 

 

 いつになく切羽詰まった声音から、どれだけ真剣うかがえる。

 

 集まったメンバーに、アスナは説明を始める。

 

 曰く、ボス部屋の前にいた三人は、ボス攻略専門ギルドの斥候隊らしい。

 

 彼らは、同盟ギルド以外のプレイヤーがボス攻略をするのを監視しているのだと。

 

 斥候隊の目的は、ボス攻略をするプレイヤーの邪魔ではなく、ボスの情報収集。

 

 スリーピング・ナイツのような小規模ギルドの挑戦を利用して、ボスの攻撃パターンや、弱点の位置を割り出しているのだ。

 

 では、本人達がボス部屋にいないのに、どうやって情報収集をするのか? 

 

 ボス部屋の扉はすぐにしまってしまうのだから、大した情報を得ることは出来ない。

 

 ――闇魔法が一つ、ピーピング。

 

 他のプレイヤーに使い魔をつけて、その視界を盗む呪文である。この魔法を使うことによって、ボス部屋の中で起こっていることを全て見ていたのだ。

 

 そして、同時に25層と26層でスリーピングナイツが全滅したあとにすぐに攻略された原因でもある。

 

 

「また、まんまと噛ませ犬を演じさせられたの……?」

 

 

 ユウキが不安そうに、悔しそうに言う。

 

 

「いいえ、まだそうと決まったわけじゃないわ」

「え……?」

 

 

 俯いていたユウキは、アスナの言葉に顔を上げる。

 

 

「現実世界の時刻は十四時半。いくら大規模ギルドでも、こんな時間に大人数をすぐにあるめることは難しいはずだわ。そうね……少なく見積もっても一時間はかかると思う。その間隙をつくのよ!」

 

 

 ユウキの顔が明るくなる。

 

 

「あと五分でミーティングを終えて、三〇分でさっきのボス部屋まで戻る。いい?」

 

 

 ユウキの顔が、笑顔になる。

 

 パーティーメンバーのやる気が満ちる。

 

 

「うん!」

 

 

 ユウキは満面の笑みで返事をした。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 宣言通り五分でミーティングを終えたメンバーは、再びボス部屋に向かった。

 

 そして――

 

 

「な、なにこれ……」

 

 

 ボス部屋の前に群がるプレイヤーたちを視界に入れて、その足を止めた。

 

 

「大丈夫、まだ二〇人ぐらいしかいない」

 

 

 不安そうなユウキにアスナは言う。

 

 

「一回は、先に挑戦できる余裕はありそうよ?」

「ホント!」

 

 

 うれしそうに言うユウキ。

 

 アスナはそんな彼女を横目に、集まっているプレイヤーの一人に声をかける。

 

 

「私達、ボスに挑戦したいの、そこを通してくれる?」

「悪いな、ここは今、通行止めなんだ」

「えぇ⁉ 通行止めってどういうこと⁉」

 

 

 あまりの事態にアスナの声が裏返る。

 

 

 

「これからウチのギルドがボスに挑戦するんでねぇ……。今、その準備中なんだ。しばらくそこで待っててくれ」

「しばらくって、どのくらいよ」

「まぁ……一時間ぐらいってとこかな?」

 

 

 プレイヤーが平然とふざけた時間を言い放った。

 

 

「そんなに待っている暇はないわ! そっちがすぐに挑戦するっていうのなら別だけど、それができないのなら先にやらせてよ!」

「そう言われても、俺にはどうにもできないんだよ。上からの命令なんでね。文句があるのならギルド本部にいって交渉してくれよ。イグシティにあるからさ」

「そんなところまで行ってたら、それこそ一時間経っちゃうわよ」

 

 

 あまりにもふざけた問答に、アスナの感情はどんどん高ぶっていく。

 

 さらに文句を言ってやろうとしたところに、ユウキがポンと肩を叩いて落ち着かせた。

 

 

「ねぇ、キミ」

「ん?」

 

 

 アスナと変わってユウキが話を続ける。

 

 

「つまり、ボクたちがこれ以上どうお願いしても、そこをどいてくれる気はないってことなんだよね?」

「まぁ、ぶっちゃければそういうことだな」

「そっかぁ……じゃあ仕方がないね」

 

 

 やっと、納得してくれたか。相手の顔にはそう書いてあった。

 

 しかし、ユウキが次に放った言葉で、表情が一変する。

 

 

「戦おっか」

「はぁ?」

 

 

 相手は間抜けた声を漏らす。

 

 アスナも驚いたのか息を漏らし、それに合わせるかのように辺りに空気が乱れる。

 

 

「ゆ、ユウキ……。それは……」

 

 

 ユウキをたしなめるように言葉を発するアスナ。

 

 しかし。

 

 

「アスナ……。ぶつからなきゃ伝わらない事だって、あるよ。例えば――」

 

 

 ユウキがアスナの方を向く。

 

 

「自分がどれくらい真剣なのか――とかね」

 

 

 その表情は、とても楽しそうに笑っていた。

 

 ユウキの意見に賛成なのか、スリーピング・ナイツのメンバーも揃って前に出てくる。

 

 

「封鎖している彼らだって、覚悟はしているはずだよ。最後の一人になっても、この場所を守り続けるってね」

 

 

 呼吸をするが如く、当たり前のように。

 

 

「ね、そうだよね? キミ」

 

 

 ユウキは腰に下げていた細剣を抜いた。

 

 そして、駄々をこねる子供をあやすかのような声音で言う。

 

 

「さぁ、剣を取って」

 

 

 その圧に屈したのか、相手は剣の柄に手を添え、鞘から引き抜こうとする。

 

 瞬間、ユウキがその剣を弾く。

 

 衝撃に耐えられなかった相手は大きくのけぞり、返しの刃で胸元に一撃をもらう。

 

 戦が――幕を開けた。

 

 多対少。

 

 数の差は歴然。加えて少数のユウキたちは前と後ろを囲まれて逃げ出すことが出来ない状態にある。

 

 

「ごめんね、アスナ。ボクの短気に巻き込んじゃって。でも、ボク、後悔はしてないよ。だって、さっきのアスナ、出会ってから今までで一番いい顔で笑ったもん!」

「私こそ、役に立たなくてごめん!」

 

 

 ユウキとアスナは笑い、表情を引き締めた。

 

 

「この層は無理かもしれないけど……次のボスは、絶対にみんなで倒そう!」

 

 

 そう意気込んだユウキたちの背後に向かっていくプレイヤーたちの最後尾から一人、壁を走って前に飛び出してきた黒づくめのプレイヤーがいた。

 

 

「悪いな――」

 

 

 聞き覚えのある言葉に、アスナが振り返る。

 

 

「――ここは、通行止めだ」

 

 

 そこには、アスナの想い人――キリトが威風堂々と立っていた。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 キリトが格好良くアスナの前に飛び出し、相手プレイヤーたちから放たれた魔法をソードスキルを駆使して斬っている頃。

 

 ジャックは自分と容姿がよく似ている少女と手を繋いでプレイヤーたちから数メートルの場所で立ち止まっていた。

 

 

「ねぇねぇ、おかあさん。あの人たちは解体していいの?」

「あぁ、いいよ。間違えずにたくさん解体できたらご褒美をあげよう」

「ほんと!? わたしたちがんばるね!」

 

 

 解体、という物騒な言葉が少女の口から洩れるが、ジャックは気にせず自然に会話をする。

 

 両手にナイフを持つジャックが、開戦を宣言する。

 

 

「さぁ行くぞお前たち。――解体聖母(マリア・ザ・リッパー)

 

 

 

 灰色の霧があたりを埋め尽くし、プレイヤーたちを混乱させる。

 

 その混乱に乗じて、()()()()が襲い掛かる。

 

 ジャックの姿と瓜二つの少女たちは、地を這うように視認不可能な速度で走り出す。

 

 亡霊の少女たちはジャックからのご褒美の為にプレイヤーを狩る。

 

 

「あ――?」

 

 

 ある者は気づく暇も与えられずに首を斬られ。

 

 

「え――?」

 

 

 ある者は突如感じた悪寒と共に体を十六等分にされた。

 

 十人十色。少女たちは各々お好みのやり方でプレイヤーたちを解体していく。

 

 その手際はもはや芸術と言っても過言ではない。

 

 一切の無駄を排除し、人体を最も効率の良い方法で解体する。

 

 負けじとジャック自身もナイフとは別に大鎌を装備し、そのソードスキルで数人ずつ纏めて倒していく。

 

 そして。

 

 

「そして誰もいなくなる――と」

「ん? どうしたの、おかあさん」

「いや、何でもないよ」

「そっか。それでね、おかあさん……」

 

 

 モジモジと恥ずかしそうに少女は続ける。

 

 

「あぁ、ご褒美か。もちろんあげるよ」

「ホント!? ありがとう! おかあさん!」

 

 

 ひしっとジャックに抱き着く少女。ジャックはそんな少女の頭を撫でる。

 

 傍から見れば、似たような姿をしたプレイヤーが一方のプレイヤーに抱き着き、もう片方の少女の頭を優しくなでるという微笑ましい様子がそこにはあった。

 

 しかし――それは()()()()()()()()()()()()()()の話だ。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

「ジャックは一人で何をしてるんだ……?」

 

 

 ジャックの戦闘に巻き込まれないように華麗に二刀流を披露していたキリトは、彼を見てそうつぶやいた。

 

 キリトの目には、ジャックが何もない空間を撫でているようにしか映っていなかったのだ。

 




次話の投稿は明日の夜に間に合うか微妙です。
間に合えば同じ時間の前後にアップします。


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