Jack the Ripper ~解体聖母~ 作:-Msk-
GGOは全5話なのでそろそろ怪しい。
本戦もいよいよ大詰め、残るプレイヤーは一桁となった。
十数人もいたプレイヤーがこんなにも早く減っていった原因はジャックにある。
キリトとシノンが
あるプレイヤーは一騎打ちをしている際に後ろから首を狩り取られ。
あるプレイヤーは遠くのプレイヤーを狙撃しようとしていたところを背後から音も無く忍び寄られて首を狩り取られ。
あるプレイヤーは気づいたら首を狩り取られていた。
都市伝説扱いされてしまうようなことをジャックは平然とやってのけた。
トッププレイヤーなら可能だろうと思う者もいるかもしれないが、そうともいかない。
彼の装備はナイフと医療用メス、そして隠し持っていた二種類の鎖のみ。一切の重火器を持つことなくそれをやってのけた。
――もはや人間業ではない。
モニター越しに、観客の心は一つになっていた。
✝ ✝ ✝
橋を越え、廃墟都市に入る少し手前。
結局シノンとキリトは
シノンは追い抜いた可能性も考えたのだが、キリトがそれを否定する。何でも走りながらずっと水中を確認していたとか。
「そうしたら次のスキャンで
「それはいいけど、一つ問題があるよ」
人差し指をピンと立ててシノンは言った。
「
「あ、あぁ……そっか……」
気まずそうに視線をずらしたキリトが続ける。
「確か初出場の中でシノンが知らないやつは三人だったよな? そのうちペイルライダーは
「もし両方街にいたら迷ってる余裕はないわよ」
ゆっくりと進めていた歩みを止めた。
「あのさ、ふと思ったんだけど……。『銃士』をひっくり返して『士銃』――
「うーん……いや、まぁキャラネームなんてみんな安易だと思うけどなぁ……」
顎に手を当てて首をひねるキリト。
「俺は本名のモジリだし、キミは?」
「……私も」
二人とも見合ってしまう。
互いに苦笑いをして、空気が少しだけ和む。
「よし、両方いた場合は銃士Xの方に行こう」
キリトが廃墟都市へ歩みを進めながら言う。
「もし俺が、ペイルライダーと同じようにマヒしても慌てず狙撃体勢に入ってくれ」
「え?」
「
「……狙うのはあんたかもしれないよ?」
「キミはそんなふうに俺を撃たないことぐらい、もうわかってるさ。……さ、時間だ。頼むよ、相棒」
ポンと肩を叩かれたシノンは何とも言えない表情で先へ進むキリトの背を見る。
「協力するのは今だけだからね!」
そう叫んでキリトの後を追いかけた。
✝ ✝ ✝
ジャックが本戦で戦うのをちょっぴり楽しみにしているプレイヤーは三人いた。
シノン。
キリト。
そして
シノンはGGOで一番交流のあるプレイヤー。
キリトはフォトンソードをメインに使う変わったプレイヤー。
ステルベンはプレイヤーネームが強気だと思った。
そんな単純な理由だが、彼にとってはそれだけで充分だった。
ジャックからしてみれば今までの戦いは全て前菜の前の軽いお話。これから料理が運ばれてくる。つまりはこれからが本番というわけだ。
シノンはメインディッシュ。
キリトはスープ。
ステルベンはオードブルだ。
よって、彼の中で相手にする順番はすでに決まっていた。
まずはステルベン。
次にキリト。
最後にシノン。
この順番で相手の首を狩り取っていくと決めていた。
そんなジャックだが、現在は廃墟都市のビルの屋上に立っていた。
あたりを一望するには最も適した場所であり、獲物を見つけるための行動だ。
しかし。
彼の瞳にはシノンが狙撃され、倒れていく姿が映った。
ジャックは目を見開いた。
それはシノンが狙撃され、スタンして倒れ伏したからではない。
突然景色が歪み、そこからボロマントが――ステルベンが現れたからだ。
「だからサテライト・スキャンしてもわからなかったのか……。クソが――ッ!」
思わず漏れたその言葉。
そう、ステルベンが装備しているのは『
噂には聞いていたが、まさか所持しているプレイヤーがいるとも思わなかったジャックは、プレイヤーが本戦で使うという可能性をゼロとしてしまっていた。
その愚かさから自らを叱咤する。
だがすぐにそんなことはどうでもいいと思考を切り替える。
獲物が自ら姿を現し、他の獲物を狩ろうとしている。こんな絶好のチャンスはないのだから。
ジャックからシノンとステルベンまでの距離はおよそ1km――全力を出せば数十秒でたどり着く。
そう頭ではじき出したジャックは、自分のいるビルの隣のビルに目がけて鎖を放り投げた。
分銅がビルに引っかかり、鎖が巻き付く。
鎖の端を持ったジャックは、ビルから飛び降りた。
振り子のように隣のビルへと吸い込まれていく間、彼は腕に鎖を巻き付けるこによって高度を保つ。そして上手くビルの屋上に着地した。
目標の地点までの距離は、残り800mを切っていた。
✝ ✝ ✝
マップを確認し、銃士Xの下へと向かったキリトと別れたシノンは、ほんのわずかだがキリトのことを考えていた。
――
そんな余計なことを考えていたからだろうか。
あっさりと狙撃されて地面に倒れ伏してしまった。
視界が一瞬闇に呑まれ、再び開けた時にはもう地面に倒れ伏していた。
右端のステータスバーにはご丁寧にスタンを表す黄色い稲妻のマークがある。
――なに……?
あまりにも突然のことで思考が止まりかけるが、バチバチと音を鳴らす物体が自分の右肩に突き刺さっているのをどうにか目で捉えることで現在の状況が頭にぶち込まれる。
――誰?
確かに銃士Xはスタジアムにいた。では一体誰が……。
その答えは直ぐに現れた。
風景が人の形に歪んだその数秒後、あのボロマントの姿が現れたのだ。
ボロマントは恐怖を煽る様にゆっくりとシノンに近づいていく。チラリとマントが翻ったその下から見えた左手には、スナイパーライフルが握られていた。
目の前で立ち止まったボロマントが言う。
「キリト、お前が、本物か、偽物か、これではっきりする。あの時、猛り狂ったお前の姿を、覚えているぞ。この女を、仲間を殺されて、同じように狂えば、お前は本物だ」
殺す。
単純明快で恐ろしい言葉がシノンの頭に反響する。
「キリト、さぁ、見せてみろ。お前の怒りを。殺意を。狂気の剣を」
シノンは必死に腰のホルダーに収まるハンドガンに手を伸ばすが、スタンしているせいでほんの僅かしか腕が動かない。
「もう一度、見せてみろ」
ボロマントが十字を切るその左上に「REC」のポップが出ていることにシノンは気づいた。だが録画されているということよりも、この状況を脱したいという思いが強く現れる。
ようやく、ハンドガンに手がかかった。
だがボロマントの右手に収まるハンドガンのグリップを見て動きを止めてしまう。
――
この銃は、この拳銃は。シノンが幼少の頃に初めて使った――いや、使ってしまった。
なんで今ここに。なぜ今ここに。どうして今ここに!
疑問ばかり抱いてしまうシノンの思考は、荒れに荒れていた。
そうそれは――やっとの思いで掴んだハンドガンを取りこぼしてしまうほどに。
ボロマントが
ボロマントの赤い機械的な目に、あの男の顔が映った。
銃声と共に意識が停止、恐怖が体を支配する。
ボロマントの指が引き金にかかり、その引き金を今、引かれ――。
恐怖から目を瞑り、視界が闇に染まる。何もできない自分は死を待つのみ。
――だけど、まだ、死にたくない。
シノンがそう思った時だった。
バン、という
右下のステータスバーを確認しても、HPがゼロになっていない。それどころか一ミリも減っていない。
恐る恐る視界に光を入れると、そこには一本の鎖が宙から伸びていた。
シノンとボロマントは鎖を辿って空を見上げる。
視線の先には。
偶に出会う、それでもよく見知ったとても頼りになるプレイヤーがいた
――ジャックが地面に向かって落下していた。
✝ ✝ ✝
ジャックからシノンとステルベンまでの距離は残り200m。ちょうどビルの屋上から地上までの距離だ。
ここで普通のプレイヤーならビルの中に入り、階段を使用してビルを下るのだが……生憎とジャックは普通ではない。
彼はビルの側面を駆け下りて行った。
一切音を立てずにビルの壁を駆け下りるさまは、まるで忍者のようだ。
そしてシノンたちまでの距離が残り50mでちょっとした問題が起きた。
さすがのジャックもこれには一瞬血が沸騰しそうになるが、すぐに冷静になってシノンを生かすための行動に出た。
シノンたちまで残り30mのところでステルベンの引き金にかける指の力が強くなったのを察知して、鎖をシノンとステルベンの間に投げたのだ。
ジャックの腕力と重力に従って落下する鎖はもの凄い速度で突き進む。
そして。
見事にシノンを襲おうとした凶弾を弾くことに成功したのだ。
ステルベンが落下するジャックに顔を向けた。それを確認したジャックは、それはもう盛大に嗤っていた。
一瞬、ステルベンの体が硬直する。
それを見逃すジャックではない。
地面への着地と同時にスモークグレネードを地面に叩きつけ、スタンしていたシノンとヘカートⅡを抱きかかえた。そしていつも通りの変態機動を駆使してその場から離脱するべく走り出す。
だが一つ、いつも通りではないものがある。
それはシノンと馬鹿でかいヘカートⅡを抱きかかえているということだ。
いつもならできる高速機動も、シノンがいれば別だ。彼女が重りとなり、体の軸がブレにブレてなかなか速度が上がらない。
ふと、ジャックは背後からの殺気を感じ取る。
腰のホルダーからナイフの抜き、そのまま殺気をなぞる様にナイフを振るう。
キンキンキン、と金属同士がぶつかり合う音がする。ちらりとそちらに視線をやれば、真っ二つになった銃弾が三つ宙を舞っていた。
どうやらこのチャンスをみすみす逃してくれるほど甘い相手でもないらしい。そう考えたジャックは獰猛な笑みを浮かべる。
「ね、えぇ……。私の、ことは、いいか、ら。置い、て、いって」
冷や汗をかいているシノンが苦しそうに漏らす。
だがそうともいかないとジャックは冷静に思考を動かす。
何か決め手になるものが、逃走を成功させるためにはどうしたらいい。
考えに考えて出た結果が――
「ハァァァ!」
本戦前にシノンと一緒にいて本戦中も一緒に行動しているところを見た黒い長髪のフォトンソード使い――キリトにシノンを預けることにした。
突如現れたキリトは、ジャックたちの背後から迫る銃弾を彼の代わりにフォトンソードでさばいていた。その姿はジャックでも思わずひゅぅ、と漏らしてしまうほどアクロバティックなものだった。
「キリト、こいつを頼む」
「ちょっ、ま、おい!」
シノンとヘカートⅡをキリトに放り投げたジャックは、左腕に巻いていた鎖を開放して円を描くように振り回した。
その鎖の軌道に合わせるように銃弾がさらに飛んでくる。
全ての銃弾を弾いたジャックは、短くキリトに言う。
「行け」
「――っ! すまない!」
一瞬、目があっただけだが、キリトもそれで全てを理解したのだろう、すぐにシノンとヘカートⅡを抱きかかえて走り出した。
それを見送ったジャックは、キリトたちに背を向けるようにして立ち、向かってくる銃弾を鎖とナイフで処理をした。
ある時は鎖を振り回して。
ある時はナイフを縦横無尽に振り回して。
おおよそキリトたちへ向かうであろう銃弾の全てを処理した。
――そろそろか。
ジャックがそう思った瞬間、バギーのエンジン音が耳に届く。
これで一安心――ともいかない。
「よぅ、ステルベン。
「誰だ、貴様は」
追いついてきたボロマント――ステルベンがジャックから10mのところで立ち止まる。
「やはり覚えてないか。……まぁいいさ、プレイヤー同士が出会ったらやることは一つだろう?」
「ほざけ。貴様は、邪魔だ。ここで、殺す」
「――やってみろオードブル」
合図はなかった。
ジャックは医療用メスを投擲し、ステルベンはスナイパーライフル――L115A3を構えて間髪入れずに引き金を引いた。
チュイン、と高音があたりに響く。医療用メスとL115A3の銃弾がぶつかり合った音だ。これによって医療用メスは砕け散ってしまうが、そんなことをお構いなしにジャックはステルベンへ向かって走り出す。
ステルベンは逆にジャックから距離を取るべく、スモークグレネードを地面へ転がす。それを見逃さなかったジャックは、前傾姿勢を無理やり解除して後方へ飛び跳ねた。
なかなか晴れない煙の向こう側から、銃弾が数発飛んでくるが、ジャックは手に握るナイフで全て捌いていく。
――煙が晴れる。
互いの姿をさらし出した二人の手には、重火器は一切握られていない。
ジャックの手にはナイフが。
ステルベンの手にはエストックが。
そう、銃を冠するこの世界で二人が手にしている武器は刃物なのだ。
「貴様、その身の、こなし。――同士か」
「おいおい……。冗談でもお前たちと一緒にしないでくれ。お前たちは自らの快楽の為、俺は――仕事だ」
「ほざけ。どんな、建前を、吐こうが、本質は、変わらない」
「まぁ、お前たちのリアルがどうだか知らないが、俺は仕事だ。そういう境界線はきっちり引いてる」
やれやれといた様子でジャックは首を振る。
「まぁそんなことはどうでもいいじゃないか。さぁ、殺ろうぜ。お前もそれを望んでるだろ?」
「当たり、前だ。貴様を、倒して、俺の、強さを、証明する」
合図はない。
それでも同時に二人は走り出す。
ナイフを逆手に構えたジャックは、ステルベンが繰り出す刺突を丁寧に一つ一つ捌いていく。
刺突は全て人体の急所を狙われたものであり、その事実に少しだけ感嘆するのだがすぐにそんな思考は振りきる。
再び交錯。
まるで舞を躍るかのように可憐に、芸術的な動きでジャックは攻撃をする。その攻撃をエストックの腹で捌いていくステルベンの体が一瞬硬直する。
その一瞬を見逃すジャックではない。
ナイフで連撃を繰り出し、ナイフに意識が集中したのを見計らって回し蹴りを放った。その蹴りは綺麗にステルベンの腹に突き刺さる。
ポーン、地面と水平にぶっ飛ぶステルベンを追いかけるようにジャックは走り出した。
しかし。
ステルベンは数メートル飛ばされたところで体を捻って地面にエストックを突き刺すことで停止したのだ。
完全に虚を突いたと思ったのだろう。ステルベンの赤い機械的な目が怪しく輝いた。
前傾姿勢で体重が乗りに乗っているジャックは足を止めることはできない。加えて回避の動作を取ることもほぼ不可能。
その状態の彼にステルベンは容赦なくエストックを差し向けてくる。
「――甘いぜ」
ジャックはニヤリと嗤って、顔面に向かってくるエストックに思いっきり右手で持つナイフをぶつける。その反動でジャックの体が右に錐揉み回転して地面に着地する。
着地と同時に飛び跳ねたジャックはステルベンの首を狩り取るべく腕を伸ばす。――が、すぐに腕を引っ込めてナイフを地面に突き刺して無理やり自分の体を引き留める。
――右足のかかとをエストックの刺突が掠める。
あのまま腕を伸ばしていればエストックが突き刺さり、一時的に使えなくなっていただろう。
地面に着地したジャックはステルベンの評価を少し上方修正する。
このまま戦っても無駄に時間を使うだけ。もしかしたら何等かの影響で自分が殺られるかもしれない。そう判断したジャックは切り札を一つ切るべく、今まで使用していたものとは違う鎖を取り出した。
いつも使用している鎖は先端に分銅がついている。だが今回取り出した鎖の先端は、壁などに突き刺さる様にクナイになっている。
これがどういう意味なのか、察しのいい者なら気づいただろう。
――ジャックは鎖を左右にあるビルの壁に向かって投げた。
やっぱり三人称は難しい。
今まで一人称しか書いてこなかった自分にはこの程度が限界。
あとこれからSAOをMX4Dで見てきます。
アスナ……。
もしかしたら明日か、来週末にFGOの新作上げるかも。
こっちは週一更新の一人称。
正直こっちのほうが面白いかもしれない。
読み手は選ぶだろうけど。