Jack the Ripper ~解体聖母~   作:-Msk-

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お久しぶりです。
言い訳みたいになりますが、MR編は色々な説明的な要素を含みます。
書いている作者もGGO編の方が好きです。


ALO_MR:03

 場を沈黙が支配した。

 

 誰一人、その場から動くことはできず、声を上げることもできない。ただ茫然と宙に浮かぶジャックの勝利を知らしめる文字列と、それを背に悠々と歩く彼を見つめることしかできないのだ。

 

 この場にいる全員の思考は一致している。

 

 ――何が起きたのか全くわからない。

 

 ジャックが放ったOSS――『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』。その仕組みが、どのような剣劇だったのかがわからないのだ。

 

 霧が出始め、彼がぶつぶつと何かを紡ぎ――次の瞬間にはユウキのライフはゼロになり、ジャックの勝利で決着がついていた。

 

 目を逸らしたつもりはない。瞬きすら忘れるほどに観察をしていた。それなのにジャックがどのような動きをしたのかがわからないのだ。

 

 わからない、不明なことが多すぎる。

 

 だからだろうか、誰かが言った。

 

 

「まるで切り裂きジャックみたいだ……」

 

 

 誰かが漏らしたその言葉はやけに響いた。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 シノンはジャックが実際に例のOSS――『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』を見るのは初めてだった。

 

 故に彼がOSSを使うのを楽しみにしていたし、実際にモーションに入った瞬間までは笑顔だった。

 

 しかし。

 

 ――何よ、あれ……。

 

 それは声にできないほど理不尽なものだった。

 

 シノンの隣にいるキリトとアスナも呆然と立ち尽くしている。

 

 そう、SAOで最前線を張っていたあのキリトとアスナがだ。

 

 シノンの目から見て理解できた範囲は少なかった。

 

 ジャックがALOの魔法の詠唱とは違う、ただの日本語で言葉を紡ぎ。

 

 すると灰色の霧が立ち込め、彼の姿がぼやけ始めた。

 

 そして気づけてばユウキのライフはゼロになり、デュエルはジャックの勝利で決着がついていた。

 

 あまりにもわからないことが多すぎて、何をどうすればいいのかわからない。

 

 何から聞けばいいのか、何を聞けばいいのか。

 

 ぼんやりとそんなことを考えているうちに、ユウキに蘇生魔法がかけられ彼女が復活する。そして復活したユウキにジャックは近づき、耳元で二言三言何かを囁いた。

 

 そのやり取りに少しムッとするシノンだが、そこは彼女(せいさい)の余裕で楽々乗り切る。

 

 ジャックがユウキと別れてこちらへ歩いてくる。

 

 OSSについて問い詰めるついでに少しからかってやろうと、言葉を発しようとするが彼の表情を見てやめる。

 

 他の人にはいつも通りに見えるだろう。しかし長い時間一緒にいたシノンにはわかった。彼が少しだけ、ほんの少しだけ、

 

 

「面倒ごとになったのね」

「……あぁ」

 

 

 悲しそうな顔をしていたことを。

 

 ここでシノンは「何かあったの?」とは聞かない。オブラートに包んで「面倒ごとになったのね」と言う。

 

 よほどのことなら彼は自分から言ってくれるのだ。自分からわざわざ聞く必要もないと判断したのだ。

 

 

「うっかりデュエル中に口を滑らせてね。俺がSAOをやった理由を――」

「バカね」

「うっ……。それは俺自身が一番わかってるつもりだ」

 

 

 ポリポリと頬をかいて気まずそうに視線をずらすジャック。

 

 そんなジャックを見てシノンは微笑を浮かべた。

 

 

「というわけで、後日個人的に合って話すことになった」

「どういうわけよ、それ」

「あいつもベクトルは違っても俺と同じってことだ」

「なるほど……」

 

 

 ジャックの返答に、シノンはあっさりと納得した。

 

 シノンは知っている。

 

 彼がSAOをやっていた理由を。やらなければいけなかった理由を。

 

 それと関連付けて考えればあっさりと答えは導き出された。

 

 

「でも実際に合うわけじゃないんでしょ?」

「うん。適当な中立エリアで二人きりで合う」

「わかった。くれぐれも()()()()()()()()()()

「わかってるよ……」

「どうかしらね」

 

 

 あはは、と二人は声をそろえて笑った。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 アスナは目の前で起きた現象をどうとらえて良いのかわからなかった。

 

 灰色の霧が出てきたと思ったらいつの間にかユウキはジャックに倒されてしまっていた。

 

 いくら考えても、これ以上の結論が出てこない。

 

 キリトなら、ほんの少しでも先ほどの現象が何かわかるのではないか、と淡い期待から問う。

 

 

「ねぇキリトくん。さっきジャックくんが何をしたか分かった?」

「……日本語で何かを言ったと思ったらジャックの体の輪郭がぼやけたところまでは理解できた」

「そ、それ以外は……?」

「ナイフもぼやけてたと思う。あとはジャックによく似た何かがたくさん見えたような気がする」

 

 

 何を言ってるんだこいつは、と言いそうになるのを必死に抑えてアスナは先を促した。

 

 

「向こう側が透けて見えてたし、幽霊だったりしてな」

「もうっ! キリトくん!」

「いたた! ごめんごめん」

 

 

 キリトの言った「幽霊」という言葉にビクリと体がするアスナ。

 

 自分の苦手な話をされた腹いせにキリトの背中をバシバシと叩いた。

 

 

「でもそれ以外は本当にわからないんだよ。どうやって動いたのかとか全くわからなかったんだ。アスナはどうだった?」

「私もキリトくんと同じかな。その……ジャックくんに似た何かは見えなかったけど!」

「……本当は見えてたんじゃないのか?」

「み、見えてないから!」

 

 

 実は見えていたりする。

 

 しかし見間違いだと自身に言い聞かせるアスナであった。

 

 

「真相をジャックに聞いてみたいけど……あいつのことだから教えてくれないだろうなぁ」

「そうだよね……。無理には聞いたらマナー違反だしね」

「本当は幽霊の話をされるのが嫌なんだろう?」

「もうっ!」

 

 

 再びアスナはキリトの背中をバシバシと叩くのだった。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 デュエルの翌日。

 

 ユウキはジャックと約束通り二人きりで合っていた。

 

 場所はジャックが所有する誰にも知られていない新生アインクラッドのキープハウス。

 

 秘密の話をするにはもってこいの場所だった。

 

 

「それでお前は何を知りたい?」

「どうしてボクがアレを使ってるってわかったの?」

 

 

 ユウキの秘密がバレたのはジャックで()()()()

 

 一人目も気になるが、それ以上に二人目が気になってしまった。

 

 何せ、デュエルの最中に()()と言われたのだから。

 

 

「俺も似たようなものに約二年前に世話になった」

「似たようなもの? 二年前?」

 

 

 ユウキはアレに似たようなものとは一体何だろうかと考え、二年前という言葉と結び付けてさらに考えるが一向にわからなかった。

 

 故にさっさと答えを教えてもらうことにした。

 

 

「それって何?」

「お前の使ってるアレは現実世界と仮想世界(こっち)を切り離して仮想世界(こっち)で生きるためのものだ」

 

 

 うん、と頷き先を促す。

 

 

「俺が使っていたのは逆だ」

「逆?」

「そうだ。仮想世界での動きをキャプチャして、現実世界で再現するためのデータ回収機とでも言えばいいかな」

 

 

 はっきり言って、ユウキには何を言っているのかわからなかった。

 

 そもそも「逆」というには少しばかり違うような気がして、それがまたユウキの理解を妨げていた。

 

 うんうん、と唸って思考の渦に飲み込まれているユウキを見て、ジャックは分かりやすく説明をしようとする。

 

 

「説明が難しいな……。ソレを使ってSAOに行くことで、歩行、跳躍とかに使う筋肉の動きとか関節の動きとかを数値化して――ってこれもなんか違うな」

「超簡単に言うと?」

「仮想世界の動きを現実世界でやりたいからデータ取ろうぜ。――だな」

「なるほどわかった」

 

 

 初めからそう言ってくれればいいのに、と思ったユウキだが、目の前でうなだれているジャックを見て口に出すことはやめた。

 

 

「でもそれだけじゃ、ボクがアレを使ってることがわかるわけじゃないよね?」

「根拠の一つをつくるには充分だ」

「それって何?」

「キリト――お前の言う一人目がわかった理由と似てるが、あまりにも速すぎたからだ」

「それってボクが?」

「そうだ」

 

 

 なんでそれだけでわかるんだ、とユウキは思ったが、次の一言でそれはあっさりと解決した。

 

 

「お前の反応速度は仮想世界を現実世界のレベルで過ごした者でしか出せないものだ。SAO生還者(サバイバー)の奴らが知らないプレイヤーでそのレベルに達してるってことは、日常的にVRマシンを使う状況にあるってことだ」

「なるほどね……。それでわかったんだ」

「そういうことだ」

 

 

 日常的にVRマシンを使う。つまり、現実世界で日常を過ごすのではなく、仮想世界で日常を過ごすこと。

 

 仮想世界で生きている今のユウキにこれほどしっくりくる表現はない。

 

 

「それで? それだけを聞きたくて二人きりで話したかったわけじゃないだろ?」

「うん。はっきり言うね?」

 

 

 すぅ、と息を吸い込む。

 

 

「ボクと、ボクたちと一緒にボスモンスターを倒してほしいんだ!」

 

 

 言ったぞ、とユウキは少しだけ気持ちが晴れる。

 

 あとはジャックの返答次第だが……。

 

 

「断る」

 

 

 返答はユウキが望んだものではなかった。

 

 しかし、予想をしていたものではあるのですぐに思考を切り替えることはできた。

 

 

「そっか……。まぁ、そうだよね」

「わかっていたなら聞くなよ」

「いや、もしかしたらって思ってさ」

 

 

 あはは、と苦笑いをするユウキを見て、ジャックは溜息を吐いた。

 

 ユウキ自身、ジャックがボス攻略に強力してくれるとは思っていなかった。

 

 アスナから彼の性格は聞いていたし、彼があまりボス攻略をしたがらないことも聞いていた。

 

 ダメで元々。受けてくれたらラッキー程度に考えていたのだ。

 

 

「じゃあもうお開きにしよう。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「――うん。気が変わったらメッセージ送ってよ。いつでも歓迎するから」

「あぁ」

「じゃあね!」

()()()

「――っ! うんっ! またね!」

 

 

 ユウキは笑顔でジャックのセーフハウスから出て行った。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

「ままならないな……」

 

 

 ユウキがハウスから消えていったのを確認したジャックは一人ぼやいた。

 

 自分と似たような境遇の人間のせいか、どこか感情的になっている。本人はそれを自覚しているし、自覚しているからこそ、

 

 

「――惜しいな。アレは一種の才能なのに」

 

 

 すんなりとこの言葉が出てきた。

 

 ジャックの頭では、現実世界で動き回るユウキが完璧に想像できていた。

 

 自分と背を合わせて修羅場を潜り抜け、任務を成功させるビジョンが見えていた。

 

 

「ダメ元でアイツに聞いてみるか。病状によっては案外すんなりとどうにかなってしまうかもしれないな」

 

 

 もしくは。

 

 

「――もし駄目なら例のプロトを使えるかもしれない」

 

 

 だがそれは人としての生を終えることになる代物。

 

 あくまでもプロトは最終手段。できることなら、彼女は人のままでと思うジャックだが、

 

 

「どうしてもあいつが俺のチームに欲しいなぁ……」

 

 

 シノンへの感情とは違うが、本当に悔しそうにジャックはぼやいた。

 

 GGOのクランやALOのパーティとは別のチーム。キリトやアスナたちはもちろん、最も親しいシノンですらその存在を知らないジャックの仕事用チーム。

 

 彼はそのチームにユウキが欲しくてたまらないのだ。

 

 

「ラースに行こう。まずはそれからだ」

 

 

 いつになくやる気を見せたジャックは、ログハウスから消えていった。

 




明日も期待だけはしておいてください(答えるかは不明)。
感想の返信は少しお待ちください。
そうしないと凹んで更新できなくなるかもしれないので。
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