「ブラック鎮守府に961社長が着任したら」どうなるのっと。   作:続空秋堵

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人間、自重することって大事よね。


って金が入ってねーじゃねーか!

 身も心も凍る冬を越え、季節は春の訪れが感じられた。新たな命が芽吹き、冬眠へと向かった動物たちはその芽吹き達に惹かれるように戻ってきた。新たな葉や花が生まれ鳥すらも囀りこのやってきた春を祝福するかのように様々な命が戻ってくるのだ。この鎮守府の庭にある桜の木だって同じ。蕾を付け膨らませ開花するときを待っている姿は恋人とのデートの待ち合わせのようなものだろう。

 そんないろんな物が、いろんな者が浮かれ喜ぶ姿に艦娘の姿も混じって色をつけた。

 

 あの恐怖と緊張の給料日から一週間。

 この給与明細が本物であると長門から告げられたのだ。艦娘たちは小躍りして自分たちの仕事が認められ報酬に金を得たのだと喜び肩を抱き合った。今までこの鎮守府で、そう前提督の豚野郎のときは、どれだけ寝る間を惜しんで働こうが空腹に苦しみ働こうが、その艦娘たちの給料は提督に入っていたのだ。

 兵器に金は必要ないのだと彼は笑っていたが一部、いや全員が不満を抱いていただろう。

 

 だが、もうそんなことで悩まなくていい。ついに、ついに艦娘たちは本当の給料を得ることができたのだから。

 この一週間は皆が期待し危険性がないか調べてくれた長門率いるチーム「トロは大トロ豚は豚トロ」には頭が上がらないだろう。彼女たちはこの給与明細は本当であり、一切の虚偽はないのだと証明してみせたのだ。

 

 そして起こった大歓声中、興味ないねと突っぱねていた重巡摩耶の頰も柔らかくなっていた。

 

 

 だが彼女は知らない。これから起こる物語は実話で身の毛のよだつような恐怖に震えるのだと。

 

 

 

 

 摩耶は机の上に置かれた給与明細と書かれた袋を見つめて瞬きを繰り返した。手で持って遠ざけてみたり、近づけてみたり。そうしてみてもその四文字は変わらず自分の手にあるのだとやっと確信すると彼女は上機嫌に笑った。

 

「にひっ♪」

 

 はっきり言うなら浮かれているのだ。初めての給料に、初めての対価に。

 調子に乗っている彼女は鼻歌まじりに言葉を呟いた。

 

「いやぁ提督も良いとこあんじゃん。あの豚野郎とは違ってこうして給料くれるしよー」

 

 こんな時ばかり良い言葉が出てくるものだ。彼女は今まで態度とは裏腹に提督への感謝を漏らす。

 一通り言った後に机に置いた給与明細をもう一度見つめて

 

「にしし♪」

 

 またもや笑うのだ。

 それもそのはず。初めて自分で働いて得た金というのはなんとも特別に感じる。その入っている金で自分が認められているのだと思えて仕方がない。だから彼女は浮かれている。誰も責めることはしないだろう。

 

 だが、止めておけ。

 

 この鎮守府で期待とは常に裏切られるものなのだ。

 

「さーて、じゃあ中身を見てみるかなー」

 

 上機嫌に袋を開け、開け口に手を出して大きく振る。

 そして出てくるのは明細書。あたりまえだろう。

 

「んだよ。こんな紙どうでもいいし」

 

 そしてもう一度振る。

 しかし何も出てこない。

 

「んぁ?」

 

 摩耶は目を点にして呆ける。そして思うのだ。

  

 え、これだけ?

 

 沈黙が支配して聞こえるのは彼女の息の音だけ。

 そして摩耶は意識を戻し大きく息を吸っては大きく吐く。

 

「って金が入ってねーじゃねーか!」

 

 殺す、あいつ絶対殺す!

 摩耶はそれを知らぬ故に憤怒し給与明細を握りしめて執務室へ向かった。ドンドンと足音を立てて執務室の扉のドアノブすら回さず蹴り飛ばし強引にドアを開けた。

 

「おい提督、これはなんだ!!」

 

 バンッ!と叩きつけるようにしわくちゃになった給与明細を出した。提督はあいも変わらず姿が真っ黒で表情の一つも見えないが彼はため息を吐くようにしてペンから手を離す。

 

「……給与明細だが?」

「違うそうじゃねーって!」

 

 なんでわかんねーかな!摩耶は怒りでどうかしてしまいそうだ。

 いや、ほらアレじゃん?給料って言ったら貰った袋の厚みで「よっしゃ!今回は給料多いな!」だとか「ちぇっ、すくねぇな」」だとか一喜一憂するもんじゃねーの?いや貰ったことねーからわかんないけどさ。

 今回の袋の厚みは全くなかったから少ないとは思ったがお札の一枚も、いや小銭すら入ってないなんて裏切られた気分だ。

 

 そう思う摩耶だった……。しかし当然である。だが、彼女は知らないのだ。給与明細とは明細書があるだけで中に金が入っている訳ではないと。

 

「変な紙切れ一枚入れてメインである金が入ってねーってどうゆうことだよ!」

 

 そこまで聞いて提督は、またもやため息を一つ。

 

「ノンノン、それぞれ個人に違う袋を配っただろう。そこにあったカードを使うんだ」

 

 カード?と摩耶は思案する。確かに、給料を貰った日に部屋に置いてあった袋にはカードと提督の手書きなのか数字が書いてあった。それを使えだとかどうこう書いてあったが数字を使うなんて提督も訳の分からんことを言うと思ったが。

 数字はなんだったか。そう確か「1108」だったはずだ。だがその数字になんの意味を持つのか。駆逐艦たちが見ていた探偵物のあにめにも、こうした謎を呼ぶ数字が書いてあったりした。

 

 カード、そして数字を使え……。

 摩耶は考える。考える。そうして考えた摩耶の結論は!

 

「(つ、つまり……私の手取りは千百八円……!!」

 

 大金じゃねーか!摩耶は目を見開く。カードを使えのくだりを既に忘れている摩耶のおつむは弱いようだ。

 

「(だが手取りは私の元にない。ってことは……)」

 

 摩耶は思い耽った後に表情を暗くして俯いた。

 それを見て提督が声をかけようとするが。

 

「この人でなし!」

「」

 

 そう、摩耶の出した結論とは。

 手取りの千百八円を使ってカードを勝手に買ったのだと結論付けたのだ。ちがう、そうじゃない。この状況を見た者は誰もがそう言うだろう。だが勘違いをする摩耶の怒りが止まることはなかった。

 

「私が、私がせっかく頑張って稼いだお金で……世話になった姉貴たちに恩返ししようとしたのに……ッ!」

 

 怒りのあまり、だんだん悔しくなって涙が溢れてくる。

 前提督の時に酷い体罰を受け続けた私たち。だが身を挺して庇ってくれたのが、高雄に愛宕だった。二人は私と妹に一切の手を出させない代わりに拳を振るわれていた。

 

 それをただ見ていて悔しくなった私にはどれだけ悔しいだとか惨めだとか思ったとしても体が縛られたように動けなくなって暴力を振るわれる二人を見ることしかできなかったのだ。

 こんな性格故に、普段お礼の言葉だとか言えなかったけど、今回で自分で稼いだお金で何か買ってあげてお礼をするつもりだったのだ。ずっとそのことを考えてこれからどうしようかと心踊らせていたのに、それを一瞬にして踏み弄られた。

 

 摩耶は泣き喚き、逃げるように執務室を去ってしまう。扉を半壊させて。

 

「ウィ……」

 

 後日。もう一度給料の受け渡しが始められ、その袋には金額がそのまま入るというちょっと昔ながらのやり方に苦悩した提督だったが喜ぶ艦娘たちを見てそっと執務室へと身を返したのでした。

 

 

 

 




短くてごめんね!本当は二本立てだったけど給料話終わらせたよ!
それとこれから投稿は遅くなります。ファンタジア大賞に送る作品のんびり書いているので。賞にデビューはまるで興味ないですが個人的に昔ファンだった三人に見てもらえるだけでwktkです。


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