奥へ奥へ進んでいくと、道の幅にばらつきが見えた。体を縮めないと進めなかったり、ドーム状に開けた場所があったりと、地図でもなければ迷う。
しかし、今のラルスにはそんなことを考える余裕もなくただ前に進んでいく。
「……いたずらモグラー、おーい」
壁に手をついて、ふらふらになりながらもモグラ達を探すべく、必死に迷路のように入り組んだ道を歩く。呼びかけるも声だけが反響し、肝心のモグラ達からの反応はなかった。
「アドリスク……」
アドリスクが一人頑張っていたのは知っていた、周りの期待を裏切るまいと懸命に鍛錬していたことも。そんな彼でもあのボストロールには勝てないかもしれない。マルカと二人でもその予想は変わらない。
だからこそラルスは、カストコを眠らせたままこの洞窟内で唯一協力してくれそうないたずらモグラ達を探していた。傷を負ったという彼らのボスを自分がホイミを使って回復させれば十分ランドンに対抗することができるだろう。
「だから早くモグラ達のねぐらを探さないと」
歩き回っているのだが気配どころか足音一つ聞こえてこない。入口から離れすぎたのか戦闘の音も聞こえてはこなかった。
ただ焦燥感だけがある。
その一方でラルスの顔色は悪い。病人のように青白い顔をしていた。
さっきまでラリホーを成功させるべく何度も唱えていたこともあるが何より、一人になったことで考え事が増えた。
ランドンは言った。賢者の使徒は自分が殺してきたと、時期的に考えれば恐らく三年前からになるだろう。その人たちの中には大勢知り合いがいた。いやラルスにとっては家族にも等しい存在も。
「海賊になって大海原を駆けるのが夢だったイワン。冒険者になって着の身着のまま自由になりたいといっていたサドラさん。いつかシスターのように自分も親がいない子供たちの面倒を見てあげたいといっていたリーシア姉さん、それからマルコスさん……みんなみんな死んじゃった、」
目に熱いものが来るのを感じながら、ラルスは歩く。涙を流すのは全てが終わってからだと自身の感情を押し殺し鼻水をすすった。
「……いたっ」
足に何か大きなものがぶつかりラルスは思わずかしの杖を離して前に転んだ。口に入った砂を口から出すと立ち上がりほこりをはらった。幸い大きなけがをすることもなく前に進もうとしたが足元にあったそれはとても無視できるものではなかった。
「がい……こつ?」
どうやら自分は骸骨の頭を蹴り飛ばしたらしいと認識するまでにラルスは少し時間を要した。
「そうか」
洞窟大討伐の末に死んだ兵士か、それとも賢者の使徒かそれは分からないがラルスはそのがいこつに向かって膝をつき、両手を合わせた。
「神よ、大いなる神よ。死してなおこのような状態で現世にいる者に安らぎを与えたまえ」
頭を下げ、祈る。その所作は洗練され、神父とも引けをとらない見事なものだった。ラルスは深くうなだれると再び立ち上がった。
「すいませんあとで必ず埋葬しますから」
死体は転んだ影響か、骨が散らばっていた。死体は教会が孤児院の役割をしていたこともあって見慣れてはいたが骸骨は初めて見る。ラルスはあとで来た時にちゃんと埋葬が行えるよう今のうちに骨を一つのところに集め始めた。
骨には損傷はなかったのでもしかしたら、死因は餓死かもしれないとラルスが思い始めたとき骨に包まれている、紙を見つけた。
右手に包まれたそれは、誰かにあてた手紙のようだった。
広げた瞬間ラルスはそれを落とした。
「そんな! でも、……やっぱり……これって」
単体ではなんら意味のない単語を並べラルスは放心状態になる。そして本当にあの人があの娘にあてた手紙なのか恐る恐る最後の紙を開いてラルスはとうとう倒れてしまった。
『前略マイナン様』
『あなたの兄マルコスより』