「ああ、どうすればいいんだろう」
「落ち着け、落ち着けここは一旦冷静にだな」
「生きてる……よね?」
――なんだろう。すぐ近くで誰かが喋っている
ラルスが体を起こすと、そこには大勢のいたずらモグラがいた。かつて住んでいた教会ほどの大きさのその洞穴は多くの道具があった。雑貨はもちろんスコップは大量に、そしてなぜか楽器が多く見受けられた。
「目が覚めた!」
「早速ボスに知らせないと!」
「まずは元気かどうか聞かないと」
けだるそうに起きたラルスにモグラ達は慌てふためく。
「あれ、どうして僕はここに?」
「倒れていたんで運んできたモグ」
疑問を口にすると、入口で出会ったキラーピッケルがそれに答えた。
確か自分は歩いていたはずだ、歩いてそして骸骨に躓いてそれで……。
手元に視線を落とす。そこにはくしゃくしゃになっても持っていた手紙が一通。
魔力消費の疲れもあったのだろう。しかし決め手になったのは知人の遺書を見てしまったせいだとラルスは思った。
実際なぜこんなことになってしまったのか。ランドンは言っていた王様は僕たちを生贄にしていると、それで国を守っていると。王様は許せないが、しかしなぜアドリスクだけを遅らせたのかそれが引っかかる。もしかして王様はランドンが倒されるかもしれないとそのことを危惧したのかもしれない。
ここでランドンを倒した場合、信じられないが多分国は滅びる。王様が脅されているのだ、それだけでも現実味を帯びていた。
国が滅びるということは大勢のひとが死ぬ。マイナンもシスターも、王様は当然ながら。だとすれば、この頃彼……クルリドの姿が見えなかったのは。
「偶然……なんだろうか」
そもそも王は今日の昼間なんと言っていた? 確かあの時王は……
旅立つ直前、王の言葉に『賢者の使徒』は絶句した。昨日のパーティーで見かけることはなかったものの、絶対に彼ら二人は来ると思っていたからだ。
「さっきも言った通り、賢者の孫ルルムソクト=アドリスクは体調を崩し今からの出発は間に合わん。それからレストンは一週間前から行方が知れん」
再三の言葉に不安が走る。
今期はレストンとアドリスクがいるのだ。もちろん基礎訓練は済ませたものの、真面目にするものはあまりいなかった。
魔王が倒れた今現在、『賢者の使徒』は一種の度胸試しのようなものになっている。もちろん、アドリスクのように魔物退治に勤しむものや商人の町キアラでウガタン老師に教えを乞うものもいるが大半は隣町ラスぺスタに行って帰るというピクニックにでもいくような気分でこの場にいた。
「しかし案ずることはない。心配せずとも夕方には治っておる。賢者の孫は目覚めしだい、すぐに君たちに追いつくから安心して向かうがよい」
その言葉を聞いて皆大いに歓声を上げた。『夕方には治る』。そう断言した王の言葉に疑問を持つものはいなかった。マルカとラルスを除いては。
「ちょっとなにあれ」
「……僕には全然分からない」
王の言葉を聞いて二人は唖然とした。
本来『賢者の使徒』は自由参加だ。例え王であろうとも強制はできないはず……それが二人の共通認識だった。
今日二人がこの場にいたのは、自分たちが不参加であること、とくにアドリスクの不在は言っておかなければまずいと思ったからだ。
「納得いかないわ。早く王様に取り消してもらうよう頼まないと」
「ま、まってよマルカ」
ラルスの制止もむなしく単身マルカは人込みをかき分け王のもとに向かった。警護兵に重い一発をお見舞いしながら向かうとすぐさま取り押さえられた。
「は、はなせ私は王様に用があるんだ」
「貴様のような人間を王に近づけるものか」
ラルスが遅れて着くと、数人の兵士に押さえつけられているマルカの姿があった。ラルスがやめさせようと近寄る前に声が聞こえてきた。
「これこれ、大切な『賢者の使徒』に対して無礼であろう」
「しかし王様……」
マルカを抑えつけていた兵士はおどおどしながら王様に答えた。王様の登場で力が緩んだのかマルカがすぐさま抜け出した。
「ソルクトルム王。無礼を承知の上ですが、とてもアドが……賢者の孫が今日中に出発できるとは思えません」
「治っておるから心配せずともよい」
「僕たち、さっき会いましたけれどとても今日中には……」
「なんじゃお前たちワシが嘘をついているとでも申すつもりか?」
「いえそんなことは……」
王様はアドリスクが病に侵されていることを知っている。それについては別に問題視してはいない。それぐらいは把握していても不思議ではない。
しかしながらなぜこうも断言できるのか、まるでいつ治るか知っているみたいじゃないか。
「ええい不快じゃな、おいこいつらをつまみだせ!」
マルカの真っすぐな視線に憤慨したのか、数分前とは別人のような口調で兵士に命令した。
「はは! 直ちに」
それから二人は乱暴に城の外に放り出された。
「あんたたちの顔覚えたからね」
兵士たちに恨めがましい目を送ると、兵士はいそいそと退散した。
「ちょっとおかしいよね?」
「ちょっとどころじゃないわよ。狂ってるわ」
マルカは少し疲れた様子で髪をかきあげると、ラルスに向き直った。
「とにかく行くしかないみたいね……とりあえず私が起こしに行くからラルスは協会の方で待ってて」
「うん。分かった」
そこで二人は別れた。
確かあの時もクルリドはいなかった。