ドラゴンクエストゼロ 始まりに向けて   作:田んぼ二キ

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第Ⅰ章 6 窮地

 カストコ――勇者ヘクトル、賢者ルルムソクト=ウエンディ、そして最後まで素性を明かさなかった、エドバニア王国団長の戦士とともに魔王ロクタス打倒の為、野をかけ、山を駆けた名馬であった。

 もちろん冒険は大変だった。魔物の攻撃を受けることはざらだし、何より強大な敵を前に三人を安全な場所に移すということもあった。

 しかし、数十年前に魔王が倒されてからカストコはソルクトルムに預けられた。

 

 

――自分はもっと走りたいのに

 

 

 そんな願いも届かぬまま、ウエンディは旅に出て、ヘクトルと戦士はそれぞれの国に帰ってしまった。

 

 

――走りたい

 

 

 ただそれだけなのに、王国の者はカストコをあまり走らせたくなかった。

 英雄達の馬に何かあったら――というのは建前で、カストコの食費を削るためだった。他の馬よりも体躯は小さいがよく食べるため食費が馬三頭分に値する。走れば当然食べる量も増える。そのため、カストコの筋力は全盛期とは比べ物にならないほど落ちていた。

 先代国王は、自分の代でカストコが死ぬだろうと思いサラス大森林を自由に駆けまわせていたものの、先に国王が死んでしまった。

 だから今日、外に出るのは久しぶりだった。今の国王は外に出ることすら許さなかった。

 カストコは一目見たときアドリスクがウエンディの血縁の者であると分かり、歓喜したと同時に落胆した。

 

 

――もう自分には何もできない

 

 

 そのことが悔しかった。もっと早く来てくれていたら君たちと一緒にどこへだって行けたのに。

 歩くことさえおぼつかない。荷物を持つだけで精一杯。足手まとい。

 チャランを運び終えた、カストコはソルクトルムの外で座り込んでいた。

 もう先は長くないと自分が一番わかっていた。これ以上迷惑はかけられない。

 

 

 しかしふと昔の記憶が蘇ってきた。

 

 

――それはいつだったか……確かウエンディが旅経つ前か。

『カストコすまないな、お前はここで留守番だ』

『そう嫌そうな顔するなよ』

『今回は個人的なことだからな、あれは夢だったかもしれない幻だったかもしれない。だけどわしは再び世界が闇に包まれるのなら、できる限りのことはしておきたい』

『だからもしお前がアドリスクについていくことがあったら、その時は……』

 

 

――お前の足でアドリスクを助けてくれないか?

 

 

 カストコは立ち上がった。そして洞窟にめがけ走っていった。

 寿命だろうが筋力がなかろうが、歩みを止めることはない。

 その姿こそまさしく英雄の馬に違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エッサホイサ、エッサホイサ、エッサホイサ……」

 

 

 入口付近で不可思議が音が生じていると気づいた三人は穴に隠れこれからどうするか考えていた。

 

 

「なんか仕切ってるのがキラーピッケルだよな……ピッケル持ってるし」

 

「うん、であの灰色? 大ネズミみたいな色の岩を押してるのがいたずらモグラだと思う」

 

「ねえ、ぶん殴ったら終わりじゃないの?」

 

 

 音の正体はいたずらモグラ達が入口を塞ぐほどの大きな岩を押していることだった。

 いたずらモグラは二足歩行の魔物で、普段はスコップを手に襲ってくるのだがその武器はどこにも見当たらない。

 キラーピッケルはその名の通りピッケルを手に黄色いヘルメットといういで立ちでどちらもアドリスクの身長の半分の大きさしかなかった。

 いたずらモグラが六匹、キラーピッケルが一匹。いたずらモグラしか押していないことを考えると恐らく監視役か何かだろう。ならばそいつを倒せば何とかなるというのがマルカの意見だった。

 

 

「だがなあ、そもそもあいつらに入口を塞ぐメリットがあるのか?」

 

「殴ってから考えよう」

 

「いやいや、マルカそれはいくらなんでも……」

 

「僕はマルカに賛成かな」

 

 

 アドリスクは耳を疑った。

 

 

「ラルス本気か? これまでの道中ほんとにおかしなことばっかだぞ。魔物は出てこないは、チャランはおかしくなってるわ、出てきたと思ったら岩押してるは、明らかに俺たちを狙っているとしか考えられない」

 

「うん、だからこそだよ。僕たちを狙ったのなら当然同じ括りで出発した『賢者の使徒』も狙われているはず。ここであいつらを倒したら何か情報が掴めるかもしれない。早く追いつくためにも情報はあったほうがいい」

 

「そ、そう私もラルスと同じ考えだったわ。うん」

 

 

――ラルスの意見は最もだな。マルカ? 誰だそいつは?

 

 

「よし分かった。ラルスは援護を頼む。でも補助の呪文はかけなくていい回復優先だ。マルカはキラーピッケルを頼む俺はいたずらモグラどもを倒すから」

 

 

 言い終え目くばせすると、入っていた穴からまずマルカが飛び出した。

 キラーピッケルが気づいた時にはもう懐にはいっており、マルカは回し蹴りをくらわせた。

 

 

「魔物にもみぞってあるのかしら」

 

 

「隊長、隊長」

 

 

 いきなりの出来事にいたずらモグラ達は手を止め、キラーピッケルに駆け寄ろうとする。

 が、先行していた一匹が空中に飛ばされたのを見て、いたずらモグラ達は固まった。

 

 

「悪いな、あいつはタイマンじゃないと調子でないみたいでな」

 

 

 飛ばしたアドリスクは剣を構え戦闘態勢に入っている。悟ったいたずらモグラ達は倒された仲間の為一矢報いようと相棒のシャベルを……

 

 

「ああ!、アジトに置いてきちゃったよー」

「ほ、ほんとだ……俺たちどうしよう」

「どうするもこうするもないよーーー」

 

 

 一匹は頭を抱えて走り出し、もう一匹はその場で頭を押さえしゃがみ、残りの四匹は飛ばされた一匹を介抱し始めた。

 

 

「な、なんか調子狂うな……」

 

「アド、こっちは終わったわよ」

 

 

 言って、ボコボコになったキラーピッケルを乱暴に放り投げた。

 

 

「なんなの? この状況は」

 

「俺にもわからん」

 

「僕に任せて」

 

 

 念のため隠れていたラルスは言うと、魔物の治療を始めた。

 

 

「神よ。この者に癒しの力を……ホイミ」

 

 

 終える頃には、いたずらモグラ達は一心にラルスを見た。

 

 

「ど、どうして治療を?」

「そ、そうだよ俺たちはあんたらを閉じ込めようとしたんだぞ」

 

 

 ラルスは普段孤児院の子供たちに接するように腰をかがめ優しい声音で言った。

 

 

「だって君たちは悪い魔物じゃないでしょ? ごめんねアド、マルカ」

 

「いいぜ、ラルスのお人よしは今に始まったことじゃないし」

 

 

 それから傷が治った彼らは熱望したようにラルスを見つめた。

 

 

「世の中にこんなにいい人間がいたなんて」

「俺たちは彼らになんてことを……」

 

 

 真摯な心に打たれたのか、ラルスの言葉にいたずらモグラ達は涙を浮かべ各々懺悔を並べ立てた。

 

 

「すまねえ。いくらあいつの命令とはいえ……」

 

 

 キラーピッケルがはヘルメットを脱ぎ頭を下げた。

 

 

「いいよ。それよりもあいつって?」

 

「俺たちは元々、ここで穴を掘って地下にあるアジトでボスのもと平和に暮らしていたんだ。それが三年前……」

 

 

 ドドドッーーーン

 

 

 キラーピッケルの言葉を遮る形で地響きが鳴った。すると彼は、目の色を変えた。

 

 

「ま、まずい。あんたら早く逃げろ。まだ入り口は半分ぐらいしかふさがってねえ今なら大丈夫だ」

 

「おいあいつって?」

 

「説明している時間はない。俺たちはあんたたちを殺したくない」

 

「でもきみたちはどうするの?」

 

「もう失敗したんだどのみち始末されるのがおちさ……早く行ってくれ」

 

「わかった……けど兵士の人連れてくるから生きててね」

 

 

 アドリスクは『あいつ』の正体に執着の色を見せたが、ラルスに手を引かれマルカとともに入口に向かった。

 さっきの地響きは何だったのか? あいつとは? 疑問が増え、ますます不安になったアドリスクは思わず険しい顔つきになる。

 それよりもここを出てどうするか、道はこの洞窟しか無い。しょうがないが兵士に力を借りるしかない。

 その時だった。

 

 

「おい、伏せろ!」

 

 

 後ろから聞こえた言葉に三人ともとっさにかがんだ。

 

 

「ゲッハッハッ。惜しい惜しい」

 

 

 かがんだ後に、目の前から先程聞いたものが聞こえた。飛んできたのは大きなこん棒だった。

 三人が振り向くとそこには下卑た笑いを浮かべた緑の巨人が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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