ドラゴンクエストゼロ 始まりに向けて   作:田んぼ二キ

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第Ⅰ章 7 ボストロール

 その姿は緑の体、皮でできた赤紫の布を肩から腰回りに巻き、右手のこん棒から振り下ろされる重い一撃は数多の冒険者たちを地獄に送り込んできた。

 本来、ソルクトルムとラスぺスタを繋ぐ洞窟は行商人や国の偉い人などが使用するため出入り口にはトへロスがかけられており、周辺の魔物は弱いこともあって入ることはおろか、近づくことさえない。

 

 

 そんな洞窟内では現在、いるはずのない緑の巨人ボストロールがアドリスクtたちの目の前にいた。

 

 

「キラーピッケル。何をしている? 本当なら入口の封鎖は終わっているはずだが」

 

「うるさい。俺たちはもうお前には従わない。今まで通りボスと暮らすんだ!」

 

 

 こん棒を投げつけた後、ボストロールは下卑た笑いを浮かべ言った。幸いにもこん棒は壁に当たりけがをするものはいなかった。

 三人が唖然とする中、キラーピッケルは勇敢にもボストロールに言い返す。いたずらモグラ達も「そーだ! そーだ!」と口々に叫んだ。

 

 

「もうお前の指示には従わない!」

 

「いーいーのーかー?」

 

 

 キラーピッケルがなおも気迫を込めて言うと、ボストロールは腰に手をあてた。

 

 

「俺様は『賢者の使徒』抹殺のためお前たちのボス、ドンモグーラに代わり大神官ゴラマス様によって遣わされたんだぞ。貴様らが歯向かえば治療中のボスはどうなるかな?」

 

「……ッ」

 

「ガー八ハッハ。わかったらさっさと入口を塞げ!」

 

「すまない『賢者の使徒』の子供たちよ」

 

 

 三人は黙って事の成り行きを見守っていた。

 

 

「『賢者の使徒』抹殺って……どうやらあいつが原因みたいだな。もしかすると先に行ったやつらはもう?」

 

「うん考えたくないけど……」

 

「くそ!」

 

 

 アドリスクは唇をかむ。相手との力量の差は彼でも十分に分かった。いくら修行したとはいえ勝てる見込みがなかった。

 しかしアドリスクは後ろの二人を見る。ラルスはかしの杖を両手に抱え、ブルブルと震えている。マルカは膝立ちの状態でボストロールを見つめているが、その瞳からは怯えているのがうがかえる。

 明らかに戦意喪失寸前の二人を見てアドリスクは立つが、足は震えていた。

 

 

「まあそう怯えるな『賢者の使徒』よ。まずは話をしようじゃないか。話ってのはいいもんだ。互いに意見をぶつけ合い、互いを分かり合える。世界平和は対話から始まっていくと俺は思うのだ」

 

 

 後ろの岩が運ばれる音をバックにアドリスクは耳を傾けていた。

 

 

「そ、そうかこん棒持ってるから、てっきり襲われるのかと思ったぜ」

 

「ああ、これは念のためだ、念のため」

 

 

 ボストロールはいたずらモグラにさっき投げたこん棒を持ってこさせるように命じていた。

 

 

「自己紹介が遅れたな。俺はゴラマス様の部下ランドンだ。

 俺はお前たちのことは知っているがお前たちは俺のことは知らないだろう。対話というのは対等な関係でなければならん。いくつか質問を許そう」

 

 

――今俺がするべきなのは、二人をここから逃がすこと。しかし着々と岩によって入口が狭めらている。質問とやらを長引かせてこいつらが回復するのを待つしかない。

 

 

――落ち着け

 

――落ち着け

 

――落ち着け

 

――俺が間違えれば三人とも死ぬ

 

 

「ランドンお前俺たちが何者なのか知っているのか?」

 

「ああ知っているとも、そしてお前たちの中にルルムソルク=アドリスクがいることもな」

 

「そうか。じゃあ次の質問だ。俺たちより先に来たやつらはどうした?」

 

「あいつらか。全く困ったものだった俺の姿を見るなり逃げ出すのだからなおかげで見つけるのに苦労した。

 そうそうどうしたか? という質問だったなその問いに俺は殺したといっておこう」

 

「……ぜんいんか」

 

「取りこぼしがなければな」

 

 

 ラルスはアドリスクが剣の柄に伸ばそうとした右腕をつかんだ。

 

 

「アドリスク僕たちは大丈夫。だから一旦落ち着いて」

 

 

 左手には心配そうにアドリスクを覗き込むラルス。右手にはマルカの凛然としたすがたがあった。

 

 

「私も大丈夫だわ。さっきの一言で逆に冷静になったわ」

 

「そうか」

 

アドリスクが二人が回復したのを見て安心したように呟き、それから入口を見た。

 

 

「一人通れるか通れないか微妙だな」

 

 

 入り口の封鎖は思ったよりも進行しており、ここから脱出するのはもはや絶望的であった。

 

 

「どうしたもう質問は終わりか?」

 

「いやまだだ」

 

「……ほう」

 

「入り口にいた兵士様子がおかしかったんだが、あれもお前の仕業か?」

 

「そうだ。そしてお前に夢見の花をすりつぶした粉を飲ませたのもな……」

 

「は? いやあれは宮廷魔法使いが作ったものじゃ……」

 

「違うぞ。若者よ、そもそもそこにいるアドリスクを一人で来るために仕向けるものだったのだ」

 

 

 ランドンは大げさに首を横に振り、ラルスを指さした。

 

 

「だがふたりついてくることは想定外だったがな」

 

 

――こいつ、俺がアドリスクと知らないのか……なら

 

 

「二人とも話がある」

 

「なによ。言っておくけど私逃げないわよ」

 

「……僕も」

 

 

 その発言にアドリスクは目を見開いた。

 

 

「そりゃあ、何年もいるんだからあんたの単純思考なんてわかるわよ」

 

「だけど――三人がかりでもどうしたって……」

 

「いつもみたいに私が気絶させるわ」

 

 

 寸分違わず真顔でそんなことを言うものだからアドリスクは思わず笑みをこぼした。

 

 

「いつもお前はそうだったな。悪い最後まで付き合ってくれラルスもな」

 

「うん」

 

 

 二人の覚悟を見て、静かに瞳を閉じる。

 

 

「おい、ランドン続きだがお前はいやお前たちは一体何をしたんだ?」

 

「なに、たいしたことではないちょっくら王様を脅しただけだ。国が惜しければ生贄を差し出せとな」

 

「……いつからだ!」

 

「そうだな――丁度三年ほど前だな」

 

「その生贄がまさか」

 

「さすがアドリスク、賢者の孫といったところか。そう生贄というのが毎年のこのことやってくる『賢者の使徒』というわけだ」 

 

 

 察したラルスは、自然に言葉がこぼれた。

 ランドンはこん棒をなめる仕草をすると、三人の後ろを見た。

 

 

「どうやらしゃべっている間に工事が終わったようだな」

 

 

 振り向くと、いたずらモグラ達は泣きながら岩を押している。

 ところが入口がふさがるまで残り数秒というところで洞窟内にカツッ、カツッと軽快な音楽が鳴り響いた。

 

 

「この音は?」

 

 

 三人は振り向いたまま、その音に疑問を覚えていた。

 

 

「ごめんよ。ごめんよ」

「くそーーー」

「ボス助けてくれよ―――」 

 

 

 泣き叫ぶ声が反響してそこら中に響き渡る。

 近づいてきた音は、ようやく三人の耳に馴染む音にかわる。

 

 

――そして

 

 

       ヒヒーーーーーーーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

余談

 

 

 実は百年以上前に、人間たちが洞窟を使用する際、軍隊アリを倒す必要があった。その時すでにモグラ達は地下にアジトを作っており運よく発見されることはなかった。

 往来する人間が増え、別に拠点を作ろうとしたものの、出入り口には常に兵士がいたので出ることはできなかった。

 それでもまあ時折、人間が落とした楽器を拾っては音を奏でているのでそれなりに楽しくやっているようである。

 年に数回、馬が洞窟を嫌う日があるのでその日人間は近づかない。うめき声が聞こえるのだとか。

 

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