ローリング☆ガールズ 大阪編【完結】   作:ジマリス

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歩く花 1

通天閣ロボを巡る争いの歴史は、そのまま大阪レボリューションズとお笑い芸人との争いの歴史と言い換えることができる。

伝統を重んじ、活気づきながらも品位ある国を目指す大阪レボリューションズにとって、観光名所であり歴史ある塔である通天閣を改造だなんてのは許したくない暴挙だった。

芸人側も、伝統や歴史を軽んじているわけではなかった。だが減りゆく観光客や滞る大阪の発展が、淀んだ空気をひしひしと感じていた国民たちに新しい風を欲させた。

お偉いさんの一言で決着がつけられ、通天閣ロボが造られたその後もお笑い芸人を頭とする賛成派の声はやがてより大きくなり、一時的に大阪という大きな場を支配した。

このままではまずいと思ったかじかはわざと勢いを落とさせ、国民たちにすべきことを、特に芸人には芸に専念させたが時すでに遅し。

強制的といえども、通天閣ロボをしぶしぶながらも許してしまったという事実は、東京大決戦以前から切り盛りしてきたプライドを著しく傷つけ、大阪レボリューションズ内の不満や文句を溜めていった。

大決戦のあと、有権者たちが消えたあと爆発したそれは「大阪をよりよいものにする」という大義名分のもと、お笑い芸人を圧迫するという形で現れた。

かじかを団長とする自警団「お笑いフラワーズ」が現れたのちは特にそれが顕著になり、今の構図が出来上がる。

大阪レボリューションズ対お笑いフラワーズ。一歩として退かない争いがさらに激化したのは、橋下徹子、杉田笑がそれぞれの自警団に入団したあとである。

 

 

 

「とまあ、これが私たちの諍いのきっかけとそのあとの話や」

 

翌日の朝、徹子は朝食を食べながら結季奈たちの質問「大阪の歴史と争い」について答えた。

自警団同士の争いに関しては、どの国でも起きていることだ。内側の発展が行きつくしたいまでは、国同士での争いも珍しくない。

そこには、例えば国同士のプライドというものだったり、例えば何々がどこの起源かを巡るものだったり、たんに支配する国を増やしたいという賊のような欲が根底にあったりする。

だが、大勢の人を巻き込む以上、個人個人の思惑は多少なりとも介在し、争いを複雑なものにしていた。

大阪も例外ではなく、あらゆる思惑が混在し、時間が発酵させた。

国家自警団の副団長である徹子でさえ、大阪を濁らせ、濁った大阪に巻き込まれた一人なのだ。

 

「でも、笑さんとは仲が良かったんですよね?」

 

「仲直り、しないの?」

 

徹子は白飯の最後の一口を飲み込んだあと、ふう、と一息ついて口を開いた。

 

「いまさら仲直りなんて、どこの誰も認めてくれへん。それに、いま大阪レボリューションズで私がやってることは、信念をもってきちんとやらんとあかんことなんや」

 

湯呑に入った熱いお茶を一気に飲み干して、徹子はため息をついた。

無理やり絞りだしたような自分の言葉が、まるで自分の言葉じゃないように感じられた。他人に操られたような口の動きに、嫌な感触が残る。

 

「一緒にやっちゃいけないことなの?」

 

「……もうこじれすぎた」

 

そこには否定はなかった。

笑と手を取り合って、周りの人たちとともにお笑いや食について話し合い、発展させていけたらどれほどいいか。

実際、徹子が学生のころはそういったことを考えていたし、そうなるものだと思っていた。

このことを考えるたびに、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを感じ、頭がちりつくほどの焦りを感じ、地獄の底に落ちたような落胆を感じた。

結局は、ありとあらゆる感情が渦巻いて、鋭い目つきの無表情へと戻る。

朝食を終えた徹子はジャケットを羽織り、サングラスをかけた。

 

 

 

「たのもー!」

 

早朝にもかかわらず、マンション前で大きな声を張り上げるのは、肩にかけた水色のジャケットをたなびかせる笑だ。

後ろにはお笑いフラワーズの団員たちが望未と逢衣とともに見守る形でついてきていた。

ピリピリした空気のなか、わざわざ大阪塔に出向いたのは、今朝団員の一人が持ち込んだ情報が理由だった。

「探しているのによく似た二人組が、大阪レボリューションズの橋下徹子に連れられてた」というその言葉を聞くなり、笑はすっ飛んでいった。

焼き鮭、卵焼き、味噌汁、白飯をつつきながら、流石に朝からたこ焼きとかは食べないよね、と半ば安堵した望未たちも急いで笑の後を追いかけた。

モサである笑に追いつくのは大変だったが、幸い団員の案内もあって迷わずにたどり着くことができた。

すでに到着していた笑は腕を組んで、ずらりと並ぶ大阪レボリューションズの団員を相手に睨みをきかせていた。

 

「でかいなー」

 

50階建てのマンションを見上げると、これまた異様だと言わざるを得なかった。

黒を基調としたシックな雰囲気は、ほかの建物と比べて煌びやかさや華やかさがない。

大阪レボリューションズのスーツ姿といい、なんだか大阪らしくないというのが印象的だった。

 

「あ、出てきたよ」

 

入り口から件の徹子が出てきた。

その影には結季奈と千綾がおずおずとついてきている。

徹子は二言三言話したあと、あっさりと結季奈と千綾を望未たちへと寄越した。

 

「結季奈ちゃん、ちぃちゃん、大丈夫?」

 

望未と逢衣は二人に駆け寄って、状態を確認した。

怪我どころか、なんだか肌がつやつやしていて、服もしっかり洗濯されて昨日よりも若干綺麗に見える。

 

「は、はい。大丈夫というか……」

 

「ご飯おいしかったね、ゆきっぺ」

 

「はぁ、ご飯?」

 

特に心配していなかった逢衣も、疑問符を浮かべて首をかしげる。まあ、何もされていないようだし、それで良しとした。

だがそれで良しとしないのが、お笑いフラワーズだった。

 

「うちの友達を攫って、どういうつもりや?」

 

「攫ったつもりはない。あんただって友達っていうくらいやったら、迷子にさせずにちゃんと手を引くことやな」

 

一触即発の空気の中、笑は背負った巨大ハリセンに手をかける。

徹子も腿のホルスターの扇子に手を伸ばした。

いまにも飛びかからんとする両者の間に、四人が割って入る。

 

「ちょ、ちょっと待って笑ちゃん! 喧嘩したらダメだってお父さんに言われたでしょ!?」

 

「そーだよ。芸人になれなくなっちゃうぞ」

 

「て、徹子さん落ち着いてください……」

 

「仲良くできないの?」

 

望未、逢衣、結季奈、千綾がそれぞれ二人を説得しようとする。

この二つの団、二人の因縁がどれだけ深いものか。この国に根深く残る話を聞いても、いや聞いたからこそ、四人はどうしても止まってはいられなかった。

依頼のために先を急ぐという気持ちは望未の中から消え失せていた。

 

「友達なんでしょ?」

 

千綾のまっすぐな瞳に、あの頃の笑を重ねてしまう。小さくて、何も知らないからこそ大きな夢を語っていた笑を。大好きな父の大きな背中を追いかけ、大好きなお笑いの道を進もうとする笑に。

徹子の胸に熱いものがこみ上げてくる。

 

「友達なんかじゃ……っ」

 

歯を食いしばる。

言ってしまえば、もう後戻りができないような気がして、必死に言いたいことを抑え込む。

――私は誓ったんや。大阪を良くするって。お父ちゃんを独りにさせないって。

 

「なによそれ……」

 

怒りと悲しみが混じった顔で、信じられないといった様子で首を振った。

その目は涙で滲んで、何も見えていなかった。

 

「徹子ちゃんなんて! 大っ嫌い!」

 

震えた声でそれだけ吐き捨てると、笑は脇目も降らずに走り去った。

 

「笑ちゃん!」

 

「お、おい、笑!」

 

慌てて追いかける望未、逢衣。何が何やらというふうについていく結季奈と千綾、そして団員たち。

残された大阪レボリューションズの団員はうつむき、震える徹子を心配するが、言葉をかけられずにいた。

 

「友達なんかじゃ……」

 

それがどういった意味を持つ言葉なのか自身すらもわからず、ただ徹子はそう言うだけだった。

 

 

 

「どこに行ったんでしょうね」

 

結季奈が前を進む望未に声をかける。

今度ははぐれないように、後ろに逢衣と千綾に挟まれる形で固まって移動していた。

走り去った笑の行方は知れない。

彼女が流した涙の理由を四人は知っている。だからこそ、放ってはおけない。

 

「もう戻ってんじゃねーの?」

 

そう言う逢衣も前よりは心配している様子だ。

身体が落ち着かずにそわそわしている。

居ても立っても居られないのは望未も同じだが、地理を知っているわけでもない。

闇雲に探すよりは、腰を落ち着けて策を練るほうがいいかもしれない。

 

「そうかも。いったん阪神猫に戻ったほうがいいかな?」

 

「そうですね」

 

望未に頷く結季奈。

笑のことはお笑いフラワーズの面々も探してくれているはずだ。そのことが伝播していけば、見つかるのも時間はかからないだろう。

 

「仲良く……できないのかな」

 

ぽつりと千綾がつぶやいた。

二人はこの国の歴史が生んだ被害者だ。

国が持つ伝統と大義と見栄が、二人の関係を遠いものにしてしまった。

それはこの時代では珍しくもないことである。

自警団という大きな存在が、個人が持つものを妨げる。

国やそれが積み上げてきた歴史に潰され、尊重されるべき夢や目標、信念が捻じ曲げられていく。

何をすればいいのか、何をしたいのかがわからなくなってくる。

そんなことが当たり前になっていることを、四人はわかっていた。

例えば東京で、例えば愛知・三重で、例えば京都で。

その目で見てきたのだ。

だからといって、それが当たり前になっていることが耐えられなかった。

信頼し合う団長と団員のように、夢を語り合い追い続ける男女のように、しきたりと革新に翻弄された友人同士のように。

笑と徹子もまた、その関係を時代に歪まされたのだ。

 

「仲良く……」

 

あの二人に、自分と真茶未を重ねてしまう。

遠ざかっていく二人を見ると、胸が締め付けられるような。

他人事とは思えないのだ。

 

「やっぱり、このままじゃいけないよ」

 

そう言った望未はすでに走り出していた。

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