酉物語   作:終焉のプーさん

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第2話

 極楽常裏を表すなら陳腐な表現になってしまうが、普通の高校生であったという他ないだろう。普通であった、という意味では確かに僕とも通じるところがあるが、残念ながら僕は吸血鬼になる前も、吸血鬼もどきになる前も落ちこぼれである。普通の落ちこぼれ、といえば確かに通じるところがあるような気がするが、極楽常裏は普通の普通である。それは、学力的な意味でも、体力的な意味でも。全国平均の高校生の統計に影響を与えないくらいには。

 普通。僕が今、最も憧憬する言葉。憧れるだけ。ただ、それは普通の人間から見たら得も言えない、苛立ちと取れるような感情を想起させる可能性がある言葉だろう。特殊な人間が普通に憧れるように、普通の人間は特殊に憧れる。隣の芝生は青く見えるものだ。

 勿論、そう思わない普通の人だっているだろうし、特殊な人間にしたってそうだ。ただ、人はオンリーワンに憧れるものだろう。僕の人間関係だって高1、高2の時点ではオンリーワンであったし。……それは違うか。

 何はともあれ、少なくとも極楽常裏はオンリーワンに憧れる普通だった。おそらく、それが今回の怪異を呼び寄せた、現れさせた原因の1つだろう。

 ただ、この怪異の引き起こす現象を1言で言い表す事は僕にはできない。それは、極楽もどう言えばいいかわからない様子だったが、1言。

 

「僕は……したくない事をしてしまい、したい事ができません」

 

 それだけであった。正直、僕にはその言葉を理解する事はできなかったし、怪異を理解しようというのも、土台、意味のないことなのだ。

 

「……そうか。やはり、僕が手助け出来る事はあいつを紹介するくらいだな。ちょっと、ついてきてくれないか?」

 

「あ……はい」

 

 向かうのは、もはやお馴染みである学習塾の廃墟である。

 やはり、予想に反し極楽は僕についてきた。

 

 

 

「おや? 阿良々木君。今日もまた違う女の子を連れてきたのかい?」

 

「極楽は男だ」

 

 学習塾廃墟、4階の教室の1つにその男は居た。

 忍野メメ、僕の事を始めこの町の怪異を解決している張本人。その本人曰く、僕らは自分で勝手に助かってるらしいが。

 

「はっはー。そりゃまた、珍しい事もあるもんだね。で、今日はなんの用だい? 阿良々木君」

 

「お前俺をなんだと思ってやがる……。まぁいい。実はこいつ、極楽常裏っていうんだけど……極めるに楽しいの楽。常に裏って書いて極楽常裏な。さっきこいつが空から降ってきてさ」

 

「空から? なんだい、ツンデレちゃんと随分似通った登場じゃあないか。それに、極楽常裏、ね。ほほう。まぁ、阿良々木君のことだから、この関係以外で話が来るわけもないか。いいよ、続けて」

 

 相変わらず、飄々とした態度で話す忍野は、ポケットから煙草を1つ取り出し、火をつけることなく口に含んだ。

 

「あ、あぁ。そんで、さっきこいつから話を聞いたんだけど……」

 

 

 

「共命鳥。多分そいつは共命鳥だ。いや、共命鳥に近い何か、なのかな

 」

 

 僕が極楽から聞いた話をそのまま忍野に伝えると、忍野はそう言った。

 

「ぐみょうちょう? 愚かに、明るい。それと鳥で愚明鳥?」

 

「はっはー。なんだいそれは? 愚かでパッとしない鳥頭の阿良々木君を暗喩しているのかい? だとしたら、なんて完成度の高い造語なんだ。僕は評価するよ。ただ、度が過ぎる自虐ってのは良くないとも思うよ?」

 

「いつから僕はそんな自虐に走る人間になった! それに僕は愚かでパッとしないだろうけど、鳥頭ではない!」

 

「ごめんごめん。そんなに怒らないでくれよ。共命鳥は共有の共に、命、それと鳥頭の鳥で共命鳥だよ。しっかし、あんなに怪異に関わっておいて、鳥の妖怪の検索で1番上に出てくるレベルのポピュラーなものを知らないなんて。君は本当に阿良々木君かい?」

 

「自称機械音痴が何を言っているんだ。それと、僕は正真正銘、愚かでパッとしない阿良々木暦だ」

 

「そうかい。そりゃ良かった。で、共命鳥について説明いるかい?」

 

「い、いえ、大丈夫……です」

 

 そこで、発言をしたのは黙り込んでいた極楽であった。共命鳥の話を知っているのだろう。

 

「あら? やっと喋ってくれたね。でも、そこの愚かでパッとしない男が聞きたそうにしているから、少し待っていてくれるかな?」

 

「いや、でも……」

 

「なんだよ、煮えきらないなぁ。なにか良いことでもあったのかい? ま、いいか。勝手に話させてもらうよ。共命鳥というのは簡単に言ってしまえば神様みたいなものだよ」

 

「神様? 戦場ヶ原の時と同じような神様ってことか?」

 

「いや、それ違う。神様みたいなものだけど神様ではない。重し蟹の時例に出した別名で思いし神、ってのもあったりしたけど共命鳥の別名は精々命命鳥、それと命之鳥なんてのもあったかな?」

 

「じゃあなんで神様なんて言い方をしたんだよ?」

 

「ほら、人は死んだら仏さんって言うでしょ? ましてや、共命鳥は極楽に住むと言われる鳥だからね、ある意味神様とも言えるかなって思って言っただけさ」

 

「あの……もうそろそろ話を切り上げて頂けますか?」

 

「そうそう、共命鳥の話だね」

 

 極楽の言葉に、しかし、忍野は耳を貸さなかった。

 

「おい、何で極楽の事を無視するんだ。話はそりゃ確かに聞きたいが、本人を蔑ろにするってんなら別に僕に説明する必要はないぞ。お前の言う通り鳥の妖怪とでも共命鳥とでも調べるからさ」

 

「はっはー。蔑ろにしている? 心外だなぁ。言ってるでしょ、こうゆうのは信頼関係が大事だって」

 

 耐えきれず口を挟む僕を笑顔で一瞥すると、忍野は意味の分からない事を抜かす。

 

「おい、シカトなんてしたら信頼関係もなにもないだろ」

 

「まったくもう。今日もやけに突っかかてくるねぇ、阿良々木君。なにか良いことでもあったのかい? ともかく、共命鳥の話だ。とにかく聞けよ。っても、そんな長い話じゃない、文句はそれからにしてもらえる?」

 

「……わかったよ」

 

 納得はいかないがこいつが意味のないことをする訳では無いことも(甚だ不本意だが)長い付き合いだ、知っている。

 

「共命鳥ってのは、仏教の法話に出てくる鳥でね、一つの体に二つの頭を持っている鳥なんだけど、いかんせんこいつらは仲が悪い。1つの頭が何かを提案すると、もう1つの頭は真っ向から反対。右に行きたいと1つが言うと、もう1つは左に行きたいと宣うわけだ。

 そんである時、1つの頭がもう1つの頭を殺す為に毒の果実を口にする。当然、体は繋がっている訳だから2つの頭とも死んじまうんだが、1つの頭が死ぬ瞬間に所謂悟りを開くんだ。

 あぁ、自分達はもとより1つで、こいつが居たから自分は生きていたんだ……てね。で、悟りを開いたことにより極楽に行くことになったっていう話だ。さっき極楽に住んでるって言ったけど、悟りを開いて死んだ事により極楽に移住したって言った方が近かったかな? まぁ、なんでもいいや。それに、毒の果実じゃなくて、1つの頭が、もう1つの頭を噛み殺したって言う話もあるね。今回のケースだと、1つの体に相反する意志があるっていうのが重要だから細かい話の違いなんて関係ないしね」

 

「「へぇ……」」

 

 ……?

 

「おい、極楽」

 

「な、なんですか?」

 

「お前、共命鳥の話を知ってたんじゃなかったのか?」

 

「え? いえ、全く知りませんでしたが……」

 

「え? だってさっき、話さなくていいって……」

 

 あれは、自分が知っているからさっさと話を進めてくれって意味じゃなかったのか? なら、何故?

 

「はっはー。だから言ったろ? こうゆうのは信頼関係が大事だって。まして今回は共命鳥だ、額面通りの言葉を信じるなんて以ての外だ」

 

「だから、勝手に話を進めたって信頼関係なんて、できっこ……ない?」

 

 いや、信頼関係? そもそも、シカトをする時点でそんな物が築ける訳が無い。それなのに忍野は信頼関係が重要と言う。そして、額面通りの言葉? 極楽の言った言葉は、どちらも忍野の話を止めようとする言葉だった筈だ。そして、忍野は話を続けた。何故? 極楽の本心はそれを聞きたいって事に忍野は気づき無理やりにでも話を続けた。

 

「できっこ、何だって? 阿良々木君」

 

「……額面通りの言葉って、つまり神原の時みたいなものなのか?」

 

「いやいや、それは違うよ、阿良々木君。百合っ子ちゃんの時と同じ言葉を使ったけど、そりゃ、大きな間違いだ。百合っ子ちゃんの時は一応、表に出てきた言葉も本心だったからね。ただ、そこの極楽君、だったっけ? その子の場合、その子の意志が反映されないっていう言うのかなぁ……。それともどっちの意志か分からないって言うべきかな? どちらにせよ、意味分かる? ってそりゃ愚問か」

 

「……1つの体に、相反する意志……」

 

「そ、阿良々木君。大正解だ。レ○トンで言ったらヒントはもう全て開いていたようなものだけどね。今回は共命鳥、2つの体に相反する意志。多重人格、2重人格みたいなもんだね」

 

「どちらかといえば神原より羽川の時の方が近いのか」

 

「いやいや、それも違うよ。ていうか、自分で言ってたじゃないか、2つの体に相反する意志〜って。委員長ちゃんの時も、百合っ子ちゃんの時も一応は自分の為にやっていたけども、極楽君だと自分の為なのは確かだけど、それはもう1つの方から見た自分なんだよ。自分の為にやっているけど、それはもう1つの自分からみたら、自分の為とは言えない」

 

「お、おい……ワケが分からなくなってきたぞ……」

 

「ま、2重人格と同じだよ。で、そいつらの考え方の剃りが全くあっていないってことさ」

 

「……なるほどな。ただ、その表現じゃ少しおかしいんじゃないか?」

 

「ん? どうしてだい?」

 

「いやだって、極楽とは来る前に少ないが会話を交わしたし、今も喋ったけれど、様子が豹変したみたいな様子は確認していないんだよ」

 

「あぁ、なるほど、そうかい。そういうことかい。初めに言ったはずだぜ? 共命鳥、みたいなものって。細かい所は気にしないが吉だよ、阿良々木君。そんなんじゃ将来禿げるぜ? 禿チビって流石に哀れだから忠告しとくよ」

 

「禿げない! まぁ、お前がそういうんならそうなんだろ。……で、結局のところ極楽が助かるには何をすればいいんだ」

 

 チビを否定しない僕の言葉を聞いた忍野は、火のついてない煙草を再びポケットに戻した。

 

「……そうだね、特に何も」

 

「え?」

 

「特に何もしなくても平気っていったんだよ。要は多重人格の亜種みたいなものなんだよ、こいつは。それに思春期特有の所謂多感な時期ってのが原因なんだ。それに怪異が少し関わっちまっただけ、元はただの精神病さ。そっちの専門な訳ではないけれど、見たところそっちも重症って訳でもない、精神が成熟すりゃ勝手に収まる。保証するよ」

 

「マジか……」

 

「マジマジ、大マジ。でもま、すぐに解決したいってんなら手が無いわけでもないさ、なんてったっても、行動が思ったとおりにとれないなんて不便だろしねぇ」

 

「別に、助けてもらわなくても、平気です……」

 

 極楽は、思い口を開きそう告げる。

 要は、助けてくれという事なのだろう。今までの話を総合して考えるなら。

 だとしたら、その答えは決まりきっている。

 

「そうだよ、別に助けはしないさ」

 

「そうだぞ。極楽」

 

「「君(お前)が勝手に助かるだけなんだから」」

 




「はーい。どうも、忍野メメで〜す。今回は、自分で読み直しても訳の分からない部分が多い誰かさんの作品に補足説明を入れるよう頼まれちゃったんだよねぇ。
とりあえず、極楽君の症状(?)って言い方もおかしいと思うけど、まぁ、その辺のこと。
1言で表すなら、ツンデレならぬツンはデレ君だね。若しくはデレはツン。
今回の話で例を上げていくと
ついていきたくないのに、ついていっちゃう。
続きを聞きたいのに、話を止めようとする。
といったように、考えと逆の行動をとるってのが今回の症状な訳だ。
え? なに? 話を止めようとする=話をする、と考えるとなると極楽君が喋るのはおかしい? はっはー。そんな細かい事気にしてたら禿げちまうぜ?
因みにだけど、極楽君が空から降ってきた理由は知らないけど、空を飛ぶなんておかしいじゃないか? という疑問に関して先回って答えておくと、別におかしい事じゃない。怪異だしね。そのへんの話は置いておこうぜ?
それと、もう1つ。多重人格とは違うんじゃないか? ということに関してだけど、こりゃ一方的に作者が悪いだけなんで、まぁ、全部妖怪のせいにしちまおうって方針だ。
Watch! 今何時?! なんて聞かれたら腕時計なんて持ってないんだけれどもね。
そんじゃま、次回をお楽しみに」

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