マミはこの頃あるものに凝っている。
それは杏子と二人で買い物に行った時のことだった。
たまたまゴミ捨て場のそばを横切った時。
「佐倉さん。見てこれ、蘭よ蘭」
マンションのゴミ捨て場におかれてあったのはちょっと萎れてる蘭だった。
「マミ、また拾って帰るつもりかよ」
「だってこれまだ生きてるのよ」
「ったくもう」
マミはゴミ置き場に捨てられた植木を拾っては家に持ち帰る。
「蘭の捨て鉢なんてめったにないわ」
それをマミ曰く捨て鉢と呼んでいる。
これまでマミに拾われた捨て鉢は幸福の木やベンジャミン、ちょっと歪な盆栽や珍しいところではザクロの木などかなりバラエティに富んでいる。
「ほらみんな、新しい仲間よ」
「もうこんなにあるのかよ」
マンションのベランダに新しい捨て鉢を置く。
「来年も花、咲かせてね」
そんなわけでマミのベランダの一角はちょっとした秘密の花園となった。
「ところでさっき本屋で何買ったんだ」
「これよ」
袋から見せたのは“英国ガーデニングの全て vol.7”だった。
定価800円の雑誌である。
「英国ガーデニングってどこら辺が」
「こんにちはー!」
この無駄に元気のある声はさやかだ。
お菓子があるからと誘ったら30分もたたないで来てくれた。
「マミさんこんにちは」
「まどかが来るから来てやったわよ」
「もうほむらちゃんたらっ」
いつものメンバーが勢ぞろいだ。
さやかはもちろんお菓子目当てだが、まどかはお菓子より捨て鉢のほうに興味津々だった。
「どうですか?捨て鉢は」
「そうね・・・」
「マミのやつ今日も拾ってきたんだぜ。いずれ部屋の中にまで侵食するんじゃないのか」
「そんなわけないでしょう」
「いいや。マミならやりかねない」
「大丈夫よ・・・たぶん」
「ねえまどか、捨て鉢って何」
とここでお菓子をほおばってるさやかとほむらが反応した。
もう半分近く二人が占領していた。
「ああっ!お前らすこしは遠慮しろ」
「まあまあそれよりも」
「捨て鉢ね。ベランダにあるの見に来る?」
「はい」
ベランダに連れられるとさやかは思わず歓喜の声を上げてしまった。
どうやら彼女の頭には英国ガーデニングを想像したらしい。
「すごいっ!これが全部捨て鉢なんですか?」
「ええそうよ」
「まさかさやかも英国なんちゃらを」
「その通りだよ。これはまさに英国ガーデニング」
「はぁ・・・おいほむらお前も何か言ってやれよ」
半分あきれ顔の杏子。
「でもこれちゃんと花咲かすの?」
ほむらは素朴な疑問をぶつけてきた。
確かにもとはゴミ捨て場にあったような植木。
ちゃんと花が咲くなどとは確定的な予想はできない・
「どうしてもっていうなら・・・植物成長そくしんライト!」
楯から取り出したのはビッグライトやスモールライトに似た懐中電灯のような道具だった。
「これは?」
「このライトの光を当てると、植物を早く育てることができるのよ」
完全に死んでいない植物であれば、ほんの10分で開花させることが可能なのだ。
「そんないつ咲くかわからない花をまどかに見せるぐらいなら、いまここで・・・」
「ダメよ暁美さん!!!」
マミが珍しく大声を張り上げた。
さすがのほむらもビクッとくる。
「そんなインチキで花を育てたくないの。花っていうのはね、ちゃんと自分の手で一から育ててこその喜びがあるのよ」
「拾ってきたなら一からじゃないじゃない」
「・・・・ともかくそんな道具は使っちゃダメ」
「そうだよほむらちゃん」
「まどかがそういうなら」
何事にもまどか優先。
ほむらは植物成長そくしんライトを楯の中にしまうのであった。
そんなある日のこと。
杏子はその日もマミの家に遊びに来ていた。
お菓子を食べている間、マミは捨て鉢に水をやっている。
「佐倉さん!こっちきてこっちきて」
「なんだマミ、魔女でも現れたか?」
「違うわ。これを見て」
なんとザクロの木にザクロがなってきたのだ。
まだ小さいが3つも。
「拾ってきたときには死にかけてたのに、一生懸命世話した甲斐があったわ」
「うまそうだな。食べていいか?」
「ダメっ!まだもう少しちゃんとなってから」
「ちぇ」
「勝手に食べちゃダメよ」
捨て鉢ひとつでつましい幸せにひたるマミだった。
それからというものザクロはどんどん成長してみせ、3週間後には初めの倍ぐらいの大きさまで成長してみせる。
「可愛いザクロちゃん」
「これじゃあ当分食べられないな。まいっか」
毎日幸せそうなマミ。
ところがその幸せは長くは続かなかった。
雷の鳴るある朝。
マミはいつものように朝の水やりをあげにベランダを開ける。
一つ一つ丁寧に水をやり、最後にザクロの木の番だ。
「さて次はザクロちゃんね・・・え?」
何かに気づき一回目を閉じてもう一家それを確認する。
「いやあああああああああっっっ!!!ないわっ、ザクロの実が一個ない」
昨日までは確かに三つあった。
「まさか風で飛ばされたの?」
ベランダの下を見てみるがザクロが落ちた様子はない。
「どこ行っちゃったの?」
それがザクロ事件の序章に過ぎないことはこの時まだ予想していなかった。
「捨て鉢物語」To Be Continued