六本木のとあるBAR。
そこには二人の人間がワイングラスを並べながら酒を飲んでいる。
スーツにサングラス、そして耳にはピアス、いかにもという感じの男。
茶髪のロングヘアーで化粧の濃い、胸の谷間を多く露出している色気のある女。
男は指につけたリングを外して、ワイングラスの中に落とす。
男と女は熱いキスをする。舌をからませた濃密なキスだ。
そして男は女の服の中に手を入れ・・・
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―――
ブチッ。
ほむらはテレビの電源を消した。
「いいところだったのに。どうして消しちゃったの」
「あなたがこんな卑猥なドラマを見る必要ないわ」
「卑猥じゃないよ。ちゃんとした昼ドラだよ」
昼下がり。
ほむらはまどかの家に遊びに来ていた。
今見ていたのはお昼の1時から放送中の「悪魔の歌声」という昼ドラだ。
「それにしてもドロドロした展開のドラマね」
「それが醍醐味だもん」
最近まどかはこのドラマにはまっている。
どう転べば優しいまどかがあんな醜い人間関係の昼ドラにはまるのか、ほむらには理解できなかった。
「ところであの俳優って植木史朗?」
「そうだよ」
「あのタレントあんまり好きじゃないのよね」
植木史朗とは今何かと話題のタレントだ。
一体何が話題かというと・・・・それは・・・・
「ほむら~!助けてくれ!」
まどかの家の窓をぶち割って入ってきたのは杏子だった。
そして後ろから申し訳なさそうに入るさやか。
「杏子ちゃん!さやかちゃん!それより窓がっ!」
窓はバラバラに割れた状態で風が吹きこんでくる。このまま両親が帰ってきたら大変だ。
まどかの目に涙が浮かぶ。
「どうしよぉ・・・」
「あなたたち・・・まどかを泣かせたわね・・・」
物凄い殺気を漂わせながらユラりとほむらが立ち上がる。
「あわわわっ。わ、悪かったって。ほらさやかも謝れ」
「なんで私が。悪いのは杏子じゃん」
「でもほら二人で謝んねえと」
ほむらのほうを見ると今にも二人をこの世から消滅させそうな勢い。
“地球破壊爆弾”とか出されたらとんでもないことになる。
「わ、分かったわよ」
「「まどか、ごめんなさい。もうしません」」
「あ、いいよ。ねっ、ほむらちゃん?」
「まどかがそれでいいならいいわ。今度から気をつけなさいね」
「でも窓はどうしよう」
「それなら心配ないわ。全体復元液!」
楯から取り出したのは、スポイトに入ったピンク色の薬液。
「これは破損した物にこの薬を垂らすと、全体が元通りになるのよ」
たとえば紙の印刷物の燃えかすに使用すると、燃える前の姿に戻るという訳だ。
これを使えば割れた窓が元通りになる。
ほむらが一滴窓の割れた破片に薬液を垂らすと、たちまち破片がくっ付いていき数秒もしないうちに元通りになった。
「「「おおっ!!!」」」
「これで元通り」
「ありがとうほむらちゃん」ダキッ
「ま、ま、ま、まどか!?///」
急に抱き着かれたので、ほむらの頭はオーバーヒートしそうだ。
このまままどかを連れてどこか遠くへ行ってしまいたいと思う。
「ご、ごめんほむらちゃん」
「いいわよ。もっとやってもいいわ」
「もうほむらちゃんたらっ」
二人のイチャイチャを真横で冷めた目で見つめる二人。
「ところであなたたち二人は何のためにここに来たの?」
そこで当初の目的を思い出す。
ここに来たのはほむらに折り入っての頼みがあったためであった。
「頼みがあるんだ。マミを怒らせちまって」
「どうにかして許してくれるようにしてほしいんだよ」
「巴マミを?何やったの?」
些細なことではめったに起こらないマミ。
そんなマミを怒らせたという二人。一体何をしたのだろうか。
「実は・・・」
○
-数十分前-
杏子とさやかはマミの家に遊びに行った。
マミが長崎県眼鏡橋付近のおいしいカステラを手に入れたという連絡があったからだ。
「へぇ。これが」
「眼鏡橋付近のカステラって隠れた名所なのよ」
「そうなんですか。じゃあいただきます」
一口食べた瞬間分かる。
以前、文明堂のカステラを食べたがこれはそれ以上においしい。
口の中に広がるカステラのハーモニー、砂糖の絶妙の加減がおいしさをさらに増大させる。
「めちゃうまっすよ」
「ありがとう」
「うめぇ、うめぇ、うめぇ、うめぇ」
「杏子さ。そんな大沖っていう漫画家の表現みたいな感想やめなよ」
「マニアック過ぎてわかんないわ美樹さん」
「まったく杏子ったら」
紅茶を飲むさやか。
そこで気づいたのはこれはいつもの紅茶のティーカップではないこと。
カステラを置いてあるお皿もいつもとは違う。
「マミさんこれ」
「気づいた?今日はちょっと特別。これはね・・・」
「さーやかー。カステラ食わねえの?」
「いや、まだ食べて・・」
「じゃああたしが食ってやるよ」
パクッと、さやかがまあ食べているといっているのにも耳に貸さずカステラを頬張る。
もちろん自分の分ではないさやかのだ。
あまりにおいしいのでこれだけでは物足りないのだ。
「あああああああああああああ!!!!!」
「へ?」
「まだ食ってたんだよ!」
あの時は紅茶を飲んでいただけであって決していらないという訳ではないのだ。
「あれおいしかったからもう少し味わって食べる予定だったの!」
「こういう時は先輩に譲るもんだって」
「なんの!?」
「魔法少女の」
「そんな都合のいい先輩があるわけないでしょ!」
「あんたとあたしじゃ燃費が違うんだよ」
「もう許さないんだからっ!」
魔法少女に変身してつかみかかる。
今にも口の中に手を突っ込み胃の中のカステラを取り出しそうな勢い。
「いてて、何変身してんだよ!?卑怯だぞ」
「カステラの恨みだ。そんなんじゃ魔女が来たとき真っ先にやられちゃうんじゃない?」
「二人とも落ち着いて・・・」
ここで魔法少女同士の戦いをされては家がめちゃくちゃになってしまう。
マミは二人を必死に止めるが、すでに杏子も戦闘態勢に入った。
「カステラぐらいで大げさな」
さやかは剣で、杏子は槍でお互いの体を串刺しにしようとする。
「ちょっ、あんたいま本気でやったでしょ!死ぬかと思ったわ」
「それはこっちのセリフだ!先に始めたのはそっちだろ」
部屋の中でけんかを始める二人。
マミも変身して止めようとしたがこれ以上拗れるわけにはいかないので、変身できない。
「ていやあああああああああ!!!」
「おりゃあああああああああ!!!」
ガッシャーン!!!
この音、まさか。
「ティ、ティーカップが!」
マミの大切にしていたティーカップとお皿が二人の喧嘩で跡形もなく粉々になってしまった。
それを見た二人の顔はみるみる真っ青になっていく。
もう喧嘩している場合ではない。
「ああ、あのさ、マミ・・・」
「その、えっと・・・」
「・・・・・・・・」ジワッ
今にも泣きだしそうなマミ。
二人は知らなかった。このティーカップとお皿が彼女にとってどれだけの価値があるかを。
「これは、亡くなったお母さんが小さいころに買ってもらったやつだったの」
「「うそ・・・」」
「お母さんが亡くなる前にこのティーカップとお皿でカステラを食べたのよ。だから今日は思い切って出したのに。それなのに・・・」
目からは堪えきれなくなったのか涙があふれ出す。
あまりに悪いことをしたのでどういっていいかわからない。
「ゴメンなマミ。今度同じの買ってくるから」
「バカ杏子!そういう問題じゃないんだよ!」
「だってどうすれば・・・」
「帰って・・・」
「「え」」
「帰ってよ!」
そのまま何も言えずに二人はマミの家を後にした。
これは謝って許してもらえる次元の問題ではない。
でも何とかして仲直りしたい。
それはさやか、杏子の同意のことだった。
「ねぇどうすればいいかな」
「そうだな。うーん」
「ほむらに頼んでみる?」
「そうだな。あいつなら何か道具出してくれるかも」
「でも道具で仲直りっていうのも・・・」
「善は急げだ!たしかあいつ今日はまどかの家に行くって言ってたな」
魔法少女に変身した杏子はさやかの手を引っ張り屋根の上を走りながらまどかの家に向かっていった。
そして窓を割り、ほむらの怒りを買い、全体復元液で元通りにし、現在に至る。
『示談ロボット』to be continued