「・・・・・」
「・・・・・」
黙り込む二人。
さやかと杏子に対して言い知れない視線を送る二人。
それは自分たちに黙ってカステラを食べたからではない。
たかがカステラごときで今まで大切に取っておいた宝物を簡単に壊す浅はかさと馬鹿さ加減に何も言えないのだ。
「バカね・・・」
小さい声でほむらが言う。
「はいそうです。私たちはバカです」
「何も言えねえ」
溜息をつく。
何も言えない、だからこそ何とかしてもらいたいのだ。
自分たちにはどうしようもできないから。
「素直に謝れば許してくれるんじゃないかな?」
「でもマミのやつがあたしたちに『帰って』なんて言ったの初めてだぞ。許してもらえるか」
「うーん・・・」
「全体復元液使う?」
ほむらが提案してきた全体復元液。確かにこれを使えばティーカップとお皿は元に戻る。
だがそれだけではマミが許してくれるとは思えない。
「ちゃんと謝らないと駄目かな」
「なんか道具ないのか?」
「すぐそうやって道具に頼ろうとする。巴マミが起こるのも無理ないわね」
「そこを何とか。この通り。ほらっ、さやかも」
「お願いします」
頭を下げる二人。
隣りにいたまどかも頭を下げたのでほむらとしてもこれ以上見過ごすわけにはいかない。
「分かったわ。まどかに免じて今回は何とかしましょう」
「ありがとうほむらちゃん」
「まどかの頼みだからよ。勘違いするんじゃないわよ」
(((ツンデレだ)))
「さて、示談ロボット!」
取り出したのは可愛らしい小さい少年のロボット。大きさはちょうど50センチぐらい。
七分丈のベージュ色のカーゴパンツに、上は長袖のポロシャツ。
その長袖にはデフォルメされたウサギの顔がちょこん、とプリントされてある。
頭にはワンポイントのアクセサリが付属したキャスケット帽子、と被っている。
そして。
極めつけは、ロボットの顔に乗せられた黒縁眼鏡。
小振りな顔に些か大きな眼鏡は、何時もよりやや幼げな印象を他人に与える。
全体的なイメージとしては、活発さが滲んだ文学少年であろうか。
あとはリュックサックを背負っているのが特徴だ。
「これは?」
「示談ロボットよ。何かトラブルがあった時にこのロボットに頼めばそれを示談に持ち込むことができるのよ」
「示談?」
示談とは当事者間に存在する争いについて、当事者が互いに譲歩し、争いを止める合意をすることをいう。要は仲直りのことを言う。
和解とはちょっとばかり違う。
「このロボットを使えばマミさんと仲直りできるの?」
「ええ。ロボットの赤いスイッチを押して」
「こうか」
リュックサックの付いてた赤いスイッチを押すと、ロボットが目を覚ます。
『僕は示談ロボットの示談君です』
「かわいい♪」
丁寧な口調であいさつする示談君は可愛らしい。
「えっと、先輩と喧嘩しちゃって。その人と仲直りしたいんですけど」
『分かりました。喧嘩の内容は?』
「杏子と喧嘩してティーカップを壊しちゃったの」
『ふむふむ。その人の写真はありますか』
「この人です」
今年の夏に取ったマミの水着写真を見せる。
さすがにロボット相手では顔を赤らめたりしないようだ。
「ついでと言っちゃあなんだけど、この全体復元液でティーカップを元に戻してもらって良い?」
『いいですよ。じゃあ行ってきます』
リュックサックに全体復元液を入れて、そのまま空を飛んでいく示談君。
どうも頼りないが大丈夫なのだろうか。
「これで本当に仲直りできるの?」
「心配ないわ。彼の腕は確かよ。夕方にでも菓子折りもってあらためて挨拶に行きましょう。彼女の怒りも収まってるはずよ」
○
夕方。
マミのマンションの玄関前にあつまる一同。
文明堂のカステラを買ってお詫びに来た。
「本当に大丈夫かよ」
「心配ないわ」
「根拠は」
「ない」
「おいおい!そりゃねえぞほむら」
「てかさっきから10分ぐらいここにいるわよ。もう覚悟を決めて入りましょう」
と、その時。玄関の扉が開く。
そこにいたのは巴マミの姿であった。
マミはさやかと杏子の姿をじっと見ている。二人も汗がだらだら止まらない。
このまままた怒鳴られて帰ることになるのだろうか。
だがマミが開口一番に言ったのは意外な一言だった
「いらっしゃい。さぁ暁美さんも鹿目もそんなところに立ってないでどうぞ」
家の中に快く招待される。
二人は家に入った瞬間、マミの目の前に回ってこう叫んだ。
「ごめんなさい(すまねえ)」
驚きの表情のマミ。
「これ・・・二人で買った文明堂のカステラ。許してくれるとは思えないけど」
「いいわ」
「えっ、でも・・・」
「そういう意味じゃないわ。もう怒ってないってこと」
「それって」
ニコッと、優しい笑顔のマミ。
その笑顔を見た二人は胸中でガッツポーズ。
「じゃあもう夕方だし夕飯でもご馳走するわ。あっ・・家のほうは大丈夫?」
「大丈夫です。ママには後で連絡しますんで」
「あたしは平気よ」
「私もあとで家に連絡すれば大丈夫です」
「あたしはもちろんOKだぜ」グスッ
さやかは杏子の目からかすかな水滴が出てることを見逃さなかった。
おそらく彼女もうれしいのだろう。
かつての師匠、そして今の先輩。もう二度と喧嘩したくない気持ちはよく分かる。
自分も以前まどかと喧嘩したときは、心が裂けるほど悲しかったから。
ここは茶化さずそのまま黙っておこうとさやかは思った。
(それにしても示談君ってすごいな)
夕食をご馳走になった四人。
ティーカップとお皿は全体復元液で完全に修復されていた。
示談君は自分の使命を果たしたのかほむらのもとに自分から戻って行った。
夕食後も五人で人生ゲームしたり、おしゃべりしたり楽しい時間を過ごした。
まさに雨降って地固まるである。
「よかった」
ほむらも安堵の表情を見せた。
○
時刻は、8時21分。
とあるマンションから一組の男女が出てくる。
一人はイケメンで、もう一人は美女。肩を抱き合いながら出てくる二人。
そこから察するに二人が芸能人同士のカップルであることは明らかだった。
「また、いらしてね」
「ああ。夢が冷めないうちにうちにね」
キザな言葉を吐く男。そんな男に顔を赤らめる女。
ここは二人だけの世界に思えた。
だがそこに水を差す醜悪な存在が。
カシャッ。
カメラの音と、フラッシュの光が照らす。
「写真週刊誌のカメラマンよ!」
「まてっ!」
逃げるカメラマンの後を急いで追いかける男。
走る男、逃げるカメラマン、走る男、逃げるカメラマン、走る男・・・。
そしてついに肩をつかむ。
「そこまでだ!フィルムを渡すんだ!」
「な、なに?」
暁美ほむらは急に肩をつかまれて驚く。
「女?とぼるな!カメラを持ってるだろ!」
「カメラ?その人ならさっきタクシーに乗ってどこか行ったわよ」
その時気づいた。
自分の肩をつかみ、誰かと間違えたこの男。
何処かで見たことある。
「あっ、あなた・・・!」
『示談ロボット』to be continued