「起立!礼」
「「「「さようなら」」」」
「ハイさようなら。まっすぐ帰るのよ。特に女子のみなさんは彼氏に自宅などいったりしないように」
「「「「はいっ」」」」
「いい返事ですね。では解散」
いつもの終礼の仕方で今日が終わる。
言葉のニュアンスは違うが早乙女先生は毎回こんな感じの言葉で締めくくる。
この言葉を聞くと「ああ今日も終わったな」と実感するのだ。
「さやかちゃん。ほむらちゃん。帰ろう」
「うん」
「ええ」
仁美は今日も習い事で忙しいのでいつもの魔法少女三人組で帰宅する。
「まどか、週末暇?」
「ゴメン。日曜日はママにお留守番頼まれちゃって」
「そうか。ほむらは?」
「週末は読めないわ。まどかが来るなら無理してでも暇を作るけど」
「そうだろうと思ったよ」
となると三人ともそれぞれの日曜日を過ごすことになる。
「さやかちゃんはどうするの?」
「まあ二人が用事あるっていうなら、紅茶でも飲みながら純文学に浸ってようかなってね」
「世界で一番似合わないわね」
「うるさい」
実際自分自身考えてもそんな姿想像するだけで吐き気がする。
マミなら似合うだろうが、自分がそれをやったら・・・例えるならダヴィデ像がメイド服を着るぐらい似合わない。
「その例えはどうかと思うわ」
「そう?」
「まあ気が向いたら電話するわ」
「期待しないで待ってるよ」
○
日曜日。
留守番を頼まれたまどかは一人で漫画でも読みながらゆったりしていた。
友だちと遊ぶのもいいが、こういう休日も悪くはない。
ソファーから足をぶらんぶらんさせながら漫画を読む姿は某暁美ほむらであったらたまらない姿だろう。
「家の中が静かだな。変な感じ」
プルルルルル。電話が鳴る音が響く。
「誰だろう。ハイ鹿目です」
「もしもしまどか!さやかだよ!それが大変なんだって!本当にびっくりちゃたちょ!」
騒がしいところからマシンガントークで話すさやか。
興奮しているのか語尾が何だかおかしい。
「公衆電話からどうしたの?」
わざわざ10円も払って掛けてくると言う事はよほど大事なことなのだろうか。
「大変なんだって!今見滝原市郊外のショッピングモールに来てるんだけど。そこで会っちゃった!」
「誰に?」
「堺昌人だよ!俳優の」
「堺昌人って。あの」
堺昌人とは今年の年間テレビドラマ視聴率第一位の「猪瀬直樹」というドラマの主人公を演じた俳優だ。
その後は偏屈でスケベで金遣いの荒い検事の役など様々な役柄を演じる。
まさに今年一番活躍した俳優である。
「それでどうしたの!?」
「そうそう。私意を決して話しかけたんだよ。そしたら普通に話してくれてさ!」
「凄いじゃん!」
「それでサインまでもらっちゃった!!!!これはもうswせでjち」
もう最後のほうは何を言ってるか分からない。
「良かったね。でももしかしてそれだけ?」
「違うよ~。実はね・・・」
ガチャ。電話が切れてしまった。
公衆電話に10円しか入れてないのであれば時間は限られるのであろう。
「結局何が言いたかったんだろう・・・」
○
それから10分後。
またプルルルルルルと電話が鳴る音が響く。
「今度は誰だろう。ハイ鹿目です」
「もしもしまどか!さやかだよ!」
二回目。
今度は落ち着きを取り戻したのかテンションはそれほど高くはない。
「どうしたの今度は?」
「ゴメンね。用事言い忘れちゃって」
用事を言い出そうとして電話が切れて、また電話をしたのが10分後。
空白の10分間いったい何をしていたのだろう。
(さやかちゃんのことだから堺昌人を探しに行ったんだろな)
と予測した。
「実は一週間前まどかの家に行ったときそこに来週提出の宿題忘れちゃって。明日学校に持ってきてくれないかな」
「来週提出って。忘れてたの?」
「ハイ、忘れてました」
「さやかちゃん・・・」
「なんか急に思い出しちゃって」
ショッピングモールを歩いていて急に宿題を友だちの家に忘れていたことを思い出すことはあるのだろうか。
まどかは考えたが、無いと思った。
「わ、分かったよ」
「ありがとう。それで大変なんだよ」
「(本題はこれかな)ど、どうしたの?」
「あのね・・・その堺昌人がね。アハハハハハハハハ」
ガチャ。電話は切れた。
恐らく今回も公衆電話に10円しか入れてないのだろう。
受話器を元に戻すと疲れと、呆れでソファーの上にグタッと仰向けになるまどか。
(もう訳が分からないよ)
気を取り直して漫画の続きよ読む。
ふと外を見ると、ポツポツと雨が降り始めた。
「大変だ。洗濯物を取り込まないと」
急いで外に出る。
せっかくの日曜日なのに、全くくつろぐことができない。
○
それからまた10分後。
またまたプルルルルルルと電話が鳴る音が響く。
「もういい加減にしてっ!日曜日なのに全然ゆっくりできない!」
さすがのまどかもそろそろ怒り爆発。
ちょっと怒ってやろうと大きく息を吸い、電話に取った。
「しつこいよもうっっっ!堺昌人は分かったから!ちょっとはゆっくりさせて!」
そう言い切ると、電話を強制的に切った。
まどかは言ってやったぞと言わんばかりに、良い笑顔になって漫画の続きを読み始めた。
「さやかちゃんも少しは懲りたかな」
そう思っていた。
だが事態は思わぬ方向に転がっていた。
「・・・・・・・・」
受話器を持ちながら、ガタガタ震える少女。
顔にはうっすらと涙も浮かべている。
「ど、どうして鹿目さん・・・今日は一人だって聞いたから暇つぶしにでも思ったのに・・・」
巴マミは何が何だかわからず受話器を持ちながら立ちすくむしかなかった。
○
それからまたまた10分後。
またまたまたプルルルルルルと電話が鳴る音が響く。
30分間の間、10分おきに電話がかかってくること四回。
怒りを通り越して呆れ果てるまどか。
「またさやかちゃん。もう・・・今度は一体なんだろう」
鳴り続ける電話。動かしたくない体を動かして受話器を取る。
「もしもし。どうしたの?」
「・・・・・・・」
「ん?もしもしさやかちゃんでしょ!?」
「・・・・・・・」
電話先の相手はなにも応答しない。
それに先ほどまでの騒がしい人ごみの音も聞こえなかった。
「(家にいるのかな?)もしもし?もしもーし、どなたですか?」
「私」
「え?」
「私だよ私」
「私じゃ分からないよ。いったい誰ですか?」
「だから私だって」
“私”とだけ名乗る人物。
名前は言わない。
いったい誰なのだろうと、声の主を想像する。
「あっ!もしかしてほむらちゃん?」
「ウフフフ・・・そうよ」
電話の相手はほむらだった。
言われてみればほむらの声に聞こえなくともない。
「ビックリしたほむらちゃんか。でも何だか変だよほむらちゃんの声」
「ウフウッフ・・・」
「もしかして風邪ひいちゃったの?苦しそうだよ」
「ゲホゲッホ」
せき込む電話の相手。
それに息も荒い。
何だかただことではないような雰囲気だ。
「大丈夫?なんかあったのほむらちゃん!?今どこにいるの?」
「家よ」
「まさか!?」
まどかの頭の中に最悪の予想が浮かぶ。
一人、苦しんで生死のざまにいるほむら。
このままでは死んでしまうかもしれない。
それで自分に助けを求めて電話をしてきたのではないか。
「どうしよう。しっかりして!」
「ウフフフ」
「ほ、ほむらちゃん!?」
「・・・・・・・」
今度は何も答えない。
沈黙が続く。
そして電話先の彼女はこういった。
「あのさ・・・」
「な、何?言いにくいこと?」
「まどかは今何色のパンティ穿いてるの?」
パンティパンティパンティパンティパンティパンティパンティパンティ・・
ガチャッ!!
電話を勢いよく切ってしまった。
ほむらが、クールで知的なほむらが、電話で、まどかに向かって、今何色のパンティはいてるの・・・と。
「ぎょぇぇぇぇええええええええええ!!!!!ほむらちゃんが壊れた!!!!」
○
そして、月曜日の朝。
先日のことが尾を引いて、憂鬱なまま学校に登校するまどか。
信じられないが、通話記録を見るかぎりあの電話は間違いなくかかって来た。
眠れなかったのか疲れの表情を見せる。
「はぁ・・・、ん?」
溜息をつくまどかの目の前を通ったのは暁美ほむらであった。
「ほーむーらーちゃーん!!!!」
「ほむらがどうかしたの?」
「ひょえっ!」
振り返った先にいたのはほむらではなくさやか。
ボンッ!と、頭が沸騰しそうになる。
「さやかちゃんっ、あのねあのね、実はね」
半泣きになりながらも琴の顛末をすべて話す。
途中支離滅裂になりながらも必死に話した。
「・・・という訳なの」
「あのほむらがね・・・(やりかねないと思うのは私だけ?)」
「信じられないけど本当なんだよ」
「ふーん」
教室に入るとほむらがいつものように本を読んでいる。
その姿を見て、咄嗟に物陰に隠れてしまう。
さやかに抱きつきながらブルブル震える。ほむらが見たら泣いて羨ましがる状況だ。
「おはようございます。何やってらっしゃるんですか?もしかして二人はやっぱりそういう関係///」
「なわけないじゃん仁美。実はね・・・話していい?」
「う、うん・・・」
さやかは仁美にまどかから聞いた話をする。
さすがに驚いていた。というより興味津々で興奮していた。
鼻息を荒げ、さやかに顔を近づける仁美。
「その話は本当なんですよね!?」
「本当だよ。確かにほむらちゃんだった」
「本当ですか。あの暁美さんが・・・(やりかねないと思うのは私だけでしょうか?)」
「マジらしいんだよ」
廊下の窓からこっそりとほむらを除くが特にいつもと変わらない。
いつもと変わらない。逆に怪しく感じるさやかと仁美。
しかし、だからといってイタズラ電話でパンティーの色を聞くだろうか。
「そんなわけないと思うけど」
「ほむらのやつどうしちゃったんだろう」
「まさか失恋とか!?」
「・・・・・・・・・」
「「「ないよね」」」
でもそうじゃないとしたら一体なぜそんなことをしたのだろうか。
謎は深まるばかり。
授業中もほむらがちょっとした動きをする度に教科書で顔を隠すまどか。
休み時間中にトイレに行く際、すれ違うだけで壁にへばりついて隠れたふりをしてしまう。
今日一日の行動を見ただけではまどかのほうが変な人。
そして放課後。
「今日は気になってほむらちゃんの顔全然見れなかったよ」
「まぁ、昨日の今日だしね」
「まどか」
仁美に連れられ現れたのはほむら。
「「げっ!?」」
「げっ!?、じゃなわよ。最初に二人に言わせて、その電話私じゃないわよ!!!」
珍しく声を荒げ、顔も真っ赤。
「鹿目さん。その電話の人、本当に暁美さんだった?」
「でもほむらちゃんって聞いたら、うんって」
「自分から名乗った?」
「えっと・・・」
昨日のことをよーく思い出す。
-「私じゃ分からないよ。いったい誰ですか?」-
-「だから私だって」-
「それはただのイタズラ電話よ!」
「で、でも私って」
「私って言ったらなんで私になるのよ!」
「・・・・・・・・ええええっ!!じゃあほむらちゃんじゃなかったの!」
「あったりまえよ!」
「アッハッハッハッハッハ!!私も変だと思ったよ!」
「笑い事じゃないわ美樹さやか!」
「誤解が解けてよかったですね。鹿目さんもこれで暁美さんの顔をじっくりくっきり見ることができますね」
「じっくりくっきりは見ないけどね。でも本当によかった。あれがほむらちゃんじゃなくて」
「めでたしめでたしだね」
「全然めでたくないわよ」
「ほむらちゃんゴメンね」
「まどかが言うなら許すわ」
そうしてこのイタ電疑惑は無事に終わった。
お詫びとしてほむらをまどかの家に招待して、まどかお手製の料理をご馳走してあげた。
食べているときのほむらの顔はとても幸せそうにしていた。
そして・・・・・
○
「・・・・・・・・」
真夜中。
自宅の電話の受話器の前に立つほむら。
手には電話番号の書かれたメモを持っている。
「まどかのイタズラ電話をして、しかもパンティーの色を聞いた。そのせいで私はあらぬ疑いをかけられてまどかとの友情が危うく壊れるところだった。許されないわ。絶対に許されないわ」
グシャリとメモを握りつぶす。
「物体電送アダプター!」
楯から出したのは底のない皿のような道具。丁度電話の受話器にスッポリはまるぐらいの大きさ。
それを電話機の送話口に取り付けてメモに書かれた電話番号をかける。
「・・・・・・・・」
プルルルルルル、真夜中なので電話が出るのに時間がかかる。
数十秒後、電話に出たのは女の声。
『ハイもしもし?』
「・・・・・・・」
『もしもし?』
「・・・・・・・パンティー」
『えっ?』
その瞬間、ほむらは送話口に手を突っ込み、ギュッとそれをつかみ思いっきり引き上げた。
「キャッア!」
「こんにちわ」
悲鳴を上げて現れた女。茶髪の若いギャル風の女。
「初めまして。私は暁美ほむらよ」
「暁美・・・ほむら・・・まさかっ!?」
「そうよ。あなたがイタズラ電話で成り済ました暁美ほむら本人よ」
「えっ、嘘!ていうかなんでこんなところに?」
「簡単よ。この道具、物体電送アダプター」
電話機の送話口に取り付けて電話をかけて送話口に手を突っ込むと、先方の受話器からその手が飛び出す。
これによって品物を先方へ送ったり、逆に電話先から品物をこちらへ取り出すことができるのだ。
「なんで!?そんな」
「何も言わなくていいわ。まどかとの友情にヒビを入れたあなたを私は許さないわ。こんな下らないイタズラをしたこと・・・後悔しなさい」
「いや・・・来ないで。やめて」
月曜日の深夜。
一人の女の絹を裂くような悲鳴が響き渡る。
「いやああああああぁぁぁぁぁああああ!!キャハハハハハハハハハハ!!!やめてくすぐったいわ」
「やめないわ。今夜はこちょこちょオールナイトよ」
「キャハハハハハ!!ごめんなさ~~~~~い!」
原案:なし(オリジナル作品)