俺の高校には、『放課後 殺人クラブ』がある件   作:ウソツキ・ジャンマルコ

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みやび様

 

 

俺には、非がない。

 

今、俺が、このみやび様に言い訳するのは簡単だ。

ただ、俺は言い訳が、嫌いだ。

 

なんか、情けなく見える。

全然クールじゃない。

 

よし少し、整理しよう。

 

おれは、メガネの本をここまで運んでやっただけだ。

メガネに、手を出すそぶりは、1ナノも見せてないはずだ。

 

エロゲーには例えたが、脳内での事だ。

ノーカンだろ。

 

この部屋には、四人の人間がいる。

そのうち、俺の無実を知っているのは三人。

 

って事は、敵は一人か。

どう考えても、俺が有利な状況だ。

 

よし、言い訳は、ナシだ。

知り合いの蘭子もいるから、カッコ悪い事は避けよう。

 

 

そうだな……どうだろう?…ここで無言のまま立ち去るのは。

無言で立ち去る行為自体は、クールに分類される。

立ち去った後で、蘭子が誤解を解いてくれる可能性が高い。

だとすれば、俺は言い訳もせずに、責めもせず、ただ立ち去った男。

クールじゃないか。

トレンチコートが似合うじゃないか。

 

蘭子のポイント-UP

みやび様ポイント-UP

メガネ…こいつは無視しておこう。読めないからな。

 

よし、やってみるか…

 

俺は、何も言わずに背を向け、ドアノブに手をかける。

 

「逃げるのか?」

 

みやび様の声だ。

いい声をしている。

喉に引っかかりのない、シルクのように、なめらかな声だ。

俺の耳から、スルッと入り、軽い産毛をなでた後、渦巻き菅をチュルチュルとくすぐっている。

ぜひ録音して、寝る前に聴いていたい。

ワイヤレスじゃなく、有線のヘッドフォンで聴きたい。

こういう事をすると、明晰夢が見れ………

 

いや………待て、本質がズレている。

 

逃げるのか?……だと…

 

なかなか、手強い奴だな、みやび様。

 

そう言われては、黙っていられない気分になるじゃないか。

 

しかし、何を言う。

 

言い訳はしないと決めたから、違う事を言わなければならない。

う〜む…

 

しかし……蘭子よ。

お前は、なぜ黙っている。

 

どう見積もっても、お前は俺の味方をすべきポジションじゃないのか?

 

今、お前は、どんな顔をしているんだ?

俺は、ドアしか見えないから、わからないんだ。

 

友達が、スケベ呼ばわりされて、逃げるのか?と、追い打ちをかけられてるんだぜ?

 

っつーか、全ての始まりは……お前がメガネの本を拾った事、部屋まで持って行くと言った事、

部活巡りに、俺を付き合わせた事、だろ?

 

なぜ、俺をフォローしようとしないんだ?

謎めいた事をするんじゃない。

わかりやすさの権化でいろ。

 

ふう…いたずらに第三者を責めても、仕方がない。

 

今、優先すべき事、いわゆるプライオリティは、みやび様の「逃げるのか?」に対する答えだ。

 

どうする?

それなりに、時間は使っているぞ…

次の言葉を、向こうに取られるのは、危険だ。

それに、もう無言は選択肢として、マイナスの空気をおびている。

 

何か言わなければ!

 

……よし!

 

「いい声だ……大事にしな」

 

俺はドアを開け、廊下に出てドアを閉めた。

 

………

 

………

 

あちゃ〜。

オイラ、やっちゃったかも。

 

つっても、もうドア閉めちゃった。

 

う〜ん、どうしよう…ダッシュで家に帰るか?

気持ちは、ぜひそうしたいと言っている。

でも、ダッシュはクールじゃない。

 

いや、すでにクールじゃない事を言ったでしょ、アンタ。

 

どうしよう。

えっと、えっと…

 

腕を組んで考えていると、ドアが開いた。

 

誰だ?

誰が出てきてもおかしくないぞ?

 

蘭子であれ!

帰ろうって言ってくれ!

もうお前だけでいい!

今の俺は、お前しか望んでいない!

 

誰かが俺の肩に手を置いた。

 

俺は振り向く。

 

そこにいたのは、蘭子だ。

やっぱり、お前は友達なんだな。

 

「らん……」

 

「ちょっと、お花を摘みに行ってくるね」

 

蘭子。

 

………育ちがいいな。

 

蘭子は駆けていく。

 

どうしましょ。

 

この状況で、蘭子…俺にかける言葉は、それですか?

 

さすがに、目が点になったぜ。

 

お前は、希望をみせたよな。

俺に、希望を見せてから、落とすとは。

 

ダメージが倍になる事をするんじゃない。

せめて、摘んだ花を一輪、俺の墓にそなえてくれよな。

 

しかし、どうする?

蘭子は、戻ってくるだろう。

待っていないのは、なんか俺が冷たいだけになってしまう。

 

俺が、蘭子を待つかどうか逡巡していると、ドアがもう一度開いた。

 

メガネだ。

 

何の前触れもなく、俺をピンチに落とし入れた張本人。

 

こいつ、何を言う気だ?

お詫びの言葉だよな?

そうなんだろ?

聞いてやろうじゃないか。

さぁ、言え。

詫びろ!

 

 

「なんつって」

 

 

オウマイゴッ。

 

メガネをかち割るしかないか。

片方割るか、両方割るか…それが問題だ。

 

両方割れば、修理代が高いな。

だが、片方割れば、もう片方は見えるから、まだメガネとして使える。

そのまま、割れたメガネをかけて帰るだろう。

そっちの方が、メンタルダメージは大きいか。

 

片方だけ割ろう。

 

「ずびばせーん……調子に乗っちゃいまじだー」

 

ん?よく見たら、メガネ……タンコブできてら。

こいつ、泣いてら。

ざまぁ。

 

「あの…みやび様が呼んでいるんで、中へどーぞ」

 

フフッ…謝罪か。

みやび様。

恥ずかしい奴め。

あんなセリフを吐いた男に謝罪するハメになるとはな。

まぁ、これも身から出たサビだ。

こんな下僕を育てた貴様のミスだと、己を呪うんだな。

 

受けてやろう。

 

俺は、ドアを開け部屋に入る。

 

さぁ、詫びろ!

銀髪のみやび!

 

「ねぇ、あんた…そこの本を本棚に入れなさい」

 

は?

 

謝罪、ちゃうんすか?

 

「…早く」

 

こいつ……できるな。

 

俺の体は勝手に動き、素直に本を本棚に入れ始めた。

 

これは、ただの敗北じゃない。

 

価値のある敗北だ。

 

次は負けない。

 

みやび様……いい声だな。

 

 

 

 

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