王様のいないナザリック(完結)   作:紅絹の木

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世界級を得ろ!謎の鎧との戦闘!!

 

共に戦う始祖とヘドラ、後方で待機するシャルティアにバフを素早くかける。

 

攻撃力、ダメージ、防御力アップ。

防御無視、ダメージカット無視、回避無効、クリティカル無効。

クリティカル付与、スタン付与、拘束付与、呪い付与、睡眠付与。

 

「では、手筈通りに」

始祖たちが「おう!」と拳を突き上げる。

 

 

森の上空を飛んで一分ほど、眼下に見えた。それは十二人の漆黒聖典たち。課金アイテムで姿を消し、隠したパインを彼らは見つけられない。

パインは急降下した。音を置き去りにした弾丸よりも早い動きで、地面に着地する。地面は大きく凹み砕けた。宙に浮かび上がった敵は体制を整える暇もなく、パインのマギアー必殺技ーをくらう。

 

〈彼岸の渡し舟〉

突如、地面から木製の棺桶が出てきた。それらは自在に動き、あっという間に十二人の男女を閉じ込める。次にパインの背中のリボンが幾百に分かれて、それらを縛った。周囲には美しく花々が咲いて、花畑が完成する。さながら、よく手入れされた墓地のようだった。あたりが香りに満たされて、花吹雪が舞った。リボンはさらに棺桶を縛り上げて、中にいる人間もろとも破壊した。

 

バラバラと、花畑に様々な物が落ちる。

その地に立つのは、パイン一人だけだった。

「あら?」

 

呆気なく死なれてしまい、困惑する。予定では、私が、敵をデバフや状態異常にする。弱って混乱しているところに、始祖最速の男、カラスマンが登場。おばあさんと槍を持った男性の首を取る。残ったメンバーで十人を殺すはずだった。

作戦の第一段階で終わっちゃうなんて……。

「パイン様」

カラスマンが側に降り立つ。他の始祖たちは少し離れたところ、森と草原の境界あたりで立ち止まっていた。みんな困惑しているようだった。

それもそうだ。私たちは、漆黒聖典が高レベルだと考えて、今まで訓練をしたのだ。まさか、私のマギアで死んじゃうくらい弱いなんて思わなかった。

 

 

私は、私のキャラクター構成は復活・状態異常・即死に重点がおかれている。なので、たっちさんのような純粋で強力な火力はない。敵の攻撃をすべて受けきる、タンクになりきることもできない。ヒーラーもどきの前衛だ。

そんな私の必殺技であるマギアも、一撃必殺の火力重視ではなく、即死・状態異常を付与する攻撃だった。だから、カラスマンの攻撃を第二段階に持ってきたのに。

 

「(私のマギアで死んだって事は、即死に抵抗できなかった。つまり、こいつらはレベル低かったんだ)」

 

なんてことだ。想定された高レベルではなかったのだ。

パインは、近くに落ちた誰かの頭を見る。そして、身の丈ほどある巨大な断ち切り鋏の先で、ちょんちょんと小突いた。

やっぱり死んでいる。

「ニャガニャガ。こうもあっさりと死なれては、困りますねえ。私たちの出番がないじゃないですか」

サイコマンがふざけて不満そうに言った。今までの努力が無駄になったのだ。そう言いたくなる気持ちもわかる。だから咎めたりせず、良い点に目をやった。

「まあ、こちらに被害が出なくてよかったよ」

始祖たちには、今度新しく活躍の場を与えることにして。今日は帰ることになった。手早く遺体や荷物を袋に詰めて、シャルティアが待つ野盗のアジトへ向かう。この時、ヘドラを残らせた。ツアーとコンタクトをとるためだ。

将来、敵対するよりも、今から同盟を組んでしまった方が良いと思うから。

「それでは、何かあれば結界へ逃げるのよ?」

「わかっているよ。パイン様も気をつけてくれたまえ」

互いの手をぎゅっと繋いで、ゆっくり離した。

 

 

 

始祖たちの体は巨体だが、身軽に木々の間を駆け抜けていく。もちろん私も、木の根に引っかからず、疾走した。

シャルティアたちと会うまでに、じわじわと、世界級を手に入れられた喜びが胸に広がる。野盗たちのアジト外に、シャルティアたちがいた。彼女と目が合うと、もう、我慢できなくてピースサインを送る。

「勝ったよ!」

シャルティアは淑女の礼儀を放り出さず、軽く腰を折って「おめでとうございます」と言った。頰が赤く染まって、笑顔がとてつもなく眩しい。

「随分お速くに終わりんした。大した脅威ではなかったでありんすか?」

「ええ、高レベルではなかったみたい」

そのまま話し出してしまいそうな私たちをザ・マンが止めた。

「まだ作戦は遂行中だ。すぐに荷物を運んでしまった方がいいだろう」

たしかにその通りだ。シャルティアに頼んで〈転移門〉を開かせた。その中からプレアデスたちが現れ、始祖たちから荷物を受け取る。

世界級が入った袋が〈転移門〉を通過したとき、大きな爆発音がした。

ヘドラがいる方角だ。

 

その瞬間、誰かが私の名を呼ぶ前に、私は再び森を駆けた。

 

瞬く間にカラスマンが並走する。

「パイン様、一人では危険だ。我々が行く!あなた様は後方で待機していただきたい!」

「できない!!」

はやくはやくはやく!たった数十秒の間がこんなにも長いなんて知らなかった。経過するほど胸から不安が広がっていく。今だけは、ナザリックの王たる姿を忘れていた。

 

森はあっという間に抜けた。

ヘドラが後ろへ倒れこむところを見た。

 

「だめよ!!」

一歩、大きく飛び込んでヘドラを抱きとめる。

「っ、なぜこちらに……」

彼の体は明らかにダメージを負っていた。不安の煙が一気に怒りの業火へと変化していく。睨みつけた空中には、四つの武器を従えた白銀の鎧が飛んでいた。あいつがやったんだ。

しかし、視線が遮られる。カラスマンが壁になるべく私たちの射線上に飛んだからだ。

すぐにヘドラの傷を回復させる。

「ありがとうございます」

「いいの、いいのよ」

もう利益なんてどうでもよかった。とにかく、あいつを粉々に砕いて、ヘドラにやったことを思い知らせてやりたい。

「……仲間がいたんだな。君は、ぷれいやーか?」

「黙れ」

鎧から表情なんて見えない。でも、遠い地でツアーが、間抜けな表情をしていたら愉快だと思った。

私は援軍を呼んだ。

 

 

 

 

「なんだ?」

ツアーは、突然現れた暴言を吐く女ーおそらくぷれいやーーと、鳥人の登場に驚いた。それからもっと驚いた。

空に、大きな魔法陣が描かれたからだ。それは首をぐるりと回さないと、全体が見れないほど大きい。夜の世界が昼になってしまったかのように、辺りが照らされる。鮮やかな七色に発光する魔法陣から、何十もの光球が現れた。それらは女の周囲に降りてきた。そして人型へと変化して、全員少女となった。

 

 

 

〈女神の助力〉

一度でも、円環の理に導かれた魔法少女のみが使えるスキル。女神が軍勢を率いて助けに来てくれる。

 

百時間に一度発動できる、破格の性能を誇る、私の奥の手。まさか、こんなにも早い時点で、使うことになるなんて思いもよらなかった。

数十の光球の内、一際目立つ光がアルティメットまどかに変化した。次々に暁美ほむらや巴マミなど、私がユグドラシルで好感度を上げたNPCたちに変化する。約半分が変化すると、彼女たちはツアーを一斉に攻撃し始めた。残りの半分はパインを囲み、守ってくれていた。

一人は退路を塞ぎ、一人はツアーを拘束して、一人はとにかく銃を撃ちまくり……みんな、自分の特性を最大限に活かした攻撃している。

 

あれ死んだな。と、心の中でツアーに合掌していると、一人の魔法少女が傍に来た。

 

 

髪は薄い桃色で、春を思わせる生命の喜びに満ちた輝く色。ポニーテールにしている。膝丈のワンピースには細かいフリルがたくさん使われていた。腹部には大きなリボンが飾られている。髪をまとめているリボンと、同じ物だ。

膝下までの白い靴下を履き、ショートブーツはプラチナのように煌めいている。

 

そして、顔は高校生くらいだ。

かなり整った顔立ちをしている。薄い桃色の瞳が、パインとヘドラを交互に見ていた。やがて眉が下げられる。

「私たちに援軍を要請するから、大ごとだと思ったのに。大丈夫そうね」

「大ごとになる前に呼びましたから。……お久しぶりです、先輩」

先輩と呼ばれた少女は、はにかんだ。

「うん、久しぶり」

 

彼女はユグドラシルのNPCだ。魔法少女イベント時に新キャラクターとして追加されたイベントNPCである。

魔法少女になるには、彼女のような“先に魔法少女となった”NPCに出会う必要がある。友好度をある程度上げたら、キュウべえを紹介してもらい、契約するのだ。

私は彼女から、キュウべえを紹介してもらい、魔法少女のイロハを教えてもらったので先輩と呼んでいる。

私の使い魔の一種は、彼女がモチーフになっている。それだけ仲が良かったのだ。

 

「おーい、終わったよ」

杏子ちゃんが槍を得意げに回した。

「倒したの?」

「いいえ、逃げられたわ。あれはワープ、つまり転移で、ね。また襲われたら厄介だわ」

困ったようにマミさんが頰に手を添える。私は頭を振った。

「あれは人形のようなものなんです。たとえ壊しても、本体にダメージは入らないはずです。多分……」

「なんだそれ。はっきりしないねえ」

やれやれと首を振る。仕方がない。ツアーはまだまだ、謎に包まれている存在なんだ。私の錆びついた記憶じゃ、あんまり役には立てない。

 

魔法少女たちは、役目を終えて再び光球となり、空へと帰っていった。

私たちも帰らなくてはならない。

 

 

〈つづく〉


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