王様のいないナザリック(完結)   作:紅絹の木

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ブレイン・アングラウスさんの入社試験。

第八階層で、憤怒の悪魔と軽く手合わせをして、装備をボロボロにする。

アビスマンの鎧はあちこち凹んだり、欠けたりした。ナーベラルの服は、裾はボロボロになったり千切れたりしている。ウルベルトの服も同じ感じだ。

これは、もう冒険者ではない。装備はこの世界基準ではそこそこだ。しかし見た目は、路上暮らしをしている者たちよりも、酷い有様になった気がする。

いかにも激しい戦闘を終えたあとらしい。俺は満足した。

「よし、こんなもんだろう。お前たち、ご苦労」

アビスマンの次にナーベラル、そして憤怒の悪魔が跪く。

「ははっ」

全員、至高の存在の役に立てたことが嬉しいのか、その表情は達成感に満ちている。そこにデミウルゴスが早足で近づいてきた。いつもの余裕の笑みが崩れているのは、気のせいじゃないだろうな。俺の今の格好が嫌なんだろう。

「ウルベルト様、お疲れ様でした。さっそくお召し替えを……」

「いや、このままエ・ランテルへ行く。もう夜明けが近い。門が開く前に着きたいからな」

「かしこまりました。お見送りさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「許す。俺たちはゆっくり進むから、あまり急がなくてもいいぞ?」

「ご冗談を」

本気なのだが。コイツらにとっては主人を待たせるなど、論外らしい。曖昧にニヤリと笑ってから転移門へ歩く。その後ろをアビスマンとナーベラルが続いた。

 

 

「いゆぅー。見事にボロボロになりましたね!」

ナザリック表層に着くと、すでにシモベたちとパインさんが待っていた。デミウルゴスも一緒だ。パインは大きく目を見開く。

奇声は何かの真似だろう。たまにやるんだよな。

「リアルでしょ?」

炎でボロボロになったマントを広げる。少し強目に引っ張ったら千切れそうだ。

「それなら怪しまれませんね!やり過ぎ、ではないですよね。夜を昼間にしてしまうほどの事件があったんだし……。そうだ、これをお渡ししますね」

パインはユリに指示をして、俺にアイテムを渡す。数時間前に言っていた、水晶のかけらとポーション各種、悪魔のツノだ。

昨夜、パインさんと作戦を練る内に、ポーションをあった方がいいだろうという結論になった。夜に世界最悪の悪魔と戦って、朝には街に戻るのだ。怪我やすり減った気力は、ポーションで治した事にした。

「それと、第八位階を封じた魔封じの水晶です。どうぞ」

「ありがとうございます。これを今日の夜に使えばいいんですね」

「ええ。怒涛の一日になると思いますが、頑張ってくださいね」

ウルベルトは三人に〈飛行〉の魔法をかける。

「俺よりパインさんが大変でしょ。昨日から続いて動き回っているんだから」

「アドレナリンが出まくっているので、あまり疲れは感じませんね。まあ、ひと段落したらゆっくりしますので」

「今日はお互いに辛抱ですね。それじゃ、行ってきます。行くぞ」

姿を人間に変えて、大空へ飛ぶ。三人が豆粒ほど小さくなってから、留守組は家の中へ戻っていった。

 

 

 

ナザリック地下大墳墓、第六階層。

円形闘技場。デミウルゴスとコキュートス、アウラ、ユリ、パイン当番のメイドと肉壁数体を引き連れてきた。ここでブレインの勧誘を行うのだ。人間のサンプルとして、彼は最高の素材だ。ぜひ引き入れたいと思う。シャドウデーモンを影に残して、他のメンバーは貴賓席に移ってもらった。

ブレインの警戒を和らげるために、今は魔法少女の姿でいる。

「さてさて、夜までは時間があるからね。やっちゃいましょうか。ネズミたちよ、獲物を連れてきなさい」

五メートル先に結界の門が現れ、そこからネズミたちが溢れる。そして一人の人間を置いて戻っていった。

「うう、ここは?あんたは?」

四つん這いになるブレインの体調は、悪そうだ。それらは無視する。

「我が名はパイン・ツリー。ブレイン・アングラウス、剣を構えなさい」

「何だお前は?あそこ……あそこにいる化け物たちは……」

「私の可愛い家族よ」

ブレインが立ち向かえる程度の殺気を当てる。守護者たちならば「機嫌が悪いんだろうな」ぐらい苛立ちだ。だが、レベル差があるブレインにとっては、よく効いたようで刀を構えた。うん。全然怖くない。死なないように気をつけてあげないと。

「良し。では、始めます。勝利条件は相手を「参った」と言わせること。わかりやすくていいでしょう?」

私は一歩大きく踏み込んだ。目前にブレインの顔があった。

 

結果は、三勝。私の勝ちだ。

「ほい、くるりんぱ」

「うご!」

ブレインの足をすくい、グルンと一回転させる。どさりと、背中から地面に落ちた。また首に断ち切り鋏を当てて、促す。ブレインはうんざりした様子で言葉にする。

「まいった」

「よろしい。立ちなさい」

首から鋏をどける。男は緩慢な動きで立ち上がった。いかにも不機嫌な顔をしている。それでも警戒を解いてはいない。私は断ち切り鋏を持ち上げて、抱えた。

「そろそろ、分かり合えたかしら?」

「は?わかり合う?俺を痛めつけているだけじゃないのか」

「違う。よく言うじゃないか。戦えば、自ずと相手のことがわかると。私のことが理解できたでしょう?」

ブレインは間抜けな顔をした。

「戦ってないだろ……。加虐心の持ち主って事しかわからないな」

「あら、誰しも加虐心は持っていると思うけど。うーむ、ダメか」

ありゃ。私の殺さない優しさを理解してもらったところを、勧誘しようと思ったがダメらしい。うーん、どうしようかな?

 

「なあ、アンタはどうしてそんなに強いんだ?その装備のおかげだけじゃないよな」

こんなに気楽に話しかけてくる人は珍しい。もうウルベルトさんやギルドメンバー以外にいないからね。いや、円環の理のみんなも、気楽に喋ってくれる。私にとっては珍しい事態じゃないか。

貴賓席から若干殺気が漏れているので、手で止める。青くなっていたブレインの顔色が戻った。

「強くなるための修行を積んだからよ。あなたも強くなりたい?」

「…………人間のまま、なれるなら」

ちょっと噴き出してしまった。なぜ異形種に変えられると思ったんだ。変なの。

「ええ、できるわよ。どう?ナザリックの軍門に下らない?そうすれば、先生役としてコキュートスをつけてあげます」

「コキュートス?」

「武器の専門家で、武士……こちらの地方で言う戦士よ。コキュートス!」

「ハッ!」

コキュートスは貴賓席から飛び降り、私の後ろに立った。ブレインは二、三歩後ろへと下がる。ナザリックじゃ貴重な、カルマ値中立なんだから怖がらなくていいのにね。

「彼がコキュートスよ。第五階層守護者、つまり幹部の一人。性格は穏やかな方だから安心しなさい。それで、どうするの?彼は私と同じレベルだから、強さとしては申し分ないけど?」

「最後に一つ。アンタらの目標は?」

「王の帰還」

モモンガさんの帰還が第一である。その後のことは、モモンガさんが帰ってきてから決める。

「王の帰還?あんたは違うのか?」

「私は王の一人よ。そこら辺の説明は、コキュートスから聞いてちょうだい」

「わかった。えーと、なざりっくに入る。これからアンタに、いや。あなたに忠誠を誓えばいいのか?」

「いいえ。王たちに、四十二の王に誓いなさい」

「それも、コキュートス……さんから聞くよ」

 

ブレインは土埃がついた頭をかく。

まずはお風呂に入れてあげようかな。

 

 

 

〈つづく〉

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