王様のいないナザリック(完結)   作:紅絹の木

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冒険者組合での話し合い

エ・ランテル。

冒険者の組合長、プルトン・アインザックは頭を抱えていた。生き延びた冒険者から伝えられた、悪魔の存在。ここから離れた場所の上空が、真昼のように光ったこと。僅かな時間差から、二つの事件が無関係だとは考えられない。一体、この王国の地で何が起こったのか。

 

組合の中でも広い部屋、そこにアインザック、都市長パナソレイ、魔術師組合長テオ・ラケシル、他三名のミスリル級冒険者が座っていた。

誰もかれも暗い表情をしている。それもそのはずだ。国を滅ぼすほ強い悪魔が、近くを歩いているかもしれないのだ。これでは冷静でいられない。無駄だとわかっていても対策を練る必要がある。話し合いが一段落してお茶を頼んだとき、受付業務をまとめている男が表れた。男は白髪で、体格はよい。前職は冒険者で、チームをまとめていた男だ。その手腕を買われ、今は冒険者組合の受付チームをまとめている。

男は一礼して部屋に入ると、アインザックに耳打ちした。報告は驚くべきものだった。アインザックはすぐにパナソレイに報告する。

「都市長。三人組の冒険者チームが、昨日の事件は“自分たちが関係している”と言ってきたそうです」

「なんだって。ランクは?一体どこの誰がそんな事を言っている」

ぷひーと鼻息が鳴る。

「最近、冒険者になったばかりのチームで、まだ依頼はこなしていません。しかし、持っている装備品は一級品で、仲間の魔法詠唱者は第三位階の魔法が操れるとか」

「強いな」

「間違いなく」

「しかしなあ、どこまで信用できる人物か。どうする?話を聞いてみるかね」

都市長パナソレイは全員の顔を見る。アインザックとラケシルと二名の冒険者が賛成。一名が反対した。そこにアインザックが、情報を追加する。

「彼らは、なんでも悪魔と戦った証拠を持っているととのことだ」

「うーむ。それなら話を聞くしかあるまい。呼んできてくれるかね」

「かしこまりました。おい、呼んできてくれ」

「承知しました」

 

 

ウルベルトはアビスたちと別れて、組合のある部屋に通された。中には計六名の男たちが座っている。全員ちょっと疲れが見えていた。ここで長い時間、缶詰状態なのだろう。ウルベルトは思った。持ってきた情報によっては、さらに長い時間篭ることになるだろうな、と。

「座ってくれたまえ」

「わかりました」

言われた通りあいている席に座る。全員からジロジロと見られて居心地が悪かった。加えて約一名から鼻で笑われてしまった。多分、服装を笑ったのだろう。こういう場所で、感情を隠さないタイプには内心イラついた。

精悍で壮年の男が立ち上がる。歴戦の戦士といった感じの雰囲気をまとっている。

「ようこそ。私はこの街の冒険者組合長のプルトン・アインザックだ。こちらの方が都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア様。そして魔術師組合長のテオ・ラケシル。そしてエ・ランテルが誇る冒険者チーム。右からクラルグラの代表者イグヴァルジ君、天狼の代表者ベロテ君、虹の代表者モックナック君だ」

「はじめまして、バッファと申します。魔法詠唱者です」

「ん?チーム名はないのかね?」

「まだ決めかねています」

「そうだったか。さて……君は、昨夜の事件に関係しているらしいな。証拠を見せてくれんか」

「こちらです」

都市長が促したので、ウルベルトは、ベルトに下げている袋を机の上に置いた。その中から、成人男性の腕三本分の大きさの、捻れた悪魔の角を取り出した。そして砕けた魔封じの水晶のかけらを並べる。

悪魔の角を見て都市長が「ひっ」と声を上げた。無礼な態度の男もビビっている。いい気味だ。

「こ、これが君のいう証拠かね。なんとおぞましい」

人間種だからか、彼らが低レベルだからなのか。この立派な素材が、恐ろしい物に見えるようだ。

「そうです。これが私たちチームが戦った悪魔の角で、こちらがその戦闘時に使った切り札です」

「その切り札というのは?」

かけらを指差しながら淡々と言う。

「魔封じの水晶です」

やたらと華奢で神経質そうな男、魔術師組合長のラケシルが飛び上がった。

「なんだって!?あの法国の切り札とも言われているアイテムだと?一体、どれだけの魔法が封じられていたんだ!」

「……わかりません。ですが、かなりの高位の魔法です。それは皆さんご存知のはずですよね?」

モックナックがうなる。

「一部の地域の夜を、昼にしてしまったあの魔法か……」

「そのとおりです。順序だてて説明いたしましょう」

ウルベルトは、パインと昨夜考えた設定を、彼らに話す。

 

悪魔を探して旅に出たこと。

昨夜、悪魔を発見してあの場所へ行ったこと。

会敵して、激しい戦闘になったこと。

 

「追い詰められた俺たちは、国宝であった魔封じの水晶を使いました。そして、夜空が真昼になったのです」

ラケシルが身を乗り出して続きを乞う。

「そ、それで!どんな効果がだったんだ!」

「……空から女神たちが降りてきました。彼女たちはそれぞれ少女の姿になると、一斉に悪魔を攻撃したのです。形勢は逆転し悪魔は追い詰められ、そして、逃げて行きました」

今度は都市長とアインザックが身を乗り出した。

「悪魔が逃げただって!?討伐できなかったのか!」

「ど、どちらの方角に逃げたのかね」

ウルベルトは申し訳なさそうに、ゆるく頭をふる。

「わかりません。奴は転移しましたから。それから俺たちは、この、ポーションを飲み満身創痍から全快したのです」

袋から、ユグドラシル産の低位の各種ポーションを取り出す。

「これらも君たちが見つけた宝か?」

「はい。とある遺跡から発掘しました。いつくらい昔の物かはわかりません」

都市長がまじまじとウルベルトを見つめる。

「バッファくん、君は一体何者なんだね」

「今はしがない冒険者ですよ。それ以上は詮索しないでいただけると有難いですね」

「ううむ。個人の過去を詮索しないのは、冒険者のルールでもある。だが今は時期がなあ」

「もし詮索された場合は、俺たちチームはここを離れるつもりでいますので。そのつもりで」

都市長がそれを聞いて慌てた。

「そ、それは困る。君たちの話が本当なら、あの悪魔に最も詳しいのはバッファくんたちとなる。次回の戦闘には君たちが必要だろう」

その言葉にイグヴァルジが嗤った。

「はっ!こんな銅ランクの力なんて如何程のものか。わかったもんじゃありませんよ」

「おい、やめないか」

すぐにアインザックが注意するものの、本人の態度からしてあまり効果はなさそうだ。

「とにかく。当分の間、悪魔は身を隠していると思うかね?」

「おそらくは。しかし、必要に駆られれば出てくるでしょうね」

「ううむ、祈るほかないか」

「それすらも、怪しいものです」

「おい、いい加減にしろ!」

「だってそうでしょう。彼はまだ信用が足りていません。その彼らの言葉を鵜呑みにしてしまう方がおかしいでしょう」

「たしかに、そうですね」

バッファは頷く。ここで全面的に信頼されていたら、それこそ気味が悪い。一体何の根拠があるのかと、問いたい気分になる。

「俺が話した内容はすべて真実です。ですが、証明しようがないことも、また真実。どのように判断されるかは、皆さんにお任せします」

そして話し合いは終わった。

 

組合長たちがバッファをどのように判断するかは不明だが、悪い方向に転がりはしないだろうと予感していた。

後は宿に戻って、合図が来るまで休むまでだ。

 

 

 

予備の装備に着替え終わり、宿で仮眠を取っていた頃。〈伝言〉がきた。

『ーーもしもし、ウルベルトさん?ンフィーレア攫いましたので、動いてくださーい』

「了解でーす」

さあ、仕事だ。

 

 

 

〈つづく〉


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