急いでバレアレのポーション屋へ向かい、中に入る。
「こんばんは。誰かいるか?」
「……ンフィーレア、お客さんだよ!……おかしいね。便所かね?いらっしゃい、今日は何をお探しで?」
店の奥からリイジーが出てきた。老婆はまだ孫のことを知らないようだ。しょうがない。気づかせてやるか。
「冒険に使えるポーションを見繕ってもらいたい。それと、ンフィーレアさんはいるか?この角を鑑定して欲しいんです」
ゴトリと、悪魔の角をカウンターに出す。リイジーがひっと息を飲んだ。
「なんじゃ、この禍々しいアイテムは?」
「戦利品です。それで、ンフィーレアさんはいらっしゃいますか?」
「ああ、おるよ。それにしても、アイテムの鑑定ぐらいなら儂でもできるが?」
「鑑定したアイテムの、より詳細を知ることができるマジックアイテムを使用してもらうつもりです。何でも使用できる異能持ちのンフィーレアさんが適任でしょう?」
「そうだったか。よし、ちょっと待っておれ」
ンフィー、ンフィー。と声をかけながら老婆は奥へ戻っていった。
たしか、パインさんが「必ず叫び声上げさせるので、ウルベルトさんは助けに行ってあげてくださいね」と言っていた。どうなることやら。
数分後。店の奥から叫び声が上がった。俺たちはすぐに駆けつける。
「どこだ!」
「ああああー!!!」
言葉にならない叫び声が、また上がる。右へ曲がるとリイジーが腰を抜かして倒れていた。その奥に何かうごめいている。
「アビス、守ってやれ」
「はっ」
アビスマンが加速し、リイジーを捕まえて後ろへ引っ張り、自らは前に出て何かを攻撃し始めた。鈍い音が辺りに響く。
「一体どうした!?」
「ゾンビです!数は4体!すぐ倒します」
そのくらいならアビス一人でも大丈夫だろう。俺はリイジーに駆け寄った。
「大丈夫ですか?怪我は?」
「だ、大丈夫じゃ。しかし……部屋が荒らされておった。ンフィーレアもおらん」
老婆の腕を優しく掴み、ゆっくり立たせてやる。リイジーは短くお礼を言った。
「すまんのう。ンフィーレアはさっきまでおったんじゃが、一体どこに」
「誘拐、じゃないのか」
「どこにそんな根拠がある?」
「突然いなくなったこと、荒らされた形跡があり、ゾンビがなぜかあなた方の家にいること。……誘拐犯が攫って、その内の仲間がゾンビを放っていったと考えられると思ってな。ンフィーレアさんの異能はレアだろ?いくらでも使い道がある」
「そ、そんな……!儂は、儂はどうすればいいんじゃ」
「冒険者に、俺たちに依頼する気はないか?」
「お主たちに?」
「そうだ。俺たちは、この街で始めてのアダマンタイト級になるチームだ。適任だと思うぞ?」
「あの角は戦利品だと言ったね。本当か?」
「真実だ。俺の魂に誓う」
「……わかった!汝らを雇おう!必ずンフィーレアを救ってくれ!報酬は望むものすべてを与える」
「では、すべてを」
「なんじゃと?」
「すべて、と言ったんだ。それでもいいんだな?」
「……お主、悪魔か?」
「そんなこと、今大事か?」
「そうじゃな……わかった!よろしく頼むぞ」
「契約成立だな。よし、部屋を一室貸してくれ」
「何をするんじゃ」
「企業秘密さ。ただ、ンフィーレアを探すのに必要なことだな」
『もしもし、パインさん?上手くいきましたよ』
「わー、よかった!これでバレアレ一族がゲットできます!新しいポーション作りが始められます」
『そうですね。上手く事が進んでよかった。では、適当な時間になったらそちらに向かいますので。その時にまた連絡します』
「はい。お待ちしてまーす」
プツンと〈伝言〉の糸が切れる。これでまた暇になっちゃったなあ。
私はプレアデスたちと護衛、パンドラズ・アクターを引き連れて墓地にいた。ここは墓地の中でも最奥、霊廟の隠し階段を降りた先にある場所だ。そこに椅子やテーブルなどを持ち込んでティータイム中である。オレンジの香りに癒される。一番好きなのは、コーヒーにミルクと砂糖を入れた甘い飲み物だけど。紅茶も好きなんだよね。さっぱりしていて、香りが良くて好きだなあ。
ただ今、墓地ではカジットと彼の高弟たちにアンデッドを増やしてもらっている。クレマンティーヌはその護衛だ。周りには私の使い魔ーネズミたちとセンパイーが見張りをしている。まだかなー?まだかなー?とリズムを刻んでいると、パンドラが近づいてきた。
「少しお話しいたしませんか?」
「いいよ。何か用かしら?」
優雅にお辞儀をする、モモンガさんの息子さんは静かにカッコよくポーズを決める。
「ありがとうございます。実は、上にいる者達のことですが。いかがいたしましょう」
「ああカジットたちとクレマンティーヌのこと?ウルベルトさん達が殺します。肉塊も残さないよう念入りにね。じゃないと、戦いましたって証言できないじゃない?」
「なるほど。それならば死体を残した方がよろしいのではありませんか?」
「ナザリックのこと喋られたら面倒だから。蘇生できないようにするために、死体は残さないのよ」
「よいお考えですね。さすがは至高の御方でございまァすっ!」
「うふふ、ありがとう」
大したことではないのに、あんまり持ち上げられるものだから、ちょっと恥ずかしい。
久々のパンドラ節に笑顔になる。朗らかな雰囲気になったからか、ユリ達も笑顔だ。そこからはユリたちも交えておしゃべりだ。私ができるだけ、全員に話を振りながら進めていく。話題は主に最近のナザリックについてだ。報告では異常なしやら、進めている研究がどうなっているか、と仕事の面のみである。今話しているのは日常的なものだ。私で言うとヘドラに関する話題が多くなる。夫が話してくれたこと、先日見た映画の話しとか。ユリたちは姉妹の話が多い。それから、話が進むにつれて仕事の少なさが浮き彫りになった。
「(原作か特典小説だったか忘れちゃったけれど。たしか第十・第九階層の警備の仕事をコキュートスたちの部下にとられちゃって、今は待機状態なんだよね。それで憂いていたはず)」
私は仕事ができないことをどこか恥じている様子のプレアデスたちを見て、決心した。今こそあの話をするときだと。
「ねえ、もし仕事が欲しいなら。ファッション誌、作ってみない?」
「ファッション誌、でございますか?」
「そう。私は能力のせいで着替えができないけど、ウルベルトさんは違うじゃない?当番のメイドたちが毎日頑張っていると聞くわ。それらを写真に収めて四十一日後に雑誌として配布するの。それから、一週間以内に投票期限を設けて、誰のセンスが一番だったのか決めるのよ。一番の人には、何かしら贈れたらいいわね。どうかしら?」
「とてもよいお考えだと思います。一般メイドたちも自分たちの仕事が、形に残れば喜ぶことでしょう。感謝いたします。パイン様」
「よかった。では、具体的にどうするか話し合いましょうか」
女性が多いためか、おしゃべりがさらに盛り上がる。若干パンドラが押され気味な気もするが、撮影するメンバーについて意見を出してくれたりした。ありがたいな〜。
ある程度意見がまとまり、紙に写したところで〈伝言〉が繋がった。私は右手を上げる。辺りは静かになった。
「はい、パインです」
『ウルベルトです。今そちらに向かっています。あと十五分をすれば到着します』
「わかりました。では、お出迎えの準備しておきますので、存分に暴れちゃってくださいね」
『了解です。それでは』
「失礼します」
プツンと糸が切れた。私は「誰か、アンデッドたちを放つように、上へ伝えてきてちょうだい」と仕事をほる。ユリが、エントマに行くよう命令した。多分、あの子が一番仕事が少ないのだろう。姉妹に平等に仕事を分けるユリは偉いな。エントマは頭を下げると、階段へ向かった。
「それとパンドラは、モモンガさんの姿に変身して。低位のモンスター、レイスなどを召喚してください。ウルベルトさんたち以外の冒険者が来るのを防ぐのです。冒険者は殺してもいいですが、衛兵は殺してはなりません。ウルベルトさんたちの勇姿の目撃者になりますから」
「かしこまりました。直ちに行動を開始いたします」
パンドラも階段を上っていく。これで、こちらでやれる事は終わった。あとはウルベルトさんが頑張るだけだ。
衛兵たちを逃してやり、上空から襲ってきたレイスをファイヤーボールで迎え撃つ。モンスターは叫び声を上げる暇なく燃え尽きた。
「うおおおおお!!!」
アビスが鬨の声を上げる。門の横、塔を駆けて最上段に到達する。そこから門の内側、スケルトンの群れの中へ飛び降り、盾で四方を押し潰す。スケルトンはバラバラに砕け散った。
アビスは猪のごとく直進した。ウルベルトとナーベラルは〈飛行〉で空を飛び、三人は墓地の奥へ急いだ。
門が見えなくなったあたりで、アビスはマジックアイテムを使い、自身をアンデッドから隠した。それまでアビスを追っていたアンデッドたちはだらりと腕を下げて、門の方へ歩いていく。これで邪魔されなくなったな。
「よし。後は適当に間引きながら進むとしようか。俺たちがちゃんと戦っていた証拠になるからな。ナーベラル、打撃系武器は持っているか?」
「ございます」
ナーベラルは、剣と鞘を紐でキツく結ぶどそれをブンッと振ってみせる。
「よし。行くか」
墓地、霊廟前。
「何でも、何でもしますから!ころさないで!!」
「そうやって命乞いしてきた奴、今まで助けてやったことあンのか?ねえよな。なら死ね」
クレマンティーヌをファイヤーボールで焦がす。喚き声も何もかもくどくて、そいつの周囲に防音の魔法をかけてやる。転げ回れないようにイバラで地面に縛り付けてやった。
弾ける音が聞こえて、そちらに目を向ける。ちょうどアビスが自身の盾でカジットの頭を叩いたところだった。あれじゃ即死だろう。
「優しいな。苦しませないなんて」
盾を振り、血を払う。アビスは肩を下げた。
「コイツらの過去に興味がないだけです。苦しめた方が良かったですかい?」
「いや、いい」
ナーベラルの方もカタがついたらしい。肉が焦げる匂いが充満していた。すべて終わったのなら、片付けしまおう。
「さて、死体も残らないほど燃やしてしまおうか」
俺はスキルと魔法で強化したファイヤーボールを、敵全員に打ち込んだ。死体はすべて燃えて、灰となり夜風に流れていった。
その場に似つかわしくない拍手が起こる。
「お疲れ様でした。ウルベルトさん。これでアダマンタイト級に一歩近づきましたね」
霊廟からパインさんと、プレアデス、モモンガさんの姿をしたパンドラズ・アクター、シモベたちが出てきた。彼女たちはゆっくりと段差を降りてくる。
「パインさん。お疲れ様でした。これでしばらくはのんびりできるといいんですが」
「できると思いますよ?大きな仕事……ミスリル級とかあったとしても、ナザリックの力を使えば簡単にこなせますし」
「ズルみたいで気が引けますがね」
「持てる力をすべて使うことは、悪いことじゃありませんよ。さあ、最後にこれ、破壊しちゃってください」
ンフィーレアに装備された蜘蛛の巣に似たサークレットー叡者の額冠ーに手を伸ばす。
「では、〈上級道具破壊〉」
弾け飛ぶアイテムはキラキラと光を反射して美麗だった。倒れるンフィーレアはユリが抱えてくれる。うんうんと、パインが頷く。
「これでおしまい!どれだけ階級が上がるか楽しみですねえ」
かくして、アンデッド事件は、バッファたちのお陰で一晩で解決に至った。衛兵の証言から、冒険者組合は彼らの大きな二つの功績を認め、オリハルコン級にした。人によってはアダマンタイト級と噂されている。しかし、そうなる日も遠くない。いくつもの高難易度のクエストをたった数日でこなしてしまうからだ。
バッファたちはやがて、チーム『青』と呼ばれはじめる。
「アビスの青い鎧目立ちますもんねえ」
「ええ、いい宣伝になってますよ」
〈つづく〉