王様のいないナザリック(完結)   作:紅絹の木

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希望の星

 

モモンガさんの魔法で、私、モモンガさん、たっちさん、ペロロンチーノさん、アウラは飛んでナザリック地下大墳墓へと帰還した。

ナザリックは現在、魔法的な防御と隠蔽をかけて守っている。それも私たちが入る数分だけは切っていた。

テンションが高ぶるまま、地表部分に降り立った。

「わーたーしーが!!ナザリックに帰ってきた!!!!」

「お帰り」

「お帰りなさいませ。パイン様」

ウルベルトさん、デミウルゴス、メイドたち数人、護衛のシモベたちが地表部分で私たちの帰り待っていてくれた。私やウルベルトさんにとっては慣れた数だが、モモンガさんたちにとっては威圧的な数らしく、少し動揺している。というのも、モモンガさんたちとは〈伝言〉で会話しているのだ。

『何ですかこの数!?多!!?怖いよ、モモンガさん、たっちさん!』

『大丈夫ですよ、ペロロンチーノさん。迎えてくれるときは、いつもこんな感じですよ〜』

『パインさん、まったく威厳とか感じさせない行動しているんですが、アレでいいんでしょうか。私たちもラフな感じで挨拶をするべきでしょうか……?』

『やめてください、たっちさん。すみません。テンション上がっちゃって、はしゃぎすぎてしまいました。皆さんは会社の役員とか、社長とか、王様みたいに偉そうにしてくださいね。喜ばれますから』

『喜ばれるって何ですか?皆、社畜だったりするんですか?』

『そうですよ、モモンガさんは慣れてるでしょ?頑張ってね、魔王ロール』

『ひえ』

そんなやりとりをしつつ、歩みを進める。ある程度近づくと、一斉にシモベたちが頭を下げた。私は驚かないが、モモンガさんたちの反応が初々しくて、ほっこりする。

「久しぶりですねえ、皆さん。俺についてあんまり驚いていないのは、パインさんから先に聞いているからでしょうか?」

悪魔の貴族らしい所作を見せつけるウルベルト。いつもより立ち振る舞いが自然だ。……もしかして練習した?

「帰る途中で、今ナザリックに誰がいるのか説明したんですよ」

「そうでしたか。皆さん、無事で何より。さあ、中に入りましょう。皆さんが創ったNPCたちも待っていますよ」

「おお!!シャルティアに……会えるんですね。とても楽しみです」

剥がれかけたロールをなんとか取り繕い、一行は地下へと潜って行く。

 

それをモモンガが止めた。

「待ってください。できればすぐにでも……そうだな、第六階層か第八階層あたりに行きたいんだが、いいだろうか?」

ウキウキしていたパインが首をかしげる。

「どうしてですか?何か確かめたいことでも?」

「その通りです。皆さん、疲れているところ申し訳ありませんが、どうかお願いします」

モモンガが深く頭を下げた。シモベたちが動揺するが、やかましく感じたパインが片手を上げて鎮める。その慣れた行動にペロロンチーノとたっちが舌を巻いていた。

パインは頷く。

「モモンガさんがそこまで仰るなら、余程のことがあるんですね。では第八階層に向かいましょう。あそこなら多少暴れても問題ありませんし。私は賛成です」

モモンガはパインの顔を見た。

「ありがとうございます!あの、皆さんはどうしますか?」

ウルベルトがマントを引き寄せる。

「行きましょう。気になることは早目に解決しておいた方がいいですからね」

「モモンガさん、パインさん、ウルベルトさん。三人がが賛成なら決定ですね。俺も行きますよ」

シャルティアにはいつでも会えるしね、とペロロンチーノが言う。たっちも「そうですね」と同意した。

「では、第八階層へ向かいます。えーと、NPCたちはどうしますか?」

パインが手を上げる。

「ああ、はい。じゃあ私が。こほん。デミウルゴス、モモンガさんたちの帰りを待つシモベたちにに連絡しなさい。私たちは第八階層にて、少々用事を済ませます。それが終わったらアルベドから指示を貰いなさい。では、行け」

「はっ!直ちに行動を開始致します」

「これでよし。では、転移しましょうか」

「は、はい」

パインのあまりの慣れように三人は少し引いていた。

 

 

 

第八階層。荒野。

ウルベルトが自らの指を眺める。

「そういえば、俺たちってリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン装備しているんですね。アイテムボックスも、最後にログインした状態のままだし」

リングは三人の指にもはめられている。もちろんパインの指にもだ。人任せの魔女は首をひねる。

「この世界に転生する条件なんですかね?ユグドラシルアバターでなおかつアイテム、装備品は最終日にログインした状態で、転生する」

ペロロンチーノが呻いた。

「都合が良すぎますよ。大昔の異世界転生ものじゃあるまいし。何か理由があると思うんですけどね」

その言葉を聞いてモモンガがパインを凝視した。視線に気がついた魔女が骨だけの顔を見つめ返す。

「なんですか、モモンガさん」

「俺は、パインさんがきっかけだと思うんです」

 

無いはずの心臓が飛び上がった。

自分が転生者だと、言われた気がしたんだ。

「私のせい、ですか?」

思ったよりも弱々しい声になってしまい、モモンガさんは慌てた。手をバタバタと振る。

「違いますよ!あくまでもきっかけです。だってアインラードゥン……さんがそう言っていましたから。俺たちがパインさんの友人だから融通がしているって」

「なんじゃそりゃ。まったく身に覚えがありません」

ペロロンチーノが嘴を大きく開いた。

「俺たちを転生させるようにって、パインさんがアインちゃんに頼んだんじゃないの?」

どうやら驚いて開けたらしい。

パインは首を振る。

「違いますよ。アインちゃんとはさっき、モモンガさんたちと再会したあの時、久しぶりに会ったんですよ。……これ、直接本人に聞いた方がいいですね」

「ですね。呼んでいただけますか?」

「その前に一旦元の姿に戻らないと。ダッシュで帰ってきます」

 

ー二十分後ー

 

ナザリックの現状をウルベルトから聞くモモンガたち。特に盛り上がった話題は、世界級を二つも手に入れたことだ。傾城傾国が手に入ったことで、モモンガ筆頭に精神攻撃が効かないメンバーが、操られる心配がなくなった。それは大きな利益だ。ぜひ実物を見たい、ぜひ宴を、と三人は言う。

「宴か。もう褒美とかは何を与えるか決めっちゃった後なので、与えられませんけど。慰労会はいいかもしれません。全員の士気を上げられる」

「堅苦しいのは抜きで楽しめる会にしましょう!……そう言えば叶えてくれますよね?」

「大丈夫だと思いますよ。きちんと命令してやれば、聞いてくれるでしょう」

「皆さーん!!」

遠くで声が聞こえる。その小さな影はあっという間にに大きくなり、モモンガたちの前で止まった。土埃が多少舞い上がるが、服にはかからない。

「ただいま戻りました」

やっとパインが戻ってきた。にこやかな表情をしている。さすがと言うべきか、息切れなんてしていない。

「早速始めましょう。いいですか?」

「いいですよ。お願いします」

〈女神の助力〉

パインは、アインラードゥンに呼びかけるようにスキルを発動した。すると、前回とはまったく異なる様子が目の前に広がった。

天空一面に広がった魔法陣は、パインたちの近く、二メートル上空に現れた。そこからするりと、カンテラを持った魔法少女が出てきた。

「何か?」

「あの、色々聞きたいことがあって呼んだの。教えてくれる?」

「答えられることなら、何でも答えるよ」

代表してモモンガさんが話を聞き出した結果、重大なことを知ることができた。

 

 

転生させられるのは、パインが復活と縁結びの魔法を得意としているから。(常に心の奥底で仲間の転生を望んでいるため、常時発動状態になっている、らしい)

 

ただ復活させるとこの世界のどこかに落ちるだけ。なので、アインラードゥンが導いて、ナザリックの近くに落としてくれた。

 

ナザリックから離れてしまう原因はリアルに心残りがため。言われてみれば、三人は心当たりがあったみたい。モモンガさんは「パインさんと別のゲームで遊ぶこと」、たっちさんは「妻子(離婚済みだった)」、ペロロンチーノさんは「エロゲーと家族」だ。

 

ウルベルトは死亡しており、なおかつナザリック行きを望んでいた。そのためナザリックに直接召喚できた。

 

アインラードゥンは続ける。

「そういえば、ベルリバーって人も死んでいたわ。リアルへの執着が強すぎて勧誘は無理だったよ」

パインの頭はくらくらし始めた。ベルリバーの死は知っていた。改めて仲間の死を突きつけられると動揺する。それが四人分、いや自分を含めて五人分となれば冷静ではいられない。そして自分には責任があった。

「(モモンガさんとの約束が、仇になったなんて信じられる?良かれと思ったのに。それが原因でギルド長を危険な目に合わせていただなんて!)」

パンドラとアルベドに申し訳がない。モモンガさんを含めた三人には、いや、ナザリックに直接来られなかったペロロンチーノさんとたっちさんも含めて五人に謝らなくちゃいけない。

パインの胸はがらんどうになり、そこに冷たい風が吹き抜けていく。そのくせ胸部は強張りうまく動けないでいる。

 

タイムアップだ、とアインラードゥンは言った。

「私の方から訪ねられるけど、こちらに来る条件はパインちゃんと同じなの。〈女神の助力〉は連続で使用できるスキルじゃない。だから、しばらく後でね。では、さようなら」

そう言って頭上に浮かぶ魔法陣から帰っていった。

 

荒野に風がふく。

パインは四人に向けて頭を下げた。

「ごめんなさい。私が皆さんをこの世界へ連れてきました。こんな危ないところに連れてきちゃって、申し訳ありません」

深く、深く腰を曲げる。皆が「頭を上げてください」と言うが、上げられなかった。

「皆さんの命を危険に晒したんです。とても顔を上げられません」

「でも、顔を見ないと話もできませんよ?だから、上げてください」

ペロロンチーノさんに優しく声をかけられて、私は背を伸ばした。

「パインさんは知らずに力を使っていたんですから、仕方ないと思いますよ?それに、アインちゃんが言うには、俺たちも望んでこの世界へやって来たわけじゃん?なのに、パインさん一人だけ責任を押し付けられるのは間違いですよ」

モモンガが同意する。

「私もそう思います。……俺は、危険だったとしても、また皆さんと会えて良かった。パインさんと会えて良かった。悪いことばかりじゃありません」

たっちがふざけた声色で話す。

「空気はうまいし、自然はまだ残っている。星空は美しかった。リアルより、こちらの方がよっぽど楽しいですよ!たしかに、ナザリックと合流する前はちょっと恐ろしい思いもしましたが、それだけです。むしろ、こちらに来れたことを感謝するべきかもしれません」

ウルベルトはニヤリと笑った。

「ナザリックは良い所ですよ?あの頃の俺たちの夢の集大成ですからね。何でも揃ってる。NPCたちの忠誠心はちと重いが、慣れればなんてことはありません。アイツら俺たちには良い奴だからな」

 

誰もパインを恨まなかった。憎んでいない。転生して良かったと言ってくれた。視界が涙に歪む。

「ありがとうございます、皆さん」

女性の涙に一人、動揺しなかったたっちがアイテムボックスからハンカチを取り出した。それをパインに渡す。パインはおずおずと受け取り、涙を拭いた。

「洗って返しますね」

「そうですか?ありがとうございます」

 

 

以上の情報を得て、モモンガたちは考えた。仲間たちが、ナザリックに近い王国に落ちてくれるならばともかく。もし他国に落ちたら、助けに行きにくい。現状、時間がかかればかかる程、命の危険があった。

「いっそ国でも興しましょう。自国なら異業種にも優しい国にできるでしょう?そうすれば、仲間を助けられる」

ウルベルトの案が採用された。

 

どうすれば国を興せるか、領土を得られるか、至高の五人は話し合う。その中で、モモンガは別の事で頭がいっぱいだった。

 

 

最後にログインした状態で復活できるということは、ユグドラシルにアクセスしているということでは?ならば、そのアクセスを逆に辿ってユグドラシルに行けないか?ユグドラシルに着いたらリアルに行ける?

そっと、長年共に頑張ってくれた友人の横顔を窺う。

 

パインさんいてくれたら、リアルへ行って仲間たちを救える。死ぬ前に救えるんだ。パインさんもきっと協力してくれる。

 

 

モモンガは希望の星を見つけた。

 

 

〈つづく〉


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