パインは一人では悩めない。悩んだら出口のない迷宮に入ってしまうと考えたからだ。
だから正直にモモンガさんたちに話す。私は円卓に皆を呼んで、告白した。
私が持ってきた爆弾は、大きな衝撃をもたらした。だが、それが魔法少女の特性ならば、ルールなら、従わざるおえないね。そう、無理に納得した。
でも、モモンガさんは違った。
はじめて見せた激情だった。机を叩き割ってしまいそうな程強く叩いた。
「なんで……、なんでそんな、納得できるんだよ!!!パインさんが連れて行かれるんだぞ!」
発してしまってから、モモンガさんは居心地悪そうに座り直して「大声を上げてしまいすみません、机を叩いてしまってすみません」と言った。
モモンガさんが大声を上げてくれて、私は嬉しかった。仲間として、強く想ってくれていることに喜びを感じていた。二人で頑張って、ナザリック地下大墳墓を守ってきたんだ。絆は本物だ。だからこそ、伝えなくてはならない。パインは息を深く吸って、呼吸を整えた。
「モモンガさん、永遠に別れるわけではありません。こう考えてくださいよ!家が別になるだけって。私は縁を辿るのが得意なので、アインラードゥンのように、地上に戻って来られるんですよ!いられるのは短時間だけど、自由に行き来できる。数日に一回は会えるんです」
「……もう、こんな風に会えないじゃないですか。俺は、連絡だけじゃなくて、パインさんと遊びたいんですよ!」
「私だって、遊びたいですよ!皆さんと、モモンガさんと遊んで、悩んで、楽しく暮らして生きたいですよ!!!」
でも無理なのだ。ならば、メリットを上げて、上げまくって、無理やり納得するしかないじゃないか!
パインは涙を流す。これまで我慢していたものが溢れてきた。溢れても、また蓋をしなくちゃいけない。ハンカチを取り出してぐしぐしと、顔を拭う。
「モモンガさん、私が円環の理に導かれることは、メリットが大きいんです。円環の理にいる魔法少女たちの縁を辿って、世界中どこにでも降りられる。彼女たちから、他のユグドラシルプレイヤーの情報を聞き出せる、探せられる。運が良ければ、今回のようにユグドラシル産のアイテムをゲットできる。デメリットは皆んなと長時間いられないこと」
また涙が溢れてきた。それもゴシゴシと拭う。
「もう会えなくなるわけじゃない」とパインは続ける。
最悪な空気の中、ウルベルトが意を決して発言した。
「……パインさんが、円環の理に行ったら。仲間の発見とか、どうなるんだ?」
「やり易くなります。私が直接見つけに行けるらしいです。なので、モモンガさんたちのようにナザリックから遠い場所に転生する事故を無くせます。……皆さんをこの安全なナザリックに転生させてあげられるんですよ?」
モモンガに向かって言うが、彼は黙ったままだ。普段は見せない、駄々っ子のような姿が、なんだか微笑ましく思えてくる。
ペロロンチーノは頭をかいた。納得できないのだ。
「それも大事だけどさ。もう避けようがないけれど。パインさんはもう少し泣いたりさ、足掻いても良いんじゃない?俺たち何とかするよ?例えば指輪に願ったりしてさ」
モモンガがそれだと叫ぶ!
「そうですよ!指輪、試してみましょう!それがダメなら、願いを叶えてもらえる系の世界級をゲットして、パインさんに帰ってきてもらえばいいんですよ!」
「あ、それヤバそうだからやめてください」
「どうしてですか!!!」
「なんか、こう。勘にピーンとくるものがありまして。私と円環の理の縁を切るような真似は絶対にやめてください。もう円環の理の力を、他の魔法少女に助けてもらえなくなる」
「そんなのどうでもいいんですよ!パインさんさえ居てくれれば、いいんですよ!」
興奮が冷めないモモンガをたっちが抑えるように言う。
「モモンガさん、円環の理の力を借りれないという事は、パインさんの切り札〈女神の助力〉が使えなくなるということでは?それに他の方に助けてもらえなくなるなら、仲間の捜索にも影響が出るでしょう。それでもいいんですか?」
モモンガはぐっと黙った。しばし静寂が訪れて、「俺は、俺は……」と繰り返した。
ペロロンチーノはわざと明るめの声を出す。しかし、どうしても重い調子になってしまった。
「良い案だと思ったんですけど、難しいですね」
「しょうがねえよ。種族の特性に関わる事だ。無理やり歪めて良い事じゃないだろう」
ウルベルトが肩をすくめると、モモンガが吐き出す。
「諦めるんですか?俺は、諦められない!」
「誰も諦めてください、なんて言ってませんよう」
パインが席を立ち上がり、モモンガの元へ向かった。そして、厳しいアンデッドを抱きしめる。
もう、モモンガが苦しむ姿を見たくなかった。こんなに自分を惜しんでくれる仲間を、友人を慰めたかった。
「モモンガさん、私はちょっと出かけるだけですから。許してください。ナザリックのために精一杯働きに行くんですよ」
モモンガは、座っている自分と同じぐらいの身長をそっと抱きしめ返す。
「働きたくないくせに。働くの大嫌いなくせに」
「ここに来てから。ナザリックに転生してから、まあ、好きになりました。働くのも悪くないんですよね。好きな人たちと頑張る事が出来れば、私はいくらでもできるんですよ」
「俺たちより、魔法少女たちの方が好きなんですか?」
「意地悪な質問しないでください。ナザリックが大切で、大好きです。私が帰る家は、今じゃここだけですよ」
優しく、優しく。背中を撫でてやる。段々と落ち着いてきたようだ。
二人はそっと離れた。それでも手は繋がれている。パインの手は柔らかく熱い。モモンガの手は固く冷たい。全く違うけれど、それが友人の手だった。離れがたい。
モモンガは声を絞り出した。
「俺たちを忘れないでくれますか?」
パインは吹き出した。
「絶対に忘れませんよ!こんなにゲームにハマったことも、誰かと一緒に遊べたことも、転生なんてトンデモない体験もした事ないんですから!」
「ふふ、そういえばそうですよね」
柔らかく笑い合うと、部屋の空気も緩んだ。見守っていた三人はほっと、息をついた。
「納得は済んでませんが、まあ、次に進んで良いのかな?」
ペロロンチーノが問いかけると、二人は頷いた。全員を見回して、忘れかけていた難問を思い出させた。
「NPCたちにはどう説明するんですか?」
「「あ……」」
〈つづく〉