王様のいないナザリック(完結)   作:紅絹の木

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赤い君と青い君。

 

*デミコキュ。

*ほんのり。

*短め。

本編では表現できなかったので、番外編で。

 

 

 

アイスブルーの彼を意識し始めたのは、ナザリックが異世界に転移してからだと思う。それまではただの仲間であり、同僚だった。

パイン様に第六階層に呼び出されたとき。久しぶりにコキュートスに会った。彼の目に私が映って、彼の世界に私だけがいればいいのに、なんて考えてしまったものだ。

 

その時から、彼を強く意識し始めた。

仲間たちとの会話の中で、何度も彼を見てしまったものだ。

 

 

 

パイン様が休暇を私たちシモベに与えてくださり、第九階層の娯楽施設を楽しむように命令が下った。休暇なんて、至高の御方に使える上で無用のものだ。たまに休息さえあれば、いくらでも働きたかった。しかし、なんの理由もなくコキュートスに会いに行けるのは悪くない。パイン様は休暇を楽しめと仰られた。ご命令通りに動こうではないか。

 

 

 

第五階層を歩く。白い雪の中では、私の赤いスーツは非常によく目立っていた。寒さは感じない。というより、耐性を得ているので自由に動けるのだ。時々、コキュートスの部下たちとすれ違う。コキュートスの好感度上昇を狙って挨拶をすると、多少動揺されるが挨拶を返してくれた。彼らもコキュートスに似て、気のいい戦士たちなのかもしれない。

「(私の考えなど知らず、可愛らしい……)」

この笑みの裏側を覗かせたら、どんな反応をしてくれるだろうか。軽蔑か、恐れか、それとも「悪魔だから」と受け入れてくれるだろうか。加虐心がそそられるが、今はコキュートスに会いに行こう。小物に手を出して、本来の獲物を逃してはならない。私は、この薄暗いものが彼らに気づかれないように片手で口元を覆った。

 

十分ほど進むと、彼の居城の大白球ースノーボールアースーに到着した。雪女郎に用件を伝えると彼女たちのうちの一人が大白球の中へ消えた。

「少々、お待ちくださいませ」

「ああ、待つとも」

入り口で数分待つ。コキュートスが雪女郎を連れて出てきた。

「やあ、こんにちは。コキュートス、会えて嬉しいよ」

君も同じ気持ちかい?とは言えず、自分よりも高い位置にある計六つの瞳を眺める。表情はわかりにくく、計ることはできない。

「何ノ用ダ、デミウルゴス」

 

連れないね。君に会いにきたのさ。なんて、それだけでは児戯だ。最高の悪魔に造られた知恵者は、スマートに目的を達成する。

 

「君を誘いに来たのさ。今日、私は休みでね。よければ私と第九階層へ出かけないかい?もちろん、君が良ければだが」

「剣ノ練習ガアル。悪イガ一人デ行ッテクレ」

彼はいつも所持しているハルバードを軽く上げてみせた。

君が鍛錬を趣味にしていることは知っているとも。私が対策を練らなかった訳がないだろう?

悪魔は仲間に見せる微笑みを絶やさない。

「そうかい?残念だよ。せっかくパイン様のご命令が達成できると思ったんだが、仕方がない。また今度誘うとしよう」

「待テ。何ノ話ダ?」

「何って、ついこの間パイン様が仰られただろう?休暇を楽しめ、と。だから第九階層の娯楽施設へ行こうと思ってね」

「ソレナラ、一人デ行ケバ良イデハナイカ?何故、私ヲ誘ウノダ?」

「楽しむため、だね。楽しみは、一人よりも二人の方が数倍膨れ上がる。それに君は私と同じ階層守護者で、男性だ。成人済みでもある。共通点が多いため、会話が弾みやすいんだよ。つまり、より楽しさが増すということさ。パイン様のご命令通りに“より楽しむ”ためには君の力が必要なのだよ。君にとっても悪くない話だと思うんだが、どうかね?再考してはくれないかね?」

「フム、ソウイウ理由ナラバワカッタ。共ニ第九階層ヘ行コウ」

 

誘いは上手くいった。

悪魔はさらに笑みを深めた。

 

 

 

「昼間から飲む酒は美味い!」と言ったウルベルト様をならい、私たちは副料理長のバーへとやって来た。

「いらっしゃいませ。デミウルゴス様、コキュートス様。私のバーには初めてでいらっしゃいますね」

「こんにちは、ピッキー。お邪魔するよ」

「失礼スル」

 

キノコの頭部をした人型の異形種が、カウンター内に立っている。彼こそがナザリックの副料理長であり、このバーのマスターである。

バーには私たちしかいない。 私とコキュートスはカウンター席に座った。少し高い椅子だが、このくらいは滑らかに座れる。彼は身長が高い分難なく腰を下ろしていた。

「(この小さめの椅子に座れるぐらいの大きさか……)」

デミウルゴスはそう考えてから、こっそり服の上から太ももを痛いぐらい指圧した。今のは紳士らしくない。反省すべき点だ。ぜひ改善するべきである。

 

その間にコキュートスは注文を終えたようだ。

 

「かしこまりました。……デミウルゴス様は、何になさいますか?」

「そうですね。では、トリアエズビールデ」

「ナンダ、ソレハ?」

「至高の御方々がよく仰っていた、そうだね、合言葉のようなものさ。はじめの一杯にビールを頼むんだよ」

「フム。ソンナ言葉ガアッタノカ。副料理長、変更シテ私モビールヲ頼メルカ?」

「かしこまりました。お二方ともビールですね」

 

ビールは三分もかからず、デミウルゴスたちの前に出てきた。五百mlほど液体が注がれたグラスだ。二人はそれを持ち上げて、掲げる。

「乾杯」

「乾杯」

二人は静かにビールを飲んだ。濃い苦味が喉を通っていく。

「いい喉越しだね」

「ウマイナ」

「ありがとうございます」

デミウルゴスは、これがウルベルト様が仰った昼から飲む酒の味なのだろうか、と考えていた。酒の味自体はナザリックのバーに置くものとして相応しく、美味しい。しかし、特別感はない。至高の存在はどんな気持ちで酒を味わったのだろうか、聞きたかった。その欲求をコキュートスに渡してみた。

「コキュートス、どうかな。昼からお酒を飲む感想は?」

「普段ナラ稽古ヲシテイル時間ダカラナ。非日常的ナ特別感ガアル。ソチラハドウダ?」

「なるほど。私も昼から酒を飲んだりしないが、特別感はないね。さてはて、ウルベルト様はどんな気持ちだったのか、聞いてみたいよ」

「パイン様ガ、ゴ存知デハナイノカ?御方ハ多クノ至高ノ存在ト交流ガアッタト聞イテイル」

「それはいい考えだね。今度機会があれば質問してみよう。ありがとう、コキュートス」

「気ニスルナ」

そうは言っても、私は意中の相手を無碍にする奴じゃないからね。優しくするよ、特に君には。

 

 

 

〈おわり〉


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