王様のいないナザリック(完結)   作:紅絹の木

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パインとメイドたちの日常。

 

ナザリックごと異世界転移して1週間。

モモンガさんは見つからず。それでもぐーすかと7時間ほど眠る私は薄情だろうか。時々、罪悪感に苛まれるが、考えてもどうしようもないし、体を動かそう。

 

顔を横に動かして、ベッドサイドテーブルに置いた球体でピンクの目覚まし時計を見る。ぴったり6時だ。文字盤の色が金色に淡く輝いているので、午前6時である。

身体中をぐっと伸ばしてから、ゆっくりと起き上がる。今日もナザリックの支配者ロールを頑張ってやりましょう。

上下スウェット生地の着心地良し、動きやすさ良し、寝やすさ完璧なパジャマを脱ぎ、昨夜から用意していた部屋着に着替える。

部屋着は白Tシャツにジーンズだ。また後で着替えるので、服装は適当である。

途中でアラームを消していなかった事に気づき、目覚まし時計に声をかけた。

 

「鳴るな」

「りょ」

 

今日の返事はそれか。

この凹凸がない美しい球体の目覚まし時計は、ユグドラシルで売られていた物だ。シンプルな外見なのに、塗装がピンク色で派手に感じる。このギャップは萌えないので好みのアイテムではないが、ある一点について大変便利なのだ。それは、午前と午後が一目でわかること!文字盤の色が、午前ならば金色に淡く輝き、午後ならば銀色に輝く。

ナザリック地下大墳墓に住むなら、こういう時間が把握できるアイテムは欲しいし、有難い。あと、この文字盤の色が金と銀に変わるっていうチョイスに萌えて買った。いいぞ、金と銀はイイぞ。主に超人で兄弟的な意味で。

 

 

ちなみに補足を加えさせてもらうと、この時計は音声認識である。アラームをセットするなら「アラーム、午前(または午後)、××時**分にセット」と話しかけ、アラームを消したいならさっきみたいに「鳴るな」-「アラーム消去」でも可能-と命令すればいい。

返事は毎回違い、今回は女性の声で「りょ(了解の略)」だった。アラームをセットした昨日は男性の声で「セットしたぞ。早起きなんだな…あんまり無理するなよ」と長台詞をはかれ、不意打ち胸キュンとなった。無機物萌えが加速した。擬人化?ありのままの君が好きです。性癖的にはね。

 

 

着替え終われば、ワクワクドキドキのくじ引きが待っている。そしてみんなも待機済みだろう。早く済ませないと。

パジャマは脱ぎ捨てたまま、ベッドメイクもせず身支度を整えるべく、移動する。

寝室に唯一ある、硬めの革張り一人用ソファに座り、目の前の長テーブルに置かれた"洗顔セット"に手を伸ばした。これは、水が入ったピッチャー、桶、タオル、石鹸、化粧水など…まさしく洗顔、その後に必要な物が揃っている。

終わった後は髪に櫛を通す。この体になってからは寝ぐせなんてついたことがないので、簡単に済む。以上で、寝室を出る準備はお終い。

お楽しみはこれからである。

 

 

 

寝室から扉を開けると、執務室に出る。すでにメイドが一人、複数の護衛たちが仕事机の前に整列し待機していた。

「おはようございます。パイン様」

「おはよう、セリアーヌ」

代表で、まずメイドのみが声をかけてくる。

セリアーヌは第9、10階層のメイドで、今日初めて私の世話役についた。可愛いメイドさんのハズだが、目が猛禽類のように鋭く獲物を待っているような気が……する。くじ引きでフルコース狙っているんだろう。昨日も、一昨日のメイド達も引き終わるまで、君と同じ瞳をしていたよ。

 

他のNPCをぐるっと見渡す。

「今日の護衛メンバーは……魔女の館から来たのかな?」

セリアーヌ、正解は?

「左様でございます」

「やっぱり!」

当たると嬉しいな!といっても、勘ではなく答えとなる僕がいた為だが。

「おはよう、皆さん。えーと、あなたは門番の一人……一体だよね?今日は傍にいてくれるのかな?」

最前列にいたクワガタ型の僕、その特徴から館から派遣されたのだとわかったのだ。

「おはようございます、パイン様。今日は、ヘドラ様の命により御方の下へ参上する幸運を頂戴しました。一日だけではありますが、この命にかけても必ずや使命を全うする所存でございます。今日は何卒、よろしくお願い申し上げます。」

「うん、うん!期待してるよ、みんな宜しくね!一緒に仕事頑張りましょう!」

「「はい!」」

意気込みもやる気も充分だ。みんなが嬉しそうだと、私も嬉しいよ。

 

さてさて、士気が高まっている内に始めましょうか!

 

「では、朝のくじ引きからいきましょう!セリアーヌ、準備はいいかな?」

「もちろんでございます!」

 

張り上げる声、女性らしい細めの体から滲み出る闘気!くぅ〜、わくわくしてきた!

「朝のくじ引き」とは、私がメイドたちとの交流を目的として考案した物である。三十センチ四方の正方形に、様々な内容の四十一枚の紙を入れている。内容はすべてメイドたちがどれだけ仕事できるかが書かれている。

彼女たちの仕事内容が多くなればなるほど、私のプライベート空間がなくなるので、心境はあまり穏やかではない。しかし、逆にそれ以上はされないので安心感がある。

 

「今の意気込みを聞かせてくれるかな?」

「はい!私は必ずや朝のお世話ふるこーすを掴み取ります!そして、パイン様にたっぷりと御奉仕させていただきます!」

「なるほど。…この朝のくじ引きを導入して、今日で3日目。まだ誰も手にしていない朝のお世話フルコース。はたして、昨夜のくじ引きでは"パジャマの片付けとベッドメイキング"を手に入れたセリアーヌは、このまま幸運を掴みとれるかな?さあ、いきましょう!目が離せない!この一瞬に!」

 

自分の事でもあるので、彼女がくじを引く瞬間をしっかり見守る。

ドラムロールもそこそこに、セリアーヌはくじを掴み腕を引いた!すかさず確認する。目がぱあっと開いた。

 

「やりました!ふるこーすでございます!」

「おめでとう!セリアーヌ!」

セリアーヌは飛び上がって喜びを表現した。右手には四角い小さな紙にフルコースと書かれている。

つまり、今朝はパイン自身ができることは何もない、ということだ。

朝の洗顔も、手入れも、セットも、着替えもすべて彼女がやってくれる。ありがたい事だ。

 

「それじゃ、洗顔からお願いしようかしら」

「はい!必ずや、素晴らしい働きをご覧にいれます!!」

 

 

〈おわり〉


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